ジュエルエンジェル 第三話

第三話 「サファイアの章」

 今日も多くの人間が行き交いする、街の中心にある繁華街。
 そのメインストリートにある小さな花屋の店先で、店員の女性が鉢植えの位置を調整している。
「あの・・・」
「はい、いらっしゃいませ」
 店にやってきた背広姿の若い男性に気付くと、その女性は顔を上げた。
 艶かな、腰まで届きそうな髪。
 大人が持つ、しっかりとした強い意志を感じさせる目と顔立ち。
 身体の方も細身だが、ピンと芯が通った印象を受ける。
 スーツを着ればキャリアウーマンにも見える彼女だが、実際には暖色の布地の服に白いエプロンをかけ、その近付きがたいイメージを緩和している。
 彼女の名は瀬戸川奈津子(せとがわ なつこ)。
 ジュエルエンジェルの一人、サファイアの加護を受けた戦士ジュエルランサーの普段の姿である。
「―――ああ、武田さん。いつもありがとうございます」
 声をかけた男性が常連客だとわかると、奈津子は軽く会釈する。
「あっ、いやどうも」
「今日もまた、デートに持っていく花ですか?」
「あっ、はっ、いや、その・・・まあ」
 武田と呼ばれたその男は、あたふたと手を振って顔を真っ赤にする。
「なら、こちらの秋の花を合わせた花束なんてどうでしょうか」
「えっ、はい・・・。じゃあ、それで」
 武田が頷くのを見ると、奈津子はテキパキと慣れた手つきで花束を作り手渡す。
「いつもご利用ありがとうございます」
「な、奈津子さん・・・あの・・・」
「はい、なんでしょうか」
「い、いえ。なんでもありません!あ、これお代です!」
 花束のお金を払うと、武田はそそくさと花屋を後にする。
 入れ替わるように、花屋の店主が奈津子の側に来た。
「あーあー、あの武田って男もかわいそうに」
 そういって、気の毒そうに首を振る。
「何故ですか?」
「あいつ、彼女なんていねえよ。奈津子ちゃんに会うための口実だって」
「まさか」
「奈津子ちゃんは美人だし、今時珍しいほど生真面目でいい子だけど・・・」
 店主は一旦言葉を切り、からかうような目で奈津子を見る。
「その堅いしゃべり方と、色恋沙汰に疎いとこを直せばもっといいんだけどねえ」
「申し訳ありません」
「・・・これだもんなあ」
 店主は苦笑いして、また奥へと戻っていった。
 (やはり、私の喋り方は変なのか)
『その、かったい話し方どうにかならないの~?』と友人に笑われた学生時代を思い出す。
 多分、趣味やセンスは人よりも女らしいと思う。
 でも、この喋り方のでせいで男の子が萎縮して寄ってこなかったのは事実だ。
 (―――まあ、男性についてはよくわからないし、それに今は・・・)
 そう。それに今は、ディスタリオンがこの世界を狙っているのだ。
 それに抵抗できるのが自分たちしかいない今、少なくとも自分は恋愛などにうつつを抜かしていられない。
 ・・・正直、強がりといってしまえばそれまでだが。
「でも、私には大切な仲間たちがいる」
 奈津子は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
 だから、寂しくなんかない。
(そういえば・・・玲香は元気だろうか?)
 ここ数日連絡をとっていない、一番親しい仲間の顔を思い浮かべる。
「帰りに、家まで寄ってみるとするか」

 日はほとんど沈み、世界が青紫に染まる頃。
 玲香の家を訪ねた奈津子は、玲香の母親の話を聞いて呆然としていた。
「玲香が・・・行方不明!?」
 無言で頷く母親の顔は憔悴しきっている。
 きっと満足に寝ていないのだろう。
「警察には連絡したのですか!?」
「それが・・・。そのぐらいの年頃なら、家出の一つもすることもあるだろうって。真剣に聞いてくれないんです」
 奈津子は唇を噛む。
 きっと警察は、ただの多感な少女の気まぐれだと思っているのだろう。
 しかし、奈津子は知っている。彼女がディスタリオンと戦っていることを。
 (まさか・・・やつらに!?いや、そんなはずは!)
「あの・・・何か心当たりは・・・」
 思考を巡らしていた奈津子は、玲香の母親の声に我に返る。
「えっ・・・・・・いえ、残念ですが」
「そうですか」
「私も、玲香が立ち寄りそうな場所を探してみます。どうか元気を出してください」
 お願いします、と消え入るような声で言う玲香の母。
 奈津子は会釈すると、踵を返し早足で歩きだす。
「玲香・・・無事でいてくれ!」
 歩みを止めずに、鞄から携帯電話を取り出す。
「とりあえず、みんなに連絡を・・・。ん?」
 と、そのとき奈津子の携帯が軽やかなメロディーを奏で始めた。
「なっ・・・!?」
 画面に表示された名前を見て、奈津子は驚きを隠せなかった。
 そこに表示されていたのは―――行方不明になっている玲香の名だったからだ。
「もしもし!玲香なのか!?」
 慌てて通話ボタンを押すと、電話の向うから大切な友人の声が響く。
『もしもし。奈津子さん?』
「玲香!オマエ、今どこにいる!?今、オマエの家に行ったら行方不明だと聞かされて―――」
『落ち着いて、奈津子さん。わたしは今、坂上公園にいるわ』
「早く家に連絡しろ!オマエの母が心配して・・・」
『それどころじゃないの!お願い、早く坂上公園まで来て!』
 そのせっぱ詰まった口調に、奈津子は思わず立ち止まってしまう。
「何か・・・あったのか?」
『後で・・・説明するから・・・お願い、早く・・・』
 電話から聞こえる玲香の声は、明らかにおかしかった。
 ハァハァと呼吸を乱し、苦しそうに懇願している。
「―――わかった。そこを動くんじゃないぞ!」
 そう言うが早いか、玲香は全速力で走り出した。

 街を見下ろす高台にある坂上公園。
 そこにやっとのことで辿り着いた奈津子は、息を切らせながら辺りを見回す。
 すると、常夜灯の側のベンチに座っている少女が目に飛び込んだ。
「玲香・・・!」
 そう叫んで駆け寄ると、ベンチに座っていた玲香も奈津子に気付いて駆け寄ってくる。
「奈津子さん、来てくれたのね!」
「玲香、よく無事で・・・!一体何があったんだ!?」
 奈津子が聞くと、玲香はうつむき、思い出すのも嫌そうな顔をした。
「わたし、ディスタリオンに捕まってしまって・・・この先にある基地に閉じこめられてたの」
「何!?本当か」
「ええ。なんとか隙を突いて、ここまで逃げてきたの」
 そう言う玲香は、少し赤い顔をして微かに震えている。
「・・・どうした?具合でも悪いのか?」
「え、ええ・・・。ずっと暗くて狭い部屋に押し込まれていたから」
 玲香は、手に持ったスポーツドリンクの缶を奈津子に差し出す。
「飲みかけで悪いけど・・・奈津子さん、飲んでくれない?わたし、気分がすぐれなくて」
「ああ・・・すまない」
 なんとか息を整え、額に流れる汗を拭った奈津子は、その缶を受け取って一気に中身を飲み干す。
「・・・はぁっ、生き返った!しかし、これは実にまずいドリンクだな」
「うふふっ」
 笑う玲香を見て安堵しつつも、奈津子の中に怒りの炎が吹き出し始めていた。
「ディスタリオンめ・・・絶対に許さん!玲香、みんなでその基地を潰すぞ!」
「だめ!それじゃ間に合わないわ!やつらはもう、わたしが逃げたことに気付いてるはずよ」
 玲香が携帯を出そうとする奈津子の手を握り、顔をのぞき込む。
「わたしたちだけで、なんとかしましょう」
「くっ・・・!仕方ない」
 そう言って携帯をしまう奈津子は、玲香の口元が醜くつり上がったことに気付かなかった。
「こっちよ、はやく!」
 走り出す玲香の後を、奈津子は疑いもせずについていった。

「―――ここか?」
 奈津子は連れて行かれた場所を見て意外そうな顔をした。
 そこは下り坂の途中にある、長さ30メートルくらいの歩行者用のトンネルだった。
 すっかり日が落ちたこの時間帯では通行人の姿もなく、不気味に静まりかえっている。
「ええ、途中に隠し通路があるの。ちょっと信じられないかもしれないけど・・・わたしを信じて」
「ああ、もちろんだ。仲間の言うことを疑ったりするものか」
 奈津子はポンと玲香の肩を叩いて、トンネルに入っていく。
 玲香もそのすぐ後に続いた。
 一定間隔に並ぶ、小さな照明のぼんやりとした灯りの下をゆっくりと進む。
 二人の靴音が反響し、やけに大きく耳に届く。
 と、奈津子が不意に足を止め、左腕を伸ばして玲香を足止めする。
「・・・奈津子さん?」
「シッ。・・・そこにいるのはわかっている!出てこい!」
 奈津子が険しい顔で何もない前方にむかって声を張り上げる。
 すると、トンネルの両壁、天井、地面から滲み出るようにして複数の影が飛び出てきた。
 ヌルヌルとした光沢を放つ真っ黒なスーツで全身を覆った、男性を思わせる体格の怪しい連中。
「ディスタリオンの下級戦闘員か。―――玲香、いけるか?」
「ええ、わたしなら大丈夫。変身しましょう!」
「無理はするんじゃないぞ。―――覚悟しろっ!」
 奈津子と玲香は両手を高々と掲げる。
 日が昇る前の空のような、深く落ち着いた青色の閃光が奈津子を包み込み、球体の結晶に変化する。
 そしてその結晶を砕いて出てきた奈津子の姿は、先ほどのものとは一変していた。
 中央に守護石であるサファイアを埋め込んだ兜を被り、後ろ髪は金の髪筒に通してまとめてある。
 そして手には細く尖った長身の槍を携えている。
「サファイアの戦士、ジュエルランサー!」
 奈津子―――ランサーは、頭上で槍を旋回させると、その蒼く冷たい輝きを放つ尖端を戦闘員に向けて戦闘態勢を取る。
「同じく、ダイアモンドの戦士ジュエルガード!」
 ガードも盾を前方に向けて構え、ランサーの横に並ぶ。
「ジュエルエンジェル・・・殺す!」
 戦闘員のうち三人が驚異的な跳躍をし、上空から飛びかかってくる。
「―――シッ!」
 ランサーは短く息を吐くと、一歩踏み出して上空をなぎ払う。
 弧を描くような斬撃が三人の戦闘員を吹き飛ばした。
「ギャッ!」
 バランスを崩した三人が落ちるよりも早く、ランサーはさらに前に走り出て立ちつくす戦闘員に槍を突き刺し、瞬間で引き抜く。
 腹に風穴を開けられた戦闘員はずるずると地面に倒れ込んだ。
「次はどいつだ!さっさとかかってくるがいい!」
「つ、強い・・・」
「これがジュエルランサー・・・!?」
 ほんの2,3秒で仲間四人が倒されたのを見た戦闘員たちは、尻込みしつつも奇妙に歪曲したダガーを抜き取り襲いかかる。
「う・・・わあああああああ!」
「ふん!」
 軽々とダガーを捌くと、ランサーはまた高速の突きで風穴を開けた。
「くそ、死ね死ね死ねえええっ」
 その背後から二人の戦闘員が迫る。
「甘いわよ!」
 ガードが間に割って入り、その無敵の盾でダガーを受け止めると回し蹴りを喰らわせた。
 絡まり合うようにして戦闘員たちは転がっていき、壁に激突する。
 ・・・トンネル内に、再び静寂が戻った。
「これで・・・終わりか?」
 ランサーは戦闘態勢を維持したまま、周囲に目を配る。
 そのとき、背後からビュッと風を切る音がランサーの耳に届いた。
「―――っ!?」
 とっさに身をひねるランサーすぐ側を、紫色の塊が駆け抜けた。
 その塊はさらに数メートル先まで進むと旋回し、動きを止める。
「ま~だだぁ~!オレ様がいるぜえ!!」
 そう高らかに声を上げたのは、紫色の毛並みをなびかせる狼男だった。
 ジーンズを履いた細長い足に筋骨隆々の腕という、なんともアンバランスな体格をしている。
「く・・・怪人か!?」
「オレ様はディストウルフ!武器はこのスピードと・・・っ」
 手を前に突き出すディストウルフ。
 と、ランサーとガードのスーツの胸の部分に裂け目が生じ、柔肌が露わになった。
「きゃああああ!?」
「ううっ!?」
 驚いて両手を交差させ胸を隠す二人を見て、ディストウルフはニヤニヤと笑う。
「―――この鋭い爪よぉ。すれ違い様に切らせてもらったぜえ、くくく・・・いい乳じゃねえか」
「こ、この不埒者!」
 逆上したランサーが連続で攻撃を放つ。
「おっと危ねえ」
 ディストウルフは軽いフットワークで全てかわすと、また勢いをつけて反対側に走り抜ける。
 そのついでに今度は、ランサーとガードの尻を鷲づかみにしていった。
「グハハ、ガードの尻はいい感触だな~!ランサーの尻はちょっと固いけどいい形してるぜえ~」
「~~~~っ!」
 不躾な批評にガードは顔を真っ赤に染め上げる。
 ランサーは、前を向いたまま立ち尽くしている。
「どうしたランサーちゃん、もしかして恥ずかしかったかあ?どうせ男に触らせてんだろ、今更恥ずかし―――」
 シュカッ!と鋭い音がディストウルフの上空を通り過ぎる。
「―――ああ?」
 何が起こったのか把握できないまま、ディストウルフは自分の右耳に手をやった。
 しかし、その手は空を掴む。・・・耳が、千切れ飛んでいた。
「ぎゃああああっ、オレ様の耳がぁ!?」
 見ると、いつのまにか振り返ったランサーがディストウルフの方に槍を突き出していた。
「き、貴様ぁ・・・貴様がオレ様の耳を・・・っ」
「だったら・・・どうした」
 静かな口調ながら、その目は瞳孔が開かんばかりに見開かれている。
 卑劣な行為が何よりも憎むランサーは、今や完全にキレていた。
「うがあああっ、このクソ女ぁっ!」
 ディストウルフは逆上し鮮血を垂れ流しながら、また高速で走り抜ける。
 ただし、今度は爪を肉に食い込ませようと振り上げながら。
「・・・シッ!」
 その爪を回避しランサーは反撃を加えようとするが、ディストウルフはそれよりも早く通りすぎてしまった。
 (チッ・・・早い!ふざけているようだが、この怪人、強さは本物だ!)
 旋回し、再び突っ込んでくるディストウルフ。
 回避し、反撃するランサー。しかしまたその攻撃は届かない。
「がああああ、殺す!殺してやる!」
「くっ、次は当ててみせる!」
「落ち着いてランサー!闇雲に攻撃しても無駄よ」
 ガードの呼びかけに、ランサーは我を取り戻した。
 (ガードの言うとおりだ。私としたことが、怒りに飲まれてしまっていた・・・)
 バックステップをして、間合いを取り直す。
「すまない。冷静さを欠いていたな」
「いいわ。―――それより、提案があるんだけど」
 ガードが小声でランサーに話しかける。
「あいつの高速移動・・・どうやら、直線的にしか走れないみたい」
「・・・!言われてみれば・・・だが、どうやって反撃する?」
「わたしが、あなたの背後にくっついた状態で突撃して―――あいつの攻撃が当たる瞬間、前に出るわ。あなたはその時出来る隙を利用して」
「し、しかし・・・玲香、いやガード。オマエは疲労が溜まっているようだが」
 心配そうにガードの様子をランサーは伺う。
 ガードはまだ、熱っぽい顔をして息を微かに乱している。
「大丈夫・・・わたしなら平気よ。それより、この作戦はあなたがギリギリまで接近してくれなきゃ成功しないわ。―――わたしを信じてくれる?」
「もちろんだ。・・・よし、合図と一緒に突撃するぞ」
 ランサーはガードの前に立ち、槍を構え直す。
 ディストウルフがまた何か叫びながら、こちらに突っ込もうとしてきた。
「1・・・2の・・・3っ!」
 かけ声とともに、ランサーも前に飛び出る。
「もらったあああああっ」
 ディストウルフが拳を繰り出してくる。
 (まだだ!ガードが必ず防いでくれる!もう少し接近を―――)
 臆することなくさらに飛び出るランサー。―――そのみぞおちに、まともに拳がめり込んだ。
「うぐぁっ!?」
 (そんな・・・!ガ、ガードは・・・一体どう・・・なっ・・・・・・て・・・)
 そのままもんどりうって倒れ込んだランサーは、事態を把握する暇もなくそのまま意識を闇に沈めた。
「くそおお、ふざけやがってええ!」
「やめなさい、ディストウルフ!」
 さらに追い打ちをかけようとするディストウルフをたしなめたのは、なんとガードだった。
 先ほどの立ち位置から一歩も動いた様子もなく、地面に転がるランサーを楽しそうに眺めている。
「でもよぉっ、こいつオレの耳をっ・・・!」
「気持ちは分かるわ。でも、だめ。ランサーはゲルバ様への手みやげなんだから・・・あふう・・・」
 こぷ、とガードの股間から蜜が流れ出し、スーツに染みを作る。
 スーツの中に手を入れるとガードは秘所をまさぐり、そこから太いバイブを引きずり出した。
「うふふ。気付かれやしないかと考えると、ゾクゾクしてとっても気持ちよかったわ・・・。あぁん、バイブいい・・・」
 (これがあのジュエルエンジェルかよ・・・?ただの痴女じゃねえか)
 愉悦の表情で手にしたバイブを股間に擦りつけるガードを見て、ディストウルフは呆れかえった。
「で、この女を連れ帰るんだな?」
「ええ。・・・うふふ、全部わたしが仕組んだことだって知ったら、奈津子さん・・・ランサーはどんな顔をするかしら」
 ディストウルフにおぶわれるランサーを見て、ガードはバイブを擦り続けながら含み笑いをする。
「でも、すぐそんなことはどうでもよくなるわ。わたしと同じ、ゲルバ様の性処理用肉人形になるんだもの。立派な淫乱牝奴隷にしてあげるから・・・もっとわたしを信じてね、ランサー」
 

 固く、冷たい床の感触。
 そのひんやりとした冷気が、ランサーの意識を覚醒させていく。
「・・・う・・・・・・」
「ランサー、目が覚めた?」
 仲間の声に反応し、ランサーはゆっくりと体を起こす。
 六畳ほどの広さの、殺風景な牢屋のような部屋。
 その隅で膝を抱えて不安げな顔をしたガードが目に入った。
「ガード・・・。ここは・・・どこだ?」
「ここはディスタリオンの本拠地、幻界城よ」
「な、何!?」
「ごめんなさい。わたし、ちょっと出遅れて・・・あなたが倒れた後、わたしも気絶させられてここに入れられたの」
 ガードはランサーの側に寄り、頭を下げる。
「本当にごめんなさい。全部わたしの責任だわ」
「―――気にしなくてもいい」
 ランサーは首を横に振り、笑ってみせる。
「過ぎたことを悔やんでも始まらない。それよりも、ここを脱出する方法を考えよう」
「ええ・・・そうね。今度こそ、ミスのないようがんばるから」
「ああ。信じてるぞ」
 お互いへの信頼を確認しあうと、二人は部屋にただ一つの扉に注目した。
「私たちの武器は取り上げられたようだな。どうやってこの扉を開けようか・・・」
「―――その扉なら、開いとるよ」
 扉の向うからの突然の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「どうしたんじゃ?早くこっちの部屋に来るといい」
「あからさまに怪しいな。どうする、ガード?」
「そうね・・・。罠だとしても、行くしかないと思うわ。慎重にね」
 そう結論づけると、二人は意を決して扉を開け、隣の部屋に入った。
「ひひひ、目覚めの気分はどうじゃね?ジュエルガード、そしてジュエルランサー」
 そこに立っていたのはゲルバだった。
「オマエ・・・ディスタリオンの幹部だな?」
 ランサーは一目でその邪悪な気配を察知し、間合いを計る。
「その通り。ワシの名はゲルバじゃ」
「何を企んでいるのかは知らないが―――私たちはここから脱出させてもらうぞ!」
「ひっひっひ、おもしろい。なら、ワシを倒してみせい」
「望むところだ!」
 ゲルバの自信の強さに訝しさを感じながらも、ランサーは戦闘態勢をとった。
 ―――と、その横をガードがふらふらと通り抜け、ゲルバの側に寄っていく。
「・・・ガード?」
 ゲルバの真正面で膝をつくと、ガードはおもむろにローブの中からペ○スを取り出した。
 そしてその細い指を竿に絡ませ、刺激を与えながら舌を這わせ始める。
「ふふ、もうこんなになってる・・・んちゅ、れろ」
「お、おい!な、ななな、な、何をしているっ!?」
 突然の仲間の痴態に、ランサーはすっかりパニック状態に陥ってしまった。
 戦闘態勢をとることも忘れ、男のモノをしゃぶるガードを呆然と眺めている。
「じゅ、ぷちゅ・・・やだ、ランサーったら。男の人のおち○ちんが大きくなってたら、処理をしてあげるのが当たり前でしょう?たとえ敵であってもちゃんと射精させてあげなくちゃ。・・・ちゅっ、くちゅ」
 常識じゃない、と言わんばかりのその口ぶりに、ランサーの心が揺らぐ。
 (男性の、性器が大きくなっていたら・・・処理を・・・)
「・・・あ、ああ・・・そうだな、そうだった」
 何か納得のいかない顔をしつつ、ランサーはゲルバの元へ歩み寄る。
 (うふふ、ゲルバ様の洗脳薬の効果はすごいわね。すっかりわたしの言うことを信じ込んじゃって)
 ガードは内心ほくそ笑みながらも、当然の行為をするような素振りで奉仕を続ける。
 ―――実は、玲香が飲ませたジュースの中身は洗脳薬だったのだ。
 そしてその時に玲香の言った「わたしを信じて」という台詞が、今や呪縛の言葉となってランサーの心を蝕んでいた。
「う・・・・・・」
 ガードと並ぶようにしゃがんだランサーは恥ずかしさで顔を真っ赤にし、手で目を覆いながらもペ○スに注目する。
 (これが、おち○ちんというものか・・・初めて見た。・・・うう、何かピクピクと蠢いてるぞ・・・)
「ん、くちゅ・・・ランサー、どうしたの?」
「あ・・・いや、なんでもない」
 ゴクリと生唾を飲み込み、ペ○スへと口を近付ける。
 しかしぎりぎりのところで躊躇し、唇を反らした。
「なんじゃ、ジュエルエンジェルは正義の味方のくせに常識もわきまえておらんのか?」
 ゲルバがバカにしたように言うと、ランサーは顔を上げキッと睨みつける。
「くっ、何を言う!見ていろ、すぐに処理してやろう!」
 ランサーはゲルバに敵意の視線を送ったまま、舌を肉棒に這わせはじめた。
「ん・・・れろ、ちゅく・・・ちゅ、ぷちゅっ・・・」
「ちゅっ、ちゅちゅっ・・・んふ・・・ランサー、もっと顔を寄せて舌を絡ませなくちゃ」
 竿を唇に挟んで刺激していたガードがアドバイスを送る。
「こ、こうか?・・・んふう、ちゅぷ、ちゅっ・・・」
 素直にアドバイスを聞き入れ、ランサーはれろれろと舌をひらめかす。
 そこに反対側から伸びてきたガードの舌が、上から被さるようにしてつついてきた。
 熱を持った舌の感触が、甘い刺激を与えてくる。
「くちゅ、んあぁ・・・ガ、ガード・・・」
「ふぅん・・・あん、ランサー・・・ちゅぴっ」
 二人はキスをするかのようにお互いの舌を絡ませながら、肉棒をしゃぶっていく。
 (あ・・・あぁ・・・私は何を・・・やっているのだろう・・・だが、これはやらねばならない・・・こと・・・)
 熱に浮かされたようにぼんやりとしてくる頭を、ランサーは必死で覚醒させた。
 (く、だめだ・・・!こいつはディスタリオン!処理が終わったら・・・倒してやる!)
 そう勢い込んで、より力強く肉棒を舐る。
「んっ!ぴちゃぴちゃ、くちゅ・・・れろれろっ!」
「お、おお!これはたまらん・・・・・・もう出てしまうわい。ランサーの口に出したいのう」
「なっ・・・なんだとっ!?」
「ちゅっ、うん、だめよランサー。男の人の希望は叶えてあげないと」
「う・・・わ、わかった」
 ランサーはしぶしぶゲルバの真正面へと移動した。
「先っぽの部分を口に入れて、思いっきり吸ってあげて」
 言われるがままペ○スを咥えこむと、ランサーは音を立てて亀頭を啜る。
「んむっ・・・じゅ、じゅるるるるっ」
「うっ・・・、ひひひ、すごい勢いじゃ!ワシの肉棒が吸い込まれてしまうわい」
 恍惚の笑みを浮かべるゲルバの股下にガードが潜り込み、玉に吸い付いて射精を促す。
 根本と先端、二ヶ所の同時責めにゲルバはついに限界を迎えた。
「―――う、うおおおおおっ」
「・・・っ!!」
 ひどく粘り気のある青臭い液が肉棒から放たれ、ランサーの口内に溜まっていく。
 その味のひどさに嘔吐感がこみあげ、ランサーは急いでその精を吐き出そうとした。―――が。
「うふふっ。ランサー、出された精液はよ~く噛んで味わって」
 ガードが嬉々として呪縛の言葉を口にする。
「・・・ぐっ・・・・・・ん・・・んんっ」
 ランサーは顔をしかめながらも、ゲルバの精を口で転がしはじめた。
 グチャ、グチュチュ・・・ッ。口をゆすぐように動かし、何度も何度も噛みしめる。
 やがて、唾液と混じり薄くなった白濁液が唇からこぼれてきた。
「飲んで」
「―――ごくっ・・・。うっ、うげぇ・・・っ!ゴホッ、ゴホッ!」
 一気に飲み干したランサーは、涙目でむせかえりながらも立ち上がろうとする。
「終わった・・ぞ。これで・・・オマエを・・・倒せる!」
「ひっひっひ、気丈な女じゃな。じゃがな、ワシを倒すことなどできん」
 ゲルバがそっと目配せをすると、ガードは唄うように言った。
「ランサー、そこに座って動かないで」
 途端にランサーの腰がくだけ、その場に尻もちをついてしまう。
「え・・・な、なぜだ!?どうして足に力が・・・」
「目を閉じて・・・」
 必死に起きあがろうともがくランサーの目が、自然と閉じられる。
 ガードはランサーの耳に顔を近付けた。
「慌てなくていいわ・・・少しづつ身体から力を抜いてリラックスするの・・・そうすれば・・・とても穏やかな気持ちになれるわ・・・」 
 ランサーの肩が下がり、その表情が和らいでいく。
 ガードは微動だにしないランサーに向かってさらに囁く。
「あなたの心も・・・身体と同じように、穏やかで気持ちよくなっていく・・・。まるで夜、ふかふかの布団で眠っているときのように安らいでいくの・・・少しづつ、少しづつ、意識が埋もれていくわ・・・。でも、わたしが話しかける言葉だけは、はっきりと聞こえるわ・・・。あなたはただ、わたしの言葉を聞いていればそれでいいのよ・・・。もっと・・・もっと深く・・・もっと・・・意識を埋もれさせていくの・・・。・・・・・・さあ、目を開けてみて・・・」
 ランサーのまぶたがゆっくりと上がっていく。
 しかしその顔には表情はなく、瞳はここではないどこか遠くの方に焦点が合わさっていた。
「ひひ、完全に催眠状態になったようじゃな」
 ゲルバがランサーの顔を覗き込む。
 敵が目の前にいるにもかかわらず、ランサーは彫刻のように固まったままだ。
「ゲルバ様、どうしましょう?このまま牝奴隷になるよう、暗示をかけますか?」
「いや・・・ただ暗示をかけるだけでは、いつ正気に戻るかがわからんからな。特にこの女の意志は強そうじゃ・・・。―――ここは一つ、自らの意志でディスタリオンに入るように仕向けてみようかの」
 ゲルバは懐から何かの薬品が入った小瓶を取り出し、ガードに手渡すと何か耳打ちをする。
 ガードは頷くと瓶の蓋を開け、薬品をランサーの胸に垂らしながらゲルバの指示通りの暗示をかけ始める。
「ランサー、聞こえる?」
「はい・・・聞こえます・・・」
「あなたは、仲間を信じることをとても大切にしているわね?」
「・・・はい・・・・・・人を・・・信じることは・・・・大切なことです」
「じゃあ、その信頼を裏切る人は許せないわよね?」
「はい。・・・信頼を裏切ることは・・・許せない・・・」
 その場面を想定したのか、ランサーの眉が若干つり上がる。
「なら、もっと憎むの。あなたの信頼を裏切る人を、怒りが収まらないくらいに・・・、吐き気がするくらいに、嫌悪しなさい」
「はい・・・憎み・・・ます・・・」
「次に、あなたが人を信頼する基準についてわたしが教えてあげるわ・・・」
「信頼の・・・基準・・・・・・?」
「そうよ。―――あなたは、あなたに快楽を与えてくれる人を信頼するの。その快楽が強ければ強いほど、あなたの信頼感も強くなるわ・・・」 
 瓶の中身を全て垂らし終えると、ガードはランサーの胸にゆっくりとその薬品を刷り込んでいく。
 ランサーの身体が、胸を触られるたびにピクンと反応する。
「快楽・・・を・・・与えてくれる人を・・・?」
「そうよ。特に胸を気持ちよくしてくれる人に、あなたは信頼感を抱くわ・・・。そして、胸を吸われて絶頂を迎えたとき・・・あなたはその相手に、畏敬の念を持つの・・・・・・わかった?」
「はい・・・わかりました・・・」
「目を閉じて、今言ったことを心の奥底に溶かして・・・。そして、あなたの中で真実にするの・・・。頭の中で何度も何度も反芻して、刻みつけなさい・・・」
 ランサーは再びまぶたを下ろした。そして座ったまま眠っているかのように、小さな呼吸をくり返す。
 ―――たっぷり三分は待つと、ガードはランサーに声をかける。
「そろそろいいかしら?・・・ランサー、わたしが手を叩くとあなたの意識が戻るわ。そのとき暗示をかけたことは忘れて、立ち上がる直前の記憶にまで戻るの・・・。でも、心に刻みつけたことだけは真実としてずっと残るわよ・・・。・・・それじゃあ起きましょう・・・・・・1、2、3、はいっ!」
 ガードがパンッと両手を叩く。途端にランサーは目を見開き、勢いをつけて立ち上がった。
「覚悟しろ、ディスタリオン!」
「待ってランサー!」
 ガードが慌てたような表情を作り、ゲルバをかばう。
「ガード!?・・・なぜ敵をかばう?」
「聞いて。この人・・・ううん、この方は素晴らしい人よ。話を聞いてあげて」
「し、正気か!?こいつは私たちの敵・・・ディスタリオンなんだぞっ」
「そうよ。でも、この方は信じるに値するお人だわ。・・・だって、胸を揉まれると気持ちいいもの・・・」
 そう言って肩にもたれかかるガードの胸を、ゲルバが揉みしだく。
「んんっ・・・はぁ・・・ああんっ」
「ガ、ガード・・・本当に、気持ちいいのか?」
 ランサーが戸惑いを隠せない様子で尋ねると、ガードは深く頷く。
「ええ、とっても。はあっ、ランサーも胸を触ってもらえばすぐにわかるわ・・・んん・・・っ」
 ガードは自分の胸で踊る手を見下ろしながら、トロンとした夢見心地の笑みを浮かべた。
 その、今にもとろけてしまいそうな顔を見たランサーは押し黙り―――覚悟の面持ちをして直立する。
「わかった・・・。本当に信用できるのか、わたしの胸で試してやる」
「ひひ・・・なら、遠慮なくいくぞ」
 ゲルバはガードから手を離し、ランサーに近付くとその胸に顔を埋めた。
 グリグリと胸元で動く頭の感触に顔をしかめながらも、ランサーは抵抗せずにそのまま受け入れる。
「う~む、なかなか大きい胸じゃの、ジュエルランサー」
「くっ・・・うう、早く私の胸を揉め!」
「ひひ、そこまで言うのなら揉んでやるわい」
 ゲルバはランサーのスーツに指をかけ、引きずり降ろした。
 ぷるん、とはだけた胸元で柔らかな乳房が弾む。色の薄い乳輪が中央でゆらゆらと卑猥に揺れた。
 ゲルバは舌なめずりをすると、その胸を力を込めて鷲づかみにする。
 その瞬間、痺れるような感覚がランサーの身体を走り抜けた。
「んんっ!?ああっ・・・、そ、そんなっ!」
 気持ちいいはずがないと思いこんでいたランサーは、予想外のその感覚に驚愕した。
 (む、胸が・・・熱い・・・。なん・・・だ?どうして・・・)
 それは先ほど胸に刷り込まれた媚薬の作用なのだが、ランサーはそれを知るよしもない。
 ただわけもわからず、胸から発せられる快感に身を震わせるだけだ。
「ふっ・・・うあ、くうっ」
 ランサーの頬が上気する。乳輪も興奮のため充血して色が濃くなり、その先端部は天井に向き始める。
 しかしゲルバは、その敏感になった部分にわざと触れずにひたすら乳房を揉み続けた。
 (ち、乳首が・・・むずかゆい・・・。なのに・・・なのに・・・)
 どうしようもないもどかしさがランサーの中に生まれる。
 虫に刺された部分をかかずに放置しているような、耐え難い感覚。
 きっと、指先がかするだけでも相当気持ちいいに違いない。
 (あ、あぁ・・・乳首に・・・触ってくれ・・・)
 そう口に出しそうになるが、辛うじて残った理性がそれを思いとどまらせる。
 (そ、そんな恥ずかしいことは私には言えない・・・!ああ・・・でも、こいつなら・・・)
 こんなに胸を気持ちよくしてくれる者が、ディスタリオンにいたなんて。
 敵の中にも、信頼に値する人間はいるものなのだ。
 (だから・・・こいつになら、頼んでもかまわない・・・)
 一度そう考えてしまうと、ランサーの理性の防壁は砂の城のように脆く崩れ去ってしまった。
 ・・・後に残ったのは、快楽への渇望だけ。
「た・・・頼む・・・乳首をいじってくれ・・・」
 ランサーは自らゲルバの背後に手を回して抱き寄せ、かすれ声で懇願した。
 その瞳にはいつも強い意志の代わりに、男を求める牝が持つ情欲の炎が宿っている。
「お願いだ・・・もう、熱くて・・・ああぁ・・・たまらない・・・!」
「ほう・・・。ワシはオマエの敵、ディスタリオンじゃぞ?」
 ランサーに抱かれるがまま胸の圧迫を堪能していたゲルバは、意地悪く言う。
「オマエは・・・ディスタリオンだが、信用できる・・・。だから・・・身体を任せる・・・」
「ひひひひ、よし。そこまで信頼してくれるなら、応えねばなあ。―――乳首を吸ってもいいかの?」
 この・・・触れられただけで、どうにかなりそうなほど敏感になった乳首を吸う・・・?
 そのときの快感を想定したランサーは、無我夢中で頷いた。
「ああ、頼む!どうか私の乳首に吸い付いてくれ・・・っ!」
 ランサーが言い終わらぬうちに、ゲルバは乳首を口に含むと舌で転がし始める。
「じゅちゅっ・・・ひひ・・・ちゅうう~っ」
「あ、あああああぁああぁあ!!」
 散々じらされた後一気に爆発した快楽に、ランサーは嬌声をあげ涙を流す。
 ゲルバは赤ん坊のように力いっぱい乳首を吸い、反対の乳首をつねってランサーの胸を弄ぶ。
 そんな自分本意の責めさえも、今のランサーには最高の愛撫になっていた。
「はああ、いいっ!乳首が・・・乳首が気持ちいぃ・・・!乳首・・・乳首がぁ・・・」
 うわごとのようにくり返すランサーの、すっかり勃起してコリコリになったその乳首にゲルバは歯を立てる。
「いっ・・・ああああああっ!!」
 ビシャッ!とランサーの股間から蜜が迸り、スーツに染みを作った。
 痛みに近い―――というよりも、痛みと同等の快感を与えられ、絶頂に達したのだ。
 そのショックからか、ランサーは半ば放心状態になっている。
「どうじゃな?ワシの話を聞いてくれぬかのう?」
 ゲルバが声をかけると、ランサーの瞳に徐々に光が戻る。
 しかし再びゲルバを見据えるその目は、敵対する相手へのものではなく、忠誠を誓った主君を前にした騎士のような敬意を秘めたものへと変質していた。
「はい。敵対する者同士とはいえ―――ずいぶん失礼な態度をとりました。お許しください」
 (私は・・・なんと浅薄だったのだろう。敵の中にも素晴らしい人間はいる。そんな当たり前のことに気付かなかった・・・)
 ランサーは自己嫌悪に陥りながら、深々と頭を下げる。
「くっくっく、気にしておらんよ。頭を上げるがよい、ジュエルランサー」
 (ああ・・・なんと立派な方だろう!敵であるこの私を許す器量の大きさ・・・。容姿といい、理知的な顔つきといい・・・賢者とは、この方のような人間をいうのだろうな)
 ふてぶてしいゲルバの態度すら、ランサーの目には愚者を諭す賢人の行為に写る。
 今やランサーにとってゲルバは敵ではなく、尊敬すべき相手へとすり替わっていた。
「ゲルバ・・・様。話というのは、一体どのようなことでしょう?」
 ランサーが尋ねると、ゲルバは顎に手をやりもったいぶった様子で口を開く。
「うむ、それなんじゃがの。―――ランサーよ、オマエさえよければディスタリオンの一員にならぬか?」
「・・・!そっ、それは・・・」
 ランサーはゲルバの突然の提案に動揺する。
 (ディスタリオンに入れば・・・この偉大なお方に仕えられる・・・。しかし・・・しかし、私は・・・)
「まだ人間を見捨てることはできぬ―――か?」
「はい・・・。私には、人間と・・・人間が作る世界を守ることを、やめることなどできません」
「・・・のう、ランサー」
 ゲルバがランサーの肩に手を置く。
「オマエのその信念には、敵ながらあっぱれと言わせてもらおう。・・・しかし、人間にはオマエが命を賭して守るだけの価値があるのかのう?」
 そう語りかけるゲルバの手が、肩からラインをなぞるように滑り落ち、ランサーの臀部へと移る。
「あ、な、何を・・・」
「我々は、快楽という感覚を持っている。その本能的に備わっている感覚に逆らわず、在るがままに生きてるのがディスタリオンじゃ。・・・ところが人間は、神の与えてくれたその感覚を汚れたものと受け止め、理性という籠に入れてしまいおった。その結果が、今の争いが絶えない醜く歪んだこの社会じゃ。己が持って生まれたものでさえ受け入れることの出来ない人間など、必要ないと思わぬか?」 
 ゲルバはそう言いながら、ランサーの尻の割れ目に指を這わせる。
「んっ、ああ・・・」
「どうじゃ、ランサー。気持ちいいか?」
「は・・・はい。嫌な感覚では・・・ありません」
「ひひ、やはりオマエはまだ見込みがあるのう。しかし、人間の多くはこの感覚を受け入れぬ」
「・・・確かに、ゲルバ様のおっしゃることも最もですが・・・」
 ランサーはそうつぶやくと、押し黙る。
 結論をを決めかねているようだ。
 (ふむ。まだ踏ん切りがつかぬか・・・なら・・・)
 ゲルバは尻から手を離すと、真面目な顔つきで言った。
「なら、ランサーよ。オマエの自身の目で、人間に見込みがあるかどうか確かめてくればいい」
「私自身が・・・ですか?」
「そうじゃ。人間たちの前で、快楽への欲求を満たす行為―――すなわち、オナニーをやってみるといい」
「オナニー・・・そ、その、自慰をですか?」
「うむ。それを見て、当然の行為として受け入れるなら人間はまだやり直せるじゃろう。じゃが侮蔑の目を向けるようなら、そんな愚かな人間は見捨ててディスタリオンに来るといい」
 ランサーは憑き物が落ちたかのように晴れやかな顔になると、尊敬のまなざしをゲルバに向ける。
「なるほど。―――わかりました。この目で、しっかりと真実を受け止めてきます」
「よし、ならば戦闘員に送らせよう。・・・・・・ひっひっひっひ・・・」

< 続く >

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