洗脳魔法少女ヒプノちゃん クリスマススペシャル

クリスマススペシャル 「ママがサンタとキスをした」

「ほら、急いで急いで」

 あまり息子には言いたくない言葉だが、つい口を突いて出てしまう。何しろ時間がないのだ。
 私も少々急ぐようにして、ローヒールの靴に足を押し込んだ。

「くそっ、このっ…」

 4歳になる息子の大貴が、玄関に座り込んで懸命に靴をはこうとしている。その動きはたどたどしくつい手伝いたくなるが、じっと我慢する。
 普段ならすぐできるが、若干慌ててるのでむしろ時間がかかってしまった。それでも何とか、大貴は靴をはき終えた。

「それじゃ行くわよ」
「おう」

 私は大貴の手を取って、もう片方の手で安アパートの玄関の扉を開けた。
 東側に向けて玄関が作られているので、朝日すぐに目に飛び込んでくる。冬の独特の空気が、肌を刺して身を引き締めさせる。
 私は暖かな大貴の手を引きながら、やや早足で保育園に向かった。
 そこへ、向こうから自転車に乗った若者が近づいてきた。アパートの上の階の住人の、「セイヤ」という名前の青年だ。たぶん芸名。本名は知らないし、本人は恥ずかしがって教えてくれなかった。コンビニのアルバイトをしながら、夜はストリートライブで明日のスターを夢見ている、らしい。特にこの町で知り合いのいない私にとって、唯一と言ってもいい気の許せる相手でもある。
 ギターケースを肩に担いだそんなセイヤ君が、すっと私たちのすぐ近くで自転車を止めた。

「おはようございます、春菜さん」
「おはよう、セイヤ君」
「セイヤ、おーっす」

 髪を染めた上にツンツンに立たせた外見に似合わず、笑顔が素敵なセイヤ君は礼儀正しい好青年だ。それに引き換えうちの息子と来たら…。私の教育が悪かったのかしら。

「大貴、おっすじゃないでしょ!」
「…おはよー」
「ははは、いいんですよ春菜さん。男はこれぐらい元気がないと、な、大貴」
「お、わかってんなー、セイヤ。かーちゃんもみならえよー」
「大貴!」

 まったくもう、この子ったら。元気に育ったのはいいけど、これじゃあ…。
 セイヤ君はそんな私たちの親子漫才を、実に楽しそうに眺めている。
 笑われっぱなしもちょっとシャクだったので、冗談めかしてセイヤ君に聞いてみた。

「ところで、セイヤ君は朝帰りかしら? モテるミュージシャンは大変よねぇ~」
「まっさか! 駅前で歌った後、コンビニのバイトの深夜シフトっすよ! 本当ですってば!」

 顔を赤くして、全力で首を振って否定するセイヤ君。何をそんなに必死になってるかわからないけど、何となくかわいい。

「で、春菜さんは今から出勤ですか?」
「そうよ、いまからパートに…って、いっけない! 遅れそうだったんだ! 今日はちょっと寝坊しちゃって…!」
「すいません、急いでる時に…」
「いいのいいの、気にしないで。それじゃあね、セイヤ君。大貴、行くわよ」
「セイヤ、またなー」

 大貴に突っ込みを入れる余裕もなく、私は早足でその場を去ろうとした。
 その時、

「春菜さん!」

 背後から、セイヤ君の声がした。
 ぴたっと足を止め、振り向く。
 心配そうな顔をしたセイヤ君が、口を開いたところだった。

「体、気をつけて…」
「うん、わかってる」

 それだけ言って、私は大貴と共に彼の前から立ち去った。

「あんな若い子に心配されるようじゃ…」

 歩きながら、小声でひとりごちてみる。私とてまだ30歳。自分では「若い」分類に入るつもりではいたけど、顔に疲れが出ていたのかもしれない。「いってらっしゃい」じゃなくて、あんな言われ方をするんだから。
 そういえば、最後に仕事の休みがあったの、いつだったっけ。週7日、昼と夜に時給6百数十円のパートを掛け持ちして働いても働いても生活はギリギリ。子持ち、というだけで派遣社員にすらなれない私には、こういう働き方しかできなかった。元夫にしたって、元々貧乏人同士の結婚だったから慰謝料どころか養育費すら貰えず、今どこで何をしているのかも知らない。そもそも知りたくもない。妊娠した途端に私に興味なくして他の女に走った男のことなんか。
 こんなことしてたらいつか潰れるのはわかってる。わかりきってるのに、そうするしかできない。神も仏もいやしないんだから、大貴と生きていくには、こうするしかない。こうするしか…。

「かーちゃん…」

 大貴がぼそっとつぶやくように言った。

「え、あ、大貴、どうしたの?」
「…て、ぎゅってしすぎ。いてーよ」

 いつの間にか力が入りすぎてしまったらしい。慌てて私は大貴から手を離し、ごめんごめんと言いながらその手をさすった。

「あと、かーちゃん…」

 大貴は、うつむいて暗く押し殺すような声でいった。

「…なに?」

 そのただ事でない様子に、私の心は一気に暗くなる。
 そして、

「クリスマスのプレゼントとか、いらねーから…。サンタクロースなんかいないこと、ガキじゃないんだから、しってる」

 その言葉に、私の心は崖から突き落とされた。
 そうなのだ。今日はクリスマス・イブなのだ。

 私は、とぼとぼと夕闇の迫る住宅街の中を歩いていた。庭先や塀にクリスマスの電飾を飾りつけている家もある。そのにぎやかさと対極に、今の私があるようだった。
 あの後大貴を保育園に送り届け、ミスなくパートの仕事を終えられたのが奇跡のように思える。それだけ、あの一言が私の心に突き刺さっていた。

「母親失格だな…」

 心配かけまいと頑張ってきたつもりだったが、見抜かれていたのだ。おまけに、実の息子に遠慮までされてしまった。
 確かに子供だってバカじゃない。保育園での会話で他の家とうちの違いぐらいわかってしまうのだろう。

「大貴、ダメなお母さんでごめんね…」

 これ以上言うと泣いてしまう。いや、泣いちゃだめだ。これから保育園に大貴を迎えに行って、ご飯作って、大貴をお風呂入れて早く寝かせて、それから夜のパートに出かけないと。こんなところで泣いてちゃ、泣いて…。

「お嬢さん、お嬢さん」

 不意に、下の方から可愛らしい女の子の声がした。
 その方向に視線を移すと、真冬とは思えないひらひらした薄手のピンクのコスチュームに身を包んだ、小学生ぐらいの女の子がいた。手にはバトンのような物を持ち、肩には四色の猫のような生き物(?)が乗っている。
 私は、自分を指差しながらその女の子に聞いた。

「お嬢さん、って私のこと?」
「そうですの」
「いくらなんでもお嬢さんって歳じゃないのに…」

 こっそりと目尻の涙を拭いて苦笑しながらその子に答えると、女の子は腕を組んで考え込んでしまった。

「うーん、ミノさんが女の人に『お嬢さん』って言うとみんな喜んでたのに、おかしいですの~」

 ミノさんっていうと、たぶんあの番組のことだから…そんな歳に見えたんかい。
 私はしゃがんで目線をその子に合わせ、少々顔を引きつらせながら女の子に言った。

「ねえ、私のことは『お姉さん』でいいから、ね!」
「わかりましたの、お姉さん」

 物わかりがいい子で良かった。
 妙なことでほっとしている私に、その女の子は続けて言った。

「ところで、お姉さんは大樹くんのママさんですの?」
「えっ!? そうだけど、なんで大貴のことを…?」

 困惑する私をよそに、女の子は安堵の表情を見せてから、一方的に話を続けた。

「ああよかったですの。やっぱりミャフェスの嗅覚はさすがですの。ということで、お悩みを解決いたしますの~!」
「ねえちょっと、あなた…」

 私の問いを無視するかのように、女の子はすっと手にしたバトンのようなものをかざしてからゆっくりと舞うように振り、呪文のようなものを唱え始めた。
 その呪文を聞いているうちに、その言葉が私に染み渡っていく。
 私の心は、徐々にふわふわと漂っていく。
 それはとても心地よく、心が解放されていくようだった。
 そしてだんだんと私の意識は………。

 ………あら?
 ふと気がつくと、あたりはだいぶ暗くなっていた。
 確かさっきまで女の子と話をしてたような…。
 ううん、疲れているのかもしれない。でも、今は早く大貴を迎えに行かなくては。きっと寂しがっているだろう。ああ見えてけっこう寂しがりなのだ、うちの息子は。

 大貴を保育園に迎えに行った後、私は急いで夕御飯の支度をした。
 帰り道に寄ったスーパーで安いショートケーキがあったので、大貴の分だけ買って帰り、少しだけでもクリスマス気分を味わってもらおうとした。大貴は「かーちゃん、むりすんなよ」と生意気な口をきいていたが、おいしそうにケーキをほおばるその顔が見られただけでも私は満足だった。
 そして、いつものように洗い物をし、大貴を早めに寝かしつけてから、夜のパートに向かう支度をしていた時、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
 不思議に思いつつもドアを開けると、そこにいたのはパジャマ代わりにしているのか知らないけど、上下ジャージ姿のセイヤ君だった。

「どうしたのセイヤ君。こんな夜に」
「あ、あの…、は、春菜さん…」

 なぜか顔を赤らめて、呼吸も妙に乱れているセイヤ君の様子はどこかおかしかった。まるで何かを無理してこらえているような、例えは悪いがトイレを我慢しているような、いや違う、まるで好きな人に告白する直前のような…。

「は、春菜さんっ。お、オレ…その…」
「ねえ、どうしたの? セイヤ君、様子が変よ」
「ささ、さっき、ピンクの服を着た変な女の子が突然やってきて、オレに、何かしたような気がするんだ…」

 ピンクの服を着た女の子…まさか、夕方のあの女の子が!?

「そしたら、オレ…。、春菜さんにこんなことしちゃいけないと思ったら、どんどんしたくなってきて…、もう、オレ、オレは…」

 セイヤ君の呼吸はどんどん荒くなってきている。それなのに私をじっと見つめて、決して視線を離そうとしない。その表情は、興奮を隠し切れなくなっている。
 私はセイヤ君の様子に恐れを感じつつも、彼の両肩を掴んで揺さぶりながら言った。

「セイヤ君、しっかりして! あの子に何されたの!?」
「ああっ、春菜さん…。その女の子は、オレに、こう言えって…」

 不意にセイヤ君は私の腰を取ると、自分の方へ抱き寄せた。
 そして私が声を上げる間もなく、私の耳元でささやく。

「『メリークリスマス』」

 その瞬間、私の意識は吹き飛んで、真っ白になった。

 ……………。
 ………
 …あはっ、セイヤ君と玄関先で抱き合っちゃってる。近所の人に見られたらどう思われるかしら。でも別にいいわよね、クリスマスなんだし。
 でも玄関先じゃ風邪をひいちゃうから、せめて部屋の中で。私はセイヤ君と密着したまま、彼を室内に導いた。
 器用に足先だけで玄関のドアをばたんと閉めると、それを合図にしたかのように、彼が私の唇をむさぼってきた。

「はあっ、はあっ、春菜さんっ…」
「んんっ、ああっ…」

 必死に私の口の中に入ってこようとする彼の舌に、私も舌を絡めた。より絡み合えるよう、私は彼の首筋に手を回してさらに密着させた。お互いの舌がお互いを懸命に求め合い、唾液の交換がより私たちを興奮させる。

「ぷはっ…! はぁ…はぁ…」

 どちらからとも知れず、口を離して一息ついた。
 見れば、セイヤ君は私のことを興奮と欲情と期待に満ちた視線で見つめている。いいわ、もっと私のことをいやらしい目で見て。
 私は、彼に見せつけるようにスカートのホックを外して、すとんと落とした。特に色気のないベージュのショーツなのに、セイヤ君がごくりとつばを飲む音が聞こえたようだった。
 調子づいた私は、上着も脱いでいく。ちょっと腰をくねらせたりしてサービスも忘れない。脱ぎ終わった上着は部屋の奥にぽいっと。あはは、服を脱ぐのって楽しい。それに、服を脱いだら寒くなるはずなのに、どんどん熱くなっちゃうのって不思議。
 最後に、わざと彼に背を向けてから両手を背中に回してブラジャーのホックを外し、両肩から抜き取った。そして、両手を胸に当てて覆い隠すと、くるりとターンした。乳首が立っているのが、両手に感触として伝わってくる。
 セイヤ君の、どきどきとした心臓の音が聞こえてきそうだった。それだけ、彼は私のことを真剣に見つめている。だから、私はその真剣さに敬意を表して…そっと両手を下ろした。
 あはっ、おっぱい、見られちゃってる…。うふふ、もっと見て見て。
 セイヤ君は、ぽつりと感想を漏らした。

「春菜さん、綺麗だ…」
「褒めてくれてありがと♪」

 私はお礼とばかりに、彼の前にひざまずくようにすると、ジャージのズボンに手をかけて、中のパンツごとするりと引き下ろした。
 期待通り、興奮しきって天を向いているおちんちんがぷるんと飛び出してきた。素敵。目の前のおちんちんは、大きからず小さからず、とてもおいしそうだった。

「は、春菜さ…ん…。その…はぁはぁ…」
「うふふ、わかってるわよ」

 ちょっと情けない声でおねだりしてくるセイヤ君のご期待通り、私はくんくんとそのかぐわしいおちんちんの匂いをかいでから、じゅるっとぱくついた。

「うあ…っ! こんな…の、はじめて…」

 あら、初めてだったの? セイヤ君かっこいいからもう経験済みかと思ったけど。いいわ、このお姉さんが経験の差というものを見せてあげるから。
 私は頭を前後させて、口の中でおちんちんをちゅぱちゅぱと刺激してあげた。その度に、セイヤ君は気持ちよさそうに鳴く。そしてその度に、私の背筋にぞくぞくと興奮が走る。
 嬉しい。あの男との性交はただされるがままだったから、私が主導権を取って気持ちよくしてあげられることがとても嬉しくてとても気持ちいい。

「ふあっ、春菜、さんっ…、出る…出そうだ…っ」

 うふふっ、我慢しなくていいのよ。お口でちゃんと受け止めてあげるから。そう伝えるように、私は舌でおちんちんの先端をつんつんと刺激してあげた。

「う、ううっ、出る、出る、出るぅ!」

 それが合図になったのか、びくびくと震えるおちんちんから私の咥内にびゅくびゅくと濃厚な精液が送り込まれてきた。一瞬むせてしまいそうになるが、何とか耐えて私は彼のほとばしりを受け止めつづけた。

「はあっ…、はぁっ…、春菜さん…」

 何か悪いことをしたような目で私を見ているセイヤ君。大丈夫よ、こんなにおいしいものをくれて感謝しているんだから。と目で答えて、私は彼の出したものを嚥下していった。喉を通り過ぎていくごとに、私の体内から幸せと興奮がにじみ出てくるようだ。その証に、私の股間はもうぐちょぐちょに濡れていた。

「うふふ、おいしかったわ」
「春菜さん…」
「ん? こんなおいしそうに精液飲んじゃうおばさん、軽蔑しちゃった? くすくす」
「そんなことないです。春菜さんはおばさんなんかじゃなくて…その…」
「その…なあに?」

 私は立ち上がって、彼の目の前で回答を待った。ついでに身体を密着させて、回答を促すようにおちんちんの玉をくりくりと刺激してあげる。

「うっ…、春菜さんは、オレの…理想の人です」
「あら嬉しい。セイヤ君が年増好みで良かったわ」
「年増なんかじゃないですよ、春菜さんは綺麗で、優しくて、女神のようで…好きで、好きで、とても好きで…」

 セイヤ君が燃えるように「好き」を繰り返すたびに、私もどんどん燃え上がってしまう。こんなに情熱的に言われたのは人生で初めてかもしれない。

「ありがと。今日はいい気分だから、もっとエッチなことしましょ。ね?」

 私は彼にウインクしてみせると、ぐちょぐちょになって肌に張り付いているショーツを彼の目の前で下ろして、脱いだ。するりと足から抜き取ると、ぽいっと床に放り投げる。
 うふふ、見てるわ。セイヤ君ったら私のあそこを熱心に。そっかぁ、私もまだ捨てたものじゃないのね。
 私は床にゆっくりと腰を下ろすと、彼の前で両足をMの字を作るように開いた。当然、恥ずかしいところが丸見え。でも私は見せたくてたまらなかった。

「ほら…見てる? 私のおまんこ、もうぐちょぐちょなの…」

 きゃーっ、おまんこだなんて言っちゃった。でも素敵な言葉の響きよね、おまんこって。余計に興奮しちゃう。私は、くちゅりと音をさせながら、おまんこを指で開いて見せた。
 セイヤ君は膝を床につけて、膝立ちで私の方へじりじりと寄って来た。視線を私のおまんこに釘付けにしたまま、彼は言った。

「は、はい…。とても、綺麗で…」
「綺麗で?」
「その…、とても、いやらしいです…」

 そうよね。こんなにぐちゅぐちゅだもの。でも、いやらしいという言葉は今の淫らな私には最高の褒め言葉。

「じゃあ、このいやらしいおまんこに、セイヤ君はどうしたい?」
「い、いい、入れたいですっ!」

 必死にかくかくと首を振るセイヤ君。あらあら、余裕なくしちゃって。

「オ、オレ、夢でも妄想でも、春菜さんとこうしたいって思ってた…」
「あら、表ではあんなに好青年なのに、裏では子持ちのおばさんにそんなこと考えてたの? いけない子ね」

 冗談めかしてからかうと、セイヤ君はシュンとなってしまったようだ。ちょっといじめすぎたわね。

「いいわ、そんなに私のこと想ってくれたなら、今夜は何でもセイヤ君の思い通りにさせて、あ・げ・る。いらっしゃい…」

 その言葉にセイヤ君は、興奮を隠し切れない顔で私ににじり寄ってきた。口はもう開きっぱなしで、よだれがたれてきそう。
 その前にと、彼の顔に私の顔を寄せて口の周りを舌でぬぐい始めた。それはすぐに、舌同士の絡み合いに発展する。
 やがて絡み合いが不意に途切れると、真剣な顔でセイヤ君が言った。

「オレ、初めてなんでうまくいかないかもしれないけど…」
「うふふ、クリスマスプレゼントとして、あなたの童貞をくれるのね。ありがと、セイヤ君。嬉しいわ」
「春菜さんっっ…!」

 そう言うなり、セイヤ君が私の中に侵入してきた。
 にゅるっとおまんこが彼を受け止めると、私は天にも登る心地よさを感じた。あの男に抱かれた時は痛みばかりだったのに、こんなに気持ちいいなんて。

「春菜さん、春菜さんっ!」
「いいわ、もっと、あん、はあんっ!」

 セイヤ君が夢中になって腰を振る。その動きに合わせて、私の中で快感がはじける。
 彼の動きはとても荒々しかったが、痛みも苦しみもなく、ただ気持ちよかった。
 私が彼の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめると、セイヤ君は再び私に舌を伸ばしてきた。応じるように、私は舌でも彼を求めた。

「んはあっ、はあっ、はあっ…!」
「いいっ、んっ、いいわっ、ああっ、セイヤくぅん…!」
「はあっ、春菜さんっ、こんなに、きつくて、気持ちいいなんてっ…」
「いいの、もっとして、もっとしてっ…ああんっ!」

 彼の腰の動きは徐々に速くなってきた。その動きに伴って、私の心もどんどんと登りつめていく。あと少し、もう少しで…。

「春菜さんっ、オレ、もうっ…」
「いいわ、出してっ。全部受け止めてあげるからっ!」

 私は両手だけでなく、両足も使って彼の体を抱きとめた。彼の全てを受け止めるために。

「もう、オレ…、春菜さん、出る、出るぅぅ!」
「いいっ、いいのっ、出して、出してえ…!」

 おまんこのなかのおちんちんがぐっと震えたかと思うと、私の中にじわりと精液が満たされていった。その刺激で、私は達してしまう。何度も、何度も。頭の中が真っ白になっても、さらに精液で真っ白にされてしまう。
 はあはあと呼吸を荒げながら、セイヤ君がゆっくりと私の中から抜け出ていった。その感覚に、私はぶるりと身を震わせた。

「春菜さん…」
「はあっ、はあっ…、セイヤ君、気持ちよかったわよ…。こんなの、ほんと初めて…」
「あははっ…、お世辞でも嬉しいですよ」

 照れくさそうに頭をかくセイヤ君だが、嘘でもお世辞でもなかった。こんな気持ちいいセックスは初めてだった。バカになってしまうのではないのかと思うぐらい感じたのは、本当に初めてだ。
 そして、もっとバカになってしまいたいと思う気持ちも。

「春菜さん…、ありがとうございました」
「あら、セイヤ君はもう満足なの…?」
「い、いえ、そんなことは…」
「そうよね。君のおちんちんは正直ね。まだしたいしたいって元気だもの」
「あう…」
「でね、クリスマスなんだから、私ももっとしたいの。さっき何でも思い通りにさせてあげるって言ったわよね…。だから…」

 私はまだほてっている体を起こすと、四つん這いの格好になって彼にお尻を向けた。
 おまんこから先程の彼の熱いたぎりがどろりと漏れ出し、私の腿を伝う。その刺激に、私は思わずぴくんと反応してしまう。
 そしておそらく欲情に潤んでいるであろう表情で、後ろのセイヤ君を振り返り、軽くお尻を振りながら言った。

「ほら、こんどは後ろから、ね…」

 返事代わりに、セイヤ君は私のバックからおちんちんを突き入れ、腰を密着させて振り、胸を揉みしだいてきた。

「春菜さんっ! 春菜さんっ!」
「ああんっ! 激しいわぁ、もっと、もっと突いてぇ~…!」

 …カーテンの隙間から、朝日が漏れてきている。
 まだふわふわする頭を振りながら、私は徐々に覚醒していった。
 なんだか匂う。その発生源はどうも私の体、そして顔中のようだ。まるで栗の花のような…。
 だんだんと頭が冷静になっていく。というより血の気が引いてくる。恐ろしい事実に行き着いてしまったからだ。
 身体を起こす。下を向けば、まだ形の崩れていない、と信じたい胸が乳首の先まで見えている。しかも、粘液で体中べたべただ。
 私は知っている。この粘液が何なのかを。
 そして、そうなるに至った事態を、私は徐々に思い出してしまっていた。

(…いいのっ、もっとして、もっとしてっ! おまんこに、精液出してぇっ)
(だめよぉ…、お尻なんかなめたら…。あああん…)
(ねえ…、気持ちいい? おっぱいでおちんちん挟むの。このまま出していいのよ…)
(あんっ、おしっこ出ちゃう…。いくぅ、いくぅぅ…!)
(今度は私があなたの上に乗ってあげるわ。覚悟しなさい…、うふふふふ…)

 愕然とする。酒に酔ったわけでもないのに、あんなに淫らなことをしてしまったなんて…。確かにあの男に逃げられて以来ご無沙汰だったから…なのはともかく。夢だと信じたいが、この惨状が全てを物語っていた。
 そして、何よりも決定的な証拠が、私の横で全裸で寝転がっているセイヤ君の存在だった。妙に幸せそうな顔をしているのが恨めしい。
 起こすのもかわいそうな気もしたが、起こさないと話が進まないので、体を揺さぶって起こす。

「ねえ、セイヤ君、起きて、起きてよ…」
「う、うーん、春菜さあん…。もう無理ですよ…、オレ、もう出ない…」

 何て寝言だ。私は軽く溜息をついてから、彼を叩き起こした。

「寝ぼけてないで、さっさと起きる!」
「んっ、うあっ…!? あれ、春菜さん、なんで…。わっ、何で裸なんですか!?」
「それはお互い様…」
「う、うわっ、オレも裸だぁ!?」
「しーっ!」

 あれだけ大騒ぎして大貴が起きてこないのが不思議でならないが、とにかく私はセイヤ君の口を押さえて制止した。彼も首をこくこくと振って承諾する。
 もう裸体を隠す気力もない私は、今度は深く溜息をついてから言った。

「セイヤ君、昨晩のこと覚えてないの?」
「昨晩って………あ」

 みるみるうちにセイヤ君の顔が真っ赤になっていく。やっと気がついたらしい。あれが夢の中の出来事じゃないことを。

「お、オレ、何てことを…! 春菜さんに取り返しのつかないことを…」
「…いいの、私は気にしてないから」
「で、でも…」

 気落ちしている彼をなだめるように、私は言った。

「私は気にしてないから。きっと、二人とも昨日はおかしかったのよ。だから、あなたは悪くないわ」
「そんな…!」
「だから、昨日のことは忘れましょ。ね」
「・・・・・」

 セイヤ君は黙って、じっと下を向いてしまった。

「ごめんね。追い出すわけじゃないけど、大貴が起きると話がややこしくなるから、今日はもう帰って…。お願い…」
「はい…、すみませんでした…」

 セイヤ君は明らかにショックを受けたような表情で、床に脱ぎ散らかされた自分の衣服を身に付けると、ふらふらとした足取りで私の部屋を出て行った。

「…これで良かったのかしら………くしゅん!」

 独り言をもらしたと同時に、くしゃみが私の口から突いて出た。そういえば、なんだか熱っぽいし、頭痛もする。無理もない。暖房は着けっぱなしだったとはいえ、真冬に全裸で寝ていれば風邪のひとつもひくだろう。
 そして、精液や愛液や何やらで酷い有様の部屋の惨状をどう掃除するかという問題以上に、私の頭痛を増す要素があった。

「夜のパート、無断欠勤しちゃったな…」

 もちろん、そのパートはクビになった。

 悪いことは重なるもので、その後私は疲れがたまってたのがいけなかったのか、風邪をこじらせて3日間休んだ。昼のパートはクビにこそならなかったが、3日間は当然無給となる。風邪の方は幸運にも医者にかからずして治したが、年末の仕事休みを含めて丸一週間分の無給というのは家計に深刻なダメージを与えてしまった。何よりも、大貴に心配をかけてしまったのが母親として最悪だ。
 セイヤ君とは、年末寝込んでいたこともあったし、何となく気まずいし、彼も気まずいだろうと考えてなるべく会わないようにしていた。
 年が明けても、夜のパートの代わりはなかなか見つからなかった。女で子持ち、というだけで敬遠されるのはわかりきっていたからこそ、仕事はクビにならないようにしないといけなかったのに…。大貴は「かーちゃんがよるにいると、ちょーしがくるうぜ」と言いながらも、私と一緒に寝れることを内心喜んでいるようだったが。
 そして、恐れていたことが起きた。
 昼のパートの仕事中に、私は猛烈な吐き気を感じてトイレに駆け込んだ。あまりにも予想通りだったので、ショックを受けることすらできなかった。
 その日は体調不良を理由に仕事を早退すると、私はまっすぐ病院に向かった。
 内科ではなく、産婦人科に。
 そして担当の女医は、私の予想通りのことを告げた。

「おめでとうございます。妊娠されてますね」

 おめでたいことのはずなのに、この後で起こるであろうことを想像して素直に喜べない自分を、私は嫌悪した。
 ショックを引きずったまま、翌日、昼のパートの職場の人に診察結果を告げることにした。早退した以上は何も言わないわけにもいかないし、妊娠を隠して働き続けてもいつかはばれてしまうことなのだから。
 当然のように、私は解雇された。「自己管理がなってない」という内容の嫌味を退職金代わりに。
 さすがに、もうセイヤ君と今後のことを相談しないわけにはいかないだろう、と考えた私は、保育園から連れて帰った大貴を部屋に残すと、アパートの2階の彼の部屋に向かった。
 コンコンとドアをノックするが、反応はない。

「セイヤ君、ねえ、セイヤ君…」

 留守ということは考えたくなかった。今は誰かの側にいたかった。この事について話し合えるのは彼しかいないのだから。私は必死で彼の部屋のドアを叩き続けた。名前を呼び続けた。
 すると、ドアが開いた。彼の部屋ではなく、隣の部屋の。
 のそっと顔を出したのは、浪人生の、確か向島という名前の青年だった。

「あー、セイヤの奴なら、年末ぐらいから帰ってきてないですよ」

 その瞬間、私の中で何かが切れた。力なくその場にへたりこむと、涙がどんどんと溢れてきた。
 私は泣きじゃくりながら叫んだ。

「そんなのって……ないよぉ……」

 …これでおわりじゃないのですの。もうちょっとだけ続きますの~☆

 私は部屋に戻ると、弱々しくドアを閉めた。そして、玄関先でうずくまるようにして座り込んだ。奥の方で大貴がテレビアニメに夢中になってくれているのが救いだった。あの子には心配させたくないから。
 どうしよう、という言葉だけが頭の中をぐるぐると駆け回る。仕事はなくなった。これから「この子」を産むにしろ産まないにしろお金はいる。でも蓄えは今月分の家賃と光熱費ぐらいしかない。働くにしても、子持ちで妊婦を雇うようなところがあるだろうか。今日そのことを理由に職を失ったばかりなのに。

「どうして、いなくなっちゃったの…」

 私はぽつりとつぶやいた。
 こんな時にこそセイヤ君がいてくれたら、と思う。彼に対して恨みはなかった。あの時はお互いがお互いを求め合っていたのだから同罪だと思っている。「あの女の子」が何かしたのかもしれないけど、それでもあの夜の出来事は二人の間のことだ。
 だから、二人で話し合いたかった。

「戻ってきてよ、セイヤ君…」

 消え入りそうな声で私は言った。
 その時だった。
 コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。まさかと思いつつ、ゆっくりと立ち上がって玄関のドアを開けると、そこには………、びしっとスーツを着込み、髪型も上品に整えた青年がいた。
 一瞬、セールスか何かと思って落胆したが、髪型や髪の色こそ全く違えどその顔つきには覚えがあった。

「春菜さん…、すみません、急にいなくなったりして…」

 神妙な顔をして立っているその人は、まさしくセイヤ君だった。
 あまりにも混乱していたのか、そんな彼に私が言ったのは、自分でも意外な言葉だった。

「…どうしたの、その髪」

 これには彼も面食らったらしく、調子を崩されたような顔をしてセイヤ君は答えた。

「オレ、ぶん殴られるかと思ったんですが…」
「そうしようかと一瞬考えたんだけど、あまりにもタイミング良すぎてそんな気も起こらなかったわ」
「タイミング?」
「いいの、こっちの話」

 私は一息ついて気を落ち着かせると、詰問にならないように感情を抑えながら彼に言った。

「今まで、どこに行ってたの? 年末からいなかったらしいじゃない」
「…オレ、一度実家に戻ったんです。あの後」

 前に聞いた話では、両親と喧嘩同然に家を飛び出してここにやってきた、という話だった。それが突然里帰りとは。

「春菜さんにあんなことしてしまって、それで、踏ん切りつけようと…。そしたら、実家で監禁同然になってしまって…。それで、何とか両親を説得して今日やっと戻って来れたんです」

 家出息子が突然帰ってきたんだから、一騒動はあっただろう。監禁同然というのは穏やかではないが。
 セイヤ君は話を続けた。

「それで、家業を継ぐことで許してもらえたんです」
「良かったじゃない。やっぱり両親とは仲良くしておくのがいいわよ。うちなんかもう仲良くしたくてもいないんだから」
「…すみません」
「いいの、気にしないで」
「そうですか。それで、あともう一人、許してもらうことがあるんです」

 あの日のことをまだ気にしてたんだろうか。私はそれを打ち消そうと口を開こうとしたその時だった。
 セイヤ君はスーツのポケットから何やら小さな箱を取り出し、私の前にすっと差し出した。そして、頭を下げてこう言った。

「結婚してください、春菜さん」

 …えっ。
 えええっ!?

「ちょ、ちょっとセイヤ君、あなた何言ってるの!?」
「オレ、本気です」

 自分こそ何を言っているのかよくわからなかった。そんな私に対し、セイヤ君はこの上なく真剣な表情で私の返答を待っている。
 私の返答は、全く要領を得なかった。
 
「だ、だって、私の方が7つも8つも年上だし、子持ちでバツイチでおまけに貧乏人なのよ!? スタイルだってそんなに良くないし、それに…」
「オレ、春菜さんのこと、憧れてたんです」

 セイヤ君は箱、おそらく指輪の入っているであろう箱を差し出したまま、語り始めた。

「親に言われた通りに家業継ぐのが嫌で家飛び出して、ミュージシャンになるんだなんて言ってても適当なことばかりやってた俺に対して、春菜さんはあんなに苦しい思いをしてまで必死に頑張ってる。そんな姿を見てて、オレ、自分が至らない人間だと段々思うようになってたんです。自由になりたいとか言って、結局責任から逃げてただけなんじゃないかって」
「セイヤ君…」
「イブの日、あんなことしてしまって、部屋に戻ってやっと決心がついたんです。春菜さんのために、オレはもっと頑張ろう。本気で、真剣に生きようって。真面目に働いて、春菜さんを支えようって。だから、まず実家に戻って今までのことを謝って、それから結婚を許してもらおうと思って…そしたら、こんなに時間がかかってしまったんです。すみません」
「・・・・・」
「あの日から、ほんとオレ、春菜さんのことばかり考えてたんです。憧れだけじゃなくて、本気で好きだったってことに気づいて。もう、春菜さん以外見えないぐらい…」

 彼は、本気だ。それが痛いほど伝わってくる。
 そんな彼の手を振り払って、意地を張って生きていくこともできるかもしれない。でも、今まで必死に走り続けて疲れ果てた私には、そしておなかの中の子には、一緒にいてくれる人が欲しかった。
 それに、私は彼に元々好意を抱いてたんじゃないか。断る理由なんて、ない。
 年の差も、私が貧乏なのも、関係ない。
 私は、差し出された箱をそっと受け取り、そして、返事代わりに彼の頬にそっと口付けした。
 頬に手を当てて感激の極みに達している彼に、私は言った。

「…私なんか好きになって、苦労しても知らないわよ」
「必死で働いて、苦労させないようにします」
「扶養家族は、私と大貴だけじゃないのわかってる?」
「…えっ?」

 セイヤ君はきょとんとしてしまった。
 私は軽く溜息をついて、彼に言ってやった。

「セイヤ君。あなたね…、あの日何回私の中に出したと思ってるの?」
「えっ!? えっと…、ひい、ふう、みい…」

 彼は顔を赤らめながら、指を折って数え始めた。

「えっと…、その…、たくさん。ということは…」
「まあ私も散々ねだったんだから同罪なんだけど、セイヤ君、あなた大貴とおなかの中の子のパパになれる?」
「…なります。ならせて下さい。オレ、必死にがんばります」

 びしっと引き締まった顔で、セイヤ君は言った。いい男の顔だ。
 ああ、やっとこんな人とめぐり合えたんだな…と思うと、今までの苦労が報われたような、そんな気分になっていた。肩の荷が降りたというか、その荷を分けあえる存在を私はやっと手に入れたのだ。

「おー、セイヤ。ひさしぶりー。なにそのへんなかみー」

 大貴の声で我に返ると、いつの間にやらわが息子は私とセイヤ君の間に立っていた。
 そうだ、もう一人了承を取り付けないと。

「ねえ大貴。あのさ、お母さん、セイヤ君と結婚していい?」
「あ、かーちゃん、セイヤとケッコンすんの? いいよ、セイヤかっこいーし。かーちゃんもなかなかやるじゃん。うまくたらしこみがやってー」
「大貴!」

 恥ずかしさのあまり顔から火の出そうな私を、大貴とセイヤ君は笑って見ていた。その様子に、自然と私も笑みがこぼれる。そういえば、こうやって心から笑えたのって久しぶりだ。
 一通り笑いの声が止むと、セイヤ君は話を切り出した。

「あの、春菜さん。急な話で悪いんですが、今から両親に会ってもらえませんか?」
「今から!? 服だってこんな格好なのに…」
「それで大丈夫ですよ、気になりませんから。両親にはうまく話をしておきますよ。で、向こうに車待たせてるんで、よければ…」
「え、ええ…。でも…(私が気にするんだけど…)」
「大貴も来てくれるかな」
「おー、いくいくー」

 嗚呼、大貴が乗り気になってしまった…。これでは行かないわけにはいかない。
 私は渋々、セイヤ君と大貴の後に付くように、その車の方に歩き出した。

「大丈夫ですよ。結婚に反対されるということはないですから。春菜さんのことはもう両親に告げてありますし」
「そうなの…」
「ただ、孫が1人じゃなくて2人になるのは予想外でしょうけどね。まあ、多い方が両親も喜んでくれるでしょう」

 そんな会話をしながら彼の待たせていたという車のところに着くと、私は驚愕に目を見開いてしまった。
 せいぜいタクシーだろうと思っていたその車は、どう見てもリムジン。おまけに高級外国車で、タクシーの運転手とは明らかに違う風格を持った運転手さんまで立って控えている。

「せ、セイヤ君っ!? この車…」
「すいません、オレ、車の免許持ってないんで、実家の運転手に頼んで連れてきてもらったんです」
「実家の運転手、って、あなたの実家は…」
「KROSSってブランド知ってます? 家電の」
「確かテレビとかオーディオ作ってる大企業よね。世界的な。まさか…」
「そのまさかなんです。オレ、そこの創業者の孫なんですよ」

 青天の霹靂、というのはまさにこのことだと思い知った。
 世界的企業の御曹司。そんなブランドに目がくらんで結婚をOKしたのではない、とはわかっているものの、あまりの身分違いに本当にこれで良かったのかと不安になる。私ではなく、彼の方が。

「…やっぱり引いちゃいましたか」

 セイヤ君は苦笑していた。

「春菜さんがお望みなら、オレ、裸一貫から出直してもいいですよ? それぐらい本気ですから」

 セイヤ君は目は真剣に、でも口元は笑ってみせた。
 その言葉に、私は救われるようだった。私も彼も、ただ一緒に生きたい、という気持ちだけだということがわかった。それだけで良かった。苦労続きだったから、お金はあるに越したことはないのだけれども。

「でも、今夜は両親に会っていただけるとありがたいですね」
「…ま、あなたの相続問題はともかく」

 私はちらりとリムジンの方に目を向けた。
 ちゃっかり後部座席に大貴が乗り込んで、はしゃいでいる。電動の窓の開閉が気に入ったらしく、無意味に上下に動かし、そして全開にした窓から手を振って私たちを呼んだ。

「おーい、かーちゃん、セイヤ。なにやってんだよー。はやくいこーぜ」
「子供と何とかには勝てないわね。いいわ、行きましょ。私の旦那様」

 私はそっと彼の手を取って、車の方に歩き出した。
 そしてふと思った。あの女の子は、ひょっとしたら天使だったのかもしれない、と。私と彼との縁を結ぶための。
 神も仏も信じてないけど、天使ぐらいはいてもいいかな。

 天使じゃないですの! 魔法少女ですの~!
 でもまあ、今回はうまい具合に条件が揃ってて、手間が省けて助かりましたの。
 クリスマス・イブというのは、サンタというのがプレゼント持ってきたり、男女が子作りする日らしいですから、大貴くんのお悩みの「弟か妹が欲しい」というのを簡単に解決できて良かったですの~。
 あ、そうそう。オチを忘れてましたの。

「おーすげー、さっすがガイシャははえーなー」
「もう大貴、もう少しおとなしくなさい。ところで、セイヤ君…」
「春菜さん、今更何ですけど、オレ、本当はセイヤって名前じゃないんですよ」
「わかってるわよ。でも前に本名教えてくれなかったじゃない。今から結婚する相手に、本名も教えてくれないのかしら?」
「いや、あの時は本当に恥ずかしかったんですよ。今はもちろん言えますけど…」
「そんなに恥ずかしい名前なの?」
「その…、オレ、本当は『三太』っていうんですよ」

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