Gear of Destiny 第五話

第五話『気まぐれ娘の過去×天使の遊び=それぞれの思惑』

 ビシッ!!っと、素肌を打つ鋭い音が地下室に響き渡る。
「……………」
 ムチによる『調教』が始まってもう何時間たったのかわからない。
 いや、この屋敷での調教が始められてから何年たったのかもわからない。
 私がこの屋敷に拉致されて来た時、私と同じ境遇の娘は何人もいた。でも、そのみんなはもう私のそばにはいない。
 みんな『調教』が完了して、半年もかからずにこの場所からいなくなった。
 私のそばといっても私がいたのは、地下に設置された牢獄。食料も豚が食べるような残飯、こんな環境にいて狂わないのは私自身が一番驚いている。
「くっそう!!どうなってんだ!?この女!感じるどころか濡れもしねえぞ!」
 凄腕の調教師を名乗って、私の前に現れた男が怒号を上げる。無理もない、私を調教するためにとんでもなく高い薬を投与したのに、私には何の効果もないのだから…。
 効果がないのは薬だけではない。ここに連れてこられてから数年、ほとんどの調教を施されたものの、私は快楽の一片さえ感じたことがなかった。
 あるのは絶え間ない苦痛だけ、普通の女の子ならとうに服従して、男に媚を売っているはずだろう…現に私と同じ時期にここへ連れてこられた娘も、後から連れてこられた後輩も、みんなそうなっていた。
 この無限ともいえる調教地獄は、ある日を境に変化が訪れた。それまでの地下牢獄暮らしから、一転して綺麗な服を着せられ舞踏会やお披露目会、とにかく貴族の人間が参加するような催しに参加させられた。
 礼儀作法もその関係で無理矢理叩き込まれた。調教に比べれば覚えるのは遥かに楽だった。会場では、別に犯されるわけでもない。ただ参加させられるだけ、これまでの行いからくる反動からか、とても気持ち悪く感じた。
 嗚呼そう、お披露目会では他の娘の調教に参加させられたこともあった。今まで自分がされたことを相手にするのは正直なんとも思わなかった。初お披露目の娘をその場で堕としたこともあったかな。
 何も催しがない時はこれまで通り犯され続けた。…でも、一度変化が訪れた奇妙な生活も終わるときはすぐに来た。
 その日、とある儀式が行われた。中級から上級の魔導書を12冊集め、私を生贄として差し出すことで、神を滅ぼした存在……『究極の闇をもたらす存在』を召喚する儀式。
 あの時の光景は今も鮮明に思い出せる。
「俺を呼び出したのか?……馬鹿だなあ…あれ?もう誰も聞いてないの?」
 逆十字に貼り付けにされた私の前に、『究極の闇をもたらす存在』がいる。その前にここの人間の屍骸が転がってた。……全部こいつの仕業だ。
 召喚された瞬間に放たれた闇の光が魔方陣の前にいた人間を薙ぎ払った。貼り付けにされた私は後ろにいたおかげで初撃による死は免れた。
「足りないな…まだまだ壊し足りない………」
 後ろにいる私に気づいていないのか、それともわざとなのか…『究極の闇をもたらす存在』が咆哮をあげた。
 『究極の闇をもたらす存在』を中心にして破滅の光が広がっていく。
 身体が光に飲まれる。束縛された身体では逃げることもかなわない。
 意識が遠のく瞬間、ソレがこちらを向いた。
 ソレはとても楽しそうに…恍惚に歪んだ笑みを浮かべていた………。

 ………………………………………。

 嫌な夢を見た…本当に、どうして昔の夢なんか見たんだろう。
 横に置いてある時計を見る。6:42…少し早く起きたみたいだ。
「ん~~今日もいい天気だな~~」
 カーテンを開けて大きく伸びをする。朝日がいい感じに射して爽やかな朝を演出してくれる。
 私はそこで自分の右腕を無意識に見つめていた。
 これは、私の腕…義手なんかじゃなく本物の私の腕。だけど生まれたときから私と共にあった腕でもない。
「ぐう、まぶしいぞ……」
 朝日を浴びて、雫が苦しみの声を上げる。ふむ、朝に弱いみたいだ…低血圧?もしや吸血鬼なのかもしれない………いや、それはないか。
 もしそうなら、十字架とニンニクのセットは言わずもがな、流れのある池で周りを囲んで献血用血液を身体に巻きつけつつ洗礼を施した黒鍵とラ○チェスター大聖堂の銀十字を溶かして作った13ミリ爆裂鉄鋼弾装備の銃身が妙に長い銃をもって追い回してしまいたいぐらいだ。
 朝日に照らされた部屋を見渡してみて、あることに気がついた。……千莉ちゃんがいないのだ。
 状況から判断して、ナイアルが呼んだことで間違いなさそう。あっちもあっちでよくやる…。
 そう、ナイアルはよくやっている。この事件に自ら乗り込んだのも何かの運命なのかもしれない。
 私こと、アルビオーレとしては、あの人の手掛かりが掴めればいいとしか思っていなかったけど、こっちも少し本腰いれないとまずいかな。
「雫ちゃ~ん!おきなさ~~い!朝ですよ~~!!」
「………うるさい…もう少し寝かせろ…」
 雫は布団をかぶり私に背を向ける。この手人間は梃でも起きないと、私の頭脳は判断した。ここは対ナイアル用の切り札を使うしかない!
「この音を聞いたらみんな泣けるで~~♪」
 私は秘密兵器を取り出し雫の上でそれを思い切りぶっ叩いた。
 ぐわおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
 思った通りの音と微弱な衝撃波を発生させ、私が手にした切り札…銅鑼が高らかに鳴った。
「~~~~~~~~~!!」
 雫が声にならない悲鳴を上げる。うう~ん、なかなか可愛らしい顔してるな~。

 ………………………………………。

 そして少しの間の後、私と雫は一緒に朝食をとっていた。
「あれは、どんな起こし方だ!まだ、耳がぐわんぐわん鳴っているぞ」
 思いっきり不機嫌な顔をした雫がドスンという音を立て、テーブルの前の椅子へ座った。
 私は、雫の前の席へ座り、テーブルの上に置かれたトースターに入れた食パンが焼きあがるのを待っていた。
「だって、あれぐらいやらないと起きないと思ったから」
 少なくともナイアルはあれぐらいやらないと起きないことがある。
「もっと普通の起こし方はできないのか!?」
「ん~~無いことも無いけど、高さ165cmに巨大化させたこけしを上に落とすとかどう?」
 自分で言った後、頭脳内では倒れてくるこけしを無意識に蹴り飛ばしている雫の姿が浮かんだ。
「……天上から巨大包丁を落としたほうが効果的かな?」
「お前、私を殺すつもりか…」
 ギロリとさっき混じりの視線が向けられる。うん、からかうのはこのぐらいにしないと命が危ない。
「まあいい、それよりも千莉はどこへいった?」
 ああ~、そういえばそのことを言い忘れてた。私は、起きたときにはすでにいなかったことと、恐らくナイアルに呼ばれたのだろうと言うことを親切丁寧に教えた。
「恐らく?確認していないのか?いや、それよりもなぜお前を呼ばないのだ?お前はナイアルという奴の奴隷ではないのか?」
 おや?これは予想外の返答。てっきり文句の一つや二つ来ると思ったんだけど…。ここは素直に答えたほうが良さそうだな~。
「私とナイアルの主従関係はちょっと特殊なのよ。というより普段も二人で行動することも少ないし」
 うん。嘘は言ってない。特殊な主従関係…それに偽りはない。この関係が崩れるときは……どちらかが死ぬときなんだろうな…。
「まあいい。千莉とナイアルは契約を交わしているのだからナイアルが呼べば千莉は必ず動くだろう、どうやら二人は似た境遇のようだからな」
 はい?似てる?ナイアルと千莉ちゃんが?どこが?
「わからないのか?お前の目は意外と節穴だな」
「うわ、それちょとひどいよ~。でも、ホントにわかんないんだもん、どの辺が似ているって言うのよ?」
「ナイアルというのが『究極の闇をもたらす存在』に惹かれているように、千莉もある人物に惹かれているのだ」
 ほほう、それは初耳。それにちょと意外かな、あの千莉ちゃんがねぇ~。
「それが誰なのか雫ちゃんは知ってるの?」
「いや、千莉自身もよくわからないらしい」
 よくわからない人に惹かれてるか…たしかにナイアルと似てるかも…でも、なんか引っかかるな…。
 話に区切りがついた時を同じくして、チーンと音がなり食パンが焼けた。
「朝はコーヒーとパンだねえ、この英国風の朝食がまた朝の雰囲気を演出してるよ~」
 朝食の雰囲気に浸る私の前で雫はなにやら手を伸ばしている…ん~?なにやってるんだろ?
 しばらくした後、雫は少し俯き加減でこう言った。
「……何でもいいがピーナッツバターを取ってくれ、その位置じゃ届かない」
 雫ご所望のピーナッツバターは雫の位置から正反対の場所、つまり私のすぐ近くにあった。どうりで、さっきから手を伸ばしてたわけだ。
 私はピーナッツバターを手渡して、焼きたてのトーストにマーガリンを塗る。
「ねえ、雫ちゃん。聞いてもいい?」
「なんだ?」
 雫はトーストを食べながらそっけなく答えた。
「千莉ちゃんが正義の味方にこだわるのはなんで?」
 始めて会った時、千莉ちゃんは自分のことを正義の味方と言った。けど、千莉ちゃんはエレメンタルギアというものを知らなさすぎる。よっぽどのことがなければ、自分の所属している組織のことをあそこまで知らないのはおかしい。
「千莉は……本当の正義の味方になりたいのだ」
「…本当の正義の味方?」
「大いなる災いから世界を救う。本当の正義の味方……千莉はその存在を英雄と言っていた」
 ああ……似ている。確かに千莉ちゃんはナイアルと似ている。英雄になる、それはナイアルの最終目標でもある。そうか、だからなんだ…どことなく――――に似ているのは…。
「今度はこっちからいいか?私もお前に聞きたいことがある」
「いいけど、学園は大丈夫?今日、平日でしょ?」
「そんなものはサボる」
 うわ~、あっさり言い切ったな~。でもだめ、学校は行けるときにしか行けないんだから。
 ……というわけで私はある行動に出た………。

 ―――――――――――――――。

「なぜだ?」
 大きな帽子から飛び出るツインテールを揺らしながら雫が不機嫌に聞いてくる。
「なにが?」
 アルビオーレは惚けたように聞き返した。
「なぜ、私とお前が一緒に登校している?」
「お話なら学園ですればいいじゃない」
 雫の横で茶色い髪を風に靡かせながらアルビオーレは笑った。
「学園では誰が聞き耳を立ててるとも限らんぞ」
「ダイジョウーブ!そこは私にまかせてよ♪」
 アルビオーレは雫の手を引いて楽しそうに走り出した。

 …………そして…………。

「なんだ?ここは?」
 雫がジト目でアルビオーレを睨む。
「う~ん。そう聞かれると私もどう答えればいいのやら…」
 雫の視線を受けながら苦笑いしかできない茶髪の少女。
 二人がいるのは学園の地下に秘密裏に作られた教室を改造した場所、昨日アルビオーレが訪れた場所である。
「とりあえず開けなさい。いるのは分かってるんだから」
 アルビオーレが言い放つと、扉がギギギギッと音を立てて開いていく。
「無駄な仕掛けだな」
「あ、雫ちゃんもそう思う?私もそう思ってたのよ。ホント無駄な仕掛け作ってるわよね?…オル・ロウエタ・メルキオディメニア」
 扉の開いた先にその人物はいた。
「それは悪かったな、無駄なことに生きがいを感じることができるのも人間の性だよ」
 少し長めの赤い髪をした男は肩をすくめて二人を出迎えた。
「なんだ?これは?」
「初対面の人間をいきなりこれ扱いか…実に君の友人らしいな、アルビオーレ」
「そう?でも残念なことに未だに友達としては認められてないのよ」
「そんなことはどうでもいい、これはなんだ?」
 気持ちしな垂れるアルビオーレを完全に無視して雫は男を指差す。
「オル・ロウエタ・メルキオディメニア、元『神の眼』にして、自称賢者…私の情報源の一つかな」
「君の言い草は今一引っかかるが、まあ、そんなところだ。それで、そこの小さく可愛らしい君は?」
 小さくと言われて、雫は即座に反応した。
「小さいとか言うな!どいつもこいつも、これでも気にしているんだ!」
「そう気に病むことはない。小さいというのは一部の人間に萌え要素として大いに――」
「はいそこ、萌えとか言うの禁止。人類に必要なのは『萌え』なんていう不確定要素なんかよりも魂のそこから熱くなる『燃え』よ!」
「君は今『萌え』をこよなく愛する人々全てを敵に回したことがわかるか?」
「代わりに『燃え』を魂のそこから愛する人間全てが私の味方よ」
 互いに一歩も引かない茶髪の少女と赤髪の男、雫はそんな二人を冷めた眼で見ていた。
 そんなに重要なことか?by雫。
 大いに重要なことだ!!byアルビオーレ&オル

 ………………………………………。

「まあいい、その議題はしばらくお預けとして、せっかく客人を連れてきたんだ中に入りたまえ」
 オルはゆっくりと後ろへ下がり、二人への道を開けた。
「言われなくても勝手に入るつもりよ。雫ちゃん、とりあえず座って」
 雫が案内された教室の中はかなりの改造が施されており、ちょっとした喫茶店のようになっていた。
「ここは一体なんだ?」
 雫はいくつかある席の一つに座り、アルビオーレもその向かいの席に座った。
「もともとあった倉庫用の教室に、結界を張って人払い。後は自分勝手に改造したってわけ」
「シャッガイのメンバーということはないな?」
「それは平気、得体の知れない奴だけど、シャッガイとは敵対してるみたいだしね」
「そんなことは置いておくといい、それより注文は?」
 二人の話にオルが割って入った。喫茶店らしく注文を聞くらしい。
「トム&ジェリー!」
 アルビオーレが勢いよく言った。
「真昼間から酒を飲むのか?」
 オルはあきれながらもツッコミを入れた。
「え~、じゃあカルーアミルクでいいわよ」
「それも酒だろう」
 今度は雫がツッコミを入れた。
「ぶーぶー、今日は千莉ちゃんがいないからツッコミ少ないと思ったのに…ちょっとした若さゆえの過ちじゃないのよ!」
「普通にコーヒーをくれ、ブラックでな」
 アルビオーレをみごと無視して、雫は自分の注文を終えた。オルは注文を聞き終えると、カウンターコーヒーメーカーをいじり始めた。
 しばらくして、コーヒーが出され、カウンターへ戻ろうとしたオルへアルビオーレが一言。
「聞き耳なんて立てないでよ。もし立てたりしたら爪と指の間に畳針をゆっくり突き刺してあげるから」
 と、背筋の凍るような満面の笑みを浮かべた。
「君は、笑顔というものが時にはとんでもなく怖いものだということに気づくべきだ」
 そそくさとオルは去っていった。
「それで、今朝言ってた雫ちゃんが聞きたいことってなに?」
「お前はなぜナイアルという男と一緒にいる?」
 アルビオーレは一瞬目を丸くしたが、すぐに真剣な顔になって話を始めた。
「私はある人に虚無を導くように言われていたの、その虚無がナイアルだって私は思ってる。だから、ナイアルと一緒にいる。言ってしまえば簡単な理由ね」
「ある人物だと?」
「私を救ってくれた人、名前はジン・アルカード・アルビオーレ」
「ジン…?それにアルビオーレだと?」
 同じ名前を持つ人物、目の前にいるのがアルビオーレ、そのアルビオーレに虚無を導けと言った人物もアルビオーレの名を持つということに、雫は疑問を抱いた。
 彼女は知っていた。アルビオーレという名が何を示すのか…それを知るきっかけとなった出来事が数年前に雫の身に起きていたのだから
「あ、何で私と同じ名前なのか気になったのかな?」
 雫は無言で頷いた。
「あの人に助けられた時に、私は一度死んだの。だからあの人がいなくなってしまったときに、あの人の遺志を継ぎたいって思った。この名前はあの人の意思を継ぐ…えっと、証みたいなものかな」
 誇らしげに語るアルビオーレに雫は微笑を浮かべた。
「………尊敬していたんだな」
「うん。本人は楽師なんて言ってたけど、私の使ってる魔術や、体術なんかも彼から教えてもらったものだし、何よりやさしいの…すっごく」
 話しながらアルビオーレはその人物を思い出したのか、表情が次第にうっとりとしたものに変わっていく。それを見た雫はアルビオーレがジンという人物に尊敬以外の感情を持っていることを容易に創造できた。
「聞かせろ」
「え?」
 アルビオーレの頭の上にはてなマークが並ぶ。
「そのジンという人物との馴れ初めを聞かせろと言ったんだ」
 テーブルに肘を着き少しにやけた表情で雫はアルビオーレの方を見る。
「あんまり面白い話じゃないかも、退屈かもしれないし」
「かまわん。私が聞きたいのだ」
 今までにないほど和んだ雰囲気にアルビオーレは少し気恥ずかしいものを感じながらもゆっくりと語り始めた。

 ―――――――――――――――。

 寒い…………。
 目が覚めて始めに思ったことはそれだった。
 雪が降っていた。瓦礫と化した屋敷の中に私がいた。
 何度目の冬なんだろう?
 まだぼんやりとした意識の中で考える。…でも駄目だった、きっと頭がしっかりしていたとしても、その答えは出せないと思う。最後のほうは違ったけど、時間を感じていなかった期間が長すぎた。
 調教が開始された時点で私の身体は、まだ幼かった。再び時間を感じることが出来たころには身体の凹凸はしっかり出ていた。
 そんな風に漠然とした時間のことしか分からなくても、時間は確実に過ぎていたんだ………そう思った瞬間に全身に激痛が走った。
 あまりの痛さに声が出せない。体もまったくといっていいほど動かせない。…違う、そんな感じじゃない。
 無理やり頭を動かしてみれば、その理由はすぐにわかった。右腕は手首の辺りからちぎれ、左腕は肘から、右足は太もものを半分ほど残して消えていた。
 嗚呼…これなら死ねる。ようやく死ねるんだ。
「あ…はは…」
 死ぬと思って出てきたのは、激痛の中だというのに乾いた笑い声だった。これで…ようやく死ねる、この瞬間をどれほど待ち望んだことか…屋敷が崩れ落ちて自由を得た…死ぬ自由を……。
 そう…死ぬことが出来ない状況からようやく脱出できた……。
 私は死ぬ……死ぬの……。
 でも………………。
「や………だ…よ………」
 まだ死にたくない。なんで?なんで死ななきゃいけないの?あの地獄から抜けられたんだよ?それなのに…なんで?
 そこまで考えて気がついた……結局私は死にたいわけじゃない…生きたかったんだ。
 生きたいっていうのはきっと、心臓が動いていて意識があることじゃない。自分の意思で歩き、自分で何か目標をもって、それを成すために色々な葛藤と戦って…そういうのを生きているんだと思う。
 私は…そんな生き方をしてみたかった。あの屋敷での調教の中、一片だけ見つけた夢……その答えを……探したかった……な。
 ゆっくりと、雪が積もるように…私の意識は沈んでいった……。

 ………………………………………。

 ――はずだった。
 沈んで落ちる寸前で、私の意識はなぜだかひょっこりと頭を出したのだ。
「持ち直したな。いや、思ったよりしぶとくてよかった」
 聞き覚えのない男の声がした。男の声なんてどうとも思っていなかった、それでもどことなく…優しい人だと思える声だった。
「Check……Charge&Up」
 意識が段々と修復されていくのがわかる。でも、それに伴ってくるはずの痛みがこない。
「意識を取り戻したところで悪いが、体力回復を優先させるから眠ってくれ」
 そう言われて、何かが口に押し当てられる。これは…そうだ、唇の感触だ。
 なぜかはわからないけど、私はキスをされていた。
 優しい、優しいキス。それは始めての感覚だった。今までの調教の中で唇を奪われた数なんて覚えていない。けど、こんな感覚は味わったことがない、ずっと続いてもいいとさえ思えてくる。
 唇が離れそうになる。そんな気がした私は自分から唇を押し上げ、その勢いに任せて下を入れた。
「はぐっ!!?」
 驚いたのは相手のほうだった。
「んっ…んむっ…」
 そのまま私は自分から舌を絡めていった。彼の口の中を私の舌が這い回る。
 驚いたこともあるのだろうけど、抵抗らしい抵抗はない。だから私は唇のまわりが唾液まみれになっても、気にも留めずに存分に彼の口を貪った。
「んふっ…んっ……んむっ!」
 気持ちいい…と、感じた。いままで感じることがなかった感覚が、私の中に生まれていた。
「ぷはっ…んっ、あぁ…」
 唇が離れたときには、私は夢現な気分だった。…もっと感じたい。そう思う心が強くなる。
 でも……。
「事情はわからんが、少し寝たほうがいい…」
 彼の手が私の頭をやさしく撫でる…。それがとっても気持ちいい…。
 やさしい彼に促されるままに、私は静かな眠りへとついた。

 ―――――――――――――――。

 次に目を覚ましたとき、私はベッドの上だった。六畳ほどの部屋、部屋の作りは洋風でインテリアのランプが教会のような雰囲気を醸し出している。
 他に見えるのはタンスと空っぽの本棚、ベッドの前に置いてある椅子…そして扉。
 ここは……どこだろう?私はあの後どうなって……。
 そこで気がついた。あの時私はどうなっていた?私はあの時、右手と左腕、そして右足を失ったはず…なのに。
 首を動かしてみれば失われたはずの部分が付いている。動かすことは出来ない、けれど右手も左腕も右足も、私の身体に付いている。
 ………考えても仕方がない。身体が動かないのだから出来ることもない。仕方がないから私はこのまま眠ることにした。
「だから、この娘は俺が面倒を見るから蘭はみんなのところに戻って遊ぶなり勉強するなりしていろ」
 誰かの話す声が聞こえてくる。
「でも!ジンが面倒なんか見たら……ごにょごにょ……」
 男と女の子の声…何か話してるみたいだけど…。
「???…なんだって?よく聞こえないんだが?」
「こ、これ以上…その……ライバルが増えたら………」
「ライバルって、なんのだ?」
「あう…な、なんでもない!!」
 トタタタタタタタッと小さな足音が駆けていく。
 少しの間をおいて、扉が開かれる。そこからさっきの男が入ってきた。手には小さな鍋が置かれたお盆を持っていた。
 蒼い澄んだ瞳、金ではなく黄色の髪。どこかの道着を思わせる服に身を包み、不思議なオーラを放っている気がする。
「よう、起きたか?」
 彼はお盆を本棚の上へ置き、ベッドの前の椅子に座ってから話しかけてきた。
「身体は痛まないか?義手と義足を取り付けには秘術を使ったから多少の違和感があるかもしれないが…ふむ。というよりあれだ、生きてるか?」
 いきなりはっちゃけた言葉が浴びせられて、私はポカンとするとことしか出来なかった。
 でも、今の会話で一つわかった。この手足は作り物なんだ…。
「私はどうして、ここにいるの?」
「瓦礫の中で死に掛けていたからだ。目の前に死にかけてる人間がいたのなら助けたいと思うのが人という生き物だと、俺は思っている」
「そんなことで、私を助けたの?」
 そう、私にとってはそんなこと。あの屋敷で調教を受けている最中、死にかけの人間を見るなんてしょっちゅうだった。
「そんなこと……ね。……よしわかった!!」
 彼がいきなり急に大きな声を出した。そして、ベッドを操作して身体が斜めに浮かされた。
「腹が減っているからそんなことを言うんだ。うむ、戦をする必要などないが腹が減っては気が滅入る。ということだ、これを食え」
 そう言って、さっき本棚の上に置いた鍋を取り出した。
「雑炊だ。心して食べるがよい」
 蓮華に掬われた米粒がいい匂いと湯気を立てて、差し出される。
「っと、まだ熱いよな。ふう、ふう……ほら、あーん」
 こ、これは…なんというか普通は逆な気がするのだけれど……でも、いいかな。
 私は蓮華の雑炊を頬張った。
 その瞬間、世界に異変が起きた。私は誰?………ここは………嗚呼、天界だ。私は今天界にいる。それは雑炊をゲートとした天界への扉…私は今天界にいる……………ハッ!
 あまりのおいしさに意識が暴走した。それぐらい彼の持ってきた雑炊はおいしかった。
「うまいか?材料を奮発したからそれなりの味に仕上がっていると自負している」
 もちろんおいしかった。だからそう答えようとした、でも私の口から出たのは別の言葉だった。
「……名前…」
「ん?」
「名前…なんていうの?」
 彼はキョトンとしてしばらく私を見ていた。だけど、すぐに笑い始めた。
「そっか、まだ言ってなかったもんな。俺は『ジン・アルカード・アルビオーレ』旅の楽師だ」
 指をパチンと鳴らしながら言い放った。
「ついでに今の状況も説明しておくかな、ここはお前が倒れてた屋敷と同じ町にある教会の跡地だ。何があったか知らんが、町中が滅茶苦茶になっててな、この教会も無人だったのを俺が修繕したんだ」
 ……ちょっとまって…町中が滅茶苦茶って……。
「いやいや、参ったまいった。旅の途中で寄ってみれば町は滅茶苦茶で変なのがわんさかいるし、見渡す限りから悲鳴が聞こえてくるしな。そりゃあその辺を駆けずり回った…死に物狂いでな」
 この人にしてみれば災難だったと思う。本当に旅をしていたならこんなところで足止めを食らったことになる。それは、何か悪いような気がした。
「助けた人間のほとんどは別の町に避難したんだがな、身寄りがなくなってしまった奴らはそうもいかなかったからな、ここで一時保護をしている」
 なんだろう…この人は……笑顔で話しているこの人を見ていると心臓の鼓動が早まるような気がする。
「お前さんもしばらくはここで暮らすことになる。ここにいる連中とは…ま、出来れば仲良くしてくれ」
 ジンはもう一度雑炊を掬って、差し出してくれた。離してる間に少し冷めてしまったので、今度は、『ふう、ふう』なしだ。それが少し寂しく感じた。
「して、うまいか?」
 期待を込めるような眼差しを向けられて、私は無意識に俯いてしまう。どうしちゃったんだろう…こんなこと今までなかったのに…。
「いやいや、口に合って何よりだ」
 ジンが満面の笑みを浮かべる。太陽のような眩しい笑顔ではなく静かに照らす月のような…そんな神秘的な笑顔だった。
 今ので少しわかった。私はこの人の笑顔に惹かれているようだ。
 雑炊を全部食べ終わってから、ジンは食器を置きに一度部屋を出た。それから少しして、ギターケースのような物を持って帰ってきた。
「さてと、んじゃ。調整を済ましちまうか、いつまでも動かない腕と足じゃ何かと不便だろうからな」
 彼が楽器を取り出す。その楽器は見たことのない物だった。ギターと同じような弦が張ってあるのに鍵盤もついている。その他にもいくつかスイッチのような物、ハーモニカをさらに簡易化させた様な物まで付いている。
 あの屋敷で見た楽器のどれとも違う、不思議な楽器。でも、不思議なのは形だけではなかった。
 ピーンッ!
 調律のため一度弦を弾いた。一音、たったの一音が心に響く。こんな音色を聞いたのも初めてだ。この人に出会ってから私は初めてのことばかりを体験している。
「今からお前の義手&義足の調整を行う、調整中は俺の眼を見ないようにしてくれ」
 まずい、本気でドキドキしてきた。心臓がドックンドックンいってうるさい。どうしよう、この気持ち…抑えきれないかも。
 ……って、あれ?今、何か言ってた?
 ~~♪
 気が付いたときには演奏が始まっていた。とても澄んだ音。音にも驚いたけど、何より驚いたのは瞳だ。ジンの…澄んだ蒼い瞳が、金色の…怪しい光を秘めた瞳に変化していた。
 その金色の瞳に吸い寄せられるように、私は凝視してしまう。
 ドクンと心臓が跳ねた。ジンの演奏を聴いているだけで、体の奥が暖かくなる。
 私は無意識に心臓に左の手を当てていた………左の手?
 義手といわれていた腕が、少しの痺れがあるにしても動かせた。これがきっと彼の言っていた調整なんだろう。
 ~~♪
 演奏はまだ続いている。透き通るような音が旋律にのって届けられる。その音が私の身体に染み渡る。
 彼の演奏は神聖なものだ。初めて聞く私でもわかる。楽器を弾いている彼はとても楽しそうで、それでいて真剣だ。
 なのになんでだろう…彼の演奏が神聖なものであればあるほど、素晴らしいものであればあるほど…今の私は…ふと……。
 それを壊してみたくなってしまう。
 体はもう完全に動くようになっていた。そのことがさらに私を暴走へと導く。
 何故だかわからない、なんで彼だけにこんな気持ちになるんだろう……。
 彼に触れたい、彼に抱かれたい、彼を汚したい。
 歪んでいるのは自分でもわかってる。でも、止まらない…止まってくれない。彼の瞳を見たときから、私の理性はぐずぐずに溶けていた。
「どうした?どこか痛いのか?」
 いつの間にか演奏は終わっていた。心配した彼の顔がすぐ近くにあった。瞳の色は蒼に戻っていた。
 もう止まらなかった。私は彼をベッドに引きずり込んでいた。
「ちょっとまて!今自分が何してるか理解しているか?」
 そんなのわかってる。今からあなたを犯そうとしてる。
 ジンに被さる形で、私は彼の唇を奪った。
「いったいなんだ!?さっきのこともそうだがこの反応、明らかに異常だぞ」
 私の体を離して、彼険しい顔をする。それを見て少し悲しくなった。
「……なあ、もしかして……眼を見たのか?」
 ……見た。たしかに彼の眼…金色の瞳を見た……でもそれがどうしたというのだろう。
「俺の金色の瞳は人を操る力を秘めている。力を発動させてなくても、直視するだけで人の心の闇を引きずり出す」
 そうなのかもしれない。でも引きずり出されたのは闇だけじゃない…だって……。
「己が欲を満たさなければ、その状態からは戻れんだろうな…だから少し……眠れ」
 ジンがパチンと指を鳴らす。すると、私の意識は深い闇に沈んでいった。

 ―――――――――――――――。

「ほう…なるほどな」
「これが、私とジンの馴れ初めよ」
 私の話を雫は興味深く聞いてくれていた。
「それで、命の恩人に一目惚れしたというわけか」
「うっ……うん。そんなところ…」
 聞いてくれたのは正直嬉しかったけど、面と向かって言うのは少し照れた。
「お話中、まことに恐縮だが」
 私たちの会話にオルが割り込みをかけてきた。…話に区切りがついたところとはいえ、割り込んでくるなよ。
「いや、そんな敵意剥き出し眼で見られて困るのだが…ひどく重要な話なんだ。特にそこの小さなお嬢さんには」
「小さいと言うな!いい加減貴様の頭を吹き飛ばしたくなってきたぞ」
「やはり君はアルビオーレの友人だな」
 うわ、私ってそんな性格に見られてたんだ……頭といわず全身をふっ飛ばしてやろうかしら?
「それで、何があったって言うのよ?会話を割いたんだものそれなりのことはあるのよね?」
「先に確認をさせてもらうが、『天上華 蘭』というのは君の仲間か?」
 ちょい待ち、今こいつ…蘭って言った?
「『アブゾーブ・ギア』の『シールドオンシジューム』だが、何があった?」
 雫は私のことを置いて気にせず話を進めている。
 『天上華 蘭』…私は彼女のことを知っている。私と同じ、ジンに助けられた一人……でもってライバルでもある。
「おい、アルビオーレ。何をぼけっとしている」
「ああ、ごめんね。それで?」
「その『天上華 蘭』が敵の手に堕ちた」
 ガタンと椅子が音を立て、私と雫は喫茶店に改造された教室を飛び出した。
「お前は『天上華 蘭』を知っているのか?」
 走りながら雫が聞いてきた。
「知ってるわ、ちょっとした親友でライバルってところ」
「そうか…」
 それっきり、雫は走ることに集中した。
 …というか、勢いで出てきたはいいけど、どこへ向かえばいいんだろう?雫は場所がわかっているらしく、その場所目指して一直線に走っている。
 しばらく走り続けたところで、雫がある教室の前で止まった。
「目的地はここなの?」
 話しかけてみたけど、返事がない。どうしたのかと思って顔を覗き込んでみれば、その謎はすぐに解けた。
「ぜぃ…ぜぃ……」
 雫は息を切らし…かなり辛そうだった。
「…大丈夫?」
「気…に……ぜぃ…す…るな……はぁ…はぁ…」
 やばい、その苦しそうな顔…ちょっと可愛い。

 ―――――――――――――――。

 雫とアルビオーレが地下の喫茶店で、話をしていたとき事態は更なる展開を見せていた。
 場所は生徒会室、『シールドオンシジューム』が敗れ、北条に支配されたその場所で……。
「ちょっと…本気なの?……私は協力したのよ…なのに……なんで…」
 『スピンラフレシア』こと『宮沢 陽子』は生徒会室の壁際に追い詰められていた。彼女の前には北条と、その虜になっている『シールドオンシジューム』そしてミロクだった。
「単純な話が数合わせダ・ヨ~ン。儀式に必要な人数がこれで揃うんだよ」
「それで、何で私まで…」
「歯車にするためには、意識を…心を操れる状態、もしくは心が壊れた状態じゃないといけないらしいのさ。まあ、悪く思わないでほしいのさ」
 話をしている間にも三人が陽子との距離をじりじりと縮めている。
「さすがにやばい感じ…セットアップ!スピン!!」
 陽子は時計に付いたメモリーを右手につけたゴツゴツとした作りの機械に取り付けた。
 スピン・ラフレシア!!と音を鳴らし、陽子が変身を遂げる。
「やっぱりこうなったか、でもそうじゃなくちゃ面白くないヨ・ネーン」
「そうなのさ、やっぱりこうじゃないと駄目なのさ」
 ミロクと北条が戦闘態勢に入る。ラフレシアも姿勢を低く構えを取る。
 勝負は一瞬でついた。ミロクが召喚した触手が体を絡めとり、北条の矢がラフレシアを射抜いた。
 その力を見せる間もなくラフレシアが膝をつく。顔を上げた彼女の瞳はすでに潤みきっていた。
「それじゃあ、後は任せるよ。他の歯車の回収…よろしくね」
 ミロクの姿が消える。
「わかってるのさ。さあ会長、それにラフレシア…二人ともこっちへ」
 名前を呼ばれた二人は、地面を掴み犬のようにのろのろと北条に寄っていく。
「ね、ねえ…北条君、北条君の嘗めてあげたい」
 オンシジュームは頬を赤く染め、上目遣いに北条へ擦り寄っていく。
「ふふ、いいのさ。愛情を込めてしっかりとね」
 彼女はうれしそうに顔を歪めながら椅子に座った北条の肉棒を取り出し、口に含んだ。
(ふふ…ようやくこの時が来たのさ)
 己の肉棒をうれしそうに嘗めるシールドオンシジューム――天上華 蘭を見下ろしながら北条は、副会長として生徒会に入った頃を思い返していた。

 ―――――――――――――――。

「えっと、会長?何か手伝うのさ?」
「………いらない。というか、帰っていいよ。他の会員も帰ったし」
 カタカタとキーボードを軽快に叩きながら、蘭は北条を一瞥もせずに言い放った。
 天上華 蘭とはそういう人物であった。興味の無いことに関してはとことん興味を示さず、集中し始めると周りが見えなくなる。
 しかし、グラビアアイドル並みの整ったスタイルと、彼女自身のカリスマ性が後押しして人気の程は凄まじく学園の選挙において圧倒数どころか立候補した瞬間、他の全候補が辞退したぐらいだ。
 このような態度をとっても、聞いた本人には少しも悪い印象を与えないというまさに洗脳といえるほどのカリスマを持っていた。
 それゆえに彼女に憧れる人間は後を絶たない。けれど、彼女が告白された回数は片手で数えられるほどに少ない。何故ならば、彼女があまりにも高値の花だからだ。他の人間からしてみれば、ホームレス同然の平民が世界を治める女王に告白に行くようなもの、そんな無謀なチャレンジに挑む者などいなかったのである。
 北条もそんな彼女に憧れを抱く人間の一人であった。この学園の副会長となったのも彼女の近くに居たかったためである。
 そうして、手の届かない花を眺めることしか出来なかった北条にある日転機が訪れる。
 彼は見てしまったのだ。放課後、誰もいないはずの学園で、彼女が『シールドオンシジューム』に変身して、『シャッガイ』の次元獣と戦っている姿を…。
 獣を相手に怯むことなく、一切の躊躇もなく切り裂いていく盾の騎士。それが戦っている彼女を見た感想だった。
 しかし、彼の転機はそれだけではなかった。
「彼女を君の物にしたくないか?」
 突如背後に現れた男にそう言われた。
 何者かと聞けば、その男は…。
「僕はセント、花を愛し慈しむ者。そうだね、君の憧れの会長と敵対する組織『シャッガイ』の分隊『クリムゾン』のリーダーである」
 キザったらしい口調、金髪で白い瞳、中世の騎士のような格好で、こういう人間にはお決まりの薔薇の花を胸ポケットに挿していた。
「君のやることは僕らに情報を流すこと、報酬は君の愛しの生徒会長…そうだね他にも何人か女性をおまけを付けよう」
 さらっと、とんでもない事を口にする男、その言葉の意味も自分がどんなことになるのかも、北条は悟っていた。
 それでも、彼は頷いた。求めたものを手にするために。
 それからの彼は学園の情報を『シャッガイ』に流し同時に学園での自分の領土を少しずつ広げていった。
 ミロクの助力もあり、北条の計画はうまくいった。そして今、彼の目標である。『天上華 蘭』は彼の虜となっていた。

 ―――――――――――――――。

「じゃあ、会長。そろそろ本番といくのさ。ラフレシアはそこでオナニーでもして待ってるのさ」
 命令を受けた二人は瞳を潤ませ、それぞれの行動にでる。
「うん。北条君の望むように…私を北条君の奴隷にして、私を作り変えて…」
「その誘い文句はとてもいいのさ、まずはじっくりと味わうのさ」
 エロスの矢で完全に北条の虜になっている蘭は何の迷いも無く抱きつき、いきり立つ肉棒をその膣へ突き刺していき、腰を上下させながら情熱的な奉仕を始めた。
 じゅぶ、じゅぶぶっ!ごりゅごりゅぅんっ!
「あふぁぁぁんっ!ほ、北条君っ……好きぃぃっ!」
 グラビアアイドル並の膨よかな胸が蘭の動きにあわせてブルンッブルンッ!と跳ね回る。蘭の頭の中はもはや北条の与える快楽で満たされ、思考が働かなくなっていた。
「いひぃぃ!気持ちいいよっ…気持ちいいのぉぉぉぉ!!もっとしてぇぇっ……!私をもっと犯してぇぇぇっ!!」
 卑猥な言葉を吐き乱れえる蘭を見て気を良くした北条は、さらに容赦なく腰を激しく突き動かし彼女の膣を攻め立てる。
「会長?会長は誰のものか、ここではっきり決めるのさ、さあ!会長は一体誰のもので、誰のち○ぽじゃないと満足出来ないのさ?」
 「んあぁぁぁぁぁっ!!蘭は…天上華 蘭は北条君のものなのぉぉぉぉっ!北条君に身も心も捧げるのっ!すきぃぃっ!北条君大好きぃぃぃっ!!」
 じゅぶっ!じゅぼ、じゅぶぶぶぶぉぉっ!!
「北条君…っ私…とけちゃうっ!私とけちゃうぅぅっ!!」
「イクといいのさ!僕の精液を受けて、イキ狂えばいいのさ!!」
「んんっはあぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 ことが終わり一度イった後の蘭の膣はひくひくと脈打ちながら、注ぎ込まれた精液を鼓動に合わせ噴出させていた。
「ふふそれにしても…こんなにラブラブな二人を盗み見るなんて、野暮な人もいたものさ」
 北条が生徒会室のドアに視線を向けた。

 ―――――――――――――――。

 まずい、気付かれていた。ドアが開かれて、北条が生徒会室から出てきた。
 すぐに撤退しようと思ったが、相手も甘くない。いつの間にかラフレシアが後ろへ回り込んでいた。途中から姿が見えなくなったと思ったけど、先回りしてたわけね。くそ、二人の行為に見入ってたのが仇になったか…第一なによあの行為は?せっかく何でも言うこと聞いてくれるんだから、もっとこう…見てるこっちも恥ずかしくなるような……。
 ハッ!そんな場合じゃない!!今は状況の分析を…。
 結構激しく犯されていたと思ってた蘭も、すでに北条の横についている。ただ、その瞳は虚ろで、意識があるとも思えない、それでも状況的には3対2……これなら、私と雫が組めばなんとでもなる戦力差だけど、向こうには即席の洗脳手段があるみたいだし。それで、雫まで洗脳されてしまえば私でも勝機は薄くなる。
「っアルビオーレ!後ろだ!」
 雫に言われたが、考え事をしていたせいで反応が遅れた。
 後頭部を打たれ、私はその場に倒れた。
「お前もいたのか…ゼフィランサス……」
 雫の声が聞こえる。…まずったな、ランサーゼフィランサスもいたんじゃホントにまずい。ここは……とりあえず気絶したフリをしていたほうがよさそう。
 雫には悪いけど、しばらく持ちこたえてもらわないと…。

 ………………………………………。

 アルビオーレが倒れ、私は北条、ラフレシア、オンシジューム、ゼフィランサスの4人に囲まれる形になった。アルビオーレは後頭部を殴られたようで、起きる気配が無い。死んではいないみたいだが、戦力としての期待は出来ないだろう……。
 違うな、端から期待などしてはいけない。千莉が私の元から離れた以上、私は私のなすべき事をやらなければならない。
 歯車も残り少ない。儀式が完成すればこの世界がどうなるか…いや、この世界だけじゃない。『向こう』の世界も巻き添えになる。
 私だけなんだ。『エンジェルゲーム』で生き残った私だけがそれを止められるのだか
 私は……二人に誓ったんだ。
(雫なら……やってくれるよね?)
(安心しろ、君より雫の方が一回りほど出来が良い)
(ひどっ!雫!怒ってやってよ。この天使、人の気も知らないで散々に言ってくるの!)
 いつの日かの光景を思い出した。そうか、あの日から私の時間で3年以上経っているんだったな。
「変身…コード:ロッド」
 この状況では法衣を装着したとしても焼け石に水だが、何も出来ないよりは良い。私は杖を北条へ向けて構えた。
「いや~なかなか手こずらせてくれたのさ、君が面倒なことを起こさなければもっとスムーズにことが運んだはずなのに」
 …それはそうだろう。この戦いに私が参加しなければ、今頃全ての歯車が揃い、儀式が始まっているはずだ。
「『エンジェルゲーム』の勝者がここまでもことをやらかすなんて、我々シャッガイも思わなかったのさ」
「その『エンジェルゲーム』について、お前はどこまで知っている?」
「『C計画』の儀式実験ってぐらいだね。というよりその一言で片付けられるのさ」
 知らない。こいつは『エンジェルゲーム』の本当の意味を知らない。じゃあ……。
「ここで殺しても何の問題もないな」
「なっ!?」
 気がつくのが遅い、こういう時、周りを囲まれているのなら…。
「Inferno!!」
 慌てた北条が止めに入るがもう遅い、洗脳状態の三人には私を止めることなんて―――。
 直後、脇腹に走ることの無いはずの鋭い痛みが走った。
 嘘……反応が速すぎる…。なんで…?
「ごめんね~雫ちゃん。ここで焼かれるわけにはいかないのよ」
 腹に食い込んだ槍をピクリとも動かさずにゼフィランサスは言い放った。
「お前……まさか…」
「それはご想像にお任せするわん♪」
 槍が引かれ、支えを失った私の体は重力のままに地面に倒れ臥した。
「いやはや、助かったのさ。じゃあ、雫ちゃんにも歯車になってもらうとするのさ」
 北条が何かをしている気配がする。でも…もう力が入らない。
「さて、雫ちゃんにも僕のハーレムに入ってもらってもいいけど、ここは少し趣向を変えてみるのさ」

 ―――――――――――――――。

 あ~~~もしかして、かなりまずい状況かなこれは。雫もやられて、残りは私一人…………どうしよう……。
 この気絶状態もいつまで持つかもわからないし、どこで逆転できるかな?
 ぴちゃっ
「ひゃうっ!」
 アソコを嘗められる感覚に私は情けない声を上げてしまった。
「んちゅっ!れろっ…アルのここは…くちゅっ……綺麗…だな、見てるだけで…私のおま○こはグショグショになってしまった…んちゅっ」
 信じられない光景が目の前で繰り広げられていた。あの雫が…私のアソコを愛しそうに嘗めている。それも、自分の膣に指を入れ、かき回しながら…。
「どう?気に入ったのさ?雫ちゃんには君を好きになるようにエロスの矢を討ったのさ、僕は見物しているから、思う存分楽しむのさ」
 オ~ケ~、事態は理解した。とりあえず、雫が敵にまわる状況は回避できたみたいだけど、私の予想斜め上を行く状況になったみたいね。
「アル…私を……受け取ってくれ」
 全裸で仰向けに寝かされた私に雫が積極的に攻めてくる。唇を奪われ、雫の舌が私の口内を暴れ回る。
 舌を絡めてあげると、雫はうっとりとした表情を浮かべた。
「うれしい…アル、もっとして……んちゅるる…んむっ」
 …どうしよう。このまま雫に身を任せてしまおうか、それとも私が攻め立てたほうが……って違うでしょ。今は――。
「他の事は考えないで……私だけを見て…」
 うわぁぁそりゃまずいでしょ!そんな雨の日に捨てられた子猫のような眼でみないで…じゃないと歯止めが~~~っ!
「私の全部…アルに捧げる。だからして、お願い……お願いぃぃっ!」
 じゅっじゅっじゅ!っと雫が股間を股間に摺り寄せてくる。恐らく初めてであろう女同士の行為に雫自身、慣れないながらも私に気持ちよくなってもらいたいのだということは伝わってくる。
「ふふっ…しょうがないなあ、雫ちゃんは」
 合意の意味を込めて雫の頭を撫でる。
「ねえ、アル…私のおま○こ、こんなにグショグショなのに全然足りないの…アルに気持ちよくしてもらいたくて、溢れてるのぉぉぉっ!早くぅっ!早く私を犯してぇぇぇっ!!」
「いいわ。雫のこと、気持ちよくしてあげるから…全部私に任せて」
 ゆっくりと手を伸ばし、雫の膣へ指を入れていく。
「あっあっ、アルのゆびぃぃぃっ!いいよぉっ!気持ちいいぃぃっ!」
「当然でしょう?私は、そういう調教を受けて育ったんだから」
 指の動きを早める、雫のGスポットを集中して、攻めあげると、雫はすぐに根を上げた。
「だめぇぇぇぇっ!アルゥゥゥゥっ!!気持ち良すぎて……もう…私ぃぃっ!」
「いいのよ、イっても!雫ちゃんが好きなときにイって!」
 くちゅっくちゅっ!…くちゅっ!!
「はあぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 身体を仰け反らせて、イった雫は私の上に倒れこんできた。私は雫を抱きとめて、ただ呆然としていた。
「じゃあ、最後の仕上げなのさ」
 北条が私に矢を構えていた。でも、私は動けない。1ラウンド終わった今の状態じゃあ後30秒は動けないだろう。
 北条がニヤリと笑い、矢が引かれた。

 ―――――――――――――――。

「はぁ……はぁ……」
 雫と交わった余韻で、アルビオーレの瞳は虚ろを見ていた。そこに北条のエロスの矢を受けアルビオーレはなすがままになっていた。
「それじゃあ、アルビオーレちゃんをいただくのさ」
 肉棒を取り出した北条がアルビオーレにせまる。しかし、アルビオーレは抵抗の素振りもなく股をM字に開かれ、膣の先端に北条の肉棒が入り込む。
「ふふ…あははは」
 北条が笑う。そのまま一気にアルビオーレを貫く。
 ザクッ
「へ?」
 北条の間抜けな声が空しく響いた。
「ぷぷ……あはははははははははっ!!」
 アルビオーレが大声で笑った。彼女の膣からは大量の血が流れ出していた。
「ぎゃあぁぁあぁぁぁぁ!!」
 ようやく状況を理解した。北条が絶叫を上げた。
「な…なんで、こんなことになるの…さ!!」
 肉棒からだらだらと血を流していた。見れば彼の肉棒は無数の針で刺されたような傷が出来ていた。
「これが本当のIron Maidenってやつよ。記憶した?」
 アルビオーレがゆっくりと衣服を整えながら立ち上がる。
「残念ね~、あなたのソレ、もう使い物にならないわよ」
 北条と血塗れの肉棒を見下ろしながら、アルビオーレがクスクスと笑っていた。
「どうして……エロスの矢を受けたのに……」
「私の身体はね、他の介入を許さないの。たとえ魔術であろうと薬であろうと催眠術であろうと、私が認めない限り『人間』に私を自由にすることなんてできやしないのよ!」
 アルビオーレの手が北条の首にかかる。
「あぐぉう…ごがあぁぁ」
「Check……Scan…」
 首を掴まれ、声を出せない北条からアルビオーレはある情報を読み取る。
「エロスの矢の術式、もらったわよ」
 ニヤリと笑うアルビオーレはどこかの悪代官のようだった。
「お前…なにも――」
 北条は言葉を最後まで言うことが出来なかった。
「……そういうこと、ええっと、未玖ちゃんでよかったっけ?」
 北条に変化がある前にアルビオーレは瞬間的に飛び退いていた。
「バレちゃってたのねん♪私がアシタカから受けた命令は、北条が破れた場合抹殺すること」
 頭のてっぺんから槍によって串刺しにされた北条の屍を椅子に、ゼフィランサスが妖艶な笑みを浮かべる。
「つまり、あなたは操られてここにいたわけじゃなかった。ってこと?」
 だから、雫の行動に反応できたのだとアルビオーレは理解した。
「ピンポーン♪私のご主人様は今も昔もアシタカだけよ」
「……それもどうか怪しいわね」
「それは、あなたもでしょ♪」
 互いに含み笑いをして、ゼフィランサスのほうから先に背を向けた。
「ラフレシアは貰っていくわ、後はそっちの好きにすればいい」
「いいの?雫ちゃんはしょうがないとしても、蘭は戦力になるでしょ?」
「私はアシタカの命令が果たせればいい、それに、オンシジュームを持って行こうとしたら、あなたに殺されかねないから」
 ゼフィランサスの前に闇で出来た扉が現れる。
「ねえ?最後に一つ聞いても良い?」
「なに?」
「最初に会ったときと印象がずいぶん違うけど、あれは演技ってことかな?」
「………私は…アシタカに従うだけよ」
 その時アルビオーレは悟った。アシタカと目の前の少女の関係は、自分とナイアルとの関係と似ていると、方法も目的も違う…けれどやっていることは同じだと感じていた。
「こんなこと言うのはアレだけど……頑張りなさい」
 アルビオーレの言葉はゼフィランサスにとって意外なものであったのだろう。一瞬目を丸くした彼女は、
「バカね…あなた。……でも、ありがと」
 それだけ言ってゼフィランサスはラフレシアを連れ闇の中に姿を消した。
「事後処理を全部押し付けられた気分ね」
 嘆息しながらアルビオーレは先ほど北条から読み取ったエロスの矢の術式から解呪の術式を作り出す。
「Serne Heart」
 アルビオーレが呪文を唱えると、雫と蘭の身体から矢が飛び出しその場で霧散した。矢から開放された蘭はその場に倒れ臥し、アルビオーレとの行為で消耗していた雫はそのまま眠り続けていた。
「これでよし、後の説明が厄介かな…まあ、蘭にはこれで貸し一つだから儲けものだね…ふふ…ぷくく。雫ちゃんの可愛いところも見れたし、余は満足じゃ」
 アルビオーレの愉快そうに笑う声だけがぼろぼろになった教室内に響いていた。

< 次回へ続く >

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