ビヨンド 第一話 紅き瞳の超越者

プロローグ

『ギャアアアアアアアア!』
 獣の咆哮が深夜の廃工場に鳴り響いた。正確には悲鳴だ。
 私は少し距離を置いてその光景を見ていたが・・・この世の光景とは思えなかった。それほど現実とかけ離れた光景である。
 3メートルはあろうかという体躯の『化け物』が二人の男に突進している。赤銅色の肌が夜の闇に反して輝き、額から生えた牛角のような長い突起は前方にいる『標的』の心臓を狙っていた。化け物の怒号が場の空気を震わせる。
『ガアアアアアアア!!』
 しかし、化け物の渾身の一撃はあっさりと避けられた。動きを予測した二人は素早く死角に回りこむと、手にした銃で急所を狙い打つ。今度は右眼と左脚だった。
『ガッ!』
 化け物は体勢を崩しつまずくと、そのまま積んであった鉄材に激突して動きを止める。最初に左眼に脇腹を潰されているため、勝負は決していたようなものだった。
『ガッ・・・貴様ラ・・・一体・・・何者ダ・・・』
 目の前にいる異形のモノが、声を震わせてそんな事を言っている。全身血まみれで息も絶え絶え、死を待つばかりという異形の存在はとても弱弱しく見えた。
 そんな事も意に介さず、私の目の前にいる二人は銃の照準を標的の眉間から逸らさない。
『タ・・・助ケテ・・・』
 数瞬後、銃声が鳴り響き廃工場は再び夜の静けさに包まれた。
「任務完了・・・だな」
「ああ。お嬢さんも勉強になったかな」
 目の前にいる二人は銃を下ろし、私のほうを向いた。改めて顔を見たけど、二人ともかなり若い。組織の中でも正規の構成員ではなく、準構成員扱いの二人だが、実力を見る限りは正規の構成員と何ら遜色がない。
「どうした?間近で戦いを見るのは初めてか、ええと・・・」
「『姫木 純』です」
「ああ、純さんだったな。どうだいデータ取りに役に立ったかい?」
「ええ。藤さんから『勉強して来い!』って言われたんですけど・・・正直、怖かったというのが感想です」
 二人はそんな私の顔を見て、笑い出した。何か可笑しかっただろうか?
「フフフッ、そうか、そうだろうな・・・でも、自分の職場のことはよく知っておいた方がいいとオレたちも思うぜ。でないと死ぬ・・・相手が相手だからな」
 言って左にいる『進藤』が足下の物言わぬ肉塊をコツンと蹴った。
「その通り・・・さて仕事も終わったし、祝杯を挙げるか・・・純ちゃんのオゴリで」
 そんなことを右にいる男性『謙一』が言っている。
 気楽なものだ、と私は思う。いくら装備が充実していても・・・人間の常識範疇を超えた『化け物』相手によくそんな気楽になれるものだ。先輩たちもそうだが、私には少し理解できなかった。
「お誘いはありがたいのですが、明日も仕事なので失礼します」
 無愛想に拒否することにした。二人とも私の好みのタイプではない、そして何より眠いのだ。ここ数日、まともに睡眠をとっていないのだから当然だ。ぐっすりと安眠することを今の私は欲している。私は二人に背を向けて、出口に向かって歩き出した。
「そんなつれないコト言わずにさ・・・」
「そうそう、勝利の祝杯を一緒に祝おうって・・・」
 私は少しうんざりしていた。初対面の男たちと組んで仕事をさせられ、そのうえ飲みに行く理由は私にはない。たとえ残業特別手当をもらっても御免である。
 私の自由を束縛する権利は後ろの二人には無い。でも、こんな風に異性を避けるような態度をとってるから・・・彼氏もできないのかな。

『そうだよね♪』
「?」
 誰かが耳元で囁いたような気がして後ろを振り返った。 しかし、後ろには二人がいるだけで他の誰の姿も見当たらなかった。空耳だろうか?
 ・・・ふと奇妙なことに気づいた。先ほどまで騒々しいほどに話していた二人が、貝のように黙ってしまっているのだ。
「どうかしましたか?」
「「・・・・・・・・」」
 私が尋ねても何の返事もない・・・一言も発せずにただ立っているだけの二人が、ショーウィンドウのマネキン人形のような、それよりも生気がないような無機質なものを感じた。二人の瞳を覗き見ると、知性というか意思が感じられない濁った眼をしている。
「・・・進藤さん、謙一さん・・・聞いているんですか・・・」
 二人は何も答えない。ひどく違和感を感じる。肌が空気をさっきよりも冷たく感じ、無意識に汗が吹き出てきた。そのまま暗い空間を沈黙が支配する。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒイ!!!」
 沈黙を破ったのは二人の唇を割って出てきた笑い声だった。まるで狂ったように、いや狂っているとしか思えない常軌を逸した大音量の笑いだった。
 私は息を飲んだ。何が起こっているか理解できなかったが、本能がここから逃げるように警鐘を鳴らしていた。私は走り出そうとして足を踏み出した。しかし、後ろから何かが私の顔を覆った。覆っているのは誰かの手のようだった、ずいぶんと小さい。
「ヒッ!」
「だ~れだ♪」
 楽しそうな声が背後から聞こえてきた。私はその小さい手を振りほどくと、上着の内ポケットから銃を取り出し、前方にいるモノに突きつけた。
「えっ?」
 そこに立っていたのは、一人の少女だった。かわいらしいフリルのついた黒いドレスを纏い、黒い髪をなびかせながら闇に溶け込むかのように私の前に立っていた。闇に映える白い肌と血のように紅く美しい瞳が、神秘的な雰囲気を醸し出していた。少女は私を見ながらニコニコと無邪気に笑っていた。 敵意の感じられないその笑顔に思わず銃を下ろしてしまう。
「あなたは一体?」
「キミの敵だよ、て・き・・・キャハハハハッ♪」
 少女が私を見つめる。少女の紅い瞳と私の目が合った。
 ・・・なんて美しい瞳なんだろうと思ってしまう。あれ・・・何だろう?何だか瞳を見つめてると身体がフワってなって、ああ・・・気持ちいい。何だろう。心が安らぐような・・・タマシイが溶けていくような・・・ココロが・・・コ・・・コ・・・ロ・・・ああ・・・私って何だっけ。私は・・・
「あの二人みたいに壊さないよ、でも気持ちいいでしょ、支配されるのは♪キミは直接手を下していないようだから、殺さないであげるよ。よかったね♪」
「・・・・・・はい」
 私は・・・私・・・わ・・・た・・・・・・

「でも、あの二人は殺すけどね♪さて・・・」
 心を支配され立ち尽くす純の姿に満足すると、少女は振り向いて、後ろにいる二人の男を一瞥する。
 男たちは壊れたラジオのように狂気の笑いを繰り返していた。口の端が裂け、血泡を吐きながらそれでも笑い続けている。汚いものを見るように少女はため息をついた。
「ハァ、人間って脆い生き物だな。こんなヤツラに殺されるなんて『ミノタウロス』も可哀想に」
「ヒャハハハァァァ、ヒヒ・・・女ッ・・・ヒヒヒヒ」
「ハヒャヒャハハハ・・・オンナ・・・・」
 進藤と謙一が少女に触れようと近寄ってきた。そんな二人を少女は憎悪のこもった冷たい眼で睨みつけた。紅い瞳がさらに輝きを増す。
「砕けろ」
 その言葉と同時に進藤と謙一の身体に無数の亀裂が生じる。そして、乾いた音を立てながら足元から砂のようにぼろぼろ崩れ落ちる。
「ヒ・・・ヒ・・・」
 頭だけが地に落ち、しばらく唇が動いていたが少女がソレを踏み砕いて黙らせた。あとには砂が床に散っているだけで、二人の人間は完全にその存在を消し去られてしまった。
 少女は奥で二人に殺された『仲間』の亡骸を見やる。
「ごめんね。償いはさせるから・・・安心して眠って」
 そのまま慈しむような優しい瞳で亡骸を見つめる少女。そのまま、身体に亀裂が入り砂のように崩れていった。
 少女は空で十字を切ると、呆然と立ち尽くす少女のほうに近寄っていった。
「後片付け完了っと・・・あなたの名前は?」
「はい・・・姫木・・・純…と言います」
「ふぅん、何かの組織に所属してるんでしょ?」
「はい・・・」
「じゃあ、ちょっと来て♪」
「はい・・・」
 少女に促されるまま、純は工場を後にした。夜風に舞い上げられた砂が飛んでいくと、今度こそ工場は静かになった。

第一話 紅き瞳の超越者

 街を見下ろすかのように建てられたとある高級ホテルの最上階、特別室に二人の男女が座っていた。
 一人は赤を基調にした高級なーツを着こなしている女性で、年若いが落ち着いた雰囲気の女性だった。美しく凛とした顔立ちは美少女、もしくは美女に分類される。今はカタカタという音を立てて手元にあるノートパソコンで何か作業をしているところだった。
 もう一人は、女性と対照的に上下青のジャージを着込んだ男だった。長髪を後ろで束ねている精悍な雰囲気の青年だが、上下ジャージ姿が本来持つ雰囲気をだいぶ損なっていた。手にはカップやきそばを持ちズルズルと箸で口に運びながら、テレビ画面を見てケラケラよ笑っている。女性はともかく、男性は高級感あふれるこの部屋に明らかに似つかわしくない存在であった。
「うるさいよ、『キマイラ』。テレビは静かに見ろ。そして、モノを食べながらテレビを見るな。常識だぞ」
「別にいいだろ、『人間』の常識だ。オレに関係ねえよ」
「・・・『気が散る、黙れ』と言ったほうが分かりやすかったがこのバカ!」
「誰がバカだ。このペチャパイが!」
 女性は自分が一番気にしていることを指摘され顔を紅潮させる。
「な・・・キサマ、私の唯一の恥部を・・・もう許さん、この場で消してやる!」
「上等だ、このアマ!白黒つけてやるぜ!」
 立ち上がった二人が掴みかかろうとしたその瞬間だった。
「は~い、ストップ」
 二人の痴話喧嘩を誰かが横から制止した。
「あら、姉さん。お帰りなさい。ん?」
 女性は少女が帰ってきたのを見て、無愛想な態度から一転して上機嫌になった。しかし、視線は少女の隣にいる闖入者に向いた。
「『メデューサ』、ずいぶん遅かったな。どうかしたか・・・ん?」
 キマイラと呼ばれた男もメデューサと呼んだ少女の隣にいる見慣れない顔に戸惑いを覚えた。 若い女性で服装は少し地味だが、磨けば光る潜在的な魅力をもった女性だった。名前を姫木 純という。しかし、今は虚ろな眼をしたただの人形に過ぎないのだが。
 キマイラはメデューサの頭をポンポン叩きながら、ニヤニヤと歯を見せて笑った。歯には食べていたカップやきそばの青海苔が大量にくっついていたため、見た目がさらにカッコ悪くなった。
「ほうほう、女連れとはスミに置けないねぇ、メデューサ」
「ちょ、姉さん。私というものがありながら何ですかこの女はっ!」
「落ち着いて『バシリスク』、そういうんじゃないから」
 メデューサがコホンと咳払いをした。雰囲気がさっきの穏やかな少女のものとは、反対の冷たいものへと変化した。
「ミノタウロスが殺された」
「「!」」
 二人は顔を見合わせて言葉を失っている。
「『アルゴス』が知らせてくれたんだが、駆けつけた時にはもう・・・」
「・・・殺ったのはこの女か?」
 メデューサがうなずくと同時に、キマイラが純に殴りかかった。
「待て」
 寸前で拳が止められる。キマイラは憎悪に満ちたギラギラした眼で純を睨みつけた。心を囚われている純は何の反応も示さなかったが、普通の人間が見たら気絶するであろう血に飢えた肉食獣のような形相であった。
「なぜ止める!殺させろ!」
「ダメだ」
「何故だ、憎くないのか、メデューサ!」
「・・・憎いさ。だから殺すな」
 よく見るとメデューサの頬には涙のあとがあった。それを見て、キマイラは拳を下ろした。
「この女を利用して、私たち『ビヨンド』を消そうとしている組織を潰す・・・その目的が達成されるまで生かしておけ」
「・・・わかった」
 キマイラはそう言って拳を引くと後ろに引っ込んだ。
「姉さん、この女が所属する組織って?」
「今から喋らせる」
 メデューサが紅い瞳を輝かせると、純は機械的な口調で話し始めた。
「私は姫木 純・・・ビヨンドを専門的に排除する組織『BDT(ビヨンド・デリート・チーム)』に所属する。私の任務は、主に諜報・分析で・・・」
 それから約30分間に渡り、純は自分ら人間の敵の前で自分の知る組織の機密を包み隠さず説明した。

 『ビヨンド』とは、人間という種を超越した様々な能力を持つ者たちの総称である。古来から人間の歴史の裏でひっそりと生きてきた彼らは、人よりも長命で各々異なった能力を備えている。彼らはお互いを想像上の魔物や悪魔などの名前(ネーム)で呼び合い、グループごとに生活している。
 ビヨンドは人を簡単に殺せるほど力をもっているが、好戦的な種族ではない。大部分の者は人に隠れて文化を楽しみながら気楽に生きているが、人間は異能力をもつ彼らを忌み嫌い排除しようと古くから戦いを仕掛けてくる。しかし、これまでの戦いは一人の死者も出さずにビヨンドが常に勝利してきた。
 ところが最近になって仲間が次々と人間の組織によって消されるという報告があり、世界各地に散らばっているビヨンドたちは謎の組織の情報集めなどに奔走していたところだった。そして、彼らはついに組織の手がかりを掴むことに成功した。

「・・・BDTねぇ。プロレス技かっての・・・くそ、ふざけやがって。何が排除だ。たかが人間の分際で!」
 キマイラが座っていたソファを宙に蹴り上げた。ソファは数回転すると、空中でバラバラに分解してしまった。
「ちょ、キマイラ!それ、私のソファ!」
 バシリスクの抗議も気にせず、キマイラは目に付いたモノ全てを蹴り上げた。数分後にはベットとテレビ以外まともに機能するものがない、高級家具の残骸にまみれた即席夢の島に模様替えされてしまった。
「あーーーーっ!ムカツク、クソッ!」
 キマイラは多少落ち着いたのか地面に腰を下ろす。部屋の惨状に組織がどうこうよりも今晩寝る場所が少なくなったことを嘆きながら、バシリスクは姉に尋ねた。
「姉さん、これからどうしますか?」
「そうだな、せっかくいいオモチャが手に入ったことだし・・・エッチな遊びしようかな♪」
 メデューサの雰囲気が冷たいものから無邪気な少女のものに戻った。その様子を見て、バシリスクはさらに頭を抱えた。
「姉さん、私がいるじゃないですか、こんな人間の娘なんて放っておきましょうよ」
 そう言ってバシリスクはメデューサを抱き寄せ、子供をあやすように頭を撫でた。何度も何度も撫で、首筋に唇をつけ舌を這わせる。
「え~、たまには違う人と遊びたいよ。そのためにここまで連れてきたんだもの」
「で、でも姉さん」
「・・・バシリスク、私が抱きたいんだ。文句があるのか?」
「姉さん、それ反則・・・」
 冷たく威圧感のある姉の言葉にバシリスクは渋々従わざるを得なかった。
「それに今日は力を使いすぎた。心を完全に喰らうことができない。だから、肉体に私の人形であるという証を残しておかないと、後々の計画に支障をきたしてしまう。バシリスク、賢いキミならば分かるだろう」
「・・・分かりましたよ、姉さん」
「よろしい♪」
 メデューサが瞳を紅く輝かせて、純を自分の前に招きよせた。

 『メデューサ』がもつ超越能力は『邪眼』である。これはメデューサの瞳を介して、対象物に干渉する力である。この力を使うことにより、対象の脳(というより魂そのもの)を支配して、相手の意思や肉体を操り人形のように自由に操作することが可能である。また、力を最大にすると生物の細胞に直に干渉して、アポトーシス(計画的な細胞の死)を引き起こし、相手の対組織を砂のように変化させ死滅させることができるなど攻撃方法としての威力も大きい。この能力ゆえにメデューサはビヨンドの中でも最上級能力者7人のうち1人として認定されている。
 しかし、力は無限でない。一日に使える回数は制限されており、ましてや今日は三体もの相手を死滅させるほどの力を使ってしまったため、純の魂を完全に支配することはできなかった。そのため、今日のところは身体に快楽を覚えこませ、次段階の準備を済ませようという魂胆である。

「純、私の眼を見て」
「はい・・・」
「あなたは処女でそれをすごく気にしているんでしょう。でも、大丈夫、お姉さんがキミを女にしてあげるから♪」
「はい・・・よろしくお願いします」
 純は自分の前にいる少女の前でゆっくりと衣服を脱いでいく。服をすべて脱ぎ終えた純は、メデューサのまえに一糸まとわぬ生まれたままの姿を晒した。白い肌が照明の淡い光に照らされ、艶やかに映えている。
「思ったよりもキレイな肢体ね♪お姉さんはとっても優しいからこれから初めてでも痛くない魔法をかけてあげるよ♪」
 にっこりと微笑むとメデューサは邪眼の力を強める。ビヨンドは異能力を持っているということ以外にも人間と比べ決定的に違うところがある。それは生殖である。人間とビヨンドが性行為をする場合には下準備が必要だ。ビヨンドは遺伝子が人間と異なり強靭なため、血や精液が人間の体内(胎内)に入ると、拒否反応を起こして人間が発狂死にする。そのため、人間と性行為をする場合は何らかの方法で拒否反応を抑えるしかないのだ。
 これから道具として利用する純を壊さないようにメデューサは邪眼の余力で、純の身体に干渉して拒否反応を抑えているのだ。それと同時に肉体に快楽を効果的に覚えさせるため、痛みも快感に変わるように干渉を施した。
「・・・ぱらさぱらさのしおしのぴりりんこ・・・っと、これで大丈夫♪あ、そうそう、せっかくの処女喪失なんだからやっぱり意識は戻しておかないとね。絶望にゆがんだ顔とか見たいし、心からの快楽の叫びも聞きたいしね♪」
 メデューサは小悪魔めいた微笑みとともに瞳を輝かせた。一瞬、純の身体が震えると、純の表情が人形めいたものから生気のある人間の表情に戻っていった。
「ん・・・あれここは?な、何で私が裸に?」
「アハハ、気づいたみたいだね♪」
「あ、あなたは確か・・・廃工場で出会った」
「そうで~す♪そういえば自己紹介がまだだったね♪・・・私はビヨンドを統べる長『7つの方舟(セブンアーク)』が一人、『邪眼姫』メデューサ。ようこそBDTのお嬢さん」
 メデューサは紅い瞳を冷たく光らせながら、優雅に一礼した。その優雅な仕草に、純は思わず見蕩れてしまった。
「なぜBDTのことを・・・」
「さあ、何故かしら。誰かさんが色々と話してくれたわ。構成人数は10人であるとか、本部が都心某所にあるとか、あと・・・姫木 純は男性経験のないお子ちゃまです、とかね」
 純はそれを聞き、身体をびくりと震わせる。怯え蒼くなっているその表情に満足すると、メデューサは純の肢体に顔を近づけ乳首をペロリと舐めた。
「ひゃん!」
「かわいい声で啼くのね。肌もきめ細かいし、いいにおいがする」
 そのままメデューサは純の胸にうずまるように、口で乳首をしゃぶりながら、左手でもう片方の乳首を弄り、左手で尻を丹念に撫で回した。 
「はぁん、ひゃ、ふぅぅん。な、何・・・やめ・・・ひっ!」
 メデューサはおもむろに左手の爪を立て、左乳首をちぎれるぐらいの力で引っ張った。爪が食い込んだ箇所から血が出ている。
「ひゃああああッ!」
 純は甲高い声を上げた。刺激で軽くイッたようである。メデューサは責めの手を休めず、純の身体の隅々まで弄んでいった。
「ふぅん、な、何で乳首抓(つね)られてこんな気持ちイイの、くふぅん」
「それはね♪今の純ちゃんは痛みのほうが気持ちよくなれるヘンタイさんの身体になってるからだよ♪たぶん腕とか脚とか首とか斬り落とされたらキモチよくなりすぎて死んじゃうかも、あっ、普通に首とか斬ったら死んじゃうか♪」
 メデューサはクスクスと笑いながら、襲ってくる快感に呆ける純の髪を撫でる。
「そんなに怖がらなくてもいいよ♪お姉さんは優しいし、『モノ』を大事にする娘だからそんな残虐なことしないよ・・・例え、キミが私の仲間を殺す組織の人間でも・・・ね♪」
「ひっ!」
 無邪気な表情のまま、恐ろしいことをサラリという少女に純は恐怖を覚えた。
「ひゃ、はぅん。ひっ、あぁん、いや、うぅん、気持ちいいの、ふぅん、止まらな、いぃ、あぁぁん」
「純ちゃん、キモチよくなってきたみたいだね♪お股からエッチなおつゆがタラタラ零れてきているよ」
 メデューサは溢れ出た愛液を指ですくってペロっと舌先で舐める。傍目から見るとかわいらしい仕草も、この状況ではひどく淫靡に見えた。
「うん、おいしい♪さあて、準備もできたようだし、本日のハイライトいってみよっか♪」
 メデューサは楽しそうに言うと、ゆっくりと自分の黒いドレスを足下からめくり上げた。すると、ドレススカートの中には天を仰いで屹立している逞しい男性器があった。かわいらしい少女にそぐわない剛直からは先走りの汁が滲み出ており、早く獲物を貫きたくて待ちきれないようだ。
「さあて純ちゃん、オンナになる時が来ましたよ♪」
「ひゃん、い、いやぁ。い、挿入(いれ)ないで・・・ひゃぁん、くぅん」
「だ~め♪純ちゃんの家族にお赤飯炊いて後で送ってあげるから・・・安心して処女を散らしなさい」
 ・・・ズブリ!
「ひゃぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
 何の前触れもなく純の秘所に、メデューサの肉棒が挿しこまれた。その瞬間、純の口から獣じみた悲鳴が響き渡った。しかし、苦痛による悲鳴ではなく、むしろ気が狂うほどの快感によって出された叫びであった。
 ズプ、ヌプリ、ズプジュプジュプジュプ
 処女膜を一息に破り、破瓜の血に濡れた肉棒の感触を楽しみながら、メデューサは小気味よいリズムで腰を動かし純の膣内を抉るように肉棒の挿入を繰り返した。
「ひゃあ、ひゃ、ひゃみぇ。あ、あたま、あたまがしびれる、おかしく、ひゃん、なりゅ、ひっ、ひゃん」
 強烈な快感のため、破瓜の痛みなど微塵も感じないまま、純は自分の身体に渦のように巻き起こる快感に蝕まれていった。
「ひっやぁぁぁ、ふぅん、いいんっ、ひ、ひもひぃぃ」
 口から涎を垂らし、目はうつろで焦点がどこにも合っていない。しかし、顔は先ほどまで浮かべていた恐怖の表情から快楽に悦びを感じているオンナの表情へ変化していった。
「ひもひぃぃ、ひもひぃぃよぉ!」
「う~ん、キモチいい。けっこうイイ具合だね、純ちゃん♪これからいろいろ仕込みがいありそうってカンジで♪・・・キマイラ、良かったら後ろの穴を使ってみなさい。放置プレイも飽きたでしょ?」
 怒りで地面に腰を下ろし仏頂面で、純の痴態を見ていたキマイラは、それを聞いて立ち上がった。
「・・・そうするか、最近、オンナも抱いてなかったし・・・お相伴にあずかるとするぜ!」
 キマイラはジャージを下ろすとそのまま肉棒をさらした。キマイラの肉棒は通常男性のソレと異なり、側面にごつごつとした突起がついている異形のものであった。キマイラはそのまま肉棒を純のアナルにあてがい、そのまま勢いよく貫いた。
「ひゃあああぁぁぁぁ!お、おひりにも、ひゃぁぁ、なにひゃ、ひゃは、はいっへ。ひううぅぅぅん!」
 純は呂律の回らない口であえぎ声を上げながら、アナルに肉棒を挿入された刺激でまたイッてしまう。だが、余韻に浸る間もなく、二人の人外のモノたちは叩きつけるように激しく腰を動かしていく。
「ん、確かに思ったよりも上物だ」
「でしょ♪さあ、ガンガンいくよ」
 メデューサが言うよりも早くガシガシと腰をグラインドさせ、無造作に膣に刺激を与え、キマイラも負けじと激しく腰を動かす。
「おひり、おひりがあひゅいよぉぉ、まえも、ひゃうううん、とろけふぇ・・・」
 ぐちゅぐちゅと膣口から垂れ流された蜜が、床下に小さく水溜りをつくるほど純は感じていた。人の手では決して味わうことのできない快楽を、彼女は人ならざるモノたちの手で味合わされていた。
 次から次に襲ってくる未体験の快感に、純の身体は翻弄されるだけだった。一分、いや一秒ごとに襲ってくる魔楽に、純の身体と心はより深いところへと堕ちていった。
「ひゃは、いひぃひぅん、ひもひいぃ、もう、ひゃはは。あは、こわれりゅうぅぅぅよぉぉ」
 邪眼によってすべての刺激を快感として認識させられた純は精神が快感に耐えられなくなってきていた。意識が圧倒的快楽に崩壊の一歩手間まで追い詰められてきた。そして、そのときが来た・・・
 ・・・プツン
 純の中で何かが切れた。
「・・・ひゃは♪あはは♪ひもひいぃ♪オマ○コじゅぽじゅぽ、おひりも・・・あはは♪もっと、もっひょひて~」
 純は楽しそうに笑みを浮かべながら、自らも腰を動かし前と後ろの穴に意識を集中させ、より深い快楽を得ようと貪欲に身体を動かした。数時間まで処女であった娘はもうどこにもいない。いるのは淫乱に快楽を貪る一匹のメスであった。
「ひゃうん、じゅぼじゅぼもっひょ。もっひょ~♪じゅんのオマ○コじゅぼじゅぼ、いぴゃいひてぇ~♪」
「・・・おい、メデューサ。ちょっとヤバくねえか壊れてきてるぞ」
「んーっ、そろそろヤバいかな。さすがに壊したら元も子もないよね、じゃあ、フィニッシュにいきましょうか♪」
 二人は更に腰の動きを速めて、純の身体を頂上に向けて押し上げていった。
「ひゃぁぁ♪ひもひいいの、ひもひいぃのいっぱいひたぁ。ひゃうぅぅん、なにふぁくりゅの、オマ○コの奥からくりゅうよう♪」
「そろそろ純ちゃんも限界みたいだね。最後は身体が壊れるくらいに動かすから盛大にイキなさい♪」
「ひゃああぁぁ、ひぅん、イクよぉ♪じゅんイッちゃうよ~」
 ジュプジュプジュプジュプ!
「ひゃぁぁぁ、ひぅぅぅん、もうらめらぁ♪いくよぉ、イッっちゃうよぉぉ、ひゃぁぁぁ、イクっ!」
「くっ・・・!」
「うおっ!」
 純の最後の締め付けで攻めていた二人も絶頂に達した。純がそのまま糸の切れた人形のように動きを止め、床にズルリと倒れた。それを見届けた二人は、各々の肉棒を穴から出して、白濁した精液を純の肢体の上に降りかけた。大量の精液はビチャビチャと音を立てて、床に転がる純を覆っていく。さながら雪に包まれたように白く汚された純は、絶頂のショックで白目をむき半開きになった口からよだれを垂らしながら幸せそうに笑っていた。
「これで良し♪純ちゃんの身体はこの快感を覚えこんだから私たちにはもう逆らえないよ♪」
 メデューサは無邪気に笑いながら堕ちた少女を見つめるのであった。

「・・・ったく、何でオレがこんなことしなきゃならねえんだよ」
 キマイラはぶつくさ文句を言いながら街を歩いていた。時刻はあれから三時間後・・・すでに朝方近くで、見上げると空が白んでいるのが見えた。
 ビヨンドたちは純を弄んだあと、記憶と行為の痕を消して家に帰させた。メデューサは邪眼の使いすぎで、純に最後の暗示をかけた後すぐに寝てしまった。邪眼を回復させるには睡眠で肉体と精神を癒すしかない。最低でも二日は死んだように眠り続けるのだ。
 メデューサは眠る前に、キマイラとバシリスクにこれからの戦いのための準備をするように命じた。一つは仲間を呼ぶこと、もう一つは組織の動きを撹乱することである。バシリスクは前者、キマイラは後者の命令を遂行するために準備を始めたのだった。
「さあて・・・具体的にどうするかねぇ」
 キマイラは策を考えるのが苦手だった。根っからの肉体派である彼は、『霍乱』をどうやって行えばいいか全く分からなかった。
「ま、いいか。コンビニで立ち読みでもしながら考えるか」
 そのまま、キマイラが行きつけのコンビニに向かおうとしたその時だった。
「・・・ちょっと、待ちな」
 声に振り返ったキマイラの前に一人の女性が立っていた。背が高くバランスのよいスタイルは男を魅了するような理想的なものだった。しかし、獲物を見据える猛禽類のように鋭いまなざしが彼女を只者でないとキマイラに認識させる。言うならば百戦錬磨の狩人、キマイラは確かな殺気を感じて身構えた。
「・・・オレに何か用か?」
 今、周りには誰もいない。通行人も道行く車もない。この場所に存在するのはキマイラと見知らぬ女だけだった。
「お前、ビヨンドだろ?」
「・・・そうだと言ったら?」
「殺す」
 女性は左手に銃を握り、キマイラに向ける。
「クククッ・・・やれるもんなら・・・殺ってみな!」
 キマイラは牙を剥き、敵対者へ襲い掛かっていった。朝が訪れようとする街に、数発の銃声が響いた。

< つづく >

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