第24話「灰かぶりの憂鬱」
「まったく、なにをやってるんだい!」
「ああっ!」
少し年を召した女性に蹴りつけられた少女が、床に倒れ伏しました。
その蹴りつけた女性の横では、少女よりも少し年上の女性が、にやにやとその様子を楽しそうに眺めています。立っている二人は豪華なドレスに身を包んでいましたが、反対に少女の方はみすぼらしく、薄汚れた格好でした。
「満足に掃除もできないのかい、このグズ!」
「ですから、ちゃんと…」
「この私に口答えする気かい! 義理とはいえ母親に向かって!」
「い、いえ…」
理不尽な仕打ちを受けていても、少女は義母の剣幕に押され、怯えたように黙り込んでしまいました。
「ほんとバカなんだから。あなたのようなダメな子、生かしておいてあげてるだけでありがたいと思いなさいよ」
横にいた義母の娘、つまり少女の義姉があざけるように言いました。
「は、はい…。ありがとうございます…」
その冷たい言葉に少女は、か細く微かに震える声で、ただ単に従順の意志を伝える言葉を答えざるをえませんでした。そうすることしか、彼女には許されていないのです。
「いいこと、私たちは今からお城の舞踏会に行くから、帰ってくる前に掃除を終わらせておくのよ!」
追い討ちをかけるように義母は、少女に向かってきつく言いつけました。
そんな義母に、少女はこわごわと自らの願いを訴えようとしました。
「あ、あの…、私も舞踏会に…」
「あんたみたいなのを連れて行けるわけないじゃない。当家の恥を世間様にさらせ、とでも言うの? ああ恐ろしい子!」
しかし少女の控えめな願いは、義姉の嘲笑によってはねつけられました。
散々いたぶることで興味が失せたのか、二人は少女に一瞥をくれた後視線を外し、少女に背を向けて歩き始めました。
「相手しているだけで時間の無駄ね。もう行きましょう。表で馬車が待っているわ」
「ええお母様。今夜の舞踏会には王子様がいらっしゃいますもの。うまく見初めていただければ…」
「あなたには期待してるわよ…、ほほほほほ…」
楽しそうに、でも欲望むき出しで会話しながら去っていく義母と義姉を床にへたり込んだまま、少女は二人の後姿を見送りました。目にはうっすらと涙を浮かべて。
少女の名前はシンデレラ。ちょっとした名家に生まれ、子供の頃は優しい父親と忠実な使用人に囲まれて、幸せに暮らしていました。残念なことに、彼女が物心つく前に母親を亡くしてしまいましたが、それでも彼女は幸せでした。
しかし、彼女が美しく育ったある日、父親がある女性と再婚したことで彼女の運命は大きく変わりました。その女性にはシンデレラよりも少し年上の娘がいましたが、その美貌と振る舞いは十分に思慮深かった父親を虜にするには余りあるものでした。
新しい家族となった美しい母娘は、始めのうちはシンデレラとうまくやっていましたが、やがて間もなく父親が不慮の事故で亡くなると、ついに正体を表しました。二人は父の財産を目当てに近づいていたのです。
この二人にとって、財産を手に入れたからにはもうシンデレラは邪魔者でしかありませんでした。財産を全てシンデレラから奪い取った二人は、もう用済みとばかりに彼女に辛く当たるようになり、使用人よりもひどい扱いをするようになりました。シンデレラと親しかった使用人は次々と暇を出され、残っているのは義母や義姉に媚びへつらう者ばかりとなりました。シンデレラの味方になってくれる者は誰もいなくなってしまったのです。
こうしてシンデレラは、義母にいじめられ、義姉にあざ笑われ、使用人に冷たい目で見られる日々を送ることになったのです…。
(舞踏会…私も行きたかったな…)
シンデレラは心の中でぽつりとつぶやくと、身を起こしました。いつまでもこうして倒れたままでは、また帰ってきた義母にどやされかねません。
掃除道具を手にしながらシンデレラは、しかしそれでも舞踏会の光景を思い浮かべずにはいられませんでした。豪華な食事、華やかなドレス、きらびやかなダンスホール。そしてそこに現れる王子様を…。
「うーん、ひどいですの~」
「きゃあ!」
不意に見知らぬ少女の声がしたので、シンデレラは軽く悲鳴をあげました。
シンデレラのすぐそばには、いつの間にか見知らぬ女の子が、心配そうな顔をして腕を組んで考え込んでいました。長い髪を頭の両側で二つにまとめ、ピンク色の(この地方の常識ではへんてこに見える)服装をしていました。ついでに、肩には見たこともない猫のような動物が乗っています。
シンデレラは、呼吸を整えて気を落ち着かせてから女の子に聞きました。
「あ、あなたどこから入ってきたの…?」
「ああ、人間界の故事に暖炉から侵入する赤い服のおじいさんのお話があったので、それにならってみましたの。気にしないでほしいですの」
そう言われてみれば、確かに女の子の服や体のあちこちに煤の汚れが見えます。
「ええっと…、それよりも、あなた、誰?」
「申し遅れましたの~。私はヒプノっていいますの☆ 魔法少女をしていますの」
魔法!? シンデレラの頭の中に、ある噂が思い起こされました。みすぼらしい服を豪華なドレスに、カボチャとネズミを馬車に変える魔法を使う女性の話を。変な服装といい、きっとその噂の女性に違いないと思いました。しかし、噂ではその女性は老婆のはずでしたが…。
そんな細かいことは気にせず、シンデレラは目を輝かせて女の子に言いました。
「ということは、あなたは魔法が使えるのね! ドレスや馬車を出してくれるのね!」
「あ、そういうのは専門外ですの」
シンデレラの期待をあっさり打ち消すように、女の子は言いました。
内心がっかりしたシンデレラを前に、しかし、女の子はさらにこう付け加えました。
「でも、あのお母さんたちと仲良くすることはできますの」
「…えっ?」
思ってもみない方向に話が行ったので、シンデレラは思わず聞き返しました。
「さっきから窓の外で見させてもらいましたの。お姉さんはあんなひどいことされて嫌じゃないですの!?」
「それは…確かに嫌よ。でも、あんなにひどい人でも、亡くなったお父様が選んだ私の家族なんだし…。もちろん、仲良く暮らせるならその方がいいわ」
「なら決まりですの! ではヒプノはちょっと魔法をかけに行ってきますの~」
そう言うなり女の子は玄関の方へ駆けていき、あっという間にシンデレラの前から姿を消してしまいました。
「な、なんだったのかしら、あの子…」
後に残されたのは、呆然と立ちすくむシンデレラだけでした。
気を取り直したシンデレラは、ため息をつきながら、館の掃除の続きを始めました。
しばらく掃除を続けていると、外の方から慌しく馬車の音が聞こえてきました。義母たちが帰ってきたようです。シンデレラは少し憂鬱な気分になりましたが、帰ってくる時間が早すぎることに疑問を抱きました。舞踏会はこれから盛り上がる時間なのに、なぜ帰ってこられたのかしら…。忘れ物? それともまた私をいじめに…?
「シンデレラ! シンデレラはどこ!?」
遠くの方からヒステリックな義母の声がしてきました。こういう場合、速やかに参上しないとひどい目に遭うことはわかりきっているので、
「お母様! ここにいます!」
と叫んでから、なるべく義母との距離を縮められるように小走りに急ぎました。
シンデレラの心の中でどんどん不安が増していきます。またどんな難癖をつけられるのだろう、どんな仕打ちを受けるのだろう、と。
やがて、視界の中に義母と義姉が映りました。向こうもシンデレラの姿を見つけた途端、物凄い勢いでスカートの裾をつまんで駆け寄ってきます。
至近距離にまでやってきた二人は、息を切らせ、目は燃え盛るかのようにらんらんと光っていました。その視線だけで、シンデレラは気おされるものを感じました。
そして、義母が口を開きました。
「シンデレラ!」
「は、はい…」
いつもの習性で、びくっとシンデレラは身を震わせました。
永遠のような一瞬の沈黙の後、義母は再び口を開きました。
「おお、シンデレラ…」
今までとは全く違う、慈しむような声で。
「はっ、はいぃ!?」
あまりの変化に硬直しながら戸惑うシンデレラを、義母はきつく抱きしめました。
「ごめんなさいね…。あなたを置いて舞踏会に行くだなんて。私たちが愚かだったわ…。寂しかったでしょう?」
「え、えっと、あの、お、お母様?」
「そうよ、私たちがバカだったのよ。あなたなしでは生きられないのは私たちの方だったのに、こんな姉を許してちょうだい…」
義母の豹変振りに戸惑うシンデレラの背後から、義姉のすがるような声が聞こえました。やはり義姉もぎゅっとシンデレラを抱きしめてきます。
「あ、あの、お母様、お姉様、ちょ、ちょっと離れて…!」
前から後ろからだんだん熱を帯びてくる抱擁に耐え切れずに、シンデレラは力の限りを尽くして二人を体から引き剥がしました。
すると、二人はこの世の終わりが来たかのような悲壮な顔をしているではありませんか。
「ああ、やっぱり怒っているのね…。許して、と言っても許してくれないようなことをしてしまったのね…。ああ…」
「お願い、シンデレラ! ぶっても蹴ってもいいから、好きなだけ罰は受けるから、どうか嫌わないで…!」
さめざめと泣き始めてしまった二人を見てとまどうシンデレラの脳裏に、あの魔法少女と名乗った女の子のことが思い起こされました。
(やっぱり、あの子の魔法のおかげかしら…。でも、これはこれでちょっと変なような…)
しかし、考えてみてももうあの子はここにはいません。あの子がかけた魔法なら、あの子にしか解くことはできないでしょう。シンデレラはひとまず、二人を落ち着かせることにしました。
「あの…、怒ってませんし殴ったりもしませんから、どうか泣き止んで…」
「まあ聞いたかい。こんな私たちを許してくれるなんて。まるで女神様のようじゃないか…」
「ええお母様。ああシンデレラ、もうあなたを一人にはしないわ…」
シンデレラが許しの言葉をかけた途端、二人の表情はぱあっと晴れやかなようになりました。おまけにうっとりとした表情で彼女を見ています。シンデレラとしては、あまりのギャップに急には受け入れきれない態度と表情なのですが、以前と比べれば数万倍ましだと思うことにしました。
そんなシンデレラに、義母がふと言葉をかけました。
「それはそうとシンデレラ、どうしてあなたはそんな格好をしているのかしら」
「…えっ? 私の服、これしかないですし…」
育ちがいいので、あんたがみんな盗っていったじゃないか、とはさすがに言わないシンデレラでした。
そこへ義姉が真剣な表情で声をかけました。
「いけないわシンデレラ。これではあなたの美しさが台無しよ。お母様、私が昔着ていた服がまだあるはずだから、それを着せてあげましょうよ」
「いい考えね。でもお古では申し訳ないから、明日朝一番で仕立て屋を呼んで新しい服ををこしらえさせましょう。シンデレラのためなら、お金はいくら使っても構わないわ」
「そういたしましょう、お母様。ああ、こんなボロを着ていてもシンデレラは美しいのだから、ちゃんと仕立てれば…考えただけで、もう…」
「いや、あの、私、お古で結構ですので…」
シンデレラ、と一言口にするたびにどんどん陶然としていく二人の様子に、彼女自身は困惑を隠せませんでした。
しかし、シンデレラの控えめな遠慮の言葉は、あっさりと二人によって無視されました。まるで恋心にうかされて周囲が見えなくなった乙女のように。
「遠慮しなくてもいいのよ、私の愛しいシンデレラ。さあさっそく服を見繕うわよ」
「ええお母様。さあ参りましょう、愛する妹シンデレラ」
「え、あの、お母様、お姉様、ちょっと…。ああっ、引っ張らないでください~!」
二人によって強引に衣裳部屋に引きずられていったシンデレラは、そこであっという間に身にまとっていたボロを下着もろとも引き剥がされてしまいました。同性とはいえ、妙に興奮している二人に肌をさらすのが恥ずかしく、シンデレラは胸元と股間を隠しながら身を縮めて懇願しました。
「あの、一人で着替えられますから、大丈夫ですから…!」
「いいえ、手伝わせてちょうだい。あなたにふさわしい服を見繕ってあげるから…」
「そうよ、一夜限りでも最高の服を選んであげるわ…、うふふ…」
色とりどりの服を手にし、じりじりと迫ってくる二人のプレッシャーに押され、シンデレラはやがて衣裳部屋の角に追い込まれてしまいました。二人の視線はシンデレラを必要以上に熱を帯び、鼻息もどこか荒くなっていました。シンデレラはおかしすぎる二人の様子に、ちょっとした恐怖感すら感じるようになりました。
そして数秒間の沈黙の後、義姉がどこか赤らんだ表情で言いました。
「お母様…、シンデレラを見ていたら、私、何か変な気分に…」
「…え?」
「私もよ…、この胸の高鳴り、ときめき、もう止められないわ…」
「…あの、お母様、お姉様、お、お気を確かに…」
シンデレラは額に嫌な汗をかきながら、二人を静止しようと思わず両手を前に出しました。当然、隠されていた美しい乳房や淡い茂みがあらわになってしまいます。
その瞬間、シンデレラは何かの糸が切れるような音を聞きました。それも二つ…。
「も、もう我慢できないわ! シンデレラ、さあ寝室に行きましょう!」
「ええっ!? あ、あのっ、ふ、服は!?」
突然の義母の宣言にパニックになってしまったシンデレラに対し、義姉は情欲に潤んだ表情で答えました。
「どうせ脱いでしまうもの、必要ないわ。それに、あなたのその美しい白い肌を隠してしまうなんてもったいないわ…」
「そ、そんな!」
「ふふっ…、今夜は寝かさないわよ、愛する娘シンデレラ…」
「ええお母様。朝まで三人で愛し合いましょう…。ああ愛しいシンデレラ…」
「に、逃げないと…。きゃあっ、は、離してくださいお母様、お姉様! あ~~れ~~!」
二人は逃げ出そうとしたシンデレラを、つちかわれた巧みなコンビネーションで素早く捕まえると、シンデレラを小脇に抱えて全速力で寝室に駆け込みました。
そして、バタンっ、と乱暴に閉じられた寝室の扉の向こう側から女性の甘い悲鳴がやむことは、朝までありませんでした…。
朝日が窓から差し込んでくるのをシンデレラは感じました。
ベッドの上で全裸で放心状態になっているシンデレラの白い肌には、むしろ何もされていない方の面積が少ないのではないかと思えるぐらいにキスマークが残されていました。
隣では、やはり全裸の義姉が、シンデレラに抱きつくようにして安らかに眠っています。そして義母は、
「ふふっ、起きたのね、シンデレラ…」
シンデレラを挟んで義姉の反対側で、またもやはり全裸のまま、ひじで上半身を支えるように身を起こして、優しくも淫靡な微笑みをシンデレラに向けていました。
「20回ぐらいイッたところで気絶してしまうんですもの…。でも愛しいあなたの寝姿を見られたと思えば、これも悪くないわね…うふふっ…」
シンデレラにはもう答える気力が残っていませんでした。そんなシンデレラに、義母はそっと愛撫してきました。片手でさわさわとシンデレラの胸を揉み、頬に口付けし、耳元を舌で刺激します。
「あん、お母様ずるいです…。私が寝ているうちに始めてしまうなんて…」
横でごそごそやっている気配に気づき、義姉が目覚めて言いました。義姉はシンデレラによりぴったりと身を寄せて、昨晩から湿りっぱなしのシンデレラの股の間をぐちゅぐちゅといじり始めます。
そして二人は、シンデレラの両側から耳元で甘くささやきました。
「もう一生離さないわ、シンデレラ…。私の愛しい娘…」
「同性なのも妹なのも関係ない。あなたは私の運命の人よ、シンデレラ…」
もはや力なく笑うしかないシンデレラは、残された最後の力で口を開きました。
「……そ、……そ……」
……こうして、シンデレラは母と姉に囲まれて、たいそう仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし、ですの~☆
「そんなのってないよーーーー!!」
< ギャフン >