第二章の8
「あらあら、これは掃除のやりがいがありそうですねぇ…と、みなさーん、朝ですよー」
穏やかな透き通った声がかけられる。
この声は……華南か。
「さぁさぁ、早く起きないとご主人様に嫌われちゃいますよ~」
すると、うー、と呻くような声があがり、華南の胸元くらいの背の白スク水少女たちがぞろぞろと畳まれた制服やスーツを持って浴室に行く。
ヤる前に持ち込んでたのか…なんか最近、とみに準備が良くなってきたなアイツら。
昨晩の相手達が寝室からぞろぞろを出て行くと再び部屋の中は静寂に包まれる。
「―――……」
カーテンが日の光を受けて柔らかい光が部屋を満たしている。
そんな中、俺と華南が静寂の中に取り残されている。
タバコを吸う奴だったら性臭の染みつき出したこの部屋に紫煙を吐き出しているところだろう。
まぁ、俺は雪花の身体の事もあったので吸っていない。
華南はただ静かに微笑んで部屋の中に佇む。
静寂に耐えられない奴なら居たたまれないだろうが俺達は自然体でそこにいた。そして、浴室の方が騒がしくなった頃、ようやく華南がこの静寂を破ってきた。
「―――……ご主人様、二つほどいいでしょうか」
「…なんだ?」
「新しい住人を募集したいと思うんですが…」
「―――…」
黙って続きを促す。
「この前、買い物で近所の商店街を歩いていたらこのマンションのことが噂になって来ているようで…
新築なのに人が住んでいる気配が余り無いとか…
なのでこの際、1、2Fのみ女性専用として解放しようと思うんです」
なるほど、な。
高台にある20F建ての高級高層マンションに10人にも満たない人間、しかもそのほとんどが未成年(に見えるのも含む)しか住んでいなかったらそりゃ噂も立つ。
周囲にあまり民家はないとはいえ、このままじゃここも他の地域同様、都市伝説の舞台になりかねない。
特に害はないとはいえ、人から注視されるようになるのも面倒だ。
「―――…5、6Fには誰も住んでいなかったな?」
「え?はい」
「じゃあ5、6Fだ。
女性専用で防犯の事を考えたらそれ位が妥当だな。わざわざ必要以上にオマエの仕事を増やす必要も無い」
1Fと2Fでは侵入経路等の関係から起こる犯罪の数も断然に変わってくる。
だが、2Fも不必要すぎるガッツでアタックしてくるバカがいないとは言い切れない。
警備会社にいらない監視をされるのも癪に障る。
ちなみに10F以上の高層階は各階ごとにめいめいが自由に使っている。
なのでそれくらいが妥当だろう。
「ありがとうございます。では学園生から20代に限定して入れるようにさせて頂きます」
…流石、華南さんの仕事に死角はない。
「家賃の設定も任せる。あくまで人を入れるのが目的だから安めでいい、収入に関しては小遣い代わりに受け取ってもらってくれて構わない」
俺がそう言うと華南はあごに手を当ててさもおかしそうに表情を崩した。
「もうっ、私は身も心もご主人様のモノですよ?」
「…それじゃオレの為にでも使ってくれ」
こちらがあきれた声で応答すると嬉しそうな顔をしてはい、と返事をしてくる。
「承知してくださってありがとうございます。あともう一つなんですが…」
なんだ?今度はペットでも―――
「他の指環使いの所在を一人だけ知っているんですが」
「!―――話せ」
「はい、ですが時間の方が…」
時計を見る。あぁ、確かに。そろそろメシを食って登校の準備をする必要がある。
「…急ぐ必要は無いのか?」
「はい、あの人は動くことなくあそこにいると思いますから」
あの人、ね…
興味は引かれるが華南がこう言う以上、急ぐものでも無いのだろう。
「分かった。学園での用事が済んだらすぐに帰って来る」
「お待ちしています」
甲斐甲斐しくお辞儀して見せるとそのまま朝食に遅れないように、と微笑んでそのまま寝室を出て行った。
浴室の脱衣所付近が騒がしくなってきた。そろそろ俺の方も準備をするか。
さて、次はどんな変わり者に出くわすのやら―――
その後、学園では隣のクラスにいる芸能人の肉親が事故死したとかでマスコミ関係者が入り口に待機してウザかった事以外は変わった事もなく、後は学園祭の準備が着々と進められていた。
俺はというとひかりから言いつかった俺一人用の膨大なタスクを終わらせ、昼休みに第2図書館を開けたら午後の作業時間にはマンションに戻って来ていた。
まさか5人が一日かけて終わるかというあの量を午前中で終わらせるとは思っていなかったらしい。というか一日中、穴を掘って埋めるような作業をさせようとしていやがった。あとで何かしらの報復行動を執っても文句は言われないに違いない。
帰宅した後の俺の部屋は昨晩の情事が夢では無いのかと思われるほどに片付けられていた。
まぁ、華南の仕事なのだが―――案外、この仕事、天職なのかもしれない。
早速、例の話を聞きたいのだが…帰った時、エントランスを通る際に管理人室を覗いたのだが華南はいなかった。
書き置きもなかった。
「どこに行ったんだか…」
買い物か。いや、買い物なら書置きがあるはず…どうしたモンだか。
「大将、大将」
嘆息していると不意に指輪から呼びかけられる。この呼び方をするのは今のところ一柱しか思いつかない。
「オロバスか。どうした?」
「こんな時こそ探知能力のある指輪の出番だZE」
「なにがZE、だ。そもそも探知能力は大体、どこにあるか位しか分からないだろう」
以前、繁華街にいた華南を探そうと思って使ったものの、大体どこら辺にいるか、方角は分かったがどこにいるかまでは分からなかった。
「ちっちっち」
まるでお前は2番目だと言わんばかりに軽薄な声で否定してくる。
「甘いなぁ、大将。同じ能力が使える連中はごまんといる。そいつらの能力が同じようにしか使えないんだったらその威力はどうやって高める?」
この場合、大将に走っているのは回路、指輪は能力発現の為の電池、能力の精度が光の明るさなのだと馬公子が言う。
「……なるほど」
俺はポケットの中に入った指輪の中から目当ての探知用の指輪を更に取り出すと指輪を抜かずにそのままその上に嵌める。
すると―――華南の位置がより精確に知覚出来た。
「ご名答♪」
「こんな機能もあったのか…」
「あぁ、あの管理人ちゃんはちゃんと大将を見つけられただろ?ま、大将と闘り合う時には並列に付け直していたがね。
今まではたまさか能力が重複する連中がいなかったから教えなかったが多分、これからはこの機能の方が重要になるだろうさな」
並列の連携、そして直列の強化。
「能力の精度が上がるだけじゃない。強化されるのか?」
「あぁ、代わりに魔力の消費は増えるがまぁ、並列よりかはお得さね」
「ふぅん」
「デメリットはもう一つ、こっちの方が重要だな。重複しない能力は使用出来なくなる。だから管理人ちゃんは元に戻していたってワケだ」
「っ!…そいつぁ…」
「重複を使うのは慎重にな。なるべく、強力で多機能な連中はシングルで使うがいいさな。
まぁ、どれをどう使うかは悩みどこだぁね」
「なるほど、な」
これなら指環のオートプロテクトを破って洗脳が行える可能性も出てくると思ったんだが…一長一短、か。都合がいいだけに出来ちゃいないのが現実だわな。
まぁ、それは後から考えればいい。今はとりあえず華南に会うのが先決だ。
俺は嘆息するとやってきたエレベーターに再び搭乗した―――
エレベーターを降りる。階数は6F、案外近くにいた。入居希望者の下見に見せる部屋でも準備しているのだろう。
エントランスを曲がるとすぐに見知った顔が見つかった。
「華南―――…」
「あ、カラスさん、こんにちは」
違和感を覚える対応、だがそれもすぐの氷解する。華南の隣、そこには見覚えのないズレた眼鏡をかけた気の弱そうな女性が空室のドアの入り口に立っていた。
だが、華南は焦る様子もなく笑顔で口を開いた。ほんのり顔が赤い気もするがまぁ、異常ではない。
「あ、紹介しますね。こちら入居希望の草壁さんです。
こちら、このマンションのオーナーのカラスさんです」
「…どーも」
「あっ、こ、こんにちはっ」
…やってくるのが早すぎる。俺の返事を折込済みで募集をかけていたな。
釈然としないが…まぁ、いい。無能であるよりも何倍もマシだ。
そもそもこれはこのマンションの守人としての華南の責務。俺の「城を守れ」という命令を順守しているに過ぎない。
そして―――返事をしてきた相手もさすが華南の眼鏡に適っただけはある。
丁度、華南と俺たちの間くらいの年の、おそらく学園の上の学院生だろうか、派手さはなく、遊んでいる風もない。
大人しそうなごく普通の地味な学生っぽい。というのが第一印象だろう。
スタイルも特にどこか突出して眼を引くようなところもない、ごく普通にバランスの取れた肢体だ。
だが、分かる。素朴だが、比較的バランスが高く整った顔立ちとあとは男の味を覚えさせるだけに整ったその身体は確かに美味そうだ。
俺が相手を値踏みしているとくさかべ、と紹介された少女は華南に顔を向けた。
「あの…ここって女性専用じゃ…」
「あぁ、その事ですか。カラスさんはオーナーなんで最上階に住んでらっしゃるんです」
「はい、今は華南さんや他の住人の方々のご好意で住まわせて頂いているんです。その…もし、ボクがここにいて御迷惑になるようでしたら出て行きますので遠慮なく仰ってください」
一瞬にして状況を把握して誠実そうな好青年を演じる。
「そんな…そんなことないです。こちらこそオーナーさんに失礼な事を言ってすいませんでした」
そう言って年下をしゅん、とさせた事に気が咎めたのか慌てて言い繕う草壁女史。
本人にとっても俺程度の年下のオトコノコはどちらかというと好みらしい。
案外、軽く丸め込めそうだ。
「ところでオーナー、草壁さんは学院生なんだそうですよ。
草壁さんも、オーナーは学園生なんですよ」
「あ、わたし、学園のOGなんです」
「そうだったんですか…じゃあ、センパイですね。
もし良かったらどんな分野を専攻してらっしゃるのか教えていただけませんか?ボクも学院を受験しようと思っているんですけど何がしたいか未だ決まってなくて…」
余所行きの若干気弱そうな少年風の対応を行う。
「はい、私の学部は医学部で専門分野は脳神経に関する研究になりますね」
「スゴい…エリートじゃないですか」
学院の医学部と言えばこの辺一帯の医療のほとんどを担っている付属病院があり、インターンや就職先としてほぼ約束されている。
なんでも世界最高峰の医療と技術水準を備えているらしく、中央の大学病院では治らず、治すのにも危険性が高い病気もこちらでなら普通のレベルになるという。
なので権威に五月蝿い国内中央の学会からは強い反発を浮けているものの、こっちは世界単位の学会に所属している上に[お忍び]で通っている議員先生方のバックアップが在るため、歯牙にもかけていないらしい。と、あそこから出向している神楽坂保険教諭が自慢気に語ってらっしゃった。
「そんなことないですよ。最近じゃ研究の方も進んでいませんし…」
まんざらでもない顔をしながら愚痴をこぼす。
「研究?」
「はい、いま世界で新しい病気が猛威を振るっているのをご存知ですか?」
聞いたことがある。それにしても学院生、視点がワールドワイドだ。
「あぁ…たしか昏倒してそのまま植物人間のようになってしまう病気…でしたっけ?
欧州や米国、それにこの国のような先進文化圏で発生し出している病気だと聞いています」
「はい、良くご存知ですね。一部では新たなテロだという声も上がっていますが、その詳細は未だによく知られていないのが現状です。私の研究はそもそもそれがどういった原因とメカニズムで起きるかを調べるのが目的なんです」
「うわぁ、凄いですね」
どう考えてもそれは一学生が調べられる内容を超えている。
「いえ、私なんてそんな…そもそも一介の学院生が調べられる事なんてたかが知れてますし、身近に同じ症例の人間が出なかったら調べようともしなかったに違いないです…」
そう言って口をつぐんで眼鏡女史が俯く。…これ以上、口頭で聞き出すのはムリっぽいな…
とはいえ、掌握している影からは思考が駄々漏れなのだが。
草壁 春奈 二十歳。
身分に詐称はない、彼女が言った通り学院生だ。
口をつぐんだのは一回り歳の離れた妹が原因のようだ。
最近、一度寝てしばらくすると完全に意識が途切れて何の反応も示さなくなるらしい。肉体に異常は認められないのだがとにかく反応を示さない。だが明け方になると再び意識を取り戻し、なんの異常もなく起きるらしい。
原因の分からない症状、そしてそれに似通った世界に猛威を振るいだした病。
その病は発生条件や初期症状すら解明されていない。もし、これがその初期症状だったとしたら…
そんな不安が彼女の中をよぎっていた。
だが、その反面、彼女の心を占めるものがもう一つあった。
…これなら俺が手を出しても問題ないだろうか。
本来なら華南から指環使いについて話を聞くのが先…なんだが―――食指がそそられた。
「あぁ、そうそう言い忘れてました草壁さん、このマンションにはちょっとした決まりが在りまして…」
そう言って俺は彼女の壁を伝う影を掌握しながら彼女に微笑みかける。
「決まり…ですか?」
「はい、それは[このマンションではボクと管理人さん…華南の言う通りにする事]です―――わかりましたか?」
「………わかりました。管理人さんとオーナーさんの言う事の言う通りにするんですね?」
えぇ、と答えるとそこでダンタリオンの能力を使うのはそこまでにして今言った事を元にいくつかのコマンドワードと禁止事項を植え付ける。
今の俺のダンタリオンの強制力は殆どロボトミー化するに等しいくらいに強い。なので必要最低限の刷り込みをし、後の微妙なさじ加減はそれを元に自分で調整するしかない。まぁ、それが面白いのだが。
それに最近、この力がロクに効かない連中ばかり相手にしていたのでこういう素直な反応はやはり心地良いものがある。
この5、6階はいわばプラント―――いや、ハーレムのようなもの。
俺の好きな時に好きなだけ食べられるように調整される温室。
10階以上に住んでいる従僕たちも上玉には違いない、というか皆、美少女揃いだ。だが、それも食い続けていればいずれ、飽きも来るし、その良さの認識が当たり前となり、麻痺してくる。
その為にここが必要になる。
アイツ等からすれば割り当てが減って不満たらたらだろうが―――そんなの俺の知ったこっちゃない。
一通りの作業が終わるとそれまでの記憶を無意識下に閉じ込め、えぇ、と答えたところから会話を再開する。
「では今から質問する事に包み隠さず答えてください。この審査が通れば敷金礼金なしで部屋が借りられるので大分お得になりますよ」
「はいっ、包み隠さず答えます」
「元気が良いですね。では質問です。」
「はい、よろしくお願いします」
「それではこれまでの男性経験を教えてください」
「はい、学園時代は彼氏がいなかったんですが学院に入ってからお付き合いした男性とその…4度しました」
「では学院に入るまでは処女だったんですね?」
「はい、恥ずかしながらそうなります」
恥ずかしい質問をされているのにも関わらず、それを当たり前のように答え、自分の性体験少なさを恥ずかしがる草壁さん―――いや、春奈。
「そうですか、彼とのセックスは気持ちが良いですか?」
「いえ…彼は慣れれば気持ちが良くなると言ってくれているんですが正直まだ気持ち良くありません」
2人の密事の裏側を何の躊躇いもなく暴露してしまう。
「それはいけませんね。では彼とのセックスでは一度もイった事が…?」
「はい、彼が私コンドームを着けたその…あそこを挿入するとすぐに射精してしまってそのまま勃たずに行為が終わってしまった事もありましたが、私はその…男の人で達した事がないんです…」
尻つぼみになってしゅん、とする。
早漏の上に持久力も無いとはな…これだけ良い素材がもったいない。
「では質問を変えます。彼の事は愛していますか?」
「その…まだはっきりとは言えません…
彼は良い人なんですが私も周りのみんなが小等部や中等部から経験していたのにこの年になってもしてないって焦った部分があって、その…大人のお付き合いがどういうものか興味あって、彼ならいいかなぁって…
最近じゃ研究の方が忙しくてろくに会う事もできませんし」
ま、そんなトコか。そりゃ誰しも互いの相手に満足して付き合ってるワケじゃないわな。
まぁ―――これなら、俺がオマエを自分のモノにしても問題ないな?
別に好きあってるワケじゃない。男女の関係に満足しているわけでもない。
いいだろう、幸せでもないのに周囲に対して幸せだといって優越感を感じたいだけなら俺がオマエに女の悦びってモンを教えてやる。
―――まぁ、どれだけ嫌がったところでオレのモノにするつもりだったが、な。
「わかりました。審査も無事完了しました。あとは身体検査だけになります」
「しんたい、けんさですね。分かりました」
必要もない検査だというのにも関わらず疑問もなく承諾してみせる。
「はい、ではスカートをたくし上げてください」
「わかりました」
そう言うと笑顔でこちらに向けてスカートの裾をつまんで中が見えるよう上げてみせる。
するとそこには大人しめの彼女らしい純白のレースのパンティを纏った股間が現れた。
「では検査を始めます。痛い所などがあったら教えてください」
そう言って無防備にさらけ出された股間と股布を見て俺は口を歪めて笑うとそのまま指を滑らせだす。
「はい、分かりました」
まぁ、痛みなど感じる訳もない、俺に触れられるたびに感じるのは自慰行為の際に感じる快感と同様の感覚なのだから。
「んぅ…っ!」
思わず吐息を漏らすとなんの疑いも抱かずにそのまま悩ましげな声をあげながら俺の愛撫を受け入れていく。
「ひぁっ!んふぅっ!ひゃう…っ!」
だんだんと吐息に甘いものが混じっていき、俺の指が這い回る股間は湿り気を帯びていく。
そこで俺の手は彼女が最も感じるであろう場所をあえて避けてパンティに広がる染みを拡げていく。
「ん…っ、はぁ…っ、んふぅ…いやぁ…っ」
拒絶はしていない。それどころか腰をくねらせてなんとかオレの手が自分の感じる部分に当ててこようとしてくる。
だが、俺はそこに少しだけかすらせるとそのまま手を彼女から離す。
「あっ…」
どこか物欲しそうな声をあげてこちらを見てくる。
「どうしました?どこか触って欲しいんですか?」
「は…はぃ…そ…そこっ、いま触ってくれていた場所を触って欲しいんです…っ」
「そこ、じゃ分かりませんよ。ちゃんと言ってくれないと」
「ヴァ…ヴァギナです…」
「違いますよ、おまんこ、でしょう?」
「はっはいぃ…っ、お…おまんこですぅっ!あぁっ、おまんこっ、オマンコ弄ってくださいっ…」
「まぁ…今日初めて会ったオーナーにオマンコを弄って欲しいだなんて草壁さんはヘンタイですけべなんですね」
追い討ちをかけるようにくすくすと華南が笑いかける。言われた本人は恥じらいながらも初めて感じる大きな快楽に蕩けてしまっている。
「あぁぁっ、ひゃいぃ…っ、ごめんなさいぃ、わたっ…わたしへんたいなんれすぅ…っ!すけべまんこっ、スケベマンコ弄られてこんなの初めてで…わたし…っっ
らめ、らめぇ…らめらのにぃ、なんれこんらにきもちひいのぉ…っ!?」
自分の内からこみ上げてくる未知の快感に抗う事が出来ず、されるがままになる。
「彼氏とのセックスとどっちが気持ちいいですか?」
「ふぁ…っ!そ…それはあぁぁ…」
彼への義理立てか、一瞬我に返って瞬躊うする。が、
「答えないとこれで終了ですよ?」
「ひぁうぅぅっ!そ…そんなぁ…っ!…こ……こっち…っ、こっちぃっ!彼とのせっくすよりおーなーさんの身体検査の方が気持ちいいですぅっ!だからずぼずぼってぇ…っ!ずぼずぼってしてくださいぃ…っ!」
「彼より、いいんですね?」
「はいぃっ!彼なんかよりっ、彼のオチンチンなんかよりオーナーさんの指の方が気持ちいいですぅ…っ!!」
涙目になって俺の問いに[正直に答え]る。
くくっ、この場に彼とやらがいたら憤死しそうな台詞だな。
「指だけでいいんですか?」
「お、おくっ、奥にもっと…もっと太くて熱いの…っ、オーナーさんのあそこのをください…っ」
「あそこ、では分かりません。具体的に何が欲しいんですか?」
「お…おち…おちんちん……」
「聞こえません、もっと大きな声で」
「おっオチンチン!オチンチンが欲しいんですぅっ!」
「誰のですか?彼のでいいんですか?」
「あぁぁっ!おーなーさんっ、オーナーさんのオチンチンが欲しいんですぅ…っ!!」
「よく言えました」
そう言うと俺はズボンのファスナーを開け、そそり勃ったペニスを取り出した。
「―――っ」
どうやら俺のモノは彼女のお眼鏡に適ったらしい。春奈の眼鏡の奥の双眸が期待で淫蕩にまどろむ。
「さ、これまでを踏まえてどこを検査して欲しいのかちゃんとお願いしてください。ちゃんとした格好で手を使っても構いませんよ」
「は、はいぃ…」
返事をすると春奈は壁に背を預け若干のけぞり気味になり、自分の秘裂をこちらによく見えるよう拡げて入り口付近の陰唇の自分の感じるスポットを弄くって見せて懇願してきた。
「お…っ、お願いしますっ、すけべな春奈のオマンコにオーナーさんのおっきぃオチンチンを挿れて異常がないか検査してくださいぃ…っ!」
「よく言えました」
俺はそう言うとそのまま春奈に覆い被さるようにしてそのままペニスを濡れそぼった春奈の秘裂にあてがうとそのままの埋め込んでいく。
「ふぅあっ、きゃふぅ…っ!」
一気に貫こうと思ったが思いの外、狭すぎて締め付けが厳しい、というかキツい。
愛液が潤滑油になってなんとか抜き差しされるものの、俺の方もあまり気持ち良いといえない。
まずは俺のサイズに慣らすように少しずつ挿れていき―――まるで処女のような春奈の狭穴を俺の肉茎の形に拡げていく。
「くふぁ…っ、んんんぅ…っ!」
まずは普通に抽挿が出来るようにし、次に腰をグラインドさせて自分が好きに動ける程度にほぐれさせる。
「んはぁっ!なっなに?今の…っ」
若干、拡張される感覚に苦しそうにするものの、それ以上に自分の膣壁を満遍なく押し拡げ、粘膜が擦られる快感に戸惑いつつも素直にはしたなく喘ぎ出す。
「きゃふっ、うぅんっ!ひぅっ!、んあぁ…っ」
ずっずっずっ
止まることなく自分を押し拡げ、その度に訪れる快感と充足感の波に次第に飲まれていき、声にも余裕がなくなりつつある。
俺の方もようやく自分にとっていい具合になった春奈の淫孔がうねり出し、快感を貪りだす。
「もっと気持ちよくなりたいですか?」
「はいっ、はいぃ…っ!」
引く事なく訪れる快感と肉欲の波に抗うことも出来ずにされるがまま、言われるがままにただ涙目になって首を縦に振ることしかできない。
それを見て俺はにやり、とするとそれまであえて手を出さなかった結合分の上部で自分の存在を主張し、頭を出していたクリトリスに指を伸ばす。
「んひあぁぁぁぁぁぁっ!??」
突然、全身に走った電流に驚愕し、身体をビクつかせる。
どうやらオナニーは主にここで快感を得ていたらしい。他の部分が未成熟だったにしてはここの感度はしっかり開発されている。
そしてそれは思いがけず俺に快感を与えたため―――繰り返すことにした。
しゅにっしゅにっしゅにっ
包皮は向かずに強く押し付けるように何度も擦り付ける。
「んひぃっ!んはぁっ!ふあぁっ!そこっそこらめっ!らめらめぇっ!」
「そこっ、じゃ分からないって言ってるじゃないですかっ!?」
ビクンッビクッビクッ
「くりとりすぅ…クリトリスですぅっ!クリトリスこりこりってシちゃらめぇ…っ!!」
「それは―――」
皮を剥く。
「ひんっ!」
勃起した淫核が空気に触れた事により声を上げ、快楽によって流れる涙を湛えた眼で思わずこれからされるであろう事に畏怖と好奇の混じった俺を見る。
あぁ、オマエのお望みどおりに―――
「こういうことですか?」
人差し指で引っかいて―――
「きゃふっ!くっ、クリトリス…、こっこすちゃああぁぁぁっ!ひああああぁぁぁっっ!」
春奈の中が収縮し、それまで昂ぶっていた熱い奔流がこみ上げくる。
だが、俺の責めは終わらない。
「それとも…こういうことですかっ!?」
親指で押しつぶす!
「ひぃぃぃいあぁああああぁぁぁぁぁぁっ!」
びくっびくんっ!ぬぷっ、びゅるっ!びゅびゅっ!びゅるるっ!
大きく跳ねた反動でペニスが春奈の淫裂から抜けて春奈の顔から身体に白い線を何本も作り、垂れ落ちていく。
「ふぅっ、ふぅっ…」
「草壁さん、どうですか?まだシますか?」
腰が抜けたのか床に尻をついた春奈の眼前に今だ萎えなえることのない互いの愛液が垂れ落ちる俺の淫茎を鼻先に差し出す。
その淫臭にぴくっと反応して眼前のペニスに熱い視線を浴びせる。
「あ、すご…アレだけ出してもこんなに大きくてげんき…っ」
自分の想像以上の快楽を与えてくれたそのシンボルを愛しそうに見つめる。
「どうしますか?まだ検査をして欲しいんですか?」
ぶるんっ、と手を使わずに自分の肉棒を震わせるとまるで5円玉の催眠術のように素直に眼で追う。
「あ…っ…します、お願いします…っ!!」
「分かりました」
さて、今度は尻でも…
と思っていると後ろから柔らかいモノが押し当てられ、肩に腕を回された。
「…なんのマネだ?華南」
「申し分かりません…っ、朝の後片付けをしてる最中から…その…っ、催して…、一人で慰めたんですけどそんなんじゃ…寂しくてっ、切なくて…っ」
俺と春奈の行為を見て完全に発情したのだろう、熱い吐息が耳朶に吹きかけられ、耳元で囁かれる。
「お願いします…っ!この華南にご主人様のお情けをください…っ」
そう言いながら壁に手をついてこちらに尻を突き出し、自分のとろとろに熟しきった蜜壷を拡げ、涙ぐんで懇願してきた。
…ま、昨晩のアレを片付けてもらった上でこれから有力情報を聞く相手だ。俺の言う事はなんでも聞くとはいえ、その働きに応えないワケにもいかない、か。
それに―――足元に佇んでいる少女が上物だとすれば華南、オマエは―――極上だ。
「…分かった分かった。じゃ、行きますよ、管理人さん…いや、華南」
「あっ、ごしゅじんさまぁっ」
名前を呼ばれて嬉しそうに短く声をあげると腰を強く押し付けてきた。
ぬっ…ちゅぅっ……んちゅうぅっ…
入れると同時に華南の媚肉が俺を引きずり込んで締め付けてくる!
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
きゅうううぅぅぅっ
挿れた途端、華南が甘い声を吐いて軽い絶頂に包まれる。
「これ…これがぁっ、ご主人様のオチンポが欲しかったんですぅ…っ!
あぁ…だめぇ…っ!もうご主人様なしじゃ生きていけませんん…っっ!」
華南がこれ以上ない幸せに包まれる。
俺は指輪から伝わってくるその強烈な感情に引きずり込まれないようにしながら俺はそのまま抽挿を開始する。
「スゴい…挿れただなのに…」
ごくりと息を飲んで素人娘は熱い視線で絡み合った俺たちを凝視してくる。
「ん…っ、申しわけっ、ないんですが…草壁さん…っ、ははぁっ、そこ…でっ私とぉ…っ、ごっ主人様をみてぇ…オナニーをしながらぁ…セックスの…っ、勉強をしていてくださいぃっ」
「はいぃ…分かりました…んんんっ!」
かなり昂ぶっていたのだろう、言われてすぐに俺と自分の淫液にまみれた股間をまさぐりだす。
だが、それに気をとられている余裕はない。
自分の腰の下には―――
「んんつ、は、はっ、ごしゅじんさまぁっ」
締め付けがスゴい。だが、狭いという感覚はない。それどころか丸々包み込んで吸い付いてくる。
そしてそれは華南の肌にも言えた。
壁に手を付いた華南がこちらに淫らに腰を突き出すたびにまるで俺の指を誘うかのように形の良い巨乳がゆっさゆっさと震え、その誘いに乗った俺の十指が双丘に埋まるとそれを包み込むように吸い付いてきて初めて華南を抱いた時のことを思い出させた。
またこの胸でシゴきたい。そんな衝動に駆られるが今はそれよりも具合の良い場所に入っている。
「んっ!あああぁっ!ごしゅじんさまのおちんちんっ!指おちんぽぉっ!オマンコもオッパイもいっぱいにぐにぐにってぇっ!気持ちいいのがとまらないぃっ!?」
華南の蜜壷は俺を受け入れるためだけに収縮を繰り返し、華南自身の腰も俺に快感を与えるべく変則的に動いてくる。
いくら動いても変わらないのは俺を離すまいと腰を突き出してくることだろう。そのせいで亀頭が随時、華南の膣の最奥の子宮口にずんずんとめり込んで腰が振られるたびに亀頭のくびれがシゴかれる。
「あさもっ、期待してたんですぅっ!ふぁっ、でも、疲れてらっしゃるだろうし我慢しなきゃって…っ!」
「あぁっ、そういう慎ましやかな所はこのでかいオッパイと同様、オマエの美徳だ。」
「はっ、んんんっ、ありがとうございますっ、こんなはしたない華南を褒めてくださって…あ、そこ、ちくびぃっ、ひぅっ、こりこりってぇ転がされたらぁっ!」
涙目になってこちらに微笑みかけてくるがすぐに胸元の刺激に切なそうな表情になる。
「あっ、あっ、あっ!ご主人様に触れられるだけでっ、んんんっ!」
言葉通り強く揉みしだく度にびくんっ、と強く身体をふるわせる。
…正常位だったら間違いなく満足するまで足を腰に絡め続けられるんだろうなぁ、とか一抹の不安がよぎりつつも激しさを増す華南の腰の動きに俺の内から熱いものが込み上げ、そのまま陰茎を駆け登って行く。
「はぁ…っ、今ビクビクって…♪、いぃですよぉっ、だしてくださいっ!かなんのおまんこにぃっ、ご主人様のチンポミルクっ、ザーメンっ!すぺるまぁ…っ!」
びゅくんっ!びゅる、びゅーっ!ぴゅぴゅっ!ぴゅっ…ぴゅくっ
「んっ!出てるっ、んんんっ!愛されてるぅ…っっ」
目を閉じて俺の精が自分の内に入っていく感覚に身を小さく震わせ、肌を更に上気させていき、体重をかけた壁にずるずると崩れ落ちそうになる所をそのまま自分の方に抱き寄せてひざを曲げ、俺の膝の上に置き、体を預けさせる。
「はぁっはぁ…っ、ご主人様ぁ…お情けを戴いてありがとうございましたぁ…っ」
そう言ってこちらに微笑みながらまどろむ。
俺はそれを見てあぁ、と返答すると切り替えて春奈に笑顔で問い掛けた。
「ボクと華南さんのセックスは見ていてどうでしたか?」
「その…凄く…気持ちよさそうでした…管理人さんもさっきまであんなに凛々しかったのにこんなに乱れて…」
「軽蔑してしまいましたか?」
「ぃえ、その…羨ましいと思いました」
その想いに偽りはない。視線と興味は完全に俺のザーメンにまみれた華南の蜜壷に集中してる。
まだ閉まりきらないそこは若干奥が覗け、時折、どろり、と膣奥から俺が注ぎこんだ精汁が華南の陰唇を伝って垂れ落ちている。
「その管理人…孔雀院さん、よろしいですか?」
「はいぃ…なんで…っ、んっ!しょうかぁ…っ」
華南が所々、悶えながら春奈の方を向いて反応する。
ちなみに悶えているのはなんてことない。俺が面白がって春奈によく見えるような格好で今だ熱の冷めやらない乳を揉んでいるためだ。
「その…っ、オーナーさんの…その、精液を出されましたけど…その、膣中に」
「はいぃ…っ、いっぱい出して頂きましたよぉっ」
うっとりとした表情で中に俺の体液の入った下腹部をさすりながら淀みなくまるで聖母のように微笑む。
「その、膣中に出されるのって―――気持ちいいんでしょうか…っ?」
ぷっ、
てっきり俺と華南との関係について聞いてくるのかと思った俺は思わず吹き出す。
どうやら眼前のズレ眼鏡女史は初めて出会った至上の快楽の探求にご執心らしい。
華南も一瞬あっけに取られてすぐにくすり、と口に手を当てて微笑む。
「えぇ、だけど誰のでも、と言う訳には行きません、ご主人様の、オーナーのオチンポ汁だけなんです。それが出されるととっても幸せでキモチ良くなれるんですよ?」
あえて、愛されている。というフレーズは含めていない。
そこら辺が華南の独占欲らしい。指輪を通して伝わってきた。
こちらとしてはそれでも問題ない。華南の言葉はそのまま春奈に刷り込まれ―――
「あ…っ」
身体に電撃のようなものが走ったのかビクっと身体を震わせると華南と同じように下腹部をさすった。
「ふふ…分かりますよ。
同じ女ですもの、そこにどくどくってご主人様の精液を頂けるって考えただけで[そこ]が疼いちゃいますよねぇ?」
俺に向けるものとは違う、妖艶な微笑みで華南が膣内射精願望をあどけない少女に刷り込む。
「さっきは外に出されちゃいましたもんね?もったいないです…。せっかく―――牝(おんな)の幸せを知る事が出来たのに」
「あっ!あああああああっっ!」
おそらく考えただけでさっきのエクスタシーを自分の内にフィードバックさせたのだろう、わなわなと肢体を奮わせてイってしまう。
ぽたぽたと湧き出てくる淫液が再び春奈の牝の部分が雄を受け入れる体制が調ったと伝えてくる。
「お…おーなーさん、お、お願いしますぅ…っ!もっ、もーいちどっ、わたしのすけべまんこでぇ…っ、オチンポ汁びゅーびゅーってする位に検査してくらさいぃっ!」
もうこれ以上は我慢できないのかろれるが回らなく鳴り出したような口調で懇願してくる。
…そうだな、そろそろ終わらせてやるべき事に戻るか―――
そう思うと俺は
「わかりました。それでは身体検査の続きをしましょうか。壁に手を着いてこちらにお尻を向けてください」
「分かりましたっ」
そう言って了解するとさっきの華南と同じ格好をして不安気にこちらを振り返る。
「んんっ、お、おねがいします…っ」
普段ならここで焦らして主従の誓いの一つでも立てさせるところだが…既に主従の関係になっている連中とこれからこの階に入居してくる連中は存在意義が違う。
コイツ等は単に大家と店子の関係になるだけ。有り体に言ってしまえば華南達は幕臣であり俺のスタッフとして動くモノ、そして春奈達はただの市民、俺の無聊の慰みになっていればいい。
なのでさっきの華南と同様、この階層の住人達にはただ快感を与え、そしてこちらも貪ることにする。まぁ、例外も出てくるかもしれないが基本的にはこの春奈のようになるのだろう。
俺はこれからの事を考えて口を禍禍しく歪めながら先ほどよりは少しほぐれた春奈の淫裂に自分のペニスをあてがうと少し強引に突き入れる!
「~~~~~っ!!はいっれぇ、はいっれくるうぅ!」
そしてそのまま遠慮のないピストン運動を開始する。
「これっ、これぇっ!きもちよすぎまふぅっ!」
「どうですかっ!彼氏と比べて僕とのセックスはっ!?」
「きっ!キモチよすぎますぅっ!こっこれがほんとぉのセックスっ、せっくすぅ…っ」
完全に濡れてほぐれた肉壷は熱く俺の分身を飲み込もうと吸い付いてくる。
ぱんっぱんっと激しく膣奥に打ちつける度に身体がびくんっと跳ねる。
「ひゃあんっ、あ、ああぁ…っ。ま、まら、また……お、おっきいのきたぁっ!も、ふ、あ、あっ、んんっ!!」
今までに感じた事もない感覚と快感に翻弄され、口を開けたままだらしなく喘ぐ。
「っ!ひあぁっ!いくイくっ!ああああぁぁぁぁああああああああ―――っ!」
びくんっ!びくびくびくっ
止まることなく訪れるオーガズムに抗えず、痙攣が激しく、間隔が狭くなり、収縮っていく。
じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!
「うっ、くうぅっ…んっ…だ、だめぇ…っ、イクっ!イクイクイクぅ…っっ!
ひあぁっ!ヒくのとまらっ、とまらにゃいぃぃ…っっ!こっこれで、ザーメンどぴゅどぴゅってされちゃったらぁっ、くるっちゃうぅぅっ!」
「じゃあっ、止めますか…っ!?」
「やはぁっ!いやはぁっ!らしてっ!らしてくらさいぃっ!おーなーさんのオチンポじるぅっ、はるなのオマンコにびゅーってっ!びゅーってしてくらさいぃっ!」
当然だ。
これで何度目か、不規則な動きをする春奈の膣道の奥の子宮内に精液を送り込もうと肉棒の根元から白濁液がこみ上げてくる!
「そろそろイキますよ…っ、どこにっ、どこに出して欲しいですか…っ!?」
…あぁ、分かってる。華南と俺のまぐわいを見て刷り込まれたオマエはこう言う。
「な、なかに、はるなのおまんこのなかに出してくださいっ!あぁうっ、ひぃああああぁぁぁっっ!」
言葉の最中に了解の合図としてラストスパートを開始する!
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんっ
「きゃふぅっ!やぁっ!らめぇえっ!ひくっひくひくいくうぅッ!!」
元の締め付けを取り戻した膣内。だが、そのキツさに負けることなく、迸りが俺の輸精管を駆け上がってくる!
びゅくんっ!びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!
「ひあぁっ!くふううっ!あっ、ああんっ!ひっ!?あ、ふぁっ!ふぁっ!ひぃああああぁぁぁ~~~っ!」
わなわなと身体を震わせてそのまま脱力して淫液にまみれた廊下に倒れ付す。
今度は一気に脱力して倒れこんだため、さっきの様に抱きかかえる事は出来なかった。
びゅる……ぴゅっ……
まだ出し足りないのかそれとも今の射精の延長か、射精は止まらないまま春奈の肢体に降りかかる。
「ぁっ、もったいない…ご主人様、失礼します…」
そう言って華南が俺の足元に傅いて顔にかかるのも省みずに俺と春奈の淫液を纏ったペニスを美味しそうに口に含んで舌の上に転がしだす。
射精が終わると同時にゆっくりと綺麗に舐め上げられた肉棒が華南の口から出てくる。
最後に亀頭のえらが引っかかった瞬間に輸精管に残った精液が仕上げられ、口を出ると同時に名残を惜しむかのように鈴口に舌が伸びて銀糸が走り―――切れる。と華南に一瞬、悲しそうな表情が走る。
「華南、後始末が終わったら俺の所に来い」
「はい、分かりました。ご主人様」
それを聞くと俺は自分の後始末を終え、そのままエレベーターに乗り込むと振り向く。
6Fエントランスには淫液が撒き散らされ、好意の後を物語っていおり、そこに佇む華南ともう1人―――荒い息をして熱の篭った視線を向けている春奈に話し掛けた。
「もし入居して頂けるようでしたら機会があればまた、お相手させていただきますよ」
「はっはいぃ…っ、んっ」
熱い視線をあえて無視して俺はエレベーターの扉を閉じた。
それからしばらくして部屋で指輪の選定を行っていると華南が現れた。
とりあえずシャワーでも浴びて来たのか部屋の入り口にいる華南の肌から香るソープの芳香が部屋の中央にいた俺の鼻をくすぐった。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
あんな時間帯にお帰りになると思っていなかったものですから…先ほども我が侭を言ってしまって…本当に申し訳ありませんでした」
「いや、時間を取らせるような真似をしたのはオレだからな。それより首尾はどうだ?」
「上々です。今週中には入居してくるそうです」
「そりゃ…早いな」
どんなに早くても一週間は間が開くだろうに。
「最近、彼女の住居の付近で連続女性暴行殺人事件が起きているらしくて…そのおかげで部屋の方も順次埋まると思います」
その言葉にぴくり、と、俺が反応する。
「連続女性暴行殺人事件?物騒だな」
「はい。その…最近立て続けに起きているそうです」
「警察は?」
「犯人を捕まえています」
「じゃあ、問題ないだろう。一度そんな事件があった地域は住民も犯人も返って警戒するハズだ」
だが、華南は俺の問いに目を伏せて首を振ってきた。
「今も、捕まえているんです」
「複数犯なのか?」
「いえ、単独犯です…が、別の犯人が次々と―――」
「同じ内容の事件を起こしていく、か」
「…はい」
その内容に引っ掛かりを覚え、すぐにそれは形となる。
「―――……彼女の家はこの市の北東だな?」
「はい、え…?ご主人様、なんでその事を…」
「なるほど、な…」
北東のジェイソン、か。
なにか感づいたような華南が目を細めた。
「もしよろしかったら私が…」
だが、俺は身を乗り出してくる華南の機先を制する。
「それは本題が終わってから検討する。まず、お前の知っている指輪使いについて話せ」
「え?あ、はい。街の裏外れの廃ビルはご存じですか?」
「あぁ、廃ビル郡の中にある幽霊ビルだろ。…あそこにいるのか?」
幽霊ビル―――確か、ジェイソン同様、都市伝説の舞台の一つだったハズだ。
しかも北東の前者よりも近い、北方。
ここからは時間もそれほどかからないし、俺の部屋からは見えない事もない…が、付近に人家も何もないため、昼はただの廃墟、夜は何も見えないブラックスポットと化している。
「はい、指環使いになって間もない頃、他の指環使いに負けて追われてあそこに逃げ込んだんですがその時、そこにいた指環使いに助けてもらいました」
「助けた?」
「はい、他の指環使いと違って指輪を奪り合おうという気はなく、自分の信念に基づいてそこにいる、という感じでした」
「信念、ね……」
腑に落ちない。
まぁ、中にはそういう輩も出てくるだろう。身近にその前例もいる。
だが、指輪は全てある誰かの元に集う様、意図してバラ撒かれた。
それはこの指輪の創り主であるクリスの意思でもあるハズだ。
件の本人も知っていてこのまま時間が経てばどうなるのか分かっているハズ。
にも関らず戦いに挑もうとしないのはどういうことか。
完全に戦意がないのなら始めから指輪は放棄してる。
だが、それを行わないというのはそんなことをする必要がないほどに強い指輪を手にいれたのか。それとも別の目的があるのか―――?
「ところで、オマエを追ってた指環使いは?」
「彼に手を出し、負けて文字通りバラバラに。どういう力なのかは隠れていたので分からなかったんですが気付いたらその場から一歩も動かずにあの男をバラバラにしていました。
私はそのまま見逃してもらえました」
「指環は?」
「あの時は逃げるだけで精一杯でしたから…」
「…そうか」
……まぁ、いい。
「直接、乗り込む。華南、佐乃とみなぎ、それにくいなに連絡をとってくれ―――」
日中にみなぎとくいなが纏め上げた廃ビルとジェイソンの情報を受け取った俺は全員が城に帰るのを見届けてから留守を華南に任せ、タクシーを呼んでいた。
「それじゃ行ってくる」
「ご主人様、私も…っ」
華南が心配そうに身を乗り出す。
「佐乃だけで十分だ。それに勘違いするな、話をしに行くだけだ。戦いに行くんじゃない」
「話って…もし…遼燕寺さんとの事みたいな事があったら…」
…どうやらコイツ等にとって佐乃と闘った直後の俺の惨状はトラウマになりつつあるらしい。
「気にしすぎだ。もしそうなったらそうだな…オマエが明日、華南を連れて俺の死体を取りに来い。一度会ってるから襲われる事も無いだろ。いざとなったら指輪と引き換えにでもすればいい」
「そんな…っ!」
「大丈夫だ…多分な。ここの幽霊はおそらく、何もしない―――」
「…え?」
千鳥達が要領を得ない返事を返して来るがとりあわずにそのままタクシーに乗り込んだ。
廃ビル郡の中の目的のビルについたのはそれから約30分後、長い夕方が終わりを告げ夜の帳が拡げられた頃だった。
なんとか見える全景はひどいモノだった。
遠くから見えていた方があらが見えなくて良かった位だ。
コンクリートの塀で囲まれた敷地内は雑草が生い茂り、塀の端どころか1メートル先も見えない有り様だった。
建物も、ひどい。
建設の最終工程途中に放棄されたのか中途半端に組み上げられたままの屋上に建材が放置されて置き晒しになっているのがここからも見える。
現代建築では高層建築物は屋上から施工される。今の時代のものじゃない。
そう、10年前、あの事件の際、遺棄された物件だ、
―――かつてこの地にある企業が存在した。
当時にしては珍しい製薬系の優良企業で粗い儲けこそなかったものの、それでも好景気の煽りを受け、順調に業績を延ばしていった。
社員も、その家族達にも笑顔が溢れていた。
だが、あの日、全ての、社員の、子供が、失踪した。
…そしてその忌まわしい日を境に会社は変わった。
それまでとは打って変わって人体実験に近い治験を取引先の病院に強制して製薬を行い、使用に耐えない薬を造り続け、莫大な利潤を上げるに至った。
だが、その莫大な利潤もどこに消えたのか。社屋が同敷地内に新設された事以外、社員達の暮らし振りも会社の外装もそれほど変わることながないのに会社の金は常に底を突いていた。
そして惨劇は再び起きる。
会社の近くで子供が失踪したのだ。
度々、その近辺で動物がいなくなることはあったが人は初めてだった。
その折、たまたま警邏中だった警官は目にする。
丁度、はみ出すように出張って覗けた新社屋の半地下のダクトの奥―――
そこに在ったのは人体の標本に次ぐ標本。
しかも人の形をしていればまだ優しい―――そう、文字通りの標本。
腕、足、胴体、頭、それぞれがそれぞれホルマリン漬けの様に泡立つ密閉されたビーカーに入れられていた。
それが紅い何かで描かれた魔法陣のような物の中心にあり、それを取り巻いて何かしている干からびかけた社員達、そして、こちらを、見て、笑った、生首だけになった、少年。
その事件発覚により、会社は直ちに解体、社長を含む社員達は強制的に施設に送られた。
生首が喋ると言った警官もその後、自律失調症となり、同施設に送られることになった。
ただ、そう、ただ、なんの施設かは知らない。なにかの為に使用される予定だった社屋はそのまま放置されることになった―――
そしてそれ以降、この建物は遺棄されることになり[バラバラになる場所]として心霊スポットになり、集団で来てもバラバラになって一人足りなくなったり、あまつさえその身すらバラバラになった人間もいる、という。
また、幽霊を目撃したという人間の量も多い。
…そう、10年前からささやかれていた噂の目撃談が最近になって急増しすぎているのだ。
他の、例えば華南の話はたまたま見かけた人間が数人いてそれに某マスコットが重なることで広まった。
だが、この話は誰でも知っている。誰でも知っていて、誰もが目撃している。
戯れにでも分断していて好き勝手すると言うのならもう少し死人が出ていても不思議じゃない。
そして、目撃者は少ないハズだ。
おそらく相手は一般人には危害は加えない種の、そう、いま後ろに傅いている少女と同じ、自己完結した種の指環使い。
そう、要は引きずられ、バラバラになって死んだのはおそらく―――指環使い。
ついでに幽霊はその指環使いの事だと思っていたのだが、華南の話では死んだのは男。
そしてここ最近、目撃されている都市伝説の幽霊もそいうの事かと思っていたらそれとはかけ離れていた。
目撃されているのは女―――それもとびきり上等。
そんな女がここ最近になって目撃されだしている。
それ故の、幽霊ビル。
タクシーから降りると他言無用と言うことで釣りを貰わずに途中、遠回りになる事を厭わずにスーパーに寄り買い物した証であるビニール袋を持って降りるとタクシーを見送る。なにかあった時も等距離、等時間で着く場所を言うよう[指示]した。
「…ここ、か…」
鍵の壊れた塀をくぐると目の前は草むらだった。
単子葉類独特の背の高い雑草の草むらは佐乃ばかりではなく、俺の背と同等かそれ以上の高さを誇っていた。
そんな草の壁もやはり物好きが来ているからか人二人分くらいの横幅で建物方向に向かって草が踏まれ倒れている。
噂通りだ。こんな所ではぐれればそう易々と合流は出来ないだろうな。
しかもこの夏場、どんな虫がいるか分からない。いや、虫ならいい。こんな放置された緑地帯だ。おそらく、蛇もいるに違いない。…いや、違うだろう。まだそれらならいい。バラバラになったなにか、そしてそれを造りだしたモノ。そんなのに遭ったらたまったモンじゃない。
まぁ、それを造りだしたモノに関しては華南から建物の中にいると華南から報告を受けているので警戒する必要もないだろう。
草むらを抜け、建物の中に入るとわずかに俺の持ったビニールのかすれる音がエコーする。
正直、出てくる、と言えば信じられる程度に雰囲気がある。
「お…おやかたさま…、こ、ここここに?」
…気のせいか従者の声が震えてる気がする。
「あぁ、華南の話じゃかなり奥まで逃げたらしいからな。とっとと行くぞ」
「はっ、ははははははいぃっ」
…………。
「佐乃、オマエ、もしかして」
「いっいえっ、幽霊とかそんなもの怖いなんて事けっして!えぇ!」
「……」
…華南を連れてくるべきだったかな…
後悔しても後の祭りだ。
「はぁ…頼む、プルソン、ヴォラク」
今回、薬指に続けて嵌めてきた2環の指輪を起動するとすぐに反応が見つかる。
「こっちだ。ついて来い」
「はっはいっ!」
上ずった声で返事をして俺から離れないようにして着いてくる。
こうなると驚かしたくなってくるが―――我慢する。
なんせ既にここは敵の城。なにがあっても不思議じゃ、ない。
俺は佐乃を従え、廃ビルの奥へと姿を消した―――
―――
――――――
―――――――――
…どれ位歩いただろう。
所々、大きく崩壊していたせいで一度3Fまで上って1Fまで下り、その後、2Fで崩落地点を迂回するルートで通り、ようやく3Fに辿り着くことが出来た。
逆を返せば特記するような事はそれだけで幽霊もいなければ指環使いもいなかった。
にしても、指輪の導きがなかったら絶対に夜が明けてたぞ。
そんな悪態をつきながら最奥の大きく拓けたロビーのような場所につく、と―――いた。
後ろで佐乃が思わず構えるが俺はそんなのお構いなしに声をかけていた。
「あんたか?華南を助けた指環使いってのは?」
そこには伸びきった髪と髭を垂らした痩躯の男がただ静かに夜光を浴びて胡座をかいていた。
こちらを見る…というと誤弊がある。顔を上げ、目を閉じたままでこちらを捉え、そのまま口を開いた。
「…キミは…他の連中とは違うようだね」
声から察するに20代半ばから後半か、毛むくじゃらの見た目よりもずっと若い、声。
「そうなのか?他の連中のことなんて知らないし、どうでもいいからな」
俺の問いを返した男は殺気も敵意も感じさせずにただそこにいた。なので俺も何の気無しに近づきながら口を開く。
「オッサン…つーには若すぎるな。兄さん、アンタ名前は?俺の名はカラス―――烏十字ってんだ」
無作法にも関わらず自己紹介に気を良くしたのか男が苦笑しながら顔を上げると髪がめくれ、素顔が見える。
いい男だ。
…断っとくがまかり間違ってもそういう趣味はない。
だが事実、髭と髪に隠れていた男の顔は端正でそれでいてどこかしら苦悩に満ちていた。こういうのもなんだが求道者のそれに近い。
そして、閉じられた目が開き―――
「ホント、変わってる。まぁ、いい。ボクはよだか―――夜鷹 幹久、よろしく、カラス君」
それから2、3時間近く経った。
あの後、オレ達が長らく持っていたビニールの中身、なんのことはない、酒とつまみを拡げて夜鷹と話をしていた。
本来、ここに来るのにタクシーなら10分もあればすむ道を3倍の時間をかけてきたのもこの荷物が理由だったりする。
「それにしてもいいのかい?こんなことして…未成年だろ?ボクの能力がどんなものかも知らないだろうに」
「だから教師は連れてこなかった。それに指輪云々ならそっちも同じだろ。なにより戦意のない奴と戦いあう気はあんまり、ない」
本音を所々折り混ぜて世間話をしていた。
佐乃はというと…後ろで何も言わず食わずで待機している。
…というか常時シャツの後ろ側を引っ張られているのであまり気分がよろしくない。
「戦う気、か、確かにないね。もうそんなの十分だよ」
…そう、こんなのといくら戦ったところで心が昂ぶらない。
「だが…気分次第で戦うんじゃ指輪が集まらないだろうに」
「…知ってたのか」
指輪が集まらないことではない、他の指輪を集めなければいけないことを、だ。
「あぁ、ここにくる指環使い達が教えてくれたよ。別にこんなもの、これ以上いらないのにね」
そう言って苦笑する夜鷹は俺の顔を覗きこんで口を開いた。
「それでどうする?キミは一体どうしたいんだい?」
戦いたい、そういえばきっとこの男はそれに応えるだろう。
だが、俺の口からは別の言葉が出て来た。
「どうすればアンタは指輪を譲ってくれるんだ?」
―――この男は争いを望んではいない。
いわばイレギュラー。華南に優勢を誇った指環使いを惨殺するだけの力を秘めながら華南の指輪を取ろうとはしなかった。そう、自分から攻めに転じることはない。だが、害成す相手には容赦は、ない。
だからダンタリオンの指輪は使ってない。ただ装備時の付帯能力としての思考読解は機能しているものの、この闇の中、しかも互いに座って酒を飲んでいる状況。本人にも影に触れる事もなかった。
それに指輪を使わなくとも分かる。
コイツには効かない。持っている指輪か、それとも本人の能力か、明らかに常人とは[格]が違う。
言うなれば出会った頃の華南と同じ、仕えるモノではない、王者の風格。
それがこんな気弱そうな年上の青年からは確かに伝わってきていた。
しかしこの風体でも実力は本物。無謀にも、そして果敢にも挑んできた連中の残骸が後ろの人体模型に混じって何体分かある。
どういう理屈か知らないがおそらく指輪によるものだろう、この暑い初夏の熱にも腐食せずにそのまま転がっていた。
「……ストレートだねぇ。だけど、まぁ合格だ」
「合格?」
「あぁ、指輪を渡してもいい、ということだよ」
っ!…よしっ。
「…にしてもどういう心境の変化だ?今まではそんなことしなかったんだろ?」
そう、こちらから予測して言い出したものの、にわかには信じがたい。
「別段、不思議ではないよ。最近やってくる指環使いのグレードが上がってきててね。
そろそろ潮時だと思ったんだ。だったら意に添わない相手よりも自分が認めた相手に託した方がいいと想ってね。
それと…代わりといってはなんだけど条件が有るんだが呑んでもらえるかな」
「条件?」
怪訝な表情でこちらが問い返すと今まで気さくだった青年の顔が真剣なものになった。
「あぁ……そろそろだ。
こちらにきてくれ。紹介したい相手がいるんだ」
「―――…」
ウソをついているとも思えない。だが何かが引っ掛かった。
さっき、指輪で確認したがこの建物の中に他の気配はない。
にも関わらず、夜鷹は天井の見えない屋上への階段を昇って行く。
「……」
一人でここに突っ立っていても何も変わらない。
いつの間にか出ていた月明かりから伸びる夜鷹の影を踏みつつ階段を昇って行く。
大丈夫、なにも企んでいない。
そして―――
案の定、屋上には誰もいなかった。
在るのは…そう、放置されたふきっ晒しの建材だけだった。
「夜鷹さん、誰も―――」
そう言って夜鷹を見る。と―――
「すまないね。今すぐ喚ぶよ」
そう言って長髭痩躯の青年がその右手に自分があの魔女から手に入れたであろう指輪を嵌めながら答える。
…裏がないのは分かってる。
だが、なんだ。この静謐とはかけ離れた不穏な空気は。
「―――さぁ、天井を晴らせ、ムールムール」
親指の指輪が光る。すると―――
それまで朧月だった空が五分と経たない内に晴れ渡る!
俺達を中心に半径200メートルくらいだろうか、その間の雲が一切なくなる。
「―――フールフール、彼の魂魄を今ここに」
―――!
今、なんとこの男は言った。
魂を呼び寄せる。
それは、まさか―――
「ビフロス、ビューネィ、その御技を以て殻なき御霊に姿を与えよ」
するとどうしたことか、もやのような物が現れ、次第に形作って行くではないか―――!
「―――……紹介しよう、カラス。彼女は僕が殺した、僕のフィアンセだよ―――」
熱帯夜など関係ない。
涼風吹きすさぶ天上に近い場所で俺は―――凍りついた。
「……それで条件なんだが」
「―――……あ、あぁ、じょうけん、なんだったっけか」
「ふふ、まだ言ってないよ……そう、あと1日」
「ん?」
「あと1日だけ、待ってくれないか?彼女と過ごさせてくれるならば君にこの指輪を無条件で渡そう」
眼を見る。
ウソをついているようには見えない。
そして、月光によって出来た影を通して伝わってくる心も同様に偽りはなかった。
ただ、儚い幻が消えるのだと、夢幻は永遠ではないのだと自分に言い聞かせて今晩で見納めるつもりなのだ。
「―――…あぁ、分かった」
「感謝する」
「するなよ。俺が現れなきゃあとしばらくは夢が見れたんだから」
「―――…」
力で挑んでくる連中は力でねじ伏せるがこんな連中は目的を果たさせてから指輪を預かるつもりだった。
もちろんリスクを避けるという意味合いも強いがなにより、コイツ等は他に望みを持ってはいないからだった。
バカが何千人死のうが知ったこっちゃないがこんな連中には死んで欲しくない。
それがオレのエゴだとしても、いや、エゴであるが故にそれだけは曲げられなかった。
「―――は、そんなん、続くワケねーだろ」
「!――――」
何かが、階段を上がってくる。
少しずつ姿を現していくモノを見る。するとそこには―――
「……明日まで待つ?お前バカかよ?今、すぐだ。今すぐにこのオレ様にソレをよこせ」
そこには俺と同じくらいの年のガラの悪そうな少年がいた。そう、駅前なんかでよく群がってるタイプだ。
そして、突然の闖入者の登場に動じることなく夜鷹さんははっきりと拒絶した。
「悪いが断る」
「断る?オマエバカかぁ?今まで戦わねェでやってきたチキン野郎に選ぶ権利なんかあるかよ。
おい、そこのオマエ」
そう言って俺の方を向いてくる。
「ん、オレか?」
「あぁ、明日まで待つってんなら手ェ出すなよ?
ま、出すってんだったら相手になってやるけどワザワザ指輪を奪われるなんてヤだろ?」
饒舌に笑う。だが、コイツの場合ハッタリだ。強い月明かりから伸びてくる影によって分かる。コイツ、内心かなりビビってやがる。
ビビってはいるがそれは俺達の実力に、じゃない。2対1、という状況に脅威を感じている。
正確には3対1なのだがこの際、佐乃が指環使いだということもこちらが心が読めることも伏せておく。
「―――…」
オレはその問いに答えずにつまらなさそうに隣の男に質問した。
「だとよ。どうする?」
「あぁ、手を出す必要はない。降りかかる火の粉ぐらいは自分で掃える」
「ま、それもそうか」
そんなやり取りを聞いていた男がまた吠えた。
「あぁ?なに言ってやがんだてめェ等?
ナメた口利きやがってタダで済むと思うなよ?このチキン野郎。そこのテメェもだ、気が変わった。コイツが終わったら逃がさねェでこの場でヤってやる」
…おめでたいヤツだ。数を制約したくらいでイーブンになったと思ってる。
全く戦況が読めていない…そもそもこの場を支配するのは数じゃない。
「別にいいが……勝負はもうついてるぞ?」
「―――え?」
間の抜けた、声。
次の瞬間、男の四肢が在りえない方向に、曲がった。
ゴキィッ
ひゅう
オレの口笛が虚空を駆け抜けてソラに消えた頃―――絶叫が木霊した。
「あっ!?ああああああぁぁぁぁぁぁっ!おれのっ!オレのからだがぁっ!?」
そう、数なんか問題ない。
コイツはどうだか知らないがこの場にいる全員、実力は上位。
求められるのはその全員を凌駕してみせる質、ただ一つ。
だが、目の前の介入者は無様に足元にひれ伏した。
がっ
「う“ぁあああああぁぁぁっ!」
そこにすかさず俺が踏みつけてさらに悲鳴を吐かせ、夜鷹さんに向き直る。どうせコイツの指輪にも興味はないだろう。漁夫の利とはこの事、楽して美味しく戴くのに不都合なんて在るハズもない。
「さて、と。あとはオレに任せてくれ―――っ!?」
瞬間、入って来た男の思考が俺の言葉を中断させる!
「なに、踏みつけてくれてんだこらァ!」
コイツっ!いつの間にか手足が治ってやがる!?
「ちぃっ!」
飛びのく。
「ソレがお前の指輪の力か!」
だが男の目には俺は映っていない。俺達に背を向けた男を捉えていた。
「あっ!テメェ、逃げるなっ!」
「僕は明日まで最後の刻を過ごす。あとは…そうだな、勝った者の前に指輪を渡そう。
さ、行こう」
そう言って女性の人魂を連れ添って下に降りていこうとする。
が、そんな夜鷹さんを第三の男はニヤけながら見つめて衝撃的な一言を吐く。
「―――いいのかよ?オマエの持ってる指輪とオレのフェニックスさえあれば在れば死人すら生き返らせられるってのに」
「―――っ!」
足が、止まった。
なるほど…手足が瞬時に治ったのはその為か。
フェニックス―――37位の魔神。
その有名さならこの国でも知らないものはいない火の鳥。不死と再生の象徴。
確かに迷信通りならその尾羽は死したモノすら生き返らせることができるという。
「へへっ。本当にできるかって顔してるな。こ…これが、できるんだよ」
得意そうな顔をして饒舌に説明を始める。
…いや、説明を始めざるを得なかった。
それほどまでに夜鷹の顔は真剣そのものだった。
言葉に微塵でも冗談が混じれば再び四肢を砕かれるだけではないだろう、四肢を千切り、その相手で試そうとせんばかりの真剣さ。
その証拠に額には汗がにじみ、言葉尻には焦りが感じられた。
そして、ちら、とこちらを見る。
一瞬にして四肢を砕く相手が自分の味方になればそれこそ俺とコイツの立場は逆転するだろう。
今度はこちらがそれまでとは異なるイヤな汗が出てくる。
だが、怯まない。
暴力を振るうだけが戦いじゃない。むしろこれが、情報戦こそ俺の戦場。あの図書館で手に入れた知識と言葉こそが俺の武器。
「…できるといったな、オマエ、試してみたのか?」
「あぁ、じゃなきゃこんなコトは言わない。
半殺しにするつもりのヤツがうっかり死んじまってな、指輪の力を使って生き返らせたのさ」
「…その話、本当か?」
本当だ。
遊ぶ金欲しさに路地裏でリーマンを襲ってうっかり殺し、その罪をクリスにおっ被せるつもりでサラリーマンの財布ごとアイツに渡したようだ。
そして契約したフェニックスで殺した男を生き返らせ―――また、殺した。
「あぁ、どうしてもって言うんだったらソイツを殺して試してみればいい」
そう言って俺を指さしてくる。
「―――…」
さっきとは違う。感情の感じられない眼でこちらを見てくる、さっきまでの穏やかさなど微塵もない。恐らくこれが夜鷹 幹久という人間の本性なのだろう。恋人を殺したというのも頷ける。
―――ち。
俺は静かにポケットから指輪を取り出し嵌めていく。
「…ふん。どうしてもやるってんだったら相手になるがその前に一つ聞く。
夜鷹さん、アンタの恋人、死体は取ってあるのか?」
「…いや、既に灰になっている。今では家の者によって墓の下に埋められているだろう」
「ってコトはもう半年近くたっているのか…」
「正確には2年前だ」
「…分かった。一つだけと言っておきながらもう一つ聞いて悪いがこれが本当に最後だ」
そう言って一呼吸おく。
「さっきそろそろだって言ったな?彼女を呼べるのは―――夜だけだな?」
「あぁ、今時分の深夜になってから明け方までだ。…では悪いが―――」
参る。そう言おうとしたのだろうが今度は俺は出鼻を挫いた。
「結論から言ってやる。恋人、確かに生き返るだろうな。
その代わり、産まれかわり達はみんな―――死ぬことになる」
俺のその言葉に驚愕し、目を見開く二人。
『!…なっ、どういうことだ―――!』
まぁ、当たり前だろう。
これを知るのは現代世界でも一部の連中のみなのだから。
―――魂の構成概念とその在り様、なんて、な。
「言った通りだよ。オマエの恋人は既に複数の人間の一部として生まれ変わってる。
夜しか会えないのは当然さ。寝ている最中は魂を身体に接続している脳内磁性体の力が弱まる上に、魂の一部、というより魂魄そのものの結合が弱くなるからな。
この周辺にいる複数の生まれ変わりたちが全員寝静まって初めて魂が呼び出せるんだ」
「どういうことだ」
「分かりやすく説明してやる。アンタの恋人はもう生まれ変わってるんだ。しかも、アンタの周囲にいる無数の人間の中に、な」
「な…なんだって?」
夜鷹が初めて困惑した声をあげる。
「人間の魂魄ってのは死んで大体50日くらいで分解される。
その分解された魂魄は様々なモノの魂魄の構成要素―――俺は幽子って呼んでんだがそれに戻って再び結合する」
そう、ありとあらゆる物質はなくなるんじゃない。分解と結合を繰り返してその性質を変えていく―――循環している。
「んで、オマエさんの恋人は再び人間になることを選んだんだろ。
だから幽体離脱、人間の身体から幽子が抜け出やすい睡眠状態になる夜にだけ恋人の魂が再び集められ、そして彼女と同じ幽子配列になり、その姿を再生させるのさ」
そう、ゲノムと同じ、その配列によって個性が決まる。なにより、記憶領域もこの配列の一部に含まれ、たまさか同じ配列になった人間は過去世の記憶を持つに至る。
「それは……本当なのか?」
「確証はない。だが、俺はウソをついているつもりはない」
オロバスの言葉を受けて第二図書館の関連書籍を読み漁ったらそんな答えに辿り着いた。
「確証はない、か。
では、実際に生き返らせたフェニックスの指輪の力の方が説得力がある」
「言っただろ。ソイツが生き返らせたのはあくまで死んだ直後だ。
魂魄が肉体から出て行く前じゃない。フェニックスができるのは肉体の再生と魂の定着。
複製と喚起はできない。これがどういうことかオマエには分かっているハズだ」
「生き還らせるために魂を呼び寄せれば生まれ変わってきたモノ達の魂の一部が抜け落ちる、か。道理だな」
「あぁ、もし運が悪ければ魂そのものが分解、瓦解を起こし再びヒトとして存在するコトはない。
その証拠に数日前からこの界隈で殺人事件が起きているのと世界中の昏倒事件、アレはコイツが起こしているもんだ」
…そう、再び殺したサラリーマン、ソイツはどうなったか。
未だそのサラリーマンは[死んでいない]。[死んでいない]代わりに身体にコイツはトンでもないモノを埋め込んだ。
「…どういうことだ?」
…そう、春奈の追っていた症例と都市伝説・甦るジェイソンをコイツが起こしているものだとしたら―――
「ち、バレてたか、あぁ、そうだ。
俺が契約したビフロスが呼べるのは罪人や水死した魂―――カルタグラって煉獄に記録された魂ばかりだそうなんでな」
「―――名だたる罪人を呼び出したからか。あの昏倒事件は」
「だいぶ前の連中ばかり呼び出したから世界中に拡散した幽子が様々な人間に入り込んでいたんだろう。だから被害は世界中に拡がった。
夜鷹さん、アンタのムールムールはおそらく穏やかな気質なんだろう、なるべく対象の周囲に害がないよう幽子を呼び寄せ、恋人はアンタの周囲に在る事を選んだ。
だが、コイツとビフロスは違う。被害者は幽子が強引に結合解除されたため、魂が欠損した状態で何らかの処置を施さない限り、永遠にそのままだろうな」
「ふん、だからどうした、俺には関係にねぇよ」
「あぁ、オマエには関係ない。それよりも分かっただろう?いいのか?夜鷹さん、オレはアンタによって魂の結合を解かれた少女の肉親を知っている。ソイツは無事に目覚めるとしても心底心配をして一生をその研究に捧げようとしている」
「っ!……………」
「…それでも―――」
俺は眼で問う。
再びオマエは恋人を殺すのか、と。
お前が愛した人間は因果をねじ上げてでも生き返りたいのか、と。
警告であり、夜鷹に覚悟をつけさせるものではなく、俺を怒らせる為のものだった。
これでもオマエが首を縦に振るというのなら容赦しない。
「―――…」
苦悩して目を閉じる夜鷹。
幻想の中に生きることすら許されず、いま再び選択に迫られている。
「自分で答えが出せないんだったらそこの恋人にでも聞くんだな。明日、指輪を持ってるヤツのところに行けばいい」
「明日……今晩はいいのか?」
「ふん、一晩待つと言っただろう。時間も少ない。悩む時間すらなくなるぞ?」
「―――…っ」
立ち去る夜鷹。これでピンチは脱した。
「待て!」
「待つのはテメェだよ、バカ餓鬼。これでイーブンだ」
「……テんメェ…」
「なんとかに刃物は持たせとくワケには行かないんでな。とっととケリをつけるぜ?」
「ちぃ、うゼェ…まぁ、いいか。テメェさっきからムカツクんだよ。殺す」
ふん、典型的なクソガキだ。
なりは俺と同じくらい、だが、中身は小学校ででも止まったのか全く成長していない。
ただ、タチが悪いだけ、側にいるだけで胸クソが悪くなる!
「…やれるモンならやってみろよ」
「ヤってやるよ!」
「待て、外道、キサマの相手は私がするっ!」
息巻いて男が向かってこようとする所に佐乃が割って入ってくる。
「ん?なんだ女、オマエなんかどうでもいいんだよ。メスならともかくガキが相手じゃ勃つものも勃たねぇ」
「…低俗な…斬る!」
「ちっ、メンドくせェ…おい、起きろ!オマエたち!」
そう男が叫ぶと隣り合った指に嵌められた2環の指輪が光り、夜鷹の指輪とは異なり今度は地表から何かが飛来し、下の階の物陰に隠れた四肢の千切れた死体の中に潜りこむ!
そして―――薄暗い燐光によって見えたのは四肢が徐々に繋がり、死んだハズのそれ、がぎぎぎ、と動き出した姿だった。
計2体、もっといると思ったんだが…もしかすると器と魂魄の相性が合わなかったのかもしれない。
「…っ!」
「やれ、つってもそんなんじゃ言う事聞かないようなぁ。
また死にたくなきゃそのガキをどうにかしろ。好きにしてかまわない」
そう言われ、名も無き罪人が感情のない眼で佐乃を標的に定める。
「…佐乃、二匹は任せた。存在するだけで害になる連中だ。一切躊躇することなく斬り倒せ」
「はっ」
そこに暗闇を恐れていた少女の姿はない。
護るべき王を守護せんと剣を抜くサムライの姿がそこにあった。
「ふんっ!女に護られて情けねェチンカス野郎がっ!」
「―――っ!」
「……佐乃、止めろ。とっとと行け。オマエがいるとオレが戦えない」
「はっ、分かりました。一刻も早く終わらせて舞い戻ります」
「………あぁ、とっとと行って帰って来い」
「はいっ!」
声を上げると階段を一足で飛び降りる!
それを見届けると俺は―――
「ほい、と」
「っ!?お館様―――!?」
野晒しの建材を蹴って瓦解させ、唯一の出入り口を塞ぐ。
「しばらくこっち見んな。頑張れよー」
言っただろ。オマエがいるとオレが戦えない
そして改めて向き直る。
「おぉおぉ、手前の奴隷を時間稼ぎにして逃げるつもりかよ。大したご主人様だなぁ?」
嘲る声。だが、俺はそれを意に介すことはなかった。
「あぁ、いいんだ。そんなことより、だ。何度でも復活するってんなら―――気が狂うほどの痛みを永遠に与えられるってコトだよなぁ?」
「ナニ言ってんだ?そんなことできるかよ。そもそもそんな事手前みたいなガキにできるかよ」
…ガキはオマエだっての―――いや、変わりない、か。
「…出来なかったら言わねェよ」
あいにくこっちは佐乃戦以降、戦ってないんでフラストレーション貯まりまくりなんだ。
なにより、どれ位ぶりか―――躊躇無く××る相手が眼前にいる。
…待っていた。オマエの様なクソっタレを待っていた。
いつから?
そんなの決まってる。
アレからに決まってる。
…だから、そう、だから××てやるのに佐乃は邪魔なだけだ。
偽善者。
少し前、誰かにそう言われた。
だが、違う。
そんな人間はこんなこと、しない。
きっとこんな顔、しない。
「っ!オマエ―――…」
名も知らない目の前の男が俺の顔に気圧される。
どんな顔をしてるのかは今更問う気はない。
どちらにしろオマエは相手を見誤ったし、なにより俺も―――オマエみたいな餌を放って置くほど俺はお人好しじゃない。
「さぁ、行くぞ」
コイツの指輪の能力はさっき読んだ時に把握した。
直接的に相手を攻撃できるような指輪は持っちゃいない。
…そう、目の前の相手の武器―――死人、屍操術。それこそがコイツの武器を今、封じた。
武器は封じられた。その為、互いの逃げ場を断ったにも関わらず、俺が逃げる、とこいつは嘲笑した。
互いに武器があるとすればそれこそそこら辺に転がっている角材や鉄パイプくらいだろう。
俺は相手が警戒しているのをいい事に悠然と歩き、鉄パイプを手にした。
夜風に冷やされた地金が少しだけ昂揚した気分を冷やす。
それを見て相手も気を取り戻す。
「はっ、なんだ。お前もか、お前の指輪も攻撃力なんか持っていないのか!」
はっはっは、と今までの臆病風はどこに行ったのか強気になってこちらを見下す。
…だから、台詞の端から自分の弱点をさらけ出すような真似は止めてくれ。
「御託はいい。とっとと来い」
「っっ!!ブッ殺してやらぁッ!」
手近にあった鉄パイプ。何気にこちらより長いのを手に取ってこっちに走りかかってくる。
…安っぽいな。まぁ、あんな非常識に鮮烈過ぎる光景を見た後だ、どんなやり取りだって安っぽく見えちまう。
まぁいい、俺たちにはこれ位が丁度いい。
「死ねよっ!」
「―――黙れ。軽軽しくヒトを殺すな」
命の重さ、なんてご大層な事を言うつもりは無い。
ただ、逢いたくても逢えない人間がいる。逢えるのに逢えなくなりそうな人間がいる。それを目の当たりにしてそんな人間を造るのは嫌だから―――
「このバカヤロウがぁっ!」
「うるせあぁぁぁぁぁっ!」
がきぃっ!
金属が火花を散らしてぶつかる。
「くぅっ!」
それだけじゃ―――ない。
硬いモノ同士がぶつかった衝撃が手にも伝わり、手が痺れる!
「こっこの…っ」
男がなんとか持ちこたえ、再び宙に鉄パイプを構える。
オレはというと―――初撃の瞬間、力を抜いて衝撃を緩和し、生まれた反動でそのまま身体を反回転させ、男が構えたその瞬間、横っ面に振りぬく!
ごきぃっ!
「うごぁっ!」
そこにすかさず男の手から離れた鉄パイプを蹴り飛ばし、武器のなくなった男を撲殺するかのように手を振るう!
何度も、何度も。遠くの街の喧騒に混じって肉体に鈍器が衝突する音が何度も鳴り響く。
ごすっ、ごすん、ごすんっ
「こ、この…っ」
いくら再生するといっても痛みには耐えられないらしく、どんどん弱音になっていく。
ごすっ、ごすん、ごすんっ
「や、やめ…っ」
だが初撃以外、即死するような場所にダメージは与えていない。出血多量や痛みによるショック死に至る危険性もあるが、そういったポイントは最優先で指輪が治しているのだろう、その兆候は見られない。
ごすっ、ごすん、ごすんっごすっ、ごすん、ごすんっごすっ、ごすん、ごすんっ
「ご、ごめ…っ」
このまま続ければ先に俺の体力の方が尽きる。
だから、コイツの心を折る。
がっ
「ぐふっ!」
「爪と皮膚の間に針を入れられた事はあるか?
麻酔無しで歯を抜かれた経験は?
眼球をほじられるってのはどうだ?」
「ひっ!」
実際に想像したのだろう。
瞬く間に男の顔が引きつっていく。
「お館さまっ!」
今の悲鳴を聞きつけ、佐乃が建材を切断して階段を上がってくる。
「おやか…っ」
佐乃がその光景を目の当たりにし、息を飲む。
…ち、早すぎる。だが、構わない。というより止まらない。
「……だけどな?お前が甦らせた犯罪者たちに殺された連中は、理不尽に殺された連中は、これ以上の恐怖を味わったんだ」
「おやかたさま…」
俺は語気を荒げて耳元で吠える。
「何度もだ!」
「ひっ!」
「何度も何度も何度も何度も!
眼ぇ穿り返して、歯ぁぶっこ抜いて、爪を引き剥がして針をさし続けてやる!」
そして小さく、だけどはっきりと聞こえる冷たく低い声で―――
「………生きることの方が死ぬよりも何倍もツラいって事を教えてやるよ」
「あ、ぁ、ぁ…」
恐怖で顔を引きつらせ、顔に消えないであろう皺が刻まれていく。
これ以上責めれば心が壊れる。
その寸前まで追い詰める。
「どうする?
フェニックスの指輪がない状態でそんなコトをすれば事件になるからしないでおいてやる、選べ」
永遠の苦痛か、永遠の恐怖かを。
「わかった!だからっ!」
そう言って指輪を渡そうと右手を左手にかけ、こちらも足を上げ、その瞬間―――
「バカかっ!渡すワケねーだろっ!」
全ての指輪の能力をフル稼働させ、身体能力を向上させ、飛び上がり―――こちらに襲いかかってくる!
「しま…っ!おやかたさまっ!」
遠くから佐乃の焦る声が聞こえる。こちらもとっさのことに対処ができないっ!
―――ワケがない。
「……あぁ、わかってたさ」
だから
「てめェと同じくらいにムカつくぜ、アスモデウス」
『一緒に―――するな』
ポケットの中で封印を解かれた魔王の蔑むような冷たい念話があたり一帯に響き、俺の足元に方陣が描かれ、魔剣が現れる!
「なっ!」
飛び上がった状態で瞬く間に手足を磔にされ、男の顔が驚愕に支配される。
「佐乃ぉっ、主命だ。オレがオマエに触るまで耳と目、閉じてろ」
そう言うとしっかり、と目を閉じて耳を両手で閉じる。
そう、それでいい。俺は男に向き直る。
「あぁ、そういや言ってなかったな。俺は指輪で心が読めるんだ」
そう言って凄惨な笑みを浮かべ男を見上げる。
「そっ…そんな…」
全て思い通りになってきた人間が何一つ思い通りにならなくなった哀れな表情になる…あぁ、いい表情だ。
俺が口を歪めると向こうも哀れを乞うようにこちらに笑いかける。
だが、俺は口を釣り上げて―――ただ一言、
「じゃあ、死に続けろ」
ぐるんっ
刃を持った手が一斉に男に向き―――
「イッ!いやめぇてくれええぇぇぇーっ!」
ざしゅっ、ざしゅっ、ざしゅっざしゅっ、ざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっ―――
「ぎひやぁぁぁあああっ!やあっ!いやぁっ!やあめぇてぇぐぅぶれえええぇっっ!!!」
男は再生する側から無数の剣を突き立てられ悲鳴を上げる。
「安心しろよ、精神が壊れたとしてもいくらでも作り直してやる」
瞳孔が開きながらも目の光彩は失われない。
既に心は何度も壊れている。だが、その度にダンタリオンの能力によって寸分違わず再生させている。
「ウギャアアあああアアあアァぁぁぁぁぁっ!!!」
聴くに耐えない悲鳴が耳をつんざく。
罪は償えない。死んだ命は戻ってこないのだから。
だからこれは罰じゃない、
ただの私刑、俺に刃向かった報いだ。
一分も続いたか、本人にとって無限に続くと思われた地獄は当然のように終わりを告げる。
「あっあぁぁぁっ」
串刺しにされながらも故意に外されている腕から先―――震える手で指輪を外していく。
「…そうか、それがオマエの選択か」
差し出された7つの指輪を受け取り、俺は剣を召還し、拘束を解いた。
「はぁっはぁっはぁっ…っ」
極死の緊張から開放されて崩れ落ち、肩で息をする男。
そんな男の横を悠然と通り抜け、佐乃の頬をさすって合図して沈黙を解かせる。
「さて、行くか」
「お館さま、あの者はもういいのですか?」
自分の想像以上の行為をされたことを知らない佐乃が心配そうな声をあげる。
「あぁ、仕掛けは済ませた。地雷さえ踏まなきゃこのまま生きていけるだろうぜ」
「はぁ…」
要領を得ない顔と返事で佐乃が返事をする。
佐乃は知らないだろうが指環使いが指輪を失うってコトはそれだけで死を意味する。
佐乃や夜鷹の様に自己で完結した使い方をするわけでなく、俺や白鷺のように他人にすら害を成す使い方をするような連中が指輪を失えばどうなるかは明白だ。
力で周囲を押さえつけていた者は台頭する者に抹消され、この力で愉悦に浸っていた者はこの力がなくなれば生きる気力を無くす。
これ以上の快楽はないと知ってしまったモノ達がソレを失えばまるで麻薬が切れた中毒者のように崩壊を起こす。
その証拠に指輪を失った男の心はまるでぽっかり穴があいたように空虚な絶望で覆い尽くされていた。
アレじゃ生きている、というよりもただ「在る」という表現に近いだろう。
だが、それでもオレ達は人間だから傷を癒していく。
癒した先にまた同じような事をするのであれば自分が甦らせた殺人鬼達の元へ向かう事になるだろう。
そう、それが地雷―――いずれ踏むであろうことを確信して、敷設した。
「親方様、大丈夫ですか?様子が…」
「大丈夫だ。久しぶりに遠慮なしに暴れたから身体が昂ぶってるだけだ。それより指輪は?」
あれだけ感情を爆発させた後だ。実のところ、勃ちっ放しのままだったりする。
「はっ、こちらに。
あの…それでしたら遠慮せずに私を鎮めるのに使っていただけませんか?」
被虐願望の剣士も昂ぶっているらしい。
だが、俺は却下する。
「…いや、今日はもう帰るぞ」
「は―――」
夜鷹はどこかで彼女と語り合っているのだろう。姿も気配もない。
あぁ、そういえば結局、最後まであの男の名前を知ることもなかったな、まぁ、いいか。
俺は嘆息すると真っ白になった男だけを残し、佐乃を伴なって屋上を後にした―――
< つづく >