第一話「気まぐれから生まれし者×裏切られた者=これから始まるHISTORY」
世界には光と闇がある。
そしてほとんどの場合、闇は光に滅ぼされる運命にある。
当たり前の様に繰り返されている物語…。
しかし、闇は永遠に消えることはない…。
光があれば闇は必ず生まれるのだ…同時に闇がなければ光は存在できない。
永遠に繰り返される闇と光の関係…なぜ光と闇は対立しあわなければならないのか?
それは、やつらが悲劇を欲しているからだ。
我を作り出した存在…人からすれば親に当たる存在…「猛る使者」「悪魔の使者」「大いなる使者」「カルネテルの黒き使者」「百万の愛でられし者の父」「邪悪なるものの支配者」「這う混沌」「星間を忍び寄るもの」「夜に吠ゆるもの」「顔無き者」「盲目にして顔無きもの」「暗黒神」「暗闇に棲むもの」「秘められしもの」「砂漠の王」「復活の神」「ユゴスに奇妙な悦びをもたらすもの」「ふるきもの」いくつもの名で呼ばれ人々を弄び破滅させる…正真正銘の外なる神。
ナイアルラトホテップ…。
千の顔を持ち外なる神々の中で唯一の個性を持つ神。
やつが存在する限り、世界を神が開放することはない。
神がいる限り世界に平穏が訪れることはない。
人々を狂気に陥れることを好むこの神…千の内の一人がほんの戯れで作り出した存在…それがこの俺だ。
「始めましてですね。ある程度の知識や感情は入れておきましたので人の中に紛れるのは用意でしょう」
目の前の黒服の牧師―ナイアルラトホテップの一部が言った。これが生まれて早々に言われた言葉だ。
「よろしいですか?今からあなたは人の世界に紛れて好きに生きなさい」
第二声がすでに別れの言葉だった。
「なぜか?などとは聞かないでくださいね。君は人と混沌の神である私とのハーフ、精々私の楽しめる物語を演じてくれることを心より祈っていますよ」
そう言ってナイアルラトホテップは笑った。
俺という存在もただの暇つぶしで作られたもの。
俺も始めはその考えに賛同して物語を作り出し、演じて至福を懲らしていた。でも…それは、ほどなくしてつまらないものになった。
人の欲と神の欲…二つの欲が混ざり合った俺の精神はひどく不安定だった。
やはり人としての性か、今いる世界に退屈を感じた俺はナイアルラトホテップの作り出す物語から逸脱して単独の行動に出た。
やつらは追いはしなかった。ただの気まぐれで作った俺のようなちっぽけな存在がやつらの興味を引いているとも思えなかった。
その後は人の欲望の赴くままに突っ走り、肉欲の限りを尽くしてみた。そして…やっぱりそれもほどなくして飽きた。
「はぁ」
ため息が出た。
この世界に俺の興味を引くものはなかった…いや、正確には夢中になれるものがなかった。
あのナイアルラトホテップですら、世界を弄ぶことを楽しんでいる。
でも俺にはそれを楽しいと思うことはできなかった。
満たされぬ欲望だけが俺の中に残り、つもり積もっていく。
このまま退屈な絶望の中で生きていくのかと思うと嫌になる…そう思っていたとき。
やつが…ナイアルラトホテップが再び俺の前に現れた。
「久しぶりだね。この128年君を見てきたけど、実につまらなそうだ」
その時のナイアルラトホテップは和服に包まれた女の姿をしていた。
「そんな君にビッグイベントのお誘いだ!なんせ、神対人の戦いが開かれるのだからね」
その時、俺は耳を疑った。
神対人?そんなもの神が勝つに決まっている。神は人などには到底敵うはずはないのだから。バカらしい…何をそんなに興奮しているのかわからない。
「とにかく君も見に来てくれ、もしかしたらこれが君が見る最後の私の姿になるかもしれないのだから」
狂気に満ちた笑い声をあげてナイアルラトホテップは目の前から消えた。
気は進まなかったが別段やることもない…俺は全てに絶望していた…だからその場にも単に気まぐれで向かった。
神対人、ナイアルラトホテップのことだからその人間打ち負かした後、絶望さえ枯れ果てるまでに陵辱して消滅させるのだろうと思っていた。
あの輝きを見るまでは…。
「やはりわからない…なぜ君はその力を扱うことができるんだ?光と闇…そして虚無の力を統合させる…そんな力が少し人と違うだけで…機械と人のハイブリットなだけで扱えるはずはない!!」
ナイアルラトホテップが驚愕している…神が人に驚いている。そんなありえない光景を見た。
「人だから…人間だから心を通わせることができる!心の繋がりが俺に力を与えてくれる。そしてそれが、この神をも断つ剣と姿を生み出したんだ!」
輝く漆黒の翼…手に持つ神さえ作り出せなかった究極無比の全てを断つ双剣。
この男は何を言っている?心の繋ガリ?ナンダソレハ?
「せめてお前に半分でも人の心があれば…わかったかもしれないな…」
人ノココロ?俺の持つ欲望?ソレトモ…?
「ふっ…この世界を僕たち神から解放してどうするつもりだい?僕らの眼もすでに君が開放しただろう?まさか君が神になるつもりかい?」
皮肉めいたその言葉にもそいつは笑顔で返していた。
「まさか…俺は人でも機械でもない単なる化け物さ…だが体は人でなくても人の心を捨てるつもりも、それを辞めるつもりはない…こんな俺を必要としてくれる酔狂なやつらが待ってくれてるからな」
笑顔…笑顔だった…。傷ついた体で、止めどなく血が流れ続けているというのにそいつは優しい笑顔をしていた。
「やはりわからないな…君たち人間は…」
ナイアルラトホテップが無数の闇を作り出し打ち放つが、それら全て手に持つ剣によって光の粒子となって消滅していく。
「消えろ!ナイアルラトホテップ!この世界から!この次元から!この因果から!全てを断つ剣よ!人に…世界を委ねるために!」
「神は絶対の存在だ!それが…」
「できるんだよ!人間には…俺たちには!」
闇に包まれた光…光に包まれた闇の剣がナイアルラトホテップを貫いた。
凄まじい閃光が走りそこに残ったのは八翼の四対の漆黒の翼を生やし天使の姿をした人… ナイアルラトホテップを貫いた『人間』だけだった。
人が神に勝った…その世界はナイアルラトホテップという監視者を失い、外なる神々から開放された。
敵対しあう光と闇の力を統合させ、存在さえ不確かな虚無の力を結び…敵うはずのない神に打ち勝った。
人の物語にあり、神の物語にはないエンディング…。
俺にはこんな英雄のエンディングは無理だ…。
それでも、神とは違う物語が俺にも作れるかもしれない。
この男の様に…運命に抗い打ち勝つ存在に……。
そうすればこの男のようになれるのだろうか…。
そう本気で思ったんだ。
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ここに一人の欲に塗れた存在がいる…。
彼がこのまま自分の欲に忠実に従えば目的を達するのは容易なことだ。
人々から悪と呼ばれる存在が正義の味方を屈服させるという未来は彼が『ある物』を手にした時に定められたのだ。
「あぐっ、んあっ!あぁ!」
薄暗い部屋で少女の喘ぎ声が響いている。
全裸の少女のそれは苦しむような声ではなく甘く熱っぽく、快楽に染まっていた。
「くくく…ちょろいね」
王座を象った椅子に座る男は自分の上で喘ぐ少女を眺めながら笑いが止まらないようすだ。
「この本を手に入れてからあっという間だったな」
男の手にある一冊の古びた本―――自分に反抗する少女を瞬く間に調教し、奴隷へと変えてしまった魔術書―――に眼をやった。
「どうだ?サイサリス?正義の味方からメス奴隷に堕ちた気分は?」
再び目の前の少女に顔を向け男が問いかけた。
「はぁぁいっ!きもちぃぃですぅ!最高ですぅぅ!」
サイサリスと呼ばれた少女は歓喜の声を上げ、激しく腰を動かす。
「ひひひ!これで奴隷は三人目…捕獲した歯車は6人。これで俺さんをコケにしてくれた『エレメンタルギア』も残り三人。全員奴隷にしてやるから待ってろよ!」
薄暗い部屋の中、男は心底楽しそうな声を上げ笑い続けた。
しかし、彼は気づかずにいた。
定められた物語に介入する混沌の存在を…神を断つ存在に魅せられた神と人のハーフ…異型の半人半神の存在を。
そう…彼は登場人物の一人にすぎない…本編の主役になることはできない一人のキャラクターにすぎない。
故に今ここに開幕する物語の主役となれる存在は……。
―――――――――――――――
「ねえねえ、どう?今回は当たりだと思うけど」
「そーだな。反応はある、あるな…さすがアル」
「でしょ!やっぱり私のサポートって的確でしょ?」
眼を輝かせながらアルは上目遣いに俺を見てくる。
「だ~か~ら、ね。して♪」
アルが俺に身体を密着させる。女性らしい良い匂いと腕に押し付けられる膨らみの感触は確実に理性を蝕んでいく。
「………」
押し倒したいという欲望を理性という箍をフル活用して押しのけ、長く茶色のかかったアルの髪を撫でてキスをした。
「……ここまでなの?」
唇を離した後、アルが物足りないような表情で俺を見る。
「そ、何事もやりすぎは良くない、良くないから」
ぎゅむ。
「痛!」
唐突に耳を思いっきり抓られた。
「もう!普通の男は三度の飯より女を抱く方を取るものじゃないの?」
「ごめん、次はきちんと、きちんとやるからさ」
「う~ん納得できないけど、お願いね」
期待するようなアルの笑顔が眩しかった。
さあ、始めよう…また物語を始めよう…今回も面白く。今回もいつもどうり自分勝手に…。
始めよう…神が作り出すデタラメでハチャメチャ物語を…。
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「はぁはぁ」
夜の通りを走り続けてどれくらい経っただろうか、息が切れて立ち止まりそうになる。
「ふふふ、シンビジウムちゃん。逃げられると思ってるのん♪」
先程まで、正確までこの前まで仲間だったはずの者に追われている。
私たち『エレメンタルギア』は、突如現れた異次元の敵『シャッガイ』に対抗するために、結成された秘密組織のチームだった。
チームメンバーは私を含めて6人。
槍を使うランサーゼフィランサス、白鳥 美玖
銃を使うガンステイメン、朝倉 千穂
拳を使うバトルガーベラ、榊原 亜美
爪を使うクローリシアンサス、時雨 夕
杖を使うロッドリコリス、桜庭 雫
そして剣を使う私、ソードシンビジウムこと神楽 千莉
みんな同じ学園に通う同級生で友達同士。
最初は私たちの方が優勢な戦いだった。相手が敵の切り札、次元獣でも圧勝できるほどの差があった。
しかし、3ヶ月前、状況は変わった。
ゼフィランサス――美玖が行方不明になった。
彼女は一週間後に戻ってきたけど、どこか様子が変だった。
本人はなんでもないと言ってたけど、この時に気づくべきだった。
なぜなら次の異変はすぐに起きたからだ。
次の異変は亜美と夕の行方がわからなくなったことだ。
そして今日の夕方、『シャッガイ』が現れたと報告を受けて出動をした私を待っていたのは…
「やっほー!千莉ちゃん」
「美玖!いったいなぜこんなところに!?それにその男は!?」
そこには、『ダークゾーン』の幹部アシタカと美玖がいた。
アシタカは私たちの殲滅任務を受けていた男でこれまでに何度も戦ってきた。
私たちの働きで一度は失脚したはずだったが、また私の前に現れた。そして…
「ふふ、千莉ちゃん。私ねアシタカ様の奴隷になったの」
肩にアシタカが手を載せた状態の美玖はうっとりとした表情で言った。
突然の告白を私は信じることができなかった。美玖は人一倍正義感が強く、積極的に『ダークゾーン』と戦っていた…捕まったとしても決して屈したりはしないと思っていたから…。
「千莉ちゃんもすぐにアシタカ様の奴隷になれるよ、そしたら一緒にご奉仕しましょ♪」
そう言って美玖はアシタカに口付けした。
次にアシタカは美玖の秘所に手を入れ弄び始めた。
「くぅはあぁぁ!アシタカさまぁぁ!」
美玖が歓喜の声を上げる。
「まあ、こういうことさ!お前もすぐに俺さんの淫乱雌奴隷にしてやっから安心しろ」
金色のツンツン頭を靡かせてアシタカが楽しそうに笑う。
「…そう簡単に思いどうりになると思わないで!スタンディング!変身!」
私は頭を切り替えて腰に挿した剣を手に取り、時計に装着されているメモリーを剣にセットしてソードシンビジウムに変身する。
学園の制服姿から薄い紫を基調としたスーツに身を包みアシカタに斬りかかる。
ガキンと金属と金属がぶつかる音が鳴り攻撃が受け止められた。
「はーいはーい!シンビジウムちゃんやりすぎね。アシタカ様に失礼じゃない」
「ゼフィ…ランサス」
ゼフィランサスに変身した美玖の槍が私の剣を受け止めていた。
「まああれだ、殺さない程度に痛めつけてやれ」
「はい、アシタカ様」
ゼフィランサスが笑みを浮かべて襲い掛かって来る。
「何?この力!?」
私はゼフィランサスの力に圧倒されていた。攻撃は尽く弾かれ、こちらの防御を貫通して衝撃が来る。
「アシタカ様の奴隷になったら闇の力をもらえたの…だからシンビジウムちゃんはもう敵わないよ」
「きゃあ!」
槍を受け損ねて派手に転がる。打ち付けられた箇所が痛む…。
「っく!」
逃げるしかなかった、少なくとも今の私じゃ勝てない。本部に報告して対策を立てなきゃ。
「あれ?逃げるんだ?でも逃がさないよ!」
そんなことがあったのが15分ほど前のこと…。
そして今、私はゼフィランサスに追われていた。周りはすっかり暗くなり電信柱の電灯だけが前を照らしていた。
「……そんな」
運悪く逃げ込んだ場所は袋小路、ゼフィランサスはすぐ側まで来ている。
逃げ道は完全に絶たれた。
「鬼ごっこはおしまいだねん♪」
後ろから声がする
「美玖!目を覚まして!」
振り向き、私は美玖に向かって力の限り叫んだ。
「違うよ、今まで私が眠ってただけなの。今の私が本当の私なの、アシタカ様の肉奴隷、白鳥 美玖よ」
淀んだ瞳…恍惚とした表情のゼフィランサスが槍を構える。
「美玖……」
もう私には何もできない…何もしてあげられない。
私は変わり果ててしまった仲間を見て絶望した。
「安心しな、お前もすぐにこうなるから」
電灯に照らされアシタカが現れた。その手には一冊の古びた本を持っていた。
「さて、どれで犯してやろうかなっと、…いやその前に変身解こうか」
アシタカはパラパラとページをめくり何かを唱え始めた。
「えっ!そんな…!」
突然変身が解けて、私は元の制服姿に戻ってしまった。
「やっぱこれだよね~制服って…いいよね」
アシタカがいやらしい笑みを浮かべた刹那
「きゃあ!なに!?」
足元から触手が湧き出し、私を絡め取り1メートルほどの高さに持ち上げられた。
「っく…ほどけない…」
触手はしっかりと四肢に絡まりほどけそうにない。
「まずは股を広げろよ、がばっと爽快に!」
「だれがそんな!っくぅ」
アシタカの言葉に従い、両足を縛っている触手が股を広げる。
「よ~く見えるぜ…ピンクのパンティーなんてかわいいな~ほら、美玖も見てみろよ」
「ほんとだ~しかも何気に高いやつだ~もしかして千莉ちゃん勝負用?」
「っち、ちがう!」
今までされたことのない尋問に私は必死に否定した。
「顔真っ赤になっちゃって…かわいいよ千莉ちゃん」
「さ~て、まずは体から改造しちまうか」
「か、改造!?」
「そうだよ、アシタカ様が千莉ちゃんを淫乱なメス奴隷の体に改造してくれるの、うれしいでしょ?」
恐ろしい言葉を美玖は平然と言う。
「いやぁぁ!」
「まあまあ、まずはこれを飲みなって」
「ふぐぅ!」
無理やり触手が私の口の中に入ってきて何かの液体を放たれた。
(なに…これ…?)
ドクンッ!
疑問の前に体に変化が現れた。
(体が…熱い…)
ぬるりと触手が口から離れると、体から力が抜けて体中が熱くなり意識が朦朧としてきた。
「はあぁぁ…うっんぁぁ」
「おお!良い声で鳴くな?」
「!!」
無意識に声が出てしまったことを後悔した。アシタカが笑みを浮かべて私を見てる。
「股開いて悶えて、いい顔だ…っへっへアソコが濡れてきたなあ?」
「いやぁぁぁやめて…」
「千莉ちゃんいい感じね~もう少しかなん?」
拒絶したくても体はすでにいうことをきかなくなっている。
「千莉ちゃんって、可愛いし、頭良いし、ルックスもいいから、結構人気あるんだよね~この長くて青みがかってる髪も綺麗だし」
美玖が私の髪を弄りながら呟く。
「ねえねえ、千莉ちゃんって処女なの?」
「っ!」
火照った体よりも顔が熱くなるのを感じた。
「そうなんだ~じゃあアシタカ様が千莉ちゃんの処女いただきだねん♪」
「いやぁぁ!」
「怖がらなくて良いよ…絶対気持ちいいから…」
「はあぁぁんっ!あっあっ!」
体中が敏感になって快楽を抑えられない。乳首が勃起して、服が擦れる度に電流が走ったような快感が襲ってくる。
「準備は整ったな」
アシタカが私の太ももに手を伸ばし、内側を弄り始めた。
「うあぁぁぁぁぁ!」
焦らすように性器に触れる寸前で手は離れる。
「なに?なんで?あぁぁぁ!」
「千莉ちゃん触ってほしいでしょ?入れてほしいでしょ?」
「うぅぅん…あぁ…」
美玖の囁きが聞こえてくる…思わず頷いてしまいそうになる。
「そろそろ、いいころだな」
アシタカが迫ってくる。
「犯してほしいか?」
今度はアシタカに耳元で囁かれる。
「うぅ…あぁぁ…」
耳にかかる吐息ですら今の私は感じてしまう。
犯してほしい…そんな考えが頭をよぎる。
だめ!このままじゃアシタカの言いなりになってしまう。
それでもいいから犯されたい。
だめ!他人の言いなりになるのは嫌!私は私でいたい!
「抵抗しちゃって…良いんじゃない健気で可愛いと思うよ」
「そうか、お前が言うなら助けてやるもの一興…一興か」
「!!」
「何だ!?」
上天からの男女二人の声が夜の通りに響く。
「私的には合格…後は」
「本人の希望次第か?どうする?なあどうする?助けてほしいのか?」
「うえ!?なに!?どこから」
アシタカと美玖が驚いている。二人にもわからないことらしい。
「おーーーい!助けるか?助かりたいのか?」
場違いな、からかう様な男の声が響く。
助かりたい。自分を見失いたくない…私は剣なのだから、大切なものを守るための剣になるのだから。
「……助けて…ください…」
「うんうん、自分に素直なのは良いことだよね」
「オーケー、オーケーだとも利害は一致してるようだから今回限り無料だぜ」
―――――――――――――――
ズドォォォォン!!
空から二つの影が降ってきた。
一つは和服調の服を着て紅い髪と眼をして口を歪ませている男。
もう一つは長く茶色の髪が風に靡く私と同じ制服を着た少女だった。
「お前は何者だ!」
アシタカが吠えた。
「何者か?何者だろうな?俺にもわかんない、わかんないな。そうだな、『黒いファラオ』『闇の跳梁者』『闇に吠えるもの』『アトゥ』『膨れ女』…いやいや、これは全部オリジナルの方だな…あえて言うと……悪役かな?」
………………………………………。
ヒユゥゥゥ…と、冷たい風が吹いた。
「コラ、あんまり誤解を招くようなこと言わないの。ここは正義の味方っぽく演出でしょ」
男の隣の少女がダメだしをした。
「そうか?では…では!今のは無しで…我は混沌の落とし子、神の力を振るい物語を演出する道化…愛という名の輝きを追求する探求者…」
「ブー!」
「うわ!ダメ?ダメかよ!?」
「ダメッダメ、ぜんぜんダメだよ!長いし意味わかんないし、何よりそれほどかっこよくないし」
「……アイツの真似してみたんだけどな…今度から、今度から気をつける…」
「よろしい」
胸を張って少女が言い切った。
千莉は一人、目の前で何が起きているのか、わからないでいた。
「それより、その本『エイボンの書』だろ?そうだろ?それもハイパーボレア語で書かれた、原書版」
男の方がアシタカの持っている本を指差した。
「お前…魔術師か!」
「ちょっと違うがそのような、そのような者だ」
「殺れ!美玖!」
今まで黙っていたゼフィランサスがアシタカの命令で男に襲い掛かるが…
「あのな?人以下の奴隷に俺が殺せると?無知とは嗚呼、無知とは悲しいものだな」
男が闇に包まれると同時に向かっていったゼフィランサスが吹き飛ばされる。
「きゃはぁ!」
吹き飛ばされた美玖の体が塀に激突した。
「生憎と俺は強いからな…」
口元をにやつかせながら男が本を取り出した。
「『ソロモンの鍵』よ…我に、我が手に力を与えよ…そして、いでよ!舞い踊る力!覇道を行く呪法兵装!バルザイの鉄・扇!」
男の手に一本の黒い鉄の扇子…全てが金属で作られた扇子が握られた。
「スパっと怪傑!」
黒い閃光が千莉を絡め取っていた触手に走り、見事に切断された。
「きゃあ!」
支えを失い、落下した千莉を絶妙なタイミングでもう一人の少女が受け止めた。
「無事?」
「はぁはぁ」
千莉の身体は触手からは開放されたものの、その体はどうしようもなく火照っていて、まともに歩けそうになかった。
「ナイアル。だめ、この娘歩けそうにないよ」
「やっぱりか…あれだけ責められれば仕方ない、仕方ないな、アルはその娘の面倒をよろしく頼む」
「かしこまりました。ご主人様」
ビッと右手をおでこにあて少女は自分がナイアルと呼んだ男に向かって敬礼する。
「その言い方はやめろ、やめたまえ」
「は~い」
先程アルと呼ばれた少女は悪びれることなく答え、千莉は少女におぶさる形になった。
「おいてめえ!逃がすと思ってんのか?」
「そうしてくれるとありがたい、とてもありがたいな感謝する」
「ふざけるな!」
アシタカが再び本を開き何かを唱える。
「グシュウゥゥゥゥ!!」
「なに?…あれは…」
アルにおぶさっている状態の千莉は自分の目を疑った…地面から海の生物のような、しかし巨大で見たことのないおぞましい姿の怪物が数体現れた。
ナイアルはそれを見ても微動だにせず冷静に状況を眺めているようだ。
そして、一言。
「臭い…臭いな…とても魚臭い…だが臭いだけのディープワンズごときじゃ止まらない、止められないぜ」
ナイアルが鉄扇を広げ戦闘体勢をとった。
「鉄扇でぶっ叩かれた事はあるかな?あるのかな?手加減してもかな~り痛い思いををするぞ。しかもこれはバルザイの鉄扇…仕込み刃付で、よ~く斬れるぜ」
「いぃグナァァァァァ!!」
ディープワンズがナイアルに向かって突進するが…
「嗚呼、無知…無知だな。お前等が勝てないなんて砂糖を50杯入れたコーヒーが甘いかどうかってぐらい確定していることだぞ」
突進をひらりと避けて踊りのように舞う。
鉄線が振られ鮮血が飛び散る…。その中で踊る黒い影。
繰り出される攻撃を全て紙一重で避け、ナイアルは舞い踊る。
「踊りというのは良い良いものだ…他が者の舞は美しく、我が踊る舞は我を高みへと導く…」
時が経つにつれ屍が積み重なっていく…周りはもう生臭い血の臭いでいっぱいになっていた。
「滅びよ…深き者よ…暗き闇に生きるものを更なる…更なる闇の彼方へ…これは混沌の命令なれば!」
踊るナイアルの手に禍々しい闇が収束されていく。
「これは…!」
アシタカが焦るの。その隙に千莉を背負ったアルは駆け出してアシタカから距離をとった。
闇を呼び…闇を纏い…ナイアルが踊る…踊る…踊る。
そこに集った暗く深い奈落の闇が猛烈な勢いで膨れ上がる。
「Plague WindそしてDark Banishing」
黒い光が一帯を包み爆裂して、ディープワンズを飲み込んでいく。
一瞬にしてディープワンズは消え去った。
「っけ、ディープワンズは、まだまだでるぞ!!」
舌打ちして、アシタカが再びディープワンズを呼び出した。
「私がいるのも忘れないでね!!」
倒れていたはずのゼフィランサスがナイアルへ向かって襲い掛かってくる。
しかし、それを見てもアルもナイアルも動じはしない。
そして、ナイアルが狂気の眼をして見下ろして、邪悪に口を歪ませて…
「アルビオーレ…我が愛しき僕よ…抵抗するもの、抵抗する愚者を…殺っちまいな!」
その言葉を待っていたかのようにアルが叫んだ。
「オッケー!まかせてよ『セラエノ断章』」
彼女の声に呼応して、その手に一冊の本が現れた。
「ちょっとごめんね」
千莉はアルの背中から降ろされた、冷たいコンクリートの感触が火照った今の千莉にはとても気持ちよく感じられた。
「さあ!始めましょう!育みましょう!私の最愛の人が作り出す、物語のため!」
「今回も始めよう…アイツの様に輝かしく、アイツの様にとびきりの物語を!」
アルとナイアルが高らかに叫ぶ。
『セラエノ断章』を掲げたアル――アルビオーレは緑色の光に包まれながら呪文を唱える。
「いあ!いあ!はすたあ!はすたあ、くふあやく、ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ」
風が吹く…アルビオーレを守るように風が吹き始めた。
風は渦を巻き螺旋を描き、強く強く吹き荒れる。
「あい!あい!はすたあぁぁぁぁ!ハスター風よ!跡形も残さずに彼方を吹き飛ばせ!」
トルネードが吹き荒れて砂が舞い視界を遮るが、隙間からの光景はを見ることはできた。
風は周りのものを根こそぎ吹き飛ばし、破壊して、バラバラにして、粉砕して、微塵にしていった。
………………………………………。
風が収まって辺りに静寂が訪れる。
後に残ったのは破壊された路地…いや、コンクリートや塀がなくなった場所はすでに道ではなく荒野だった。
「逃げた…逃げたのか?すばやい行動だ…実に小物らしい」
ナイアルが瞳に狂気を浮かべ不気味に笑う。
「ナイアル、この娘どうするの?」
「ふぅぅ…あはぁぁん」
千莉の方はもう限界の様だった。身体中が疼いて仕方ない様で、愛液が太ももを伝いショーツもぐしょぐしょになっている。
「さて、さて……どうするかな?」
「結果なんてわかりきってるのにね」
アルは呆れて嘆息した。
「いや、他にどんな…どんな方法があるという?」
「……ないけどさ」
「じゃあ仕方がない、人間薬物には勝てない、勝てない仕組みになっているのだ」
「その一言二言で済ませないでよ!まったく…いつもいつも…」
ぶつぶつと拗ねたようにアルが呟く…。
「それじゃあ、それでは…やるとするか…」
ナイアルは一度天を仰いで千莉を見下ろした。
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