第五話
「……あ」
目を、覚ました。
東向きの窓のカーテン越しに、穏やかな光が部屋の中へと射し込んでいる。
どこか遠くで、小鳥の鳴き声がした。
「センパイ…?」
部屋の中を見回すが、誰もいない。
僕は裸のまま上体を起こすと、ベッドサイドの時計を見た。
『6:15』
「あれ?」
ごそごそとシーツから這い出す。
まずは適当にタンスから下着を引っ張り出し、身につけた。
「えっと……」
寝ぼけた頭で懸命に、現状を思い出そうとする。
昨日はいろいろあった後、センパイと結ばれて、そして……。
「えっ? 朝ぁ?」
いったい、何時間眠っていたのか?
あわててキョロキョロとセンパイの姿を探すが、やっぱりいない。
「なんだか…」 どこまでが夢の話だったのか?
確信が持てなくなり、すこし混乱する。
……と
「あ…」
机の上に、白い紙切れがあるのに気がついた。
あわてて手に取ると、そこにはレポート用紙の切れ端に、女の子らしい丁寧な字で、
『今日は、帰ります。
また明日、学校で』
…とあった。
何度も、読み返した。何度も、何度も。
「本当だったんだ…」
夢なんかじゃあ、ない。
昨日のセンパイとの会話も、行為も、すべて本当にあったことなんだ。
「や……った」
じわじわと、心の底から喜びがにじみ出てくる。
思わず、拳を握りしめる。
自室で一人、誰も見ていないのをいいことに、踊りだかパントマイムだかわからないようなような怪しい動作で、喜びを噛みしめた。
「やった…っっ」
そう。夢なんかじゃあない。
僕は昨日、ずっと憧れ続けてきた由香里センパイと、恋人になれたんだ。
時計を確認する。まだ、だいぶ早い時間だ。
学校へ行くには、いくら何でも早すぎる。
それが、とても悔しい。
少しでも早く、先輩と会って話がしたかった。
「とりあえず、カルにエサでもやるかなあ」
つぶやき、僕は一階へと下りていった。
学校の前の通りに出たとき、センパイとばったり出会った。
綺麗な黒髪に、整った顔立ち。すらりとした背筋が、スタイルを余計によく見せる。
「あ…」
思わず、一瞬固まってしまう。
だけどセンパイは、
「おはよう、稔くんっ」
──そう、嬉しそうな笑顔で挨拶してくれた。
「…おはよう、由香里センパイ!」
だから僕も、なにも隠さない笑顔で、そう挨拶しかえした。
二人並んで、校門までの道を歩く。
周囲の生徒達が僕等のことをチラチラと見ているような気がするのは、自意識過剰だろうか?
「今日は、早いんだね」
そうセンパイが言う。
「うん、まあ…ね。
昨日、さすがに早く寝過ぎたみたいだよ」
彼女はくすくすと可愛らしい声をもらして、笑った。
それを見ているだけで、とりあえず僕はハッピーな気分になる。
それでも少しだけ気になって、訊ねる。
「その、センパイ。
身体のほう、大丈夫?」
「あ…」
その質問に、さすがに顔を赤くし、うつむいてしまう。
だけどそれは、ほんの少しの間だけ。すぐに顔を上げると、僕の顔を見て言った。
「そんな質問、失礼だよ」
「あ…、ごめん」
思わず素直に謝ってしまう、僕。
だけどセンパイはそんな僕を見ると、優しく微笑んで、
「うん、心配してくれて、ありがとう。
でも大丈夫だから、……ね」
そう言ってくれた。
ふわっと風が吹き、彼女の長い髪を揺らす。
それと共に鼻腔をくすぐる、彼女の香り。
そんな雰囲気で、僕等は歩いた。
校門の前にさしかかったとき、
「あ……」
センパイが、小さく声を出す。
「?」
確認するその視線の先には、
「……草加部」
彼女がいた。
周りの生徒達とくらべ、明らかに細いその姿。
短めに切った、そのわずかに脱色された髪が、風に揺れている。
「……」
一瞬、彼女と目があった。
その顔は…、なにか疲れたような、憔悴したような表情に見えた。
──ふいっと、彼女は身を翻(ひるがえ)し、校舎の中へと入っていった。
「稔くん…?」
隣のセンパイが、心配そうに声をかけてきてくれる。
そんな彼女に、何とか笑顔を作り、
「大丈夫だよ、センパイ」 …そう言った。
「うん…」
そうして僕等は、下駄箱のところで別れた。
「センパイは今日、放課後は開いてるの?」
訊ねる僕。
しかしセンパイは、少しだけ残念そうな顔をしながら、
「ごめんね。今日は、部活が遅くなるから」
とすまなそうに言う。
「そっか、じゃあ、残念だけど、また電話するね」
そうして二人は、それぞれの教室へと向かった。
2年の自分の教室へと入り、適当に挨拶する。
「おはようっ」
だがその日の反応は、いつもと違っていた。
「おい、倉田っ」
普段の仲間の一人が、勢い込んで話しかけてくる。
「今日、3年の高嶋さんと一緒に歩いてたろ。
なんか、やけにいい雰囲気だったけど、つき合うことにでもなったのかっ?」
「あ、そうそう。俺も見た。
すっげーいい感じだったよなあ」
「えーっ! マジかよっ!」
わらわらと群がってくるそいつらを、適当に追い払いながら、席に向かう。
隣の草加部はもう席に着いていたが、あっちを向いたまま知らん顔をしている。
…正直、それはありがたくあったが……。
“心配いらないさ。
昨日、彼女の記憶は、すべて消えたはずなんだし“
そう自分に言い聞かせながら、席に着いた。
──と、
「あれ?」
「なんだよ、どうかしたのか?」
声を上げてしまったのを聞きつけて、質問してくる友人を、
「ああ、いや、何でもないって」
そう適当にあしらい、ごまかす。
そしてそいつらの目を盗み、確認した机の中には、……一通の封筒が入っていた。
階段を上り、重い鉄製の扉を押し開く。
開いた扉から、風と共に青く澄み渡った空が姿を現す。
「さて、と」
全ての授業が終わった後、僕は屋上へとやってきた。
朝の、例の封筒の指示に従ってだ。
封筒の中には、短く、
『放課後、屋上に来てください』
とだけあった。
多分、女性の字だとは思うが、はっきりとはしない。
無視しようかとも思ったが、考えを変えた。
なにせこんなのは、生まれて初めてだ。
いろいろと思い悩んだが、一応、顔だけは出すことにした。
とは言え、放課後の屋上には、辺りを見渡しても誰もいない。ただ、校庭で部活動に励む生徒達のかけ声が聞こえてくるだけだ。
「来るだけ来たんだし、もう帰ろうかなあ」
そう独り言を呟く。
そのとき、背後で『キィ…』と扉の開く音が聞こえた。
振り向いて僕は、思わずびっくりした。
「草加部……」
そこには、草加部が立っていた。
少しうつむき、落ち着かなそうに腕を小さく動かし、それでも僕の方を見ながら、彼女は扉から屋上へと出てきた。
そのときまず僕が考えたことは、どうやってこの場をごまかそうか、ということだった。
なんとか彼女を言いくるめ、僕に合いにこの場所に来る誰かのために彼女にどこかに行ってもらおうと。
でも次の瞬間、それがいかに的はずれな考えであったかがわかった。
「ありがとう、倉田君。
来てくれて…」
そう、草加部が言ったのだ。
「…あの手紙、草加部だったの?」
すこし混乱して、訊ねる。
それに対し、彼女は小さく『コクン』とだけうなずいた。
僕の頭の中は、グチャグチャだった。
一番大きかったのは、草加部に対する、夢の中の件での後ろめたさ。それと共に、あれは全て忘れさせたはずとの言い訳と、そしてもしかしたらそれをすることが出来なかったのではという焦り。
そうしたことが混沌となり、思考がまとまらなかったのだ。
だけどそれでも、事態を認識しようと、とりあえず口を動かす。
「それで、どうしたの、草加部?」
「私…」
まるで何かに怯えるように話す、草加部。
その姿には、先日の教室でのケンカの時に見られた気の強さは、どこにも見あたらなかった。
それでも懸命に僕の方に視線を上げた。
必死に何かを絞り出すようなその視線に、僕はドキリとする。
「倉田君、私…、昨日、高嶋センパイと話をして……」
『ドクンッ』 僕の胸の中、心臓が大きく鼓動する。
「話って、なにを…」
「…夢の、話」
「………」
僕は絶句した。
やはり、昨日のあの命令は、効果を及ぼさなかったのか?
今回に限り、一番大事なところで、なんの意味も持たなかったのか?
「草加部、僕は…」
「私、夢の中のこと、憶えてるよ」
僕の言葉を遮るように、草加部が言う。
「…だって倉田君、言ったよね。『ここで起きたイヤなことは、全部忘れるんだ』って。
だから私、憶えてるよ。
いろんなことを……」
“それは…” どういうことなのか。
そう話そうとしたが、口の中が乾いて、舌が上手く動かない。
「本当はね、忘れてることもあるのかもしれない。それはもう、自分ではわからないことだし…。
でもね、やっぱり憶えてることも、あるんだよ」
「どうして…」
なんとか、それだけが口から出てくれた。それだけを話すのにも、今の僕にはひどい苦労を要した。
それでも彼女は、その意味を正確に理解してくれた。
「多分ね、倉田君。あの夢の中での出来事は、私にとって辛いことだけじゃあなくって、…嬉しいことも、あったんだよ」
もうすぐ夏を迎える暖かな日差しが、僕等に降り注ぐ。
そんな日溜まりの中、風に軽く髪をそよがせながら、顔を赤らめ、それでも今ではしっかりと僕の目を見て、意志のこもった声で言う。
「私ね、倉田君。
私、ずっと、倉田君のことが好きだったから……」
風に乗って、いろいろな音が聞こえてくる。
グランドにいるの生徒達の声、吹奏楽部の練習の音、少し離れた場所にある国道を走る車の駆動音…、そのすべてが、遙か遠くの物のように感じる。
僕は、ただ何も言えずに、彼女を見ていた。…続く言葉を、待ちながら。
「私ね、ずっと、ずっと倉田君を見てた。
一年のとき、始業式の日、初めて会ったときから」
その日、僕等は、初対面にもかかわらず大喧嘩をした。
理由はもう、思い出せないけど……。
「でもね、ホントは私たち、その前に一度会ってたんだよ。
…倉田君は、全然憶えてくれてなかったみたいだけど」
「え…?」
僕は、混乱する。
そんな記憶は……
「ねえ、倉田君。ネコ、飼ってるでしょ? …夢の中で、『カル』って呼んでた」
唐突に、彼女がそんなことを訊ねてくる。
頷くことで、答えた。
「あのネコ、拾ったんだよね? 一昨年の、冬に」
「な…っ!?」
「後ろ足をケガして、血がいっぱい出てて、寒さで震えてて…。あのまま放っておいたら、あの子、死にそうだった」
そのときのことが、頭によみがえる。
あれは冬の、本当に寒い日で、僕は祖父の家に遊びに行った帰り道だった。
何を感じたのだろうか、ふと道の脇を見ると、そこには動けなくなったカルと、その脇にしゃがみ込んだ泣きそうな顔をした……
「あのときの…?」
静かに、それでも嬉しそうに、草加部は頷く。
「あのとき私は、何をしたらいいのか、全然わからなかったの。
ただ、おろおろして…、何も出来なくて、ただあの子を見てたの」
彼女は話す。
「そうしたら、道を歩いてた男の子と目があって。
その人、何にも言わずに、ただその子を抱き上げてどこかに連れて行ったの。
……あの子、血だらけだったけど、それが服に付くのなんか、全然気にしない様子で」
僕はそのまま、ヤツを動物病院に連れて行った。
「だから私、きっとあの人は、あの子猫を助けてくれるんだって、わかったの。
きっとあの子、死なずにすんだんだな、…って。
そうしたら、それから何か月かたって高校に入学したら、おんなじ教室にその人がいたの。
私、すぐにわかった。あ、あのときの人だって。
……すごく、嬉しかった」
そんなふうに話す彼女は、本当に嬉しそうだった。
「でも倉田君は、私のことなんか、全然憶えてなくって。…当たり前だよね。私、全然違ってたもの。
髪だって変えたし、眼鏡も止めてコンタクトにしたし。高校に受かったのが嬉しくて、変えたばっかりだったのにね。
それでも私、あのときの人にまた会えたのが嬉しくて、舞い上がってて…」
そうして、少し苦笑する。
「なんにも考えないで話しかけて、でも相手は訳が分からないって顔をしてて。
気がついたら、ケンカしてた。
何でそんなことになっちゃったのかは、…ははっ、私も、憶えてないんだけどね。
…ごめんね、倉田君。ただ、そんな、一方的なことだったんだよね」
「草加部、僕は…」
「それでも、私、倉田君を見てた。見てるうちに、だんだん、もっともっと好きになって…。
でもね、そんなことをしているうちに、気がついたら、倉田君は他の女性(ひと)を見てたの」
…そう、多分僕はそのころから、由香里センパイのことを見ていた。
「私、どうしていいのかわからなくて。倉田君とどう話とかしていいのか、わからなくて。
…みんな私のこと、人当たりのいい元気なヤツって思ってるけど、……肝心なとこで、不器用だよね」
そんな風に笑う彼女は、今までで一番弱々しく見えた。
「だから、ごめんね、倉田君。
今までの、倉田君のことを避けたり、突っかかったりしたのは、全部私の、一方的な気持ちから出てただけなの。
倉田君には、いい迷惑だったよね」
草加部は、再びうつむいてしまっていた。
何かに耐えるかのように、小さく、その細い身体を震わせている。
「草加部。僕も、謝らなくちゃならないことがあるんだ」
そう、彼女だけが悪かったわけではない。
特に夢の中で、僕が彼女にしてしまったこと。それだけは謝らなくてはならなかった。
だけど、草加部はそんな僕の言葉を続けさせなかった。
「夢の中に倉田君が出てきて、──そこはよく憶えていないけど、酷いことをされて……。
でも私は、それは私自身に対する罰だと思ってた。
ずっと、私自身が倉田君にしてきた、酷いことへの罰だって」
彼女の独白は続く。
「そのことは多分、辛かったんだと思う。よく憶えてないってことは、倉田君の言葉通りになったって意味だと思う。
でも、さっきも言ったけど、嬉しいこともあったんだよ。
ねえ、教えて? あの夢の中にも出てきたネコ、元気なの?」
「…うん。元気だよ。夢の中での通り、少し後ろ足を引きずるようにはなってるけど、元気にやってるよ」
「そっか…、よかった……」
ほっとしたように、本当に嬉しそうに、草加部が呟いた。
そんな彼女を前に、僕にはかける言葉など無かった。
屋上を、流れる雲の影が通り過ぎていく。
ただ黙って、二人、きれいに晴れた青空の下で、向かい合っていた。
「倉田、君」
そっと…、草加部が、そんな沈黙を破った。
「私、倉田君が、好きだよ。
やっと、言えるよ。
…もし、よければ……」
「ごめん、草加部」
今度は僕が、彼女の言葉を遮る。
「僕は、草加部とはつきあえないよ」
「……そっか、そうだよね。
朝、倉田君と高嶋先輩が一緒にいるのを見て、わかったもの」
…草加部は、泣いていた。
今まで、どんなときにも僕に対して勝ち気な表情を向けてきた彼女。
その彼女の目から、透明な涙がこぼれていた。
「…っ、ごめんねっ。
こんなので、泣くつもりじゃあなかったのに……」
懸命に、嗚咽をこらえようとする草加部。
思わずそんな彼女の肩に手を伸ばしかけ、止めた。
彼女のことを拒絶した僕に、そんな資格などなかったから……。
「ごめんっ、ね。
うん、…それじゃっ」
最後に、そんな言葉を残し、草加部は校舎の中へと足早に去っていった。
僕は最後まで、無言でそれを見送った。
『ガシャン』と、屋上のフェンスに背中を預ける。
「はあ……」
自然と、息が漏れた。
草加部は、泣いていた。
僕は本当に、彼女に何かしてやることは出来なかったのだろうか?
彼女が泣かなくてすむような、何かを僕は持ってはいなかったのだろうか?
……そんな意味などないとわかりきっている繰り言が、何度も頭の中を巡って止まらなかった。
『キィ…』と、扉の動く音がした。
ぼんやりとそちらを見ると、そこには由香里センパイが立っていた。
「センパイ?」
──なぜ、彼女がここにいるのか。
そんな考えが顔に出ていたのだろう、センパイはおずおずといった感じでフェンスに寄りかかった僕のところまでやってくると、言った。
「ごめんね。…全部、聞いてた」
いたわるかのような目で、僕を見る。
「朝の、稔くんと彼女の様子が気になって。
授業が終わって、稔くん達の教室に行こうとしたら、草加部さんが階段を上がってくのを見て、それで……」
それで、彼女の後をついて、ここに来たわけだ。
そっと、彼女の手が僕の背に回された。
きゅっと、僕を抱きしめてくれる。
身長は少しだけとはいえ彼女の方が低いのに、なぜか僕は彼女に包まれているような、そんな気持ちになる。
「センパイ……」
僕も、彼女のことを抱きしめ返す。
触れた身体を伝わって、彼女のぬくもりが僕の心に染みこみ、なんだか泣きたいような気分になってきた。
「だいじょうぶだよ、稔くん……。大丈夫…」
そう、センパイがささやいてくれる。
…彼女がそう言ってくれたから、僕は泣かずにすんだ。
しばらくして、僕等は別れ、僕は自宅に、センパイは部活へと向かった。
「ずいぶん、遅刻しちゃった」
そう言ってセンパイは、いたずらっぽく笑ってくれた。
だから僕も笑って、
「じゃあね、センパイ」 …そう言った。
……別れ際、彼女が不思議な表情をして、僕を見ているのに気がついた。
何か言いたそうな、問いかけるような、探るような、そんな表情。
「どうしたの? センパイ」
訊ねる僕に、
「あ、ううん、何でもないよ」
そう言って、身を翻した。
「それじゃあ、またね。稔くん」
由香里センパイはそう挨拶すると、今度こそ部活廉の方に向かい姿を消した。
……由香里センパイから急な電話が入ったのは、その日の夜も遅くなってからだった。
彼女は携帯に出た僕に、『今から、会える?』と訊ねた。
「今日、私のうち、お父さんもお母さんも帰ってこないことになったの。
今から、来れないかなあ?」
もちろん、僕はすぐに行くと応えた。
センパイに会えるのはそれだけで嬉しいことであったし、それに、まあ、要はスケベ心も確実にあった。
指定された駅の、駅前にあるコンビニに入ると、すでに私服姿のセンパイが待ってくれていた。長い髪を、軽く後ろに束ね、ゆったりとした服を着ている。
二人で食べ物や何やらを買い込んで、あれやこれやと会話しながら、彼女の家に向かう。
センパイの家は大きなマンションの一室で、セキュリティやなにやらがしっかりしたところのようだった。
正面ロビーを抜け、エレベーターに乗る。
このころから、だんだん会話が減ってきて、なんだか僕はセンパイを強く意識してきてしまっているのを自覚する。
それは彼女も同じようで、頬が少し赤らんでいるのがわかった。
由香里センパイの家がある階で、エレベーターを降り、玄関の扉をくぐる。
玄関や途中で通ったリビングもゆったりした作りになっており、かなり高そうな部屋に見えた。
センパイの部屋に入る。
女の子の部屋に入るのはこれが初めてで、ドキドキしてした。
センパイの部屋は、思っていたよりは可愛らしい部屋だった。
パステルカラーの、なんだかよくわからないぬいぐるみが飾ってあったり。
部屋はやっぱり大きめだけれど、セミダブルのベッドのせいで、あまり広そうには見えていなかった。
「お茶、入れるね。
何がいい?」
重く感じる雰囲気をごまかすように、センパイがそう訊ねてきた。
だけど僕はそれにはこたえず、彼女を抱きしめ、唇を重ねた。
「んっ……」
いくらなんでもせっかちすぎるとは思うが、それでも心の方が高ぶってしまっていて、押さえることが出来なかった。
それは由香里センパイも、同じだったのだろうか。
両手で僕にしがみつき、舌を僕の舌にからみつかせ、僕の欲望に応える。
お互いの唇をむさぼり会いながら、二人の身体が、際限なく熱くなっていくのを感じる。
「ぷはぁ…」
二つの唇が離れ、その間を細い唾液の線がつながり、そして切れる。
「その…、ご奉仕、するね」
白い顔を真っ赤にしてそう言うと、センパイは僕をベッドに浅く座らせ、脚の間に身を滑り込ませてひざまずいた。
ベルトを外し、チャックを下げ、ズボンとトランクスとをずり下げ、僕のモノを解放する。
「あ……」
すでに十分に大きくなった僕のペニスを見て、センパイの口からため息のような声が洩れる。
「ん…、ふぅ……んっ」
“ぺちゃ…、ぴちゃ…”
センパイの熱い舌や唇、そしてひんやりと冷たい細い指の感触が、僕のモノの上を何度も撫で上げる。
その快感に、僕の興奮は一気に高まってしまう。
「由香里センパイ。
センパイの中に、入れたい」
「……うん」
そう言うと、センパイは僕の足下から立ち上がり、服を脱ぎ始める。
僕もあわてて、シャツを脱いだ。
「その、稔くん。…これ」
なにやらセンパイが持ち出す。
それは、小さなビニールの包みだった。
「こっちじゃ、そのままだと、危ないから……」
それはコンドームの包みだった。
「あ、うん。そうだよね」
夢の世界での行為に、慣れすぎていたのかもしれない。
この世界では避妊というのは、当然考えなくてはならない事だった。
そんな当たり前のことに気がつかなかった自分に、呆れてしまう。
「……つけて、あげるね」
そう言ってセンパイは、その包みを破りゴム製品を取り出すと、再び僕の足下にひざまずく。
『ぴちょ…』
ペニスの先端に冷たい感覚が触り、僕の背筋を震えが駆け上がる。
そしてセンパイのひんやりした指の感覚がペニスの上を撫で上げ、くるくるとそれを薄いゴムでくるんでいった。
「なんか、上手いね」
つい、余計なことを言ってしまった。
センパイは顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にして、恨めしそうな目をして僕を見上げ、
「稔くんが、夢の中で『いろいろ勉強しろ』って言ったんだよ」
と文句を言った。
「あ、ごめん。そんなつもりじゃあ……」
そう言いながら、ごまかすようにセンパイを立たせ、再びキスをする。
「あ…、んっ……」
そのまま、ベットに押し倒した。
「……ずるいよ」
「うん、ごめんね」
彼女の胸の膨らみに、手をやる。
そのすべらかな、弾力のある手触りを楽しむうちに、センパイの息が荒くなり始める。
「んんっ…っ」
唇を、センパイの肌の上に這わせる。
その耳元から、首筋へ。鎖骨の辺りを通過し、片方の乳房とその先端をを軽く舐めた後、脇腹へ。
「ああ……っ」
そこからさらに下へと移り、いったんは太股の内側を軽く噛む。
「んっ……っっ!!」
思わず、というように声をもらす、センパイ。
その反応を楽しみながら、今度は上へと移動し、その秘めやかな部分に、口づけした。
「あっ、ああ……っ!」
センパイのそこは、すでにしとどに濡れそぼっていた。独特の臭みのような、頭の後ろに響くような香りが、そこから立ち上っている。
「センパイ、すごく濡れてるよ。
もしかして、僕のを舐めてるときから、濡らしてた?」
「そん…な、……っん!」
舌で、彼女の一番敏感な部分をつつく。
それだけで、由香里センパイは太股をびくびくと痙攣させるように反応した。
「由香里センパイ、もう、いいよね。
入るよ」
身体をずり上げて、彼女と重なる。
「…うん」
そして僕は、彼女の中に入った。
熱くぬめった肉が、僕のモノを包み込む。
「んんん~~っ!」
唇を噛んでこらえる彼女。
年上の彼女が、自分の動きによって、こんなにも感じている。
そのことが嬉しくて、さらに興奮を引き上げる。
「由香里センパイ、さっき、いろいろ勉強した、って言ってたよね」
意地悪く、センパイの耳元でささやく。
「それ…、は…っ」
「どんなふうに、勉強したの?
やっぱり、女の子って、そういうのに詳しい友達からとか、聞くの?」
腰の動きを止めずに、そんな質問をする。
彼女も興奮しているのだろう。僕の動きを助けるように、腰をもぞもぞと動かしている。
「そんな、…人になんか、聞けないよ……。
そういう、雑誌とかを、読んだりとか…、あと、稔くんが、言ったみたいに、…インターネット、とか……」
きれぎれな息づかいで、恥ずかしそうに、それでも健気にそんなふうに応える彼女に、僕は一気に高まってしまった。
「ごめん、センパイ、もうイくよ。
がまん、できないっ」
「うん、私も、もうっ、だから…。
きて……っ!」
両手を僕の背中に回して、必死にしがみつく。
彼女の中がギュッと締まり、
「あああ~~っっ」
“どくっ、どくっ…”
僕はセンパイの中で、彼女と共に絶頂に達した。
「はあっ、はあっ、はあ…」
「ふぅ、ふぅ……」
二人重なり合い、ベッドに倒れ込む。
部屋の中、2種類の荒い呼吸音だけが響き渡る。
「センパイ…」
その唇を求めようと、脱力した身体を引きずり起こそうとしたそのとき、
『カチャ…ッ』
背後で、扉が開く音が聞こえた。
「え……っ!?」
あわてて、後ろを振り向く。
その動作で、僕のモノがセンパイの中から、『ヌポッ…』というような間抜けた音を立てて抜け出た。
そして……
「なんで…」
それしか、言葉が出てこなかった。
なんで、こんな事になっているのか。
なんで、そんなところに立っているのか。
なんで……
…だけど、そんな呆然として現状を認識できていない僕に、それが現実だと教えてくれたのは、由香里センパイの声だった。
「じゃあ、いいんだね?
決めたんだね、……草加部さん?」
そんなセンパイの、僕には理解できない質問に対し、
「はい……」
──草加部は、そう頷いた。
草加部が、立っていた。
今の彼女は制服を着て、由香里センパイの部屋の中にいた。
顔を赤く染め、唇を噛みしめて、それでも懸命に僕の方を見ている。
はっと、あわててシーツを下半身に纏(まと)う。
でも、そんな僕に対して、由香里センパイはその汗に濡れた肌を隠そうともせずに、ゆっくりと上体を起こしただけだった。
「由香里センパイ…?」
彼女に、話しかける。
先ほどのセンパイの言葉の意味は理解できなかったけど、それでも彼女は何かしら、今の状況についてわかっているようだった。
なんでもいい、とにかく、彼女に何か言って欲しかった。
しかし、彼女の口から出た言葉は、
「草加部さん。
服を脱いで、こっちにおいでよ」
「な…っ、センパイっ…」
驚く僕の耳に、
『ファサ……』
という衣擦れの音が聞こえてきた。
「な……」
目の前で、草加部が制服に手をかけ、それを脱ごうとしていた。
襟元のスカーフを外し、足下に落とす。
その白い指がブラウスのボタンを上から順番に外してゆき、その下からは白い下着が姿を現した。
「稔くん…」
耳元で、由香里センパイの声がした。
その声は抑えるような、それでも確実に熱い何かを僕の耳に伝えた。
「彼女を、見てあげて」
「センパイ…」
彼女の胸が、僕の背中に押しつけられ、つぶれる感触がする。
両手が僕の前に回され、僕の胸元や腹を優しくなで回した。
「私が、彼女を呼んだの。
今日あの後、彼女と話をして……、それで、よかったら、おいでって」
草加部のブラウスと、そしてつづいてスカートが、床に落ちる。
白い下着姿の彼女は本当に綺麗で、その非現実的なほどにほっそりとしたスタイルも手伝い、まるで人形の様に見えた。
「稔くん…。彼女も、私とおんなじなんだよ」
センパイの手が、僕の半ば縮こまった肉茎に伸ばされる。
「うっ…」
ひんやりとした細い指が敏感なそれにからみつく感触に、思わず僕は情けないうめき声を立ててしまった。
「彼女も私とおんなじ…、
稔くんのことを好きなことも、…あの夢の中で、稔くんに変えられちゃたことも」
僕のモノに添えられた指が動き、避妊具を外していく。
センパイは取り外したそれを、ベッドサイドのゴミ箱の中に捨てた後、あらためて僕のペニスをゆるゆるとしごき始めた。
くちゃくちゃと、僕の出した精液で濡れた肉棒とセンパイの手が立てる音が、静かな部屋の中に響く。
そんな中、草加部は下着までも脱ぎ始めた。
両手を後ろに回して、ブラジャーののホックを外す。
肩ひもが滑り落ちて、わずかに膨らんだその乳房が、顔をのぞかせた。
「私、自分がこんなふうになっちゃうなんて、思ってもいなかった」
由香里センパイの独白は続く。
「稔くんが、あの夢で、私をこんなにしたんだよ。
…でも、誤解しないでね。私、今の自分が嫌いじゃない。
稔くんのことが好きで、稔くんに抱かれて、すごく幸せな気分になれて。…こんなにエッチになっちゃったけど、でもとっても気持ちいいことを知って。
……だから今、私、幸せだよ」
草加部のブラジャーが外され、彼女の乳房の頂上の、綺麗な乳首が僕の目にさらされる。
「……草加部さんも、私と一緒なんだよ。
だから私、彼女と話をして、ここに呼んだの」
草加部の細い脚から、最後の一枚が抜き取られた。
「…………」
彼女の身体は、夢で見たとおりに、とても綺麗だった。
細い、女性としての曲線を残しながらも、可能な限り余分な物をこそげ落とした様な、そのスレンダーな姿。
それは、まるで人形か絵のなかの女性のようにほっそりとしていて、それでも確実に男である僕に対して、欲望を感じさせないではいられない物だった。
「草加部…」
僕の口から、彼女の名がもれる。
その声に反応してだろうか、彼女は、僕を見る。
その目は恥ずかしさから来る物だろう、涙にうるんで、それでも真っ直ぐに僕の目に向けられていた。
「倉田君…、私、倉田君のことが好きだよ。
私も、高嶋先輩と、一緒。
倉田君のことが好きで、倉田君に……抱きしめて欲しいよ」
その草加部の声はまるで熱に浮かされたように、わずかな震えを含んでいた。
「前に言ったよね。私は、夢の中のこと、全部忘れた訳じゃないっ、…て。
私、憶えてるんだよ。
夢の中で、気持ちよくなったこと。
……だから…………」
背中に抱きついていたセンパイの身体が、すっと離れた。
そのまま彼女はベッドを降りると、僕の前に回った。
「ん……っ」
センパイの顔が降りてきて、彼女の唇が軽く僕の唇と重ねられる。
僕は彼女の頬に手を伸ばし、撫でながら、訊ねた。
「由香里センパイ。
センパイは、それでいいの?」
「言ったでしょう? 彼女をここに呼んだのは、私なの。
彼女は、私と同じだから……。
それにね、私は、稔くんが幸せになってくれればそれでいいの。
だって……」
センパイの顔が、とても優しく笑った。
「私は稔くんの恋人で、……そして、ずっとあなたの従者なんだから。
そうでしょう?」
“それは……”
──そして、僕は理解する。
あの夢は、現実につながった夢だと。
そして僕は、由香里センパイは、草加部は、……この部屋は、夢の続きだ。
一瞬、様々な思いが頭の中を駆けめぐった。
僕は、本当にこんなふうに、センパイとなりたかったのか。
もっと他の、全く違う道があったのではないか。
……だけど、それはほんの一瞬だった。
由香里センパイは、今、幸せだといってくれた。
それだけは、確かなんだ………。
「草加部」
彼女に、呼びかける。
「こっちに、来て」
草加部はおずおずと、ベッドに上がる。
センパイが、スッと場所を譲ってくれた。
「草加部…」
彼女の裸身を抱きしめ、キスをした。
僕の腕の中に入ったその身体はやっぱり細くて、少しでも力を入れすぎれば、それだけで折れてしまいそうに感じる。
「んん…んっ」
草加部は顔を真っ赤にしながら、きつく目を閉じ、それでも懸命に僕の舌の動きに応えようとしていた。
そのぎこちない動きに、僕は彼女とキスをするのが、夢を含めてもこれが初めてだったことを今更ながら思い出した。
「は…ぁ」
二人の唇が、離れる。
それを確認して、センパイが草加部に声をかけた。
「草加部さん。
それじゃあ、いっしょにご奉仕しようか」
「……はい」
壁に背を預け、脚を投げ出すようにベッドの上に座る僕の股間に、二人は裸身をうずくまらせるようにして顔を寄せた。
「ん……」
“くちゅ…” と、まずセンパイが僕の肉茎に口づけた。
“ぺちゃ…、ぷちゃ……”
舌を伸ばし、先ほどの行為で出した精液に汚れた僕のペニスを、舐め、清める。
「んん……っ」
そしてその反対側に、今度は草加部の熱い唇が押しつけられた。
「ん……あっ…」
舌先で、亀頭の付け根の段差になった部分を、何度もくすぐる。
右側では由香里センパイが、舌を大きく出し、舌全体を押しつけるようにペニスの腹をなめ回し刺激を送ってくる。
それに対して左側では草加部が、カリ首の辺りをちろちろと嬲っている。
二人の手の指が、肉茎の根本から太股の内側にかけてをさわさわとなで回した。
熱い息が吐き出され、それすらも快感として僕の股間をたぎらせる。
「う…、ん」
“ぬちょ……” と、センパイが僕のモノを口の中に納めた。
ペニス全体を、熱く湿った口腔内の感覚が包む。
「んっ…、んん……」
そのままセンパイは、口をすぼめて僕の肉棒を吸いながら、頭を上下させた。
口の中ではセンパイの舌がべっとりとまとわりつき、亀頭や、腹の部分に刺激を送ってくる。
「くっ……」
あまりの快感に、思わず声が洩れた。
センパイはそのままいったんペニスから口を離し、草加部に場所を譲る。
それに入れ替わって、今度は草加部が、センパイの唾液をまぶされた肉茎を、口に含む。
「むぅ…、うん……っ」
やはり熱い、それでいてやはりどこかセンパイの口の中とは違う微妙な感覚。
草加部は先端部分のみを口の中に納め、唇をすぼめ、亀頭の付け根を圧迫する。
口の中では舌がうごめき、僕のペニスの先端をねらい刺激してくる。
“ぴちゃ…、ぺちゃ……”
センパイがその脇から顔を入れ、草加部の口からはみ出たサオから根本の部分までを、舌でなんどもねぶるように舐めた。
“くちゅ……っ”
二人の、しかもそれぞれに魅力をもった女の子が、全裸で自分のペニスに奉仕しているという信じられないような光景と、股間から起こる圧倒的な快感に、僕は目眩にも似た感動を覚える。
「くうっ……」
今にも射精しそうになるのを、唇を噛んで必死に耐えた。
そんな僕の様子に気がついたのだろうか。由香里センパイはいったん僕のモノから顔を離すと、肉棒の腹の部分とその舌にある袋をさわさわと両手で愛撫しながら、僕の顔を見上げて言った。
「稔くん、我慢なら、しなくていいんだよ」
僕の袋を優しい手つきでさすりながら、語りかけてくる。
「いつでも、稔くんの出したいときに、出してくれればいいんだからね。
私も、草加部さんも、何度だって稔くんの匂いや、味を確かめたいの」
それに同意するように、草加部の僕を吸う力が、いっそう強いものとなる。
舌先が、尿道口の辺りを、何度もねぶった。
センパイが再び僕の股間へと顔をうずめ、ペニスに口づける。
サオに唇を当て、強く吸い上げる。
それが、限界だった。
「ん……んんっ!」
“びゅくっ、びゅくっ、…”
草加部の口の中に、押さえきれなくなったものを放出する。
自分でも信じられないほどの勢いで、尿道を通り、ペニスの先端から精液がほとばしる。
「んあ…っ、んんっ!」
“ごくっ、ごくっ…”
草加部の喉が動き、口の中に出された僕の樹液を嚥下する。
しかし、あまりに勢いよい射精についていけず、唇の端から白い粘液が漏れた。
その粘液は、つうっ、と彼女の顎を通り、白く細長い首筋にたれ流れる。
“ぴちょ…”
その精液を、由香里センパイの伸ばされた舌が、舐め取る。
センパイはそのまま粘液の残した筋を辿るように、舌を草加部の首筋から顎へ、さらに唇へとなぞっていった。
「あっ…ん……」
そしてセンパイの唇はそのまま、草加部の唇と重なる。
“くちゅ…、ぬちゅ……”
口元に残った精液の残滓を舐め取ると、さらに草加部の口の中に舌を伸ばし、口の中に残っている粘液を啜り、飲み込む。
「んあ…、んん……」
草加部の飲みきれなかった精液が、彼女の唾液と共にセンパイの口の中へと移っていく。
『こくっ』と、センパイの喉が動き、僕は彼女がそれを嚥下したの知った。
“ぴちゃ…、くちゅ……”
二人は唇を合わせ、互いに舌を絡めながら僕の精液をすすり合う。
そんなふうにして精液をすすり合う彼女等を、僕は脱力した身体で眺めていた。
“ぬる……”
僕のペニスに、センパイがあらためて避妊具をつけてくれた。
さっきの放出の後、二人は僕の精液を一滴残らず、すすり終えた。
その後、草加部はまだ樹液で汚れた僕の肉茎を、舌で綺麗にしてくれた。
彼女の刺激で再び起立した僕のモノに、今度はセンパイがコンドームをつける。
センパイは、薄いゴムで包まれた僕のペニスをゆるゆるとしごいて愛撫しながら、上目づかいに僕の目を見上げ、言った。
「それじゃあ、稔くん。
今度は、草加部さんを抱いてあげて?」
その言葉に、草加部が今まで以上に顔を赤らめる。
だけど、僕はもう決心していた。
「草加部…」
草加部の顔に手を添え、唇を重ねる。
「ん……」
そのまま唇を滑らすと、彼女の耳たぶをしゃぶり、軽く歯を当て、咬んだ。
「ああ……っ」
草加部の口から、怯えるようなため息がもれる。
それに後押しされるかのように、僕の手と唇は彼女の体の上をはい回る。
舌をわずかにふくらんだ乳房の間に滑らせながら、わきから腰に通じるラインを、すべらかな肌の感触を楽しみながら、てのひらで優しく撫でる。
そのまま体をずり下げ、彼女の下半身を責め立てた。
「あっ…、いや……っ」
限りなく細い両のふとももに手をかけ、わずかな抵抗を感じながらも、それを開く。
草加部のそこはすでに濡れていて、薄目の陰毛に粘液がまとわりついていて鈍く光っていた。
その割れ目に、舌を伸ばし、先ほどのお返しとばかりになめあげる。
「ああっ、倉田く、ん……っ!」
「草加部…、こんなに、濡れてる……」
鼻腔いっぱいに、彼女の『女』の匂いを感じる。
それに興奮しながら、指で、ひだをかき分け、舌をとがらせ、奥に押し込む。
じゅくっ…と、彼女の快楽の証が、奥からにじみ出てくるようだった。
「ふうっ、ふう…っ!」
僕の頭を挟む、彼女のふとももの内側の筋肉が、びくびくと痙攣のように引きつるのを感じた。
「草加部さん…」
人の動く気配を感じ、そのままで目だけを上に移す。そこでは由香里センパイが、草加部の上半身へと覆い被さろうとしているところだった。
「ん……」
センパイは草加部の首筋に顔を埋め、舌で愛撫しながら、手を彼女の薄い乳房や脇腹に、優しく這わせた。
「ん、んんっ」
草加部の細く、白い肌の上に、センパイの長い黒髪が広がり、波打つ。
そんな光景を目で楽しみつつ、僕はセンパイに負けぬよう、指と舌で草加部に快感を送り続けた。
“ぬちゃ…、にちゃ……っ”
指は何度も粘膜をかき分け、舌でその上の肉の芽を探り出し、唇で軽くなぶる。
その度に、彼女のそこは、ますます熱く、そして濡れていった。
「うぁ…っ、倉田く……、せんぱ…いっ
わたし、もう……っ!」
食いしばるように歪められた草加部の口から、そんな言葉が必死に発せられる。
センパイが体を起こし、彼女の頬を手で優しく撫でながら、訊いた。
「もう、欲しいの?」
「はい…、はい……っ!」
体を震わせながら、それでも懸命に頷く。
僕の股間も、もう我慢が出来ないほど、痛いほどにいきり立っていた。
草加部の脚の間からいったん身を引き、彼女の興奮で濡れた口元をシーツの端でふき取る。
その間に由香里センパイは、草加部の上体を軽く起こし、その背中に回った。
今度は後ろから、草加部の体に手を回し、首筋に舌を這わせ、ささやかに膨らんだ乳房や、ふとももを両手でそっと愛撫する。
「はあっ、は…っ!」
そしてセンパイの手により、草加部の足が開かれ、その奥にある彼女のもっとも大事な部分が露わにされる。
センパイは草加部を刺激しつつ、興奮したような濡れた瞳で僕を見た。
「稔くん……、ほら、草加部さん、こんなに欲しがってるんだよ…?」
その声は、やはり興奮に震えている。
「うん…。凄くえっちで、……綺麗だ」
そう、素直に思う。
しかし草加部は、僕らのそんな言葉に耐えられないような羞恥を感じ、真っ赤な顔をふるふると何度も横に振った。
そんな、小さく身を震わす草加部がたまらなく愛おしく思える。
「大丈夫だよ、草加部さん。
稔くんと、私もそばにいるから」
センパイが草加部を、後ろからきゅっと抱きしめる。
草加部は、それでも不安そうな顔は隠せなくても、でも確かに小さく頷いた。
僕は彼女の脚の間に、体を割り込ませる。
顔同士がふれあうほどの間近で彼女の目を見つめ、訊ねる。
「草加部、いいんだね?」
「……うん。
お願い、倉田くん……」
そういって、目をきつく閉じた。
そんな彼女に身をすり寄せるようにして、僕は股間のものを、草加部のそこにもっていく。
“ぺちゃ…”
亀頭の先端が、熱く濡れた粘膜に触れる感触。
「ん……っ」
草加部の両の眉が、緊張にゆがむ。
その表情に陶酔を感じながら、僕は彼女の中に腰を進めた。
「んあっ…っ!」
草加部の顔がさらにゆがむ。
その顔は、これ以上ないほど真っ赤に染まっている。
ペニスの先端に、きつい抵抗を感じる。
だけど僕はそれを無理矢理こじ開け、最後まで中に進んだ。
「んっ、くぅ…──っっ!!」
彼女の食いしばった口元から、言葉にならない叫びが発せられた。
その細い両手で、驚くような力でもって、必死に僕にすがりつく。
「草加部、全部入ったよ。
わかる?」
こくこくと、懸命にうなずく彼女が、こんなにも愛おしい。
その心の内からわき上がってくる心地よい思いに満たされながら、僕は全部を草加部に包まれたまま、彼女が落ち着くのをじっと待った。
「はあっ、はあっ…」
草加部の荒い呼吸が、それでも徐々に規則的なものへと変わってくる。
「どう、草加部さん。
もう大丈夫?」
その耳元で、センパイが気遣うように訊ねる。
「う…、ん。
お願い、動いて、倉田くん…」
その声は辛そうだったけれど、それでもはっきりとした意志を感じられた。
僕はそれに応え、ゆっくりと腰を動かしはじめる。
「……っく!」
必死に痛みに耐えているだろう、草加部。
そんな彼女に気を遣いつつ、焦る気持ちを抑えながら、出来るだけ優しく腰を前後させる。
初めての彼女の中は、ぎちぎちと僕を締め付けてくる。
まだこうした行為のことを何も知らないその器官が、ただがむしゃらに僕のモノを締めつけようとしているような、そんな感覚を憶える。
それが嬉しくて、乱暴に動きそうになる自分を、懸命に抑えた。
深く…、浅く……
ゆっくりと、何度も、彼女の中を往復する。
「んっく、…んっ!」
草加部の口から漏れるそれは、苦痛か、それとも快楽か。
「んぁ…っ!?」
その草加部の動きに、突然違ったものが現れる。
由香里センパイが、後ろから彼女を刺激し始めたのだ。
汗で濡れた細い首筋に唇を這わせ、手は彼女の胸の頂を軽くいたぶっている。
「せんぱっ、…いや……!」
その唇を、僕はキスをする事でふさぐ。
舌を入れ、彼女の口の中を舐めると、草加部からはくぐもったようなうめき声が漏れた。
センパイの手はさらに、草加部の下の陰りにまでのびる。
「……っ!」
草加部の身体が、ビクンッと動く。
それら微妙な動きが、すべて彼女の膣を通り、僕のペニスに刺激となって伝わってくる。
“ぬちゃっ、にちゃ…っ”
二人のつながった場所が、ぬめった音を立てる。
僕は急速に、興奮が高まっていくのを感じた。
幾分早く、腰を動かし、自身の快楽を引き出す。
草加部はもう、ただふるふるとく首を振るだけだった。
……と、センパイの手が伸ばされ、僕の背中を触った。
その手がそろそろと、下の方に移動する。
「センパイ…?」
そしてその手は腰の辺を通り、さらに僕の臀部まで伸びる。
「ちょっ、ちょっと…」
しかしセンパイは、草加部の首筋を舐めながら、何も返事をしない。
そうしているうちに、その指先は、僕の後ろの穴に触れた。
「……っく!」
思わず腰が跳ねる。
「ああっ!!」
強く突き上げられた草加部が、悲鳴にも似た声を上げる。
「センパイ、由香里センパイ。
そこは、ちょっと……っ!」
しかしセンパイは、止めようとしない。
目元を淫らに赤く染め、僕の目を見て言う。
「だめだよ、稔くん。
私に、ここも気持ちいいって教えてくれたのは、稔くんなんだからね…」
そう言って彼女は、指先を穴のあたりでさわさわと動かした。
「っぐ…!」
「あんっ!」
僕の腰がうごめき、そして僕の肉茎に貫かれた草加部が、それに合わせて悶える。
僕は首を伸ばし、草加部の裸の肩越しに、由香里センパイと唇を合わせた。
「んん……っ」
何度も舌を絡め、唾液を相手の口の中に送り合い、またそれをすすり合う。
僕と、由香里センパイと、草加部と…。
三人は、まるで淫らな虫であるかのように、絡み合い、うごめき合う。
僕はただひたすらに腰をうごめかせ、草加部の中を律動し、つきぬ快楽をそこから汲み上げ続けた。
絡み合う舌、淫らな匂いを存分に吸い込む鼻腔、重なり合う汗にぬれた肌、そして肉茎を締め付ける熱い粘膜……。
それらが溶け、崩れ、グチャグチャに混ざり合い、そして快楽として一体となる。
気が狂いそうになるほどの、快感。
そしてそれはやがて、圧倒的な力で堰(せき)を破り、尿道を駆け抜け、先端で爆ぜる。
「はあっ、はあぁっ、……あああ~~っっっ!」
「く……うぁっ!」
草加部の中が、痛いほどに収縮する。
身体が、ガクガクと震えているのがわかる。
耳のそばで脈打つ血管の音で、他の音が聞こえない。
“どくっ、どくっ…!!”
その音と合わさるようにペニスが脈打ち、精液を放出する。
何度も、何度もそれが出されるたびに、体中の熱が冷めていくのを感じる。
まるで、熱そのものを身体の外へと放出しているかのように。
「はあ、はあ、はあ……」
「ふぅっ、ふぅっ…」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
三人の身体が、ベッドの上に崩れ落ち、重なり合う。
荒い息づかいが重なり、混ざり合い、部屋に響く。
そうして僕等は、弛緩した身体を寄せ合い、抱きしめ合っていた……。
耳元で、二人の安らかな寝息が聞こえる。
あれから僕たちはベッドの上で、何度も、何度も愛し合った。
僕は、何度射精したのだろうか。
彼女たちの口の中で、手の中で、膣の中で……。
そして、彼女たちも、数え切れないほどの絶頂を迎えた。
やがて疲れ果て、気がつくと空はすでに明らみ始めていた。
二人は今、安らかな眠りについている。
放心したような、安心しきったような寝顔で、僕の両脇に横たわっていた。
生まれたままの姿で、肌を寄せ合い、ぬくもりを与え合う。
僕はそんな彼女たちが愛おしく、そっと、腕に力を込め、二人を抱きしめた。
「う……ん…」
「すう、すう……」
その確かな息づかいに、僕は心が満たされていくのを感じる。
『……僕は……………』
──そして僕は目を閉じ、眠りに身を任せた…………
< 第五話 了 >