シネマと共に

 雅彦はこの地が大好きである。
 18年前この地に越してきてからそれだけは変わらない。
 22歳の時ちょっとした交通事故にもあったし26歳で離婚も経験した。
 決して順風満帆だったわけではない。
 でもこの地には雅彦が心から愛する映画館がある。
 映画館の名は『ドリームシネマ』。
 彼はここで上映される物は全てかかさず鑑賞したきた。
 結婚式の前日や離婚調停の最中はもちろんの事、事故で入院した時でも病院から脱走してまでこの映画館に足を運んだ。
 この映画館こそが彼の青春であり人生そのものなのだ。
 だがそんな彼の愛する映画館もあと3日で閉館を迎えようとしていた。

パチッ!

 雅彦は折り畳み式携帯で時間を確認してから映画館の隣のコンビニエンスストアーで買ったスティック状のパンを頬張った。
 上映の数分前に高まる興奮を抑える為いつも口に何か入れるのは昔からの癖である。
 パンは一本二本と次々に雅彦の胃袋に収まっていく。

「いつも上映前はお前さんの口に何か入っておるのう」

 そんな声につられて右に首を傾けるとそこには白髪に染まった見事な顎髭をもつ老人が座っていた。
 老人は雅彦の顔を食い入るように見つめている。
 雅彦自身この老人の姿を何回かこの映画館で見た事があった。

「あっ!すいません」

 雅彦はあわてて右手に持っていたスティックパンを袋に戻すと首を小さく前方に曲げ謝罪した。

「いいんじゃよ!いいんじゃよ!あんまりにも美味しそうに食べなさるんでつい声をかけただけじゃよ」

 老人は目尻に皺をよせ微笑んでいる。
 雅彦もそんなに自分はパンを美味しそうに頬張っているのかと思うと我ながら恥ずかしくなり自然に笑みが浮かんできた。
 二人は顔を見合わせより一層顔をくしゃくしゃに崩している。

「私もこの映画館が好きでよく来るんじゃがお前さんの姿は必ずと言っていいほど見かけるのう」

「そうですか?・・・まあ!この地に越してきてからこの映画館で上映された物は全て見て来ましたからね」

 自慢するほどの事ではないが雅彦は誇らしげに胸を張りながらしゃべっている。

「本当にここは良い映画館ですよ」

 全くそのとおりだと言わんばかりに老人は大きく肯いている。

「ビデオが出来てからみんな映画館に足を運ばなくなりましたがやっぱり作品は映画館で見るのが一番ですね。もっとも私はビデオと映画で映しだされる物は同じテープから発せられる物でも全く違った物になると思ってますけど」

「ほう!それはどういった意味かね?」

 老人は少しだけ首を捻りながら聞いてみた。

「ビデオは確かに便利かもしれません。時間的制約もないし面白くなければ早回しなんかも出来る、また何回も見たい所には簡単に巻き戻して見たりする事も可能ですよね。ただ・・・」

「ただ?」

「やはり映画館の大スクリーンで映しだされる映像はテレビとは迫力がまるで違います。上映前のどきどきする感じも映画館でないと味わえないし見終わったあとの充実感なんか何物にも変えられないものじゃないですか。これはビデオでは決して味わえません」

 雅彦は映画の事を話しだしたらとにかく止まらなくなるのである。

「映画を見ている時私は間違いなく主人公になりきっているんですよ。主人公が窮地に立たされた時は私も一緒にどうすればいいか真剣に考えますし普段あまり好きな女優でなくてもその映画でヒロイン役をやっていれば真剣に恋します。ハッピーエンドなんかになった時は心から良かったと感じるんですよ」

「わしもハッピーエンドは好きじゃ。特にアメリカ映画なんかはだいたいハッピーエンドになっているのがつまらんと言う人もおるが私としてはあの方が好きじゃ」

 どうやら老人も映画は芯から好きらしくこの話題に関しては童心に戻ったように夢中に話している。
 雅彦もますます楽しくなってきた。

「アメリカ映画は良いですよね!正直話しの展開が凄く早いという気がする時もありますが私は大好きです」

「そうそう!今まで言い争っていた男女が急にキスをしだし深い仲になるなんてアメリカらしくて好きじゃ」

「そうなんですよ!一途に遠くから男を追い続ける中国映画なんかも良いですがアメリカの恋愛映画もやっぱり良いですよね」

 もはやこの時点で二人は先程まで全く会話を交わした事がないと言っても信じる人はいないだろう。
 それほど二人の仲は映画と言う物をとおす事により年齢差と関係なく親しいものになっている。

「映画のような恋を本当にしたいと思った事はないか?」

 急に老人は真剣な顔つきになりそんな事を雅彦に言いだした。
 それに対する雅彦の答えは割合早い物であった。

「そりゃもちろんしたいですよ!アメリカや中国映画のような恋をして日常生活から離れたくなるような時はしょっちゅうあります」

 上映の為暗くなってきた館内で雅彦は声を落としながら更に話しを続けた。

「憧れますよ!あの大スクリーンに映しだされるような大恋愛を!」

 老人はスクリーンを見つめている雅彦の横顔を眺めてから雅彦に何かを手渡した。

「何ですかこれは?」

 老人は雅彦の耳元で囁いた。

「わしが若い頃使っていた宝物じゃよ。今はお前さんのような人こそそれを持つにふさわしい」

「宝物?ふさわしい?」

 雅彦はおもわずつぶやいたが上映が始まるとすぐにそんな疑問は消しとんだ。
 老人から手渡された物を握りしめ映画に夢中になってしまったのだ。
 しばし雅彦は日常から離れた映画の世界に居た。

 上映が終わり館内に明かりが戻った時もまだ雅彦は現実の世界に戻ってこれない。
 手の平が痺れるような快感にひたすら酔いしれた。

「素晴らしい作品でしたね」

 感動のあまり少し涙ぐみながら雅彦は老人に語りかけた。
 しかし老人からは何の返答も無かった。

「あれ?じいさん・・・・・・」

 横に振り返ると既にその場所に老人の姿は無かった。

「いつのまに?」

 不思議に思う雅彦の脳裏にある物が浮かんできた。
 そう上映前に老人から雅彦の右手に手渡された物である。
 雅彦は右手をゆっくり開け今まで握りしめられた物をおそるおそる観察した。
 それは何の変哲もないキホルダーだった。

「カチンコ?」

 そのキーホルダは映画などの撮影時に使うカチンコの形をしていた。
 表面にはアメリカの文字が白ペンのような物で書かれていた。

「おもしろいな!」

 映画好きの雅彦はそれがすっかり気に入ってしまい外に出てからも握りしめた。

 映画を見終わった後町をうろつくのも18年間変わらぬ習慣だ。
 片田舎の為そんなに賑やかな事はないのだが人がいる所を歩くだけでも雅彦には満足なのである。
 冬服と春服とどちらを着るか微妙な季節という事もあり道を歩く人も様々なファッションになっている。
 雅彦はコートに手を突っ込みながらすれ違う人を観察していた。

「最近の子はかわいいな」

 こんな田舎だから若い女性は目立つものである。
 今雅彦の正面から歩いてくる女性も例外ではない。
 20歳くらいといったところだが少し童顔が入っているのでそれ以下に見られる事もあるだろう。
 黒のリュックを背負い携帯でメールのやり取りをしながらゆっくりとした速度で雅彦にむかってきた。

「よく前を見ないで歩けるな」

 雅彦はそうつぶやきながら理由無くコートに突っ込まれた右手に握られていたカチンコのキーホルダを実際の撮影現場でするように上下の板を合わして音を立てた。

カチンッ!

 辺り一面大きな音が響き渡る。
 それは音を立てた本人の雅彦がびっくりするくらいの物であった。
 前にいた女性も思わず携帯を落としびっくりした顔を雅彦に向けている。

「あっ!すいません」

 そんな雅彦の謝罪など聞いていないかのようにその女性は凄い剣幕で近づいてきた。

バチンッ!

 雅彦の左頬が熱くなった。
 どうやらその女性に頬を平手で叩かれたようだ。

「えっ!何を?」

 何がなんだか雅彦は状況が飲み込めずうろたえている。

「『何を』じゃないわよ!ロバート」

 雅彦はますます混乱してきた。

「ロバート?」

 雅彦は辺りを見回したが当然それらしい人物はいない。
 そこで初めてどうやら自分の事を彼女は『ロバート』と呼んでいる事を認識した。
 いきなり女性に平手打ちを喰らわされ『ロバート』呼ばわりされるのだから雅彦にとっては災難としか言いようがない。

「あなたはどうしていつもそう勝手なの?冒険!冒険!冒険て!あなたなんか!あなたなんか!」

ぶちゅっ!

 いきなり目の前の女性は雅彦の肩に手をまわし口づけを交わした。

「んっ!んっ!・・・はっ!はっ!・・・愛してる!・・んんっ!んっ!・・・ロバート愛してる!・・・・んんん!」

 女性のキスは日本人離れした大胆なものである。
 どうやらこれは気のふれた女であると雅彦は認識し少し危険も感じたが久々のキスにより興奮した為もう少しこの女に調子を合わせる事にした。

「んっ!・・・・スーザン愛している!」

「んんっ!んっ!・・・・あたしもよロバート!」

 道行く人は二人の事を避けて通り過ぎている。
 もちろん好奇の目を持って。

「オ~ロバート!カモーン ウイズ ミ~!」

「イエス!・・・・・・・えっ?カモン ウイズ ミ~?」

 なんで急に英語が出てくるのかも分からなかったがロバートは彼女に引っ張られるままついていった。

「ここって?」

 たどり着いた所はこの辺りでは3件しかないラブホテルの中の一件であった。

「オ~!プッシーが濡れ濡れよ!」

 彼女の言葉は中途半端な英語になっている。

「カモーン!カモーン!」

 彼女の後についていくようにしてラブホテルに入った雅彦は玄関を掃除していた男性を見て固まってしまった。

「いらっしゃ~い」

 明るい声をかけた男性はなんと映画館で隣に座っていた老人であった。

「こ、これはいったいどういう事ですか?」

 雅彦は老人に詰め寄った。
 しかし老人は人当たりの良い笑顔を覗かせ動じる様子は全く見せない。

「まあまあ!そんな顔しなさんなって。・・・・・・・ほれ彼女がお待ちかねじゃぞ」

 耐えきれないのか彼女は雅彦の耳を舐め回し『早く!オ~プリーズ』などと言っている。

「だいたいこの中途半端な英語はなんなんですか?」

「それは彼女の語学力がその程度なんじゃろ」

 雅彦はますます訳が分からなくなってきた。

「だいたいなぜあなたがここに居るのですか?彼女はいったい?」

 雅彦の質問は無視するかのように老人はポケットから鍵を取り出すと女性に渡した。

「詳しい説明は後でするから今は楽しみなされ!」

 老人はそう言うとほうきとちりとりを持ったまま『従業員専用』の札がかかった扉の向こうへと消えていった。

「ロバートカモーン!クイック!クイック!早く来て~」

 雅彦は彼女に手を引っ張られエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターの中でも彼女は積極的に雅彦を誘惑した。

チンッ!

 着いた先はこのホテルの3階であった。
 そこから雅彦はスーザンと化した彼女に抱きつかれたままなんとか部屋のドアを開け中に入った。

「なんだ?」

 部屋の壁には保安官や自由の女神などのアメリカを象徴する物が描かれていた。
 どの絵もラブホテルには相応しくないものばかりである。

「ロバート!早くそのスカッドミサイルで私を打ち落として」

 と、言いながら彼女は雅彦に抱きつき一枚づつ着ている物を脱ぎ始めた。

ぶちゅっ!ちゅぱ!ちゅぱ!

 彼女の激しいキスが再び始まった。
 30も後半に迎えようとしている雅彦にとっては彼女のはちきれんばかりの肉体と激しいキスは刺激の強いものである。
 身体の芯から沸き上がる欲情のままに雅彦は彼女の身体をむさぼった。
 雅彦はパンツの中で勃起している男性自身を使いパンツごと彼女の股に押し当てた。

「はぅっ!・・・・んんっ!ロバート早く本物を頂戴!トゥルミサイルを私に打ち込んで!」

 彼女は胸を雅彦の顔に押しつけ擦りだした。
 こんな弾力のある胸は何年ぶりだろうか?・・・・・・今雅彦の頭の中は疑問など全く消え去っておりただ快楽だけを求めている。

「はぅ!はぅ!あぅっ!カモン!カモン!ミサイルカモン!」

 彼女は強引に雅彦のパンツをずり下ろすとそびえ立った雅彦の物を濡れきった自分の中に入れた。

「あぁぁぅ!グード!グード!あっ!あっ!あっ!あっ!フライ!フライ!飛んじゃうよ~」

ぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎし!

 雅彦は腰痛の危険も無視して高速に腰を動かしている。

「オ~!イエス!イエス!イエス!イエス!イエス!ゴ~!ゴ~!ゴ~!」

 彼女の身体が後ろに大きく反り返ってきた。
 雅彦はさらに強く女を抱きしめた。

「もういきそうだよスーザン!」

 雅彦は早くも絶頂を迎えようとしていた。

「いい!いい!いい!グッド!グッド!グード!グ、グ、グード!いっちゃうよ~」

どびゆっ!どくどくどくどくどくどくどく!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぅ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 彼女は『オ~マイガッ!スピード濡!アメリカ万歳!』などと叫びながらベッドに横たわり失神した。
 雅彦も射精感による強烈な快感を酔いしれた。
 しかし射精後の男は急に冷静になるのも事実である。
 出す物を出した雅彦もすっかり冷静になり失神状態の女を部屋に残したままでエレベーターに乗り込み受け付けのある1階へと向かった。

「おや!もう終わりかね?・・・・・・・早いのう」

 エレベーターのドアが開くとそこには既に老人が立っていて雅彦にいきなりこんな事を言ったのである。

「じいさん!これはいったいどうなっているんだ?」

 相変わらず老人は全くたじろぐ様子がない。

「まっ!あの女のアメリカ人のSEXの印象が前戯無しにすぐに挿入となってたようじゃからしょうがないのう」

 雅彦は首を傾げ老人の次の言葉をうながしている。

「お前さんの着ているコートの右ポケットに入っているカチンコ・・・・・・」

 老人に指さされ雅彦はポケットの上からカチンコを触り感触をたしかめた。

「思い出してほしいんじゃがアメリカと書いてなかったか?」

 雅彦は『たしかに』と言わんばかりにゆっくりとうなずいた。

「お前さんはさっきあのお嬢さんを見つめながらそのカチンコを鳴らしたじゃろ」

 雅彦はつい数時間の事を思い出した。
 たしかにリュックを背負ったあの女性を見ながらポケットの中でカチンコを鳴らしていたのである。

「それが何か?」

 老人は白髪に染まった顎髭を2,3回左手で掻いてから話しを続けた。

「それじゃよ!あのカチンコはその昔仏蘭西人からもらった物でな」

「仏蘭西人?」

「凄く不思議な物じゃ!例えば今の場合アメリカと書かれたカチンコを鳴らす事によりお前さんに見つめられてたあのお嬢さんは実際にアメリカ映画のヒロインになったのじゃ」

「ヒロイン?」

「そしてお前さんと大恋愛になるというわけじゃ」

 そんな事があるのだろうか?
 雅彦は今実際に体験したにもかかわらずどうしてもその話を信じる事が出来ない。

「もちろんあのお嬢さんは日本人じゃ。だからあのお嬢さんがアメリカ人に持っているイメージでお前さんに恋するわけじゃ」

「つまり彼女は一種の催眠状態に陥ってるわけですか?」

「それが一番理解し易いかな」

 老人は雅彦のポケットに手を突っ込みカチンコを取り出した。

「これをもう一度見てごらん」

 カチンコの表面に書かれた文字は『アメリカ』から『中国』になっている。

「あれ?どうして?」

 雅彦は思わず叫んだ。

「次にお前さんが女を見ながらこのカチンコを鳴らすとその女は『中国映画』のヒロインとなりお前さんと結ばれるのじゃ」

「では今の人は?」

「お前さんが次のカチンコを鳴らした瞬間にあのお嬢さんの『アメリカ映画』は終わる。全部銀幕の上で起こった事なのじゃ」

 老人は再びカチンコを雅彦に手渡した。

「もちろんあのお嬢さんにもう一度それを使えば今度はあのお嬢さんとの『中国映画』が始まるのじゃ」

 雅彦は半信半疑ながらもこれ以上理解するのは不可能だと確信しラブホテルをあとにした。

 次の日雅彦は再び路上に立っていた。
 もちろん半信半疑ながらもカチンコの効力を試す為だ。

「う~ん」

 どうせ試すなら普段手の届かない女性をと思うのは男性なら至極当然の事である。
 雅彦は既に3時間もこの場所でめぼしい女性を物色していた。

「あの人なんていいな」

 ようやく雅彦の目に止まったのは20代半ばくらいのOLで長く綺麗な髪が特徴的な女性である。
 雅彦は右手にカチンコを握りしめ彼女を見据えた。
 だがその時彼の背後から聞いた事のある声が耳に入ってきた。

「ロバート!」

 そう昨日の『アメリカ映画』の女である。
 彼女が雅彦目掛け走ってきているのである。
 雅彦に一刻の猶予もなくなった。
 素早くOLに視線を合わせるとカチンコをおもいっきり鳴らした。

カチーン!

 昨日に続き雅彦もびっくりするような大きな音が路上に響き渡った。

「あれ?」

 『アメリカ映画』の女は事態が飲み込めないらしく辺りをきょろきょろ見回している。
 対照的に『中国映画』のヒロインとなったであろうOLはみるみる頬に赤みがさし雅彦をじっと見つめている。

「劉さん!」

 OLの口から出た言葉は『劉さん』だった。
 どうやら彼女の中では私は『劉』になっているらしい。

「どうしたんだい?」

 雅彦が言葉を返すと彼女の顔は更に赤みを増して頬を両手で押さえながら走り出した。
 もちろん行き先はあのホテルである。
 女はホテルの玄関先で立ち止まるとそこでうつむきだした。
 雅彦の手が肩にかかると身体に電気が走ったようにびくっと反応する。

「愛しているよホアンホアン!」

 雅彦にとって中国人のイメージはあまりなく昔テレビで見たパンダのような名を口走ってしまった。

「我愛劉!」

 たぶん無茶苦茶な中国語だろう。
 そんな言葉が彼女の口から出た。
 ホテルに入ると受付の老人は心得ているよと言わんばかりにパンダや中華そばなどが壁一面描かれた部屋に雅彦達を通した。

「好!好!愛!愛!我実行性的行為!」

 彼女はそう言うと静かに目を閉じ雅彦の口づけを待った。
 それに対し雅彦は彼女の両肩に手をかけ彼女の唇を押し当てる。
 ただそれだけで彼女の身体は小刻みに震えだした。

(いいな中国はシャイで!直ぐにスカッドミサイルを打ち込めなんて言うアメリカとは大違いだ!)

 雅彦はそんな事を思いながら尚も彼女の唇を奪い続ける。
 時々胸や股の辺りに手を伸ばすとその度に彼女の身体は敏感に反応した。
 そんな恥ずかしがる彼女の服を一枚一枚優しく丁寧に雅彦は脱がしていった。

バサッ!バサッ!

 彼女の裸体は美しかった。
 くびれた腰に肉付きの良いヒップ、そして豊かで張りのある胸は男性なら誰でもむぼりつきたくなるだろう。
 もちろん雅彦も彼女の身体を欲する本能のまま求めた。

「綺麗だ!ホアンホアン!」

 雅彦は彼女の美しいうなじに後が残る程の強く吸い付き左手でその豊かなバストの感触を確かめた。

「あっ!阿っ!んん!恥ずかしい!」

 よほど恥ずかしいのか彼女は目を堅く閉じている。

「ん?嫌かい?」

 ここまで来ると雅彦もすっかり役に成りきっている。

「うんん!否!否!違うの!嬉しいの・・・・・・大好きな劉と一つになれる事が」

 はにかみながら話す彼女を見つめながら雅彦は少し長めの舌を使いその豊かな胸を舐めはじめた。

ぺろっ!ぺろっ!

「あぅぅぅ!あん!いい!いい!良!良!」

ちゅぱっ!れろれろ!

「ああん!凄くいい!極良!極良!最高級良!」

 彼女の身体は雅彦のちょっとした動きに大袈裟なほど敏感に反応する。
 その白く細い腕を雅彦の身体に回し『劉!劉!』と譫言のように叫んでいる。
 雅彦はその離れがたい胸から舌を滑らせくびれた腰そして下半身へともっていった。

ツツツツツー!チュパッ!チュパッ!

「はぅっ!あぅん!いやん!駄目!駄目!」

 雅彦の舌がクリストリスに押し当てられる。

「あっ!其処駄目!舌動禁止!いや~ん!動かさないで!ひぃ~」

じゅぶじゅぶじゅぶじゅぶ!

「あうっ!あうっ!あうっ!あうっ!あうっ!其処!其処!其処!痺!快感!」

 雅彦は尚もクリストリスに舌による刺激を与えながら身体を反転させシックスナインの体位をとった。
 彼女はすぐ目の前にある雅彦の男性自身にとまどいを見せている。

「あんっ!嫌!劉恥ずかしい!やめて!否!否!」

 雅彦は亀頭の先端を彼女の唇に少し擦れるぐらいの位置にもってきた。

「何を言ってるんだい。ホアンホアンの大好きな劉さんのちんぽだよ!」

 雅彦の中年親父丸出しの言葉に彼女の顔はさらに赤みを増した。

「いやあん!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!劉の馬鹿!もう知らない!」

カポッ!

 うるさいと言わんばかりに雅彦は彼女の口に息子をほおりこんだ。

「うぐっ!ふんっ!ふんっ!あぐぅ!んんっ!ちゅぱちゅぱ!」

 正直なところ彼女のフェラチオは強烈だった。
 どうやら実際の彼女はかなり遊んでいるとみえる。

シュポッ!

 強烈な快感に耐えられないと感じた雅彦は彼女の口に入っていた息子を取りだした。
 彼女の口には少しだけ溢れ出た雅彦の濁液が残っている。

「美味!美味!劉液最高!我幸福!」

 まどろんだ表情でつぶやく彼女の秘部に雅彦の指が襲いかかる。

クチュクチュクチュクチュ!チュルッ!チュルッ!チュルッ!クチュッ!

「あうっ!あうっ!あうっ!あうっ!駄目!いっちゃうよ!いっちゃうよ!」

 異常に柔軟な指関節を持つ雅彦は昔から指攻撃には自信があった。
 中国バージョンになりきっている筈の彼女の顔はみるみる淫靡な表情へと変わりだす。

「あんっ!欲しい!我欲!我欲!」

「ん?何が欲しいんだい」

 こうなると中年親父は止められない。

「・・・・・・ん・・・・・ん・・・・・・・・ん」

 彼女は囁くような声で言っている。

「何だって?聞こえないな~。大きな声で言わないと劉帰っちゃうよ」

 彼女の顔に狼狽の表情が浮かんできた。
 お腹に力をためると精一杯の声で叫んだ。

「ちんちん!ちんぽ!肉棒!劉の肉棒をホアンホアンのまんこに突っ込んで~」 

ズボッ!

 叫び終わるのと同時に雅彦の息子は彼女の身体に挿入された。

「あぁぁ!あっ!あっ!劉の肉棒が入ってる!入ってる!私の中に入っている!」

 彼女の身体は硬直し雅彦の物を締め付ける。

「あっ!これは『ミミズ千匹にょろにょろ』じゃないか!」

 雅彦に今だかって経験した事がない快楽がやってくる。

ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ!

「あんっ!動く!動く!動肉棒!あたしの身体を貫くよ~」

 雅彦は腰を器用に動かし秘部の中で文字を書きだした。

「あんっ!何?何?ホ・ア・ン・ホ・ア・ン・愛・し・て・い・る・・・・・・・・・・・・・あたしもよ劉!」

 彼女は更に強く雅彦の身体を抱きしめた。

「ん?」

 射精間近に迫った雅彦だったがその時コートのポケットから飛び出たカチンコが目に入った。

「M?」

 今度はカチンコに『M』の文字が描かれている。

(『M』ってどこの国?・・・・・・・・というかいったい何だろう?)

 正直なところ雅彦のツボである『中国』とは離れがたかったが一旦沸き上がった好奇心は抑える事が出来ない。
 雅彦は右手にカチンコを掴むと彼女の耳元で力いっぱい鳴らした。

カチーン!

 その瞬間彼女の身体の動きが止まる。
 止まる!止まる!動かない。

「あれ?失敗したかな?」

 彼女に全く動きが無くなった為今度のカチンコは失敗かと思った雅彦だがそれは杞憂であった。
 雅彦に再び自分の物が締め付けられる感覚が襲ってきた。

「うっ!」

 それと同時に彼女の身体の動きが少しづつ早くなってきた。

くねくねくね!

「うぅ!強烈!」

 今まで体験した事が無かった快楽に身を悶えている雅彦に彼女から言葉が発せられた。

「早く!」

「ん?」

「早く動くでよ!」

「でよ?」

 雅彦は彼女に何か違和感を感じながらも腰を動かし始める。

ぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎし・・・・・

「あうっ!あうっ!いい!いい!いいでぅ!いいでぅ!」

「でぅ?」

 雅彦に『M』に対する疑問が沸き上がる。

「『でぅ』って何だ?・・・・・・『M』っていったいなんなんだー」

「でよ!でよ!でよ!でよ!でぅ!でぅ!でぅ!でぅ!でぅ!でぅ!でぅ!」

 ミミズ千匹が踊り狂う。

「あっ!もういきそう。でも『M』って・・・・・・・・『M』て・・・・・・・・」

 彼女の身体が大きく仰け反り二人に頂点が訪れる。

「なんなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・」

「でぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・」

ぴくぴくぴく!

 二人は強く抱き合った。

すーすーすー

 それからどれくらい経っただろうか。
 強く抱き合ってた二人だがいつしか彼女の手からは力が感じられなくなり心地良さを感じさせる寝息が雅彦の耳に入ってきた。
 結局『M』が何なのか分からないまま終わってしまったが彼女の寝顔を見つめる雅彦にとってはそんな事はもうどうでも良い事なのだ。

「僕が探していたのは君かもしれない」

 雅彦は『日本』と書かれたカチンコを彼女の耳元までもってきた。
 そして今度は優しく音を鳴らした。

カチーン!

 寝息が止まり静かに開かれた瞼。
 いつまでも見つめ合う二人。

「愛している」

 雅彦はそう言って彼女の髪に指を絡ました。
 彼女からは幸せに満ち足りた笑顔が浮かんだ。

「あたしも愛しているお義兄ちゃん」

 一日で二回射精を行ったのは何年ぶりだろう。
 翌日雅彦はドリームシアターの座席で心地よい疲れを感じていた。

「いよいよ次の上映でこの映画館も終わりじゃのう」

 隣で老人が顎髭をいじりながらしみじみつぶやいている。
 雅彦は空席が目立つ館内を見回した。

「ええ!寂しいかぎりです。・・・・・・・ここは本当に良い映画館でした」

 老人はもっともだと言わんばかりにうなずいている。

「ありがとうございました」

 雅彦は突然そんな言葉を老人に言った。

「えっ?」

 驚く老人に雅彦はカチンコをポケットから取りだしお礼の言葉と共に手渡した。

「もう使わないのかね?」

 雅彦は軽くうなずいた。

「笑顔が見たいんです。彼女の幸せな笑顔が!一緒に笑いたいんです!一緒に泣きたいんです!彼女と同じ道を歩みたいんです!・・・・偽りの愛であっても今度こそ大切な人の手は離したくありません」

 老人の眉がかすかに動く。

「一生演じ続けるつもりかね?」

 雅彦は銀幕を見つめた。

「人生てそんなもんでしょ」

 やがて少しずつ館内の照明が落とされ女性の声による最後の挨拶がスピーカーから流れ出してきた。

『皆様!長きに渡りドリームシアターをご利用いただき誠にありがとうございました。次の上映を持ちましてドリームシアターは幕を閉じる事になりました・・・・・』

 館内のあちらこちらから嗚咽の声が上がる。
 絶対泣かず笑顔で最後を見届けようと決めていた雅彦の目にもうっすらと涙が浮かぶ。

「ここは本当に最高の映画館じゃったのう」

 とうとう雅彦の頬に涙が伝う。

「ええ!・・・・ええ!・・・・・・私にとっては本当に最高の映画館でした」

 老人は雅彦の泣き顔を優しく見守っている。

「この映画館は私の全てでした」

 老人の手が雅彦の股間をさする。

「でもホモが多いのが不満かな!」

『では最後の上映となります【婦警濡れ濡れ催眠!そこはちゅうしゃ禁止】をお送りいたします。・・・・・・・・』

 日本からまたひとつポルノ映画館が消え去った。

< 終 >

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