第四話『舞い降りた天使×あっちの事情=裏側の顔』
「ではでは~みんな集まったみたいだから第……え~と何回か忘れちゃったけど、集会を始めよ~か」
たいまつの明かりが照らす祭壇の上、ミロクはシャッガイのメンバーを目の前にいつもの調子で宣言した。
この場所はシャッガイにとっての聖地であり、聖戦の場である。この場に集まったのはそれぞれの幹部、ダークゾーンのアシタカ、スナイプホールの黒将…そしてクリムゾンの『セント』であった。
「みんなも知ってのとおり、『ダークゾーン』のメンバーはアシタカくん以外は不慮の事故で全滅。『スナイプホール』は黒将くんが留守の際に『エレメンタルギア』によって壊滅…現状では『クリムゾン』のみが活動可能ってことで、当面は『クリムゾン』が戦力の主体になるってことでファイナルアンサー??」
「…………………」
場に何とも言えない沈黙が流れる。
「もしも~し?みんな聞いてる?返答も質問がないなら僕チン勝手に進めちゃうヨ~ン?」
「さっさと終わらせろ、こっちは忙しいんだ!!」
始めに動いたのはアシタカだった。誰にでもわかるほどイラついた声でミロクをにらみつける。
「そうそう、僕もアシタカに賛成だね。今日中に僕の部下が歯車をひとつ手に入れられそうなんだ。集会が長引いたせいで捕獲できなかったらどうすんのさ?」
次に言い出したのはセント、一見落ちついている様に聞こえる声も、非難を帯びているのがわかる。
「はいは~い、みんなが忙しいのは知ってるから、せめて皇帝の伝言ぐらいは聞いておこうね~」
『皇帝』という言葉に二人はすぐに反応し、押し黙った。
「と言っても、我らが皇帝『ネロ』の言葉は一言「時は近い、急ぎ歯車を集めよ」ってだけだったけどね~。今の調子でも儀式の分だけは歯車が集まりつつあるからね~。がんばってねみんな♪君たちの世界に巣くう『クトゥルー』を何とかするには歯車を集めるしかないんだから」
ミロクは一方的に話しそのまま姿を消した。それで今回の集会は御開きになった。
セントが去っていく中、アシタカと黒将はそこに残った。というのも、この集会が始まる前に黒将が話があると言っていたせいだ。
「何の用だ?黒将」
「……いや、お前はどう動くんだろうと思った次第だ」
「どうもこうもねえ、『エレメンタルギア』は俺が手に入れる」
「その理由が何か…お前は覚えているのか?」
「あ?どういう意味だ?」
アシタカの返答に黒将はため息を吐いて首をがっくりと下げた。
「アシタカ…お前は――いや、聞くだけ無駄か…璃梨いるか?」
「お呼びでしたか?主様…」
音もなく現れた璃梨は黒将の前で膝をつくと深々と頭を下げた。
「やっぱりいたか。…いや、俺のためにやってくれているのであったな、感謝しておこうか」
「はい、ありがとうございます」
璃梨を連れて黒将が祭壇から去る。
「ああそうだ、これは独り言だがな…」
去り際に黒将は一言呟いた。
「美玖はどうしたんだ?」
「なに?」
瞬間的にアシタカは『美玖』という言葉に反応した。
「どういう意味だ!」
「ん?独り言だ独り言…」
その場にはアシタカ一人が残された。
「美玖…が…?…どうしたっ…て?」
明かりが落ちた祭壇に誰に聞こえるともわからない呟きが木霊する。
―――――――――――――――。
朝日が窓から射し込み眠っていた意識を呼び覚ます。
「そうか、もう…もう朝か」
昨日千穂と一緒にここ―廃ビルの一室で寝てしまったのだったな。
千穂は俺と同じく、書類を毛布代わりに寝ている。今の状況なんてお構いなしにすやすやと規則的に寝息を立てている。
その寝顔に少しドキドキしているのは気の迷いとして置いておこう。
「しかし、しかしだ。そろそろ到着してもいいことだと思うのだが…だがな」
「にゃ~?にゃにがどうしたの~かにゃ?」
忘れていた…寝起きの千穂は……。
「にゃにさ、にゃんかおかしいかにゃ?」
ああおかしいさ、昔からそうだったが、なぜお前は寝起きが猫語になるんだ?
なんて口が裂けても言えない…言えないぞ……。
「にゃっちゃん!言いたいことがあるにゃらハッキリいいにゃさい!」
いや、そっちがしゃべり方をハッキリするべきだろ…口には出さないがな。
………………………………………。
「それで?何がそろそろなの?」
「千莉に連絡をとってな、すぐ来ると…すぐ来ると言っていたからそろそろ来ると思うんだが」
「ふ~ん…念波で会話したってこと?……契約ってこういう時に便利だね」
後半の声色を変えた声に背筋が凍った…言葉とは別の見えない棘が3桁ほど刺さっているような感覚がする…。
お、恐るべし千穂の眼力………。
感服している間にドアの前に人の気配がした。
「ん?来たみたいだな、結界を外すぞ」
「いいよ。でもさ、実は今ドアの前にいるのが敵で、結界を解除した瞬間に襲われたりしないよね?」
「…………たぶんな」
一抹の不安を胸に俺は結界を解いた。……そしてその時はやはり瞬間だった。
目の前を白い閃光が横切り、廊下とこの部屋の境目―つまりはドア―がいい感じに八等分された。
「っ!」
即座に俺と千穂は戦闘態勢をとるが、その必要はなかったようだ。
「千莉ちゃん!?」
「千穂…?」
互いの存在を確認して、全員で警戒を解いた。
………………………………………。
「それじゃあ、千穂とナイアルさんは昨日ここで戦闘になったんですね」
とりあえず、千莉に昨日までの事を一通り話して、これからの対策を練ることにした。
「そそ、私を助けてくれた時のなっちゃん…かっこよかったんだから」
「そうなんですか?それは私も見てみたかったです」
「千莉ちゃんはなっちゃんと契約結んでるからいいじゃない。ここに来たのだってなっちゃんが念波を送ったからなんでしょ?」
「それにはビックリしました。寝ていたらいきなり頭の中で声がして起こされたんですから」
ああ~まったく話が進みそうにないな…まあ、千穂と千莉が話をしているところを見るのは何となく落ち着くから少しはいいだろう。
「そこでなっちゃんは言ったの「女に戦わせて、男が何もしないとは何とも、何とも無様…あいつに、あいつに笑われてしまう。手を貸すぞ千穂!」って」
「はう~それはまた……それにあいつっていうことは『究極に闇をもたらす存在』のことですね」
千莉はどうやらアルからきちんと説明をもらったようだ。少し心配だったが、これなら問題なさそうだ。
「へ~なっちゃんは『究極に闇をもたらす存在』に憧れてるんだ~。でも何で?」
そこで急に俺に質問が回ってきた。
「うっ…それは……」
痛いところを突かれた。たしかに俺は『究極に闇をもたらす存在』のように成ることを目指している。しかし、理由といえる動機かどうかはわからない……時間の概念があやふやで、きっかけとなったあの事件がいつの事かハッキリしないからだ。
ん?そう考えると俺の記憶には穴があるようだ。千穂のこともそうだ。何故今まで思い出すことができなかったんだ?
自分の存在に違和感を覚えたのは千莉と契約してから、何かそこから俺自身に変化が起きているような気がする。
神楽 千莉
エレメンタルギアで剣の形をした術法兵装をもつソードシンビジウム。
………ん?気がつけば俺は千莉と契約しておきながら彼女の情報をほとんど持っていないのではないか?
考えてみればおかしなことだ。人と契約するのはこれが初めてじゃないはずなのに、どう行動すればいいのか俺はわかっていない。
契約をしなければあの時千莉を元に戻すことはできなかった。それでもまったくの他人と俺は何故契約してしまったのか?
…………まあいい。知らなければ聞けば良いのだ。幸い敵はまだいない、今のうちに聞いておくべきだろう。あいつの様になるために……。
「なあ、なあ千莉?いくつか質問があるんだが、いいか?」
そう話を切り出した。
「ちょ、なっちゃん!千莉ちゃんだけ?私にも質問してよ、それこそどこが弱いとか、自慰は週に何回するとかそんなぶっちゃけた話まで何でもOKなんだから!!」
千穂がすごい勢いで突っ込んできた。しかし、そこまでぶっちゃけた話をこの場でするはずもないだろうに。…昔からこんなやつであった気もするが…。
「では、では二人とも答えてくれ、それでいいだろう?」
千莉は「はい」と頷き、千穂は「おっけ~」と右手を上げた。
「まず、まずは一つ。二人はどうしてエレメンタルギアになったんだ?きっかけとか、順番はあったのか?」
先に答えたのは千莉。
「私がエレメンタルギアを知ったきっかけは同じクラスの『雫』でした。入った順番でいけば最後になります」
今から数ヶ月前、千莉は偶然『雫』が戦っている場面を目撃した。その時『雫』が持っていた術法兵装が反応し変身したのだという。それからは司令を名乗る人物から提供される情報を元にシャッガイと戦ってきたようだ。
続いて千穂が答える。
「う~ん。私の場合は雫にスカウトされた感じ?ほら、あっちも魔術師の家計だから自分達の住む街で何か企む連中がいたら潰しをかけないといけないから。順番としては2番目、雫の次」
千穂はにっこりと微笑みながらとことん物騒なことを口にする。
出だしとしてはそこいらのアニメや特撮の流れだとツッコミを入れようと思ったが、その前に確認することが出てきたからそちらを優先した。
「二人はその司令とやらに会ったことはあるのか?あるのか?」
「いえ、ありません」
「ないかな」
千莉と千穂が同時に答えた。
それが何を意味するか、いくつかの可能性が見えてきた。
「他の『ギア』には司令はいるのか?もしくは全てを統括してるのがその司令なのか?」
質問に答えたのは千穂だった。
「全ての『ギア』はこの街の人間から無作為に選ばれるの。選ばれる資格はなっちゃんが昨日言ったように魔術師であること、もしくは魔術の才があること。
司令というのはそれらを監視しているだけで、基本的には選ばれたからといって命令に従わなければいけないわけじゃないの」
…今、千穂はなんと言った?命令に従わなければいけないわけじゃないと言ったか?それだと矛盾する、千莉は司令の支持で動いていたはずだ。
始めて出会ったときも、千莉がシャッガイが現れたと報告を受けてあの場所へ向かった。
命令に従わなくてもいい…では、千莉は支持も受けずにただ現れたと聞いただけであの場所へ向かったことになる。…まるで最初からそう仕向けられていたように……。
「お前たちは、何故、何故戦っているんだ?」
疑問は払えないが、次の質問だ。あれこれ考えるのは後でもできる。
「私は、私の『正義』のためです」
千莉が即答した。契約しているから分かる、千莉は本気でそう思っている。
「贖罪かな…うん、他に言い方はないね」
千穂も即答だ。贖罪という言葉が妙に気になってしまうがそれは詮索しないのがマナーだろう。
「それじゃあ、それじゃあ次は…」
ドゴォォォォン!!
次の質問をしようとした時だった。建物全体に響くような爆音が炸裂した。
「何?今の音!?」
「上!…屋上の方からだと思います!」
「ならば行って、行ってみるか」
俺たちは駆け足で爆音がし場所へと向かった。
発生場所はすぐわかった。屋上まで行く必要はなかった、屋上への階段があるフロアにその人物は立っていた。
フロアにあった机や椅子は衝撃で滅茶苦茶になっていて、元の状態がどうなっていたのかもわからない。
「ニ…ニシシ……負けちゃ……た……ニシ………シ……」
昨日俺と千穂を襲ったやつらの一人であったその男は、四肢を失い、顔を鷲掴みされる形でその場にいた。
「あなたの死に祝福を……そして、その犠牲が世界を救うと信じましょう」
――これは出会ってはいけない存在だ――
それを見た瞬間、俺の中の『ナイアルラトホテップ』としての感覚が警告を鳴らした。
見るものを魅了するような六枚三組の純白の翼…真紅に染まった瞳……何よりその対象から溢れんばかりに感じられる神気…間違いなく目の前の人物は『大天使』以上のクラスを持つ『天使』だということがわかる。
「まだ存在していたのね……」
そしてその天使は俺たちを見つめながら続けてこう言った。
「ナイアルラトホテップ…」
―――――――――――――――。
それはナイアル達が聞いた爆音の起きる数時間前……廃ビルの屋上には一人の少女が佇んでいた。
蒼く長い髪を風に靡かせ、黒いヘアバンドに紅い瞳。肌をほとんど見せない法衣のような服を着ているが女性らしい凹凸はしっかりと見て取れる。
「到着したのはいいけど。いきなりこんな場所だなんて…ついてないなぁ」
街を見下ろし、踊るようにクルクルと少女は回っている。
「オルさんとも連絡がつかないし…それに早くしないと歯車が集まっちゃうし……あ~でもでも今から動くとあの娘に会ってしまうかもしれないし…会っちゃったら…ううぅ~」
少女は一つひとつのリアクションを大袈裟に、誰も見ていないはずなのにまるで舞台で演技をするかのように屋上を右往左往する。
「どこもかしこも陰謀の香りでいっぱいね…」
ふと、少女の動きが止まった。
「…………始まった」
少女の声が強張る。視線の先は千莉達の通う学園…一つの教室を見据えていた。
直線距離にしておよそ1キロ、通常なら見えるはずのない距離を彼女は見ていた。
―――――――――――――――。
「それで?何のようなのかしら?北条君」
気品に満ちた声が響く、学園の生徒会室、少女が廃ビル屋上から見ていたその場所がここだった。教室には男女が一人ずつ、何か話をしている。
「ん?ん~ん、会長さんはわかってると思うんだけどさ。ほら、会長は僕のこと普通に疑ってたでしょ?だから話をね?しようと思ったのさ」
少女の前に立つ少年、『北条 哲也』は妙な自信を放ちながら事無しげに話題をふった。
北条の態度に何か思うことがあったのか、少女は警戒を顕にした。
「会長…いや、『アブゾーブ・ギア』の『天上華 蘭』さんと呼ばせてもらおうかな」
彼女の予感は現実のものとなった。相手が『シャッガイ』の人間だと認識して、制服の腕のボタンをはずし袖をめくる。
「こちらの情報は筒抜けのようね。『リコリス』が言っていたとおりだったわけ……変身」
めくれた袖から出てきた物は逆三角のアクセサリーが付いたブレスレット、その上部分に千莉達が使っているものと同じメモリーを差し込んだ。
START UPの電子音と共に光の文字が身体を包み蘭がその姿を変える。
「『シールドオンシジューム』か、『盾』ぐらいで僕に勝てると思ってるのさ?」
「盾ぐらいとは言ってくれるわね…盾が防御しかできないと思っているのなら、その認識を変えることをお勧めするわ」
「そんなの見てみないとわからないさ」
北条が指をパチンと鳴らすと地面から鹿、牛、鳥、狼も形をした計4体の異型の獣が這い出てきた。
「次元獣ね?…この数を揃えるのにどれだけの時間を費やしたか知らないけど」
オンシジュームが獣に向けて走り出す。獣達はそれに反応して襲いかかった。
彼女の腰までとどく長めの髪が靡く、獣達はオンシジュームに向けて動き出そうとした途端、目の前に現れた盾によって前を塞がれた。
その隙を突くように彼女は突出して攻撃を仕掛ける。盾で視界を塞がれた獣たちは諸に攻撃を受ける形になり、盾に仕込まれた刃が獣を問答無用に斬りつける。
獣から吹き出た鮮血が彼女を汚す。体液に身体を濡らしながらオンシジュームは北条と向き合う。
「体液には何も仕込まれていないみたいね。あなた達にしては珍しいんじゃない?」
「あ~あ、結構無理して集めたのに…これだから時代遅れの次元獣じゃだめだったのさ」
北条はさして残念そうでもない声を出してオンシジュームを指差した。
「会長…あなたはやっぱり僕のものになるべきだ」
「……ねえ?頭がおかしくなったの?盾の属性である私がそう簡単に屈服すると思うわけ?」
「もちろんさ、君は自分から屈服したがるよきっと」
そう言って北条は黄金の弓矢を取り出した。
「これが僕の切り札其の壱、受け取ってくれるかな?」
「絶対に嫌」
「ん~即答だ。予測どうりだったけどさ、この矢を防ぐことができるかな」
「当たったら不味い物って事は確かみたいね…」
オンシジュームが警戒を強める。盾で防ごうとせず、回避を重点に体制を取る。
そんな中、横合いから一つの回転音がオンシジュームに迫る。
「なっ!?」
北条に気を取られていた事もあって回避が遅れる。瞬時に作り出した盾でそれを受け止めた。
「そしてこれが切り札其の弐ってわけさ」
「あなたは…『ラフレシア』!?」
相手の顔を見てオンシジュームは少なからず驚いた様子だった。
乱入してきたのはツインテールがよく似合う少女――彼女と同じ『アブゾーブ・ギア』に所属する『スピン・ラフレシア』であった。
「きゃはは~何驚いてるの?――私はまだ取り込まれてなかったはず――なんて思ってたの?これだから優等生さんは困るよね~きゃはは♪」
「そうなのさ、オンシジュームさんは優秀すぎるから下々のやることがわからなかったのさ」
「どういうこと?」
オンシジュームが問いかけた途端、北条が勝ち誇った声を上げた。
「つまりね、彼女はこっちが手を出す前に君たちを裏切ったってわけさ」
「ピンポーン!私裏切っちゃったの、理解できた?」
そこまでが限界だった。オンシジュームは有無を言わせずに走り出しラフレシアの喉に向けて盾を突き出す。
「ガールン断章!」
刹那、ラフレシアが反応する。魔導書『ガールン断章』の力を発現させ自分とオンシジュームとの間に土で出来た壁を作り出した。
壁はオンシジュームの四方を囲み、天井まで伸びた壁により彼女の周りだけが完全な密室となった。
「ちっ」
壁の向こうでオンシジュームが舌を鳴らす。
「うわ!危なかった。今完璧に殺されかけた」
ラフレシアが命を狙われたわりに能天気な声を出す。
「さすがの『シャッガイ』でもね。命までは奪おうとしてないのに…きゃはは!オンシジュームはやりすぎ」
「それはどうかしら?『シャッガイ』の目的を潰すためにあなたに死んでもらった方が手っ取り早いと思っただけよ?そいつ等の目的をあなたも知っているでしょ?それを知らないのは『剣』のあの子だけよ」
オンシジュームは本気でそう言っている。否応なしに伝わる殺気にさすがのラフレシアも動揺を隠すことができず、壁の向こうにいるはず相手から一歩退いてしまった。
「なに?それじゃああたしに死ねって言ってるの?それも本気で?……何なのよそれ!」
「これでもあなたには感謝しているのよ?だって、洗脳されちゃった子達を殺すのは気が引けるし、私は死ぬのはごめん。でも裏切り者を消すなら何の抵抗もないわ、裏切ってくれたおかげで合法的に計画を阻止できるんだもの」
オンシジュームの魔力が高まる。人一人殺すには十分の…壁を貫通し、ラフレシアの命を必滅する一撃を彼女は今まさに放とうとしていた。
しかし、当然それを阻止しようとする者もここにいた。
「それは困るのさ、彼女は大事な仲間だからね」
北条がラフレシアを庇う様に前へ出る。
「それに君は色々理解しなければいけないのさ」
「へぇ、誰がご主人様かなんて言うんじゃないでしょうね?」
「ん~ん、それもいいけど………僕は切り札が二つなんて言ってないのさ」
瞬間、オンシジュームの後ろの壁が砕け、散らばる破片の中から現れた人物は反応もままならない彼女を羽交い締めにした。
「くっ…貴方までいたなんてね…完璧に油断してたわ。ゼフィランサス」
「動かないでねん♪オンシジュームちゃんはシンビジウムちゃんと違って容赦ないからこっちも手加減できないよ」
「オ~ケ~、壁消してもいいよ。後は僕が止めを刺すのさ」
北条の合図で壁が消える。消えた壁の先には先ほどの弓矢を構えた北条の姿があった。
オンシジュームはそれを見て即座に目の前に体を隠すほど大きな盾を展開した。そんなことを気にも留めず北条は弓を引いた。
放たれる黄金の矢、その矢は当然盾で防がれるはずだったが――。
「え?」
弾くはずだった矢は盾をすり抜けオンシジュームの胸に突き刺さった。
「会長は『エロスの矢』って知ってるかな?恋心と性愛を司る神、キューピッドの矢…その黄金で出来た矢に射られた者は激しい愛情にとりつかれてしまうっていうやつさ。ミロクに作ってもらった模造品だから効果は若干違うけど、女をものにするのは保障つきなのさ」
矢に射られた途端彼女に変化が訪れた。
その場に膝をつき、下がった顔からは表情を読み取ることはできない。
「それじゃあ、君たちは出ていてほしいのさ。これからお楽しみタイムに移るのさ」
「生徒会長の身体をご賞味ってことねん♪北条くんってそういう趣味だったんだ」
けらけらとゼフィランサスが笑う。
「目上の人間に憧れを抱くなんて普通のことさ、それが自分の思うように操れるなら男は皆興奮するのさ」
「まあ、いいけど。その女、飽きたら私に回してよね?さっきコケにされた分、取り返さなきゃ」
ラフレシアとゼフィランサスが教室から去る。残った北条はオンシジュームにゆっくりと近づいた。
―――――――――――――――。
「あ…………っく……………あ、あ…」
いけない…頭がぼうっとしてきて…。
私は自分に起きている状況が理解できずにいた。
北条君の放った矢は私に当たるとそのまま身体に溶け込むように私の中へ入っていった。
なぜあの矢が私の盾を通り抜けたのかわからない。確かなのは北条君の方が上手だったからだ。
だから私が負けてしまっても仕様がなかったんだ。
違う、今私はなにを考えた?北条君を認めようとした?違う、認めなきゃいけないんだ…北条君の方が私より強かったんだから、負けた私は北条君に従わなきゃ…。
北条君のこと認めてあげなきゃ、だってそうしないと彼は私を見てくれない。さっきから彼のことを思うと胸が張り裂けそうになる。ドキドキするの。
違う、こんなの私じゃない!私は…私の好きな人は…
その姿を思い出そうとしても記憶に靄がかかったようになって思い出すことができない。
なぜ?あんなにも焦がれていたのに、いつでも思い出せたはずのその姿は厚い霧に阻まれて思い出すことができない。
代わりに北条君のことばかり思い浮かべてしまう。彼の姿、彼の言葉、その全てが私の思いを支配していく。
北条君…私の好きな人は北条君……そうなの、私は北条君が大好きなの!
「会長?」
「っ!!」
北条君が声をかけてくれた瞬間、嬉しくて心臓が止まるかと思った。でも止まりそうに鳴った感覚なんて本当に一瞬で、次の瞬間には私の心臓はバクバクと運動の後みたいに騒がしく鳴っていた。
「会長も僕への本当の気持ちに気づいたみたいなのさ」
うん。気がついた。私は北条君に恋してる。今この時も北条君の顔から目が離せないの。
「じゃあ言ってみるのさ、会長が僕をどう思っているのか」
言葉が出る前に体が動いていた。北条君に近づいてそのままキスをした。
「私…北条君が好き!もう止められないぐらいに…どうしようもないくらいに大好きなの!」
私は思うままに北条君に告白した。言った後で顔が真っ赤になったのが自分でもわかるぐらい顔が熱していた。
「さすが会長はストレートな人なのさ、やっぱり会長は僕のハーレムに迎えるのさ」
ああ~嬉しい、私は北条君のモノになれるんだ。でも、ハーレムってことは他にも女が居るってことよね?なんだか悔しいけど、北条君なら仕方ないかも、だってこんなに…こんなに素敵なんだもん。
「さあ、服を脱いでまずは僕のモノを舐めて大きくするのさ」
私は言われたとおりに服を脱いだ。その事に抵抗はなかった、だって北条君に私の全てを見てほしかったから。
「うんうん。素直なのは良いことなのさ。それにしても会長って着痩せするタイプなんだ」
身体をまじまじと眺められて、私は思わず身体を縮めてしまった。
「大丈夫、会長は綺麗だよ。さあ、僕のモノを会長のおっぱいでしごくのさ」
「うん。北条君にいっぱいご奉仕するね」
私は跪いて、北条君のズボンのチャックを開けた。開けた途端にオチ○チンが飛び出てきて少しビックリしたけど、それだけ興奮してくれてるってことだよね?
おっぱいをオチ○チンに擦り付けながら、その先っぽを舌で刺激する。
「へえぇ、うまいのさ。成績だけじゃなくこっちの方も優秀なんだ、なんだか嬉しくなってきたのさ」
北条君が褒めてくれた。それだけで私はイってしまいそうになる。
おっぱいを両手で支えるようにして、上下に動かしながらオチ○チンに擦りつける。そうすると段々北条君のモノが大きくなってきて、その事に私も高まってきてどんどん気持ちよくなってくる。
私は手を動かしながら舌を使ってオチ○チンの先っぽを丁寧に舐め上げる。
ドクドクと鼓動が伝わってきる。恍惚としている私を北条君が見下ろしている。
「会長、もう出しますよ。しっかりとその体で受け止めるのさ」
途端、爆発したように弾け飛ぶ精液が放たれ私の身体は北条君の精液まみれになった。
「んんっ!はぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
彼の精液を浴びながら我慢できなくなった私は、そのままだらしなくイってしまった。
―――――――――――――――。
「あ~あ、これでまた向こうに歯車が渡ったことになるかな…」
屋上から学園を見ていた彼女は事の顛末を見届けて残念そうな声を出した。
「…だめだな私、止められたはずなのに動かなかった…ただ結末を見て状況を把握してる」
一度目を閉じて深呼吸、そこから振り返り目を開けた。
「ニシシ~ヘイ!彼女~こんなところでニシシ、何やってるのかな~?ニシシ」
そこに細身の男が立っていた。少女の今の気持ちなぞまったく気にしていないというように不気味な笑い声をあげる。
「……遊びたいのはわかるけど、私相手じゃ遊びにならないよ?」
いきなり現れたはずの男に対して少女は別段驚いた様子もなく至って冷静に対峙する。
「ニシシ、そんな事言わないでさあニシシ!そんなにおいしそうな身体で、遊ばないなんて…ニシシ」
男に引く気配は無い…それどころか、少女の台詞に興奮したように息を荒くしている。
「この先は警告です。今すぐこの場から去りなさい…そっちから手を出さないのなら私も応戦する必要はないので」
「し~らな~いよ…ニシシ!!」
「………全ての次元において不変………」
「ニシッ!?」
それはいかなる呪文か、彼女の周りの世界が輝きをおびる。
「我は全ての始まりに存在(あ)り……命の鼓動は我に届き……命の誕生を我は祝福する……」
二枚…四枚…六枚…八枚…少女の背中に白く輝く翼が現れる。
「そして我は立つ…創造の世界に………愛しき人を守るため…」
輝く世界がその言葉を最後に霧散する。
「あなたは……運命を変える者になれますか?」
「シ、シ……………」
完全に男は見惚れていた。目の前の神々しい存在は自分では決して届くことのない存在だということは理解できた。
そこにいるだけ、触れてさえいない見ているだけの存在に声すらも失った。
「貴方にある選択肢は三つ、この場から去るか、私に倒されるか、私とともに歩むか…好きなものを選びなさい」
天使が手を差し出す。それはまさに天使から差し伸べられた手、救いを求めるものならすぐにでもその手を取るだろう。
それでも目の前の天使から手が差し伸べられてもその手を取ることは無かった。
手を取ればどうなり、手を払えば自分がどうなるか…そんな簡単なことも見えなくなっていたに違いない……もし見えていたら、差し伸べられた手を払いのけ、飛び掛ったりはしなかっただろう。
あるいは…天使の輝きはその可能性さえ光で隠してしまったのだろうか?
「イぃ??」
何かが閃光が走ったと気がついたときには遅かった。ボトリと何かが落ちる音がして、男の身体が体制を崩す。
何が落ちたと思えばそれは……。
「う………で???」
男の視界に始めに映ったのは自分の右手…そして左手が宙を舞うものだった。
「シィィィィィィ!!」
男が悲鳴を上げる。悲鳴を上げている間にまたボトリと音がする。
その瞬間、体は空中にあった。
跳んだわけでもないのに何故空中にあるか、それも至極簡単なこと…足が地面についていないから。
正確には足は地面についている。ただそれは地面に置いてあるだけで、もう体とは繋がっていなかった。
状況を把握できたところに、先ほど男に差し伸べられた天使の手が頭を鷲掴みにした。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
天使の咆哮とともに掴まれた頭が向かう先は屋上の扉、そこへダルマとなった男をたたきつけた。
その衝撃は凄まじく、ドゴォォォォン!!という爆音を鳴らし鉄でできた扉をぶち破った。
勢いはそれだけでは止まらない、そのまま階段を激走し、折り返しの壁に再び身体を叩きつける。その反動を利用して、さらに階段を下り折り返し地点で叩きつける。その光景は下りの階段からスーパーボールを投げたような感覚だ。
されど、疾走するのは天使の少女、叩きつけられているのは男の身体、その動きは下の階の壁をぶち抜いたところで止まった。
少女が男を掴んだまま腕を下げる。
「まだ生きてるんですね?そんなになってまで、力がほしかったんですか?」
「シ……ェ…………シシシ……」
男の反応は鈍い、これほどの衝撃を受ければ普通は生きていることはないが、それこそ彼が人間をやめた証拠でもあった。
「歯車集めるために、アレは無関係な人を巻き込んでいる……そう考えれば、あなたも被害者になりますが残念ながら私は同情できません」
「ニ…ニシシ……負けちゃ……た……ニシ………シ……」
「あなたの死に祝福を……そして、その犠牲が世界を救うと信じましょう」
その言葉が彼女にとって何を示すものかは定かではない。ただ彼女は目の前にいる人影を見て一言呟いた。
―――――――――――――――。
「ナイアルラトホテップ……」
目の前の天使は確かにそう言った。
「あ、あ………」
声が出ない…。
俺と同じく千穂と千莉も同じく声も出ない様子だった。
それが恐怖から来るものか、それとも別のものなのか、今の俺には理解できない…ただ漠然とした警告音が頭に鳴り響くだけ。
「驚いたな~、まさかそんな姿になっているなんて思わなかった…」
鷲掴みにしていたモノをその場に投げ捨て、天使はこちらを向いた。
「あなたの目的は何?そんな姿になってまでしたいことってなんなの?」
天使が歩いてくる。その歩みに隙はなく、少しでも動いてしまえばその瞬間に首が落ちるような気までしてくる。
「……ん?少し違うかな、本物のナイアルラトホテップはいないから『ナイアルラトホテップの粗悪品』って言ったほうが話し易くなるかな?」
瞬間、風が横切った。何が動いたのか一瞬理解できなかった。ギラリと光る刃が天使へ向かって一閃する。
天使はその行動に驚いた様子だった。それは恐らく始めに飛び出すのは本人である俺だと思っていたからだろう。
刃が天使の持つ剣に受け止められた体制のまま、変身が完了する。
「千莉ちゃん!」
ソードシンビジウムへと姿を変えた千莉は剣を受け止められたにも拘らず力いっぱいに体を押し出す。
「今の言葉…訂正してください」
「訂正?いったいどこの部分かな?」
刃が押し戻される。向こうはただ払っただけだろうが、千莉はそれだけで後退を余儀なくされた。
「千莉ちゃん大丈夫!?」
「このぐらい平気です。それより千穂さんはナイアルさんと一緒に逃げてください」
さすがに何も言わないわけにはいかなかった。
「ちょっと、ちょっと待て!そんなこと認められるわけ――」
「この人の狙いはナイアルラトホテップです。だから私が押さえている間に」
「でも千莉ちゃん!」
「千穂、今大事なことはナイアルさんを守ることじゃないの?」
「……わかった。千莉ちゃんもやられたりしないでよ」
千莉の言葉から何かを感じ取ったのか、千穂は千莉の言葉に頷いて俺の手をとった。
「おいおいおいおい!」
「今は千莉ちゃんの言葉を優先するよ」
俺を千穂に手を引かれる形で強引にフロアから連れ出された。
―――――――――――――――。
ナイアルさん達が去ったのを確認してから、私は天使に向かっていった。
「貴方が出てくるのは意外でしたよ」
目の前の天使は私の一撃一撃を丁寧に受け流しながら、余裕のある笑みを浮かべていた。
まるで楽しむように、その行動の一つ一つが私の感情をさらに高まらせる。
「ナイアルさんは私が守ります!」
「それは貴方の意思?それとも定められた感情かしら?」
そんなことはわからない。ただ、今は天使の言葉がとても耳障りなものに聞こえてしまう。よくはわからないけど、この天使を始めて見た時から自分の中に抑えきれない感情が芽生え、それが今にも爆発しそうになっていた。
『魔女の槌』を取り込んだ私の剣は合を成すごとに勢いを増していくが、どれほどの斬撃をもってしても全て紅紫の剣に受け流され、天使にかすり傷一つ負わせることが出来ない。
「ナイアルラトホテップは何を考えているの?事態をさらに混乱させてこの世界をどうしようっていうの?」
「うるさい!貴方は倒れろ!」
「そうもいかないのよ。天使には天使の使命があるの、軽々しくやめられるものじゃないわ」
天使の手にもう一つの剣が握られる。それは血のように赤い両刃の剣、切っ先があるその先端には刃ではなく柄から伸びる丸い筒がついていて突くことは出来ないようになっている。
「二刀流!?」
「そっか、貴方は知らないものね」
一気に振られる二本の剣、その速度は私が見切れる限界を優に超えていた。
「きゃあ!!」
直撃は避けられたのは運が良かった、それでも衝撃で私は壁に体を打ちつけその場に倒れ伏してしまった。
身体中が痺れる。打ち付けた背中がジンジンして、思わず悲鳴を上げてしまいそうになる。それでも、私はあきらめる事ができなかった。
わからない、何故自分にこんな感情があるのか…自分でも分からない感情に振り回されてもその感情に逆らうことができない。
「やめておきなさい。今のあなたの感情はあなたのものじゃない」
白い翼を消し、天使の姿から少女の姿に戻ったソレは、この場から去ろうとしていた。
「私は『真白』…『光陽 真白』、今はそう名乗っているの…覚えていてね?」
足音が遠ざかっていく…立ち上がろうとしても足がガクガクと震えて動いてくれない。だめ…このまま終わるわけにはいかない。
「終わるわけには…イカナイ……!」
ドクンッ!
心臓が飛び跳ねる様な感覚が私を襲った。
真白……真白……私は真白を手に入れなくてはならない…。真白がいなければ世界を救うことはできない。真白が………真白…真白、真白、真白、真白、真白、真白、真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白真白……真白!!
気がついたとき、私はもう立ち上がっていた。私は目の前の…蒼い髪がとても綺麗な少女にのみ向けられている。
「感じが変わった?まさか…?」
私の変化に気がついたのか、何の詠唱もなしに少女は背中に二枚の天使の羽を現し、ゆっくりとこちらへ近づいて来た。
「今の貴方がどうなっていて、この結果が何に繋がるなんてわからない…けど……けど私は可能性を信じてみようと思う」
真白の姿が視界から消えた。慌てて振り返ろうとした私は、すでに真白に抱きしめられていた。身体はそのまま天使の羽で包まれ、私はとても心地よい感覚に抱かれながら瞳を閉じた。
「彼の者を解き放て…エンジェル……キュア…」
真白が呪文を唱えた瞬間、周りが光に包まれた。その光景は神々しくもあり、同時に安心できる…そんな光景だった。
光は段々と集束していき、それは私の体の中へ入ってくる。それが集まるにつれて、何か自分の中の枷が外れていくようだった。
頭の中がやけにスッキリとしてくる。まるで靄が晴れるようなそんな感じであった。
それによって、私が彼女に抱いていた気持ちもハッキリした。私は彼女を……真白を…………。
「ひゃあ!」
真白が驚きの声を上げた。
股の谷間に指を滑らせただけなのに、結構敏感みたい。
「ちょっと…そこは…くぅん」
「ふふ…ふふふ…」
知らず笑いが込み上げてくる。真白の身体を触るのが楽しくてしょうがない。
「はあぁぁん…だめ…って、ん!」
「だめ?本当にだめなの?真白のアソコ、もうぬるぬるになってるよ?」
「そ、それは優しかったから…じゃない!なんでいきなりこんなことを?」
そんなこと、言わないで…そんな可愛い声を出さないで、私……歯止めが効かなくなっちゃうよ。
「ふふ…あははは!」
楽しい、真白は撫でれば撫でただけ反応してくれる。このままでもいいけど、もっと面白くなるように真白の身体に私の魔力を注いであげた。
「はあぁん!あん、ん…ひゃう、だめぇぇ」
効果は覿面だった。澄み切っていた真白の瞳は私に甘い視線を送り、乳首は服の上からでも分かるぐらい勃起して、オマ○コからは止め処なく愛液が流れている。
「真白、キスしなさい」
「は…い」
真白の柔らかい唇が重なる。私はその感触を味わいつつ舌を押し入れた。
「はむ…うん、ちゅちゅ…あむ…」
大した抵抗もなく、舌は口内に侵入することができた。今の真白はまさにされるがままだった。
「いやいや、まったく。ようやく目覚めたってところかな?」
不意に声が聞こえた。私は真白を抱きしめた状態で声のした方向を向いた。
「やあ、始めましてって言ったほうがいいよね?僕チンは『ミロク』シャッガイにおける監視役ってところかな?」
そこにいたのは少年だった。始めてみるはずなのに、私はどこかで会ったことがあるような、そんな気がした。
「真白ちゃんは君にメロメロだね。知ってるかい?その天使は君という存在にしかそんな反応を示さない…いや、示せないんだ。どんなに高度な魔術や薬を用いても彼女を陥落させることはできない。君という存在以外はね」
少年の言っていることはわけがわからない。私が何だというのだろうか?私と真白がどういう関係だというのか。私はただ、真白を手に入れたいと思っただけ。
「やっぱりまだ思い出したわけではないんだね。アシタカくんが君の目覚めに失敗したときから、君は何も知らずに戦っているんだと思ったよ。それでも彼女を求めているということは、さっきの呪文で目覚めに近づいたってことだね。」
目覚め?何を言ってるの?たしかにさっき真白に掛けられた魔術のおかげで真白を欲しているということはわかった。けどそれがなんだと言うの?私は何を知らないの?
「その調子ならもう少しだ。完全に元に戻ったら迎えに来るよ…千莉ちゃん」
言うだけ言って少年は姿を消した。せっかくいいとことだったというのに邪魔するなんて、間が悪いにもほどがある。
「失礼しちゃうね?真白?……あれ?」
真白の姿がどこにもない。抱きしめていたはずの腕の中には、ぬいぐるみ(緑色の怪獣?)が抱かれていた。
誰もいないフロアにいることで、頭の中が冷えていく。そして、自分のさっきまでの痴漢を思い出し私はすぐに真っ赤になった。
あの感覚はなんだったんだろう?私は私である自覚があったけど、はたから見れば人格が変ったように見えたかもしれない…。
それにしても、私ってレズだったのかな?
―――――――――――――――。
千穂に手を引かれ、走り続けること15分。千穂がばてた時点で俺たちはようやく止まった。
「ねえ?なっちゃん。あの天使は何なの?ナイアルラトホテップを狙ってるみたいな言い方だったけど」
そんなのは俺にもわからない。なぜ天使に狙われなければいけないんだ?俺は俺のやり方であいつに近づこうとしているだけなのに…。
あんな訳のわからない存在に消されるわけにはいかないんだ。
「ねえ?なっちゃん?…なっちゃんは……」
「き、来た」
「だから言ったろ?ここで待ち構えとけば来るってよ」
「そうだろ~う?一人で探しに行った馬鹿はこの高度な作戦を理解できなかったの~だ」
「!!っ」
迂闊だった。千穂に連れ出されたのは出口へ向かう通路。そこに待ち伏せがいないはずはない。
俺たちの前には、昨日やり合った残りの男三人が立っていた。
どうするか?千莉がどうなっているのかも気になる。契約したときに通ったパスが向こうで何かが起こっていることを告げている。
二対三…相手の実力は昨日の時点でわかっている。今、ここで戦ったとしても負けることはない…はずだ。
「考えても…考えていても無駄か…」
「あれ?なっちゃん考え事してたの?私は現れた時点で判断下したんだけど」
千穂がさらりとこちらに同意する。ならやることは一つしかない。
二人で構えた瞬間、巨漢が勢いをつけて突進してきた。
「俺……もう我慢できない…あの女犯す!!」
反応は同時だった。俺は右、千穂は左に飛んで巨漢を避ける。
「あっま~~~い!甘~~いですよお二人さん!」
どうやら、今の突進は避けられることが前提のおとりだったようだ。俺には長身の男、千穂にはリーダーがそれぞれナイフで斬りつけて来た。
千穂は銃でナイフを抑えた。俺も鉄扇で弾くことに成功したが――。
「うぷぅぅぅぅ!!」
その横合いから大砲の様に飛んできた巨漢を受け止めきれなかった。その勢いは凄まじく、壁をぶち抜いて隣のフロアの床に俺の身体は落ちた。
今のはさすがにまずい。壁に叩きつけられた右腕は肩から力が入らない、直撃を受けた脇腹の骨は何本逝ったかわからない。
起き上がろうにも、身体は言うことを利かない。いや、普通は直撃した時点で死んでいるな。状況を把握する力が残っているだけマシか…。
いや、そんなことを気にしている場合じゃない!千穂は!?
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
どうなったと、思った瞬間だった。断末魔の悲鳴がフロア中に響き渡った。
―――――――――――――――。
何が起こったのかと思った。なっちゃんと私は互いに向かってきた相手のナイフを受け止めた。でも、なっちゃんに向かっていったのは一人じゃなかった。始めに仕掛けてきた巨漢が方向を変えてなっちゃんにぶち当たった。
なっちゃんの身体が壁に打ち付けられた。でもそれだけじゃ止まらないかった、衝撃で壁を突き抜けたなっちゃんは隣の部屋の床に倒れた。
私の視界が赤く染まっっていく。その赤はなっちゃんを中心としてだんだんと染まっていた。
赤い……赤い……。
赤い……赤いよ?……ねえ?なっちゃん?あの時みたく…………赤い……赤くなっていよ?
早く…早く止めないと……じゃないとあの時みたく―――また死んじゃうよ?
ねえ?なっちゃん?……なっちゃん?…な…つき……。
なっちゃんを…なつきを…『神代 夏樹』を、私は『また』失ってしまう………。だめ、そんなことはさせない。させちゃいけない、彼には何の罪もなかった。もし彼が罪を犯していたとしたら……それは全部私の性なのだから。
………そうか、そうなんだ。私に花の名前がないのは、だからだったんだ。私は…ずっと気づいていなかったんだ。
だから……名前をあげる『Stamen』じゃない…本当の花の名前をつけてあげる。圧倒的な大きさで全てを凌駕するような……そんな名前をあげる。だから……だから……私に力を与えなさい!!
「『タイタンアルム』!!」
ナイフを抑えたままの銃が強烈な閃光を放ち、その光は私の姿を一変させていた。今までの簡易的なものとが違う、本当の変身、クリーム色に赤いラインが入った法衣からは力が満ち溢れてくる。
もう迷うことはない、なっちゃんを殺そうとする奴等は……みんな私が殺してあげる。
「『屍食教典儀』」
思い立ったら私の身体は勝手に動いていた。『屍食教典儀』を召還し取り込み、瞬間的にチャージした魔力で目の前の下衆を撃ち抜いた。
「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
急ごしらえのチャージのおかげで少し失敗した。殺すなら頭を狙うべきだった。体に当たったおかげでうるさい下衆の悲鳴を目の前で聞く破目になった。……ああ、ホントにうるさい。
「うごぁ」
うるさいのはなぜ?それは口が開いているから、だから私は叫び声を上げる口に銃口を突っ込み再び引き金を弾いた。
口の中で弾が破裂して、相手の頭が吹っ飛ぶ。ブシューと血が噴水のように吹き出て私の身体を赤く染める。
血の染み込んだ服なんて正直気持ち悪いけど、今は身形なんて構ってられない!夏樹を助けなきゃ。
夏樹はまだ無事だった。さっき頭を吹き飛ばしたのが叫んだおかげで注意がこっちに向いてたみたい。残った二人が私目掛けて走ってくる。
本当にこいつらは頭が悪い、突っ込むことしか考えていない。その程度の下衆が夏樹を傷つけたのが我慢ならない。
「邪魔よ!!真のヒロインである私を止めようなんて………身の程をわきまえなさい!」
銃にありったけの魔力を注ぐ、今までの容量を遥かに超えた魔力を与えても今のこの銃はまだ余裕がある、昨夜力が回復できていたらきっと盛大な花火になったんだろうな……。
「喪に服せぇぇぇぇぇ!!」
銃口から巨大な光の弾が放たれた。光の弾は向かってきた二人を容易に飲み込み、その場で音もなく破裂した。
まばゆい光が視界いっぱいに広がり、それが治まった時にはもうあの二人の姿はなかった。いやそこに残っている物はなく、夏樹がただ呆然と私を見ているだけだった。
って、ん?何か言ってる?やばい?早く逃げろ?…何で?敵はもういないんだよ?おかしななっちゃんだなあ。
でもそんなところが好きなんだけど、うん。やっぱり私はなっちゃんが好きだったんだ。こういうときに再確認するのってやっぱり不謹慎よね?
「ぼ~~っと突っ立ってないで!速く!速く速攻でここから逃げろ!!」
なっちゃんの言葉で私は我に返った。もう立ち上がってるところを見るともう大丈夫みたいだ。
「だから、何で逃げなきゃいけないの?もう敵はいないしっていうか、全部消えちゃったし」
「その消えた中に、壁や柱もあったという事に…その事に気づけ!!」
「へ?」
言葉の意味を理解する前にピシャリとひびの入る様な音がした。
ドゴオォォォォォォォォン!!
音がしたのも束の間だった。天井からしたその音は間違いなくこのビルが倒壊する音だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこからはどうやって外に出たか覚えてない。なっちゃんに抱きかかえられる体勢で落ちてくる天井を土壇場でかわしながら外に出たみたい。ああ~外の空気ってこういう場を抜けた時っておいしく感じるね。
―――――――――――――――。
疲れた。その一言で今日はもう終わりたい。崩れ落ちたビルから何とか脱出した俺たちは、同じく逃げ延びた千莉と合流して、人に見つかる前に場所を移した。
「ほほう。ここが千莉ちゃんの住まいなんだ。何気に始めて入ったよ」
千穂が関心したように言った。
ここは千莉のクラスアパートの一室。俺や千穂の家でもよかったが、廃ビルから近かったのでこっちにした。
「千莉ちゃんは一人暮らしだったよね?」
「うん。両親はもういないから、寮でも良かったんだけど夜に外出ることができなくなるでしょ?」
夜という言葉に千穂はニヤリと笑った。
「ほほう。夜遊びとは千莉ちゃんもやってることはやってたのか~」
千莉の顔が爆発的に赤くなった。
「そ、そんなことしてません!ただちょっと夜外で素振りとかしてるだけです」
キャッキャと二人の話し声が聞こえる中、いままで千穂と千莉から聞いた情報と断片的に見えてきた情報を整理していた。
まず、この街には『正義の味方』が存在する。
それは3チームあって、それぞれが何の司令もなく働いている。
結成した理由は不明。司令と呼ばれる人物が実際にいるかも不明。
ギアになる条件は魔術師であること、又は魔術の才があるということ。
ギアには『シャッガイ』と呼ばれる敵がいる。
これもギア同様に3チームある。これらを統率している人物がいるかは不明。
最終的な目的は判明していない。ただし、ギアの人間を洗脳し、自分達の戦力・慰み者にしていることは確かだ。
そして、今日ビルで出会った天使…。
千莉は立ち去ったと聞いたが、どうやって退けたのかは聞いていない。天使と出会って何か変化が訪れたのか、ずっと上機嫌で話をしている。
天使の目的は…恐らくナイアルラトホテップ。それを狩ることだろう。
ああ、しまった。俺とアルも勢力だった。
もっとも俺たちはそれぞれ別に動いているのだから勢力ともいえないかもしれない。
最悪の場合、アルと戦うこともあるかもしれない。
アルの考えは分からない、自分にすら真意を見せないところは魅力でもあり、同時に不安でもある。それなりに長くペアでやってきたんだ、敵になるより見方になってくれたほうが良いに決まってる。
あいつの様になるためには俺は『正義』でなければいけない。そしていつか…英雄になるんだ。
………………………………………。
「またね。千莉ちゃん!」
「うん。また~」
「俺も今日は帰ろう、アルと情報を、情報を交換しなければならないからな」
千莉に見送られて俺と千穂はアパートを出た。
「なんだかお腹減っちゃったよ」
「どこかで、どこかで食べていくか?ならば付き合うが?」
「おお!それはうれしい誘い。でも、今日はいいかな…また今度誘ってよ」
少し拍子抜けした。てっきり何も言わなくても連れて行かれると思っていたからだ。
「では、気をつけて…気をつけて帰れ」
「うんうん。とんだ再開になっちゃったけど、これからまたよろしくね」
パチンッとウインクを一つして千穂は夜の街へ消えていった。
傷も治りかけているが、今日はもう行動はしないでおこう。アルとも話をしなければいけない…今日も長くなりそうだ。
―――――――――――――――。
午後十一時三十分ごろ………。
「ふう、出前もこれで終わりか、家に帰って一杯やらなきゃな~」
手に、そばうどんの文字が書かれた配達用の籠を持った40代前後の男は、今日の仕事の終わりにそうひとりごちた。
「ん?」
何気なく向けた路地の間に光る瞳を見つけたのはこの男の人生からみれば不幸であっただろう。
「にゃ~」
「何だ、猫か。どうした?えびの尻尾でもほしいのか?」
それは子猫だった。男は猫の前に屈み、語りかける。
「わりぃけど今やれる物が無いんだ、ごめんな~」
「にゃ~」
猫は一度鳴いて、真っ暗な路地へと戻っていった。
「あ~あ、なんか持って来とくんだったかな~」
小さな後悔と共に男は路地へ消えた猫の姿を見送った。
「………ぁ……」
「ん?」
一瞬とても小さいが声が聞こえたような気がして男は立ち上がった。
「人でもいんのか?」
疑問に思いつつ、男は暗闇が支配する路地へと入っていった。
「ん…ぁぁ…」
今度は確かに聞こえた。くぐもった様な声…。それと甘い匂い。
「なんだ~?」
男は誘い込まれるように奥へ歩いていく、路地の奥…袋小路になっているそこで見たものは…。
「はあぁぁぁん」
甘ったるい声…むせ返るような雌の臭い。下を穿いていない制服姿の少女は大きく股を広げ、自慰に浸っていた。
男は声が出なかった…ただ少女の痴漢に見入っていた。
「くふぅ、はあぁん…ふふ、観てるだけでいいのぉ?」
少女が男に語りかける。男はビクリと身体を震わせたが、少女から眼を離すことはない。そればかりか、喉をゴクリと鳴らしさらに歩み寄ってしまった。
「えへへぇ…ねえぇ。私を抱いてみたい?」
挑発するような声に男のモノはいきり立ち、今にも少女へ飛びつこうとする。
「いいのよ…我慢しなくても…私に食べられたいんでしょ?」
少女は妖艶な笑みを浮かべ男にしな垂れかかった。
「あ…が…」
男は動けない…ただ自らの欲望に流されるまま、少女の言葉に従おうとする。
「ね?私に食べられたいんでしょ?」
少女の口が男の首に近づく。
ガリッ
「!!!」
男の首に鋭い痛みが走る。
『吸血鬼』…頭にそんな言葉が過ぎるが『ソレ』はもっと悪質なものであった。
グシャリ…
「ふぐあぁぁぁ!!」
口から悲鳴があがる。しかし、次の瞬間にはもうその口から悲鳴があがることはなかった。
ボトッ!
何かが地面に落ちた…その見開かれた眼球は少女の異常な様を見ているように思えた。
赤いものが吹き出てあたりを瞬く間に染め上げる。さっきまで充満していた雌の臭いも今は生臭い死の臭いに変わっていた。
「あれぁ?もう逝っちゃたんだ~ふふ…まだ一口しかつけてないのに」
少女はつまらなそうに呟いた後…。
「それじゃあ…いただきます」
グシャッ!
男の身体を口いっぱいほお張り始めた。
グチャグチャ…。
まずは腹を食い破り、手を…足を…臓器を…ひたすらに貪る。
グチャリ…グチュリ…
頭上から月明かりが照らす…暗がりでは見えなかったが少女の足元には一冊の書が置かれていた『屍食教典儀』…屍を食らうと書かれたこの魔導書は今宵も血の宴を開いた。自らが所有者と認めた少女の意志で…。
「おいしいぃ、あはぁ」
少女は笑う…美しい黒髪を血に濡らしながら…。再会した一人の青年を思いながら…。
「ナイアルくぅん…私…ナイアルくんが食べたいよぉ」
少女…朝倉 千穂は恍惚とした表情で本日の獲物を貪り続けた。
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