3
仰向けに、女が横たわっている。
若い女だった。少女と呼べなくもない。10代の後半に、さしかかったあたりといったところか。
鴉の羽根のように黒い髪は白紐で束ねられ、白い肌はわずかに血の気を残している。
目は、閉ざされていた。
童話の中の姫のように、おそろしく整った顔立ちをしている。目鼻立ちがくっきりとし、寝顔はあくまでも穏やかだった。
自由を奪われている。
両手足を太い鉄枷によって拘束されており、石の台座と一体になっていた。
「さて」
部屋の扉をくぐり、男が現れた。白衣を羽織っている。
彼は女の横たわる台座へと歩を進め、手を伸ばせば届く距離でとまった。
「術式を開始します。各データの最終確認を」
「いえっさ」
男の声に連動するように、周囲から助手達が応えた。女だ。男と同じく白衣を着ている。
あわただしく彼と彼女らが動き、横たわる女の周りの計器に目を通す。
「心拍数正常」
「血圧正常範囲内」
「脳波異常なし」
女達が報告する。全ての確認が終わったところで、男が宣言した。
「術式を開始します」
くちゅ……
「がっ!?」
横たわっていた女の腰が、跳ねた。
女の頭部に、男が握る編み棒のようなものが近づけられる。
「あっ、あっ、あっ!」
女のまぶたが開き、白目が覗く。
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああっ!?」
女の身体が痙攣する。
男の手が動くたび、女の瞳孔がめまぐるしく開閉を繰り返す。
くちゅ……
「あっ、あっ、あっ、あっ!」
女が白目をむく。髪を振り乱した。男は匠の技でプローブを微調整し、作業を続けた。
女の口端から、よだれが垂れた。
焦点の合わぬ目を虚空にさまよわせ、ぐったりとする。意識は戻ってきているのだろうが、抵抗する気力はまるで感じられない。
くちゅ……
「あっ、あっ、あっ!」
何度か作業を続ける。
女の叫び声は枯れていた。男は工芸製品を扱うように手を動かし、止めた。
「メルファ様。貴女にとって、ユーキは何ですか?」
「部下の……一人だ…」
くちゅ……
「あっ、あっ……!」
勇輝が手を動かす。まるで楽器のように、メルファが鳴く。
「私は貴女の御主人様です」
「ごしゅ……たわけ……がっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」
メルファが反論しようとした。
勇輝は処理を続ける。プローブが動き、”適切な位置へ”と脳の配線をつなぎかえる。
ひときわ高く、長くメルファが鳴いた。
首を激しく動かす。黒髪がふり乱れた。
「あっ、あっ、あ、あっ!」
びく、びくっ、びくっ。
陸にひきあげられた海老のように腰がはねる。
瞳孔が大きく開く。
口はしから垂れたよだれが、顎をつたい首筋を汚した。
「私は貴女の御主人様です。そして貴女は、私の使徒です」
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」
否定の合図なのか、メルファが激しく首を振った。
その頭部の動きにあわせ、勇輝は構わずにプローブを操作し続けた。
***
30時間前。
武器を構えていた。
目の前には、メルファの小さな背中がある。
深夜の時間帯。場所は都内某高層ビルの屋上。ごうごうと風が荒々しく吹いていた。
勇輝は安全装置を解除した。
まだ、相手は無防備な状態にある。
「――、――」
高周波の圧縮言語を用い、メルファは呪文を唱えていた。
世界中にいる餌の総数――人間の数を調べるため、いかがわしい魔術を駆使して人形を召還しようとしている。
術に集中しているその間は、殺すのにこれ以上ないほどに絶好の機会。
勇輝は銃口を彼女の後頭部に向けた。
S&W500。人類が撃てる限界の威力を備えた銃。
その威力は短身銃でありながら、熊狩りが出来るという。
さらに弾頭には怪しげな魔術と聖水での処理を施し、鬼にも致命傷を与えられるよう威力を高めている。
意を決し、引き金を引こうとした瞬間だった。
ぴた、と呪文の詠唱がとまった。
殺意を読まれたのか。凄まじい勘のよさ。
勇輝の背筋を、冷や汗がつたった。
「何を考えておるのかね、ユーキ?」
「えーとですね、とある漫画に素晴らしい台詞があったんですよ。それを試そうかと」
「ほぉ、言ってごらん」
「臓物をブチまけろ」
ドンッ、と重厚な音が響く。
避けられた。
やばい。
勇輝は身をかがめた。先ほどまで頭部のあった部分を、メルファの足が通過した。
確かに避けた。
だがその蹴りが音速を超えていたために、衝撃波が勇輝の身体を凪いだ。
吹き飛ぶ。
2転、3転。
コンクリートの外壁にあたり、ようやく止まった。
ふらつきながらも、勇輝が起き上がる。
尋常な人間ならば死んでいるが、生憎と彼も人間ではない。
だが、ふと、両耳に違和感を感じた。
音が消えていた。
先ほどの衝撃で、鼓膜が破れたらしい。
『ボクが何か気に障ることをしたかい?』
頭に直接、声が響いた。
顔を上げると、メルファがこちらを睨んでいた。
「いえ、貴女に恨みは……ないでもないですが、それは別に関係ありません」
『まどろっこしい言い方をするにゃ。今のセクハラの理由は一体なんなのさ』
「野心ですよ。貴女の上に立ちたいんです」
『くっ』
どこかのツボに入ったのだろうか。
腹をかかえ、メルファは闊達に笑った。
ひとしきり笑うと、勇輝に質問をした。
『そういう身の程知らずは嫌いじゃないにゃ。でも、失敗したときの覚悟はあるんだろうね?』
「必ず成功させますので」
落とした銃に代わり、勇輝はポケットからバタフライナイフを取り出した。
そのナイフもまた、先ほどの銃弾のように聖水という怪しげな薬物で処理されており、鬼の肌を切り裂くことができる。
『身の程を知りなよ』
メルファが肩をすくめた。
勇輝が息を吸う。腰を落とす。メルファを殺すために。
「はっ!」
跳んだ。メルファも跳ぶ。2人の位置が変わった。
予想通りというべきか。
勝負は一瞬でついていた。
ぼとり。
頭が落ちた。血が吹き出た。
首を切り落とされた胴体が、どさりと崩れ落ちた。
「しゃらくさい。偽者をあてがうなんてな」
履き捨てる。
表情が、してやられたという顔になっていた。
「探すか」
右の肉球を高らかにかざす。
数秒、詠唱した。最後に、圧縮をかけない速さで発動の呪文を唱える。
「集え、わが眷属」
詠唱が終わると同時に、無数の光が現れた。
それは瞳だった。
瞳の持ち主はぬいぐるみ型の2頭身。ネコをデフォルメした姿をしている。
闇に溶け込むかのように、その図体は小さく、暗い。
にゃ。にゃ。にゃ。
にゃ。にゃ。にゃ。
にゃ。にゃ。にゃ。
にゃ。にゃ。にゃ。
にゃ。にゃ。にゃ。
にゃ。にゃ。にゃ。
ネコが、ネコが、大量のネコたちが鳴く。
その数、百や2百ではきかない。1千でも足りない。10万や20万ですらない。
大地を、埋め尽くしている。
空を、染めている。
蟻の軍隊のように。
イナゴの大群のように。
多くの、冗談にすらなりそうなほどに多くのネコ達。
総勢、1250万匹。
それは半ば想像上の産物で、半ば実体化した霊体だった。
魔道の素養がない者にしか感知できず、色も、体温も、体重すらも感じることができない。
「これから反逆者の捜索をするにゃ。偽者でも構わないから見つけたらすぐに知らせるにゃ」
「にゃっ!」
返答と共に、ネコたちがいっせいに消えた。
***
「んっ……く、ふぅ、反応消えました」
「やっぱり正攻法では駄目ですね」
「トリガーは作動したそうです……あっ」
「ええ、僕の脳内電波でも感じました」
「あ、あっ、ふ……御主人様……そろそろ……」
「イきそうですか」
「はい、んっ、あああっ!」
「こらえ性のない人だなぁ。貴方の母もそうだった」
「も、もうしわけ……あ、あはぁっ」
下から突き上げられ、女は何度も強く身を震わせた。膣がうねり、差し込んでいる男のモノの射精を促すように締め付けてくる。
やがて女のふるえがとまり、ほとんどの力を失ってくたりと床に手をついた。
「ふーむ」
女の腰を抱き、上に引き上げた。肉棒を抜き、自分の太股から脇へどかす。男と女のモノが混じりあった白濁液が、女の股間から大量に流れ出た。
その淫靡な光景にさしたる感慨も抱かず、男はモニターに目を向ける。
偵察衛星からのメルファの姿があった。
モニターの別の窓には世界地図があり、各地に無数の光点が点滅している。それは彼の影武者として作ったクローンの位置と生命反応を示していた。
クローンにはあらかじめ奥歯に発信機を仕込んであり、生命反応が消えると光点も消えるように設定してある。
『日本支部が沈黙しました』
『中国東部に配備した部隊が交戦に入っ……信号消えました』
『敵、推定時速18,000kmで移動中。あと2分ほどでモンゴル支部にたどり着きます』
スピーカーから戦況を報告する声が届いてくる。
その音声をBGMに、勇輝は下半身の汚れを拭きとり、パンツを履き、ズボンのベルトを締めた。
時計を見る。叛旗を翻して約15分しか経っていない。
だが、それだけの間に10の光点が消されていた。戦況の報告をする部下達の声が沈んでいる。
「圧倒的ですねぇ、さすがメルファ様」
他人ごとのように勇輝はほざいた。
「……あまり動揺していませんね」
「人事を尽くして天命に身をゆだねています」
「豪胆ですこと」
先ほどまで犯されていた影響だろうか。女はのろのろとした動きで衣服を集めた。
男に背を向け、身につける。
奥まで注がれた精液をこぼさぬよう注意しながら、ショーツを履き、レース地のストッキングをガーターでとめた。
上につけるブラはいわゆるセクシーランジェリーの類で、胸を覆う役目をほとんどなしていない。
女の左胸の先には、金色のピアスが光沢を放っている。
その胸を濃紺のキャミソールで隠し、藍色のジャケットを羽織る。膝下まであるスカートをベルトで留め、ヒールを履いた。
「そうしてみるとまるで秘書ですね」
「最近では業務内容もさほど変わりませんわ」
「僕の護衛として働けないのが不満ですか?」
「それもそうですが……力不足を実感してます」
女はモニターに目を向けた。
多くの光点が消滅し、主要な支部の4分の1近くが制圧されている。
「アレは、私達の手には負えない」
「比較する方が間違ってますよ。巨大台風や大地震を人間の力でとめられますか?」
「ですが御主人様の命を狙ってますわ」
「それはそれ、これはこれ。気にしたら負けです。……ところで腹ごしらえをしたいんですが」
「あ、はい。何かリクエストはありますか?」
「おいしいものを」
「かしこまりました」
くすりと笑い、アルスターはスーツの上からエプロンを羽織った。
2人ともまだ余裕がある。
彼らの避難先をメルファが探知できないと思っているためだろうか。
そこは宙に浮かんでいた。
第二国際宇宙ステーション。
地表から、およそ600kmの上空にあった。
***
叛乱開始から3時間と27分後。
全世界に配置していた108体、全てのクローンが殺されていた。
「どこに逃げた?」
最後の屍を前に、メルファは問いを発する。
御主人様に対し、ねこぐるみ達はくびをふるふると振って応えた。
「この星に”いる”ことは分かるけど、いまいち反応が弱いにゃ」
メルファの髪のひと房が、ひどい寝癖のようにぴんと逆立っている。
「一旦宇宙船に戻るか」
ふー、と息を吐く。
場所はハワイ諸島の沖合い。日は出始めたところだ。
少し眠たかった。
短時間で地球を1周したためか、昼と夜の感覚が朧になっている。
欠伸をし、メルファはなんとなしに宙を見上げた。
その時。
見つけた。
気だるげだった瞳に、意志の光が戻った。
「……そこか。なるほど」
肉球をつけた手をあげ、遠いかなたにある宇宙ステーションを指差す。そうして、メルファは召還したねこぐるみ達に命じた。
「あそこに行くにゃ。お前達、通路になれ」
にゃ
にゃにゃ
にゃにゃにゃ
メルファの無茶な要求に、ねこぐるみたちは即座に応じた。
彼らの体長は50cmほど。1250万匹が手をつなぎ合えば、総延長は6250kmにもなる。
瞬く間にピラミッドのように折り重なり、重なった上にさらに重なり、互いに手をつなぎ合って、宇宙ステーションまで続く長い回廊になった。
「もう逃げ場はないにゃ」
ねこを散々に踏みつけながら、メルファが進んでいった。
***
勇輝とアルスターは、近寄ってくるネコミミの死神をモニターごしに見つめていた。
不安定な足場のためだろうか、比較的ゆっくりと近づいてきている。偵察衛星の解析では、時速400kmほどと出ていた。
到着まであと90分。
勇輝は落ち着いていた。動揺し、震えているアルスターの心配を打ち消すため、肩に手を置いた。
「アルスターさん」
「はい」
「先に地表に戻って、悲嘆にくれている職員達に伝えて置いてください。”橘 勇輝は健在だ”と」
「御主人様は?」
「予定通り、メルファ様を接待します」
「私が残ると足手まといになりますか?」
「意味がありませんね。貴女には作戦の概要は説明したでしょう」
「ですが、まかり間違えば御主人様を永久に失ってしまいます!」
「貴女を失うほど惜しいわけでもない」
「……」
「今回、貴女に課した仕事は淫魔である僕の餌、兼、性欲処理です。戦闘要員としての働きは初めから期待していません」
「……御武運を」
ぎり、とアルスターは歯をきしませた。主の言い分に対しての反論はない。事実だったから。
分かっていた。だが非力な自分に対する怒りは、どうにも御しがたかった。
拳を握り、その力をゆるめて、アルスターは静かに礼をした。
緊急時用の脱出ポッドに入り込み、コンソールを操作して発射させる。
勇輝1人になった。
「うん。恐ろしい、ちびりそうだ」
近づいてくるメルファを見つめる。台詞とは裏腹に、笑みさえ浮かべていた。
勇輝は場所を変えた。
といっても逃げたわけではない。
居住区画から移動し、広いホールに入る。
勇輝の要望で作らせたその空間は、中学校の体育館くらいの広さを備えていた。
異様な装飾が施されている。
床に、赤い塗料で円陣が描かれていた。
円陣の中には五亡星があり、ヘブライ語とアラビア数字を組み合わせた複雑怪奇な文様が並んでいた。
その空間の壁には台座があり、さまざまな武器が備え付けられていた。古今東西の刀剣から銃火器まで、文字通りさまざまなものが。
勇輝は刃を手に取った。日本刀の太刀を1本と、ジャックナイフを1本。
きびすを返し、ゆっくりと歩く。
円陣の文様を踏むのもかまいなしに。
陣の中央で歩みを止め、高らかに呪文を唱えた。
「殉教者よ。108の哀れなる魂よ」
おお、おお
おおおん
唱えた瞬間に、場の雰囲気が禍々しく変容した。
勇輝を中心にぐるぐると渦巻く。怨霊、物の怪、妖怪などと呼ばれる実体のない思念が。
「ここに宣言する。我らが目的を叶えるときがきた。我が命、我が行動をもって汝らの死への答えを与えよう。これより儀式を執り行い、禁呪を完成させる。我は汝らの同胞にして、汝らと同じく贄の1人なり。我らの悲願の達成のため、汝らの恨み、痛み、その他もろもろの怨恨を捧げよ」
おお、
おおおん
おおおおおおん
思念が蠢く。
禍々しく、澱んだ瘴気を撒き散らしながら。
それは怨霊だった。
殺されるために産み出された運命の理不尽。
殺される際の痛み、恨み、呪い。
108名分のそういった負の思念が交わり、折り重なりあい、形を成そうとしていた。
「怨!」
勇輝が叫んだ。
ジャックナイフで左手首を傷つける。深く、ためらいなく。
どく、と赤い血が流れた。
「我が名はユーキ。殺されし108の同胞の盟主なり。これより我、怨念の化生となりて我らの敵の悪夢とならん」
ぽた、ぽた、ぽた……
血が、陣の上に落ちた。
おおん、おおん、おおおおおん!
怨霊達が叫んだ。
低く、冷たく、大きな音で。
血を凍らせるような、おぞましい声で。
「怨敵の名はメルファルファーニ。我らを殺害せし者なり」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
雄たけびをあげ、それは集っていった。
己たちを殺した者の下へと。
***
「ぬ…」
宇宙ステーションを目と鼻の先にしたときだった。
メルファは両手を肩に回し、自分の身体を抱いた。
妙な寒気を覚えた。
寒気は震えとなった。
震えは痛みに変わった。
痛みは血となり、目に見える形で表れた。
ぷつ
ぷつ
ぷつ
毛細血管のいくつかが破裂する。瞳が赤く染まり、肉球ぐろぉぶの下で、爪先も赤くなっていた。
身体が熱い。
血が沸騰するようなちりちりと、ぎりぎりと内部を蝕むような痛みが走っていた。
奇妙なことだが、それでも寒気がしている。
にゃ~
にゃ~
にゃ~
足元が、悲しそうな声を上げた。
「どうしたにゃ?」
問いかけに、ねこぐるみ型ゴーレムが悲鳴を返す。
その姿が薄くなっていた。
召還魔法の効果が消えかけている。足場が崩れはじめた。
「にゃー!」
驚き、悲鳴をあげ、メルファが跳んだ。
パラシュートなしで500km以上の距離を落下するのと、目前にある宇宙ステーションへ避難するのと、どちらかと問われれば後者を選ぶ。前者を選んでも死ぬことはなかったではあろうけれど。
宇宙ステーションにたどりついた。
外板を腕力で強引にひっぺがし、内部へ。勇輝の気配を頼りに進む。
見つかった。
男は奇怪な部屋で、おぞましい気配を周囲にまとわりつかせていた。
***
「やぁ、探したよユーキ。かくれんぼもお前で最後なんだろうにゃ?」
「残念ながらまだ1億人ほどいます」
男がふざけた答えを返した。
その左手には包帯が巻きつけられ、赤く染まっている。
「恐怖のあまりリストカットをしたのかい」
「はっはっは。半分当たってますね」
「この寒気は、キミの仕業かにゃ」
「おや風邪でもひかれましたか。ああ、汗と血が出ていますね。可愛い顔が台無しですな。風呂の準備をいたしましょうか」
「うつけが、質問をはぐらかすにゃ」
「そうですな、もう術中にはまっていますし認めましょうか。ええ、私の仕業です」
「良ければレシピを教えてくれ」
「というと?」
「偽者を殺させたのも今のボクの有様に関係しているのかにゃ?」
「いかさま。陰陽術といいましてね。牛の刻参りや呪い人形の亜流……まぁ詳しく説明すると2、3時間かかるんで簡単に申しますと、生贄を殺した者を陥れる技術です」
「……。呆れた狂人ぶりだな。お前さ、命を何だと思っている?」
メルファの問いに、勇輝は嘲笑で応えた。
「人間を喰う貴女に言われる筋合いはない」
「”私達は肉牛を愛情を持って大切に飼育しています。お客様のお口に最高級のものをお届けするために”」
「……?」
「某星某国某フランチャイズレストランのキャッチフレーズさ。
食料にするために飼育することと、徒に命を玩ぶことは別ってことだ。 ボクらは今日の糧があることを神と労働者に感謝し、餌である人間には敬意を払わなければならない。要するに――」
言葉を切り、肉球ぐろぉぶをもってびしっと男を指差した。
「キミとは断じて違う」
「貴女はキリスト教徒だったんですか」
「何だそりゃ」
「くっく、気にしないでください。宗教とはかくも偽善に満ち溢れてることを再認識しただけです。殺した後に感謝とは片腹痛い。感謝で死人が生き返りますか」
「まさか大切な相手でも喰い殺されたのかい? だから叛逆を?」
「私がそんな殊勝な鬼に見えますか?」
「キミがボクの下につく前の経歴はブラック様から教えてもらってる。半分は人間なんだってね」
「……」
勇輝の口から、侮蔑の笑みが消えた。
鯉口を引き、太刀を抜いた。
「怨」
おおおおおおおおん!
メルファがのけぞった。周囲をとりまく怨念の密度が増大し、必然的に痛みが増した。
頬がひきつれ、悪寒が強くなる。手足が痺れ、震えた。
勇輝の膝が、曲がった。
伸ばすと同時に、メルファとの間合いが詰まった。
「ぜっ!」
腕がしなった。下段からすくい上げる斬撃。
狙いは頚部の急所。白刃が蛇のようにしなり、メルファの首めがけ襲い掛かる。
にゃ
ぱしっ、ぐさっ。
突如として、メルファの前にねこぐるみが現れ真剣白刃取りを試みた。
失敗に終わり、斬られる。
ねこまっぷたつ。
冗談のような光景に勇輝が瞠目した。
メルファは、その隙を逃さない。
「しっ」
蹴りを放った。
呪術の影響を受けてはいるが、余人の蹴りではない。
剣の間合いに対して蹴りが届く距離ではないことは承知している。だがその動作で生まれた風圧が、勇輝の身体を凪いだ。
勇輝の身体が浮き、数メートル後方へ飛ばされた。しかし、壁に叩きつけられるほどの威力はない。衰えている。
勇輝は空中で体勢を立て直し、壁を蹴った。
2歩。
間合いを再び詰める。
中段からの横薙ぎ。
メルファの肉球、裏拳がそれを逸らした。もう片方の肉球が、勇輝の顔に迫った。
にゃっ
またねこぐるみが現れた。今度は勇輝の足を掴み、動きを封じている。
目前にメルファの肉球が迫っていた。
勇輝はあわてて上体を反らすが、遅い。
あたった。
インパクトの瞬間に、勇輝の鼻がつぶれる。首に裂け目が入り、次の蹴りでその裂け目はより深くなった。
さらに、ダメ押しの一撃。
首が胴体から離れ、宙を舞った。
頭を失った胴体から血があふれ、崩れ落ちた。
「惜しかったにゃ、ユーキ」
***
それは、勇輝を殺した直後に起こった。
『生命反応の消失を確認。プログラム発動します』
録音だろうか。警報と共に、抑揚のない女の声が響いた。
ざ…ざああああーー
スプリンクラーが作動した。
雨が降り注いだ。
赤い、血の雨が。
それは人間の血液。
勇輝がつくった奴隷とその娘、4000人から400ccずつ提供してもらった。
1600リットルの血液。
ざあ、ざあ、ざあという音とともに、部屋を赤く染めてゆく。
不思議なことが起こった。
「嫌だったんですよ……この切り札を使うのは……」
胴体を失った男が、喋った。
喋った男の顔面で、潰された鼻から白い泡が吹いていた。骨芽細胞が新たに生まれ、再生している。
だんっ、と首を失った躯が勢いよく立ち上がった。
メルファから離れ、吹き飛ばされた首に近づくと両手で拾う。
抱え上げ、断面と断面を合わせた。
接合。
「人間を喰わないで済むように淫魔型になったのに、また吸血鬼型に戻ってしまう」
あんが、と勇輝は口を開ける。雨乞いに成功した砂漠の放浪者のように。
ごくりと、降り注ぐ血液を飲んだ。
「体力回復、と」
「……ふぅん、安心したよ」
「?」
「死なないように工夫してるってことは、キミが偽者じゃないってことだろう?」
「ええ。知ったところでどうにもなりませんけどね」
「そうかな?」
メルファが床に正拳を叩き込んだ。
水を抜くにはバスタブから栓を外せば良い。それと同じ発想で、流れ出る血液を逃がそうとした。
だが惜しむらくは、威力が足りなかった。
かなり痛い。腕に痺れが走っている。
殴りつけた床にはわずかにヒビが入ったが、それだけだ。穴を開けるには程遠い。
「無駄ですよ。この部屋の設計強度は、今の衰えた貴女に壊せるほど低くはない」
「そうかい。何十回か殴れば壊れそうだけど」
「私が邪魔します」
勇輝は刀を下段に据えた。
小野派一刀流、防御重視の構え。
「怨」
「くっ」
勇輝の声に、強い痛みがメルファの身体を襲う。うめいたところに間合いをつめられた。
下段から斬りつけ。先ほどと同じようにねこぐるみを出して防御するが、今度は勇輝も承知していた。
踏み込みを浅くする。腕の振りも。剣閃の軌道を変え、メルファの頚部から腹部へと狙いを変更する。
浅い。かすったのみだ。
カウンターに繰り出したメルファの肉球が、勇輝の腕を掴んだ。
引き込み、床に倒す。
メルファの足元に勇輝の頭がくる。腕は掴んだまま。
かかとを上げ、男の顔を踏みつけた。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴぐしゃ、ぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃぐしゅぐしゃ。
殺す。
その意志を実行する。
顔面を砕き、頭蓋を粉砕し、脳漿を飛び散らせた。頭は既に原形を留めていない。足が血まみれになり、骨が破片になるまで容赦なくかかとを上げ、落とす。
だが――
頭を潰されながら、勇輝の腕が動いた。
メルファの足が掴まえられる。
投げられた。
メルファは空中で体勢を戻し、地面に着地した。
勇輝を睨んだ。
飛ばされてからの間は、およそ1秒程度。
そのわずかに間に、勇輝が復活していた。
「いやーえげつないですな、流石我が上司」
「プラナリアかお前」
「吸血鬼ですよ」
再び、勇輝が太刀を下段に構えた。
メルファも肉球を構えた。
本人も気づかぬうち、彼女の口端には楽しげな笑みがうかんでいる。
***
2時間後。
互いに、凄絶ないでたちだった。
雨のように流れる血が凝固し、かさぶたとなって身体に張り付いている。
だが、互いの体力は大きく異なっていた。
メルファの息があがっている。対して、勇輝の呼吸にはほとんど乱れがない。
「ふ~」
メルファが、溜めた息を吐いた。
戦況分析。
勇輝を殺すまでの体力を、仮に10000とする。
今のこちらの攻撃力は4000から5000くらいか。
問題は勇輝が単位時間あたり9999回復することだった。
絶好調時ならばそれでも瞬殺できるだろうが、いかんせん呪術が身体を蝕んでいる。
魔術もほとんど使えなかった。ねこぐるみを大量召還することができれば、この部屋を壊すことくらいわけないのだが……。
「クローンを殺したときの実力も、見る影がありませんな」
「……ああ、認めるよ。見事に術中にはまっているにゃ」
つぅ……と。
メルファの眉間から、血が流れている。
衣服はぼろぼろになり、注意してみれば眉間以外にも小さな切り傷を負っている。
これも呪いの効力なのだろう。
傷の治りが、すさまじく遅かった。
「一応、死ぬ前に聞いておきますが、遺言はありますか?」
太刀を下段に構え直し、勇輝が聞いた。
「ん。キミとの戦いは楽しかったよ。本当さ。こういうのは初めてで新鮮だったし、できればこのまま興じていたかったよ……」
「光栄です」
「うん。外道だけど、キミは中々に楽しませてくれた」
メルファが、手を抜いた。
肉球ぐろぉぶから。
細くたおやかな、女性の指先があらわになる。
「変態を解除する」
変わった。
感覚神経拡張用にあった頭部の副耳――ネコミミが消えた。いや、消えたという表現はやや不正確だった。
肉球を外すと同時に、ミミが髪の毛に変化した。元からあった髪の毛と一体になって、痕跡がなくなった。
髪質も変化していた。カールしていたクセっ毛が、さらさらとしたまっすぐな髪へと。
真の姿へ。
アニメの魔法少女が元の姿に戻るように、常人から離れたふざけたコスプレが、人の姿へと戻っていた。
「ほぅ……」
その姿に、勇輝はため息をついた。
「美しい」
間抜けな感想を漏らす。
確かに今のメルファは美人の部類には入ってはいる。だが、彼が感嘆したのはその容姿に対してではない。
それは戦巫女だった。
伝説の中に生息し、鬼を導き戦いに駆りたてる。
勇輝ら、鬼に産まれついた者にとって、天使のような存在。
ぐおおおおおおおおおおおおん!
メルファを取り巻く怨霊たちが、絶叫した。
苦しげに、切なく。
呪いはまだ発動している。だが彼女の能力が、怨念の強さを上回った。
メルファの身体が治ってゆく。
呪術の破壊速度を超え、傷つけられた周囲の細胞が超高速で分裂する。
身体が治った。痛みが引き、筋力も戻った。魔道の力も同様に取り戻した。
ハンデさえなくなれば、勇輝など敵ではない。
「遺言はあるか?」
至近距離で、メルファが聞いた。
その手が、勇輝の左胸に入っている。
肋骨と肋骨の間をメルファの手が貫通している。文字通り、心臓を掴まれていた。
勇輝には分からなかった。
どう近づいたのかも、自分の胸をいつ貫かれていたのかさえも。
「過大な望みかもしれませんが……、抱きしめて……いただけますか?」
この期に及んで何故、そんな戯言を言ったのだろうか。
勇輝自身にも分からなかった。
ただ、望みが自然と口をついていた。
「……ん。いいだろう」
メルファが片手を、勇輝の背に回した。
「ああ……」
勇輝が恍惚の声を上げた。
どんな奴隷を抱いても得ることができなかった快楽に。
麻薬を血中に混入したような、甘美さ。
死んでも良い、とすら思える。
メルファの胸の中で、勇輝が血を吐いた。
心臓をつぶされた。
両腕、両足をちぎりとられた。
首をもがれた。
切り刻まれ、すりつぶされ、ぐちゃぐちゃにされた。
「焼却」
詠唱をほとんど省略し、メルファが呪文を発動させる。散り散りになった肉片が消し炭と化した。
そこまでして、メルファは油断なく遺灰を見つめる。動く様子はない。
「今度こそ死んだか」
一仕事を終えた。
メルファは、ふぅ、とため息をついた。
『ごくろうさま』
”声”が、頭の中で響いた。
***
メルファ対勇輝。
その戦いのうち、クローンを殺すまでが第1ラウンド、本体を殺すまでが第2ラウンドとしたら。
第3ラウンドが残されていた。
それはゴングの音ではなく、脳内の声で始まり――
勝負の大勢は、始まった時についていた。
「が……ぐ…あ、あああああああああああ!」
痛風患者のようにメルファが叫び、のた打ち回った。
痛い。
痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!
拷問の訓練もひととおり受けている。
数は少ないが戦争にも参加し、修羅場はなんどもくぐった。
骨が折れたりや腕が切断されるほどの大傷も負ったことがあった。
だがその痛みは、それまで経験したものとは質が異なっていた。
身体が焼ける。
先ほどの呪いの比ではない。
細胞の1つ1つが蹂躙され、血管を無数の蛆虫が這い回るような。
嫌悪感を伴った激痛。
のたうち、血を吐いた。
2度、3度、4度。
「ぎいいいいいいいいいいいい!」
また吐く。
吐いた血が床に落ちた。
ぐちゅ……。
ぎち、ぎちちちち……ぱき、ぺき、ぺきき……
血液が、形を作った。
人間の骨を、臓器を、血管を、神経を、肉を、顔を、胴体を、腕を、脚を。
じゅるじゅるというおぞましい音が鳴る。
メルファの吐いた血と、スプリンクラーから注がれた血液を材料に。
組み立てられる。
新たな肉体が。
それは転生術。
術者を喰った相手の身体を母体に、肉体を再構成するという禁術。
メルファに出した接待用の”人肉”も、魔法陣も、生贄に捧げたクローンも、1600リットルの血も、そして勇輝本体の死も。
全てはこのための布石だった。
クローンの肉を食事に差し出すことで、術者の血肉を喰わせるという条件は簡単にクリアできた。
後はどう殺させるかだった。
術の発動のためには、母体となるメルファ自身の手で、できる限り完全に殺させる必要があった。
血や肉の一片も残らないほど、完全に。
かつ、復活のために必要な材料――転生の魔法陣と大量の血液――を用意しても、怪しまれないように舞台を設定する必要があった。
そして、勇輝は生き返った。
メルファの血肉と共に、その力を取り込んで。
「ふ、はは、あははははははははははははははは!」
少年が狂ったように笑った。
メルファの姿を見る。
彼女の力を取り込んだせいだろう。先ほど抱いた戦巫女に対する畏怖も、敬愛も、もはやほとんど感じない。
目の前にいるのは、少し強いだけの女の鬼にすぎなかった。
「感謝を、感謝を、感謝を!
本作戦を行うに当たり、1つの前提条件を立てました。私が何をどうしようがメルファ様に殺されることを防ぐことはできない。そう、貴女が最強であるという信頼がなければ、今回の作戦は立てられなかった」
勇輝が口上を垂れる間に、メルファは立ち上がり構えをとった。
身体が凄まじく痛い。
今しがた血を吐き出す際に、神経と、主要な臓器を痛めつけられていた。
「死ぬために生き返っただけだろう……」
かすれた声で吐き捨てる。途中でむせかえり、再び血を吐いた。肺の何割かが潰されていた。
「気丈ですなぁ。瀕死の状態のはずなのに」
「ふん」
メルファが動いた。同時に勇輝も。
拳と拳が交差する。
爆音と産まれた衝撃に、部屋の積層装甲がきしみをあげた。
構わず、2人は打撃を繰り出す。
肘と膝。
足と裏拳。
3撃目だった。
化け物2人の力の放出に耐えられず、宇宙ステーションが破壊された。
メルファも勇輝も天空に放り出され、地球の重力にひっぱられて落下する。
落下しながら、殴り合いを続けた。
本来ならば、まだメルファの方が強かっただろう。
勇輝が取り込んだのはメルファの一部であり、全てではなかったから。
だが勇輝の指摘の通り、メルファは激しく消耗しており、対して勇輝はこのとき絶好調だった。
「接待用にと貴女に喰わせた人肉、アレも私のクローンです。バレないように多少の成分改質はしましたがね。あとのからくりはなんとなく分かるでしょう?」
「……ぐ……」
勇輝が、間接を極めていた。
その上で、メルファの首を掴み締め上げた。
頚部の血の流れを経つ。達人がやれば、数秒で気絶させることができる。
「苦労しました。後のことを考えるとできる限り貴女の体力を消耗させたかったし、大掛かりな生贄や血液や魔法陣を準備する必要もあった。一番の懸念は前の身体をなるべく跡形もなく、貴女自身に消してもらうことでした。100グラム以上の肉片が残った場合、転生術が失敗してしまうのでね」
「……く、はな……せ」
メルファが両手をばたつかせた。耳元で長い説明を垂れながら、勇輝は微塵も容赦しない。
熱圏の1000℃を超える高温にさらされながら、寸分の力も解かなかった。
やがて、メルファの意識が落ちた。
「ははは、あはははははははははは!」
上機嫌で勇輝が笑った。
メルファの身体を抱え、けたたましく。
笑いながら、パラシュートなしで落下していった。
***
そして、現在に至る。
12時間にもおよぶ脳改造手術が終了していた。
「使徒として――」
少女は言葉を切り、彼の足元へひざまづいた。
手は露出し、ほっそりとした指が見えている。
白い患者衣に包まれた胸が、ささやかながらも女性らしいラインを描いていた。
「メルファルファーニ・アカメナ・レッドはユーキ様に忠誠を捧げます」
言葉に抑揚がない。目は虚ろだった。
「メルファルファーニ・アカメナ・レッド。汝の忠誠を受け取ろう。誓いの証を示せ」
「はい」
メルファが誓いのキスをする。
主の靴へ。
「はぁあ……」
メルファの唇から、吐息が漏れた。
熱い、熱い息が。
その瞳には、もう先ほどの死人のような虚ろな色はどこにもなかった。
代わりに、喜色がありありと浮かんでいる。
舌をのばし、空腹の子猫がミルクをすするように男の靴を舐めた。
はぁはぁと息を荒げ、汚れを見つけると嬉しそうにそれを舌先で掬い取る。
いとしげな、ひどく幸福そうな表情で。
脳の書き換えによる隷属から、契約による魂の隷属へ。
勇輝の、勇輝だけの使徒になる。
靴を舐め上げるメルファの頭に、勇輝は手を置いた。撫でると、メルファが嬉しそうに微笑んだ。
優しい笑みを浮かべ、男にささやく。
御主人様……、と。
一生を捧げます……私の全てを差し出し、おつかえします……、と。
< 続く >