第三話
“ぺちゃ……、ぴちゃ……”
静かな部屋の中に、淫らさを感じさせる水音が響いている。
翠色の夢の中、洋館の2階にある図書室。
ここにはいくつもの本棚が並び、そこにはびっしりと古めかしい本がたくさん並べてある。
そのほとんどは洋書で僕には読むことができない。でも、その異国のにおいを感じさせる装丁や挿し絵を眺めるのは、それだけで楽しかった。
窓の外は今日もいい天気で、本が焼かれないよう薄いカーテンを通して和らげられた日差しが、部屋の中に差し込んでいる。
古い本独特の懐かしいような香りが、鼻腔をくすぐる。
「んんっっ…、くぅんん……」
そんな穏やかな空気の部屋の中、古い革張りの椅子に座った僕の足下には、黒いメイド服を身にまとった由香里センパイがひざまずいていた。
シンとした部屋の中、先ほどから響いている水音のようなものは、僕の股間に顔を埋めた彼女の唇から漏れ出る音であった。
「んあっ、くふぅ……」
頬をすぼめながら、一心に僕のモノを吸う。
舌は微妙に動きながら、僕の亀頭や裏筋を刺激する。
その動きは、ただ僕をイかせようとするだけのものではなく、あくまで僕に穏やかな快楽をゆっくりと味わらせるための、慈愛に満ちた動作であった。
彼女が頭を振るたびに、その綺麗な黒髪がサラサラと揺れた。
僕が手を伸ばし、白い髪飾りをつけたその頭をかるく撫でてやると、センパイは
「くぅぅ……ん」
と嬉しそうに声を漏らし、上目づかいに僕の顔を見上げた。
そのまま何度も手を動かし、彼女の髪の毛の感触を楽しむ。
先輩との夢は、もう何日も続いている。
始めのうちこそ強引な命令でセンパイを操っていた僕だが、だんだん余裕が出てきたせいだろうか。最近は、以前のような暴力的な衝動は浮かんでこなくなった。
それとともに、センパイの方にも何らかの変化が訪れたようだ。
僕により与えられる快楽なしではいられないようにしたのは確かに僕だが、それだけでない気がする。
僕に従い、この館での身の回りの世話をすることで、彼女は何らかの精神的な充足感を覚えているように見られた。
“ぺちゃ…、くちゅ……”
それとともに、僕への奉仕も上達した。
僕が教えてもいない、はじめて知るような方法で僕を刺激することすらある。
もしかしたら以前僕が言った『自分でも勉強しろ』という指示を、律儀に実行しているのかもしれない。
そう思うと、思わずくすりと笑みがこぼれてしまった。
「……?」
センパイが、不思議そうに僕を見上げる。
“ツポンッ……” と僕のモノから口を離し、濡れた口元をエプロンの裾でかるくふき取る。
手は僕のモノを軽くさすり続けながら、話しかけてきた。
「あの、稔(みのる)さま……?」
彼女には、僕のことをそう呼ぶようにしつけた。
始めは『ご主人様』なんてのも考えたが、どうにも恥ずかしくてやめておいた。
それに、僕は前々から、センパイに名前で呼んで欲しいって思ってたし。
「あの……、どうしましょうか?
このまま、最後までしましょうか?
それとも、あの…………」
顔を真っ赤にして、たどたどしく聞いてくる。
この恥じらいの表情こそが、つねに僕にさらなる欲望を生み出させ、また嗜虐心を昂揚させる。
思わず、意地悪な質問が口から出てしまう。
「センパイは、どうしたいの?
どっちの口に欲しい?」
センパイの顔が、さらにカーッと赤く染まる。
眉を寄せ、少し目をうつむかせ、困ったような顔をしたあと、おずおずと言った。
「その……、私のあそこ、もう、…がまんできないです………」
見ると、床にひざまずいたセンパイの腰は、小さくもじもじと震えていた。
「そっか、僕のをしゃぶりながら、濡らしてたんだね」
「そんな……」 完全にうつむいてしまう。
そんなセンパイの黒髪を再び優しく撫でてやり、顔を上げさせると、僕は言った。
「いいよ、センパイ。
──ホラッ」
「……え…?」
何を言われたのかわからなくて、混乱するセンパイ。
そんな彼女に僕は微笑みかけ、続けた。
「だから、いいよセンパイ。下に入れてあげる。
でも、疲れるのはいやだからね。
僕の上に乗っていいから、自分でやってよ」
「あ……、はい…………」
センパイは少し困ったような顔で、そう答えた。
「じゃあ、まず下着だけ脱いで。
そのまま、僕にまたがっで、自分で入れるんだ」
彼女は立ち上がると素直に従い、両手をスカートの中に入れ、下着をするすると脱いでいった。
足を片方ずつ上げ、その白いショーツを抜き取る。
「ん……っ」
傍目にもぐっしょりと濡れたその布きれを床に置くと、彼女はそのまま頼りない動作でスカートの裾をまくり、椅子に座った僕の足をまたぐようにした。
「はぁ……ぁ。
……失礼、します」
ひんやりとした指が僕のモノを軽くつかむ。
僕も彼女の腰に手をやり、手伝ってやる。
“ぴちょ……”
僕のペニスの先端に、熱いぬめりが触れ、
「んっ、んん~~……っっっ!!」
ズルリッと僕のモノを熱い柔肉が包み込んだ。
「くぅ──っっっっ!!!」
僕の背中に両手を回し、ギュゥっとしがみつきながら、彼女は体をブルブルと震わせた。同時に、僕のモノをくわえ込んだセンパイの部分がグゥッと僕を締め付け……、そして、センパイは脱力した。
必死で僕に寄りかかりながら、耳元で『はぁ、はぁ……』と荒い呼吸を繰り返す。
「……センパイ、もしかして入れただけでイっちゃったの?」
「っ………あ、はい…。
…あの、申し訳……、ありません。
でも、どうしても、気持ちよくて……」
たどたどしく、そんなことを言う。
いつもは凛とした雰囲気であるはずのその綺麗な顔が、恥ずかしそうに僕の目の前にある。
──その表情が、強烈に僕の興奮を引き立てる。
まるで噛みつくように彼女の小さな赤い唇に、自分の唇を重ねる。
その衝動のままに、腰を突き上げた。
「ああっ、うんっっ──!!」
膝の上で、必死に僕にしがみつきながら、可愛らしい声を上げるセンパイ。
そんな彼女の愛らしい耳朶に口を寄せ、彼女の耳たぶを軽く噛む。
「んんっ、ん──…っ!」
「いいよ、センパイ。何度でもイっていいんだよ。
仕方ないんだよ。センパイは、何度でも、すぐにイっちゃう、いやらしい女の子なんだから。
その証拠に、ほら。
由香里センパイの腰、必死に動いてるよ」
「そん、そんな……、あん──っ!」
「いいよ、センパイ。僕も、気持ちいい。
一緒に、気持ちよくなろうね……」
そんなことを言いながら、僕はただひたすらに、欲望のままに腰を突き上げ続けた……。
このところ、なんとなく高嶋センパイとの間に溝を感じる。
夢の中の話ではなく、現実の方の話だ。
ふつうに挨拶もするし、以前と同じ笑顔で話もしてくれる。
なのに、なぜか違和感を感じるのだ。
避けられているのでは? そんな風に思うときもある。
しかし、ふと気がつくと、僕の方をじっと見ているセンパイがいたりして、……嫌われているような感じは、無いのだけど。
そのくせ、話の途中で、突然断りもなくどこかに行ってしまうこともあって……。
本当なら、もっといろいろ話をして、困っていることとかがあったら相談に乗ってあげたりしたいのだけど。
僕とセンパイの間柄では、あまりしつこく聞くのも失礼だし……。
「はあ……」
そんな訳で今、僕は自分の席から窓の外をぼんやりと眺めつつ、どうしたらいいのか頭を悩ませていたのだ。
「よう、なんか、たそがれてんなぁ」
クラスの友人の一人が声をかけてきた。
「ん? 別に……」
「別にっ、て訳はないだろ。
ひとり空を眺めながら、ため息なんてついてたくせに」
「うるさいな。ほっといてよ」
いつもなら、こうしたやりとりを楽しむことが出来ただろうが、今の僕は本気で鬱々(うつうつ)とした気分だったので、相手をするのが面倒だった。
そんな僕をどのように見たのか。
そいつは一転からかうような口調を強め、こんなことを言った。
「あ~、わかった。
もしかしてお前、3年の高嶋先輩と上手くいってないんだろう」
「な……なんで!?」
僕は本気で驚いて、大声を上げてしまった。
「はー、図星だったか。やっぱなあ。」
「って、なんでそんな話になるんだよ。
別に俺は高島センパイとは……!」
「嘘つけよ。だってバレバレだぜ、端から見てて。
いいじゃん、別に。
あれだけの美人と知り合いなら、まっとうな男ならどうにかしたいだろ?」
……なんだか、意味もなくテンションを上げまくっていやがる。
だがそれを聞きつけて、クラスの他の奴等までが話題に乗ってきた。
「あれー、倉田君。やっぱそうなんだ。
二人が立ち話とかしてるの、何度か見てたし。
あたしもそうじゃないかなー、とは思ってたけどぉ」
「えぇ、高島せんぱいって、あの合気道部のキャプテンだろう。
うっわー、おまえ、願望高いなぁ」
皆、口々に勝手なことばかり言って盛り上がってる。
「だから、ホントにそんなのじゃないんだって。
高島さんは僕の、天文部の先輩なんだよ。
だから挨拶とかはしたりするけど、別にそんなのじゃあ……」
「だから、いいって、別に隠さなくたって」
僕の言うことなんて、聞きもしない。
──と、
「私もそう思うなあ」
突然、予想もしなかった声を聞き、思わずそっちを振り返った。
……草加部、だ………
「この前だって嬉しそうに話しかけたりしてたし。
……もっともその後、相手にされないでなんだかションボリしてたけど、ね」
「へぇ~、そうなんだぁ。
それで落ち込んでたんだぁ。カワイソ~」
──むかっと、きた。
なんだ、この女は。
いつもはろくに挨拶も返さないくせに、今回に限ってなんでこんな風にからんでくるのだ、コイツは。
「……黙れよ」
だが、草加部は調子に乗って続ける。
「あれ? やっぱり図星だった?
はーん、じゃあ、やっぱフられでもしたのかな?
まあ、あのときの感じじゃあ、見込みなさそうだったしね。
だいたい……」
「黙れって言ったんだよっ!
聞こえないのかよ、この馬鹿野郎!!」
──周囲が、一瞬でシンッとなった。
僕の突然の怒鳴り声に、皆が固まっているのが分かる。
だけど、僕は完全にキれていて、止まれなかった。
「だいたい、なんなんだよ、お前!
いつもは人が挨拶しても、返事もしないような礼儀知らずのくせに……。
そんなお前に、今みたいな偉そうに言えるほどの恋愛経験があるなんて、僕には思えないけどな。
相手がいたとしたって、お前を相手にする時点で、そいつが大したことのない奴だったって証明してるようなもんさ!!」
──草加部の顔が、真っ白になった。
もともと肌の白い娘ではあったけど、今の彼女の顔からは、まるで紙のように血の気が無くなっていた。
一瞬、余計なことまで言い過ぎたかな? との思いが頭をかすめる。
だけど草加部は、そのまま僕の目を真っ正面から見据えながら、口元だけを笑いの形にゆがめながら、言った。
「はんっ……、大した言いようね。
もっとも、そんなことが言えるほど、あなただって凄い人間には思えないけど……。
あんたなんかまともに相手したいなんて、女の子だったら誰も思わないわよ。
せいぜい妄想の中ででも相手をさがして、一人で喜んでいればいいんだわっ……」
……その彼女の言葉は、真っ直ぐに僕の胸をえぐった。
彼女が口にした、『せいぜい妄想の中で…』の部分……。もちろん彼女が、僕のここ数日間の夢のことなど知っているはずもない。
しかしその偶然発せられた言葉に、僕は動揺した。
そして──草加部は、少なくとも外見は美人だった。
ちょっときつすぎるような、それでも間違いなく整った、その顔。
スレンダーという言葉がそのまま当てはまるような、女性としての肉付きは感じさせないながらも、男に確かな魅力と欲望を感じさせる、その身体……。
──なによりそのことが、『男』である僕を激昂(げっこう)させた。
“ガタンッ!!”
椅子を蹴って立ち上がり、気がつくと僕は草加部の胸ぐらを右手でつかみあげていた。
「…………っ!!」
草加部は、何も声を上げなかった。
眉をつり上げ、唇をぎゅっと噛みしめ、下から僕をにらみ返す。
どれほどの間、そうしていただろう。
僕にとっては長い時間に感じたが、実際のところは分からない。
…その硬直を解いたのは、周囲のクラスメイト達だった。
「おっ、おい…。落ち着けよ、倉田。…なにムキになってんだよ。
俺達も調子に乗りすぎたのは、悪かったけどさぁ。
相手は女子なんだし…、な? そんな怒るなよ……」
「そ……そうよ。その手を離しなよ。
女の子に暴力ふるうなんて、サイテーだよ?」
周りから起こる、僕へのいましめの言葉と、草加部をかばおうとする言葉……。
──わかっては、いた。
普段から、僕以外の人達とは誰とでも明るく気軽に話をし、クラス中の人気を得ている彼女。
別に友人がいないわけではないが、それでも多少内向的なところは隠せない、僕。
その差が今、周囲の反応からはっきりと表に現れた。
“ク……、ソッ!”
僕は、いたたまれない気持ちで、草加部をつかんだ右手を離した。
トッ……、と音を立て、彼女の身体が、もと座っていた椅子に戻る。
そのまま、僕は一人で教室を出る。
背後からは、皆が草加部を気遣う言葉が、ざわめきとなって聞こえてきた。
……やかましい………
やりきれない思いを感じながら教室のドアをくぐろうとし、ふと後ろを振り返ると、……偶然だろうか? 草加部と目があった。
──たぶん、気のせいだろう。
……口々に僕を非難するクラスメイト達の中で、彼女だけが僕の方を見ている。
その顔は、なんだか見捨てられた小さな子供みたいな、まるで僕にすがりつこうとしているような、そんな表情に見えた。
──そう、気のせいに決まっている……
………だから僕は、そのまま黙って、…教室を後にした。
……そして今夜も、僕は洋館を訪れる。
いつも晴れわたっているイメージのその空が、今日に限ってどんよりと暗く曇っていた。
まるで、今の僕の気分のように…。
門の鍵を開け、中に入る。
曇り空の下なんだか寒そうに感じる噴水を回り込み、館の正面まで歩く。
重そうな両開きの扉を開き、館の中へと入ると、見知った姿が出迎えてくれた。
髪飾りとエプロンだけが白い、黒のメイド服。
「あ、お帰りなさい。稔さま」
由香里センパイは僕の姿を見て、そんなふうに挨拶をしてくれた。
いつものように真っ直ぐに垂らした、綺麗な黒髪。その表情は彼女らしく凛とした雰囲気を持ちながらも、少し嬉しそうな、それでいて少し恥ずかしげな、そんな顔をしていた。
「やあ、センパイ」
僕はそんな彼女に、素直な欲情を感じた。
彼女に歩み寄りながら、訊ねる。
「ご苦労様、センパイ。
何か、変わったことはあった?」
そんなことを話しつつ、センパイに近づく。
そして彼女に触れようと手を伸ばそうとした、そのとき、
「え……、その、
一人、女の方が見えてます」
センパイは、ちょっと表情を暗くして、不安そうに答えた。
伸ばしかけた手が、止まった。
彼女に質問する。
「だれ? どんな人?」
「いえ…、私の知らない人です。
短い髪をした女の子で、歳は多分、私と同じくらいだと……」
……体中の体毛が立ち上がる気がした。
僕は直感的に、その女の子がだれなのか、理解した気がした。
今まで感じていた鬱然(うつぜん)とした気分が、暗い期待感へと姿を変えていく。
「その娘、今どこにいるの?」
「…その、地下室に……」
「地下室? そんなモノ、この館にあったの?」
思わず、センパイに訊ねてしまう。
「はい。わかりづらいとは思いますが、1階の奥の方の部屋にある隠し扉から、行くことができます」
「へえ……、センパイ、よくそんなこと知ってるね。
なんで?」
それに対して彼女は困ったような顔をしながら、言った。
「その、今日になって、突然知ったんです。
まるで、頭の中にそのことが送られてきたみたいに…。
その女の子が、そこにいるって。そこに行くには、どうしたらいいかも……」
“夢の中だし、きっとそんなものなんだろう”
深く考えるのは、止めた。
「センパイ、そこに案内してよ。
いいね?」
「あ、はい…」
そう従順に答え、彼女は僕の前を歩き始めた。
センパイに案内され、1階の端のほうの部屋に入る。
彼女が壁飾りをいじると、壁の模様に上手く隠された扉が、ぽっかりと口を開ける。
そしてその隠し扉の向こうには、下へと続く階段があった。
「へえ……」 思わず声が漏れる。
そこは薄暗い照明がぼんやりと光り、壁に触るとひんやりとした意志の感触が伝わってきた。
床も石で出来ているようで、歩くとカツカツという足音が、周囲に反響した。
“……なんか、絵に描いたような地下室だなあ”
そんな感想を考えていると、階段の終点にたどり着いた。
そこはやはり壁や床を石でつくられた場所で、短い廊下と、それに沿って片側にいくつかの鉄格子が見られた。
地下室、と言うよりは地下牢の方が正しいかもしれない。
そのとき、『チャラッ…ッ』という金属的な音とともに、
「ひっ……!」 という怯えたような悲鳴が聞こえた。
薄暗い部屋の中、目を凝らす。
一番手前の鉄格子の中、そこだけが白い影が、ぼんやりと見えた。
やがて、目がその薄暗い照明に慣れてくる。
……鉄格子の中には、一人の女の子がいた。
センパイの言った通り、ショートカットの髪をほんの軽くだけ脱色している、少女。
彼女は一糸まとわぬ身体を、しゃがみ込み、両手を使って必死に隠そうとしていた。
いや、何も身につけていない、というのは嘘だ。
彼女の細い首には、革製と見える太い首輪が巻かれており、そこから鉄の鎖が壁の金具へとつながっている。身体を隠す為に使っている両手の手首にも、やはり同じような皮のベルトが巻かれているようだった。
期待がかなえられた興奮で、心臓が高鳴る。
息が荒くなりそうになるのを、必死で押さえる。
僕は笑顔を作ると、出来るだけ明るく聞こえるような口調でもって、彼女に声をかけた。
「やあ、草加部さん。こんにちは」
「倉田……、くん?
それに、高嶋先輩…。何でそんな格好……」
呆然と呟いてから、今自分が置かれている状況を思い出す。
「やっ…、なんで……!
ここは、どこなの?
私、なんでこんな………っ!?」
怯えるようにさらに身体を縮みこませ、草加部が悲鳴のような声を上げた。
「落ち着いてよ、草加部さん。そんなにいっぺんに質問されたら、どう答えていいか分からなくなっちゃうじゃないか」
僕は圧倒的な立場からくる暗い優越感に浸りながら、わざとそんなふうに、はぐらかすような返事をした。
「……っ、なっ、ふざけないで! とにかく、なにか服をちょうだい!!」
「なんか、あんまり人にものを頼む態度じゃないなあ」
「…倉田君……、あなた………」
屈辱で顔を真っ赤にしながら、それでも草加部は必死で僕のことを睨みつける。
全身が小刻みに震えているのは、羞恥のせいか、あるいは怒りのせいか…。
「ここは、どこかって訊いたよね。
ここはね、草加部さん。僕の夢の中だよ。夢の中の、森の中に立った洋館。その地下室だ。
君が何でここにいるのかは、僕にも分からない。
ただ、覚えておいた方がいい。
ここでは、全ては僕の思うがままの世界だってことをね…」
「そんな……、何言ってるのよ! そんなの…、全然分からないわよ!!
…ねえ、そこにいるの、高嶋先輩でしょ? 合気道部の。
お願い、助けてください!!」
ちらりとセンパイの方を確認する。
見るとセンパイは、気まずそうに顔を逸らし、黙ってうつむきながら立っていた。
「ねえ、センパイ?」
「…あ、はい」
あわてて返事をする、センパイ。
僕はその彼女の耳に口を寄せると、『あること』をささやいた。
「……えっ!?」
驚いたようにそんな声を上げる、センパイ。
その彼女に、かさねて尋ねる。
「それで、どうなの?」
「…はい、あります………
すぐに、持ってきます……」
そう言うと、彼女は再び階段を上っていった。
「あ、ねえ、先輩、高嶋先輩!
どこに行くんですか!?
……お願い、待って………!!」
草加部の必死の叫びが、地下室にこだまする。
「そんなに慌てないでよ、草加部さん。
センパイは君のために、ちょっとした道具を取りに行ったんだ」
僕はそう言いながら、地下室の壁を見回した。
いくつかの鉄製の鍵のついた金属製の輪が、壁に掛かっているのを見つける。
手に取ると、ずっしりと重たい。
それらを、草加部が入れられている牢の錠に、順番に試していった。
二つ目の鍵を使ったとき、『カチリッ』と思ったよりも軽い音がして、錠が開いた。
“ぎぃぃ……”と音を立て、扉が開く。
僕は鍵を廊下のところに置くと、そこから檻の中へと入った。
「……やっ、ち、近寄らないでっっ!!」 草加部が、悲鳴を上げる。
それに対して僕は、
「ああ…、そうだね。その前に、きちんと命令しておかないとね。
センパイの時に、懲(こ)りたし」
「……? なに、言ってるの…?」
「いいかい、草加部さん。これから言うことを、よく聞くんだ。
ここでは、僕の言うことには絶対服従すること。
僕に対して、危害を加えるような行動はしないこと。
──いいね?」
「……なっ………!?」
草加部の眉が、つり上がる。
「…なに言ってるのっ!? あんた、そんな馬鹿みたいな……」
「草加部っ、立て」
草加部に最後まで言わせず、僕は命令を発した。
「え…、えっっ……っ!?」
草加部のカラダが、ギクシャクと動き出す。
そしてそのまま、彼女は立ち上がる。
首輪につけられた鎖が、チャラチャラと音を立てた。
「なっ、やっ…やだっっ!」
彼女は必死で抵抗しようとするが、逆らえない。
それでもなんとか両手で身体を隠そうと抵抗するが、彼女の両手首に付けられた革のベルトは、ちょうど手錠のように短い鎖でつながっており、それも出来なかった。
「なんで……、こんなっ…」
僕の目に、彼女の裸身がさらされる。
髪型が短いせいで、彼女の鋭角的な顔の輪郭を隠すものはない。
そこから首筋へのライン。つけられた首輪を挟んで、綺麗な形の肩への曲線に続く。
両手の間から見える乳房は、ほんのわずかに膨らんでいる程度。だがそれは、彼女の全身的なラインを崩さぬよう、細心の注意を込めて造られているようにも見える。
細い、ウエスト。そこから流れる腰への曲線もまた、ほっそりとしている。
股間の陰りは、センパイよりも少し薄いくらいか。
そして、肉付きを感じさせないほど細く、長いその足。
『女性は肉ではない、ラインだ』 どこかの国の画家が、そう言ったらしい。
その言葉通りに、ただひたすらに削られ、研がれることによって出来た、曲線。
草加部の身体を言葉に表すと、まさにそんなふうだった。
「倉田君、お願い! 見ないで!!」
必死に叫ぶ、草加部。
もちろん、僕はそんな言葉を無視する。
「へえ…、やっぱり、思ってたとおりだな。
胸なんか、全然ないのに……、凄く綺麗だよ」
「いや……、見ないでって、言ってるでしょ…っ! この…、変態ッッ!!」
「草加部。まだ自分の立場が分かってないみたいだね」
呆れるように、言ってやる。
そのとき、『ぎぃっ』と、扉が開く音がした。センパイが、戻って来たらしい。
カツカツと、階段を下りる足音が響き渡る。
少し待つと、センパイが大きめの黒いトランクを両手で運んできた。
「あ……っ、先輩、高嶋先輩! たすけて…っ!!」
その姿を見て、必死にすがろうとする、草加部。
しかしセンパイは彼女の方をちらりとだけ見ると目をそらし、僕のところにその鞄を運んできた。
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
「ううん、そんなことないよ。
……っていうか、けっこう重そうだね、それ。ご苦労様、センパイ」
「あ、いえ…」 センパイは、首を横に振る。
「……高嶋、先輩?」
驚いたように、不安そうにセンパイを見る、草加部。
その彼女を無視して、僕はトランクを床に置くと留め金をはずし、それを開ると中身を確認した。
「うわ、すごいね、これ。
どうやって揃えたんだろね、こんなに」
センパイを見ると、顔を真っ赤にして目をそらした。
トランクの中には、様々な“道具”が揃えられていた。
エロ雑誌の広告や、アダルトビデオの中でしか見たことの無いような“道具”の数々。
男性のソレをグロテスクに形取ったものや、ちいさな丸い球体がいくつも連なったもの。ガラス製のピストンや、木製の洗濯ばさみ。中には初めてみる、どんな使い方をするのか分からないようなものまである。
それらは鉄製だったり、ラバーのようなもので出来ていたりと様々だったが、まるであつらえたかのように黒一色で並んでいた。
「……っひ…!!」 草加部が、のどの奥でそんな声を上げた。
その声に気づき、僕は彼女の方を見た。
「ああ、おまたせ。これで準備がそろったからね。
草加部にも、楽しんでもらうよ。
……でも、その前に──、センパイ?」
「あ、はい。なんですか、稔さま?」
「まずはセンパイに、ご褒美をあげないとね。
──パンティを脱いで、スカートをまくるんだ」
「あの…、ここで、ですか?」
センパイは、おずおずと草加部の方を見る。
「先輩……?」 草加部は、顔を真っ青にしながら僕たちを見ている。
「なにか、問題があるの、センパイ?」
それを無視して、彼女に問う。
「僕の言うことが、聞けない?」
「あ…、いえ。そんなことは、無いです……」
そう答えると先輩は、僕の命令に従って何度かやってきたように、スカートの中に手を入れ、下着を脱いだ。
そのまま、スカートの裾をつまんで、上げる。
僕と草加部の目に、センパイのもっとも秘密な部分があらわにされた。
「な……、」
あまりのことに、声をなくす草加部。
僕はそんな彼女の反応を確認した上で、彼女にも聞かせるように、ゆっくりとセンパイに言った。
「よし、いい子だね、センパイ。
そうしたら、さっきも言った通りにご褒美をあげなくちゃね。
……せっかくセンパイが用意してくれたんだ。この中で、センパイが一番欲しいと思うもので、気持ちよくしてあげるよ」
「え……?」 戸惑ったような声を出す、センパイ。
「さあ、センパイ、どれがいい?
センパイが選んでいいよ?」
「あ…、あの……
私、よく分かりませんので…、その、稔さまにお願いします」
「そう? じゃあ、しょうがないか。
それじゃあ……」
箱の中から、手錠を取り出す。
こうした目的に使用するために作られたものらしく、輪の内側の部分にはラバーが張られ、傷が出来づらそうになっている。
センパイの両手を頭の上の方に上げさせ、そこで牢の鉄格子と絡めるように手錠で止めた。
センパイのスカートの裾を、彼女の口にくわえさせる。
「これ、口でくわえててね。僕がいいって言うまでは、離したらダメだからね」
彼女はボウッとした顔で僕を見ると、小さくコクンと頷いた。
そんな彼女のむき出しのアソコに顔を寄せて確認すると、やっぱり、そこはもうしっとりと濡れていた。
「なんだ、センパイ。まだなんにもしてないのに、もう濡れちゃってるじゃない」
「んん……っ!」 センパイは、恥ずかしそうに首を左右に振る。
「これなら、すぐにでも入れて大丈夫だね」
そう言うと僕は、手に持っていたものをセンパイに見せた。
黒い、卵を一回り小さくしたデザインのそれ。コードがついており、片手に収まるくらいのコントロールボックスにつながっている。
たしか、ローターとかいうやつだろう。
そのままそれを、センパイの中に入れる。『ヌプっ』というような音を立て、それはセンパイの中へと姿を隠した。
「ん──っ!」
「入ったよ、センパイ。わかるよね?
落としたりしないように、頑張るんだよ?」
スイッチを入れる。
“ブゥ…………ン” という音が、センパイの体内から漏れて、聞こえてきた。
「くぅ………っっ!!」
センパイの口から、くぐもった声が漏れた。
腰が、小さく震えている。
僕はスイッチを調節し、振動を『弱』に合わせると、スイッチボックスを何かの本で見たみたいにセンパイのガータストッキングに固定して、立ち上がった。
「これで、よし……っと。
じゃあ、センパイ。しばらくそれで楽しんでてね?」
センパイは、目元が真っ赤に染まった目で、すがるように僕を見る。
「そんな顔をしてもダメだよ。僕はこれから、やらなきゃならないこともあるし……。
そのままいい子にしてたら、またそのあとで遊んであげるから、…ね?」
彼女は、必死な表情で、コクンとうなずいた。
「さて……と」
一仕事終えた僕は、草加部の方を振り返る。
「あっ…、ああ……」
草加部は恐怖に満ちた表情で、僕たちを見ていた。
彼女に、ゆっくりと近づく。
「や、近寄ら、ないで……」
怯えて後ずさる、草加部。
その背中が、『トンッ』と背後の石壁に阻まれる。
「ひぃ…っ!」
必死で辺りを見回すが、逃げ場はない。
「草加部、動くな」 僕はそう命令する。
彼女の両肩がビクッと動き、僕の命令が彼女の身体に伝わったのがわかった。
「え? あ…、なんで? 身体が、動か……
なに? 倉田君、何をしたの!?」
「言っただろう。ここは僕の夢の中、僕の思うがままの世界…。
ここでは、僕の言葉が絶対だ。
お前の意志に関係なく、僕の命令が優先される」
「そんな……」
僕はさらに彼女に近づくと、彼女の胸のわずかな膨らみに手を伸ばした。
「あ…、や……っ!」
「ふーん、やっぱり小さいね。ブラなんてつけなくても、大丈夫なんじゃなないかい?」
意地悪にそうささやきはしたが、僕はその感触を楽しんでいた。
彼女のその薄い乳房は、それでも確かな柔らかさを僕の指に伝えてきた。
「んんっ……」 草加部は、ぎゅっと唇を噛み、必死に屈辱に耐えている。
「や…っ! やだっっ!!」
「下の毛もちゃんと、手入れしてるんだね。
センパイのと比べると、ちょっと薄目かな?」
草加部のそこを、無遠慮にまさぐる。
そこまでされて、草加部の中で何かがキれたのだろう。
突然顔を上げると、昼間、教室で僕を睨んだのと同じ目で僕を見て、言った。
「いい加減にしなさいよ、この変態! なによ、私を犯したいんなら、さっさとすればいいじゃない!
そのいやらしい力を使えば、どうとでもなるんでしょう!?」
その、目…。
草加部は、やっぱり何もわかっていなかった。 ……自分が男である僕にとって、どういう存在であるかを。
その攻撃的な性格と、綺麗な外観とが、それを向けられた男に対してどのような反応を起こさせるかを……。
「何か、誤解してるみたいだな……」
「え…?」
何を感じたのか…。勢いをそがれたように、口ごもる。
僕は、草加部の股間の茂みに指を絡めると、それを強く引っ張った。
「あ、あああぁぁっっっ…!!」
草加部は痛みのあまり、悲鳴を上げる。
「いいかい、草加部。よく聞けよ。
いいことを教えてやるから」
彼女の耳に口を寄せ、そうささやく。
「僕はさ、……お前が嫌いなんだよ。…この1年間、ずっとそう思ってた。
何かにつけ人のことを無視して、そのくせに妙なところでカラんできて……。
僕が変態か、いいだろうさ。
それなら、お前も変態にしてやるよ。そうであることがばれたら、誰もまともに相手してくれる奴なんかいないような、変態にな」
草加部は、ぼろぼろと涙をこぼして鳴いていた。
恥毛を引いていた手を、離してやる。
「いいか、草加部。お前は今から、僕のイヌ、…変態の雌イヌだ。
僕にされることを嫌がりながらも、僕に触られようが、侮辱されようが、殴られようが……、ひどいことをされればされるほど感じるような、変態だっ」
──ここは、僕の世界。僕の命令は全てかなえられる、夢。
「感謝しろよ。これからお前のことを、僕が死ぬほど喜ばせてやるんだからな」
「…なによ、なに言ってる……っ!」
「黙れっ」 その言葉を遮って、僕は命令する。
「イヌが、人間さまの言葉をしゃべるなよ。イヌはイヌらしく、ワンワン鳴いてろっ」
「……っ!」 草加部がその顔を上げ、再び僕をキッと睨む。
そして……
「──ワン…ッ、ワンッ!!」
………………なにが起こったのか、わからない顔で呆然とする。
「ワ……ッ、ワンッ!?」
「ふっ……、はははは…………!!」
僕は、笑った。
「はは、そう、草加部。その方が、お前に合ってるよ!」
草加部はこの暗がりでもわかるほどまっ青な顔で、口を押さえた。
「さあ、草加部。これでわかったろ? 自分が雌イヌだって。
……イヌが2本足で立ってたらヘンだよなあ。
四つん這いになれよ。四つん這いになって、僕にケツを向けるんだ」
ビクンッと身体を震わせ、草加部は僕の言葉通りに、縛られた手を床に着き、四つん這いになった。
そのまま不自由そうによろよろとしながらも、僕にお尻を向ける。
「そう、いい子だよ、草加部。
お前は僕のイヌなんだからね。…そうやって素直にしてれば、いくらでも気持ちよくさせてやるさ」
僕はそう言いながら、彼女の腰から太股のラインに手を伸ばす。
そこは、この年の女の子としては信じられないほどに肉付きが無く、ほっそりとしていた。
そのせいで、その彼女のもっとも秘密の部分も、その後ろにあるすぼまりも、僕の目にはっきりとさらけ出されていた。
「……だけど、その前にまずはお仕置きだね。
僕にくだらないことしてきた、その分はきっちりしつけておかないとね。
そして僕は右手を振り上げると、彼女の肉付きの薄いお尻に、思い切り平手を振り下ろした。
“ぱチィィぃぃっん!!”
「キャンッ……ッ!!」
派手な音とともに、草加部の口からそんな悲鳴が漏れる。
痛みと、自分が出してしまったその声、どちらに対してだろう。彼女が『はっ』と息を飲むのが聞こえた。
“パンッ! パチンッ!”
何度も、平手を振り下ろす。
だが草加部は、それ以上声が出ぬよう奥歯を噛みしめながら、その仕打ちに耐えていた。
…やがて彼女の突き出されたお尻が真っ赤になった頃、僕も手のひらがいい加減に痛くなり、スパンキングを止めた。
そして確認すると、やっぱり……
「草加部、自分でもわかるよね。草加部のここ、濡れてるよ」
彼女の茂みは粘膜から分泌されたもので濡れそぼり、その粘液は太股の内側までたれ流れていた。
「ウウッ……、クゥ…」
屈辱のあまり、草加部の口から耐えることの出来ない嗚咽が流れ出る。
「わかったろ、お前はもう、変態なんだって。
隠しても、無駄だよ。ほら、こんなに濡れてる。
…僕にお尻を殴られて、どうしようもなく気持ちよかったんだろう?」
「……ウッ…、アァァッ……ッ!!」 しかしその泣き声でさえも、今のそれは人間のものではあり得なかった。
「仕方がないさ、草加部。お前は変態で、僕の雌イヌなんだからな」
僕は黒いトランクから、先ほど目星をつけていたものを取り出した。
「さあ、まだだよ。まだこれからだ。
お前がどれほどの変態か、僕が教えてあげるからね」
僕は彼女の腰に手を置いた。そこにはぐっしょりとした粘膜が、ひくひくと動いている。
……でも、僕が選んだのは、その上にある肉のすぼまりだった。
「ヒッ…、キャンッ!!」
突然のことに、草加部の身体が跳ね上がる。
彼女は首を曲げ、涙でぐちょぐちょになった顔に驚いた表情を浮かべ、僕を見た。
「そんな顔をするなよ。そんなに驚くようなことじゃあない。
ただ、イヌにしっぽがないのは、おかしいだろう? だから、それをつけてやるだけさ」
そして僕は手に持ったそれを、彼女の後ろの穴にねじ込む。
……たしか、アナル開発用のなんとかってオモチャだ。細い、でこぼこした棒状のもので、センパイに入れたものと同じように、コードがのびている。
…多少の抵抗を無視し、それを押し込む。
「クゥ…ッ、フウゥッ……ンッ!」
草加部の背中の筋肉が緊張し、ブルブルと震えている。
前についた両手は、もはや耐えられなくなったか、崩れて肘をつく格好になっている。そのせいで、彼女の姿勢はさらにお尻を突き出すようなものになった。
適当なところまで入れて、僕はコードのつながったスイッチボックスを手に取る。
そのまま、スイッチの目盛りを入れた。
「クゥ…………ッ!!」
“ブゥ…………ン” という音とともに、草加部の身体が震える。
……そして、
「やっぱりな、草加部。おまえは、変態だよ…」
彼女に耳打ちして、教えてやる。
「お前、さっきから、腰を揺すってるよ?」
彼女から生えているように見える棒。それは内部の動きのせいだろう、クネクネと、まるで彼女がしっぽを振っているようにうごめいている。
しかしそれと同時に、小さく、しかし確実に、草加部の腰は快楽を乞い求めるかのように揺すられていた。
「ワンッ……、ワ………ン…」
彼女の頬を、涙が流れ、床を濡らす。
でも、床を濡らしているのはそれだけではなかった。
彼女の股間からにじみ出る、粘液。太股の内側を伝わるそれは、床にまで達し、そこに染みをつくっていた。
「いいよ、草加部。そのまま、もっと気持ちよくなるんだ。
なにも考えなくていい。そのまま、どこまでも今の感覚を味わうんだ」
「…………ッ」
もう、声も出ないらしい。
床に出来た染みはさらにその面積を増し、彼女の腰の動きは、さらに大きなものとなってゆく。
そして、彼女の身体のふるえがさらに大きくなったとき……。
「だめだよっ、草加部。
イくのは、ゆるさない」
……僕は命令した。
「ワ……ン、ク……ァ?」
草加部は、顔を上げる。
その顔は彼女の流した、汗と、涙と、鼻水と、よだれでグチャグチャになっている。
そしてその眉は、苦しそうにゆがめられていた。
「草加部、言ったろう? お前は僕のイヌだって。
そのお前が僕の許しも得ずにイくなんて、絶対に許さないよ」
「ワン…、ワンッ……ッ!!」
必死に、というように、彼女は腰を揺する。
しかし僕の言葉に縛られた彼女は、それ以上なにも出来ず、ただ苦しげに身をよじるばかりだった。
「ワン…、ワンッ…ッ!!」
彼女は悲痛な声を上げつつ、僕を見上げる。
その顔に、いつものひとを苛つかせるような表情は、みじんもなかった。
ただ苦しげで、哀れで、……僕の嗜虐心をそそり、満足させた。
「そっか、そんなにイけなくて、辛い?」
“ブン、ブンッ” と彼女は何度も何度もうなずく。
「そう、それじゃあ仕方がない。イかせてあげるよ。
でも……」
僕の唇に、自然と笑みが浮かんだ。
「最初に言ったよな、僕はお前が嫌いだ……って。
だからね、僕はお前に入れてやりたいだなんて、思わないんだよ」
僕はズボンのチャックを下げると、トランクスをよけ、自分のモノを取り出した。
今までの興奮で、それはすでに我慢できないほど大きくなっていた。
「舐めろよ…、草加部」
彼女に命令する。
「イかせてもらいたかったら、これを舐めて、まず僕をイかせるんだ。
お前は、僕の変態の雌イヌだ。これからお前は、なにをしてもイくことは出来なくなる。
いくら自分を慰めようが、どれほど身体を可愛がられようが、ただ限りなく感じることは出来ても、イくことはできない。
……お前がイくことができるのは、ただ一つ。
僕のここから出されるモノを、飲んだときだけだ」
草加部の髪の毛をつかみ、彼女の顔に僕の興奮を突きつける。
「さあ、舐めろよ、草加部。
僕をその口でイかすことができたら、お前もイけるんだよ」
「…ッ、……!」
……そして、
“ちゃぷっ……”
──草加部の唇が、僕のペニスに押し当てられた。
「いいか、これからは、お前の口は、僕が排泄するための穴だ。
そうして、お前がイくことが出来るんは、僕にそんな風にされたときだけだ。
だからこれからは、いつでも僕が使っていいように、心がけておくんだよ」
“じゅぷっ、ちゃぷっ…!”
「ンッッ……、クゥ…!」
草加部の唇から、僕のモノが何度も出入りする。
彼女は眉を寄せ、頬をすぼめ、下を絡め、必死で僕を刺激する。
「フ…、ン……ッ!」
あのひたすらに僕を苛つかせた草加部が、僕の足下にひざまずき、必死で僕のをくわえている……、そのことが、僕の興奮を高める。
“ぺちゃっ…、ぴちゃっ”
だが彼女のあたえる刺激は、正直僕を満足させるにはほど遠いものでしかなかった。
おそらく初めてか、あるいはほとんど経験がないのではないだろうか。
僕の心の興奮と、彼女から与えられる肉の興奮の間には、あまりに差がある。
それがあまりにもじれったく、僕はどうにかなりそうだった。
「もういいや、草加部。
あとは、じっとしてろ」
僕はそう言うと、草加部の頭を両手でつかんで、彼女の喉に向けて腰を降り始めた。
「……ッ、ガホッ……!」
「吸えよ、草加部。
歯は、立てるなよ」
彼女の喉の奥にペニスを突き立て、無理矢理に快感を引き出す。
気持ちの方は限りなく高まっていた僕は、それにより、あっけなく達した。
「うっ、く……っ!!」
“どくっ…、どくっ……っ”
全身を震わせ、腰にあらん限りの力を込めながら、僕は彼女の口の中に精液を打ち込んだ。
「ンンッ、ンーーッ──……!!!」
“ごくっ、ごくっ……” と、彼女の喉が動き、そして、
「…………ッッッ!!」
──声にならない叫びを上げつつ、草加部は絶頂を迎えた……。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
まるで投げ出されたかのように、床に身体を預け、草加部は荒い息をはいている。
彼女の口の端から、飲みきれなかった僕の精液が流れ落ち、顎を伝って床にこぼれた。
そんな彼女をしばらく眺めながら、僕は射精後の気だるい気分を味わっていた。
ふと脇を見ると、──そうだ、すっかり放っておいてしまった──鉄格子ところに由香里センパイがいた。
「センパイ?」
声をかけたが、彼女はどこか焦点の合わない呆然とした瞳で、僕の方を見るだけだった。
目からは涙をこぼし、口にくわえられたスカートの裾はぐっしょりと唾液に濡れている。
そしてそのむき出しになった股間からは“ブウウン…”という小さな音が漏れ、そして床には彼女が出したものであろう、小さな水滴がいくつも光っていた。
「センパイ、どうしたの? …由香里センパイ!?」
僕はモノをズボンの中にしまうと(それにはまだ、草加部との行為の跡が残り、気持ち悪くはあったが)、センパイに駆け寄った。
腕を固定していた手枷をはずし、口からスカートの裾を抜いてやる。
あそこからローターを抜き取るときにだけ、「んっ……」と小さく声を出した。
そのまま、鉄格子にぐったりと背中を預ける。
「ねえ、センパイ。
どうしたの? 何か言ってよっ」
懸命に話しかける僕に、やっと
「あ……」 と声を漏らし、僕の顔に視線を向けた。
……その瞳が徐々に焦点を結び、僕の目を見る。
そして、その目に涙を浮かべつつ、彼女の口から小さな声が漏れた──
「み、のる、…さま。
お願い、です。わたしを…、捨てないで、下さい……」
白い頬を、涙がこぼれ落ちる。
「お願い、します。わ、たし…、何でも、します。どんな、ことでも、稔さまの…ためなら……。
…だから、わたしを、捨て、…ないで下さ、い………」
──僕は、彼女を抱きしめた。突き上げるような感情のままに、なんの力加減も忘れ、ただ思い切り彼女を抱きしめた。
センパイの身体を鉄格子に押しつけるように固定し、顔を寄せ、歯と歯がぶつかるようなキスをする。
「──センパイ、由香里センパイっ!
好きだよっ、僕は、センパイのことが好きなんだっ!!」
必死に彼女を抱き寄せ、この異常なシチュエーションも忘れ、狂ったように繰り返す。
「ホントに、去年の入学式のあと、センパイと初めて出会って……。そのときから、僕はセンパイに憧れてて、センパイのことが好きで、…ずっとセンパイを見てたんだ。
…センパイ、だから、僕が好きなのは、ホントにセンパイなんだ。
ねえ、好きだよ、センパイっ。ホントに、ホントにっ…………っ!」
…センパイの手が、僕の背中に回るのを感じた。
もうそれだけで、あとは何の確認も必要のない、そんなふうに思った。
再び、ただ乱暴な、奪い取るような口づけを、センパイにする。
彼女の唇にむしゃぶりつき、舌を無理矢理ねじ込み、唾液を流し込み、あるいは吸い取ろうとする。……そして、彼女の舌が、それに答えてくれた。
焦る気持ちでもどかしくしか動かない手で、ズボンのベルトを外し、トランクスごとずりおろす。
そしてセンパイのスカートを力任せにまくりあげると、そのまま彼女の中に入り込んだ。
「くぅ……んっっ!!」
センパイの口から漏れるあえぎ声。それをふさぐかのように、口で口を覆う。
そのまま、余裕もなにもなく、ただ、がむしゃらに、腰に腰をぶつける。
“ぬちゃっ、じゅぬっ…!”
二人がつながった場所から、大きな濡れた音がもれる。
「大丈夫、心配しなくても、いいよ…。
センパイは、僕のずっと好きだった、一番好きな人で、そして、僕の大切な従者なんだ。……そうだろうっ?」
必死で、ささやく。
「でもあいつは、草加部は、違う。ぜんぜん、そんなのじゃあ、…ないんだ。
センパイも、聞いてたろう。僕は、あいつのことは前から嫌いで、…だからあいつは、ただの、僕の『イヌ』なんだ。
僕が、そんな変態の雌イヌなんか好きになって、センパイのことをどこかに捨てちゃうだなんて、そんなわけ、ないじゃないかっ」
僕のからだに回されたセンパイの腕が、僕のモノをつつむセンパイの熱い肉が、僕のことをぎゅっと抱きしめているのを感じる。
「センパイ、好きだよ。
だから、心配しないで…っ!」
…………そうして、僕はなにもかもを忘れ、ただセンパイを抱いた。
…そしてそんな僕たちの傍、冷たい地下室の床の上には、口から白い精液を垂らした草加部が、なにも纏わず、ただうち捨てられたかのように横たわっていた………。
< 第三話 了 >