第二章の4
「お兄ちゃんっ、はやくはやくっ!」
「あら、ご主人様にせっかちゃん、おはようございます」
そこには竹ホウキをもってエントランスを掃いている新たな住人、華南がいた。
服装も昨日のチャイナドレスとはうって変わって落ち着いた色調と服に代わっている。なにより今の華南には萌葱色のエプロンがよく似合っていた。
ちなみに紹介は昨晩の内に済ませてある。
全員、これ以上増えることに異議を挟む者もなく、というよりなくて当然なのだが俺をさしおいて女同士の会話に花を咲かせていた。
そんな反応に返って華南の方が面を食らっていたが今朝のこの様子を見る分には特に問題はないらしい。まぁ、女の世界がどうなっているのかは分からないが。
「あぁ、おはよう」
「あ、おはようございます、華南さんっ!」
ごく自然に挨拶しあうとそのまま俺の腕を両手で抱えて引っ張ってくる。
「お兄ちゃん、早くっ」
「そんなに急がなくってもいいだろ」
「だって今日は日直なのっ」
「またか……」
俺のモノになって雪花は前に比べて場所をわきまえずに甘えてくるようになった。
他者の前では華南を除く他の面子は自重し、俺のモノになる前の態度でいるが、もともと仲の良い兄妹として評判だった雪花は[妹]の特権と言わんばかりにそれを利用した。
普段は千鳥と登校しているが、早いうちに登校しなければならない日直の日も以前とは違って俺を連れ出す口実にしかならなかったらしい。
別に害もないから俺も放置しているが黒くなっていく妹を見る兄の立場としては心持ち切なかったりする。
とはいえ、それまでは家でも学校でも付きっきりだった俺を独占できていた時間がこの登校時や昼休みくらいになったのだからこれくらいは大目に見ている。
「そんなに急ぐと転ぶぞっ!」
「だーいじょーうぶ―――…あっ!」
こっちを見て笑顔で返事をする妹の死角―――曲がり角から何かが姿を現す!
「危ないっ!」
「きゃっ!」
何かにぶつかって雪花は…出てきたそれに抱えられていた。
「せっか、大丈夫か?」
「あ…う、うん」
今、何が起こったかまだ把握していないのだろう、俺の安否の問いに生返事をする雪花。
「……」
そして、もう一人、同じ衝撃を受けたにも関わらず雪花を抱きかかえた一回り小柄な少女。
黒く長くそろえられた髪に小柄なその身体はまるで日本人形、分かりやすく言えば少し前の千歳のような印象を俺に与えた。
が、和人形と決定的に違うのは着物ではなく、雪花と同じ和服をベースとした学園の制服を着ていたことだった。
女子制服の腰の帯止め―――リボンの色が雪花と同じところを見るとどうやら同じ学年らしい。
「妹がぶつかって悪かった…大丈夫か?」
今度はそちらの少女に向って聞く。少女はこちらにややキツそうな目を向けてきた。
ちなみにキツそう、といっても睨んでいるわけではなく、切れ長で真面目そうな瞳、ということだ。
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「迷惑をかけたのはこっちなんだから謝る必要はない。せっかも、もう大丈夫だろ」
「あ……う、うん」
そう言って少女の手から離れる雪花。
二人とも制服を着ていなきゃ絶対、学校の分類を間違われてるだろうな……
まぁ、さらに間違われそうなのはその上にもいるが。
そんな余計な事を考えていると雪花は少女に向かって口を開いた。
「それじゃ遼燕寺さん、どうもすいませんでした」
雪花がぺこり、と丁寧にお辞儀をしてそのまま俺の手を取る。
「あ―――」
遼燕寺と呼ばれた少女は何か言いたそうにし、それに気付いた雪花はもう一度ふり向いた。
「どうしました?」
「あ…い、いえ……何も……」
そう言って背低の同級は雪花から目をそらした。
「それじゃお兄ちゃん、いこ?」
「あぁ……」
そう答え、もう一度後輩のほうを見ると後輩と眼があった。
「―――……」
みなぎの無表情にも似ているがこちらは純粋に真面目なのだろう。強い視線には意志が感じられた。どんな意思なのかは影を踏んでいないのでわかりはしないがまぁ、見るからにかたっ苦しそうだった。
「…………どうした?」
「……いえ、なにも」
なにも、と言うには今の視線は不自然すぎる。
気になる。何を考えているの影を踏―――
「お兄ちゃん、はやく!」
「ん、あ、あぁ、分かった」
そう言って手を引かれそのまま後輩を背にした。
「…………め」
「!―――?」
今、何かあいつが呟いた気がしたが…
「お兄ちゃん!」
結局何を言ったかわからず俺はそのまま雪花に引きずられるハメになった。
「そんなに急ぐ必要もないだろ。これなら余裕で学校に着く」
「だーめっ。少しでも長く二人きりになりたいのっ」
「…あんま大声で言うことじゃ。ない」
そう、ただ連れ回されるだけなら問題ない。
問題は雪花が所かまわず俺を求めてくるようになったことだったりする。
手早く日直の仕事を終えた雪花が連れ出したのは屋上だった。
「…この前は男子トイレで今日は屋上、ね」
いざとなれば女の方が肝が座るというが…我が妹ながら末恐ろしい。これ以上ないくらいマニアックな場所をチョイスしては見事なまでに人がいないという入念な下調べっぷりには舌を巻く。
にしても、暑い。
初夏の朝日は思ったよりも強く、日陰に入っても暑い。少し離れた日向では熱を吸収したコンクリートが朝日を吸収し地表に陽炎を作っていた。
だが、目の前の発情した妹にはこのくらいの暑さは気にならない程度に熱くなってしまっているらしい。息を少し荒くして背伸びでも届かないのに一生懸命にせっつき、口と口を近づけようとしてくる。
…ま、起き抜けにはちょうどいいか。
意を汲んで強く抱きしめて顔を近づけるとたまらない程の幸福感が指環から伝わってくる。
「んつ、ぷはぁっ、んっ、んつちゅうぅっ、んふぁっ」
雪花の舌が積極的に俺の口内の粘膜を刺激していく、俺もそれに合わせて自分の舌を割り入ってきた小舌を覆うようにして舐りあげる。
「ひぁうっ!ふぁああぁあっ、んくっ、んんふぁっ!」
舌を犯され、口が閉じられず、これ以上ないくらいに甘え声で喘ぎ、ぶるぶるっと体を震わせる。
軽くイき続けているのかかくん、と雪花の体から力が抜け俺の腕の中の重みが増す。と言ってもそれでもかなり軽いのだが。
制服の上から小ぶりな胸を揉む。
「んんんっ、はぁ…っ、んふぅ…んっ……」
制服と下着越しで一番敏感な場所にピンポイントに触れてもらえず、もどかしそうな声をあげる。
ぐっと押し出そうとするがいかんせん胸のボリュームが足りず、昂りはするものの、一番欲しい刺激がもらえず、色んなイミで目元に溜まった涙が大きくなる。
…ここで胸をはだけさせてもいいんだけど誰か来るとメンドくさいな…
この学園内ではあまりくだらないことで指環ははめようと思わない。
少し考えて胸への愛撫を止めて他の部分―――さらに手を下にズラし、ヘソの窪みに親指を埋めてから更にその下、スカートの裾に手を入れる。
…雪花はというと…まるでオレの手がそこに近づくにつれて鼓動が高鳴っていく。まるで金属探知機の反応のようにそこに近づくにつれて欲求が高まり、最も強い反応が―――
「ふぁあっ!そこっ!そこそこぉ…っ!」
一番望んだ場所に触れられ、ぞくぞくっと身体を震わせ思わず声を高く上げる。
すると俺はすっ、と指を脇にズラし足のつけ根周辺を焦らすようにさすりあげる。
「んんっ、そ…そこじゃないの…っ」
「そこ、じゃ分からない。どこがいいんだ?」
「ぇ…あぅぅ…」
さっきまでの積極性はどこにいったのか途端、恥ずかしそうに口ごもる。
「早くしないと時間がなくなるぞ」
「くぅんっ、ぉ…ぉまん…こ…」
「ちゃんと言え」
「ぅぅぅ…ぉ…ぉまんこぉ…っ」
「ここか?」
「きゃうっ!ち…違うのぉ…っ、そこおシリの穴…ちがうの、おまんこっ、おまんこしてぇっ!」
するともどかしそうな声からとうとう我慢できなくなったのだろう、はしたない声を張り上げる。といっても元々、声が小さいので全く問題ないのだが。
「ここか?」
そう言って軽く淫核を押しつぶしながらくちゅり、と粘質のある湿り気の沸く陰唇をなぞるように擦り上げる。
「ふあぁっ!うんっ、そぅっ!せっかのおまんこっ、えっちなおまんこさわってっ、ほじってほしぃのぉ…っ!」
たまらなさそうに喘ぎ、淫語をまるで自分に言い聞かせるかのように恥ずかしそうに微笑みながらなんとか俺に聞こえるくらいのボリュームで叫ぶ。
…そろそろいいか。
「せっか、壁に手をつけ、いれてやる」
「うん…っ」
嬉々としてスカートを捲って白と藍色のストライプがプリントされたパンティに包まれた小ぶりな尻を突き出してきた。
ここ最近、アダルトな下着を見慣れていた為、妹の子供っぽい下着に心なしか安心した。
壁に手をついてこちらに背を向けた実妹をよく見る。
幼い顔立ちに小柄な痩躯、ショートに切り揃えられた髪は兄の俺の髪が分離しているのに対し、最近気づいたが深い蒼色をしている。
贔屓目に見なくても可愛い分類に入るだろう。
だが、それが雪花の最たる魅力じゃない。俺にとって雪花の最も魅力的な部分、そこは―――
ぐちゅっ、ぬりゅうぅっ、ぐちゅうっ!
膣中、だったりする。
ひかりのような名器でもみなぎのように全体が小さく締めつけて来るワケでもない。
だが―――ズバ抜けて俺のモノと相性がいい。
…いや、相性がいい、なんてレベルじゃすまない。良すぎるのだ。
入れても抜いても俺の感じるポイントを絶妙に刺激してくる。
近親者との身体の相性は自然といいとウワサで聞いたがどうやら俺と雪花の間ではそれが当てはまるらしい。
その証拠に一突きする度に背徳感とあいまって俺のペニスの硬度が増し、大きくなっていく。
「はっ、んっ、くぅんっ!おにぃっ、ちゃんのおちんぽぉ…っ、ひぅっ、お…大きくなってくぅ…っ!」
最終的にはぎちぎちに拡張することになり、最初は濡れきっていなかったため少し引っかかる感じがあったものの、性感帯をピンポイントで刺激しあう身体の相性がすぐにそれを解決する。
「んっ、すごぃぃ…っ、ふぁっ、んんっ!おにぃちゃんチンポぉ…っ
おにぃちゃんチンポぉ…っ!すごっ、スゴいよぅ…っひぅっ!くぅんっ、あっ、あっ、あああっぁぁぁぁっ!」
うわ言のように呟きながらこちらにも聞こえるように今まで言うとは思えなかった言葉をつぐみ、こちらの反応を確かめてくる。
ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!
「ひぅっ!んっ…くぅんっ、くるっくるくるっ、またキちゃうっ!」
俺の肉棒が淫妹の肉壷を突く度にぴゅっぴゅるっと勢いよく潮が吹きだし屋上の壁に恥ずかしい染みを作っていく。
「声が大きいぞせっかっ!もしかして誰かに見つけてほしいのかっ?!
「んっ、いやぁ…おにいちゃんっ、おにいちゃんだけなのぉっ!わたしのっ、えっちな姿見ていいのは…っ!おにいちゃんだけなのぉっ!」
涙目になって俺を求め、引かぬ波になって訪れる快感に抗えずはぁんっ、と歯を食いしばることが出来ずによだれが垂れる舌を口外に出して俺が与えるもの全てに身を任せようとする。
ちゅっ、ちゅぽっ、ぬぷっ、にゅぷんっ!
「ふぁっ、んふぅっ、ひんっ!ひぁあ…んっ、くぅんっ!」
イキまくる妹の膣内の絶え間ない締め付けに俺の方も射精衝動が急速にこみ上げていく。
「っ!せっかっ、そろそろイクぞっ!どこに出して欲しいっ!?」
「わたしにぃっ、わたしのなかにぃっ!子宮のなかにだしてほしぃのぉっ!」
びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!
「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!
ひっ!?あ、ふぁっ!ふぁっ!ひぃああああぁぁぁ~~~っ!」
どぴゅっ…びゅる……ぴゅっ……
「ぁはぁ…っ、でてるぅ…♪おにいちゃんのせーしいっぱい入ってきてるぅ…っ」
俺は簡単に表面についた淫液をふき取ると雪花に足首までずり落ちたパンティをそのまま上げさせる。
すると次第に秘裂の形に染みができ、うっすらと透けて雪花の形に張りついた。
もちろん俺の膣内射精した精液によるものだ。
「今日はそのままでいろ」
「…っ、はいっ」
「どんな気分だ?」
「すごく…えっちな気分…で、すごく…幸せです」
そう言いながら綺麗に窪んだへその回りを撫でまわし、潤んだ目で精液で満たされた自分の性器を見つめる。
匂いでバレるかバレないか、など頭にはない。在るのは俺のザーメンが自分の胎内に感じられるか否か、感じられれば幸せになれるようになっている。
それを見て思わず口端をつり上げる。
…ずいぶんと変わったな。
エロい方が好きだといったがここまで成るとは…いや、これがオマエの本性だったのか。
俺がオレであったようにお前も普通じゃないのか。
それとも俺の望んだ―――まぁ、どうでもいい。お前がどんなモノであれ関係ない、お前は俺のモノだ。
身支度と後始末の終わらない妹を置いて階段を下りて自分の教室に帰ろうとすると踊り場に見知った顔が在った。…そうか、確かウチのクラスの日直は確か…
「で…なんでこんなところに?」
「………別に。貴方がここにいるから来たんじゃありません。朝の教室は少し淋しいから…」
相変わらずウソが下手だな。
「で?感想は?見てたんだろ?」
「…っ!このケダモノっ!いつでもどこでも妹ともだなんて…っ」
「あれでもオマエのセンパイだぞ。俺のモノになった順では、な」
「わたしは貴方のモノにはなっていません…っ!」
「その割にはフトモモに何か垂れてるぞ?盗み見してなにしてたんだ?」
「え!?うそっ!」
すかさず股間を抑える。が、
「ウソに決まってんだろ。その代わり―――普通、指はそんなに光ってないよなぁ?」
そう、その手には糸を引く粘着質の無色の液体が厳しさを増す日光の光を受けててかっていた。
「………………っ!!」
「ちゃんと手ぇ洗っとけよ?」
そうからかうように言うと後ろに視線を感じながら…というか睨まれながらそのまま2段抜かしに階段を降りていった。
昼休みになり、司書の真似事でもしようと席を立とうとした俺の前に雪花と千鳥のコンビがやってきて屋上へと拉致られ、昼飯となった。
目の前に広がった漆器の重箱の中は容器に似つかわしくない彩りでタコウィンナーやハンバーグなどの洋食がメインで詰め込まれていた。
少し離れたところではひかりとみなぎが和食の入った同じ重箱を広げ、俺の隣で雪花がしているようにみなぎがひかりの分を小皿によそっていた。
みなぎは器用にもよそっている際中、俺を見てこちらに来たそうにこちらを窺い、俺も別に構わないぞと頷いたが少し苦笑して困ったように隣のひかりを見る。と、別段、隠そうともせずこちらをジト目で睨んでいた。
どうやら朝の行為を咎めているらしい。
ちなみに千鳥の方も薄々気付いているらしいがこちらは当人たちの問題、と言うことで何もいう気はないようだがうっすらと高潮しているところを見ると雪花から漂う俺の匂いに発情しかけているのかも知れない。
ひかりはというと心なしか時折、行為をしていた場所に眼をやり、そこを見る顔が赤い。
…これじゃ取り付くしまもあったモンじゃないな。
そう思い、妹の方を向いて出してきた俺の好物ばかりがよそわれた小皿を取って朝から抱いていた疑問をぶつけた。
「なぁ、せっか、今朝の女は知り合いか?お前は名前知ってたみたいだけど」
「遼燕寺さんのこと?違うよ?あんな有名な人が私を相手にするわけないよ」
「りょうえんじ?」
「そう、遼燕寺 佐乃さん。
武道全般をこなしていてあわせて30段を持ってるっていうウワサで強盗や変出者を撃退したこともあるんだって」
「ふぅん」
「あ、それアタシも聞いたことある。
たしか、剣術道場の一人娘で頭の方も学年トップクラスで、まさに文武両道。
1年生なのに全学年の女子たちがファンクラブを作ってるんだって」
「物好きってなぁ、どこにでもいるもんだな」
「で、なに?
物好きなジュージは今度はあの娘をターゲットに定めたワケ?」
からかうような口調の千鳥は自分専用のLTサンドにパクつきながらからかってきた。
ちなみに実家の都合によりBは入っていない。
「そんなんじゃないけどな…」
返答する。そんなんじゃない。ただ気になっただけだ。
今のマンションに越してこの二週間、同じ通路を使ってこの学園に通っているがアイツを見たのは初めてだ。
「そっか。あの娘の家って近いけど通学路が被るって程でもないモンね」
そう言う千鳥の手首には先日渡したアミュレットが光っていた。
授業中、千歳がとがめても実家の宗教上の理由で、と平気な顔してホラを吹いた。
オマエの実家は寺じゃねェだろ、とツッコミを入れようとしたら金縛りにあった。千鳥の手にはお札のようなもの、というかお札なのだろう、が器用に千歳には見えない角度、横にいる俺にはモロ見えの垂直におさまっていた。
アレか。これがアミュレットの効果なのか、つーかなんだ、そのお札は。とか一人ツッコミを入れながらどんな辱めを与えてやるか考えていたのは言うまでもない。
「つーかオマエ、あのお札はなんだったんだ?」
「おふだ?」
「あぁ、さっき俺が正義を行おうとした所をいかがわしいお札を使って妨害しやがった」
千鳥が術を使えた事に関してツっこむ気はあまり、ない。
指輪の事もあるし、なにより何もなくてもみなぎは影を縫ってきた。
だが妹にとってはあなたの知らない世界だったらしい。
「わ、お姉ちゃん陰陽師?」
「や、ウチ陰陽道混じってない普通の神道だし。つか、いかがわしい違うわ。
あれは本尊に奉られてるヤタガラスのお告げよ」
「なんだ、そのうさん臭い話は」
ちなみにヤタガラスってのは神話に出てくる道に迷った初代天皇を導いた神鳥のことだ。
八咫烏と漢字で書き、サッカー日本代表のシンボルマークにもなっていて鴨屋神社の祀神でもある。
「3日前、ジュージから指輪預かったじゃない、あの日ね。境内の掃除をしてるとなんと言葉を話すカラスが!
…ってまぁ、それは夢だったっポくて気がついたら賽銭箱にもたれかかってたんだけどね」
めっさストラスじゃねぇか…
「で、そのカラスが言うにはなんでもアタシにはナントカってのがあって術を使う才能があるとかで。
モノは試しに社務所にあったお札を参拝客に使うとなんとこんなことができたのでした!どうしたの、ジュージ」
冷めた白米の中に顔面を突っ伏した俺は人知れず悪態をついていた。
なんのつもりだアン畜生。
自然に囲まれた場所が好いってんならいっそのこと地中10メートルに埋めてやれば文句も勝手なこともできないよなぁ…
などと結構本気で考えているそばから声がかけられた。
「あ、そうだ、お兄ちゃん」
「ん、どうした?」
「午前中、体育行くときに下駄箱にこんなのが…」
「ん?」
そういう雪花が差し出したのは一通の封書だった。
手にとってみる。いたってシンプルな白い封書の外には何も書かれてはいなかった。
「なにそれ?」
千鳥が疑問系の声を上げると雪花は困ったような声を上げる。
「…らぶれたー…」
「おぉ、おめでとう」
「うん、ありがとう……じゃなくて!
わたしお兄ちゃんのモノだし…それにこれ、お兄ちゃん宛てじゃないのかな…」
「どうしてだ?」
「だって、中…」
「ちょっと貸して、えっと…なになに?前略、烏様…」
千鳥が宛名のない封書の中を取り出し、音読する。
ヒトのラブレター?を音読するその神経もどうかと思うがとりあえず雪花がとめないのでそのまま続けさせる。
「このような形で用件をお伝えする無礼をお許しください。
どうしてもお伝えしたいことがあります。
放課後、校舎裏にてお待ちしています」
「なんだ、普通の呼び出し内容じゃないか―――」
その呟きは次の瞬間、無用の物と化した。
「りょうえんじ、さの」
「……はい?」
「その、ね?相手、女の子、というか遼燕寺さんなの。これってお兄ちゃん宛てじゃ…」
困ったように顔の前で指を組む雪花をよそにオレと千鳥は後ろを向いて内緒話を始めた。
(どうするよ?アレ、たぶん雪花宛てだろ?)
(…おそらく、十中、八九。女のカンを加えると、九分九厘)
…ほぼ確定かい。
まぁ、そもそも雪花が迷っているのだからアレは雪花宛てだろう。
雪花は他人の俺に対する好意や嫌悪、すなわち感情を敏感に感じ取ることができる。もし、これが俺宛だったらもっとはっきりとした言い回しにするハズだ。
校舎裏に来て、と言ったことからシメるのかとも思ったが、朝のお礼参りなら[無礼をお許しください]などとは書かないだろう。あの場でこちらを叩き伏せてるハズだ。
(イヤね?ウワサはあったのよ。後輩から恋愛相談よくされるんだけど遼燕寺ってコに憧れる女子は多くて告白するんだけど断られてるって)
(で?それと雪花とどうつながるんだよ?)
(いいから聞きなさい。
その断る理由って言うのがね、私には守ると決めたヒトがいるから、だそうなのよ。
で、彼女の周りはいつも女子でいっぱいだから男子が近づこうものならアタシのかくいなのネットワークに引っかかるけどそんな話は聞かないし、なにより、ジュージ、彼女と面識ある?)
(今朝、雪花を抱きかかえた時に会話した程度であんなのがいるだなんて知らなかった)
(でしょ?まぁ、遠くから見てたってセンも無くはないんだけど…
それに彼女、あんな雰囲気だからまともに会話できる人間はそういないの。
その点、せっかは物怖じしないで誰とでも話すから)
あぁ、確かに。見るからにいかがわしい浮浪者や中年じゃなければ…いや、そんなのにでも平気で笑顔で挨拶をするからな。
(その上、校内ランキング、守ってあげたい部門5位以内に入ってるからねー。あ、一年じゃトップを争ってるくらいよ?)
(…ンないかがわしいランキングどこで作成してんだか知らないが言いたいことは、分かった。
んで、どうするよ?)
(そんなのアンタが考えなさいよ!ご主人様でしょ!)
オマエのその態度はとても主人に対する礼儀がなってないと思うんだが、という言葉を思いとどめる。それはひとまず置いといて問題は放課後、雪花をどうするか、だ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、どうしたの?」
「…いや、なんでもない。それよりだ、雪花」
「うん?」
「とりあえず行ってみろ、とりあえず勘違いにしろ、話を断るにしても話を聞かないことにはどうしようもないだろ」
「う、うん」
(ちょ、ちょっといいの?相手はキレたら手がつけられないのよ?)
(だいじょぶだろ。流石にそんなことにはならない、と思う)
「とりあえず勘違いだといけないからお兄ちゃんも来てくれる?」
…ヤブ蛇だったか。ま、いいか。こんなオモシロそうな見世物も、そうはないだろ。
「分かった。物陰で隠れて見てるんで遼燕寺が勘違いしてたら呼んでくれ」
「うん、ありがと」
「ん」
ま、今日は指輪探しもお休み、か。
「千鳥はどうする?」
「悪いけどアタシはパス。
こんなオモシロそ…じゃなかった、一大事だから立ち会いたいんだけど教室に顔出さないと。最近、サボる連中が多くてねー、少しくらいちゃんとしておかないと、ね」
そう言ってこちらを見る。
「…あー、そんなにサボりが多いのか?」
「まずはゴシュジンサマ、あとはくいなに―――他、8名、自分の部活に手伝いに行ってるのを含めると残り10人位で半数以上が女子。
士気は軒並み低くなっておりますが何か?」
「…理解。サボってる連中を説得して手伝いに行かせる」
ついでに情報収集に出かけているくいなと合流して街の現状を確認することにしよう。
ちなみにここでの理解とは了解の短縮形だったりする。どうでもいい事と言ってしまえばどうでもいいが。
情報収集しているくいなはともかくとして他のサボり連中は指環の力を使えばどうとにでもなる。
つーか23時間強制労働だ。優しいので1時間だけは自由を認めることにする。
にしても―――
「平和だなぁ」
この二人が俺のモノだって事も、この街が混沌としてきているだなんて感じさせないくらいの、空。
どんな魔王の世界の空よりも本物のソラを仰いで―――昼休みの終わる鐘の音を聞いた。
放課後。
約束通り俺は校舎裏の向こうから死角になる位置、1階男子トイレの窓から雪花を窺っていた。
雪花が着いて5分くらい経つが遼燕寺は一向に姿を現そうとしない。
…遅いな。
まぁ、時間の指定がなかったし、こんなものなのかもしれないが案外いい加減…と、物思いにふけっているといつの間にか雪花の周りに数人のガラの悪い連中が集まっていた。
男どもがあからさまなのだろう、困ったようにこっちを向く雪花。
確かに、向こうがなにかして写真にでも撮ればそれをネタに脅せそうだモンな。妹ながら。
…はぁ、メンドくさい。
ため息をつきながらトイレの窓から身を乗り出そうとする、とようやく[それ]が顕れた。
音も気配もなく、雪花と男どもの間に割って入り、睨みつける。
「どけ、彼女は私が呼びたてしたんだ。もし、なにかするというのだったら……」
っ!
思わず息を飲む。
やべェ。
コイツは―――殺気だ。
しかも完全な指向性。最近感じ慣れていなかったら俺でも気付かないほどのそれはこちらに向けられているのではなく、男どもに向けられている。
雪花はというと、当然というべきかなにも気付いた様子もない。
男どもは鈍いのか、それともただの命知らずなのかそれにひるむことなく声をかけ、遼燕寺共々、手を出そうとするが、次の瞬間、眼前に木刀を突きつけられ、ようやく理解した。
自分の行為のおろかさと命が風前の灯なのを。
あと一秒でも害意を持って振る舞えば警告もなしに命かそれと同等以上のモノを剥奪されるだろう。
……まぁ、奴らにしか感じない殺気というモノを背後からも感じていたのだから当然といえば当然なのだが。
奴らの生物としての本能が感じ取れるくらいのそれを俺も発していた。
連中は冷や汗をかきながらつまらなさそうに何か吐き捨てるとそのままどこかへ行ってしまった。
「遅れてしまい申し訳ありません。大丈夫ですか、お怪我はありませんでしたか?」
「ありがとう、遼燕寺さん」
「いいえ…」
そう言いながらも遼燕寺の視線はこちらに向いていた。
…流石にあんだけ強いのを出しときゃ気づかれるか。
雪花もそれに気づいたのか慌てたようにカバーに入った。
「あ、あそこにいるのはお兄ちゃんっ。
もし、手紙が勘違いでお兄ちゃん宛だった時のためにきてもらったの」
そう言うとあぁ、と呟いてこちらに会釈した。そして雪花に向き直り落ち着いた笑みを浮かべた。
「いえ、大丈夫。貴女に出したんです。烏 雪花さん」
「あれ、私の名前―――」
「はい、以前から存じあげていました。今朝はすいませんでした」
「ううん、よそ見してたのはこっちだし。こちらこそすいませんでした」
頭を上げあって微笑む二人。
それを聞いて俺は気配を消した。
もちろん、特等席に居続けているのは言うまでもない。
二人もいつまでも男子トイレを見ていることに気恥ずかしさを覚えたのか視線を校外に向けていた。
「それで、遼燕寺さん、大切な用って?」
「あ、はい…あ、ああああのっ」
さっきの凜とした静けさはなく、上気した顔で舌足らずに雪花を呼びかける。俺がいることで言いにくいことなのかもしれないが、まぁ、そんなのオレが気にするこっちゃない。
「なぁに?」
「…すっ、すすすす好きです!某の姫になってくださいっ!」
ぶっ
思わず吹き出しそうになる。なんちゅー時代錯誤な…
「うん、私も遼燕寺さんのことカッコよくて好きだよ?」
「いいえ、違うんです。
某の好きは友達としてじゃなくて、ええと、そのぅ、好きあう者同士の好きであって…」
しどろもどろになってどうにか説明しようとする。
こうなってはこれまでの冷静さはどこにもない。顔を上気させ、意味もなく腕を上下させては息を荒くしてなんとか言葉を紡ごうとする。
…結構、笑えるな。
「ですから、ヘンかも、気持ち悪いかもしれませんがそれが某のっ!わたしの気持ちなんです!」
おぉ、言いきった。
一方、告白を受けた雪花はというと、平然と同性からの告白を受け止めていた。
「ううん、ヘンじゃないよ。好きなヒトを好きだって気持ちは誰にも止められないもん」
「じゃ、じゃあ……」
拒絶されず、不安げな顔から一縷の望みを手にしたような、救われたような顔をして雪花を見る。
だが、
「でも、ごめんね?もう私は―――」
お兄ちゃんのモノだから
何の澱みもなく、だがそれ事態が澱みとなって遼燕寺をうちのめした。
「ひ……ひめ?」
声が震えている。
「私の全てはお兄ちゃんのモノなの」
「つーワケだ。悪いな」
いつの間にか窓から出てきた俺に雪花が近づいてくる。
「…………」
「お兄ちゃん…………」
ぴと、と俺に抱きつくとそのまま身を預けてきた。
「ウチの妹が世話になったな」
「……貴殿は自分の妹を牙にかけたのか?」
「貴殿とは……また古いな」
「答えろ」
からかうような俺の声を一蹴した遼燕寺の視線は今まで会った中で最も敵意に満ちているモノだった。
まるでそれだけで人を殺せそうなくらい真っ直ぐな刃となって俺の瞳に吸い寄せられる。
なら、
「あぁ、オレにとって都合のいい願いなら何だって叶えてやるぜ。
証拠だ。せっか、見せてやれ」
「うんっ」
そう言うと雪花は躊躇せずに自分のスカートをめくり自分と俺の体液の混じって染みになった下着をあらわにした。
「やめて…っ!止めてください姫…っ!」
「ほら、目をそむけるな―――この中に答えがあるんだから」
そう言って俺は雪花の下着の中に手を入れ潤滑油でよく滑る秘裂にそって人指し指を浮き沈みさせて見せる。
「う…ん…ッ」
甘い声が場に上がる。
「朝ね…?お兄ちゃんに溢れる位、いっぱい注いでもらったの。
今日はそうやって過ごしてたんだよ…?んふぅ…っ」
今だ妹の膣中からは朝、俺が出した白濁液が溢れ出し、そのままそれらが付いた指を雪花の口に近づけるとそのまま愛しそうに舐めだし、あっという間にきれいにした。
「―――これが答えだ」
悲痛な叫びが場に上がる。
「止めてくださいっ!貴様も!分かったから姫からその手を離せ!」
「なんだ、兄妹のスキンシップを邪魔するのか?」
「っ…都合がよければ人の道を外してもいいというのか……っ!」
「そんなルール誰が決めた?オレはオレのルールしか守るつもりはないぜ。そもそもオマエもヒトのことは言えねーだろ」
それを聞くやいなや
「外道……もはや姫の兄とはいえ容赦ならんっ!キサマから姫を救い出すッ!」
「ヒトの妹を勝手にお姫様なんかにすんなよ」
「もはやヒトだとも思わんっ!」
そう言って遼燕寺が制服のポケットから取り出したのは俺の左手に嵌まっているのと同じ―――!
「!っ結局、そうかよっ!」
出会ってから互いに…そう、互いに感じあっていた。
コイツは敵―――だ!
< つづく >