夜狐燈籠草紙

 人が心から恋をするのはただ一度だけである。それが初恋だ。    by ブリュイエール

第一幕 「綾音」

 夜―――
 満月の下。
 グチャッグチャッ・・・・・・
「くそっくそっ・・・あぁ、もう!!」
 郊外のはずれ・・・アスファルトの道すらない、山奥。
 一台のパジェロが大岩にぶつかり、力無く開いたボンネットから煙を上げていた。
 もう、ピストンがガソリンの燃焼を感じる事は無いだろう・・・
 ラジエーターのキンキンという音がエンジンの死を悲しんでいるかのように泣いている。
 その音を掻き消し、パジェロが不安定な地面の上で揺れていた。
 後部座席、グレーのシートがあるそこは今、赤い液体に侵食されつつあった。
「このこのこのっ!あぁ、もう!さっさと死ねよ!」
 そう言いながら、一人の男が学ラン姿の青年にまたがり、何度も何度もナイフを突き立てていた。
 人間・・・中々死なないんだな。
 青年は自分の胸に刺さるナイフを眺めながら、そう思っていた。
 感覚などとうの昔に無くなり、目もかすみ、肺から直接外に空気が漏れていく。
 今まさに生を手放す寸前といったところだろうか。
 これは・・・・・・もう、だめ・・・だよな、さすがに・・・
 死ぬのか・・・僕・・・・・・ださいな・・・・・・
 柴田誠司―――死亡。
 享年、17歳。

 粉々になった大岩のすぐそばで、御山綾音は自分が女である事を呪っていた。
 二人の男が自分を犯そうとしている。
 両腕はあっさり抑えられ、閉じた股もこじ開けられるのは時間の問題だろう。
「こ、こんな・・・ことして、どうなるかわかってんの!」
「知らねぇよ。後のことなんか考えて生きてねぇからさ」
「そそ、まぁ、せいぜい暴れてよ、ね?あ、大声OKだから」
「こ、このっ!やめてっ!」
 護身術なんて何の役にも立たない。
 あんなに技を磨いたのに、肢体を抑えられればこの様だ。
 しらず、涙が出た。
 こんなやつらに弱さなんか見せたくないのに、涙が止まらなかった。
「あぁぁ、いいよ。それ、うん。」
「え、泣いちゃってんの?うぅわ、はやっ!」
 こいつらの一挙一動、いや、息づかいさえ憎かった。
 ぺっ!
 吐いた唾が自分の股間に取り付いている男の顔に掛かる。
「うっ!・・・てめっ、この!」
 バシッ!
「痛っ!」
 頬が火傷したように熱くなる。
 ・・・・・・よかった。
 こいつらの底が見えた気がした。
 さっきまでの、人を見下したような態度ではなかった。
 結局、こいつらは力尽くでしか物事をどうにかできないクズな人間だ。
 ぺっ!
「・・・いい度胸だよ」
 唾を掛けられた男は、再度、綾音を殴った。
 口内に血の味が広がったが、ただ犯られるよりも、反抗できた事で気が楽になった。
 犯されたって、あんた達に屈服なんかしない!
 そう思うと、笑みが浮かんだ。
 男に思い切り見下すような笑みを浮かべられた事は、これから身に降りかかる行為に対して、理由はわからないが、覚悟ができた。
 それで十分だった。
「・・・っ!」
「何?かんにさわった?・・・悪かったわね」
 男の手に何かが光った。
「ふぅん。殴るだけじゃなくて、ナイフも使わないと満足に女も抱けないの?」
「・・・圭、この前の3万チャラにするから、何も言わずに俺手伝え」
「お、おい・・・」
 明らかな暴走。
 仲間のその姿に、圭といわれた男は少し引いていた。
「落ち着けよ、まだ金貰ってね・・・」
 そんな言葉は届いていないのか、それとも無視か。
 綾音の頬を軽くなで、ナイフの冷たい感覚が伝わる。
「・・・・・・次喋ったら耳切り落とす」
「あぁ、そうですか。好きにすれば。ばぁか!」
 男はとたんに無表情になり、ナイフを振り上げた。
 だが、振り落とされるはずの腕は別の腕につかまれた。
 男は首だけ後ろに向け、自分の腕を掴んだやつの顔を見た。
「止せよ」
 血だらけのワイシャツを着た男がそういった・・・
「・・・・・・ヘッ、学ランの野郎の締まりはどうだったよ?」
「その娘は嬲るだけだ。むしろ死んでもらうと・・・困る」
 誠司の血で赤く染まったナイフを逆手に持ち替えながらも、男の手を離さない。
「知るか!この手離せ!」
 ザクッ!!
 綾音に乗りかかっていた男の首に、ナイフか突き刺さる。
「へ?あ?」
「はいはいはい、じゃまじゃま」
 目の前の光景は、綾音の覚悟を鈍らせるには十分だった。
 さっきまで優位にたっていたはずの男は、あっさりと絶命した。
「あぁあ、・・・兄貴、やり過ぎ・・・」
「はぁ?あのな、大体こいつはもともと居ないはずなんだぜ?俺ら兄弟のヤマだったろ。・・・まったく、お前がこいつに借金なんかすっから」
「・・・・・・ごめん」
 兄は落ちたナイフを拾い、何も言わず、いきなり綾音の制服のスカートを裂いた。
「え・・・?」
 しばし呆然とする綾音は下半身に力を入れるのをすっかり忘れていた。
 だが、気が付いたときには、兄は綾音の両太ももの間にナイフを水平に入れていた。
「ひっ・・・」
「あぁ、ね?止した方がいいよ。足閉じるの。切れちゃうから・・・判るよね?」
 綾音は背筋が凍る感覚に襲われた。
 すぐ隣で動かなくなっている男なんかとは、次元が違う。
 自分なんかが敵う相手じゃない・・・
 敵う・・・・・・・・・?
 血だらけのワイシャツが綾音に最悪の事態を連想させた。
「先輩は!あなた、先輩をどうしたの!」
「先輩?・・・あぁ、はいはい。一応殺しといたけど?」
 殺した―――
 頭が真っ白になった。
 先輩が・・・死んだ?
 呆然としている綾音をよそに、兄はナイフで綾音の制服をブラごと縦に裂いた。
 胸が外気に晒され、かすかに肌にも触れたのか、鮮血が浮いている。
 綾音はすぐ、今の自分の哀れも無い姿に恐怖した。
 兄は空いた手で綾音のパンツをなで始める。
「ひっ!」
「全然濡れてないね。これじゃ痛いだけだよ?」
「ま、待って・・・や・・・・・・」
 いきなり・・・
 ズブッ!
 兄の人差し指がパンツごと秘部に侵入した。
「いたっ!ひ・・ぁっ・・・ぬ、抜いて、抜いてぇ!!」
 すんなりと、指の進入は中断された。
「痛いでしょ?早く濡らさないと痛いだけ。俺もあんたも。ね?」
「そんなことっ!」
 できるわけない、したくない!
 そう思っても、声が出なかった。
 いつの間にか、綾音の太ももを兄の膝が抑え、攻めは上へと移っていく。
 まだ誰にも触られた事の無い胸だったが、もうそれは過去の事。
 兄は綾音の胸を蹂躙し、首筋を舐め始める。
 ゾクッ・・・
 なんとも言いがたい感覚が背筋を駆け上がった。
 もうヤダッ!イヤダッ!!
 身を縮めたくてもナイフがそれを許さない。
 男を突き飛ばしたくても、手も足も抑えられて出来ない。
 唾を飛ばしたくても、さっきから口が渇いている。
 唯一綾音に出来る事。
 唯一の抵抗。
 ・・・・・・抵抗?
 綾音はただ、目を閉じ、口を噤み、身を強張らせ、吐き気のするこのおぞましい感覚に耐えるしかなかった。
 我慢というべきその行動は、綾音をますます気弱にさせる。
 心のどこかで、目を閉じればこれは別の世界の事だと思える気がした。
 そんな訳無いと頭では分かっているのに、綾音はそれに頼るしかなかった。
 いや、もうどうでもいいとさえ思っていた。
 先輩は死んでしまった。私のせいで・・・
 涙が、止まらなかった。
 泣いたって許されないのに・・・・・・先輩・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 綾音は少し、僅か一瞬だが絶望で気をやっていた。
 そのせいで気付くのが遅れた。
 顔を何か、涙とは違う何かがつたってゆく。
 粘着質で、生暖かい・・・・・・
 ・・・あぁ・・・・・・何だっけ?精液だっけ?
 どうでもいいと思いつつ、うっすらと瞼を上げた。
「なッ・・・んだ手前ェェ!!!!」
 声は後ろ、弟のものだった。
 目を完全に開けると、そこには顔のない・・・首から上が無い人の体が、自分の上に圧し掛かってきた。
 訳が判らなかった。
 首からは勢いよく血が吹き出し、綾音の顔から何から、朱に染めてゆく。
 さっきの粘着質の正体は・・・人の鮮血だった。
 それを最後に、綾音はとうとう気が狂れた。
 聴覚、味覚、嗅覚、触覚・・・・・・視覚以外、何も感じなくなる。
 弟が立ち上がって、何かに襲い掛かっていった。
 綾音は地面に仰向けで倒れたが、自分がどうなったか気が付かない。
 頭には心臓の鼓動が直接響いている。
 世界が歪み、見上げた星空があり得ない軌道を描く。
 何も考えられない、何も感じない。
 星空らしい景色に何かが入り込んでくる。
 目が合ったので、それが「人」だということを無意識に感じた。
 だが・・・それも一瞬の事で、目に入った誰かの血が、星空を閉ざしていく。
 それと同時に、綾音も心を閉ざした。

第二幕 「四番目の妖狐、シコウ」

 天井。
 自分の天井。
 目が覚めると、最初に目に映るもの。
 何も変わらず、いつもの朝。
 のそりと起き上がる。
 顔に触れてみる。その手を見る。
 何も付いていない。
 御山綾音は間違いなく自室のベッドで目を覚ました。
 ・・・あれが夢?うそ・・・・・・
 未だはっきりしない頭を振り払うようにして、ベッドから足を下ろす。
 パジャマも至極当たり前に着ている。いつものパジャマ。
 しばらくぼぉっとしていた綾音だったが、あるものが目に付き一気に眠気が吹き飛んだ。
 部屋の端のゴミ箱。
 内側にビニール袋を被せてあるゴミ箱の中から、真っ赤に染まった制服が顔をのぞかせていた。
 それと同時に、部屋が血の臭いで充満していることにも気が付いた。
 吐き気に襲われ、とっさに口を両手で抑える。
 何よ!何なのよ!
 綾音は居ても立ってもいられず、部屋を飛び出し、階段を駆け下り、洗面台に顔を埋めた。
「ゲェッ!・・・ケハッ!・・・ぅ、はぁはぁはぁ・・・・・・」
 声と涙ばかりで、胃からは何も逆流してこない。
 蛇口を捻り、洗面台の涙を洗い流した。
 昨日のアレは夢ではない。
 紛れもなく現実。
 ・・・じゃあ、先輩は?やっぱり・・・・・・
 でも私はここに居る。何で?どうして?
 判んないよ!
 正面の鏡に映った自分の顔が、まるで別人のように見える。
 ひどく疲れ、まるで、地獄でも見てきたかのような顔・・・・・・。
 血の臭い・・・・・・まだする・・・・・・なんで?
 それが自分の体から匂うのだと気づいて愕然とした。
 蛇口から流れ出る水をすくい、何度となく、乱暴に顔を洗う。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・・・」
 鼻先から水滴が落ち、蛇口から駄々流しの水と合流し、見分けがつかなくなる。
 頭はパンク寸前だった。
 不安、疑問、そして恐怖。
 心の中は大荒れもいいところで、何から整理すればいいのかさえ分からない。
 とにかく落ち着こう・・・・・・私は・・・とりあえず生きている。
 目を閉じ、体を水平におこし、深呼吸をする。
 一度・・・二度・・・・・・三度。
「・・・良しッ!」
 掛け声一発、綾音は目を開け・・・・・・・鏡の中に映ったそれを見た。
「せッ!」
 後ろを向く。
「先輩ッ!!」
 鏡に映っていた先輩・・・柴田誠司は虚像ではなく、実体がそこに居た。
 築き上げた積み木の平常心はあっけなく崩壊し、またしても心と頭に嵐が起こる。
「大丈夫ですか!無事だったんですか!怪我はないんですか!」
 一気にまくし立て、誠司に詰め寄る綾音。
 だが、誠司は何も答えず、ただ綾音の顔を見ている。
 その顔には表情が、いや、生命の伊吹が感じられなかったが、今の綾音にはそんなことに気が付ける筈もなかった。
「先輩・・・私・・・私・・・先輩が死んだって・・・・・・うぅ・・・」
 誠司の胸に顔を埋めながら、今日何度目かの涙を流した。
 だが、その涙の意味は大きく違う。
 先輩!先輩!先輩!!
 相変わらず混乱は解けなかったが、昨日からの緊張が一気に緩んだ気がした。
 何もかもが救われた気がした。
 ・・・・・・・・・・のも、一瞬で・・・
「・・・この体の主は『センパイ』という名なのか?」
「・・・・・・・・ふぇ?」
「知らぬ間に、奇妙な名が付くようになったのだな。名前に『パ』という音が入るとは・・・ん?いや待て、確か契約時にこの者の名は柴田誠司と言っていた筈・・・」
「せ、先輩?」
「なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ぇと、先輩ですよね?」
「違うのか?ふむ、良く分からんな」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・記憶喪失?
 絶対違う!
 頭に浮かんだフレーズを無意識にかき消した。
 よ、よく考えるのよ。綾音。
 とりあえず、ち、血だらけの私の制服があったんだから、少なくとも昨日のあの出来事は、残念ながら事実で、となると、あの男は死んだのよね?えぇと、く、首が無くなってたと思ったし。確か。ぅぅ、思い出したらまた吐き気が・・・。え?そうよ。じゃあ、誰が殺したの?そもそも、一体誰が私をここまで連れ帰ってくれたの?・・・・・・ピーン!ははぁん。あの男が言ってた先輩が死んだってのは、嘘だったって事ね。何よりも先輩が生きてる事だけは事実だし、それが証拠だし。そうなると話はつながるわね。私の操のピンチに死んだと思われた先輩が・・・あの男を・・・・・・・・・・・・殺して・・・
 ・・・・・・・・・殺した。
「正確には『喰った』だ」
「え!」
「何せ二百飛んで七年ぶりの人食。限りなく不味かったが・・・まぁ、文句はいうまい。それと、お前をここまで連れ帰ったのは紛れも無く俺だ。あと、操についてはこれから失う事になる」
 心を・・・私の考えてる事を・・・・・・
「あぁ。読んでいる」
 どうして・・・
「こうやってだ」
 誠司は視線を綾音から下へと移した。
 綾音もその視線の先を追う・・・・・・
「ひッ!!」
 綾音はまた、信じられない光景を見てしまった。
 誠司の左腕が、布越しで自分の体にめり込んでいるのだ。
 たまらず後へと飛び退いた。
 ズボッ!
 音は無かったが、そんな感じに自分の体から誠司の腕の先が抜け出た。
「あぁぁ・・・・・ぅ、嘘・・・・・・」
「くっくっくっくっ・・・・・・嘘なものか。俺たちはこうやって人の心に干渉できる」
 さっきまでの無表情が嘘のように、誠司の顔には妖しげな笑みが浮かんでいる。
 綾音は砕けそうになる腰を何とかもたせ、後ずさりをするが、すぐに洗面台にお尻がぶつかり、これ以上誠司との距離を広げられなかった。
「あ、あなた誰!あなた、誠司先輩じゃない!」
「そう。俺は誠司じゃない。俺の名はシコウ。ただの妖狐」
「シコウ・・・妖狐って・・・・・・妖怪の」
「ん?良く知っているな。そうだ、物の怪の端くれ」
 ヒタ・・・
 誠司・・・・・・シコウは一歩、綾音に近づく。
 ビクッ!!
 綾音は今更に自分がガタガタと震えていることに気がついた。
 人ではない、人意外からのありえない恐怖。後ろ手で洗面台に寄りかかり、何とか体を固定する。精一杯の見栄。
「せ、先輩をどうしたの!先輩に何をしたの!!」
「この体の元持ち主は死んだ。今は俺がこの体の主。誠司の魂は今、俺の内にあるが、いつかは消えうせる。俺の糧となってな」
 やっぱり・・・・・・死んだ・・・・・・の?
 また一歩近づく。
 ・・・・・・もともと狭い部屋である。
 どんなに離れても、二歩も近づけば手が届く。
 綾音を見下ろし、ニィッと笑みを浮かべる。
「さぁ、契約を、誠司との命約を果たそう」
 目の前にいる、自分を妖怪という誠司。
 その彼が今、震える綾音の顔にゆっくりと右手を触れる。
 ビクッ・・・・・・
「せ、先輩との・・・・・・命約?」
 涙も出ない。瞬きすらも許されない。
 別に誰からも強制されている訳でもないのに・・・・・・目をそらせない。
 ただ・・・震えるだけ。
「そう。誠司の命約。あいつは死に際で俺と、こう約束した。
 『御山綾音を守って欲しい。その代価というなら、命なんていらない』
 とな」
 そういって、また笑みを浮かべる。
 ・・・いつもの、優しげな誠司の笑顔・・・綾音の中に清風が流れ込んだ。
 綾音の腰が崩れた。
 とっさに、その綾音を抱えるシコウ。
 綾音は妖怪に体を預けていることに、何も違和感を覚えなかった。
 顔は、下を向いて動かない。
「中々・・・言えることではないな。まぁ・・・どうせすぐに死ぬ運命だったのだから、あいつにしてみればどうと言う事でも・・・・・どうした?」
 綾音は泣いていた。
 肩を震わせているが・・・それが恐れから来るものではない事は分かる。
「・・・・・・せ・・ん・・・・・ぱい・・・・・・うぅぅぁぁぁ・・・・」
 泣いた。
 もう、何度泣いたろうか・・・・・覚えていない。
 シコウの服にしがみつき、顔を埋め・・・・・泣いた。
 シコウは黙って、なすがままにさせた。別に善意からではない。契約に従っているだけだ。
 たとえそうだとしても、綾音の肩に置かれた手は、綾音に優しかった。
 しばらくして、シコウがつぶやいた。
「命約を・・・・・・。赦すか?」
 未だ流れ続ける蛇口の音が、鼻を啜る音をかき消す。
 ゆっくり・・・・・・綾音は頷いた。
 今、綾音の中で柴田誠司は本当に死んだ。
 シコウは涙を湛えた綾音の顔を上に向け、腰に手を回し引き寄せた。
 何も言わず、口付けをする。
「!!・・・ん!」
 綾音は目を見開いた。
 目の前に先輩の顔が映っている。
 とっさの事に体が強張る。
 だが、シコウはおかまいなしに、舌を入れてきた。
 頭が真っ白になった。
 クチュ・・チュ・・・・クチャ・・・・・・
「・・・ん、・・・んあ、ぅんん・・・・・・クチュ・・・」
 シコウは十二分に綾音の口を犯してから、ゆっくりと顔を離した。
 つぅっと、二人の間に糸が引かれる。
「んはぁ、はぁはぁはぁ・・・・・・何で・・・」
 いきなり唇を奪われた事に怒りを覚える事も出来ず、綾音はシコウを見上げる。
 シコウがシャツのボタンを外してゆく。
「今回は特別だ。本当ならもっと状態のいい体が欲しかった」
 そういうとシコウは、はだけた自分の胸に手を当てる。
「ほんの数分前まで、ここには大穴が開いていた。刃物でめった刺しにされて殺されたんでな、再生に随分掛かった。なけ無しの妖気もほとんど尽きた」
「・・・・・・ぅん」
「契約でお前を守らなけりゃならない。だが、妖気がなけりゃ生きられない。妖気は俺たちの生きる糧。だから、お前から貰うことにする」
「妖気を・・・貰う・・・?ん・・・」
 おかしい・・・さっきから変だ・・・さっきから・・・体が・・・・・・
「・・・・・・ん。貰うって・・・私・・・ん、ただの普通の・・ひぁ・・・・・」
 疼く。
 体が・・・体の奥が、熱い。
「どうした?顔が赤いな・・・熱でもあるんじゃないか?・・・ククク」
 そういうと、シコウは両手を綾音の後の鏡について、顔を綾音に近づける。
 コツン・・・と、額があたる。
「な、何を・・・したの?・・・どうして・・・・・・」
「どうして・・・こんなに体が疼くのか・・・か?」
 シコウは、ささやくようにキスをする。
 触れるだけの、それでいて・・・いやらしいキス。
「俺たちの口付け、唾液は言わば、即効性の強烈な・・・媚薬。人間から妖気を頂くのに役立つよう、授かった能力。これはその一つ。」
 綾音の首筋を耳へと向かって舐め上げ、ついばむ。
「ひぁっ・・・・・・ん・・・」
 悪寒は無かった。
 媚薬が効いているのだろうか。
 シコウが触れるたびに、全身に電気が走る気がする。
 いや、実際そうなのだろう・・・シコウの愛撫は、綾音が今までに感じた事の無い感覚だった。
 それをどう扱えばいいのかわからず戸惑い、眉根を寄せ、堪えるしかなかった。
 声を出さないようにか、唇を結び、目を瞑る。
「そう怖がるな。何もお前を喰おうというのではない。ただちょっと・・・・・・ふっ」
「あぁ!!」
 突然耳元に息を吹きかけられ、綾音はとうとう声を上げてしまった。
「・・・・・・何となく、判ってるのではないか?どうするか」
 シコウの手がいつの間にか、綾音の胸に添えられている。
「・・・・・・あぁ、・・・ィ・・い・・やぁ・・・」
 逃げなければいけないという思考がなぜかこのときの綾音にはなかった。
 かといって、このままシコウに犯されたいとも思っていない。
 なんともおかしな気分・・・。
 理由がわからない高揚感を、綾音は覚えた。
 ズブブ・・・
 シコウの腕が再度、綾音の胸に埋没してゆく。
「あぁぁぁ・・・・いやぁ・・・やめて、入れないでぇぇ・・・」
「ん・・・あぁ、いいな。お前の中は温かい。冷え切った体にはこたえる」
 開いている手が綾音のズボンの中へと進入してゆく。
「そ、そこはぁ・・・い・・・あぁ、触らないでぇ・・・」
 クチャ・・・
 明らかな湿り気を帯びたそこは、パンツ越しに触れたシコウの指さえも濡らすには十分だった。
 シコウは中指を立て、そこをゆっくりと縦になぞり始める。
「凄い濡れかただな・・・これは媚薬のせいにするのか?それとも誠司の体のせいか?」
「・・・そ・・それは・・・ぁっ・・・」
「はん、もとからこんなに淫乱な体なのか。」
「そんなこと・・・ないよぉ・・・・・ふぁ、あぁ・・・」
 くちゅっ・・・くちゅ、ぬりゅ・・・・・・
「あ・・・・・・ひっ・・・・んく・・・・・・・」
 パンツをずらし、直接、愛液の溢れるそこを弄くる。
 ぬりゅっ・・・くちゅっ、くちゃっ・・・・・・ねちゃっ・・・
「ッあ・・・・は・・・・・・ぅッ・・・・・・!!」
 ピクンッ!ビクビクビクビクッ・・・・・・・・・!
 綾音の体がひときわ震える。
「大分良くなってきたみたいだな。」
 指の腹で淫核を弄びながら、シコウは言った。
「・・・ひっ・・・ぁ・・・・・・っくぅ・・・」
 ようやく手を止める頃には、パジャマ越しにも濡れているのが判るほどだった。
 パジャマから出てきた手は、ねっとりと濡れており、シコウはその中指を舐めた。
 ちゅぴ・・・ちゅっ・・・・・
「はぁ・・・はぁ、はぁ・・・・・・」
 綾音は上気した顔で、男性にしては色っぽいその光景に釘付けになっていた。
「・・・ん・・・ちゅぱ・・・あぁ、やはり、いいな。お前」
 甘美な中にも血の香りがする・・・たまらない・・・・・・
「ふぇ・・・?な、何・・・・・・」
 何も考えられないくらい真っ白な頭に、突然言葉が響く。
「種明かしさ。俺たちは人間の体に侵食し、支配できる。念話はその副産物。そして、こういうことも出来る」
 ビクッ!!
 綾音は目を疑った。
 体が勝手に、服を脱ぎ始めたのだ。
「か・・・体が・・・・・・なんで・・・先ぱっ・・・・・・あ、あなた!あなたがッ!」
「体の自由を奪い、操れる。」
 薄れていた恐怖がぶり返した。
 自分の体が意に反して勝手に動く事が、こんなに怖いとは想像も出来なかった。
「お願いっ、やめて!あぁ、こんなこと・・・こんな事したくないのに・・・」
 シコウはそんな事には意も解さず、呑気に洗面台の蛇口を閉めている。
 既に足元には上着が無造作に落ちており、その間も作業は続いてゆく。
「うぅぅ・・・ッく・・・・・・ひ、ひどいよ・・ぉ・・・・・・」
 シュルッ・・・・・・パサッ・・・
 ブラをしていなかったため、上半身裸の綾音は泣きながらズボンに手をかけ、びしょびしょに濡れたパンツごと脱ぎ捨てた。
 綾音の秘部から漏れた愛液が、太ももをつたい、光沢を帯びる。
「あぁっ、いや・・ぁ・・・ぁぁ・・・・・」
 隠したくても体は動かない。どんなに力んでも、力を入れているという感じがしない。
 ただ、綾音の脚は、全裸の肢体を立たせているだけだった。
「・・・・・・へぇ・・・」
 白く、それでいて少しピンクに染まった艶やかな体。
 巨乳とまではいかないが、ふくよかに整った胸。
 細い、腰付き。
 締まったお尻。
 今までに抱いたどの女よりも、綾音のその体は・・・
「・・・綺麗だな」
「・・・・・・グスッ・・・見ないで・・・ぇ・・・もう許してぇ・・・」
 その言葉に従うかのように、シコウは綾音を後ろへ、鏡のある方向に向かせる。
 鏡には全裸の綾音と、綾音より頭一つ分大きなシコウが、重なって映っている。
 シコウの左手は未だに綾音の体に刺さったままで、右手はといえば、なれなれしく後から綾音の体を抱いていた。
 その姿に、綾音は恥ずかしさで死んでしまうのではないかと思った。
 力いっぱい目を瞑り、下を向く。
「どうした?よく見ろよ」
「・・・・・・・・もう・・・許して」
 消えるような・・・搾り出すような。嗚咽混じりの声がした。
 目を瞑っている綾音には見えなかったが、シコウは駄々っ子を見るような、優しい笑みを浮かべた。
 血の香りのする、セミロングの髪に顔をもぐらせ、シコウはささやく。
『許すも何もない。もうお前は俺のものだ。誰にも渡さない。だから安心しろ』
 耳と、頭に響く言霊。
 それは恐ろしいまでに優しく、危険なまでに甘い。
「ずっとお前のそばにいる。何も心配しなくていい」
 シコウの腕を介し、綾音の深層意識にダイレクトで叩き込まれる、言霊。
 綾音はその誘惑に全力で抗っていた。
 だが、その抵抗も何時しか快感へと変わり、ちりちりと綾音の理性を焦がし始める。
「契約って・・・先輩の命約って・・・・・・こういうことなの?」
「いぃや。お前を守るのに妖気は必要だが、その妖気の摂取方法は他にもある」
「じゃぁ、どうしてこんなひどい事するの・・・」
「聞きたいか?」
「・・・・・・・・・」
 挑発。
 守りに徹するものに、攻め込ませる方法。
 それは好奇心であり、餌であり、希望だ。
 心のどこかで、聞いてはいけない気がした・・・・・・。
「誠司がずっと望んでいたんだ。お前を独占したいとな」
 拒否する前に、絶妙なタイミングでシコウが告げた。
 ・・・・・・先輩が・・・・・・欲していたの?
『あぁ、そうさ。』
 こう、なりたかって・・・?
『ずっと我慢していた。』
 綾音の心に・・・ぽっかりと大きな隙ができた事は、想像に難くない。
 シコウは再び、綾音の体を操り始めた。
 綾音の腕が股を弄り始め、胸をいやらしく変形させる。
 くにゅっ・・・くにっ、ふにふにっ・・・・・・
「・・・・・・ぁ、・・・・・・ゃ・・・はぁんっ!・・・あぁ・・・」
 体は自分自身を慰め続けることをやめない。
 抗いようもなく流れ込む高揚感に、綾音はいやいやと首を振る。
 くりゅ・・・くりくり・・・・・・・・・
「うああッ・・・はぁ、はぁ・・・・・・ああぁぁぁ・・・!!」
 次第に、ためらい気味だった口から喘ぎ声がこぼれはじめた。
 ぴくッ・・・ぴくんッ、ぴくッ・・・・・!
 綾音の脚が大きく開かれ、戸惑い気味にぴくぴくと震える。
「ほら、鏡に映ってる姿を見てみろ。色っぽいなぁ?」
「あああぁぁあ、いやぁ・・・見ないで、見ないでぇ・・・」
 鏡の映った綾音の指は自ら濡れた花弁を広げ、雌芯をかき乱す。
 発情に光沢を放つその肉壷に、指が二本出たり入ったりしていた。
 じゅぶッ!ぐちゃッぐちゃッ・・・・・・!!
「あぅぅッ!!・・・うぁああっ・・・あぅっ、ああぅぅっ・・・!!」
 下から聞こえてくる、自分が自分を弄くる音。
 操られているとは言え、自らの指で沸き上がる快感と、激しすぎる羞恥が綾音を犯してゆく。
 シコウは艶かしく動く指にあわせ、綾音の性感帯に直接干渉した。
 くりゅ・・・すりすり・・・・・・・
 主の意に反して動く指先が、淫核や花弁をなぞり回す。
 とめどなく溢れ、股全体を濡らしている淫液が、太ももをつたって行く。
「ああああッ・・・ああ、あううぅっ・・・お、おかしいよ、・・・こんなに・・・あぁッ!!」
 ビクッ!!びくん、びくぅっ!!
 頭に直接伝わる、信じられない程の快感。
 シコウによって高められた性感帯が、綾音の自慰を何倍にも感じさせていた。
「ふむ、何がおかしいと思う?以前にも、一人でしたことがあるのか」
「あぁッ!・・・ん!あぅぅッ・・・・・・!!」
「おかずは誠司か?あいつに抱かれるのを想像して、毎日毎日、自慰に耽っていたわけだ。今日の自慰の良し悪しの区別がつくくらい、ま○こを弄っていたのか。」
「ち、ちがうッ・・・・・そんなに・・・してない・・・・・・あぁ・・・!」
「なんだ、やっぱりしていたのか。スケベだな」
 そういうと、もう一段階、性感帯の感度を上げ、自ら綾音の敏感な秘部を摘まんだ。
 くりゅッ・・・!!
「あああああああ~~~ッ!!そんなぁ・・・そんなぁぁぁっ・・・!!」
 絶頂の予感に、綾音が涙まじりの声を上げた、その直後。
 ビュッ!!びゅくうぅッ!!
「ああ、あああああッ!あああああああああああぁーーーッ!!」
 びくッ・・・びくん、びくゥッ・・・!!
 秘裂から熱い淫液を噴出して、綾音はあっけなく昇りつめた。
「・・・・・・・・・」
「はぁはぁはぁっ・・・・・・ん、はぁはぁ・・・・・」
 ぽたっ、ぽたっ・・・ぽたっ・・・・・・。
 綾音の足元には小さな水たまりが出来ている。
 もう、体の自由は戻ったが、力が抜けた綾音は、体をシコウに預けるしかなかった。
 火照った肌に、シャツ越しから伝わるシコウの冷たい体温が心地よい。
「気持ちよかったか?」
「・・・・・・・」
 答えない。
 また、貝のように押し黙る綾音。
 そんな綾音が、シコウにはたまらなかった。
 後から優しく抱擁し、ぽんぽんと、赤ん坊でもあやすように頭を撫でる。
「可愛いな、綾音」
「・・・ないで・・・」
 綾音の思考が伝わってくるシコウにとって、それは愚問だった。
「・・・何?」
「・・・名前で・・・呼ばないで・・・・・・」
 誠司が綾音を名前で呼んでいた事を、記憶を受け継いだシコウは知っていた。
 そして、告白したくても、いつも出来ずにいた事も・・・。
「・・・好きだ・・・・・・綾音」
「もういやっ!やめて!・・・あ、あなたは先輩じゃ・・・誠司先輩じゃない!!」
 綾音は耳を抑えて、そう叫ぶ。
 だが止まる事無く、シコウの言葉は綾音の中へと勝手に入ってくる。
『そう、俺は誠司ではない。・・・だから言える。お前が欲しいと。・・・あいつには、誠司にはそんな勇気が無かったからな』
「あなたなんかに言われたくない!」
『だが、誠司はお前の事が好きだった』
「私は先輩から聞きたかった!好きだって、愛してるって言って欲しかった!!」
『さっきお前は認めたろ・・・柴田誠司は死んだのだと。俺にお前を託して死んだとな!』
「だから何!だからあなたのモノになれって言うの!あなたなんかに誠司先輩の代わりなんかつとまらない!!」
『そういってまた誠司の様な者を探すのか?誰のために誠司が死んだのか判っているはずだ。そんな事では、誠司が浮かばれんな』
「っ!!・・・あぁ・・・あなたなんかに・・・先輩の何が判るって言うのよ・・・」
『判る。あいつの魂は俺の内にまだある。お前への気持ちを、庇うことでしか表せなかった不器用な思いは、俺の内にある。・・・死んでもまだお前の事を思っている。大した男だな、誠司は』
「・・・・・・・・・・・・・」
『・・・契約だと割り切ればいい。誠司の代わりに俺が守ってやる』
「・・・うぅぅ・・・・ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

第三幕 「初恋」

 ぴちゃっ・・・ちゅっ、くちゅぅ・・・・・・
「んっ・・・・・はぁはぁ・・・んッ、ふぁ・・・・・・」
 綾音の部屋から相変わらず血の匂いは消えていない。
 だが、あらたな匂いが、血の香りに混ざってゆく。
「・・・我慢せずに、もっと声出せばいい」
 ベッドの上で仰向けになっている綾音の秘部を舐めながら、シコウが呟く。
 左手は綾音を侵食しており、シコウの愛撫を激しすぎるほど感じさせている。
「・・・・・・や、・・・や・・・」
 一旦作業を中断し、少し困った綾音に顔を向ける。
「・・・気持ちよくないか?俺は・・・下手か?」
「そっ・・・・・・そんなこと・・・ないと・・・思うけど・・・・・・んッ!」
 事実、シコウの愛撫は快感地獄だった。
 性感帯が倍化された肉壷を舌と媚薬が攻め、溢れる愛液がシコウの唇と、シーツを濡らす。
 かつてここまで欲情した事など、もちろん無い。
 シコウは綾音の部屋に場所を移し、全裸の綾音をベッドに寝かせていた。
 綾音はといえばシコウの攻めに、もう病み付きになりそうで、止まっている今も早く続きをして欲しかった。
「けど・・・?」
 シコウにはそんなことは当然わかっている。
「・・・・・・なんて・・・言っていいか・・・・・・わからない・・・から」
 かすかに、綾音の腰がもじもじと震えている。
「初心いな・・・」
「あ、あの・・・・・・」
「ん?」
 何かを決心したかのような、それでいて、何処か投げやりのような・・・そんな心境。
「・・・・・・して・・・・・・は・・・やく・・・また・・・ぁっ」
 気が付けば、綾音は今にも泣きそうな顔をしていた。
 それがまた、シコウにはたまらなく気持ちよかった。
「・・・くっくっくっ、ふん?何を?」
 何をそんな判りきった事を・・・
 綾音の思いが伝わってくる。
「・・・・・・意地悪・・・しないで・・・・・・・・・」
「答えたらしてやる。」
「ひ・・・ひどい・・・よぉ・・・・・・」
 シコウの背中を走るものがあった。愉快でたまらない、そんな顔が浮かんでいる。
 綾音はといえば・・・腰の震えが肩に伝染したように、何かに必至に堪えていた。
「・・・グスッ・・・・・・な・・・舐めて・・・・・・」
「何処を?」
「そ!・・・い、言えないよぉ・・・・・・!」
「そうか・・・・・・では、明日の夜までお預けということに・・・・・・」
 そういって、文字通り手を引こうとする。
 そこから伝わってくる綾音の葛藤。
 理性の防壁が崩れるのと同時に、綾音の頬を涙が濡らした。
「ぅぅ・・・ひっく・・・ひっく・・・・・・・・・お・・・おま○・・・こ・・」
 血を吐くようにとはこういうことかなと、シコウは思った。
 そして―――
「お願いしますは?」
「・・・・・・・・!!」
 シコウのニヤニヤした笑顔が綾音の瞳に映る。
 もう限界だった。
「お、お願いです・・・グスッ。おま○こ、・・・・・・おま○こを・・・ひっく、舐めてください。・・・私のおま○こを・・・・・・弄ってください」
 満足感と征服感がシコウを満たしてゆく。
 自然と顔が緩み・・・目が細くなる。
 くく・・・たまらない・・・・・・
 泣いている綾音の頭をなで、唇を重ね、舌を入れる。
「ああぁッ・・・んっ、んんっ・・・・・・・・」
 決して激しくなく、むしろ・・・優しいキスが麻薬となる。
「・・・はぁ、ん。・・・よくできたな。では・・・」
 そういうと、恐ろしいまでに敏感になった淫部に指を二本入れ、少し乱暴にかき乱す。
 ぬぶッ、ぬぶぶぶッ!!
「ああああっ・・・ああ、あう、うぁうんっ・・・!うあああぁぁっ・・・!!」
 待ちかねた快感が綾音の全身を駆け巡り、歓喜の声と共に身を縮めさせた。
 綾音はとっさにシコウに抱きつき、身を擦り付ける。
 触れ合う肌が綾音の玉の汗をにじませ、綾音を高揚させた。
 ・・・は・・・・・・まるで猫だな。
 シコウは体をずらし、発情し隆起した綾音の乳房を舐め始めた。
「ひっ・・・きゃふうっ、ああっ・・・だ、だめぇッ!!」
 新たな部位を突然攻められ、淫部とは違った感覚に身をよじる。
 コリ・・・
 シコウは綾音の乳房を軽く噛んだ。
「うあああぁぁぁぁぁ・・・だめっ、だめぇぇぇ!!」
 涎が顔を汚していることには全く気にもせず、綾音が首を振る。
 汗と綾音の味をシコウは楽しみ、可愛く尖った乳房を舐め回す。
「んんっ・・・はぁはぁ、あぅぅっ・・・ふぁぁぁ・・・・」
 発情の吐息が口から漏れている。
 気が付けば・・・どこか、笑みを浮かべる綾音。
 脚を自分から開き、シーツを握り締め、快感に身を任せる。
 ・・・・・・・・・・いいよぉ・・・気持ちいいよぉ・・・。
 シコウに流れ込む綾音の感情は、とうとう快楽を受け入れ始めた。
「・・・綾音?」
「・・・な・・・・・・・・何・・・?」
「反対も・・・舐めようか?」
 笑顔で言うシコウに、綾音はうつむき、しばらくもじもじしたかと思うと・・・
「・・・・・・して・・・ください」
 と言って、もう一方の胸をシコウに近づけた。
「・・・ん」
 乳首の回りにキスをして、たまに吸い、しゃぶる。
 ちゅぴっ・・・ちゅッ・・・くちゅッ・・・・
「ふああぁぁんッ!!・・・・・・あぁっ、ああぁぁ・・・あんッ・・・!!」
 甘い声で泣く綾音の頭は沸騰寸前だったが、快楽の刺激は絶えることなく流れ込む。
 実は、シコウは侵食している腕から、綾音を絶対にイケないようにしていた。
 いつまでたっても終らない快感の渦。
 それは確かに綾音を侵食し、文字通り侵す。
「ひゃぅううぅぅぅん・・・!!ああぁ、・・・あぅっ、あうッ・・・うぁぅっ!!」
 だが・・・もはや限界だった。
 そもそも人間の神経である。
 これ以上続ければ、綾音の精神は壊れてしまうだろう。
 ・・・・・・・・・・・・。
 シコウは攻める手を止め、綾音を覆うように四つん這いになった。
「・・・・・・あぁッ!!・・・・・・や・・・やめないで・・・ください!」
「綾音。・・・もう戻れない」
「はぁはぁはぁ、ひっく・・・・・・ん。ひっく・・・え?・・・何・・・」
 シコウの手が、体から抜けている事にやっと気が付いた。
 すこし・・・いや、明らかに体からさっきまでの快感と高揚感が退いてゆくのを、綾音は感じた。
「今から妖気を貰う。俺たちにとって妖気は、人間の精気。だからお前とまぐわることになる。だがな・・・それは普通の人間に戻れなくなるという意味もある。」
「・・・・・・・・」
「・・・嫌なら・・・安心しろ。犯した後、痛みすらなくお前を殺す。だが・・・俺に従うと言うなら・・・俺は・・・お前の魂に干渉しない」
「・・・・・・・・」
 綾音は始めて、思考の不安げな顔を見た。
 精神に干渉していないため、今のシコウに綾音の気持ちはわからない。
 シコウは始めて、拒絶されることへの不安を感じた。
 シコウ自身、拒絶される事の覚悟はしていた。
 だから、自分の一番好きな方法で人間を楽しんだ。
 嫌われても、逃げられても悔しくないようにと・・・
 ・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・冷たいね」
 綾音はシコウの顔に両手でふれ、形を確かめる。
「・・・・・・妖気があれば・・・温かくなるのかな?」
「・・・ん」
「・・・・・・それって、毎日するの?」
「ん」
「気持ち・・いいんだよね?」
「ん」
「・・・・・・・・・・」
 綾音の手が離れた。
 シコウ顔から、熱量以外の何かも離れていく。
「・・・・ッ」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・殺そう。
 ・・・・・・跡形もなく喰ってやろう。
 噛み締めた奥歯が軋んだ感じがした。
「・・・ねぇ、・・・疼くの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 綾音は体を丸め、自分を抱きしめる。
「・・・・・・私の、いやらしい処とか・・・その奥とか・・・」
「綾音・・・?」
「多分・・・一度じゃ収まらないよね。何度もしなきゃ・・・いけないよね」
 心臓が・・・、胸が締め付けられるような・・・そんな・・・・・・
 あとで、これが告白だったとシコウは感じることになる。
「・・・・・・だから・・・気持ちいいこといっぱいして。私にHな事たくさんして。・・・それで・・・私を助けて・・・」
 綾音の顔を涙が濡らした。
 だが・・・それは彼女の涙だけではなかった。
「・・・シコウ?」
「・・・・・・・今名前を呼んだか?俺の」
「・・・・・・うん。・・・シコウ、泣いてる?」
「・・・え・・・あ・・・・・・そうかもしれない。・・・よく、判らないが・・・」
「・・・・・・ふふふ・・・あははははは・・・・・・」
 綾音は笑った。
 何時か振りに笑った。
 馬鹿げた規約を受け入れ、人生どころか、人としても終ろうと言うのに・・・可笑しかった。
「・・・・・・ん・・・」
「あはははは・・・・ふふ・・・ねぇ、して?・・・我慢できそうにないよ・・・シコウ」
 淫妖とでも言おうか・・・綾音は甘く、情欲に潤んだ目でシコウを誘った。
 フッ・・・こいつ・・・・・・化けやがった・・・
「あぁ・・・判ってる。・・・ん・・・」
 今日何度目かのキス。
 しかし・・・甘くて、豊潤で、いやらしいキス。
 くちゃっ・・・ちゅっ、ちゅぴっ・・・・・・
 キスの間・・・ズボンを脱ぎ、硬く立った自分のものを綾音の淫部へ添える。
 シコウは再度、左手を綾音の体に潜らせた。
「・・・・・・・・いいな」
 ・・・・・・コクン。
 目を閉じて、首を縦に揺らす綾音。
 ズブッ・・・!!
「くぅ・・・!!」
 シコウのものが、綾乃の純潔を奪ってゆく。
 誰の侵入も許さなかったそこは狭く、濡れているとはいえきつい。
 ずずッ・・・ぬずっ・・・・・・ずぶぶぶッ・・・・・・!!
「うぐッ!!・・・かっ・・・・・ぐぅッ・・・・・ぅぅ・・・!!」
 痛い!・・・痛いよぉ・・・ッッ・・・熱いよぉッ・・・!
 綾音の感情。
 シコウはやろうと思えばこの痛みを快感に変えることもできたが、今はまだしない。
 シコウの肉棒が何かにあたる。
「・・・楽にしろ・・・・・・痛みは直ぐに消す・・・・・・」
「・・・・・・ふぅふぅっ・・・っぅん・・・」
 どちらからともなく抱き合い、シコウは残りを一気に付いた。
 ずぶっ!・・・みりッ・・・ぶちっ・・・・・・!!
「ぐぁ・・ぁ・・・ッ!・・・ぎっ・・・・・・んんッ!!」
 背中に回された綾音の指が痛みに耐え、逆立ち、肉に食い込む。
 女の園から鮮血が・・・純潔を失った赤い血が溢れた愛液と一緒に、シーツにたれて花を描く。
 ・・・・・・・・・。
 熱い・・・温かい・・・・・・。
「・・・はぁはぁ・・・・・・ぐすっ・・・ん・・は・・・あっ・・・・・」
 しばらくそのまま動かない。
 シコウのものを包んでいるそこからは、心臓のような脈動が伝わってきた。
 背中の痛みが・・・何となく嬉しかった。
 こんな事は今までなかったのにな・・・・・・。
「・・・・・・気持ちいいな。綾音の中は・・・きっと一度では我慢できない」
「・・・・・・・・・・・・そぅ・・・」
 ・・・・・・ばか・・・・・・・恥ずかしい事、言わないで・・・・・・。
 その感情に、うっすらと笑みを浮かべるシコウ。
「・・・・・・動くぞ」
 その言葉に、綾音は抱きしめる腕に力を込めて答えた。
 片手で少し腰を浮かせ、腰を引く、揺する。
「あぐっ・・・・・・くふっ・・・かはっ・・・・・・・・・!!」
 未だに硬く締め付ける体内をゆっくりと掻きまわす。
 ずっ・・・・・・ずずずっ・・・
「ああっ・・・・・・くっふぅッ・・・・・あぅぅっ・・・」
 綾音の中に侵入している腕から・・・・・・シコウは腰の動きに合わせて、少しずつ、少しずつ・・・・・・痛みを快感へと置き換えてゆく。
「うあぁぁ・・・ひゃぅぅ・・・・・・くっ、ふぁぁんッ・・・!!」
 次第に濡れた性器にあらたな愛液がわきだし、肉棒が出入りするたびに溢れ出す。
 粘液が意味をなさないくらい、綾音の性器はシコウのそれを締め上げた。
 ずぶぶぶぶっ・・・・・・ブプっ・・・
「うあぁぁ・・・あぁ、あぅっ・・・あうぅぅううぅっ・・・・・・!!」
「・・・・・・どうだ?まだ痛むか?」
 ずぶずぶと挿入しながら、シコウはさらに感度を上げる。
 ぬずっ、ズブっ、ずぶぶぶっ・・・
「分かん・・ないっ!・・・・・・分かん・・・ない・・・・・・よぉっ!!」
 かすれ気味な声が綾音の口から聞こえた。
 もう一段階・・・・・・さらにもう一段階・・・性感帯のボリュームを上げてゆく。
 それに沿って、シコウも次第に腰を早くする。
「うあッああっああああぁっ・・・!ああ、だ、だめぇ、だっ・・・・・・めぇ・・・!!」
 遂には痛みよりも快楽を感じていた。
 ずぶぶッ、ずぶっ、ずぷぅっ・・・ぐぷっ、じゅぶぶぶっ!!
 綾音の秘部から棒が出るたびに、大量の淫液も掻き出される。
「凄い濡れかただな・・・洪水というか・・・それくらい出てくる・・・」
「しらないっ・・・!!わかんないっ・・・あぁっ!うぁあ、ああぁぁああんんっ!!」
 綾音はもうダメになっていた。
 口からだらしなく唾液をたらし、髪を振り乱して悶える。
 焦点を失いそうな目は天井を移し、ただ突かれることで与えられる快感に身を委ねていた。
「ああああぁぁっ・・・!!はひぃ、はひぃ、はひぃ・・・・・・ああぁあぁんっ!!」
 ずぶっ・・・ぬじゅ・・・ずぶぶッ・・・ぬずッ・・・・・・!!
 シコウの体に二百年ぶりの精気が流れ込む。
 全身に綾音の情欲が伝わり、死体でしかなかった誠司の体が熱を帯びてゆく。
 それが始めて惚れた女なら尚のこと・・・シコウは夢中で腰を動かし、綾音を貪った。
「はぁはぁ・・・ん、あ、あやね・・・気持ちいいか?」
 綾音の感じる快楽はもちろんシコウにも伝わっている。
「・・・あぁぅっ、・・・いぃ・・・んん!あぁっ・・・・・いいっ・・・ああああああぁぁぁっ!!」
 ちゅ、ぐちゅっ・・・ぐちゃっ!!
 溢れる愛液で泡ができるほど容赦なく犯され、綾音は唾液混じりの喘ぎ声をあげることしかできなかった。
「気持ち・・・良いんだな・・・・・・?」
 涙を流し思い切り頭を縦に振る。
 次第に・・・シコウは綾音の限界が迫るのを感じた。
 ・・・もう、これ以上は・・・俺も・・・・・・
 もう普通なら絶頂を迎える快感に攻められながらも、いく事を禁止された綾音の肉体が悲鳴を上げていた。
「ああああぁぁぁぁっ!!・・・もぅ、もぅだめぇぇっ・・・死んじゃうっ・・・・・・死んじゃぁっ・・・・・・ああああああああああっっっ!!!」
『綾音・・・最後だ・・・・・・ほら・・・』
 シコウは綾音の絶頂に向け、激しく蜜壷を突き上げ、クリトリスの神経にピンと・・・直接刺激を叩き込む。
 そして、最後に・・・最後にもう一段感度を上げて・・・・・・制欲の束縛を放った。
「うあああああああっっっ!!!ひぃぃひぃっぁぁぁぁぁぁっっ!!あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 びくっ、びくぅっ!!
 待ちかねた感覚が雷のように綾音を絶頂へと導き、体が弓なりに反り返る。
 きゅうきゅうに締まりあがった体内がシコウの肉棒にも絶頂を伝え、そして・・・
「くっ・・・!!」
 びゅるぅぅッ!!びゅくっ、びゅっ、びゅぶぶッ!!
 痙攣している綾音の奥に、シコウは自分の妖気をぶちまけた。
「くあぁぁぁっ!!ああああぁぁぁっ・・・出てるゥ・・・・・・中で・・・熱いのがぁぁ・・・ああぁぁぁッ!!」
「あ、綾音・・・綾音・・・・・・」
 びゅくっ!びゅるるるっ!!・・・ぶびゅぅっ!!
 止まらない刺激が綾音の締め付けをさらに強め、シコウの精液を搾り取る。
「・・・あぁぁ・・・と、止まんない・・・・・・まだ、出てるぅぅ・・・・・・・・・ぁあ、あぅぅ・・・ぅぁぁ・・・・・・」
「綾音ぇ・・・」
 シコウが初めて甘い声を出し、綾音の唇を求めた。
「はむっ・・・んんんっ・・・んちゅっ、んはぁ・・・・・・ちゅぴっ・・・・・・」
 絶頂を迎えたばかりで、頭に花火でも上がったような感覚。
 濃厚な・・・余韻を貪るキス。
 酸欠になりそうで、朦朧とした意識の中・・・綾音は自分の体から何かが抜かれてゆくのを感じた。
 それがシコウの言う精気なんだと・・・・・・何となく思った。
 ・・・そして、そのままひどく重い、どろっとした感覚に囚われ・・・意識を手放した。
『・・・・・・おやすみ・・・俺の綾音』
 ・・・ぁ・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・。
 ・・・・。

 どれくらい眠ったのか・・・分からない。
 軽いダルさ。
 決して嫌いではない感じ。
 ・・・・・・あぁ、生きてるんだ・・・・・
 確証は無かったが・・・・・・漠然とそんな事を考える。
「・・・・・・・ん・・・すー・・・すー・・・」
 すごく近くで聞こえたその声。
 うっすらと・・・そっと・・・目を開ける。
 見覚えのある寝顔。
 先輩だ・・・。
 そのときになった、自分がその人と向き合って寝ていることに気が付いた。
 カーテンから漏れる月の明かり。
 次第に鮮明になる意識。記憶。
 ・・・そして、下腹部の違和感。
 だが・・・夢から覚めたようなこの状況が・・・やっぱりあれは全部夢だったのではと思わせる。
 そんな幻想もあることに気が付いて露と消えた。
 ・・・・・・耳?
 目の前にあるシコウの頭を月光が照らす。
 その黒髪から、猫のような・・・黒い毛並の耳がちょこんと生えていた。
 ・・・えと、たしか妖狐だって言ってたから、狐の耳かな。
 ピコピコ・・・
 その通りとでも言いた気に、シコウの第二の耳が動いた。
 ・・・・・・・よ、よぉし。
 好奇心に負け、寝息をたてるシコウを起さぬようにそっと、耳に揺れてみる。
 シュルッ・・・・・・さわさわっ・・・さわさわっ・・・・・・
 初めて猫を撫でたときのあの感動を思い出す。
 き・・・・・・気持ち良い!
「・・・・・・・・・ぅんっ・・・」
 ピコピコピコピコ・・・・・・・
 耳がせわしなく動いた。
 よく見ると、シコウの冷たい顔が緩みきって、少し赤くなっている。
 あんなに酷いことされたのに・・・目の前の同い年の青年の顔は・・・とても幼く、穏やかに見えた。
 いや、実際に誠司の顔は幼くなっている。
 ・・・・・・やっぱり、先輩じゃない・・・
 その顔は最早、柴田誠司のそれではなく、シコウという妖怪の顔だった。
 ・・・・・・先輩・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・
 綾音はまた泣いた。
 だが、泣きながらも・・・耳を撫でるのは止めない。
「・・・・・・・・あ・・・あのさ・・・」
 ビクッ!!
 綾音は突然の声に本気で驚いた。
 いつの間にか目を覚ましていたシコウが、申し訳無さそうな目でこちらを見ている。
 目が合ってしまい、体が動かなくなってしまう。
 シコウはその綾音の手を耳から放して布団の中に戻す。
「耳は・・・その、恥ずかしいんだ・・・・・・」
「ご、ごめんなさい」
「いや・・・綾音が触りたいんなら・・・触ってもいいけど。・・・その・・・一言いってほしい。・・・・・・突然触られると・・・・・・えと、なんだ・・・か、感じちゃうから」
「ふぇ?・・・あ・・・うん。・・・・・・・・・ふふふ・・・」
 顔同様に、先ほどまでの彼とは口調が明らかに違う。
 それ以上に変わったのは、さっきまであんなに自分を責めていた妖怪が、手のひらを返したように、縮こまっているその態度だ。
 それが妙に可笑しかった。
 そういえば・・・私にアレを入れる前もこんな感じだったっけ?
「・・・あ・・・可笑しいかな?こんなこと言うのって・・・」
「ぅんん。そんなこと無いけど。・・・・・・あの、妖気はもういいの?」
「あぁ。うん、それは、助かった、ありがと。とりあえず苗どころはできたから・・・あとはまぁ、気が向くままに性欲を処理すれば良いんだ。それで妖気は補充できる」
 そいうと、慣れた手つきで・・・まるで何度も触ったかのような手つきで、無作法に綾音の胸を揉み始めた。
「・・・あっ・・・や、やだ・・・また・・・?」
 綾音の体にはシコウの腕は進入していない。
 そのせいか、先ほどよりはまだ穏やかな感覚だが、次第にまたあの感覚に囚われ始める。
 しかし・・・もう拒んではいなかった。
 もう・・・私は普通じゃなくなったんだろうな・・・・・・。
 残念ながら・・・その通りだった。
 シコウ専用の妖気の苗どころ・・・つまりは、シコウにしか発情できず、ただシコウの為に精気を養う・・・性欲処理用の人形でしかない。
 シコウにしてみれば・・・こういう事は何度もあった。
 生きる糧を得るため、昔は一度に何人もの女をただの肉奴隷にした。
 ただ・・・綾音は今までのそれとは決定的に違うことが在る。
 それは―――。
 綾音は体に燈り始めた情欲を抑えて・・・・・・聞いた。
「ねぇ、シコウ?・・・・・・耳・・・気持ちいいの?」
 ビクゥッ!!
 今度はシコウが驚く番だった。
 突然顔が真っ赤になり、両手で頭の耳を抑え、視線を逸らす。
 何でこんなにいちいち反応するんだろう。・・・・・・可笑しな人。
 淫部の軽い疼きを我慢しつつ、綾音は顔を綻ばせる。
「・・・・・・弱いんだ。耳を触られるのは・・・」
 しぶしぶといった風に、シコウは見当違いの方向に向かって喋った。
 ちょっと前のシコウからこんな言葉を聞いたら、絶対に驚いたろう。
 でも・・・今はそんな事ない。
「・・・・・・・・ねぇ、もう一回触っても良い?」
「えぇっ!!」
 心底驚いて、シコウはおもわず声を上げた。
「人の話を聞いて無かったのか?綾音は!」
 そう言って、ベッドの中でどれほどの意味があるのか・・・シコウは身を引いた。
「・・・・・・なんで、私に弱点なんて教えたの?」
 そのシコウに、綾音が身を寄せながらそう聞く。
「いっ・・・言えないよ!」
 シコウはますます顔を赤くする。
「・・・・・・ふぅん。・・・で、触っても良いの?」
 もう一度同じ事を聞く綾音。
 なんだか泣きそうな気分になったシコウは、しばらくにらみ合い・・・・・・うつむき、何も言わず頭から手を退けた。
 ・・・・・・勝った!
「ありがと・・・へへへ・・・・・・」
 綾音が遂にシコウに言う事を聞かせた。
 さわさわ・・・さわさわ・・・・・・・・
 びくぅっ!!びくっ、びくびくぅっ!!
「はぅぅっ!!・・・・・・・・・あ」
 いまさらに口元を抑え、甘い声を抑えるシコウ。
 だが、口から出た声はもう戻らない。
「・・・・・・可愛い声ねぇ・・・ほら・・・我慢しない方が気持ち良いんでしょ?」
「くっ!・・・・・・・お、鬼。・・・はぅっ!!あぁぁんっ・・・・・・や、やめっ、はぁああああんっ・・・!!」
 契約成立――――。
 ・・・その後、綾音はシコウが泣いて許しを請うまで耳を攻め続け、自分がいいというときだけSEXする事を半ば強引に契約に付け足し、やっと攻めるのをやめた。
 ・・・なぜ、突然立場が逆転したかと言えば・・・それは契約ともう一つ理由が在った。
「・・・・・・ねぇ・・・」
 ベッドの中、裸で抱き合う綾音がシコウの耳元でささやく。
「ん?」
「さっきの続き・・・・・・聞かせて」
「・・・何の?」
「あなたが私を好きだって言ったの。あれは・・・誠司先輩のことは分かったの。・・・・・・・・・あなたは・・・なんで私のことを・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・」
「・・・?」
「・・・誠司の紹介と・・・それから・・・・・・一目惚れって信じるか?」
 初恋に落ちた妖狐のお話・・・ここまで。

< おわり >

あとがき。
 初めまして、鳴沢ワヤといいます。ここまで読んでくださり、本当に、本当にありがとうございました。小説を書いたことは今までに何度もありましたが、官能小説を書くのは今回が初めてで、本当に難しかったです。こと、ラブシーンの表現には悪戦苦闘しました。結局フェラせずに終っちゃいましたし。過去、幾つもの官能小説を読ませていただきましたが、今更にそのレベルの高さを痛感しています。自分の作品に自信がないのですが、読んで下さった方々が少しでも楽しんでもらえたら幸いです。本当にありがとうございました。

 スペシャルサンクス、シナリオマスターJさん。
 参考資料。ス○ラ○ド・ジャ○ア○ト○ボ・勇○王○オ○イ○ー・メ○ド○イ○雪○丞・ブ○イティ○・進め!聖○電○研究○・十○国記・re○E○es・○をギュッと○!・A○MS

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