MAAM プロローグ

プロローグ

「さってと・・・」

 風呂から上がり、自室に入ってきた少年、恭一は部屋に置いてあるパソコンの前に座った。

 沢下恭一、現在18才の高校二年生である。

「明日の仕込みでも済ましておくかね」

 彼がそう言うと、作動音もなしにパソコンに画面が浮き上がる。何もしていないのに、である。

 真っ暗な画面。ちかちかと瞬く文字列が数行表示されると、画面が変わる。出てきたのはメールソフトだろうか、タイトルは「M.A.A.M.」となっている。どちらにせよ一般に出回っているどのソフトとも違うモノだ。彼はそこから「検索」という項目をクリックする。

「明日はどんなのがいいかね・・・っと」

 実はこれはメールソフトでもなんでもない。それどころか恭一以外の人間から見ればパソコンの画面はいまだ何も映し出していない。

(しっかし・・・なんなんだろな、これは・・)

「検索」を行いながら考える。恭一がこれ…このソフトを使えるようになったのはつい最近であり、高校に入ってからである。ある日突然使えるようになっていた。

(ま、楽しませてもらってるからいいんだけどさ。これがあれば一生オンナには苦労しないし?それに俺好みのオンナが作れるし…ね。)

 そう、これは言ってみればプログラミングソフトである。けれど、普通のプログラミングではない。いってみれば人格の、である。これを使えば大概の事は恭一の思い通りに他人を行動させられる。

 少し詳しくこの「ソフト」を説明しよう。

 まずこれを使えば検索できない個人情報はない。

名前、顔、年齢、住所など、ともすれば普通のパソコンでも調べることができるものから、性格、体質、精神状態、一日の行動などまで調べられる。

 これだけでも十分に凄いが、特筆すべきはこれらの情報を書きかえる、または書き足すことによって本人に影響を与えられる事である。強制力も絶大だ。

 たとえ見知らぬ人間に、何の脈絡もなしに「明日自殺する」と「プログラミング」したとしても相手はそれを実行するだろう。

 とはいえ、恭一が使うのは女の子と「遊ぶ」時だけであるが。

(ま、そこまでやったらおもしろくないんだけど。もっとギリギリな所でたのしまないとね。なんつぅかこう・・・必要最低限の事だけ「設定」して楽しむってか・・・ま、結局「人形」とやるんじゃこんなの持ってる意味ないし。)

 恭一が普段設定するのは行為に及ぶまでのプロセス、そして服装(場合によるが)くらいのものだった。

 後は個人の性格、体質のパロメータの度合いを変更し、逃げられないようにするために、体の自由を奪う意味で精神を操作するくらいである。

「よっ・・・しゃ。明日はこんなモンかなっと。決定ってね」

 一通りの情報を書きこむと、恭一は決定のボタンを押す。恭一が席を立つとピッという操作音とともに画面に終了という文字が表示され、恭一だけに見えていた画面は、再び誰が見ても真っ暗な画面に戻る。恭一は大きく伸びをすると床につく用意を終えてベッドに潜り込む。

「おやすみ~♪」

 独り言をつぶやくと恭一はゆっくりと眠りに落ちていった・・・。

< つづく >

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