発情 前編

前編

「ふあーっ」

 大きくあくびをする。窓の方を見れば、五月の太陽も沈んでもう真っ暗。
 …どうやら教室で机に突っ伏したまま、ずっと寝ていたらしい。

「…はぁ、やっと起きたのね」

 見れば二つ前の席で、この教室にただ一人、滝川鈴が勉強していた。
 あくびで俺が起きたことに気づいたのだろう。前を向いたまま大げさにため息なんかついてやがる。
 鈴とは学園に入って以来、何の因果かずっと一緒のクラスだ。
 腰に近いストレートのロングヘアとかツリツリの目元とか、いかにもキツそうなヤツ。
 顔立ちは悪くないと思うんだがなあ。どうにもうるさくてかなわない。
 
「鈴、今何時?」

 ふぅ、とこっちを振り返って睨む。

「きっかり六時半よ。まったく、三時間近くも寝るなんて普段どんな生活送ってんの?自省しなさい」

「六時半って…それじゃどこの部ももう終わってるじゃないか。そんな遅くまで勉強か?」

「そうよ。受検生が勉強して何か悪い?」

 ふん、と腕を組んでそっぽを向く。

「アンタに受検生としての心構えってもんはないわけ?グータラグータラ寝てばっかりじゃない」

 俺だってだなぁ、昨晩はもらったばかりの「えむしぃ魔術入門」の基礎理念を頑張って理解しようと…

「エスカレータ式なんだからそんな気負わなくてもなんとかなるだろさ」

 何をー、と鈴は勢いよく立ち上がって、俺の机の前に仁王立ち。

「それにね、クラス委員としてアンタみたいな問題児を教室に一人で残してなんておけないんだから。
 ほら、立って。もう他のクラスの子もいないんだし、早く帰りましょう」

 ああそうかい…ってそうだ。せっかくの二人っきりの教室。
 最初がコイツじゃちょっと役不足かもしれんが、実験台にしてやれ。
 えーと、実践編の一番最初のページにあったのは…そうだ、強制発情の呪文だ。
 次ページの淫乱化の呪文と違って効力に段階もつけられるが、他の呪文との重ねがけは出来ないってヤツ。

「スウリギルヴェッ…ロマッ…!{中}」

「えっ?何?」

「いや、ナニも」

 と、見る間に鈴の息が荒くなっていく。

「わ、わかった?じゃ、じゃあ…は、早く行きましょぅっ…」

 そういって俺の制服の袖を引っ張る。俺はその手を優しく振り払って、鈴の額に手を当てた。
 ビクリ、と鈴の身体が震える。鈴の額は、焼けるように熱く、軽く汗が滲んでいた。

「あんっ…!いきなり何すんの!」

 お、けっこうかわいい悲鳴。コイツも女の子だったんだなあと実感する。

「顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか。ちょっと休んだらどうだ?」

「べ、べつに…何でもな…んっ…いのよ!」

 足がプルプルと震えている。

「おいおい、そんなにフラフラになっておいて何もないなんてことないだろ。
 ほら、ここに座って」

 と、隣の机の椅子を指差す。
 かたん、と気が抜けたように鈴は椅子に座りこんだ。

「し、心配しなくても大丈夫なんだっ…から…。」

 なんてごちながらも、鈴はハァハァと息荒げに、ちらちらと俺の股間に視線をやっている。
 ふふ、いつまで我慢が続くことやら。
 …ちょっといじめてみるか。

「ん?何かにおわない?チーズみたいな…」

 よそを向いてクンクンと鼻を鳴らしてみる。途端に鈴は真っ赤になって、スカートの上から股間を抑えた。
 中がグショグショになっていることを自覚してるんだろう。身体が震えている。

「こっちの方かなぁ…」

 鈴の方に向き直る。いかんいかん、どうもニヤけてしまいそう。

「気、気のせいよ、気のせい!わ、私ぜんっぜん何も臭わない!」

 涙目で、何とかごまかそうと必死になっている。
 
「鈴…」

 真面目な顔を作ってすっくと立ち上がる。

「な、何よ!」

 そんな態度を取りながらも鈴の視線は、目の前の俺の股間に釘付けだ。
 …やるか。

「キャッ!!」

 バサッ、と一気にチェック柄のスカートをめくり上げた。

「な、何やって…」

「こっちのセリフだ。ナンでこんなにグチョグチョに濡らしてんだ?」

 オレンジの小さなショーツ。その下部は用をなさないほどに濡れており、腿にまで愛液が流れ出している。

「そ、それは…ひゃうっ!」

 何も言えず小さくなる鈴の濡れた秘所を、ショーツ越しにそろりとなで上げた。お、すごい反応。
 そのままクニクニと刺激すると、面白いように喘ぎだす。

「やんっ…何するのよっ…んぁっ…!」

「わかってたぜ。さっきから俺のに欲情してたんだろ?」

「そ、そんなことな…ひぃっ!そこだめぇっ!」

 ショーツ越しにも膨れ上がっているのがわかるクリトリスをいじる。
 その一方でズボンのチャックを開け、ナニを露出させた。

「あ…あ…」

 鈴のトロンとした目が、俺のナニを捉えて離さない。

「ほらほら、いい子ぶるのはやめろよ。この淫乱女が」

 その一言で、ハッと鈴は我に返ったようだった。

「ち…ちがっ…んぅっ!
 ア…アンタなんかに…私が欲情するだなんて…ぁんっ…あるわけないじゃないっ…んっ!」

 キッとこちらを睨みつけてくるが、喘ぎ混じりなのであまり迫力はない。

「じゃあ、やめるか?」

「あ、あたりまえじゃないの!」

「ほら」

 すっと手を離す。途端にムズムズしだしたのか、鈴は股間を手で強く抑えつけ、身体を縮こめる。

「んん?やっぱりしてほしがってるんじゃないのかな?」

「アンタなんかに…アンタなんかにぃ…んぅぅぅぅ…」

 あと一押し…かな?

「スウリギルヴェッ…ロマッ…!{強}」

 効力最大。

「いやぁっ!んぅっ…!……」

 おやおや、机にぐったりともたれかかっちゃってるよ。

「………って」

 羽音のような小さな声が聞こえた。

「え?ナニ?」

 意地悪く、あえて聞き返す。

「…………触ってよ………」

「それが人に物を頼む態度?」

「……さ、触ってください……」

 よっし!ついに言わせた!

「…よくできました。じゃあまずは俺の…ってうわ、ヤバ!」

 夢中になってて気がつかなかったが、コツコツと階段を昇る音が聞こえてくる。
 …教師の見回りだ!何という迂闊さ。と、とにかく逃げなきゃっ!

「スウリギルヴェッ…ロマッ…!{弱}」

「え……?」

 身体が軽くなったのを感じたか、不思議そうにぼんやりと目を見開く鈴。
 急げ急げ、とばかりカチャカチャとベルトを閉めて、カバンをガッと持ち上げた。

「じゃ、俺帰るから!」

 そして俺は、鈴を置いてバタバタと、教師にかち会わない北階段の方から逃げていったのだった…。

 とりあえず校門を過ぎて一息。

「くそ、失敗した…!」

 まだこんな魔術しかマトモに扱えないのに、ちょっと背伸びをしすぎたのかもしれない。
 難易度の高い認識操作系の魔術を覚えるまでは、もっと慎重にやらなければいけなかったんだ。
 まあ鈴も、あんな出来事を他人に話すことなどできないだろうから問題はないのかもしれないが…。

 …明日は絶対にリベンジしてやる!

< 後編に続く >

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