帝国軍特別女子収容所 FILE 12

FILE 12

「ほ、ほんとに怒るぞ!」
 身動き取れない状態で声を荒げるが、シャルロットもエミリアも好奇心丸出しで、こっちを見向きもしない。
「ご主人様、動かないでくださいねぇ♪」
 マリアのしなやかな指が、菊口をなぞった後にツプリと進入してくる。
――うわうわうわわ……。
「え? 弱点って肛門のことなのぉ?」
 意外そうなエミリアの声。
「んふふ。そうよぉ。ここから指を入れて、この辺まで入れるの」
 ずぶずぶとマリアの指が括約筋を分け入ってくる。
「うお! ちょ、本当にやめろって」
 身体が勝手に跳ね上がった。
「この辺にね。男の人は、前立腺っていうがあるのよぉ」
 奥深く挿し込まれた人差し指が、クイッと曲げられる。
「うがっ!!」
「ほぉら。ここねぇ」
 身体の芯を直接撫でられているようだ。
「ほぉら、こりこりこりぃぃ~♪」
「ぎっかっはっ、はっくっ!」
 マリアはやたらと嬉しそうに肛門の奥を刺激していく。
 勝手に腰が跳ね回るほど、強烈な刺激が体中を駆け巡るが、全く抵抗できない。
「あ! 立ってきた!」
「す、すごい……」
「うふふ! ここを刺激すると、どんな状態でも男の人は立っちゃうのよねぇ。アーロンも最後はここをイジってあげて立たせたの」
――そういうことか!
 嫌に手馴れてると思ったら、アーロンのせいだったらしい。
「カチカチだわ。あっと言う間に……。すごい……」
「じゃあご主人様、私が貰いますねぇ」
 ニコニコしながらマリアが身体を起こし、俺の上にまたがる。シャルロットは俺の胸の上で、蕩けた蜜壺を懸命にこすりつけている。
 ずぷぷぷぷぷぷ……。
「うぐぅっっ!!」
「あっくはぁっっ!! 相変わらずおっきぃですわ、ご主人様ぁ。それに今までで、一番硬いかもぉ……」
「ほ、ほんとにっ!?」
 エミリアの声が上ずる。
 マリアはゆっくりと腰を回すように動かし始めた。淫壺がうねるように肉棒を締め上げてくる。
「はぁぁ、すごい気持ち良さそう……」
 エミリアが羨ましそうな声を出しているが、こっちはその顔を見る余裕もない。
「あああああああ、イイぃぃぃぃぃぃぃ……。イイのぉぉぉぉぉぉぉ……」
 マリアはひたすら蕩けた声を出して、堪能するように腰を振っている。凄まじい快楽が股間を直撃する。
「もう……もう、わたくし……、んあっ、ご主人様のちんぽがあれば、んひっ、どうでもいいィィィ……。もう何もかもどうでもイイのぉぉ……」
 指は未だ菊口の中である。意図的な刺激は減ったが、時々思い出したように前立腺をコスリ上げてくる。
「うっぐっ、ふっぐっ」
 俺は快感のコントロ-ルができなくて、与えられる快美感に翻弄された。
「んああああぁぁぁぁぁ……、イクぅぅぅぅ、すぐイッちゃうぅぅ……」
 ビクビクと身体を震わせるマリア。それに合わせて指も力が入ってくる。前立腺をマリアの痙攣が伝わって、俺の肉棒が震えた。
「あぐっっ!!」
「ふあぁぁっっ!! さいこうですっっ!! ごしゅじんさまぁぁっっっ!!! んああああああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
 ごぷっと自分でも信じられないほど精液が放たれた。
「くひぃぃぃっっっ!!! 中に出てるぅぅぅっっっ!!! ごしゅひん様のせいえきぃぃぃっっっ!!!」
 膣内に出されてるというそれだけの事実で、マリアは再度絶頂した。

 菊口から指が抜け、俺はようやく身体の力を抜くことができる。
 マリアは身体をねじると、シャルロットを押しのけてこちらに倒れてきた。
「あはぁぁ、ご主人しゃまぁぁ、わらくしぃ全部ささげますぅ。全部、ぜんぶぅ……」
 俺の首から顔からキスしまくるマリア。目の焦点が合ってなくて、涎が滴っているのにお構い無しだ。
「もう、あたくしはぁ、ご主人さまのモノですぅ。ああもうぅ、おまんこも、お口も、お尻も、ぜーんぶご主人さまのモノですぅぅ。んはぁぁっっっ!!! あああああ、な、なにもしてないのにぃ、イッちゃったぁぁぁ……」
 自分の言葉だけで絶頂に達するマリア。その後も、ビクビクと時折身体を震わして、絶頂を貪っている。
「ふひぃぃぃ、止まらにゃいぃぃ。気持ちイイのがぁぁ、とまらにゃいぃぃぃぃぃぃ……」
 貴族として生きてきたマリアは、何もかも捨てて隷属すると言う背徳的な快楽に溺れきっていた。ここまでその快楽に浸ってしまうと、もう戻れなくなるのではないだろうか?

「わ、わたしも。わたしもぉっ!」
 力が戻ろうとした矢先に、またも菊口に指が突き入れられる。
「あうっっ!! エ、エミリア!」
「ここ? もっと奥ぅ?」
 ぐりぐりと強引に指をねじ込まれる。
「うっぐ! エミリア、ちょっと待て! おいっ!」
 こっちの声を聞きもしないで、指を突き入れられる。と、偶然に前立腺に指が触れた。
「あうっっ!!」
「みつけた! ここね!」
「だから、待てって! エミリア!」
 遠慮のない前立腺への愛撫に、ビクビクと身体が痙攣する。
「あっ!! もう立ってきた!! 凄い凄い!! 男の弱点!」
 嬉々としてエミリアは前立腺を刺激しまくる。視界が明滅し、耳鳴りがしてきた。
「ぐおおおっっっ!!!」
 どくどくどくっ!!
 あっと言う間に限界を突破して射精した。
「きゃっ! もう出ちゃったの?」
 顔に精液をかけられて、エミリアは目を白黒させている。
「ぐはっ、え、エミリア……」
「んふぅぅぅ、凄いわぁ、男のじゃくてんんん……」
 顔に精液をへばりつけたまま妖しい笑みを浮かべて、エミリアはまた前立腺への刺激を開始した。
「あっぐぅっ!! だ、だからエ、えみら、ぐっがっ……」
 上下の感覚すら混乱してきた。真っ白な世界と真っ赤な世界が、氾濫した洪水のように押し寄せる。
――やばい……死ぬかも……。
「すごーいっ! 出してもすぐ立つぅっ! ぐふふふ……」
「あーん、もったいないっ! あたし入れる! 入れるの!」
「弱点♪ じゃくてん♪」
「もうっ、どいてよぉっ!」
「ああ? ほら、ちょっとダメよ、2人も! ご主人様が……」
……………
………

「くそー。あいつら、調子に乗りやがって……」
 うかつにも逆襲されて、昏倒してしまった。
「これからは3人一緒にならないよう、気をつけなきゃならんな」
 全員を厳しく叱ってなんとか体裁をとったが、正直立っているだけでフワフワと腰に力が入らない。
「アルファ。将軍が呼んでおられた」
 廊下の壁をはいずるように歩いていると、将軍付きの事務官に呼び止められた。
「ちょ、今休憩を……」
「至急出頭しろとの命令だ」
 抗議に耳も貸さず、事務官は立ち去ってしまう。
――仕方がない。行くか。
 正直ワッツの相手なんぞしていられなかったが、エミリアの洗脳はほぼ終了だ。マリアだってレジスタンスの情報を出す可能性が高い。それを報告すれば、少しは喜ぶだろう。

「アルファです。何かお呼び……」
 ドアを開けた瞬間、インク瓶が飛んできた。避けきれず、耳の横あたりに直撃する。
「いってぇっ!! 何すんですかぁっ!!」
 思わず怒鳴り声を上げてしまった。
「貴様のせいだ!」
「なにがですっ!」
「親衛隊が来るっ!」
「はぁっ!? 親衛隊!?」
 俺は痛む箇所を撫でながら、聞き返した。痛みのおかげで、集中力が戻ってきたのだから、これも怪我の功名というのだろうか?
「なんで?」
「検挙に失敗したからに決まっているだろうが!」
「そんなわけないでしょう。いくらなんでも早すぎます」
 あれからまだ3日しか経ってない。戦況情報じゃあるまいし、部隊を編成するどころか、情報がしかるべき筋に落ちてくるまででも1週間はかかるはずだ。
「そんなこと知るか! とにかく親衛隊の相手はお前に任せたからな!」
――おいおい。無茶言うなよ。
 俺はワッツの言葉にげんなりした。
「俺はただの尋問官ですよ。部隊の相手は相応の連中がいるでしょう?」
「他の連中はレジスタンス壊滅のために奔走中だ! 暇なのはお前だけだ!」
「俺1人で部隊の相手なんてできるわけないでしょうが。メチャクチャ言わないでください」
「親衛隊は1人だ! お前でもできる!」
「は? 1人?」
「そうだ!」
 俺は首をひねった。一応親衛隊だって、軍隊並に組織された立派な組織だ。活動は軍隊と同じ最低でも1分隊6名で行われる。逆にその軍をマネた組織体系が、軋轢の原因の1つでもあるのだ。
「なんでですか? 親衛隊が1人? ありえない話ですよ?」
「わしは知らん。とにかく今回の件は、全てお前の責任で、わしに責任はないからな!」
 ワッツは顔を真っ赤にして怒鳴りまくった。
「将軍! 俺は命令でやってきたんですよ!? 成果だってちゃんと出てます。エミリアの洗脳は……」
「知らん! 聞きたくない! 全てはお前の独断専行だ!」
「将軍!」
「出てけっ!!」
 ワッツは文鎮を投げつけた。今度は狙いが逸れ、後ろのドアにぶち当たる。
――このクソ豚野郎!
 俺は殺気だった目でワッツを睨みつける。ワッツも俺を睨みつけた。
 数秒の間のあと。俺は敬礼もせずに力任せにドアを開け、ドアを破壊する勢いで外に出た。最低の奴だとは思っていたが、ここまで酷いとは。
――もう、お前なんか知らん。どうとでもなれ。
 俺は廊下を歩きながら、考えられる限りの悪口雑言をワッツに投げつけた。

――とにかくこれからどうするか、だな。
 事態は芳しくない。たとえ1人でも親衛隊がやってくるのは確かだし、理由は先のレジスタンスの拠点を潰し損ねたことに他ならないだろう。しかし早い。早すぎる。
 俺は資料室にこもって司令部の友人に連絡を取った。やってくる親衛隊の名前は、ディートリッヒ=シュナイゼン少佐。
「ディートリッヒ=シュナイゼン? そりゃ親衛隊の中でも隻眼ギャラガー並みに危ない奴だ」
 向こうの答えは早かった。
「うそだろ? どんな奴なんだよ?」
 黒い眼帯をした太った親衛隊大佐。それが『隻眼ギャラガー』である。彼は、空の雲の形が数字の3に見えたので捕虜を30人撃ち殺したとか、収容所の捕虜の髪で絨毯を作ったので、総帥にプレゼントしようとしたのを周りが慌ててやめさせた、とか逸話に事欠かない。要するに軍服を着た異常者だ。それと同等の『危ない奴』なんて、いったいどんな奴なのか。
「これは他に言えない話なんだが、総帥の弟を殺したのはディートリッヒだ」
「総帥の弟? 確か捕虜を逃がした責を取って、自殺したんじゃ?」
「違う。それは対外的にそうなっているだけだ。真実は処刑されたんだ。ディートリッヒにな」
 衝撃の事実だった。
「事件の起きたメルカフィ収容所は、軍事工場の工員として捕虜を使っていた。そのメルカフィで、ディートリッヒが巡察中に捕虜の大量脱獄事件が起こったらしい。脱獄したのは4、50人だったそうだ。
 ディートリッヒはその場で収容所所長兼工場社長のギデオンを処刑。逃げた捕虜も全員捕まえて、1人残らず処刑した。さらに逃げなかった捕虜ですら、密告の義務を果たさなかったとして80人以上処刑した。合計で物凄い数の人間が死んでいる」
「やり過ぎで軍法会議にかけられなかったのか?」
「総帥が許したんだ。規律を正した姿勢はお手本になると」
――総帥も腹の中は煮えくり返っていたんじゃないか?
「軍事裁判を経ないやり方には、当時も今も批判がある。総帥が許してなかったらどうなってたか。たくさん殺してしまったお陰で、工場も1ヶ月止まったらしいし」
「よく今でも生きてるなぁ」
「3回暗殺されかかったって話だが、運がいいのか危機察知能力が高いのか、生き残ってきてる。今では誰も近寄らず、単独行動しているというわけだ」

――そのディートリッヒが、なぜここにやって来るのか? しかもこんなに早く。
 摘発の情報が漏れたのは、司令部のどこかということがわかっている。
 もし。
 ディートリッヒがレジスタンスの仲間だったら?
――親衛隊の中にレジスタンスのシンパがいるなんて、誰も想像もしないだろう。だが奴は捕虜も殺している。助けるのではなく、逆に。
『工場も1ヶ月止まったらしいし』
 捕虜とはいえ、帝国の軍事工場で働いていた。そこで製造された武器が、この国を破壊している。
――加担した者、すなわち敵という判断か?

 正当にギデオンを処刑するための生贄として、100名以上の捕虜。工場も止まって万々歳。
――そう、考える奴だとしたら……
 奴は何かが壊れている――。

 ディートリッヒ対策を考えようとしたが、こめかみがズキズキとが痛む。鏡は見ていないが、内出血で酷いことになっているかもしれない。
――最初から期待していなかったが、最低の忠誠心を発揮する限界すら超えたな。
 なんとかワッツに一矢報いたいところだが、まずはとにかくディートリッヒ=シュナイゼンの問題だ。もしただの親衛隊で、軍の失点を追及しに来たのなら、取れる手段はたくさんある。
 しかしこれがレジスタンス側の人間だと、対応は極めて難しい。

 レジスタンスのシンパだったマリア達が、こちらの手に落ちていることは知られてはいけないし、エミリアもどこまで落ちているか隠す必要が出てくる。
――いっそのこと、事故に見せかけて殺してしまうか?
 一瞬考えたその案も、数秒で放棄した。
 いくら嫌われているとはいえ、親衛隊の一員が事故死すれば、今度は本当に軍団レベルで親衛隊がやってくる。
――すると、洗脳?
 しかし視察目的の親衛隊員を、どうやって洗脳するのか?

 そもそもレジスタンス側である可能性はどのくらいあるのか?
 わかっているのは、動きが異様に早すぎるということだ。もっともレジスタンスでなければ、急ぐ理由は見当たらないのだが。
――司令部に伝わっている情報は、セシル逮捕の情報だ。だから急ぐのは、情報がこれ以上漏れる前に、彼女の救出を……。
 そこまで考えて、ふと気がついた。
――いや、待てよ。工場に加担した捕虜を処刑している奴が、救出のために来るか?
 しかも活動できるのは、自分1人だけだ。最初から抹殺する方がはるかに簡単である。
――セシルはいない。エミリアを殺させないようにするには……。

 はっと目覚めると、既にお昼になりそうな時間だった。
――しまった!
 資料室を飛び出し、自室へ戻って、慌ててシャツを取り替え身支度をする。
 マリアやエミリアに、よってたかって搾り取られた疲労で、いつの間にか爆睡してしまったのだ。
「くそっ! こんな大事なときに!」
 頭に縛り付けていた水袋をはずす。まだかなり痛んだ。
 資料室を飛び出し、司令部に駆け込む。
「親衛隊の巡察は!?」
「もう捕虜の視察に行きましたよ。いったいどこにいたんですか? ワッツ将軍が激怒して、すぐに出頭しろと……」
――捕虜の!
 俺は最後まで聞かずに、廊下に飛び出した。

 廊下を全力疾走し、階段を2段飛ばしで駆け下りる。途中できわどくすれ違った兵士に何か言われたが、聞く暇がなかった。
 地下に走り込んで、鉄格子に飛びつくと、警備の兵士が驚いて出てきた。
「早く開けろ!」
「は? はい」
 こっちの形相に気圧されている兵士。開けられた隙間から入り込む。
「親衛隊はっ!?」
「え……、今、朝の食事を……」
――食事! くそっ!

 走りに走って、エミリアの独房に到着した。
 警備の兵士2人と、黒い軍服に身を包んだ親衛隊が独房の前に立っている。
「遅れました! 尋問官のアルファです!」
 壁に手をついて、必死に息を整える。兵士がびっくりした顔をしているが、無視した。
「ほ、捕虜に、食事を?」
 独房の中で、エミリアが朝食のトレーを持ったまま目をぱちくりして、固まっている。
――食べたのか? お願いだから食べてくれるなよ。

「捕虜への食事は、時間が決まっております。こちらの尋問予定もありますので、遠慮して欲しいのですが」
 暗に手を出すなという言葉に、警備の兵士が驚いた。
「……」
 親衛隊が振りかえる。
――女?
 ぜーはー息が切れたまま、呆然としてしまった。
「あの、シュナイゼン……少佐ですか?」
 階級を見ながら、確認する。
「ディートリッヒ=シュナイゼン少佐である。貴様は?」
「は。尋問官のアルファです。捕虜前では名乗らない規則で……」
「ならば、私の名前も問うべきでないな」
「あ、はい。申し訳ありません」
 素直に謝るが、まだ混乱していた。
 黒髪の美形だ。だが、明らかに異質な雰囲気がある。
「大変すいませんでした。お名前からてっきり男性の方だと……」
「よく間違われる。軍では役に立つがな」
 にこりともせず右手で軍帽を直すと、ディートリッヒはこちらに視線を送る。
 黒い瞳。背筋に寒気が走った。
 ディートリッヒは悠然と歩き出し、慌てて2人の兵士が追いかける。
 俺はその後姿を確認しながら、牢越しに囁いた。
「エミリア、それ食べたか?」
「いいえ? まだだけど」
「食べるなよ。こっちに戻してくれ」
 エミリアがトレーを戻し、俺は乗っている皿に目を走らせた。
――特に異常はない。匂いも大丈夫だ。
「なに? 毒?」
「わからない」
 察しのいいエミリアは、一発でこっちの懸念を当ててみせる。
「あの人、親衛隊でしょ? なんで捕虜を殺そうとするの?」
 名前を聞いて、さらにこんなことを言ってくるということは、エミリアはディートリッヒことは知らないのだろう。
 レジスタンス側の人間ではないのか。それともエミリアが単に知らないだけか。

――どちらにしろ、尋常でなかった。
 ディートリッヒの雰囲気を思い出して、俺は違和感の正体を考えた。
 目を見た時の寒気が蘇る。
――あの目だ。
 戦場を潜り抜けた兵士の冷たい目とも違う、およそ人間とは思えない何の感情も写さない目。
 ぞっとするというよりは、違和感で落ち着かなくなる目。
――あんな目をどっかで見た。なんだっけ?
 こめかみの傷をさすりながら、考える。
――あ! わかった!
 俺は顔を上げて、ディートリッヒを追いかけ始めた。
――どこかで見たと思ったら、サメだ。サメの目はあんな風にどろんと感情を写さない……。
 何があったら、あんな目になるのか検討もつかないが、とにかくあの女が見た目どおりの美女でないことは確実だった。

 ディートリッヒはぐるぐると施設内を視察した後、外の軍備を確認しに出て行く。
 マリアとシャルロットのいるあの尋問室は気付かれなかった。
 ほっとしているところへ、研究班に頼んでいた朝食の毒物検査が上がってきた。
「このとおり何も出ません。砒素もトリカブトも何もなしです」
「そうか」
――考えすぎか。やはりただの視察……いや。
 俺は思いついたことを研究班に頼む。結果はすぐに上がってきた。
「シオメトロ30グラム。大変な量です」
――自白剤だ。ちきしょう。
 エミリアの心臓には、自白剤に反応してブロックをかける機械が入っている。それがあの朝食に入っていた。
――殺す気だった。間違いなく。
 しかも今回初めてわかったレジスタンスの機械を利用している。
――たとえ死んでも、知らなかったで済む計算か。くそっ。

 これではっきりした。ディートリッヒはエミリアを抹殺する気だ。それも問答無用で。
――こうなったらエミリアに警告するしかない。
 俺1人ではエミリアを守りきれないし、エミリア自身に警戒をしてもらわなければならない。

 独房では、エミリアがじっと待っていた。
「顔の傷どうしたの?」
「ちょっと上司と揉めててな」
「凄く痛そうよ。ちゃんと手当てしたほうが良いわ」
「そうする」
「で、毒は出たの?」
「出た。シオメトロ30グラム」
「そう。テオ=ルッシュね。たぶん」
 さすがに違うと思うが、否定する必要はない。
「聞いたことがあるの。帝国の中枢に近い位置に、レジスタンスが入り込んでるって。極秘だから、誰だかまでは知らなかったけど」
「いいのか? そんなこと言って」
「帝国に、私をいまさら殺す理由なんかないでしょ。だったら誰がなんのために毒を入れたかなんて、すぐわかるじゃない」
「そりゃそうだ」
 俺は頷いた。だが総帥の弟を殺すために100人以上の捕虜を殺すことを、テオ=ルッシュがやるとは思えない。
 だいたい少佐という階級になるためには、この「開放」作戦の前から親衛隊所属でなければならないのだ。つまりディートリッヒはもっと遥かに昔から活動を続ける反帝国の活動員ということになる。
――それにあの目は、人に命令されて動く人間ではない。
 ディートリッヒは間違いなく単独の活動員だ。それも帝国を倒すためなら、何が犠牲になっても構わないという、もっともたちの悪いテロリストである。

「それにシオメトロなら、事故で片付けられるわね。うまいもんだわ」
 エミリアは頭の回転が速い。さすが地区リーダーをやっただけのことはある。
「私の場所をレジスタンスが探してるって話だったけど、助けるためじゃなく、殺すためだったのか」
「がっかりしたか?」
「ちょっとね。前はこんなレジスタンスじゃなかった。捕虜になった仲間がいたら、全力で救出するレジスタンスだったのよ。だって仲間のために戦っているんだもの。いつの間にか、こんなにも変わってしまってたのね」
 口調は普通だったが、エミリアの目には涙が浮かんでいた。
「エミリア、今こそレジスタンスには、お前の力が必要だ」
「……そうね。やっと私も決心がついたわ。……とても悲しいことだけど……」
 目を伏せるエミリア。

「それにまず、ここから出なければならんな」
 俺は静かに言う。周りには警備の兵士はいない。
「そうね。それが一番問題だわ」
 エミリアはため息をついた。
「ねぇ、アルファ。私を出してくれない?」
 媚びるような表情を見せる。昔のエミリアなら絶対見せなかったような顔だ。
「うーん、実はここから出る方法が、ないこともない」
「本当!? 教えて!」
 俺が言葉にエミリアはすぐに乗ってきた。
「それに、レジスタンスにいい話だ」
「いい話?」
「そうだ。このままじゃ9軍が侵攻して全滅するという話をしたろ?」
「ええ。それも問題だわ。なんとかしなきゃ……」
 沈痛な顔をするエミリア。
「実は自治政府を作らせて、ゲリラを抑えさせる計画がある。自治政府の人間はもちろんリルダールの人間だ。それがレジスタンスと戦うことになれば、元同じ国民同士が血を流し合うわけだな。帝国は高みの見物だ」
「帝国らしい薄汚い計画ね」
 エミリアは軽蔑のまなざしを向ける。
「もちろん自治政府は傀儡政権で、帝国の飼い犬が陣取るわけね?」
「その通り。頭いいじゃないか」
「簡単にわかるわよ、その程度」
 エミリアの膨れっ面に苦笑して、俺は言葉を一段落とした。周りには誰もいないが、演出は大事である。

「ところがこの帝国の飼い犬が、実はレジスタンスだったらどうなるか?」
 エミリアは眉を寄せる。
「どういう意味?」
「文字通りの意味さ。帝国の飼い犬の振りさえしてれば、ワッツは信じる。その程度の男だ」
 辛らつな言葉に、エミリアが目を見張る。
「レジスタンスは第9軍が出ない程度に、抵抗活動を抑える。自治政府は自分たちの政治を続ける。どっちもワッツが更迭されない程度に難しいバランスを取らなければならない。バカにはできない仕事だ」
「……興味深い話だけど、レジスタンスがいる限り、帝国は手綱を緩めることはしないでしょ?」
「まぁワッツが納得する程度に負けて見せる必要があるかもな。その後『多少』レジスタンスがいても問題ないと帝国を説得するのは、ワッツの仕事だ」
「私たちが、帝国に屈するわけにいかないわ」
 エミリアが毅然と言う。その顔はもうレジスタンスのサハ地区リーダーの顔だった。
「そんなこと言ってるんじゃない。要するにワッツを相手にするのと、第9軍を相手にするのと、どっちがいいかってことだ」
「……」
「これには絶対に必要なものがある。それは帝国を手の平で転がせるほど頭のいい人間、女だろうと何だろうと使って、この国のために犠牲になる信念を持った人間だ」
「!」
「自治政府の代表になれば、最初はみんな裏切りだと思うはずだ。たぶん悪口雑言が飛ぶだろう。しかし誰かが犠牲にならなければ、この国は第9軍によって滅ぶ」
 俺は真摯に続ける。
「エミリア。俺はお前にならできると思ってるんだよ。だから話したんだ。帝国を手の平で転がせるのは、お前しかいない」
「私に傀儡政府の代表になれって言うの?」
 エミリアの目が鉄格子の向こうで、光っていた。
「俺には、お前に『何かをしろ』と命令することはできない。俺はこれでも帝国の人間だからな。しかし収容所から出られるのは間違いない。それは確実だ」
「出られる……」
「そうだ」
 エミリアはじっと考え込んだ後、立ち上がって俺の目を覗き込んだ。
「ねぇ、アルファ。あなたの狙いはなに? こんなこと教えるなんて、あなたもワッツ並みに帝国軍人っぽくないじゃない」
「最初に言ったろ? 俺は軍の中でもはずれ者なのさ。組織の中でも孤立していて、誰にも理解されない。おまけにワッツは気に食わない。このこめかみの傷も、ワッツにインク瓶を投げつけられたせいなんだ。だからこれは、ささやかな俺の反抗というわけだな」
「そんな戯言を信じろと?」
「信じる必要はない。だが、このまま戦っていれば、この国はワッツと心中だ。それよりお互い生き残って、利用し合う方がいい」
 俺はそう言ってから、目を逸らす。
「それに……いや、いい」
「なによ。言って」
「……俺は、お前の作るレジスタンスを見てみたい」
 俺の言葉にエミリアは目を見張ったが、ゆっくりと微笑んだ。
「ねぇ。さっきあんなに必死だったのは、私を殺さないため?」
「まぁ、そうだな」
「みっともないくらい、息を切らしてたわよ」
「久しぶりの全力疾走だったよ」
「助けてくれたのね。本気で……」
 エミリアの目の光が熱っぽく崩れる。今までのどれとも違う光だ。
「ねぇアルファ。ここを出たら本当の名前を教えてくれない?」
 それがどういう意味かわかっていた。
 だが、仕事以上の関係はご法度だ。特に捕虜と尋問官の場合には。
「難しいな。捕虜が釈放されたら、尋問官がまた会える可能性は、まずない」
「考えてみてよ。私もあなたの言う新しいレジスタンスのことを考えるから……」
「……」
 俺は答えなかった。

 なんにしても、まずはディートリッヒをなんとかしなければ始まらない。全てはそれからだ。

< つづく >

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