第三話
0089は完全に落としたのは確定。
この面白い女を使って、どう遊ぶか。
今まで与えてばかりいたのだから、おあずけを食わせるのがいいか。
幸い、女はコイツ以外にも一人居る。
しつこくキスをしてくる0089を引き剥がす。
体液である唾液が口の中に甘い味を残す。
「そうそう慌てるな0089。 私はお前にはお仕置きをせねばならんのだ。 聖水、聖火、銀の銃弾、銀の糸、それらに負わされた傷の分のな」
『お仕置き』という言葉に目を光らせ、『聖水、聖火、銀の銃弾、銀の糸』という言葉に目を曇らせる。
私に傷を負わせた行為が、どんなに愚かだったのか、そのこと悔んでいるのだろう。
苦悩、美味。
まことに重畳。
「かと言って私は大してお前に手出しはしない。 ほんの少し暗示をかけるだけでな」
0089の頭を押さえ、固定する。
ほんのわずかに私の方が背が高く、0089を見下ろす形でゆっくりと口付けを。
甘い甘い、体の疼く口付けを。
0089の体が思いっきり震える。
あまりにも恐ろしい大きさの力が、口から脳へ、脳から体へと広がっていく恐怖。
体の筋肉を硬直させて対抗しようとも、その力は硬直されると更にスピードを増して広がっていく。
足と手の爪の先までその力が行き届くまで、まるで電気ショックを受けたかのように震え、抵抗し、結局は敗北した。
「どうだ? 私のキスの味は?」
まるで体中の筋肉が全てダメになったかのように崩れ落ちようとする0089。
今、この女は、身を焦がすような官能の波に攻められている。
その場で倒れ込まないのは、ただ私が顔を掴んでいるだけだ。
「あう……ああう……」
まるで痴呆者のような呂律の回らない口、はみ出る舌、涎。
物事をまともに考えられないほどの身の疼きに、脳をやられているのだろう。
一時間も放っておけば、勝手に壊れる。
壊してしまったら圧倒的につまらないがな。
人型の影を呼び出し、再び影ヒモを作り、0089を柱に大の字に縛りつける。
完全に動けなくなったことを確認すると、0089にかけた催淫の魔術をほんの少し弱める。
自分がどういう状態で、どういう状況に置かれているか、自分で考えられるぐらいに。
「あはぁ……らめ……ほろいて……このひも、ほろいてぇぇ!!」
……ふむ、まだ魔術が強すぎてうまく発音できぬようだが、まぁ、いいだろう。
このままお仕置きを進めることにしようか。
「それは出来ないな。 そこでじっとしていなければならないのがお仕置きだ、0089」
今、あの女は、自分を慰めてくれるものを我武者羅に求めている。
無論、慰められるものは私のみ。
だからこそ、気が狂わんばかりに身悶えしているのだ。
……基本的、精神干渉の魔術というものはほとんど根源的なものは同じ。
魔力を使って特定の感情を相手にすり込むだけ。
例えば、ディサピアーだろうがチャームだろうが全て同じ。
ただ、用途だけが違う……それだけ。
私のような精神を食らう者にはこう行った魔術を使い、更なる深みの苦しみを吸うためには必要なもの。
それを捕食に使ったり、0089のように永久隷属させるために使う。
……魔眼もそれの一種だが、俺の魔眼は使い勝手がよくない。
いずれ使う時もくるだろうが、今は……。
「おはようございます、姫様。 ご機嫌はいかがでしょうか?」
我ながらわざとらしい口調で言う。
私でさえうっとりとさせられる滑らかな金髪。
肩までのびたそれはつややかな光沢を持ち、それに映える白い肌の首元は唾を飲み込む事を禁じえない。
我ながら素晴らしいセンス。
完全無欠、『鋼鉄の』と付けるに相応しい処女であるし、これほどの美貌は世界にそう多くはあるまい。
すらりとした体型。
私の嫌いな贅肉がまったく……とは言えないが絶妙な量と質を兼ね備えたボディ。
……しかも、今の人間には珍しいだろう『天然』ものだ。
最初の食事はこの、素晴らしい……それこそ永遠の伴侶にしてもいいほどの人間の血。
これが私の色に染まると思うとゾクゾクする。
手を二度、渇いた音を立てて鳴らす。
「初めまして。 わたくし、バウンダーと申すものです。 以後、お見知り置きを」
丁寧に、紳士的にお辞儀をする。
ただ、目の前の女性には恐怖の対象物にしかみえていないらしく。
「来ないでッ! ば、ば、ば、化け物!!」
とても淑女らしからぬお言葉。
心がずきりと痛んでしかたがない。
……無理もないとは思うが。
「何よぉ! なんなのよぉ! あんた、いきなり私の部屋に入ってきたと思ったら……ここ、どこよ!」
「ここは日本ですよ。 日本の伝統、夜這いを行っただけですが……ひょっとしてお気に召しませんでしたか、私のこの城は」
「お気に召すわけないでしょう! 早く帰して! 私を家に帰して!!」
指を一度鳴らす。
彼女を縛っていた影ヒモが消え、勢いで仰向けに倒れ込む彼女。
私はそっと、それを支えてやった。
「大丈夫ですかな?」
紳士的に。
私の体は、人間年齢にしておよそ18歳ほどである。
若々しく、そう幼くもない。
しかし、この世界ではひよっこに見え、また一般的人間である彼女にも同様に見える。
けれども、その裏にある力を読み取る力が彼女はもち合わせていたようだ。
「触らないでッ! 化け物! あんたは、あんたは……蝙蝠人間!? 背中から黒い翼を生やして……あれ? 今は無いの?」
「蝙蝠人間とは多少無礼とは思えなくもないですが……あえて言わせてもらいますと、私、ヴァンパイアと呼ばれる種族でして。 お望みならば翼も出してさしあげましょう」
黒い羽根が背中から生える。
私が今身に纏っているタキシードとマントは私の魔力の産物であり、思うがままに形を変形させることができるものであるので、羽根が飛び出しても跡が残る穴は開かない。
「ヒッ、やっぱり蝙蝠人間!!」
「ヴァンパイアと呼んで……いや、あなたのようなレディにはバウンダーと呼んで欲しいのですが……まぁ、致し方ないと言った所でしょうけれども」
やや、自分でも自己陶酔気味になっているのを否めない。
けれど、彼女のような逸材の前で気分が昂ぶらなければ男ではあるまい。
そう、思っていた矢先のことだった。
「……! あなた、悪魔ね! 消え去りなさい!!」
女性の鋭いフックが私の顎に突き刺さった。
かわいらしい容貌をして、やる。
「ふふ、そんなにいきり立つなよ。 なあ」
いまだ追撃をしてくる彼女の手をそっとかわし、そのまま懐に飛び込ませる。
柔らかい彼女を抱きしめ、抑えつける。
「やっ、放して! 汚らわしい! 放して!!」
額と額を合わせ、記憶を盗み取る。
そしてそれらに付着したほんのわずかな『料理』を咀嚼する。
なるほど……どれも染まっていない。
悲哀らしい悲哀はまったくなく、白い布が白い布であるかのように、シミ一つ無い幸せな人生。
そしてそれに付随する記憶。
負の感情が少ない記憶など食べても味気ないものではあるが、白ければ白いほど私色に染まりやすくもある。
言うなれば、手っ取り早いというわけだ。
「結論から言おう」
まだ胸の中でもがいている娘。
それを無視して私は語り続ける。
「人間万事塞翁が馬、浮かぶ瀬もあれば沈む瀬もあれ、禍福は糾える縄の如し、幸福の後は必ず不幸が来、不幸が来た後には必ず幸福が。 これは真理だ。 幸福、不幸は両方とも人間の主観的相対的なものに過ぎない。 現状より上に上がることを幸福と言い、下がることを不幸と呼ぶ」
彼女はなんとか逃れようと滅茶苦茶に暴れる。
人間にしては強い力だが、『動くな』との一言で止まった。
「君はまだ沈む事をしらない。 君は浮かんでばかり、途中、不幸になったかと錯覚しているのは、ただ浮かぶスピードがほんのすこし落ちたことだけだ」
なにやらモガモガと言っているが、この際は無視だ。
「何も君にそれが悪いと言っているわけではない。 浮沈については宿命めいたものが存在していて、君は君自身は操作できないのだから」
息を止め、ゆっくりと三十秒間数える。
その時間は、長く短く、短く、短いものだった。
私自身の過去の汚物を排出し、それを再び飲み込む作業。
記憶と言う名のゴミを、探し改め再び探し改める。
それに要する時間は三十秒。
さして面白いことでもなかった。
「私は君が欲しい」
そっと彼女を放してやる。
言霊によって動けないのではあるが、目を合わせて会話することが出来る。
「君が『沈む』ところを、是非、見てみたいのだ。 そして、その沈みから溢れる感情を味わってみたい」
結局のところ、そこが本音であった。
美味しい料理を味わいたい、ただそれだけ。
「正直に言ってくれ。 君は私の求めに応じるか? 『口は開いてもいい』」
言葉の戒めを解く。
「いやよ」
そっけない答え。
「では奪うまでだ」
簡単な解答。
結局は同じことになる……というわけではない。
『奪う』と『貰う』には徹底的な差異がある。
『貰う』は相手に借りを作るということ。
『奪う』は相手に敵意を持たせるということ。
ここの差異は大きい。
だがしかし。
「性的辱めを、まずはどうかね? 『服を脱げ』」
言霊であろうと、なんであろうと『服を脱げ』と言うのは間抜けだと思った。
致し方ないことではあるが。
「わたひ……わたひにも……」
0089が反応する。
今の今まで足を擦りつけ、なんとか疼きを解消しようとがんばっていたが、ついに耐えきれなくなったらしい。
「ダメだ、お前はお仕置き中だ。 そこであと1時間は我慢してろ」
「うう……もう、もうひゃめなの……しぇ、しぇめて、いじって……ひゃう!!」
0089はそう言いながら、全身をゆでたこのような色に染め、小刻みに震わしていた。
その股の花から透明な蜜を垂らし、それはフトモモを伝い、床に透明の水溜りを作っている。
尋常じゃない量の愛液。
ほんの少しの吹きかける風に身を震わせ、快感に身をよじらせている。
……少々術が強すぎたか、脱水症状にならないように気をつけなければな。
「え? なんなの、やめてッ! なんでこんなことするのよっ!」
柱に縛りつけられた0089を見たからか、それとも自分の体が勝手に動き衣服を剥ぎ取るようになったからか。
もしくはその両方か……驚愕の表情とともに言う。
言い知れぬ存在、自分の体を勝手に言霊で操作される恐怖、中々の美味。
清らかな肌が、白雪のような肌が外気にさらされていく。
見るもの全てを魅了し、唾を飲み込むことを禁じえない体。
ドレスを自分で引き千切り、かわいらしい下着が姿を現す。
「いやッ! 見ないでッ! 見ないでーーーッ!!」
0089はもうすでに眼中にないらしい。
このような危険な状況に陥った事は始めてであるから、そこまで気がまわらないのだろう。
「変態! 女性をこんな目に遭わせるなんて……この最低のクズッ!!」
自分自身のシルクのブラジャーに手を当てたとき、彼女は言った。
その頭のどこにそんな憎悪を隠していたのか、はたして不明だが、殺意を通り越すほどの害意をこちらに向けてくる。
無論、私はそれをおいしく頂いた。
「あふぅ……もう限界なのぉ……」
金髪のお嬢さんに気を取られている間、0089は目の前で行われる痴態に遂に痺れをきらしていたらしい。
頭の中は快感を貪ろうとすることに必死で、ブレーカーを落し、力が解放された。
もはや私の『非処女である』という暗示も破壊し、真のクルースニックとしての力を発揮したのだ。
影ヒモは切られなかったものの、それに結んであった厚さ五十センチ以上のコンクリートの柱を、中に入っていた鉄筋ごと引き裂いたのだ。
これには流石の私も驚きを禁じえなかった。
高速で空を浮遊する『スカイフィッシュ』という人間の言うUMAというものでさえ可視出来る私が、まったく0089の動きを見る事ができなかった。
気付いた時には、数十メートルの距離をコンクリートの床に押しつけられたまま滑り、壁に大きな穴を穿ち、止まったときだった。
「やはり、あの暗示は強すぎたか……! 不甲斐ない!」
0089は私の腰に足を絡め、熱烈なキスをしようとしている。
……怒らせたな、0089。
「恩赦は無いと思えよ! 貴様にはあの程度のものとは比ではない苦しみを与えてやるからな!!」
0089は、私に牙をむかない。
殺そうとはしない。
ただ、快感を貪るための道具としか見ていない。
それが一番許せない。
「下僕よ! 貴様は私の、永遠の奴隷だッ!!」
首元に牙を立てる。
強烈な痛みに、欲望の獣はおもいっきりのけぞる。
ふと向こう側で、0089の一撃で私の暗示が途切れたあの獲物が逃げ出すのが見えた。
まぁいい、あいつもこいつと同じ罰を与えよう。
「ああああああああああああぁぁあぁっぁああぁああああぁぁっぁああぁぁあっぁ」
雄叫びような声を引き上げ、身悶える0089。
身を引き裂かれるような苦痛の後の身を焦がすような快感の波が打ち寄せている。
気が狂いそうなのだろう。
牙ががっちりと抑えつけているというのに、手足を震わせ、腰が激しく上下している。
大きめの胸が触れるのは嬉しいが、あまり暴れて欲しくない。
甘美な、感情以外の食事を邪魔されるようなことはされたくないのだ。
力が漲り、苦しみが喉を締め付ける。
いい感触だ。
始めての吸血行為は、そのヴァンパイアの基本を作る。
元々の力のキャパシティの関係もあるが、最初に啜る血が自分の力の素となると言ってもいい。
その血は、卑賤より高貴、男より女、非処女より処女、更に霊的能力の優れたものであればあるほど望ましい。
それら全ての条件のトップランクに立つ女であった。
脳が破裂するかと思うほどの力がわが身を貫く。
そして何より……0089は私のものとなった。
この女の意思に関わらず私はその自由を束縛し、絶対服従をさせることが出来るッ。
完全に吸血行為を終えると、0089は叫び疲れたのかグッタリと私の上に寝ている。
そしてその耳元で、囁いてやった。
「どんなことをされようとも、またどんなことをしようとも、お前は、私の許可を得ないかぎりオルガズムを経験することはできない」
残酷な命令。
私の言う事に背き、不当を働こうとした罰。
首根っこを掴み、立ちあがると0089をそのまま右手一本で吊るす。
「意識を覚醒していいぞ。 私のかけた催淫の呪文も取り消そう。 私がお前の血を吸う前の暗示も取り消そう。 そして、記憶を取り戻せ、お前が非処女であるという記憶。 私を憎んでいたときの記憶。 クルースニックであったときの記憶、全てをだ!」
凄まじい殺意があふれる。
また、再び、こいつは私に対する敵となった。
だが、憐れにも私の手の中で右往左往するしかない敵だ。
「……殺す! 何があろうと、何をしようと殺すッ!!」
「殺してみろ! そうでないとつまらん! だが、お前には殺すことはできないぞ!!」
0089の怒りは、クルースニックの能力を覚醒させた。
リンクした精神がそう告げている。
事実、自らの右腕を長剣に変質させ、私の腸を抉り出そうとしてきたからだ。
腹部を貫いた長剣を無理矢理引きぬかせる。
「それで終いか?」
掴んでいた右手を離し、地面に降ろしてやる。
素早く身を動かし、物陰に姿を隠す。
その間、銀のナイフを何本か拾っていった。
「……また笑わしてくれる」
自分がヴァンパイアになったことに気付いていないのか。
今頃、手が腐っていることを不思議に思っているだろうな。
だが……。
「かくれんぼは嫌いじゃないがな、0089。 今はやりたくないぞ。 出てきて私の足の甲を舐めろ」
物音一つ立てずに隠れるのは素晴らしい。
それ故に声が反響をして心地よい雰囲気を保つことができるからだ。
ゆらりゆらりと幽霊の如く姿を現す0089。
憤怒に染まり、実にスパイシーだ。
「何を……したのよ」
「別に。 言霊も使用していないし、お前にかけた精神魔術は既に効果をなさない。 私は口に出して言っただけだ」
「嘘よっ! 嘘、嘘! あなた、何をしたの……よ……」
憤怒に染まりながら、チラチラと見せる淫蕩な表情。
私の足の甲を舐めたくて舐めたくてしかたがないのだろう。
「嘘……嘘なのよ……嘘でしょッ!?」
嘘、嘘と、まるですがりつく言葉のように繰り返す0089。
飛びかかって、私の足元に顔を寄せる。
そしてその顔を思いっきり蹴飛ばしてやる。
吹き飛ぶ0089。
その顔は、今度は裏切りに対する悲しみと、苦しみに染まっている。
「ど……どうして……あなたがしろって……」
「だから私は何もしていない。 言霊で操作をしていないし、精神魔術を使ってもいない。 お前が私の声を聞いて望んだだけのこと。 そしてお前は素直に私が足の甲を舐めさせてくれると思ったのか?」
「……ど、どうすればいいの?」
「『お願いします』だ。 頭を下げ、地面に擦り付け。 『偉大なるバウンダー様。 どうかこの賤しき売女に貴方様の高貴にして気品溢れるお足を舐めさせてくださいませ、お願いします』と言ってみろ。 これは強制しない」
面白いまで真っ青に染まる0089。
おおよそここまで侮蔑的で、口に出したくない台詞を言えと脅迫されるのははじめてなのだろう。
だが口に出さない限り自分に救いは差し伸べられない。
無論、口に出しても救いは無いのは言うわけもない。
目に涙を称え、身を震わせる。
もし、飛びかかってきたら今度は再起不能になるまで叩きのめし、更にこの台詞にこの女が口にしたくない台詞を付け加えるのみ。
「早く言え。 私は気が短い。 早く言わなければ、更に言いづらくなるだけだが」
「い、言うわよっ! 言えばいいんでしょ! この位……なんともないわ」
「ほう? ならば言ってみろ。 言わねばこの足を舐めさせてやるなんてこともさせてやらんからなぁ」
言うは易し、行うは難し。
「偉大なる……偉大なるッ! 偉大なる……」
バカのように『偉大なる』と繰り返す0089。
続く語を言えば、私を敬うことになり、それが邪魔なのだろう。
「そんなにも辛いか? 0089?」
「っるさいわね! 今言うところなのよ……偉大なる……偉大なるば、ウダー様」
「ちゃんと発音しろ。 この腐れ女め」
「……ッ! そうだわ! あんたを殺して、それから!!」
鋭い動きでナイフを突きつけようとする0089。
バカな、お前如き半人前が銀の装備を使おうなどと。
「バインド。 バインド。 縛りゆく、縛りゆかれる。 とるにたらぬもの。 とるにたるものならばこの網に囚われまい」
0089の動きが止まる。
……私も始めてだッ! 言葉を介在する純然たる魔術を使うのは!
この手の魔術を使うものは、純粋な魔術師か、強大な、人の天敵だけ。
目の前の見えない網に絡みとられた0089は、口を阿呆のように開き、それでいて尚、私の足を舐めようと機会を窺がっている。
「苦しみ、苦しみ。 苦しみの網。 その網は絡み取ったもの全てに……」
地面に叩きつけられる0089。
次の瞬間には天井を穿ち、柱を粉にし、壁と言うを朱に染めた。
苦しみ、苦しみ、体中に出血をする。
「止まれや、止まれ。 時は止まれ、そなたは美しい。 止まれ止まれ。 我が怨敵の時よ止まれ」
普段ならば回復する怪我は、治らない。
苦痛も止まらない。
「謝罪するか?」
虫の息相手に言う。
「謝罪するか?」
「……だ、誰が……」
「苦しみ、苦しみ……苦しみの網、その網は絡み取ったもの全てに苦痛をもたらす。 敗北と言う名の苦痛を」
頭蓋に見えぬ圧力をかける。
今にも潰れそうな表情。
本当に潰れはしないが、この苦痛は苦渋の四十年の中の1種類の拷問に匹敵する。
それに加え、私はこの女の頭をふんずける。
一体何の声なのか、苦しみに喘ぐ声なのか、よくわからない叫び声が当たりを反響する。
指を一旦ならし、すべての苦痛を取り除く。
「これで言いやすくなったろう? 謝罪と、請願の言葉は?」
涙と、鼻水が溢れる顔を私の顔に向い合わせる。
「ずず、ずみません……ゆるじてください……」
力に屈服したか。
ただこの苦痛から逃れたく、屈服した。
信仰心とプライドを私の力が勝ったのだ。
「動け、動け。 そして時は動き出すのだ。 煉獄に投げだせ。 焦熱の世界へ投げ出すのだ」
0089の時は動き出し、再びキズと気高さの回復がなされていく。
勿論、それは遊ぶ為。
更なるキズをつけるための、慈悲なき処置。
「それで? お願いは?」
地面に放り投げる。
ぐったりと横になり、力がまるで入らぬ彼女の戦闘服を一文字の切り目をいれる。
その際、抵抗はまったくされず、ズボンの前からは少し残っていた尿が零れた。
ゆっくりと瓦礫の一つに腰を降ろし、彼女を私の膝に座らせる。
耳元で何をいえばいいのかを教えてやり、左手は彼女の豊かな胸に添え、右手は彼女の秘所に当てた。
「ひゃうっ!?」
新鮮な感触。
胸は柔らかく、秘所はしとどに濡れていたせいか、暖かい。
「ほら、どうした? お願いは?」
クチュリと音を立て、体液が膝を濡らす。
「あっ、ああっ……い、偉大なるバウンダー様……偉大なるバウンダー様。 ど、どうかこの賤しき、ば、売女に……貴方様の高貴にして気品溢れる……お、お、お、お、お足を、な、なめ、なめさ、舐めさせてくださいませ、お願いします」
指を激しく動かす。
左手はその桜色の山の登頂をつまみ、右手は裂け目を往復する。
涎が垂れ、身をよじる快感も昂ぶってきている。
「足を舐めるのはもういい」
「そ、そんな……折角……折角言ったのに」
悔しみ、というか絶望に満ちた声で言う。
「それよりも、もっと面白いことをしろ。 それは……」
私は、小さな声で……よほど耳をこらさないと聞き漏らすような小さな声で言った。
足を舐めるための『お願い』の言葉を少しアレンジした、お願いの方法を。
「あっ、はぁあぁ! いやぁ、それだけはいや……お願いします。 お願いしますからッ、やめ……あんッ!!」
膝の上で跳ねる0089。
私の右手の人差し指は深くに入り込み、膣のひだをなで上げる。
それだけで、焼けつくような熱い息を口から漏らす。
「いやなの、それだけは……いや、いや、イク……イクうぅぅぅぅ!!!」
絶頂に立った……そんなわけはない。
暗示をこめているのだからイクはずはない。
左手と右手、両方の指の動きを止める。
結局、イクことはできないだけなのだが、0089は『快感が足りなかったからイケなかった』ととるだけだろう。
「え……あ? いや……」
「なんだ? 続けてほしかったのか?」
「そ、そうじゃ……ひゃうっ!」
息をついたタイミングを見計らい、再び膣に指を滑り込ませ、柔肉を抉る。
左手の指で乳頭をくりくりと刺激し、更に快感エネルギーを高めてやる。
「いやあぁ。 いやなの、いやなのにーーっ! イクッ! ああああーーーー」
そして再び手を止める。
既に完全に0089の体のキズは回復し、私を振り払うことが出来る。
そんなことに気付かないのか、はたまた気付く余裕すらないのか、指の動きに合わせて腰を振る0089。
だが、この程度では許さない。
私に牙を剥き、私を欲望を満たすための道具として見なかったことは許されない。
「いいか、早く言え。 私は気が短いと言っているだろう。 新たに得た力を使い、貴様をこの状態のまま永遠の闇の牢獄に閉じ込めておくこともできるんだぞ。 ……『苦渋の四十年間』……お前らが貞操を失ったときに行われる刑罰より遥かに辛いことが出来るのを覚えておけ。 救ってやるのは私の気がむいたときのみ、今を逃せば恩赦は数千年後が関の山。 オールオアナッシング。 さぁ、どちらを選ぶ?」
ここまで言われるのは流石に予想していなかったのだろうか。
腰の動きも止まり、息も止まる。
「……あと十秒だ。 十秒で言えなかった場合……お前は永遠に等しいときを苦しみに塗れて生きることになるぞ」
10
「…………」
9
「い、偉大なるバウンダーさ……ま」
8
「ど、どうか……この賤しく、そして淫らな……め、メスい、い、い、メスイヌに……」
7
6
「あ、貴方様の高貴にして、剛直……そ、そして……逞しく……天にそそそそそそそそりたつ……」
5
4
大いなる闇が現れる。
その闇は私と0089の前方上空、大体数メートルの位置に直径2メートルほどの球となってあらわれた。
それは永久の牢獄。
中に居るものを永久に生かす。
不死の生物は……人間でさえ現代の技術と古代の魔術の複合技術で裏の人間で限定であれども不死を手に入れた今の時代ではあるが、闇に囚われた……入ったときの状態を保った不死は……地獄だ。
故に、これを私は『大いなる闇』と名をつけた。
「ひっ!! ひぃぃぃ!!!」
「続けろ、あと三秒しかないぞ」
「に、に、に、に、に、ペニス……を」
「誰がそんなことを教えた。 『ペニス』ではない他の言い方があったろう。 余程あの闇に飲まれたいようだな」
「お、おちんちんを」
「死にたいか? 貴様」
「ち、ちんぽを私のおまんこにつっこんでぇぇーっ!」
息をぜぇぜぇと吐き出す0089。
妙な達成感が脳に沸いてきたが、何を勘違いしているのだろう、この女は。
「やはり死にたいか、貴様。 『お願いします』が抜けているだろう?」
既に十秒は経っている。
大いなる闇は流石に消したが、ペナルティは科さねばならない。
もう二度と逃げられることもないだろうが、ペナルティを科せねば。
「仕方がない、ここらへんで我慢してやろう」
「あ、はっ、ありがとう、ありがとうございますーーっ!」
「だが、先に後ろにいれることにしよう」
私の服を消す。
現れたのは自分でも惚れ惚れするほどの肉棒。
肉体操作を全くいれず、ダイアモンドのように固く、地獄の釜のように熱く、世界蛇のように長い。
それを、0089の排泄用の穴にねじ込んだ。
「あっ、ががああああああぁあああああ! そこ違ふっ! そこーーーっ!!!!」
出血しようがお構いなしの挿入。
荒々しい動きで尻の穴が少し裂けた。
全てが収まったとき、0089は泡を吹いていた。
「どうだ? 私の方は少々しめつけが強すぎて不快なのだが、お前は気持ちよいか?」
「ああ、あああああ。 抜いて、抜いてーーーっ! 死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬーーっ!!!」
「そうか、あまり気持ちよくないか。 両者とも意見の一致があったわけか。 では抜こう」
ずるずると引き抜く。
尻穴の肉が捲れあがり、血と腸液を吐き出している。
相当の痛みがあったのだろう、泡を吐き、舌を出し、口をパクパクさせている。
それを見下しつつ、我が剛直の狙いを変えた。
「……ほれ、お前の望んでいた通りの行為だ」
思いっきり腰を掴み、背後から突き上げるように秘所に肉棒をねじ込んだ。
「あああああああーーーっ!! 死ぬ、しぬ、今度こそ死ぬっ!?」
処女膜のほんのささやかな抵抗も無視した。
暖かい膣内を往復する肉棒。
苦痛に顔を歪める0089の思考に魔術をすり込ませ、痛みを快感に変換するように操作した。
「あああっ!? あ? ああ、ああっ。 ああああーーーっ!!」
腰を上下に往復させる0089。
今頭の中にあるのは純然たる快楽を求める心。
0089の体の向きを変え、向かい合うような体勢にする。
「……も、もうちょっと……優しく……」
「すまんな、私は野獣。 私は化け物。 優しくなどは出来ないのだよ」
中ほどまで埋没していた剛直を出し入れする。
膣内の襞が私の剛直の先端を刺激し、この上ない快感を。
そして、この女はそれ以上の快楽を。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ」
規則正しく母音を繰り返し言い続ける0089。
涙、鼻水、涎、尿に膣分泌液、それらが交じり合った液体が地面に広がっていく。
「あん、あん、あん、ううっ、あん、ううっ」
喘ぎ声を聞きながら、子宮口にコツリコツリと接触するのを続ける。
「いい……具合だ……」
締めつけは極上。
ぞわりぞわりとなで上げ、いい感じである。
「そろそろ、出すぞ」
「いやっ、中は……中だけは……ああああっ」
膣内で爆発する我が分身。
膣からは白い液体が溢れ出ている。
「……あ。 ああ……汚され……ちゃ……った……」
汚されたとはお言葉だ。
だが、私はここまでに留まるわけはいかない。
「さて、もう一度するぞ。 お前もまだオルガスムを体験してないだろうに」
……さて、面白い効果がある。
暗示のすり込みの中に、一つだけ、まだ未発動のものがあった。
極シンプル、極々シンプル。
『私の精液を得るごとに私から与えられた快楽を忘れられなくなる』
要するに、私と繋がれば繋がるほど私に繋がりたくなるのだ。
「ふぁい……」
とろんととろけたような瞳でこくりと頷く0089。
不意に、コイツに新しい名を授けようと思った。
「ハードウェザー、ハードウェザーだ。 お前の名はハードウェザー。 困難と言う意味の名をお前にやろう」
「あ、ありがとうございまふゅ……」
再び、白く濁った密やかな裂け目に、私の熱く滾った棒をさしこみ入れる。
「ああん……いひっ、いいいぃ……」
感謝の言葉は、私が名を授けた事に言ったのか、それとも快感を貪るための性交をしてもらったなのからか。
どちらでもいいことか。
「ひっ、いいっ、うううあっ、ああああああっっ。 イク、イクッ、ううううううーーーー」
「……もう一度、出そう」
子宮に叩きつける精液。
どの程度一回の射精で暗示が進行するのかは指定しなかった。
「……あ、あはぁ……まだ、わたし……イってないのに……ねぇ、もっと」
知らぬことは良きことだ。
知ってから、恐怖することになるのだからな。
それまでは貪欲に体を貪っているがいい。
「……あふぅ……」
柱に手を突き、腰を上げるように立つハードウェザー。
「では、行こうか。 ハーディ」
強く、強く突き上げる。
快楽に身を躍らせ、まだイってない、その一言でアリ地獄にはまるハードウェザー、ハーディ。
「あああっ……もっと、もっとぉ!!」
何度中に欲望を吐き出したのだろうか、だがハーディの満足のいく結果には至らない。
「……もうお終いだ。 お前が従僕になる際の褒美分を行った。 今度は、私に奉仕し、そして性交をねだれ」
「え……? そ、そんな……」
「だが、安心しろ。 お前、私が捕らえていた女の事を知っているな?」
「あ、あの……金髪のですか?」
「そう。 そいつが逃げたのだ、捕らえてこい。 捕らえてきたら、一晩付き合ってやろう」
パアアと明るくなるハーディ。
「……では行け。 ハードウェザー。 ヴァンパイア、ハードウェザー」
「は、はいっ!」
ハーディはこの上なく希望に満ち溢れた顔をする。
次の瞬間、姿が見えなくなる。
「……ククク、ヴァンパイアと聞いて何も反応をしなかった。 中々頭のいい子供だ。 ……ただ、理解していないだけなのかもしれないがな」
今頃、あの女を捕らえているだろう。
人間と夜のヴァンパイア。
どちらが足が早いかと聞かれたら、カメとチーターほどの差があると答えることができるだろう。
「さて……」
パチンと指を鳴らす。
この指の音は、スイッチのオフのこと。
ハーディの血を吸って、ハーディに最初にかけた暗示の解除の合図。
私の交わりでイクはずだったものが解放され、今頃、ハーディは連続でオルガスムを迎えているだろう。
少なく見積もって、おおよそ数十回の絶頂に立っている事だろう。
私はこの闇の中で静かにハーディが、人前で派手に愛液を撒き散らし、顔を赤らめているのを想像し、笑っていた。
< 続く >
後書き
だはー、今回はなんとかエロシーンを挿入できました。
0089ちゃんはハードウェザーという名になって、ヴァンパイア化~、隷属化~です。
MC要素を出来るだけ取り入れようと、『私』の策略。
色々ミスってたりしますが、なんとなく上手くやっているような感じです。
処女の血を吸ったことで大幅パワーアップしましたし、今後も更に強力になって美女達をマインドコントロールしていくことでしょう。
次回は、パツキン巨乳美女っすよ、色白っすよ。
しかも、ハードウェザー略してハーディがいもずる式っすよ(謎)
そして、あのヴァンパイアハンターだったコード1345がッ!?
多重人格者の弊害がッ!
苦悩しながら美女を抱いてしまうおぼっちゃん元『コード1345』、今『バウンダー』がッ!!
よろしければお楽しみに~♪
オマケ話
ほんのちょっとだけ出てきただけの『ハードウェザー』という名前。
実は0089→00『八苦』→四苦『八苦』→困難→ハードウェザーという流れで決定しました。
たまたまハードウェザーという名前にしたのですが、最近になってジョジョ六部にも同じ名前が出ていたりしました。
まぁ、全く関係のない話ですが、オマケ話は今後ともこんな感じでお送りしたいと思いまーす。
< 続く >