其は打ち砕き、破壊せしモノ Vol.1

- 序 -

 意識が覚醒した。
 ぼやける視線で周りを見渡すと、ここは洞窟の中のようだった。4メートルほど先に洞窟の出口があり、そこから先は木々が鬱蒼と茂っているのが見えた。

「あ・・・オレは・・・」

 なんでこんな所にいるんだろうか。胡乱な頭で考えながら、上体を起こすと、左手に湿ったなにかの感触を感じた。視線を移すと、そこには古い木の破片がある。

「なんだ・・・これ?」

 視線の先には、木で出来た何かの残骸があった。木々の隙間から、陶器の破片やら紙切れやらが覗いている。まるで、何かを祀っていたようだった。見ていると不愉快な気分になってきて、視線を逸らした。

「なんだってんだよっ」

 どこか自分の身体じゃないみたいな違和感を振り切って、オレは立ち上がった。壁に手を突きながら、よろよろと洞窟の外に出る。
 洞窟の外はまだ日も高いというのに、光も遮られて陰鬱な雰囲気すら漂っている。木々の迷路はどこまでも続いて、果てがあるのかすら判らない。オレは一歩も踏み出せないまま、とある事実に気が付いて愕然とした。

「嘘だろ、おい・・・オレは・・・オレは誰だ・・・誰なんだよっ!!」

 何も思い出せない。名前も、年も、家族構成も、交友関係も、住所も何もかもッ!
 ズキンっ!
 頭の中に、掻き回されるような激痛が走った。視界が歪み、平衡感覚が狂い出す。傍の木に手を突いて倒れ込むことを防いだが・・・。
 ズキンっ!!

「がぁあっ!!」

 さっき以上の激痛に、身体の支えにしていた木の幹を握り潰した。

───コロセ・コワセ・オカセ・クラエ・ノロエ・ツブセ・イカレ───

 アタマの中をぐずぐずに掻き混ぜるコエを振り払うように、チカラいっぱい左手を振るった。左手のエンチョウジョウにある自然石が、伸びた指に凪ぎ払われて砂でデキタ城みたいにあっさりと形を変えた。

「うるセえっ!!」

 弾け飛んだ石の破片が、少しだけココロを落ち着かせた。
 荒い息を吐きながら、伸ばしていた指を縮めた。何かがオカシいと思いながら、それでも足を踏み出した。何も思い出せず、何も無いのなら、これから手に入れればいい、そう・・・思えた。

- 1 -

 何も思い出せないまま、木々を抜けて歩く。自分の事は何も思い出せないのに、植生からここは関東近辺の山の中らしいとか、太陽の位置と気温から季節は春みたいだとか、泡沫が水底から浮上してくるように、つぷりつぷりと知識が頭に浮かんで来る。

 ズクっ・・・ズクっ・・・。

 先程よりは治まったとはいえ、執拗に頭痛が続く。それに、何か餓えにも似たモノが、ココロの奥で大きくなってきている。喉が乾いているワケでは無い。腹が空いているワケでも無い。ただナニカを欲しがっている。
 ふと、遠くにヒトの気配を感じた。距離にして数Kmぐらいか。誰だ・・・そう思っただけで、近くから詳細に調べるよりももっと確かに、そのニンゲンの情報が脳裏に溢れ返った。

───男とオンナの二人。年は男が22歳、女が20歳。男は無骨な顔つきで身長は183Cm、体重は65Kg、動きやすい服装に登山靴、背中には大きなリュックを背負っている。女はやや幼い感じのする可愛い顏で、身長は160Cm、体重は43Kg、普段着に運動靴、背中にやはりリュックを背負っている。どちらも疾患は無く、健康状態は良好───
「だまレっ!!」

 何か・・・酷く違和感が付き纏った。ニンゲンにはこんな事が出来るハズも無い・・・そう知識は告げるのに、それらの能力がオレにあるのが当たり前・・・そう囁くモノがある。
 オレは右手を振るった。5メートル先の大木に、伸びた五指が当たり・・・なんの抵抗も無く輪切りにした。オレは右手の指を縮めた。

「コレもだ。こんなのニンゲンの身体じゃない。・・・オレは、ニンゲンじゃ無いのか?」

 意のままに変形する身体。強大なチカラ。遠くの見えないモノを見る目。

「バケモノじゃねぇか」

 オレの中にあるニンゲンの知識がつぷり、と弾ける。そんなニンゲンはいないのだと。そんな生物はいないのだと。
 オレは、その二人の方に向かって歩き出した。オンナの顏は記憶している。ココロの中の餓えは、何らかの方向性を示していた。

- 2 -

「ねぇタケトさん、その場所まであとどれくらいなの?」
「このペースなら、1時間も掛からないよ。そこで休憩しようや。疲れなんてふっとぶぐらいの景色なんだぜ、本当に」

 その山のハイキングコースを、2人の男女が歩いていた。道はかなりの登山者が通るのか、緩やかに整備されていた。平日という事もあって、他にはまったく人影は無い。

「うん、楽しみだね」

 タケトとアヤの二人は、某デパートの同僚だ。付き合い始めて、まだ1ヶ月もたっていない。今日は二人の休みのローテーションが重なった為、前から予定していたタケトの趣味の登山に付き合う事になった。

「あともう少しだからさ、大丈夫だよ、アヤなら」
「はぁい」

 アヤはにっこりと笑って答えた。比較的楽な登山道とはいえ、歩き慣れていないアヤには大変なはずなのに、それを顔に出さずに微笑む・・・タケトはアヤに惚れ直す思いだった。タケトはその無骨な顏に、ごつい笑みを浮かべた。
 しかし、二人には凄惨な運命が待ち構えていた。

 オレは、頭の中が熱く混濁して、マトモに考えられない状態でその二人を見詰めた。餓えはカラダを突き破るほどに成長して、一瞬でもじっとしていられない。舌で唇を湿らせると、オレは二人に近付いた。

「こんにちは」
「こんにちはー」

 男が山男らしく自然に挨拶をしてきた。女もそれに合わせるように、笑顔で会釈する。だが、オレはそれを無視して、二人に・・・オンナに近付いた。

「おい!なんだよアンタっ!がっ!!」

 不穏な気配を察したのか、オンナとオレの間に割り込もうとする男に、オレはそちらには目もくれずに、ヒダリテで男の顏を握り締めた。少しチカラをいれると、ビキッという音をたてて骨格レベルで男の顏が変形するのがわかった。

「いやっ!いやぁぁああっ!!」

 オンナは男の最期を見て、狂ったように悲鳴をあげた。

───イイゾ、モットヒメイヲダサセテヤル───
───この悲鳴、耳障りだな───

 オレの中で、相反する意識が同時に呟いた。だが、オレが思ったのはドチラか・・・それも判らなくなっている。いや、今はそれよりも・・・。

「楽しませてやるよ。安心しな」
「い・・・いやっ!助けて、誰かぁっ!」

 腰が抜けたのか、ぺたんと地面に座り込んで後ずさりするオンナに、オレは指を伸ばして両手両足を拘束した。骨も関節も皮膚も重力も無視して、一本一本の指がオレの思うままに伸び、オンナを大の字に固定し、持ち上げた。

「やっ!いやぁっ!」

 オンナはもがくが、自由に動くのは頭と腰ぐらいのものだ。そんなにもがきたいのなら、もっと動きやすくしてやる。
 オレはもう片方の指を伸ばし、オンナの衣服をすべて引裂いた。明るい日差しの下、恐怖でぶつぶつと鳥肌が立ったカラダを曝け出された。それで犯される事に気が付いたのだろう、オンナの顏が一層青ざめた。
 オレは、オンナの肌に指から分泌した催淫液を塗り付けた。指の皮膚も、ぬめぬめした感触に変える。オレにはカラダの使い方が、オンナの狂わせ方が、まるで呼吸をすることのように自然に理解できた。

「ひっ!なにこれぇっ!」

 オンナが逃れようとますます暴れるが、もう遅い。オレはこの催淫液の効果も理解出来ている。あと数秒で、オンナの頭から恐怖も憎悪も消えてしまうだろう。
 オレは、空いている指でオンナの胸の根元を締め上げた。押し出される様に形を変えたそこに、催淫液を塗り付けながら愛撫する。

「やめっ、あ、ああっ、ああ、あ、ああーっ!」

 オンナの反応が一気に変化した。全身が快楽と欲情に蕩ける様子が、手に取るように判る。面白くて、今までの頭痛などすっかり忘れてしまった。

「ああ、あんっ、あぁぅ、きちゃう、きちゃうのぉっ!」

 催淫液のせいで、胸自体がクリトリスのように激しい快感を感じているのだろう。オンナはもう、目の前の絶頂しか見えていなかった。
 オレは両方の乳首の前まで指を移動させた。少し意識を集中させると、指先がぱっくりと割れて口が出来た。針のように細い舌や、ごま粒よりも小さい歯も備えている。どれも、オンナに人外の快楽を与える為だけに出来た器官だった。

「ひあぁ・・・ちょ・・・ちょうだい・・・それっ、ちくびにちょうだいっ!おねがいぃ!」

 オンナは目の前で指が変形する事よりも、それが与えてくれる快感の方が大事なようだった。恥も外聞も無く、おねだりしている。オレは唇の端を歪めると、小さな口をオンナの乳首に噛みつかせた。その口の中では、舌が乳首を縛り、先端に舌先を突き刺すように愛撫している。

「いい、いいっ、すごいのぉ!いく、いくっ、ああぁあああッ!!」

 愛液を激しく秘所から噴き出させて、オンナは激しく絶頂に達した。しかし、休ませてやる気はオレには無かった。オレの飢餓感が無くなるまで、責めてやる。
 胸に捲きついた指はそのままに、ぐちょぐちょに蕩けて口を開いた秘所に別の指を這わせた。

「きゃぅっ!そこぉ!ねぇ、そこもぉ・・・ぜんぶ・・・ぜんぶしてぇ・・・おねがい・・・あぁんっ、たまらないのぉ!」

 幼児のように回っていない舌で、オンナが哀願した。ココも催淫液が塗布されている為、風が吹いただけでも堪らないのだろう。オレは指をゆっくりと焦らすように、オンナのナカに埋めて行った。

「あぅん、あ、ああっ!いいっ、いぃよぉ・・・」

 悦びに涎さえ垂れ流しにして悶えるオンナとは裏腹に、オレはオンナの膣内に違和感を感じた。膜。膜だ。このオンナは処女だ。オレは、そこに倒れている男を、嘲笑いながら見た。

───コイツは、このオンナをオカす事無く死んだのか。くくっ、さぞかし悔しいだろうなぁ?───

 そこで、面白い趣向を思い付いた。余っている指を一本動かし、男の後頭部に突き刺すと、指を何本にも裂いて全ての神経を掌握した。擬似的なパルスを作り、神経に流し込む。
 ゆらり。
 オトコの死体は、生きていた時よりも優雅な動きで立ち上がった。その場でリュックを下ろし、ズボンとパンツを脱ぐ。そこには、凶悪な程隆起した男根が、ビクビクと震えていた。もちろん、そうなるようにしたからだ。生きていた時には、これほど大きくなったことはないだろう。

「え・・・あはぁ・・・たけとさんだぁ・・・わたしにぃ、いれてくれるのぉ?」

 オレはオンナの膣から指を抜くと、オンナをM字開脚の形に固定した。オトコを動かして、亀頭をオンナの入り口に触れさせる。

「あぁ、うれしいよぉ、きてぇ、ねぇ、はやくきてぇ・・・ほしくて、きがへんになっちゃうぅ」

 オレは、その要望に応えてやった。ぐちゅっという音に紛れて、ぶち、というオトが、聞こえた気がした。

「あぐぁあ、あ、あああぁあああああーッ!」

 山中に、オンナの快楽の悲鳴が谺した。

- 3 -

 ここは、何かの道場のようだった。
 薄暗く、どこか重苦しい雰囲気が満ちている。奥には神棚があり、別の棚には木刀や薙刀が整然と設置されている。どれほど汗や血をすったのか、床板は色が黒っぽく変わっていた。

「おばあさま、封印が解かれたようですわ」

 道場の中央で、女性が二人向き合って座っている。老齢の女性と、年の頃18ぐらいの娘だ。どちらも巫女装束をを身に纏っている。

「あぁ、そうじゃな・・・」

 まるで骨と皮で構成されたような老婆は、それでも目に尽きぬ力を湛えている。常人なら、その圧力に1分と目を合わせる事も出来まい。

「”封印の巫女”として、闘いに臨みたいと存じます」

 娘は、美しい姿勢で正座をしたまま、優雅に一礼した。腰まである艶やかな髪が、さらりと流れる。娘の表情に気負いは無く、美しい顏にはどこか晴れやかなものすら浮かべていた。

「しかし、かの闘いより一千年・・・伝承では100名の巫女と僧侶が力を合わせて臨んだのが、今ではさくら・・・おまえのみじゃ」
「はい」

 悲痛な表情の老婆に対し、娘・・・さくらは笑みさえ浮かべて頷いた。

「それでも、邪神は封じねばなりません」
「さくらや・・・おまえには人並みな幸せを与えてやれんかった・・・。赦してくれぃ・・・」
「おばあさま、わたくし・・・喜んでおりますのよ?」

 さくらは老婆を慰める為ではなく、心の底からそう言った。手を伸ばして老婆の手を取ると、きゅっと握り締めた。

「わたくしの代で栄誉ある闘いの機会を得たのですから、まさに本懐です」
「おぉ・・・さくら・・・」
「だいじょうぶです、おばあさま。邪神など、討ち滅ぼしてご覧にいれますわ」

 さくらには、口で言うほど簡単な事では無いと理解している。それでも祖母の前で泣き言を言う事は出来ないから、敢えてそう言ったのだ。さくらはそんな優しい娘だった。

「その代り、神宝『屠月』を使わせていただきますね」

 『屠月』・・・それは、千年前の邪神を封じる際に用いられた神宝である。『その威、空を裂き、大地を割る。即ち神の力なり』・・・そう伝えられた神槍だ。

「おぉ、おまえなら神宝も扱えよう。必ず・・・勝って戻ってくるのじゃぞ!」
「はい!おばあさま!」

 そうしてさくらは立ち上がった。邪神と戦う為。世界を守る為に。
 それは、邪神が登山客を斬殺する少し前の事だった。

- 4 -

 祓串が風も無いのになびいていた。かさかさと紙が擦れ合う乾いた音を立てて、ある一点に向けて、何かを指し示すように。
 さくらが持った祓串のなびいた先、10mほど離れた場所では、地獄絵図のような光景があった。
 打ち捨てられた人形の様に、道の端で手足を投げ出して死んでいる男。
 首を切り落とされ、それでも快楽に蕩けた表情を浮かべている女。
 地面にはぬかるむほどの血が撒き散らされ、むっとするほどの匂いがたゆたっていた。
 さくらは右手に持った『屠月』で、とん、と地面を突いた。

「酷い事をするものですね」

 さくらは激昂する気持ちを抑えて、静かな口調で邪神に話し掛けた。邪神は驚くほど透明な気配のまま、悠然と血の海に立っている。表情だけで、これがか?とさくらに問い返していた。

「いいえ、このお二人だけでなく、宿体に選ばれた少年もです」
「そうかもな」

 今は少しずつ、自分の事を思い出してきていたから、その言葉には素直に頷いた。
 相変わらず、それはどちらの思いかは判らなかったが。

「オレと、殺し合いに来たんだろ?だったら、始めようぜ」
「そうですね。それこそが貴方に運命を歪められた方達への、唯一のはなむけとなるでしょう」

 さくらは『屠月』を片手で構え、邪神に向けた。
 『屠月』は槍の形状をしていないがら、槍とは決定的に違うフォルムを備えていた。それは、石突きが無く、代わりに円錐形のトゲのようなものが付いている事。そして、緩やかに歪曲した形である事。その二点が挙げられるだろうか。しかし、その外見とは裏腹に、手に取るのも躊躇われるような神性を備えていた。
 さくらは祓串を道端に捨てると両手でゆらりと『屠月』を上段に構え直し、『力』を込めて振り下ろした。

「はぁッ!」
 ヴォン!

 どこか電子音めいた音が響き、さくらの目の前・・・『屠月』を振り下ろした先の地面に、亀裂が発生した。亀裂はとどまる事無く、邪神に向かって突き進んでいく。それはまるで、見えない刃が地面を切り裂いて行くようにも見えた。

「思い出したぞ。『屠月』だな、それは!」

 忌々しそうに口にすると、邪神は軽く右足のつま先を上げた。避ける間も無く迫る衝撃波に、邪神がとん、とつま先を地面に降ろす。

「なっ!」

 衝撃波は邪神に傷を与える事も無く、突然下から隆起した岩石と相殺する。あっさり攻撃を無力化された事に、さくらは驚きの声をあげた。しかし、すぐさま我に返ると、胸元に手を入れながら、邪神へと走った。

「ッ!なら、直接っ!」

 さくらが胸元から手を出すと、そこには符が数枚握られていた。筆で書いたと思われる文字が、どこか規則性をもって書かれていた。

「それは『破砕符』だな!それも効かんよ・・・オレにはなっ!」
「うっ!!」

 符の名前を言い当てられた事に動揺したが、それでもさくらには他に取るべき手段も無い。『気』を符に込めると、全てを邪神に向けて放った。

「砕けっ!!」

 ただの紙であるはずのそれは、まるで意思あるもののように飛んだ。1枚は邪神の足元へと先行し、それ以外はタイミングをずらして邪神本体へと。さくらは符を追うように続いた。
 それは、さくらの考え得る最大の攻撃だった。邪神の足元を符の一枚で壊し、体勢の崩れた邪神に符が集中する。そして、とどめはさくらが放つ『屠月』の一撃。

「無理だな」

 声と同時に邪神の左手の指が伸びた。掬い上げるように符を下から撃ち抜くと、瞬間的に焼き尽くした。あとには邪神の指先だけがゆらゆらと残る。

「!」

 しかし、すでに加速の頂点に達しているさくらは、止まることが出来ない。最悪の状況で、さくらは正面から邪神に突きを放った。狙いは胴体の中心部。先ほどは防がれた『斬波』も、身体の中から放たれれば防げる訳が無い、そう判断しての事だ。
 まるで一瞬がどこまでも引き伸ばされるような感覚の中、さくらは『屠月』が邪神の身体に向かって迸るのを見ていた。邪神はまるで防御の構えを取っておらず、死が迫るのを笑って見ていた。

───笑って・・・?───

 がくん。
 そんな衝撃を後ろから感じて、さくらは強制的に動きを止められた。『屠月』も邪神に届く数Cm手前で震えている。

「なっ、なんでっ!」

 あまりの衝撃に、さくらは思わず後ろを振り返った。目についたものは、白い縄・・・いや、邪神の指だった。さくらの背後から地面を突き破り、さくらの身体を拘束している。愕然と邪神に向き直ると、邪神は邪悪な笑みを浮かべていた。その右手の指は、地面へと潜り込んでいる。これがさくらを背後から拘束していのだ。

「無理だと言った」

 邪神は左手をそっと『屠月』の刃に添えると、あっさりとへし折った。『屠月』の壊れる音が、まるで自分の壊れる音のように、さくらには感じられた。絶望に蝕まれ、邪心に拘束されていなかったら地面に倒れ込んでいたかも知れない。

「さぁ」

 邪神が手を伸ばし、さくらのあごをしたからくい、と押し上げた。ねっとりとした視線を合わせ、邪神は高らかに宣言した。

「楽しませてやる」

- 5 -

 誰一人として通らない登山道に、布を破く音が響いた。さくらの胸を押さえ付けていたさらしを、オレの指が引き千切った音だ。途端に自由になった胸が意外な程のボリュームで震えた。
 しかし、巫女は反応を返さずに、どんよりととした目を見開いている。それは絶望のあまり、全てを放棄した目だ。例え明確な死が目の前に迫っても、ぴくりとも反応はしないだろう。

「ふん、つまらないな」

 オレは右手の指を一本、細く細く、先端を伸ばした。それを巫女の耳から侵入させ、脳にまで進める。脳を傷つけないように、指は既に単分子構造に変換してある。ゆっくりと中をなぞりながら、目的の部位に達した。
 まずは視床下部だ。ここは人間の欲を司る部位なのだが、性欲に関して果てしなく貪欲になるように、条件付きで調整する。次に大脳辺縁系に指を伸ばし、喜びの感じ方を弄くった。こちらも、条件を満たす事で発動するようにする。
 ついで快感神経系にも手を加え、A-10神経系から分泌されるドーパミン無しに快感を感じ続けるように調整した。

「おい、聞けよ」

 頭から指を抜くと、巫女に話し掛けた。あごのあたりに触れながら目線を合わせるようにすると、どんよりした目に微かな怯えがあった。ただあごを触れられているだけなのに、ひどく性的な感覚を覚えて・・・乱れてしまいそうな自分が怖いのだろう。巫女は、自分の脳内を弄繰り回されたなどとは、気付いてもいない。

「今からオマエを犯す。一時間のうちに、オマエが10回絶頂に達しなかったら、おとなしく封印されてやろう」
「・・・え・・・?」

 巫女の目に、少しだけ力が戻ってきた。それでいい。ただ肉体だけを犯したところで、なにも楽しくは無いのだから。

「良い条件だろう?それに、オマエが条件を飲まなければ、ただ勝手に犯すだけだ。・・・どうする?」
「わたくし・・・やります!」
「それなら、これで時を計るが良い。この身体の持ち物だ」

 オレは時計を外し、巫女に渡した。巫女はそれを大事そうに受け取った。

「それでは・・・始めるぞ!」

 声と同時に、全ての指を動かした。しかし、今回は催淫液は分泌しない。必要無いのだ。

「え?あ!あああっ、いやっ!だめぇッ!」

 巫女が大声をあげて、顔を左右に振った。清楚な顔立ちがあっという間に紅潮し、淫靡な雰囲気をまとった。快感神経系が暴走している今、指の一擦りですら恐ろしいほどの快感に転化する。

「あくぅっ!あ、何を・・・なにをわたくしにしたのですかっ!?うぅあっ!」
「脳を弄って、快感を感じやすいカラダにしてやった。嬉しいだろう?」

 巫女の顔に驚きの表情を浮かべるのをみて、オレは楽しい気分でタネ明かしした。

「それと、10回絶頂に達すると、オレの為ならなんでもする奴隷になるようにした。あとは、5回絶頂に達すると性欲が止まらなくなるようにもしたな。ははっ、楽しいだろう?」
「・・・」

 恐怖に顔を引き攣らせて、巫女は絶句した。
 言うなれば、これは時限爆弾だ。快楽に負ければ発動し、二度と元の自分には戻れない。それを理解した巫女は、快楽に敏感なカラダで立ち向かわねばならない事実に恐怖したのだろう。

「オマエが一時間耐えればいいだけだ。がんばれよ」

 オレはそう言うと、指の動きを再開した。全ての指を動かすと、あっさりと絶頂に達してしまいそうなので、まずは胸だけを苛める事にした。

「こうすると、いっそう大きくなるな。くく、いやらしい胸だ」
「ひあっ!あ、ああっ」

 8の字を描くように、二つの胸の付け根を締め付けた。肉がぱんぱんに張り出して、乳輪と乳首がいっそう大きく強調される。そのままとぐろを巻くように、指を胸の先端に向けて、何重にも巻きつけた。指と指の間から、胸の肉が溢れるようだった。

「くぅぅッ、き・・・きつぃ・・・」

 巫女はそう呻き声を上げたが、その表情には苦痛よりも悦楽の色が強い。全身から噴き出した汗が、辺りに淫らな匂いを撒き散らした。
 しゃー。そんなネコの威嚇のような声を、指の先端に浮き出た口が漏らした。これから噛み付く事を予告するように、乳首のすぐ前でその口を大きく開いている。

「あぁ・・・いやぁ・・・いま、びんかんになってるのにぃ・・・」

 泣きそうな表情でそれを見ているが、オレには巫女が期待している事も気が付いていた。潤んだ瞳は、その奥には欲望を宿していたから。

「だからいいんだろう?そこに転がってるオンナは、死ぬほど悦んでたぜ」
「あ、ああぁ・・・」

 開かれた口から、舌が伸びた。胸の再現で、乳首に絡み付き、きゅっと締める。それだけに止まらず針のような先端が・・・。

「くぅあああぁっ!あッ、はいるっ、はいってきちゃッ!!ちくびがっ、おかされちゃうぅ!!」

 そう、舌は乳首の乳腺を犯していた。巫女の悲鳴は、想像も付かなかった所を犯される恐怖と、堪え切れない快楽の色に彩られていた。
 まるで秘所を犯すように、ちゅぶっ、くちゅっと濡れた音が、乳首から漏れている。舌が突き入れられ、抜ける寸前まで引きずり出される。数回出し入れしただけで、巫女は胸を突き出すようにカラダを仰け反らせた。

「ひあっ、は、はぁッ!とけちゃうっ、ちくびがとけちゃうよぉ!いいのっ!あはぁッ!!」

 露出させた肩が、胸が、腹が、赤く色づいている。絶頂がすぐそこまで来ている証拠だ。巫女の喘ぎ声も、甘い蜜が溢れそうなほど蕩けている。
 オレはもう一本の指に口を作り、もう片方の乳首に噛み付かせた。小さい歯で快楽を引きずり出しながら、フェラチオのように前後させる。

「あぇ?きゃふっ!だめぇ、いく、いく、あひゃぁッ!ああああああぁぁっ!!」

 赤い袴に、黒い染みが広がっていった。絶頂に達した巫女が、耐え切れずに失禁したらしい。それはいままでの自分を、巫女自らが汚す行為に思えて、楽しく感じた。

「一回目だな。次はがんばれよ」
「・・・もう・・・やめて・・・だめになっちゃいますぅ・・・」

 巫女が荒い息の合間に哀願したが、それが嘘だという事は巫女自身が判っている事だろう。何しろ、赤く濡れた唇の端を舐めるしぐさや、濡れた瞳で上目遣いに見上げる様子・・・オトコを誘うオンナの媚態に他ならないからだ。
 怖いのは自らの使命を自ら放棄する、その事だけだろう。だが、それすらも喘ぐ度、悶える毎に薄れて行っている。

「次はちゃんと、普通の場所を虐めてやる。ちゃんと気持ち良くしてやるから、悦ぶが良い」
「ひっ!」

 オレは濡れた袴を引き裂いた。白い飾り気の無いパンティも、足を通す所を片側を切り裂いて、右ひざの辺りで垂れさせた。袴の赤と、パンティの白がそこで重なり合っている。
 胸を責めていた指はそのままに、別の指を一本、巫女の目の前に見せびらかすように突き付けた。少し意識して、その形を男根の形に変化させる。サービスで、ごつごつとした瘤と、自らうねうねと動く繊毛を付与する。

「な・・・なんこれぇ・・・むりだよぉ・・・しんじゃうよぉ・・・」
「大丈夫だ、死にはしない。それよりも気持ち良過ぎて気が狂わないよう、気を付けろよ」

 そう言うと、オレは濡れた秘所にそれを擦り付けた。軽く上下に擦ると、瘤と繊毛がクリトリスや小陰唇を刺激して、白濁した愛液を大量に分泌した。

「あはぁッ!それ・・・それだめっ!それだけで・・・きちゃうよぉ!」

 巫女の悲鳴は、既にオレを誘惑する為の言葉にしか聞こえなかった。拘束されて身動きの取れないままに、巫女は腰をくいっ、くいっとうねらせた。
 今まで立ったままの姿勢で拘束していたが、足を限界までV字に開かせ、腹部で折り曲げるように宙に吊った。これなら自分で自分の秘所を見る事が出来る。思った通り、巫女は憑かれたように秘所と変形した指の動きを見詰めている。無意識のうちに洩れる喘ぎが、一オクターブ高くなったようだ。

「入れるぞ」

 そう宣言して、指を秘所に突き入れた。途中で処女膜の抵抗にあったが、構う事なく奥まで進めた。多少の出血があったが、それ以上の愛液の分泌にすぐに膣外へ押し流された。

「くっ!ひあぅっ!い・・・いた・・・あぁ・・・」

 膣を押し開かれ、処女を散らした瞬間は歯を噛み締めていた巫女は、奥まで指が到達すると、どこか安心したような吐息を洩らした。しかし、次の瞬間には絶叫にも近い悲鳴をあげた。目を大きく見開き、涙が滴る。オレの指の繊毛が、膣の中を刺激し始めたからだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 仰け反らせて、息の続くままに声をあげる。足の指先がぎゅっ、と折り畳まれ、腕が何かを求めるように振り回される。激しすぎる快感に、意識せずに巫女のカラダが踊った。

「ぎっ!あ、がぁっ!あぐッ!はっ!!」

 指の前後運動も加えると、喘ぎ声はリズミカルに途切れる事無く続いた。もう、巫女の表情には苦痛の色は無く、純粋な悦びに輝いていた。

「きゃうっ!あんッ!は、はぁあっ!」
「どうだ、感想は?」

 オレが問うと、快楽で虚ろになっていた瞳に、少しだけ光が戻ってきた。喘ぎで呼吸困難になりつつも、それに答えようとがんばった。
 まだ脳に仕掛けた条件が発動してはいないはずだが、巫女は既に堕ちていたのかも知れない。

「すごく・・・きもちいいれすぅ。あんっ!あ、うごかすたびにぃ、ごつごつってぇ・・・おしひろげられて・・・ぜんぶぅ・・・まっしろになっちゃうのぉ・・・」

 少しペースを落としてやると、甘えるように答えた。オレに戦いを挑んできた時の巫女がこの姿を見れば、恥辱に自分をくびり殺したくなる事だろう。

「もっとして欲しいか?」
「あん、ほ・・・ほしいのぉ・・・くださ・・・あんッ・・・さっきよりぃ・・・すごいの、きちゃいそうなんです・・・あは・・・あぁん・・・」
「判った。そら、受け取れっ!」

 オレは、止めていた胸の責めを再開した。同時に、秘所の指の動きを、速く、強く、捻るように抉るように抽送した。巫女のカラダがビクンっ、と何度も跳ねる。

「きゃんっ!あくっ!すごい、すごいのきちゃぅッ!!いく、イクっ!!かはっ、あ、ああぁあっ、いぐぅうううううっっ!!!」

 ぴんっ、と白いカラダを反り返らせると、巫女は激しく絶頂に達した。太腿の内側や尻肉が、ぴくぴくと痙攣している。絶頂に合わせてきつく締め付けた膣が、オレの指を圧迫していた。

「これで二回目だ。まだ時間はたっぷりあるぞ」

 オレの声に、淫らに顔を蕩けさせた巫女は顔を上げた。

「はい・・・もっと・・・もっとしてください・・・おねがい・・・もう、どうなってもいいの・・・だから・・・ね?」

 さっき巫女に渡した時計は、巫女の下で愛液と小水にまみれていた。壊れてはいないだろうが、もう、巫女にとって時間など・・・どうでもいいのだろう。

「判った」
「あは・・・うれしい・・・」

 短く言うオレに、巫女は期待と悦びの笑顔を向けた。

- 6 -

 ぴちょ、ぺちゃ・・・。
 夕焼けの中、ネコがミルクを啜るような音が響いていた。

「あん・・・邪神さまぁ・・・美味しい・・・はむん・・・ぺちゃ・・・」

 巫女が巫女装束の残骸を身に纏わり付かせた半裸で、オレの股間にしゃがみ込んで奉仕している。あれから、もう数えるのも馬鹿らしい程、巫女は絶頂に達した。アナルにも、尿道にも、しまいには身体中が性器になったようにオレの指を受け入れ・・・そして脳内の条件を満たし、改造が発動した。

「ちゅ・・・ぴちゅ・・・ん、んぅ・・・」

 今の巫女は、快楽が鋭敏化したまま、全ての感覚を快感と受け止めている。この口腔奉仕も、実は巫女が感じる肉体的な悦びは大きい。

「あぁん、邪神さまぁ・・・」

 口から唾液にまみれた男根を出すと、巫女は感に堪えないと言うように頬擦りした。その表情は、純粋な悦びに満ちている。
 これも、脳の改造が発動した結果だ。10回の絶頂で、幸せや喜びなどの感情の条件付けが、全てオレの方を向いている。オレの言う事を聞くのも、オレに何かされるのも、オレに奉仕するのも、全てが巫女の幸せになっているのだ。

「もういい・・・それよりも、夕日よりも赤いものが見たくなった。死んでオレに見せろ」
「はぁい、邪神さま。たっぷりご覧になって下さいね」

 巫女は嬉しそうに答えると、『屠月』の刃の部分の破片を手に取った。そのまま頚動脈の上に当てると、一瞬の躊躇も無く引き切った。驚く程の大量の血飛沫を撒き散らし、残照の中、鮮血が美しく映えた。
 小さな音を立てて、巫女が倒れた。もうかなりの血が失われた為か、顔も身体も透き通るように白くなっていた。巫女の顔は、絶頂の果てにあるような、幸せそうな笑みが浮かんでいた。

「これで、やっと統合が終わったか・・・」

 今ここにいるオレは、邪神でも、人間でも無い。どちらの知識、能力も受け継いでいるが、その意識はまったくの別の存在だ。
 邪神は、1000年の封印の間に、やはり弱体化していたのだろう。自分の波長に合う人間を呼び寄せて封印を解かせたのは良いが、憑依しても意識を乗っ取る事が出来なかった。登山客を殺した事で、邪神の意識が多少強く顕現したようだが・・・それも遅かったようだ。
 巫女と戦った時には、意識は攪拌され、まったく別の存在・・・オレになっていた。巫女の生命力を吸収する事で、全ての記憶と能力も統合され、安定した。掻き混ぜたコーヒーとミルクと同じように、もうオレは邪神にも、人間にも戻る事は出来ない。

「これからは”魔王”とでも名乗るか」

 オレは自嘲気味に笑うと、立ち上がった。取り合えず人のいる場所に出ようと思ったのだ。それからどうするかは考えていないが。
 人でも無く。
 邪神でも無い。
 そのどちらの力も受け継いだオレは、空へと舞い上がった。
 そこに待つのは破壊か。

< つづく >

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