彼と彼女のせかいせーふく2 前編

前編

 予想外、だった。

 時折、夢と現の境目がつかなくなる時がある。
 薄目を開け、あけたフリをして実は寝ていた時や、美奈の笑い声をBGMに意識が遠のいていった時とか……あーあれは怪しげな注射器を身体に打ち込まれた時だったな。と思い出す。
 とすると、知らないうちに美奈に一服盛られたのであろうか?
 だが、しかし……

「ユウ……ねぇ、ユウってば………起きてよぉ」

 ありえ、ない。

 男の身体をゆすり、泣きそうな顔で彼を呼ぶ少女。
 死に掛けた男に復活の呪文を唱えるヒロインとか、そんなおいしいシチュエーションなど、ありえないはずだった。
 嫌われていたはずだった。
 少なくとも朝から夜、寝床についた頃までは。

「ユウ……」

 男が起きていることに気づいたのか、ユミカは彼の身体をゆするのをやめた。
 熱っぽい。
 吐息が、耳にかかった。

「せーえき、ちょうだい……」

 ユミカは、ゆっくりと自分のスカートを持ち上げ――

「ユウのせーえきが、欲しいの……」

 泣きそうな顔で、男に哀願した。

***

「出獲斗(でぇと)?」

 ユミカの作った朝飯を平らげて数十分後。適当におめかしをした男に、美奈はけったいな発音で聞き返した。

「うむ。御門と待ち合わせをしておるのだ」

 御門(みかど)――フルネームを葵 御門という。
 名前が苗字に見えるおかしな名前であるが、家系を遡ると安土桃山時代の公家にたどりつくらしい。
 名前の付け方は、その名残とかそうでないとか@どーでもいいことだが。
 紆余曲折の末にくっついた彼の恋人で、結構宜しくやっている。
 因みに向こうのご両親や祖父祖母には挨拶を済ましており、入籍するのしないのと切実な問題を突きつけられていたりしていた。
 どうやら彼は気に入られてしまったようで、

「孫の顔を見たい」

 なんて、3大財閥の1つ、葵コンツェルンの総帥である爺が言い出し、

 結婚前に中出しして孕ませても、

「私はいっこうに構わん」

 なんてお墨付きをいただいていたりする。
 隣で爺に酌をしていた御門はというと、赤くなって俯いていた。
 向こうのご家庭も、そこそこにはっちゃけているらしい。

「何故ですのにいさま、日曜日といえば家族サービスの日でしょう? 150円引きの吉野家ののれんをくぐって、”よーしパパ特盛り頼んじゃうぞ~”なんて抜けたことほざきながら食うか食われるかの殺伐さの中で浮いた空気を演出するのが定番というものでしょう?」
「豚丼でそれをやれと?」

 男の指摘に、美奈はぐっと詰まった。
 まだまだ、修行が足りないようである。

「お前はユミカと遊んでろ。俺は近未来の家族にサービスしてくる」
「ホホホ」

 美奈が笑った。

「オホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ」

 映画のフィルムをコピー&ペーストしたかのように。
 長く
 執拗に
 けたましく笑った。
 裸エプロンのまま食器をふきふきしていたユミカの手が止まり、美奈の方を向いた。

「ホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ」

 まだ、笑っている。
 狂ってしまったかように。
 そのあまりの異様さに、ユミカはガクガクブルブルと身体を震わせた。
 男は首をすくめ、玄関へ向かった。
 彼にとっては、いつものことらしい。

「お待ちなさい、そこな裏切り者」

 ばっ、と大の字に両手を広げ、美奈。

「どうしても逝きたいのなら、私の屍を乗り越えなさい」
「く。くっくっく………」

 その台詞に、男も笑った。
 無駄な抵抗をしくさる妹が、あまりに滑稽で、愛しかったから。

「おるかものめが……」

***

 ぱっとん、ぱっとん、ぱっとん、ぱっとん……
 ゆにば……

「ゆにばーす………」

 ぽつり………、と。
 美奈はつぶやいた。

「あなたを
 私を皆を包む
 ゆにばーす。
 宇宙、宇宙、全宇宙、この 太陽系唯一の 守護神――力の源、ゆにばーす。
 アカイ、アカイ、真っ赤な太陽です…」

 ぱっとん、ぱっとん、ぱっとん、ぱっとん………がたん。
 愛読書”オメガトライブ”の聖言を口ずさみ、ふしぎなおどりを踊りながら――
 美奈が、再起動した。

「おお、ゆうしゃ”みなちん”よ。しんでしまうとはなさけない! みなちんがつぎのレベルになるにはあとさんぜんよんひゃくろくじゅうまんななせんにひゃくごじゅうにぽいんとの経験が必要ニダ」

 自分で自分に声をかける。2ビット音声を真似るその様は、確かに情けなかった。

「あまりに滑稽すぎて笑う気にもなれませんわ…」

 額に指をあて、首を振った。
 数分前に、それはそれはすさまじい目を、実の兄にあわされた。
 具体的にどういう目にあったのかは、とてもとてもすさまじ過ぎるために、筆舌に尽くせない。

「ユミカ」

 気を取り直したのか、不思議そうに自分を見つめてくる、少女を見返した。

「な、なな、なんでしょう、ミナちん先生……」
「美奈はお兄様にこういわれました。”お前はユミカと遊んでいろ”と。ユミカも聞きましたわね?」
「う……うん……」
「貴方をお兄様に調教していただくつもりでしたが、予定を変更して、一緒に遊びましょうか」
「うんっ。何をしようか、ミナちん先生」
「ホホホ。小道具はすでに用意してますの」

 ごそごそと、美奈は傍らにある美奈ちん専用ブラックボックスと銘打たれたどどめ色の箱をさぐった。
 ちなみにこのどどめ色、美奈のラッキーカラーである。元は黒かった箱だったが、わざわざ塗装したのだ。

「ありましたわ」
「黒いわっか? じゃなくて、犬の首輪?」
「チョーカーですわ。てれぱしぃが使えるようになりますの。ささ、着けなさい。これの装着が、これからする遊びの必須条件ですの」

 何かキナ臭いものを感じないでもなかったが……
 ユミカはそれを素直に受け取り、自分の首に着けた。

***

 予定の場所に到着すると、御門は既に待っていた。
 これは彼女が早く来たためだけではなく、彼が美奈のヒットポイントを削る作業に思った以上に時間を浪費したからだった。
 全殺しならば一瞬で終わったろうが、半殺しに留めておくのは中々難しいのだ。

「よ」
「こんちわ」

 片手を控えめにあげ、御門。付き合い始めた当初はぎこちなかった笑顔も、このところさまになってきていた。
 本日の服装は濃紺のキャミソールに白のブーツカットパンツ。靴はハイヒール型のサンダルと、中々涼しげな格好だった。

「行きましょうか」
「うむ。待たせてすまなかったな」
「また、美奈さんに邪魔をされたんでしょう?」
「ご明察」

 御門は男に寄り添い、ごくごく自然な動作で彼の手を握った。
 彼も御門の手を握り返し、2人はゆっくりと歩き出した。

***

 駅近くのショッピングモールを軽く冷やかし、昼すぎくらいにホテルのラウンジでイタメシを食する。
 ごくごく、ありふれたデートコースといえよう。付き合い始めた当初は気合を入れたものだが、最近は肩肘張ってデートの計画を打ち合わせるということもなくなっていた。
 どこへ行くかではなく、誰と行くかが重要らしい。
 今日のメインはスケートである。御門の要望だった。
 チケットを買い、室内スケート場へと繰り出す。

「そうだ、何か賭けて鬼ごっこしませんか?」
「うむ、よかろう」

 ・・・・・・・
 ・・・・
 ・・・
 ちーん。

 スケートの技量は御門の方が数段上だった。
 賭けに負け、150円のジュースを奢らされる羽目と相成る。
 負け犬のままというのも悔しかったので、男はささやかな意趣返しをするために気配を絶って御門に近づいた。

「ほれっ」

 ぴとっ

「ひゃんっ」

 無防備な首筋にあてられた清涼飲料水の冷たさに、御門はびくりと身をすくませた。
 ましらのようにスケートリンクを駆けずり回って数刻後。
 今はスケート靴から履き替え、2人とも休憩室にいる。

「ああ、吃驚した」

 御門は振り向き、500mlのペットボトルを受け取った。

「鬼ごっこの仕返しだ」
「なんだ、一度も捕まえられなかったからってスネてるんですか?」
「うむ、そのとーり」
「あはは。いただきます」

 コク、コク、と喉を鳴らし、喉を潤す。
 なんともなしに見つめる彼の視線に気づいたのか、御門は意味深げに目くばせした。
 何かいいたいことがあるのだろうか、顔を近づけた男に、御門は不意打ちをした。

「ん………」

 口を、塞がれた。
 唾液の混じったジュースが、絡まった舌を通して男の口に注がれてゆく。

 ちゅ…ちゅちゅ……くちゅ…じゅじゅっ………

 音を立て、口腔を貪られる。
 互いの口に銀の糸がかかり、一瞬きらめいて途切れた。

「はふぅ………」

 唇を離し、御門が吐息した。
 顔が、赤くなっている。
 不意打ちをくらった形だが、男のほうにはまだ余裕があるようだった。
 御門いわく、”優はキスが上手すぎる”らしい。

「…………なんというか……、積極的になったな……」
「周りに人がいないのは確認しました」
「抜け目ないな」
「だって……優さん、たまに屋外で私を抱いたりするでしょ」
「うむ。襲い掛かりたくなるくらい御門がいい女だからな」
「もぅ……」

 御門は困ったような顔をし、男の尻をつねった。

「さて……次はどうしましょう?」
「喫茶店にでも入って少し休憩するか」
「………………」

 彼がそう言うと、御門は非難するようなまなざしを返した。

「ホテルに行くか?」
「………」

 うつむきながらも、こくり、と御門は頷いた。

***

 人差し指と中指を伸ばし、女の前へとさしだす。
 御門は両膝をつき、男の手を両手で抱えた。

 ちゅっ………ちゅちゅ…

 愛しげに男の指先に口付け、舌を絡ませる。

「んっ……ふぁ…」

 ねっとりと、情感を込め、奉仕する。
 男の指を竿に見立て、指の節のシワの1つ1つを引き伸ばすように舌を這わせ、時折男の拳に頬をこすりつけて。

 ぴちゅ…ちゅ………ちゅ、じゅじゅ………じゅ……ちゅるる……ちゅ……

 男が興奮してくれるよう、わざと、大きな音をたてる。

「………あふっ…んぁ……」

 上目遣いの媚びた視線を男に向け、その表情を読もうとする。どこが気持ちいいのか、どうすれば悦ぶのか、知るために。
 興奮し、頬は上気していた。
 息が、荒くなってくる。
 優とつきあっておよそ半年。繰り返し繰り返し刻み込まれた快楽は、パブロフの犬のように御門の肉体に条件反射を植えつけた。
 まず、肉棒へ奉仕することで、自分の太股のあたりからじわりと愛液がにじみ出るようになった。
 何度か奉仕を続けるうちに、軽い絶頂にとって変わり、愛液は白く濁っていた。彼女の強い快感を示すかのように。
 さらに奉仕をするうちに、軽い絶頂は次第に深いものへとなり、御門は全身を震わせてイくようになった。
 そして、今では――
 想像するだけで、達してしまいそうになる。
 日常生活でも、彼女は感じていた。
 手を握り、彼に握り返された時。
 街中を歩く際に、彼の肘が自分の胸にあたる時。
 精神力を総動員して、気丈に振舞っていた。
 だがその裏で、彼の一挙一足に、御門は太股を濡らしていた。

「優……さん……の…指じゃなくて……優さんのに…奉仕……したい……」

 ぴちゅ……

「はぁぅ…」

 優のモノに奉仕する――自分の言葉から、その時のことを想像し、身体の奥から新たな愛液が湧き出していた。
 声が、もつれる。
 快楽が、心を蕩かす。
 桃色の吐息をつき、潤んだ瞳で男を見上げた。
 男は、くぃと顎を動かした。御門はそのサインを見て、嬉しげに頷いた。

「はい。ぁはぁぁ……」

 喜色に満ちた顔。
 再び漏れる、熱い吐息。
 もはや隠せぬ欲情と喜色を瞳に浮かべ、男のベルトをかちゃかちゃとはずし、服を脱がせてゆく。
 1秒でも、半秒でももどかしかった。 
 反り返った男のモノが外気にさらされたとほぼ同時に、御門はソレに何のためらいもなく口づけた。

「ん……ちゅっ…」

 唇の柔らかい刺激に、肉棒がぴくりと反応する。
 御門は再び上目遣いで、男の表情を確認した。

「うれし……私で…こうふん……してくれてるんですね……」

 男は、答える代わりに御門の頭を優しく撫でた。
 御門は目を閉じ、ふるふると首を振る。

「ぁ……だ…めです……あたま、撫でてもらったら……いっちゃいそうになるから………」
「感じやすくなったな」
「優さんのせいです……」

 恨めしげに睨もうとするが、その抵抗は男の愛撫によってあっけなく終わった。

「ふぁっ…」

 先ほどまで自分が舐めていた指で、頬をなぞられる。自分の唾液に頬が濡れ、唇に人差し指が当てられた。
 口を開き、指を受け入れる。

 ちゅ………ちゅる……じゅぷ……ちゅ…ちゅぷちゅ……

 ごつごつとした男の指に口腔を犯されながら、御門は手を伸ばして男のモノへの奉仕を続ける。
 指先で竿をなぞるようにしごき、もう片方の手でやわやわと袋を刺激する。
 男のモノがぴくぴくと彼女の手の中で動くと、彼女の身体も同様にぴくぴくと痙攣した。
 優を気持ちよくしている。その認識をしごいている肉棒から感じ取り、彼に調教された身体が、男の快楽を自分自身への快楽へと変換する。

「んっ…」

 ぴちゅっ……

 愛液が、溢れる。
 手淫するまでもなく、太股を切なげにこすりつける必要もなく、ただ、こらえるという行為をやめるだけで――
 あっけなく、達してしまいそうになる。
 男の匂いが、吐息が、視界に映る醜悪なモノの存在が、彼女を狂わせる。

「御門」

 男が、名を呼んだ。
 女は心得たようにベッドに手をつき、四つんばいになった。
 男の目に、御門の全てがさらけ出される。太股を濡らす雫も、興奮にひくひくとざわめき、新たな愛液を吐き出しゆく花弁も、そのうえにある不浄のすぼまりも。

「ふぁ……」

 また、軽く達してしまう
 肉便器とか、性奴隷とか、いかがわしい本で読んだ単語が、御門の頭に浮かんだ。
 人間ではない。男の性欲を満たすためだけにある、ただのモノ……

 心が、壊れてゆく。
 彼に抱かれるごとに。
 彼の色に染まり、彼なしでは生きられないと思い知らされてしまう。

 ぐちゅ……

「はぁっ!」

 亀頭の部分をそこにあてると、御門は高い声で啼いた。
 だが。

「わり、滑ってうまく入らない」

 男はそう言って、2、3度入り口付近をこする。決して先へ進ませようとはしなかった。

「そんな、いじわるしないで……ゆうさ…ん…おねがい………」

 うるんだ瞳で哀願し、尻をふりふりと振る。なんとか挿入して欲しくて身体を揺らすが、この体勢では御門の方からではどうにもならない。
 何を言えば挿れてくれるのか、御門には分かっていた。
 数秒、御門はためらった。
 女としての恥じらいを、捨て切れなかったから。

「どうして欲しい?」

 男が、聞く。
 とろりと、太股から蜜が一つの筋を引いて、垂れた。

「欲しいの……。いれて……ください……」

 その言葉を言ったか、言わないかのうちに――

「はぁぁぁぁぁ!」

 御門の膣を、肉棒が満たした。
 おとがいをそらし、御門の肩からがくりと力が抜ける。
 腕はおろか、肘で身体を支えることもままならず、両肩でベッドにつっぷした。
 そんな本人の意に御門の膣は男のモノをうねうねと蠢き、射精を促すように

「ごめんなさ……い……いれてもらっただけで……わたし……我慢できなくなっちゃって」

 謝りながらも、言葉にはろれつがまわってない。
 達してしまった余韻と、硬さを失わず、かすかに身体を震わすだけでも感じる肉棒の感覚に、すぐさま若い肉体は反応していった。

「まだ、大丈夫か?」
「はい……優さんの好きに……して……優さんにも気持ちよくなって欲しいし……いっしょに…イきたいから」
「ああ」
「あっ……ふぁ……はぁぁ………いい……すご……ゆうさん……きもちい………」

 男の腰がリズミカルに動き、御門はあられもない声をあげた。

 ぐちゅ、ぐちゅと………

 肉壷をかき回す淫らな音と、御門の嬌声が、あたりを満たす。
 膣内で時折、肉棒が脈打つ。

「ふぁぁぁぁっ」

 御門は首を振りながらあえぎ、長い黒髪からキラキラと女の汗が飛び散った。
 男は片手を伸ばし、量感たっぷりな御門の胸を鷲づかんだ。

「あっ」

 初めに鋭い痛みが駆け、次の一瞬で快楽へと置き換わる。
 胸を揉み潰されているのに、男に馴らされた身体はそれを快楽と認識していた。

「あ………また……わたし……また………」

 四つんばいのまま首だけを動かし、男の方へと顔を向ける。
 男は、女に目配せした。

「は………い……がまんしま………す」

 それだけで男の射精が近いことを察し、御門は歯を食いしばる。
 繰り返し、繰り返し襲い掛かる、快楽の甘い拷問に耐えるために。
 男の動きが、激しくなった。
 びく、びくと、肉壷を打つ男のモノの動きが、単調に、しかし荒々しくなる。
 御門は尻を振った。
 出し入れを繰り返す男の肉棒から、より深い快楽を受け取るために。
 肉体的な快楽と、男によって刷り込まれた精神的な快楽とが、じわじわと彼女の我慢を食いつぶしてゆく。
 今まで抱かれた際に感じた、膣出しの感覚が。
 子宮の奥の奥に浴びせかける、白い精液のほとばしりが。
 そして何よりも、この男に支配されているという感覚が――
 心を、蕩けさせる。

「御門」
「はい……、はぁ、あ、ああああああっ……!」

 両手でシーツを掴み、ぴーんと、御門は身体を引きつらせた。
 ほぼ同時に男の肉棒が爆ぜる。

 ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ

 子宮が、満たされる。
 肉棒にではない。溢れかえるほどに注ぎ込まれる、男の白濁液によって。

「ん……ふあぁぁ」

 びくん、びくん、びくんっ、と。

 深い深い絶頂に、御門の身体が規則的に跳ねた。
 ぜぇぜぇと、荒い息をつき、仰向けになる。
 どさっ、と男が、彼女の隣に倒れるように寝そべった。

「あぁ……」

 御門は、深い息を吐く。
 こんなにいっぱい出されたら、妊娠してしまうかもしれない……と。
 彼女は思ったが、不思議と不安はなかった。

「……ゆう、さん………」

 男に甘えたかったが、抱きつこうにも力が入らなかった。
 動かぬからだの代わりに、掠れた声で、御門は男を呼ぶ。
 男の返事はなかった。
 さらに何か言おうとした矢先に――
 彼女の唇は、男の唇によって塞がれていた。

***

 少女と女は、カードゲームをしていた。
 4時間か、5時間か。
 おしゃべりと昼食を交えながら、かなり長く遊んでいた。
 だが、突然――
 少女が、苦しげにあえぎはじめた。
 女は、そんな少女の変化にちっとも驚かず、悠然と見下ろしている。
 病院につれていくそぶりも、少女のことを心配するそぶりもない。
 女は、顔に笑みすらたたえていた。

「ん……なに…これ………」
「きっと、お兄様が、御門さんと乳繰り合っているのでしょう」
「それと……わたしと……どーいう関係が………」

 びく、とユミカの肩が震えた。
 美奈は、笑顔を崩さない。

「気持ちいいでしょう? 油断したら、すぐに意識がとんでいってしまいそうなくらいに」

 美奈のかけた声は、ユミカにはほとんど聞こえていなかった。
 切なげに両腕をかきいだき、カタカタと小刻みに身体を震わしている。
 頬が、真っ赤だった。

「お兄様に盗聴器を仕掛けているんだけど、普通のものではありませんの」

 美奈は、ユミカの首につけた、黒いチョーカーを指でなぞった。

「これは、受信機」

 ホホホ、と悪魔のように笑う。

「短当直入に言えば、セックスの受信機。愛撫とか唾液の交じり合う音とか、肉棒がこすれあう音とか、どんな瑣末な音でも拾って、その首輪をつけた人の脳に刺激を展開、多少増幅して再構成するの。まるで自分が抱かれているみたいに。首筋から頚椎の神経をハッキングしているから、この刺激から逃れる術はありませんわ」
「あ、んああああっ!」

 ユミカはがくがくと身体を震わせ……だが、すぐにその動きは小刻みなものへと取って代わった。

「な……ん…で……途中で……気持ちいいのがやんで……あとちょっとで……いけたのに……」

 ユミカは、絶望的な顔で女を見上げる。

「フィルターがかかっているのよ。決して逝かない様に、一定以上の刺激を感知すると、脳に信号を送って性感を一時的に遮断するの。だから、自分でオナニーしてイこうとしても無駄よ。ある程度までは気持ちよくなれるけど、最後のところでエクスタシーを味わえないようにするから」

 女の説明は長く、言葉遣いも難しく、平常心を失っているユミカにはほとんど意味が分からなかった。
 だが、イキたくてもイケない状態にある、ということはなんとなくわかった。

「そ……んな………おねが……い。イかせて……きもちよすぎて………でもきもちよくなれなくて………くるし…い…よ……」
「ユミカ。それはできませんわ。やらない、ではなくてできませんの」

 美奈は、ユミカの頬に優しく手を添えた。

「この受信機はね、ユミカ」
「あ……んぁ……」

 すぅ――と。
 美奈の指が、ユミカの身体をなぞる。
 頬から唇、あご、首筋を抜け、綺麗な形をした鎖骨、まだ薄い乳房のふくらみと、頂点にある桜色の頂、わき腹を経由してへそに触れ、そして濡れながらもぱっくりと閉じた、無毛のワレメへと――
 びく、とユミカの背が跳ねた。

「お兄様の――ユウの精液を直接もらった時。その時にだけフィルターが解除されて、逝けるように設定してあるの」
「んぅ………く……ユウの、せーえき?」
「そう、ユウの、精液」
「ユウのせーえきをもらえたら……いけるの?」
「そうよ。ユウの精液をもらえたら、ユミカはすごく気持ちよくなれるの」
「ユウの……せーえき……」

 虚ろな瞳、虚ろな声で、ユミカはつぶやいた。

「ユウに、せーえきを、もらう……きもちよく……なりたい……」
「いい子ね、ユミカは」

 美奈は微笑み――
 母が子供にするように、頬に優しく口づけた。

< つづく >

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