ZIPANG

 ババババババ……。
 外の方からバイクのエンジン音が近付いてきて、この建物の前で止まる。

 ――コンコン。

 しばらくして、ノックの音がした。
「開いてるぜ」
「じゃまするわね、ジャック」
 入ってきたのは、フルフェイスのヘルメットを小脇に抱え、黒い革のつなぎを着た女。
 ヘルメットの型がついた髪を解くように、彼女は軽く頭を振る。
 ファサ、と、腰まであるまっすぐな栗毛が揺れる。
「よう、ルイーザ、遅かったじゃないか」
「ちょっとね……。それより、ジャック、例のものはどうなってるの?」
「ああ、バッチリだ。ほら、ここに、監視カメラの位置から、セキュリティー・システムの詳細、警備員の配置から巡回の時間まで全部書いてある」
 俺の名はジャック、裏の業界では、ちょっとは名の知られた泥棒だ。
「ちょっと見せて……ふんふん……なるほど…いつもの事ながらさすがね」
 豹のような身のこなしで歩み寄り、机の上に俺が置いた図面に見入るルイーザ。
 やはり、このあたりでは有名な女泥棒だ。
 まだ若いが、頭は切れるし、身軽で、運動神経もいい、そして、女らしく繊細な作業も得意ときている。
 だが何より、この辺の悪党は誰も敵わないほど強い。
 おかげで、こんな美人なのに敬遠されることが多いが、俺とは何かとウマが合って、何度か一緒に仕事をやっている。
「まあな、こういうのは俺に任せろっての。それで、いつやる?」
「そうね、一週間後でどうかしら?」
 顎に指を当てて、少し思案するようにして答えるルイーザ。
 それにしても、ただでさえ抜群のプロポーションなのに、こんな、体のラインがはっきりわかるつなぎなんか着られると……。
「なあ、ルイーザ。この仕事が終わったら、俺とつき合って……ぐはあっ!」
 椅子から立ち上がって、ルイーザの肩に手をかけようとした俺の腹に、殺人的なパンチが飛んでくる。
「が!げほ!」
「あんたもしつこいわねぇ、ジャック。たしかに、あんたとは気が合うし、能力は信頼してるわよ。でもね、あんたみたいな暑苦しい顔はタイプじゃないの」
 再び椅子にへたり込んでむせる俺を、腰に手を当てて見下ろすルイーザ。
「それにね、あたしの相手は、1対1で、あたしより強い奴って決めてるんだから」
 それは無理ってもんだ……。
 こいつの格闘技はホンモノだ。こいつより強い奴なんか、そこら辺にいるわけはない。

「……ところでジャック、さっきから気になってたんだけど、あんたの後ろのそれは、いったい何?」
「ああ、これか?これは、ニッポンで作られた、キンビョーブ、とかいうもんだ」
「なんか、こんな派手なのはあたしの趣味じゃないね」
「でもな、これはすごいマジック・アイテムらしくてな。こうやって、こいつの前に座ってるだけで幸運が身に付くらしいぜ」
 この業界の人間には、幸運とか、験かつぎとかを気にする奴が多い。
 ルイーザも、そういうのを気にする方なのは、俺も前から知っている。
「ホントなの?」
「ああ、ひょんな事から手に入れたんだが、それ以来、俺の仕事は順調そのものだ」
「ちょっとあたしも座ってみようかしら?」
「おう、じゃあ、こっちが空いてるぜ」
「なんか、あんたと並んで座るってのも気が進まないけど……、まあ、いいか」
 そう言って、ルイーザは俺の差し出した椅子に腰掛ける。
 ……やった。
 こいつは、幸運をもたらすアイテムじゃない。
 買ったときの説明では、こいつの前に座ったふたりを相思相愛にさせるという……。
 もちろん、俺は前からルイーザにぞっこんベタ惚れなんだが……気のせいだろうか、いつにもましてルイーザが魅力的に見える。
「ちょ、ジャック、なにあたしのことジロジロ見てんだよ、気色の悪い奴だね」
 そう言いながらも、頬を染めるルイーザ。
 ……よしよし、効いてるみたいだな。
「ほら、コーヒーだ、ルイーザ。缶しかないけどよ」
「あ、ありがと……」
 缶コーヒーを飲みながら、そっとルイーザの方を窺うと、缶に口をつけもせずに、俺の方を見つめている。
「なんだよ、おまえこそ俺のこと見つめやがって?」
「あ、いや……暑苦しいツラだと思ってたけど、よく見たら、け、結構かっこいいじゃん、あんた」
 顔を赤らめて、目を伏せるルイーザ。
 こいつのこんな表情なんか初めて見るぜ……。
「それに、その赤い縮れ毛も、暑苦しさ倍増って感じだったけど、なんか、情熱的な感じだよね……」
 顔を上げて、また俺の方を見つめるルイーザのダークブラウンの瞳は、心なしか潤んでいるように見える。
 よ、よし、今なら……。
「な、なあ、ルイーザ。もう一度言うけどよ、仕事のパートナーだけじゃなくて、俺の人生のパートナーになってくれないか?」
 その目をを見つめて、俺がそう言うと、ルイーザの拳が俺めがけて飛んでくる……。
「も、もう!は、恥ずかしいこと言うんじゃないよ!」
 ……ポン。
 と、ルイーザの拳が、俺の頭を軽く小突く。
「返事を聞かせてくれよ、ルイーザ」
 ルイーザの両肩に手をかけて俺が返事を迫ると、ルイーザは真っ赤な顔でうつむき、
「オーケー」
 と、ひとことだけ答える。
「ルイーザ……」
 俺は、そのまま、ルイーザを抱きしめる
「ああ、ジャック……」
 ルイーザも俺の背中に腕を回してきて……。
 そして、抱き合ったまま、俺たちは熱い口づけを交わす。

「あん!イイ!イイよッ、ジャック!」
 俺の上に跨り、髪を振り乱して腰を振るルイーザ。
「ああ、俺も気持ちいいぜ、ルイーザ」
「はっ!ああん!ジャック!ジャック!あううううんッ!」
 下から、乳房をつかむと、ルイーザの声が跳ね、アソコの締め付けがきつくなる。
「あ!ううん!イイッ!最高だよ!ジャック!」
 激しく腰を揺らし、俺のモノを締め付けてくるルイーザ。
 とうとう、ルイーザを手に入れた……。
 あのルイーザが、俺に乗っかって乱れまくっている。
 それだけで、もう俺のモノは……。
「ああ!ルイーザ!」
「んんん!ジャックッ!はああああん!…………て……え?もうイっちゃったの、ジャック?」
「ああ、最高に良かったぜ、ルイーザ」
「何言ってんの!あたしはこんなんじゃ全然満足できないんだから!まだまだやるよ!ジャック!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ルイーザ」
「何言ってんのよ、ジャック!あんたは、あたしが認めた男なんだから、1対1であたしに勝てるはずだよ!」
 おまえが何言ってんだよ!
 ていうか、どういうことだよ、それ!?
「さあ、ジャック!……ん…また堅くなってきたわっ!んんん!ああんッ!」
 しきりに俺のモノを刺激し、勃ってきたところで、再び腰を揺らしはじめるルイーザ。
「ああ!もっと!んんんッ!そ、そうっ!イイよッ!あ、ああん!だ、大好きよ!ジャック!」
 再びルイーザのアソコに俺のモノを締め付けられて、快感に飲まれていく……。

「なに!またイったの、ジャック!?」
「なぁ、ちょっと休ませてくれないか、ルイーザ?」 
「だめよ!こんなんじゃ全然足りないもの!」
「いや、ちょっと、ルイーザ……」
「ジャック!あんたは、あたしが見込んだ男なんだからねっ!ほら、気合い入れてチ○ポ勃たせなさいよっ!」
 なんだよ!たしかにルイーザは俺に惚れてくれたけど、力関係は全然変わってねえじゃん!
 女っぽくて可愛らしかったのは最初だけじゃねえか!
 こ、このままじゃ、俺の体が保たない……。

 100パーセントの成功率を誇るアサオニ結婚相談所。
 その活動は、日本だけにとどまらず、世界中への通信販売業務も行っているらしい。
 そして、その仕事は、常に完璧であるといわれている……。

 ジャック「どこが完璧なんだよーッ!!」

< おわり >

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