妻、めぐみ

「恵美が結婚したなんて今でも信じられないな」

 私の高校時代からの友人である真理子はシナモンティーを口にしながらつぶやいている。

「どうして?そりゃ私だって結婚ぐらいするわよ」

 いったい何が信じられないというのだろう。
 いつも彼女は唐突にこんな事を言いだすのだ。

「でもね恵美は結婚する性格じゃないと思ってたけどな」

 そう言うと真理子は一気にシナモンティーを飲み干した。
 コップ半分まではゆっくり時間をかけて飲み、あとは一気に飲み干す癖は相変わらずだ。

「性格?」

「うん!だってたしかに恵美は見た目は良いけどさ性格は男勝りだし、とても家庭におさまるように思えなかったんだけど」

 言いにくい事も何食わぬ顔をして話すのも相変わらずである。

「男勝り?失礼ね。これでも今じゃ一児の母よ」

 そうなのだ!実は主人と結婚した時にはすでに私のお腹には新しい命が宿っていたのである。
 名前は『正樹』。私の大事な宝物。

「そうよね。それが一番信じられないわ」

 真理子は空になったカップを口元まで運んでいる。

「あっ!もう一杯入れるね」

「おかまいなく」

 真理子の言葉は無視して台所まで行き新しいカップにシナモンティーを注ぐと部屋一面はシナモンの香りでいっぱいになった。

「いい香りね」

 少し癖があってうけつけない人も多いが私はこの香りが好きだ。
 たしか主人と最初に会った日も私はシナモンティーの香りに包まれていた。

「私もこの香り好きよ。シナモンの香りが鼻につくたびに思いだすの」

「ひょっとしてご主人の事?」

 真理子は両眉を少し上げながら尋ねている。
 私は小さく肯いた。

「たまんないな!惚気?」

 呆れた表情をして真理子は今度は一気にティーを飲み干した。
 そんな真理子を無視して私の脳裏にはあの日の事が浮かんでくる。
 そこは19歳の時私が住んでいたマンションの近くにあった喫茶店。
 ここのモンブランは私のお気に入りでよくコーヒーとセットで注文していた。
 あの日ももちろんお決まりのコースを注文し私は週刊誌に目を通していた。

「この手の雑誌は相変わらずどうでもいいような事ばっかりしか載ってないよね」

 突然耳元で声がし私はおもわず見上げると、そこには年のころなら20代半ばくらいの男が立っていた。

「あっ!ごめんね。そんなもんでも真剣に読んでいるのに」

 男は少し黄ばんだ歯を見せながら笑っている。
 こういう類は相手にしない方が無難なんだろう。
 しかし当時の私には一言でも言わずにはいられなかった。

「なんですか?いきなり失礼じゃないですか」

 シナモンの香りを漂わしながら失礼な事を言うこの男を私は睨み付けた。

「うわぁ!怖い顔するんだ。でもそういう気の強い女性が僕は好きですよ」

 男の笑顔は益々私の神経に触りより険しい表情にさせた。

「あちらに行ってください。迷惑です」

 私は男が元々座っていたであろう場所を指さしながら言ったのだ。

「う~ん!益々気にいった。君こそ僕に相応しいよ」

 人を小馬鹿にした態度に私の怒りは頂点に達した。

「ちょっと!マスター。こちらの方の事なんですけど」

 声を張り上げた私はすぐに周囲の異常に気がついた。

「あれ?どうして」

 マスターをはじめそこに居た客全員が何かに取り憑かれたように虚ろな目をして天井を見上げているのだ。

「あっ!ごめんマスターに用事があったの。僕達二人にとって邪魔だから意識飛ばしてるんだけど」

 男は当たり前の事を言うように平然と話している。

「意識って?」

「さっきまで僕の座っていたテーブルを見てごらん」

 男は先程私が指さしたテーブルを顎を向け示している。
 私の視線はつられるようにそのテーブルに向けられた。

「あのテーブルの上にフランスの凱旋門の置物があるでしょ」

 見るとたしかにそこには高さ10㎝程の青く塗られた凱旋門の形をした物があった。

「あれが?」

 私はすっかり彼の話にのせられていました。

「あれは僕がフランスに行った時に手に入れた物で日本語で言う所の結界というやつが張れるんだ」

 にこにこ微笑みながら言う彼の言葉は私には全く理解できませんでした。

「だから安心して僕と愛を語らえるよ」

 恐怖のあまり男の言う事はほとんど私の耳に入りません。
 ただただここから逃げなければいけないという思いだけがありました。

「僕は克也て言うんだけど君の名前は?」

「石川恵美」

 なぜその時正直に名前を言ったのか今でも分かりません。
 別に抵抗するわけでもなく自然に口が開いたのです。

「恵美ちゃんか!容姿と同じでかわいい名前だね。今日から僕の彼女にしてあげる」

 彼の言葉は私をひどく動揺させました。
 そんな私の表情を見て彼は何か思いだしたようにポケットをまさぐり始めた。

「あっ!これこれ」

 彼がポケットから取り出した物はハートと髑髏の絵が描かれた奇妙なカードで私はなぜかそれから離せなくなりました。

「ハートと髑髏?」

「そうだよ。まるで何かに乗っ取られるように身体に入ってくるでしょう」

 彼の言うとおりその絵はまるで生きているかのようにカードを飛び出し私の中に侵入してくるような錯覚をおこさせました。
 髑髏が私から思考を奪い取りハートが感情を揺さぶる。
 でもそれは決して悪い気はしないんですよ。
 むしろその逆で今まで分からなかった事が全て分かりだし気分がとってもいいものなのです。

「恵美ちゃんは今僕と二人っきりで話せてとても嬉しいでしょ」

 そうです。彼と二人っきりで話せるなんてこんなに素晴らしく幸せな事は他にないはずなのにどうして今まで分からなかったのでしょう。
 本当にそれまでの私は何も分かっていなかったのす。
 この高鳴る鼓動、幸福感、全てはあのカードのおかげでしょう。
 カードは私の今までの過ちを正して素直な人間へと導いてくれました。

「う~ん!いい笑顔だね。怒った顔も良いけどやっぱり笑顔の方が似合うね」

 彼に誉められると鼓動は更に激しくなり喜びで満ちあふれるのでした。

「ありがとうございます。克也さんとお話が出来るなんてこんな幸せな事はありません」

 あの時の感動を今でも思いだすと背筋がぞくぞくして言葉も出ないくらいです。

「僕もとっても嬉しいよ。なんか恵美ちゃんとはこれからもずっと上手くいきそうだからね」

 そんな事言うと眩し過ぎる程の笑顔を浮かべて私の手を握りしめたのです。
 その手の温もりは私の心に言葉に出来ないほどの心地よさを一緒に運んできました。

「嬉しい!」

 私の頬を感動の涙がつたわりテーブルまで達しました。

「じゃぁ!早速キスでもするか」

 彼が無邪気に言ったその言葉になぜかその時私の中で拒否するものがありました。

(えっ!キス!なんで私がこの人と?でもこれほど素敵な人はどれだけ探しても他にはいないし)

「あっ!そっか。僕とした事が」

 彼は一旦その場を離れ元々座っていた場所に戻ると椅子に無造作に置かれていたリュックを手に取りました。

「これしなきゃいけないわな」

 彼は再び私の元に戻るとリュックから横に3センチ縦に10センチほどの長方形の置物で奇妙な動物の絵が描かれた置物を取り出した。

「これスイッチ入れるととっても綺麗なんだ」

 彼がそう言いながら後ろにあるスイッチらしきものをいじるとその置物から青い光りを発するのでした。

「ホント綺麗!」

 それは本当に綺麗な光景でした。
 私の前にある青く光る置物。
 その光と共に描かれている動物達が私の頭の中を走馬燈のように駆けめぐっていました。

「そしてっと」

 そう言って今度は置物の横にあるスイッチらしきもののひとつに触れたのでした。
 すると置物からピッ!ピッピッ!という小気味良い音がなりその後に閃光が走りました。

「きゃっ!」

「びっくりしたかい?」

 びっくりしたかってもんじゃありません。
 美しさのあまり見とれていたあの置物が急にあんな光を発したのですから。

「ええ!いったいこれって何なの?」

「実はあの凱旋門の置物と同じようにこれもこれも全部フランスで手に入れたもんなんだ」

 彼は本当に自慢げに話していました。

「へえ~!凄い物なんですね。さすがフランスというところね!でもそれから閃光が走った時はびっくりしましたわ。まだ瞼に馬の絵がこびりついているもの」

「えっ!君はあの光の中にある絵が見えたの?」

 彼は凄く驚いているようでした。

「ええ!白い馬二匹が描かれているわ」

「これが何なのか分かったのは君が初めてだよ。やっぱり君は運命の人かもしれないな」

 彼は無邪気に喜ぶと興奮してテーブルを2回程軽く叩きました。

「で、その2匹はどうしてたの?走ってたの?遊んでたの?」

 もちろん交尾している絵だったなんて言えません。
 私は真っ赤な顔をしながら彼の吸い込まれそうになる瞳を見つめていました。

「えっ!教えてくれないの?」

「あの~、あれはですね・・・・・・・・・・」

 やっぱり恥ずかしくて言えません。
 私の顔は益々赤くなってきました。

「あっ!ひょっとして」

「馬が2匹何しててもいいじゃないですか!とにかく服を脱がさしていただくわ」

 私は彼が満足するように出来る限り精一杯誘惑するような目つきで一枚一枚気分をだしてゆっくり脱いでいきました。
 すると優しい彼は私に合わして同じように服を脱ぎ始めたのです。

「うん!思ったとおり凄く綺麗だ!これだったら最後までいってもいいな」

 彼は私の身体の手足の先までもまじまじと見ていました。
 そしてその瞳に見つめられたところは凄く熱くなってきて鼓動は更に激しくなるのです。

「あんまり真剣に見ないで!凄く恥ずかしいわ」

 そう言っても彼はあたしの身体から視線を逸らさずバッグからペンライトのような物を取り出しました。

「えっ!それもフランスの?」

「そう!フランス製だよ」

 彼はそう言うとそこから発射される光を私の唇に当てたのでした。
 不思議な事にその光に当てられると唇の辺りが無性にむずむずしてどうしても今直ぐに彼と激しい口づけをしたくなるのです。

「あんっ!なんか無性に」

 私の目は完全に彼を求めるものになっていたのです。

「無性に?」

 彼の問いかけに答える事なく彼に飛びつき口づけを交わしていたのです。

「んっ!んっ!んん」

 彼をもっと感じたい。もっともっと乱れたい。
 自然に私の口づけは荒々しいものになっていくのでした。
 彼の唾液を求めたり舌と舌を絡ませるなどの行為は性的な欲求を生み出しました。
 そして彼の興奮した感情が伝わってきて私の欲情に更に火をつける。
 彼が弱く私の舌に歯を立てた時なんか身体中電流が走り頭の中が真っ白になったもんです。

「駄目!」

 その時反射的に彼を突き飛ばしたのです。

「いきなりなんだよ」

「ごめんなさい。でも・・・・・・」

 実はあの時彼の指先が私の大事なところに伸びたのです。
 それに対し私にはまだ心の準備が出来ていませんでした。

「そうか!しょうがないな」

 彼はふてくされたように言うとバッグから今度は小型のマイクを取り出したのです。

「ひょっとしてそれも?」

 彼は私の質問にマイクを通して答えました。

「もちろんフランス製だよ。そんな事より本当のところ早く僕とSEXがしたくてむらむらしてるんでしょ」

 もちろんそのとおりです。
 彼が欲しい。抱かれたい。くわえたい。入れて欲しい。無茶苦茶に突いて欲しい。
 私の性的欲求は止まる事なく益々強い物となっていくのです。

「それは当然の事です。この店に来たのも元はと言えばあなたに抱いてもらう為なんですから」

「それは分かってるけどね」

 彼はそう言いながらペンライトの光を私の胸とあそこに当てたのです。

「うわぁ!凄いわ。私のここ待ちきれなくてびちょびちょになってきちゃった」

 あそこから溢れだした冷たい物が糸を引くように足へと流れている。
 身体中が性感帯のように敏感になり早く彼に抱いてほしくて我慢が出来なくなっていました。

「あぁん!早く!早く!」

 私は少し鼻にかかった甘い声で彼におねだりすると再び飛びつき口づけを交わしました。
 彼の左手が私の髪の毛に伸びかきむしった時は『あぁぁん!もっと恵美を壊してください』と何度も心の中で叫んでいたのです。
 やがてしっかり腰の辺りを抱きしめていた右手がとうとうあそこに迫ってきました。
 その手は私を焦らすかのようにひだひだの辺りをゆっくり愛撫してたのです。
 少し中指がクリストリスに触れた時は私の身体は快感のあまりぶるっと震えおもわず唇を離しました。

「あんっ!」

 どちらの唾液か分かりませんが彼の唇と私の唇には一本の糸が出来ていたのです。

「お願い!お願い!」

 私の声は既に涙声になっていました。

「お願いて何を?」

 彼は悪戯っぽく笑いながら言ったのです。

「お願いだから早く恵美のおまんこぐちょぐちょにして!これ以上焦らされたら狂っちゃうよ」

 実際あれ以上焦らされていれば私の精神は崩壊して狂ってしまったかもしれません。
 とにかくぐちょぐちょにして欲しい。あの時はその事しか頭にありませんでした。

「こうかい?」

くちゅくちゅくちゅ

 静かな店内にその卑猥な音が響き渡ったかのようでした。
 親指でクリストリスを刺激しながら中指を私の中に入れGスポットを中心に愛撫し始めたのです。

「いやん!あ~ん」

 続いて人差し指も入ってきて先に入っていた中指と共に暴れ出したのです。

くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ

 私の上身体は快感のあまりえびぞりに倒れていきました。

「あぁぁん!いいよ!いいよ!気持ち良い!」

 それは今まで体験した事の無い快感でした。
 気持ち良過ぎると涙が出てくるのもその時初めて知りました。
 まるで二本の指が私を完全に支配してるかのように全身を快感で包み込んだのです。

「思ったとおり恵美ちゃんのおまんこはよく締まるね。なんか入れたくなってきちゃった。恵美ちゃんも早く本物のおちんちん入れて欲しいでしょ」

 彼は興奮した様子でマイクに向かって語っていました。

「あ~ん!あ~ん!お願い」

 もう私の頭の中は一つの事でいっぱいになっていました。

「今度はなんだい?」

「早く指じゃなくて本物のおちんちん入れて~」

 私の視線は彼のあそこに釘付けになっていました。
 もう我慢の限界はとっくに超えているのです。

「うん!恵美ちゃんは僕の物を入れる資格があるよ」

「いやん!恵美て呼んで」

「じゃぁ恵美行くよ」

ずぼっ!

 脳天まで突き上げる衝動と共に彼の物が入ってきた喜びが私の中で溢れてきました。

ぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎし

 彼の動きに合わせて私の喘ぎ声が店内に響き渡りました。
 『自分はなんて幸せなんだろう』という思いが更に快感を増していったのです。

「いい!いい!いい!」

「いったい何が良いの?」

「克也さんのおちんちん!おちんちんがとっても気持ち良い」

 普段では恥ずかしくて言えないような事もあの時は素直に口をついたのです。
 彼の動きはとっても変則的でした。
 時計回りに動いていると思えば逆回り。
 急に動きが止まったかと思えばまた急に動きだす。
 あの時完全に私は彼に翻弄されまた喜びだったのです。

「恵美のあそこはホントよく締まるよ。僕の物を入れるのにぴったりだね」

 こんな嬉しい言葉は他にないでしょう。
 私はこの人と出会う為に生まれてきたんだ。
 私の心も身体も一生彼の物なのです。

「はあん!恵美もう・・・・・」

 身体の奥から小さな痙攣が起きてきてそれがすぐに大きくなる事を私は本能的に感じたのです。

「いくのかい?」

「うん!もう!もういっちゃうの!克也さんのをいっぱい恵美に入れてください」

「ようし!それじゃ」

ぎしぎしぎし・・・・・・ドッビュー

 一瞬何が起きたのか分かりませんでした。
 私がいったのとほぼ同時に彼の濁液が子宮を支配して『克也さんの女』になる事ができたのです。
 どうやらそれから暫くの間私は快感のあまり気を失っていたようでした。
 目が覚めた時既に服を着ている彼が私の座っていた席に座りコーヒーを飲んでいたのです。

「あっ!気がついたみたいだね。それにしても冷えたコーヒーて不味いよね」

 彼は顔をしかめながらすっかり冷め切ったコーヒーを眺めていました。

「克也さん・・・・・・・・」

「僕ね恵美の事凄く気にいったみたい。だから恵美は特別に彼女にしてあげるよ」

 私は感激のあまり涙が止まりませんでした。
 そうよ!私は特別なんです。
 いつもいつも彼の側にいれるのです。

「あっ!そうだ。その前に」

 彼はそう言うとバッグから一枚の紙幣くらいの大きさの紙を取り出しました。

「これはいったい?」

 私はいぶかしげな表情をしながら奇妙な絵柄が描かれた紙を見たのです。

「招待券だよ!フランス行きの招待券」

「えっ?」

 私の中にせつなさがいっぱい広がってきました。

「嫌よ!克也さんと離れるなんて絶対嫌!」

 私はあの時もうどうしていいか分からなくなり彼の胸に飛び込みひとさら大きな声で泣き叫んだのです。

「大丈夫だよ!ここにチップを埋め込んだらすぐに帰ってこれるよ。それで恵美は晴れて僕の恋人さ」

 それからの数時間いったい何があったのか実ははっきり覚えていません。
 ただあの後も交際は続きそのうち子供をさずかり私達はめでたく結婚したのです。

「恵美!め・ぐ・み!」

 真理子の声に私の回想はうち切られました。

「何ぼ~としてるのよ」

「あっ!ごめんなさい」

 私ったらかなり長い間惚けてたのかしら。
 真理子は呆れた表情をして私を見ている。

「もう一杯飲む?」

 私は手真似で紅茶を飲むしぐさをして真理子に聞いた。

「そんなに飲めないわよ!そんな事よりホントしっかりしなさいよ」

「ごめん!ごめん!」

 私は少し舌を出して謝る格好をした。

「もう!ホントに子持ちの女性がやるポーズじゃないわよ」

 こんな時少し苦笑いをしながら語る真理子の姿が大好きだ。

「ところでそろそろ旦那帰ってくるんじゃないの?私ここらでおいとまするわね」

 真理子はそう言って席を立ちかけている。

「無理よ!」

「えっ?」

「真理子はここから出られないわ」

 真理子は私が何を言ったか理解出来ないようだ。

「あそこにある凱旋門の置物見えるかしら?実はあれで結界を張っているの。だからあなたはここから出られないわ」

 真理子は益々わけが分からないといったような顔をしている。
 無理もないわね。私も昔はそうだったのだから。

ピンポーン!

「あら!もう帰ってきたみたい」

 愛する主人が帰ってきた。
 そう思うだけで嬉しさのあまり自然に頬の筋肉がゆるみます。
 
「あなた!お帰りなさい」

 私はいつものように急いで走っていったんですが主人はすでに玄関に入っていて私を温かく抱きかかけてくれました。
 傍らには女性が一人立っています。

「松井さんお久しぶりです。」

 本当に松井さんとは久しぶりです。
 女の私が見てもどきっとするような妖艶なまなざしは相変わらずだわ。

「あら!恵美さん。ホント久しぶりね!いつも仲の良いお二人さんでうらやましいわ」

「からかっちゃ嫌ですよ松井さん」

 どうもこの人と話すと調子狂っちゃいます。

「どうぞ上がってください」

 二人を部屋に通すとそこには逃げようと努力している真理子がいます。

「真理子紹介するわ!こちらは松井さんフェラチオ専門の方なの」

 真理子ったらすっかり泣き顔になっちゃってる。

「恵美助けて!」

 どうしてかしら?真理子は必死に席を立とうとしている。
 結界を張ってるいじょうは無理なのになんで分からないんだろう。

「彼女は?」

 主人が真理子を見て尋ねている。

「私の高校時代の親友よ。真理子て言うの」

「ふ~ん!さすが恵美の友達。かわいいね」

 主人は気にいったみたい。

「よかったわね!真理子。主人に気にいられたみたいよ。あなたもきっとフランスに行けるわ」

「フランス?」

 真理子は泣きながら言っている。

「そうよ!フランスよ。そこで私達みたいにチップを埋め込むのよ」

「いや~!嫌よ!お願い許して」

 真理子はなぜこんなに騒いでいるのでしょうか?
 でももうすぐ喜んでフランスに行くようになるわ。

ガッチャ!

 あら!真理子があんまりにも騒ぐもんだから正樹起きちゃったみたい。

「恵美!それって・・・・・・・・・・・」

 最近では正樹はベビーベッドにじっとしていられないみたいです。
 その大きな目で見つめられるとどんな事でもしてあげれるわ。

「かわいいでしょ。時々この目が光ってとっても綺麗なの」

「いや!近づかないで。お願い!お願い・・・・・・」

 あら正樹はどうやら真理子が気にいったみたいです。
 長い指を真理子に向けて話しかけているわ。

「ヨ・ウ・コ・ソ・フ・ラ・ン・ス・ヘ」

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・・・・・・・・・・・・・

< 終 >

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