其は魔なるモノ 中編

- 中編 -

─ 3 ─

 美宇は自室のベッドの上で目を覚ました。今まで自分がどういう状況に置かれていたのかがすぐに思い出せず、暫くベッドに横たわったままで茫とした。なんとなく天井を見詰めながら、全身の力を抜く。足の感触から、自分が普通部屋の中で履かないもの・・・靴を履いている事に気が付く。

「あれ・・・なんで靴を履いてるんだろ?・・・あ・・・」

 美宇は、自分が断崖から飛び降りた事を思い出した。そして、それに伴って全ての原因も。美宇は跳ね起きるように、上体を起こした。
 美宇は愕然と自らの身体を見下ろして、傷ひとつ無い事から、糜爛に助けられたのだろうという事に気が付いた。
 美宇は、右手で顔を覆いながら、深く嘆息した。

 ──あたしは死ぬ事も出来ないの?

 絶望に染まった思考に、どこか嘲るような糜爛の思考が応える。

『くく・・・然り。我がそうと願わねば、汝に死は訪れぬ。諦めるが良い。我は、汝にさまざまな快楽を与える事が出来る。汝はそれを愉しめば良い・・・』
「ふざけるなっ!」

 美宇は怒りに我を忘れて、右手で糜爛の顔があるあたりに爪を突き立てた。服の生地が、ビッという嫌な音を立てる。

『無駄という事は、知っているであろうに・・・』
「・・・ふぅ・・・」

 美宇は一時の激情が抜けるのと共に諦めが全身を浸すのを自覚して、そっと溜息を吐いた。これでは、他の自殺の手段にしても、実行前に潰されるのは確実だろう。思えば、飛び降りるまで糜爛が止めなかったのは、それを思い知らせる為だったのではないだろうか。
 美宇は為す術も無い状況に、暗然と俯いた。

 ・
 ・
 ・

 ピンポーン。

 どれほどの時をそうして過ごしただろう。来客を知らせるチャイムの音で、美宇は無限に繰り返される、袋小路にも似た思考を抜け出した。決して解決策を見出した訳では無いのだが、答えの見えない問いを繰り返す虚しさから、脱却する契機にはなったようだ。
 美宇はのろのろと立ち上がると、ドアホンの通話ボタンを押した。

「はい、鈴沖です」
「あ、美宇?明海です。今日はガッコに来なかったみたいで、気になったから・・・。あ、入ってもいいかな?」
「う・・・ちょっと待ってて・・・」

 携帯で確認もせずに、突然家まで押し掛ける明海の感性に頭痛を覚えながら、美宇は一言答えて玄関へ向かった。途中で靴を履いたままなのに気が付いて、一人で苦笑する。

 ──糜爛のせいで、家の中を靴で歩いちゃったよ。明海を入れる前に、ちょっと拭き掃除をしなくちゃ

 美宇は立ち止まってその場で靴を脱ぐと、両手に靴を持って歩き始めた。

 ──まったく糜爛も、碌な事をしな・・・

 美宇は呆れたように思考して、不意にがつんという衝撃にも似た感覚を覚えた。明海の声を聞いてすっかり日常的な雰囲気になっていたが、自分の左肩には糜爛という悪魔が巣食っているのだ。さっきのように、ちょっと美宇が不愉快に思っただけで人間を殺す悪魔が。

 ──そうだよ!ここは明海を帰して・・・
『ふふふ・・・それは面白い・・・。その願い、叶えてやろう・・・』

 美宇の思考を遮るように、糜爛の声が頭の中で響いた。そこに粘液質な欲望を感じて、美宇は身震いした。

「止めてっ!そんな事、望んで無いっ!」

 つい、美宇は声に出して怒鳴ってしまった。そこに、慌てたような明海の声が、ドア越しに聞こえた。後は、ドアノブを揺さぶる音、ドアを叩く音も続く。

「美宇っ!どうしたの!ねぇ、開けてっ!」

 ガチャッという音に、美宇は信じられないモノを見るように玄関のドアに目を向けた。閉まっていたはずのドアが開くのを、悪夢の中の出来事のように見詰める。

「美宇、大丈夫っ?・・・え、あ・・・あれ・・・?」

 突然、明海の顔が昼間死んだ痴漢のように茫とした表情になり、ふらふらと玄関に入って来た。後ろ手にドアの鍵を閉めると、靴を脱いで美宇に近付く。

「あ・・・明海・・・」

 明海は美宇の声にも反応せずに、美宇の手が届く所まで来て立ち止まった。その時初めて、美宇は自分の左手がすいっと持ち上がっているのに気が付いた。軽く開かれた左手が向かうのは、明海の頭。

「糜爛っ!止めなさいっ!止め・・・やめろぉっ!!」

 美宇は狂ったように怒鳴りながら、左手を右手で押さえ込もうとした。しかし、どんなに渾身の力を込めても、左腕は嘲るようにゆっくりと、明海の頭へと向かった。

「やめっ・・・」
「あがっ!が、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 ぐりゅっという音とともに、異様な感触が美宇の左手に伝わった。左手の指が、明海の額にめり込んだ音と感触だ。非現実的な光景に、美宇は一瞬抵抗を忘れた。
 それと同時に明海が白目を剥いて、人間が発するとは思えないような悲鳴を上げた。まるで感電したように無秩序な動きで痙攣し、だらしなく開いた口からは涎が垂れた。しかし、なぜか固定されたように頭だけは動かず、まるで中身を掻き混ぜるような指の動きが続けられる。

「やめ・・・やめて・・・や・・・おねが・・・」

 美宇の口調から力が抜け、最後には哀願めいた調子を帯びた。目からはぽろぽろと涙がこぼれるが、左手はまったく止まる様子を見せず、明海は壊され続けた。そう、これは人間の破壊だと、美宇はなぜか理解できた。人間としての明海はここで壊れ、人間以外の明海がここで造られるのだ、と。

 どれほどそうしていただろうか。美宇はどんよりとした目で、じゅるりと明海の頭から抜かれる自分の左手を見詰めた。感触とは別に、血に汚れてもいないし、どこも変わった様子も無い、いつもの自分の左手だ。
 いや、それはもう、自分の左手と言えるのだろうか。人を改造し、勝手に動く左手。美宇は自由が戻ってくるのと同時に、左手を壁に力一杯叩きつけた。そうでもしないと、明海の身体を改造した時の感触が、忘れられない気がしたからだ。もっとも、傷付いたのは壁だけという結果に、余計落ち込んだのだが。

「だめよ、美宇。身体を自分で傷付けるだなんて」

 美宇はビクっと身体を震わせたが、『それ』は構わずに美宇の左手をとって、優しく舌を這わせた。傷などどこにも無いのだが、『それ』は愛情を込めて丹念に舌を使う。癒しと愛撫の中間とも言えるその行為に、美宇の身体から緊張がほぐれていく。

「もういいよ・・・明海・・・」

 しばらくしてから、美宇は『それ』を止めた。何と呼んでいいか判らずに、仕方なくその身体の名前を呼んだ。
 『それ』は、美宇を見上げてほややんと微笑んだ。見慣れた明海の微笑みだ。イライラさせられる事も多くて、でもそれを見ただけでつい許してしまう・・・そんな笑み。『それ』が本当に明海だったなら、どんなに良かっただろうと美宇は唇を噛み締めた。

「ね、美宇。わたし・・・変わって無いよ。ずっと美宇の事が大好きだった、わたしのまんまなんだから」
「ううん・・・変わった。変えちゃったよ。ごめん・・・。わかるんだ・・・なんでだか、ね」
「ちがうの。身体はそうかも知れないけど・・・心は変わってないの。もし変わったんだとしたら、素直になった・・・それだけ、だよ」

 明海はそう静かに言うと、きゅっと美宇を抱き締めた。そのまま目を細めて、美宇の頬に自分の頬を擦りつける。
 とくん、とくん・・・と、明海の心臓の鼓動が美宇に伝わる。いつもよりも少し速めなそれは、不思議の美宇の心を慰めた。

─ 4 ─

 どれだけそうして抱き合っていただろうか。美宇は明海の異常を感じていた。美宇の鼓動が速くなり、荒い呼吸が美宇の耳をくすぐる。時々「んっ」という小さい喘ぎが混じり、身体をもじもじとさせている。これは・・・欲情しているのではないだろうか。

「んくっ・・・あ・・・はぁ・・・あぁ・・・みうぅ・・・」
「あ・・・明海?」

 体温が高くなったような明海の身体を抱き締めていると、美宇までつられてしまいそうだ。女同士なのにおかしい、そう思う気持ちもだんだんと小さくなっていく。美宇は自分の高まる鼓動が明海に伝わってしまうのではないかと、恥ずかしい気持ちを感じた。

「んふ・・・みう、いいにおい・・・」

 夢見るように柔らかい口調で、明海が呟いた。明海はまるで子犬のように、すんすんと鼻を鳴らして、美宇の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。それがまるで媚薬であるかのように、とろんと笑みを浮かべて、薄く微笑んだ。

「あ・・・明海だって・・・その・・・」

 ──いい、においがする・・・

 後半の言葉は、恥ずかしくて言えなかった。ただ、どこか甘い感じの明海の匂いを、そうと悟られないように、静かに、深く吸う。とくん、と心臓が高鳴る。頭の芯の方がぼうっとしてくるのに、身体だけが熱くなっていくようだった。

「・・・わたしが美宇のこと、ずっと好きだったって・・・証明するね・・・」
「え・・・?」

 明海は名残惜しそうに美宇から身体を離すと、美宇の手を取って寝室へ向かった。何度か来た事もあるだけあって、その足取りに戸惑う様子は無い。
 美宇をベッドに腰掛けるように導くと、明海はその足元にちょこんと座った。横に座って迫られるのかと思っていた美宇は、無意識のうちに期待していた気持ちを見透かされたようで、一人赤面した。

「わたしにはね、ずっと美宇しかいなかったの・・・知ってるでしょ?美宇以外の人は、みんな怖かった。美宇だけがわたしを受け止めてくれてた」
「そんなことっ」

 熱に浮かされたようにとうとうと言葉を繋げる明海に、美宇は否定の言葉を返そうとした。美宇だって明海を苛めるような扱いをした事があったし、他の人達が明海に関わらなかったのは、怯える明海を扱いかねたからだ。それに、美宇が明海を受け止めたのでは無く、明海が美宇に懐く方が先だったはずだ。
 しかし、明海は首を左右に振って、美宇を見上げた。

「それでも、わたしと一緒にいてくれたのは美宇だったの。だから、美宇が望むのならどんな事でもしようって・・・ずっと、思ってた。
 ね、美宇はわたしにどうして欲しいかな?どんな事でもいいの。えっちな事だって、恥ずかしい事だって。作り変えられた事なんて関係無い。わたしを、美宇のものに・・・して・・・」
「あ・・・」

 興奮に潤んだ目で見上げてくる明海に、美宇の身体にぞくぞくとした感覚が走る。それが決して嫌な感じで無い事から、美宇は自分が興奮している事を自覚した。しかし、だからと言って何をしたらいいかなど、判るはずも無い。

「美宇・・・おねがい・・・」

 美宇の沈黙を拒否と受け取ったのか、明海の顔がくしゃっと泣きそうになる。それが、美宇にとってのとどめだった。
 思えば、いつも子犬のようにまとわりついてくる明海を苛めた時、美宇はどきどきしていなかっただろうか。
 明海が他に頼る人がいないと知っていながらどこかそっけない風を装うと、明海が悲しそうな顔をするのが、とても楽しかったのではなかったろうか。
 何度叱っても、明海が自分に飛び付いてくるのが、実は嬉しかったのではなかっただろうか。

 ──あたし・・・あたしは・・・

 美宇はこくりと唾を飲み込むと、酷く艶めいた表情で明海を見詰めた。すい、と右足を伸ばして、明海の顔の前にくるようにする。何かの漫画で見たシーン・・・それを思い出していた。

「今日はずっと立ってたから、疲れちゃった。汗もかいてるし、綺麗にしてくれる?」

 その言葉に、明海はぱっと晴れやかな、嬉しそうな表情を浮かべた。本来は屈辱的な命令も、美宇に命じられた事で明海は悦びとともに受け入れた。そっと両手で捧げ持つように美宇の足を持つと、頬を赤く染めて明海は舌を近付けた。肌色よりも少し濃い色のストッキングの上から、足の甲をペロリと舐める。

「んっ」

 その瞬間、美宇は妖しい感触を感じて、声を上げて仰け反った。普通で無い行為に、美宇は止め処なく昂ぶっていく。
 一方明海は、美宇が嫌がっていない事を上目遣いに確認すると、嬉しそうに続けた。もっと大胆に舌で舐め、足の指を咥え、土踏まずにキスをする。

「あっ、ああっ・・・」

 余す所無く舐め続けると、明海は美宇が切なそうに喘いでいるのに気が付いた。身体を悦楽にぴくぴくと震わせ、今にも啜り泣きしそうな顔で明海を見ている。明海は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「みう・・・どうして欲しいのか、おしえて?もう、恥ずかしくなんか、ないよ?なにを言っても、ぜんぜんいいんだから、ね?」

 どこか幼い子をあやすような言い方に、美宇はゆっくりと脚を開いた。スカートの限界まで脚を開くと、むっと熱い蜜の香りが広がる。羞恥に顔を真っ赤に染めながら、美宇は震える声で懇願した。

「あ・・・ふあ・・・もっと、あしのぉ・・・うえの・・・ほうを・・・」
「舐めて欲しい?それとも、触って欲しい?キスして欲しい?吸って欲しい?」

 美宇の言葉を遮るように問い掛けた明海の言葉に、美宇は実際にそうされているかのように喘いだ。自分の身体を抱き締めるようにしながら、ガクガクと奮える。

「ぜんぶっ!ぜんぶしてっ!もう、がまんできないぃっ!!」
「うふ・・・」

 美宇の懇願に、明海が笑みを浮かべた。

「じゃあ、脱いじゃいましょうね」

 明海はそう言うと、美宇のショーツとストッキングを一緒に丸めて脱がせた。ショーツのボトムが濡れそぼっているのを見て、明海は嬉しそうに微笑んだ。

「上は、はだけるだけにしておきましょうね。その方がえっちっぽいですし」

 明海はにこにこと、けれど一切の容赦も無く、美宇の服のボタンを外していった。肌着は捲り上げ、ブラは上にずらす。スカートはすっかり捲くられているので、まるで強姦されかけているかのように、酷く淫らがましい格好だ。

「ね・・・もうだめ・・・ヘンになっちゃうよぉ・・・はやくぅ・・・」
「はいはい。じゃあ美宇、腰を突き上げるみたいに、舐めやすい姿勢をとってね」
「あ・・・う、うん・・・こう、かな・・・?」

 明海の言葉に羞恥で顔を赤く染めながら、それでも美宇は言われた通りにベッドの端に浅く腰掛けるように座りなおし、目一杯脚を開いた。自然と両手を腰よりも後ろについて、大事な所や胸を強調して突き出すような、いやらしい姿勢になっている。

「美宇・・・綺麗だよ・・・。ずっと、こうしたかったの・・・」
「あ・・・」

 夢見るようにうっとりと呟いて、明海は顔を美宇の秘所に寄せた。それを見て、快感の予感に小さく喘ぐ美宇。既に羞恥心は、欲情した身体に駆逐されている。相手が同性という事すら、興奮を増すスパイスにしかならなかった。
 ちゅっ。
 美宇の秘所、入り口のあたりで、明海がわざと音を立てるようにキスをした。それまで焦らされていた美宇の身体が、まるで跳ね上がるように過剰に反応する。

「きゃぅっ!!あ、ああっ!」

 たった一度のキス。それだけで美宇は下半身をガクガクと震わせ、軽い絶頂に達していた。とろりと白濁した粘液が秘所から垂れて、美宇のお尻の下を濡らした。ますます濃くなる匂いに、美宇の足元に跪いた明海が、陶然と表情を緩ませる。

「みう・・・もっとシテ欲しい?ねぇ・・・」
「くぅ・・・あ・・・?」

 余韻に頭が真っ白になったまま、美宇は明海の言葉も理解しないままに頷いた。ただの身体の反応にも似た動作に、けれど明海は蕩けるように淫蕩な笑みを浮かべた。

「じゃあね、すごいの・・・シテあげる」

 明海は呟くように言うと、再び美宇の下腹部に顔を寄せた。今度は半分開いた口から、赤くぬめぬめと光る舌を覗かせている。小さくぴくぴくとひくつく小陰唇を指先で広げ、その奥で更なる快楽を求めている膣に、伸ばした舌を差し込む。美宇の身体がビクリと奮えるのを太腿を抱え込んで押さえ、わざと焦らすようにゆっくりと舌を奥へと進める。

「あ、あ、あ、あ、ああっ!!」

 明海の舌が、ぞろりと天井部分を舐め上げる。こりこりとした感触を持つ所を中心に、舌全体で押し上げたり、顔を前後に動かす事で擦り上げたりした。

「ひっ、あ゛・・・お゛お゛・・・ぐぅ・・・」

 美宇の開きっぱなしの口から、喘ぎとも唸りとも取れない声が漏れた。仰け反って晒された喉が震え、まるで何かを舐め上げるように舌が顔を覗かせる。白目がちに開かれた目の端から、涙が静かに流れた。
 普通であるならば得られない程の快楽・・・これは、糜爛が操った左手と同じ能力を、明海が持っているという事なのだろう。

「あ゛あっ!のびる・・・のびるぅっ!」

 美宇の悲鳴に、焦ったような色が混ざる。自分の膣内で、明海の舌がにゅるりと伸びたのが感じられたからだ。今は先端が処女膜のあたりまで伸びている。凄まじい快楽とともに、いま自分の中で何がどうなっているのか、恐怖にも似た思いが美宇の身体を固くさせた。

「怖がらないで。美宇、これから他のものなんて目に入らなくなるくらい、気持ち良くしてあげるね」

 明海の声は、美宇の中に舌を差し込んでいるとは思えないくらい、明瞭な響きを伴っていた。

「ひっ、あああ゛っ!」

 明海の舌が伸びて、美宇の膣内を押し広げるようにして奥まで伸びた。子宮口の入り口まで一気に押し広げ、周囲の敏感な所もすべてをぞろりと舐める。途中でびちっという感覚があったが、特に気にはしない。明海は超常の力で、美宇に苦痛を与えていないという自信があったからだ。どちらかと言うと、”美宇の初めて“が自分のものになったという感動の方が大きかった。

「あ゛ー・・・は、あぁ・・・」

 明海は一番奥まで舌を差し込むと、美宇の様子が落ち着くのを待った。上目遣いに、美宇の顔が快楽に蕩けているのを、悦びとともに受け止める。

「・・・て・・・」
「はい?」

 美宇がぽつりと何かを呟いたのは、それから暫くしてからの事。明海は舌を秘所に差し込んだまま、美宇を見上げた。

「きもち、いい・・・すごくいい、のにぃ・・・せつないよぉ・・・んっ・・・ね、うごいて・・・もっとめちゃくちゃにしてっ!あぅ・・・がまん、できないっ!」

 美宇は懇願するうちに昂ぶったのか、最後は涙さえ流していた。耐え切れないというのがかなり切実なのか、くいくいと自分から腰を妖しく蠢かすようにしていた。明海は美宇の腰の動きに合わせて顔を動かしながら、美宇の乱れ方に嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、やるね」
「ひぅっ!!あ、あ、あ、あ、ああっ!!」

 明海が舌を前後に抽送するのと同時に、美宇が身体をぴんっと仰け反らせて絶頂に達した。舌先に美宇の蜜がしぶくのを感じながら、明海は舌をぞろりと引き抜いた。美宇に見られないように、まるで別の生物のように長大になった舌を縮め、自分の口腔内に納める。
 深い絶頂に身体中に力が入らなくなった美宇は、腰から上をベッドに横たえて、荒い息をついていた。興奮の度合いを示すように、全身がうっすらと赤みを帯びて、胸の谷間や首筋などに汗をかいていた。
 まるで魂が飛んでいってしまったような忘我の表情に、美宇に覆い被さるように顔を近付けた明海がうっとりと見惚れた。興奮が冷め遣らぬ様子で美宇の唇に自らの唇を近付けると、美宇の唇が自然と少し開いて、明海のキスを受け入れた。

「あ・・・んぅ・・・んちゅ・・・はぁ・・・」
「ん、ぁぷ・・・ちゅ・・・んふ・・・ん・・・」

 まるで接触面から身体が蕩けていくような、いやらしいキスだった。美宇は自分から明海の身体を抱き寄せ、何度も明海の舌に自らの舌を絡ませた。熱い唾液とぬめる舌の感触が、それだけでぞくぞくと身体を熱くした。
 明海の舌を秘所に受け入れた時の快楽が激しい高波なら、このキスはゆっくりと砂浜を侵食する穏やかな波のようだった。気持ち良くて、しかも終わる事無く続いていく。

「んぅ、ん・・・はぁあ・・・」
「あん・・・あ、ああぁん・・・」

 美宇の息が苦しくなってきたのを見計らって、明海が唇を離した。名残惜しげに美宇の顔が追ってくるのを、凄く嬉しそうに、少し残念そうに、押しとどめる。二人の唇を繋いでいた銀色に輝く唾液の糸が切れて、美宇の顎に垂れた。それすらも快感なのか、美宇は甘い声を上げて小さく身悶える。

『くく・・・されるだけでは詰まらなかろうよ。汝も従者を可愛がってやるが良かろう。必要な道具も、用意してやろう・・・くく・・・ふははは・・・』

 糜爛の声が頭に響くと、美宇の身体を異常が襲った。秘所が・・・特にクリトリスが、酷く熱を持ったのだ。思わず腰を突き上げるようにした美宇が、”それ”を目の当たりにして目を見開いた。

「みう・・・すごくおっきぃ・・・すてき・・・」
「な・・・なに、これ・・・」

 それが当たり前という風に、明海が上げたうっとりとした声と、自ら目にしたモノが信じられないでいる美宇の驚愕の声が、同時にそれぞれの唇から発せられた。
 ”それ”は、男性のモノにも似た肉塊だ。しかし、その位置から想像出来る事は──。

「く・・・クリトリス・・・なの?」

 そう、包皮を押し広げるようにして屹立したそれは、まさに巨大化したクリトリスだった。ごつごつとした外観と、赤い肉の色が異様な程の圧迫感を美宇に与えた。

「ね、これもお口で・・・シテ、あげる・・・」
「ちょっ、あけ・・・あああっ!!」

 明海がそのグロテスクなモノに唇を寄せて、ねろりと舌で舐め上げた瞬間、美宇は制止の声の途中で悲鳴を上げた。
 先程の明海の舌に貫かれたのも凄かったが、今の一舐めも、まるで快感の神経を直接ざりざりと舐められるような、頭が真っ白になりそうな快感だった。しかも、さっき以上に奉仕させているという感じがして、顔を赤らめていやらしい顔つきで舌を動かす明海に、酷く視覚的に興奮してしまう。美宇は一生懸命舌を使う明海を、興奮で息を荒げながら、食い入るように見詰めた。

「くああ・・・はぁ、はぁ・・・あ、あけみ・・・咥えて・・・」
「うん、みう・・・するね?」

 明海は濡れたような瞳で美宇を見上げると、口を大きく開いて、クリトリスの先端の位置に合わせた。舌を突き出して裏側を擦るようにしながら、美宇の長大な”それ“を口に収めていく。

「ん、んぐっ、んむぅ・・・ん・・・」

 明海が苦しそうな、それでいて嬉しそうな、矛盾する表情を浮かべた。既に喉にまで挿しかかっているはずなのに、もっと奥まで迎え入れようと、顔の位置を変え、角度を変え、見ている美宇の胸が熱くなるぐらいがんばった。

「あっ、あっ、あけっ、あけみっ!やぁ!すご・・・すごいのぉ、それぇっ!ああっ!」

 美宇の身体を、断続的に快楽が走り抜ける。まるで全身の神経が『それ』に集中してしまったように、明海の唇、明海の舌、明海の喉、明海の歯、明海の吐息、美宇が触れる全ての部分が、快感の奔流となって美宇の頭を焼き尽くした。

 ・
 ・
 ・

 美宇は、自分がどこか変わってしまったかのような、そんな感覚を得た。

 ──悪くない、かも

 そう、思う。
 悩んでいた事も、苦しかった事も、悲しかった事も、なんだかどうでも良くなっていた。不思議と心が軽い。もしかしたら、これも現実逃避なのかも知れないが・・・もう、一生分くらいは苦しんだんだから、いいんじゃないかと、思う。

「はぁ・・・はぁ・・・」

 ベッドに横たわって天井を見上げていたら、足元の方から荒い息が聞こえた。

 ───あぁ、あたしがイっちゃって、少し意識を無くしてたんだっけ・・・

 美宇は足元の明海の事を思い出して、上体を起こした。そこにはまだ力強く屹立したままのクリトリスと、美宇が意識を取り戻すのが待ちきれなかったらしい、オナニーをする明海の姿があった。

 ──明海ってば、なんていやらしい格好・・・

 目を閉じて、脚を開いた形で正座して、両手を大事な所に這わせている。小柄なくせに手に余るぐらいの胸は曝け出して、ふるふると震えるのに任せている。
 少し前屈みになって指を躍らせている様子は、不思議と美宇に嫌悪感を感じさせはしなかった。どちらかと言うと、愛おしい・・・いや、いじめたいという気持ちにさせられる姿だ。

「明海、立ちなさい」
「あ、みうぅ・・・」

 嬉しそうに美宇の名を呼ぶと、明海はふらふらと立ち上がった。明海が座っていた場所には、まるで小水のように大量の愛液が、水溜りのように残っていた。

「どんなにぐちゃぐちゃになってるか、見てあげる。パンツ、脱ぎなさいよ」
「はい・・・」

 意地悪い気分で美宇が命じると、明海は茫とした顔で、いそいそとスカートに両手を入れた。濡れた布がひっぱられる音がして、明海の白いショーツが下ろされていく。ショーツを摘む明海の手は、羞恥か・・・それとも期待にか、微かに震えていた。
 ショーツを片足ずつ上げて脱ぐと、明海は右手の人差し指にショーツをぶら下げたまま、姿勢を正した。それは、まるでご主人さまの命令を待ち望む奴隷のようにも見えた。

「スカートを上げて、脚を開きなさい。恥ずかしい所をあたしに見せるの」
「はぁい」

 明海は濡れたショーツを下に落すと、両手でスカートの端を摘んだ。脚を肩幅よりも広げると、どきどきと興奮に胸を高鳴らせながら、スカートを胸に抱え込む。自らの蜜で濡れた秘所や腿が、美宇の目に晒された。

「あ・・・」

 美宇は充血してひくひくとしている秘部を、息を呑んで見詰めた。自分にも同じものがあるはずなのに、目が惹きつけられて離せない。

 ──ここが、男の人のを入れる所・・・。あたしのアレ、入れたらどうなっちゃうんだろう・・・

 美宇が憑かれたように見詰めていると、明海が泣きそうな声を上げた。

「ね、美宇・・・わたしをあなたのものに・・・して・・・」

 明海はスカートを持つ手を左手に変えて、右手の人差し指と中指で秘所を開くようにした。くちっという湿った音を立てて、ますます秘所が美宇の前に晒される。むわっと欲情した女性の匂いが、そこから漂ってくるようだった。

「うん・・・あたしのものに、してあげる。・・・おいでよ・・・」
「はい」

 返事をする明海は、今まで見た事も無いほどの喜びを、その可愛らしい顔に浮かべていた。

< 続く >

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