ビッチシステム 3日目昼

3日目昼 浸食

 活動空間に飛ばされるや否や、留香は凜と恵の姿を瞳で捜した。
 二振りで恵、そして凜を捉える。

 恵は前日までとは異なり、胸元が少し開いたニットを着用している。胸の谷間を伺えるほどではないが、美しい鎖骨が垣間見えるだけで、違った印象を受ける。下半身はスカートであるが、こちらはストッキングもあわせて着用している。
 全体としては、恵は「暖かめの日の冬服」と言って差し支えない格好ではあった。単なるファッションの範囲内とも思えるが、かといって、ウイルス感染の疑念が払拭できるかといえば、そういう訳でもない。

 凜は――あまり芳しいとは言えない様子だった。今日の凜は私服だったが、上半身は明るめな色のデニムタンクトップが中心で、凜の可愛いヘソが見え隠れする程度に短い。加えて、ショートパンツが凜の健康的な脚を強調している。
 その格好は、ウイルスの影響を受けていることが明らか。見るに堪える格好であるだけ、状況はまだ深刻ではないのだろうが。
「……」
 凜の格好を見た沙奈は、見てはいけないものを見てしまったというような表情をしている。沙奈の目から見ても、凜の格好は普段の印象からして「ありえない」ものだったのだろう。

「お、リンちゃん魅力的な格好だね」
 状況を理解しているのかいないのか、凜に最初に声をかけたのは恵だった。
「そうですか?」
 ありがとうございます、とさらりと答えた凜は、決して満更でもない様子だった。
「そうね、良いと思う」
 とっさに、留香が話を合わせた。
「うん……」
 沙奈も、何とかそれに続く。沙奈もやはり、ウイルスに感染したからといって凜を仲間はずれにするのには抵抗が強いのだろう。

 玲奈は、タイミングを逸した。
 玲奈は凜とは数日の付き合いしかないが、凜が正常な状態ではない、というのは沙奈の反応を見てすぐに分かった。それは玲奈にとって直ちに、自らや沙奈への感染の危険があることを意味している。
 だが、日没で仕切り直されたせいもあり、玲奈は騒ぎ損なった。その上、玲奈以外の三人――沙奈も含めて――は、まるで何事もないかのような様子である。
 元直属の先輩と妹。その2人が作った空気を打ち破れるほどには、玲奈は場を支配できるタイプではなかった。

 ――うまくいった。
 留香は玲奈の様子を見て、安堵の入り交じった息を漏らす。
 留香が最も警戒していたのは、誰かに騒ぎ立てられることだった。そうなれば五人チームは崩壊を余儀なくされ、留香の思惑は全てが台無しになる。そして、騒ぎ立てる可能性が高いのは、ダントツで玲奈だった。だから、玲奈に騒がれないようにすることを昨夜からずっと考えていたのだ。留香が玲奈の機先を制し、さらに沙奈が留香の意図に乗ってくれたことで、目論見通りの結果になった。

 と、
「何か来た」
 物音に反応し、留香は建物の正面入口を見る。玲奈達がいる部屋の入口は昨夕から空いたままになっている。
 正面入口の外には、二台の大型トラックが進入してきていた。見たところ建設会社のもので、どうやらこの建物で工事が行われるようだった。
 それはすなわち、玲奈達は今の場所にとどまれなさそうだ、ということだ。

「出よう」

 全員の意見が一致し、五人は恵を先頭に、裏口から建物を抜け出した。

 チーム内に感染者がいるという事実がチームの空気を緊張させていたが、それも部屋から脱出したことで多少は緩和される。
 そして、次の目標地は森林公園と決めていたので、動き出しも早かった。
 昨日と同様、街角で身を隠しながら、目的地に向かう。
 ただ、その前にやっておくべきことがあった。

「長いわね……」
「うん……」
 玲奈と沙奈の視線の先には、恵。恵の前には、六十歳前後と思われる女性がいた。
 この世界は現実と違うため、何も調べずに森林公園に行くと罠にかかる危険もある。そこで、恵が聞き込みを行い、森林公園に向かって問題ないかを確認しているのだった。
 しかし、それを聞くだけにしては、長い。
 どうやら、恵が話しかけた女性は、とても話の長いタイプのようだった。

 留香は、最後尾につける凜の方を気にしながら、思考を巡らせる。

 留香にとって、大事な発見がもう一つあった。
 凜は、症状を自覚していない。おそらくそれは、ウイルスによる症状の一つなのだろう。凜にもし自覚があるならば、凜に感染を指摘して、留香達への感染のリスクを減らしつつ行動する――といったことも選択肢として考えてはいた。だが自覚がないのであれば、指摘した途端に凜がパニックになるかもしれない。それでは元も子もなくなりそうなので、とりあえずは黙っているしかなさそうだった。
 しかし、そうだとすると――恵は、状況を理解した上で、留香と同様にあえて平然としているのか、それとも状況を理解していないのだろうか。分かっていないとするならば、恵もウイルスの影響を受けているのかもしれないと疑うべきことになる。だが、留香は「恵が単に鈍感なだけ」という可能性を排除しきれないでいた。一昨日や昨日の恵の話しぶりから、留香は恵の思考回路があまり理解できていないのだ。

 ――どっちにしても。

 これから留香が取るべき「作戦」が、頭の中ではすでに組み上がっていた。

「……」
 凜は列の最後尾で、ゾンビが寄ってこないかを見張っている。昨日と同じ役割だ。
 しかし、昨日より集中力が下がっているのを自覚していた。
 原因は分かっている。昨夜の「恥ずべき行為」が不完全燃焼に終わり、体内にわだかまりが残っているのだ。排出しきれなかったその熱気が、身体の中で渦巻いているのを感じる。以前、修学旅行で行為を我慢しきった翌日も、このような感じだった。
 それに加え、昨日一日で得た見張りの経験が、多少の慢心を呼び起こしていた。
 昨日は明らかなミスでゾンビに一度だけ襲われたが、裏を返せば長時間目を切らない限り、襲撃に至る可能性は低いということだ。そう思えば、監視に集中しようとしても、どこか気が抜けてしまうのも仕方がないことだった。

 ――少なくとも凜の意識の中では、そういう理由づけだった。

「とりあえず、大丈夫みたい」
 やっと話を切り上げて戻ってきた恵は、うんざりした表情で玲奈達に報告した。
「そうですか。めぐ姉、何話してたんですか?」
「ああ……あのおばさんの娘さんが、今度結婚するんだそうで」
 それ以上聞くな、と言わんばかりに、恵は溜息をついた。相手の話の勢いに呑まれてしまい、体力を消耗したようだった。

「ここで大丈夫なの?」
 辺りを見回して不安そうにつぶやく玲奈。
「絶対安全じゃないけど、かなりマシなはずよ」
 冷静に、短く返答する留香。
 森林公園内にある散歩道、その奥にある公衆トイレの近くに、玲奈と留香、そして沙奈の三人がいた。
 留香の提案で、公衆トイレの中には入らなかった。中に入れば外からは見えないが、完全発症者――ゾンビが行為をするため、トイレに入ってくる可能性がある。そして万が一不意を突かれてしまうと、逃げ場はない。しかし、公衆トイレ自体は袋小路にはなく、四方向に抜ける道がある。それならば、いざというときに逃げられた方が良い、というのが、留香の考えだった。
「そう」
 短い留香の返答に、玲奈が少し不服そうな表情を見せたが、文句は言わなかった。それよりは、自分に近い脅威が少なくなったことの安堵感が強かったからだ。

 留香達の居場所に、凜、そして恵の姿はない。玲奈は、トイレの北側に見える、廃トラックに目をやった。二人はその荷台に隠れている。
 トラックは大型で、背面以外に出口はない。荷台の入口を閉めておけば見つかるリスクは極小だが、内側から鍵がかからないので、万が一外から見つかった場合にはどうにもならなくなってしまう。そして、荷台の外窓は運転席側にしかないので、荷台の中から外をうかがおうとすれば、荷台の入口を開けるしかない。だが、それでは「外部から見つからない」という利点を消してしまう。

 ――だから、二手に分かれた方が良いと思うんです。私達が外から見張るので、何かあったらすぐに助けに入ります。

 そう、留香は恵に提案した。
 もちろん、本音は違う。ウイルスに感染している凜、そしてその疑いがある恵を、自分達から遠ざけることが真の目的だった。
 感染の自覚がない凜はともかく、凜の感染を理解している(はずの)恵がそれを了承するかは賭けだったが、恵はそれを受け入れ、留香の目論見は達成された。

「本当に大丈夫かしら」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
 留香への不満ではなく、心底の不安がにじむ玲奈と、それを励ます沙奈。
 そりの合わない玲奈と一緒にいるのは不満だった(本当は玲奈に凜側に行って欲しかったものの、その策がなかった)が、重大なリスクを切り離したことで、留香は良しとすることにした。

 わずかに空いた入口の隙間から、恵は外をのぞいた。
 そこには、公園の芝生と、かなり遠くに見える大きなビルがある。その光景からは、エロゾンビの気配はみじんもなかった。
 恵は、荷台の入口隅に座り込んでいた。背中を荷台に任せ、脚を前に伸ばしている。
 恵は中央まで這って動き、中から指を差し込んで、荷台を閉じる。荷台の中は静かで、気持ちがとても落ち着いた。エロゾンビが寄ってくる危険は確かにあるが、このくらい静かならば、寄ってきたら気配で気づくだろうと思えた。それに、外からは留香達が見守っている――はずだ。
 荷台の内側に目を移す。恵とは斜の位置になる角に、凜が座っていた。尻を完全についた女の子座りで、背筋を伸ばしているが、心なしか疲れているように見える。

 凜がウイルスに感染しているのは、もちろん分かっている。そして留香が、凜の監視を恵に押しつけようとしたことも。
 しかし、拒否するわけにはいかなかった。凜がウイルスに感染したのは、自分のせい――恵はそう思っていた。だから、凜は恵が責任を持って、エロゾンビに堕ちないように守らなければならない。
 恵の瞳には、五人組のリーダー(自称)としての意地が浮かんでいた。

 ふと、玲奈は肩に重みを感じる。横を見ると、沙奈が玲奈に寄りかかって寝息を立てていた。
 玲奈と沙奈は、トイレ近くのベンチに腰掛けていた。極力肩を動かさないように、玲奈は顔の位置を戻す。
 気の弱い沙奈のことだから、きっと、昨夜は寝られなかったのだろう。普段だったら、間違いなく自分の部屋に来て、一緒に寝ていたはずだ。しかし、日没後の環境は、決してそれを許さない。
「……疲れるよね」
 向かいにいた留香は、車止めのポールのようなところに腰掛けていた(とは言っても、こんなところには車は絶対入れないのだが)。その瞳は寝入った沙奈を捉えている。とても、優しそうな瞳だった。
「そうね」
 しかし、玲奈が応じると、留香の瞳は冷たいものに戻る。
 玲奈はむかっと来た。
「高山さん、あたしのこと嫌い?」
 勢い余って、思わずストレートに聞いてしまった。内心「まずい」と思ったが、覆水は盆に返らない。
「……別に」
 一拍おいて、留香が冷たく否定する。
 その冷たさにさらにむかっと来たが、今度はこらえた。しかし、その代わりに、気まずい沈黙が場を包む。
 何分とも、何十分とも感じる長い沈黙に焦れたのは、留香の方だった。
「……でも、正直、苦手よ、貴女。感情に走りすぎ」
 最後の一言が、決定打だった。
「……あんたみたいに冷たい女に言われたくないわ」
「悪かったわね。私はこういう人間なだけ」
「あら、沙奈には随分とお優しいのに?」
「はぁ!? 何言ってんの!?」
 逆鱗に触れたというように、留香の表情が一変した。……しかし、二人の言い合いはそこで止まった。二人が、沙奈の視線に気づいたからだ。
「やめてよ……お姉ちゃんも、留香ちゃんも……」
 怯えるように、二人の顔を交互に見る沙奈。

 今度こそ、容易に打開不能な沈黙が三人に訪れた。

 凜の意識が覚醒した。

 寝ていたわけではない。ただ、身体の疼きと疲れで、ほんの先ほどまでぼうっとしていた。恵が絶えず話しかけてくれていたおかげで意識はつながっていたが、少し辛かった。
 その恵は、凜とは逆に、意識を手放しつつあった。首が据わらなくなり、こくり、こくり、と揺れている。凜は知る由もないが、恵は前夜の超長風呂が祟り、十分な睡眠時間を確保できていなかった。

 凜は恵を起こさないように、ゆっくりと近づいていく。恵のスカートからは長い脚が伸び、無防備な上半身にはニットに隠れた豊かな胸が浮かんでいる。

 どくん。

 凜を、心の奥底から突き上げるような感覚が襲った。
 もし凜が男なら、その感覚を「性欲が極限に高まっている時に、扇情的な女を見かけたときの感覚」と評しただろう。しかし、凜は女だ。そのような感覚をこれまで味わったことはない。
 凜はただ、自分の身体が勝手に恵に吸い寄せられていく、と感じただけだった。

 うつらうつらとした恵の、不安定な首の後ろに腕を回す。そのまま顔をぶつけに行き、額で恵の顔を持ち上げ、唇を奪った。
 自然に、舌を差し込む。ディープキスだった。
 びくん、と恵の上半身が跳ね、恵の目が見開かれた。しかし凜は構わず、恵を横に押し倒した。
「いやぁっ!」
 恵の激しい抵抗を見て、凜の全身はより一層熱くなった。
 犯したい。凶暴な想いに、凜の頭は支配されていく。

 凜は恵にしがみつく。恵はじたばたと暴れるが、凜の腕力には全く及ばず、なすがままに押さえ込まれた。普段の凜にはあり得ない怪力だが、凜自身はそんなことにも全く気づかず、ひたすら恵の身体を求めるだけだった。
「んぐぅっ」
 凜が再び、恵の唇を奪い、舌を差し込む。

 結果として、恵は凜をはねのけられぬまま、さらなる侵略を許すことになった。

 恵の抵抗を顔面と右腕で押さえながら、恵のニットを、中のブラウスごと腰から引きずり上げる。恵のなめらかなお腹、そしてブラジャーがその下から現れる。
 恵のブラジャーは、ライトグリーンのシンプルなものだったが、凜にはその形状は見えていないし、そもそも今の凜はその中身にしか興味がなかった。恵のFカップの膨らみは、仰向けでも決してしぼむことなく、ブラジャーを持ち上げるかのようにたたずんでいる。
 凜はブラジャーを引きちぎらんと、ブラジャーを引っ張り上げる。ブラジャー自身による数秒の抵抗の後、背中の留め金が破損し、ブラジャーは用をなさなくなった。
「ぐうぅっ!」
 恵が苦痛に表情を歪める。しかしその表情は、凜の嗜虐心を煽るだけに終わった。

 凜は両腕で、恵の暴れる両腕を力任せに押さえつける。
「ぎゃあっ!」
 その体勢が偶然にも恵の関節を痛めつける格好になり、恵の抵抗が弱まった。
 凜はあらわになった恵の胸部に顔を近づけ、その頂を目一杯に吸い上げた。

「ううううっ」
 恵はその衝撃を全身で受け止めた。性の経験が皆無に等しい恵には、その衝撃の意味は分からない。しかし、それをさして不快に感じなかったということが、良くないことだという予感がした。
 凜に舌を差し込まれたとき、恵は一瞬、凜の舌を噛みちぎることが思い浮かんでいた。しかし、いくら自分の身が危険でも、凜に対してそれを実行することはためらわれた。
 その躊躇が、恵に対する「傷」を深めることになった。

(何、これ……)
 凜に、乳首を中心におっぱいを責め立てられているうち、恵は全身の力が抜けていくのを感じた。
 乳首を中心に、痺れが全身に伝わっていく。その痺れが脳まで伝わり、恵の思考が揺さぶられる。
 全身の温度が上がっていく。途端に、上半身に布が擦れるのがうっとうしくなった。まくり上げられた衣服は役に立たない。邪魔なだけだ。
 関節の痛みで気づかなかったが、凜は恵のおっぱいに集中し、いつの間にか拘束は緩んでいた。凜が発していた激しい衝動の気配も、今はなりを潜めている。
 おっぱいの刺激に意識をかき混ぜられながら、恵はニットを、インナーシャツごとつまみ上げる。そのまま腕から抜き、頭上に放る。ホックが壊れたブラジャーも邪魔なので、同じように脱いだ。
 恵の上半身に衣服がなくなり、恵は言いしれぬ開放感に包まれた。改めて凜を見ると、凜はまだ、一心不乱に両方のおっぱいを舐め回し、揉みしだいていた。その様子が幼い子どものようで、何となく愛おしく思えた。
 すると、凜が恵の乳首を囓った。全力ではなく、優しく。
「はぅっ!!」
 未体験の衝撃に、恵は身を仰け反らす。経験値の無さ故、その衝撃が快楽だとはまだ分かっていない恵だが――もっとして欲しい、と思った。

 自分自身がどれほど危険な状態に置かれているか、という危機感は、既に恵からは完全に失われていた。

 留香は、後悔していた。

 沙奈は下を向き、玲奈は沙奈から目を離さない、というより、留香と目を合わせようとしない。三人の間には、重い空気が未だに漂っていた。玲奈とケンカになりかけて以来、発した言葉は数えるほど。さすがの留香も、参っていた。
 こういうときに恵がいれば――思わず、留香はそう考えていた。

 留香の計画には、一つ重大な見落としがあった。折り合いの悪い玲奈との間を取り持ってくれる人が、この場にいない。恵は腕も立つが弁も立つ。それに、場を柔らかくする雰囲気も持っている。決して相性が良くない玲奈と留香の間も、恵の雰囲気が取り持っていた、ということに、今さらながら気づく。恵がこの場にいれば、この重い空気もとっくに解消していただろう。

 太陽は大幅に傾き、日没は迫っている。林の中にいる留香の視界は、既に暗くなってきていた。――その時だった。
「……ねえ、あれ」
 留香が指さす。玲奈と沙奈が顔を上げて、同じ方向を向いた。
 遠くの方だが、人影が二つあった。男と女が一人ずつ。そして……女の方は、全裸だった。
 留香だけでなく、玲奈も沙奈も、その意味がすぐに分かった。ゾンビが性交する場所を求め、やってきたのだ。
「ここから離れましょう」
 留香の簡潔な提案に、玲奈達は即座に同意した。外敵を迎えたことで、重い空気は瞬時に、緊張感のある空気に入れ替わっている。
 留香は目の端で外敵を警戒しつつも、内心ほっとしていた。

 留香達は静かに、腰を低くしてトラックに向かった。荷台の後ろに回り込み、留香が中に声をかける。
「めぐ姉さん! 大島さん! ゾンビが!」
 どんどん、と扉を叩く留香。しかし玲奈は、中の反応を伺う前に扉を開く。留香が嫌な予感を覚える――その前に、玲奈が飛び退いた。

 扉が操作者を失い、ゆっくりと開いていく。
「そんなっ」
「ひっ」
「うっ」
 中では、二つの女体が重なっていた。留香の鼻腔に、埃っぽい臭いに混じって、独特の生々しい臭いが漂ってくる。
 二つの女体が身につけているものは、共にショーツ一枚だけだった。残りの衣服は、荷台の奥に散乱している。
 恵はライトグリーン。凜は黒。凜の方が、ショーツの面積は小さい。それは明らかに凜らしくない下着。しかし、今さらそんなことを気にする者は、この場にはいなかった。

 二人は全身を密着させていて、上に乗っているのは、恵の方だった。恵は、積極的に凜の唇を貪っている。凜も拒否する様子なく、恵の愛撫に積極的に応じていた。
 それは、恵と凜が、同じところまで堕ちている証明に他ならない。

「きゃあああああああああああああああああああああっ!!!」

 誰かの金切り声が、ちょうど日没を迎えた公園に響いた。

< つづく >

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