サイミン狂想曲 第八話

第八話

 バラ色の学園生活を手に入れつつある僕は、うきうき気分で日曜日を迎えた。いま、郊外に続く国道で自転車をこいでいる。実は、麗ちゃんにお呼ばれをしているのだ。本当は、他の四人と一緒に向かうつもりだったのだが、昨夜、真由相手に調子に乗りすぎて寝坊してしまったのだ。真由当人は寝坊していないので、言い訳にはならないが。

 住宅街を抜けると、山の合間を走るような道になる。太陽の光がまぶしく、木々の緑が濃い。勾配のあるアスファルト道を上に上にとペダルをこぐ。やがて、眼下に小さくなった街を一望できるようになる。そんな場所に、豪勢な門があった。「西園寺」の表札がなければ、個人が所有する敷地だとは思えないほど、広範囲を塀が囲っている。

 僕は携帯を取り出し、麗ちゃんの番号に電話する。ややあって、麗ちゃんに着信した。

「あ、麗ちゃん? いま着いたところなんだけど……」

「あら、賢哉さま。いまロックを開けますから、お待ちになられて?」

 電話先で麗ちゃんがそういうと、重い金属音がして扉の鍵が開かれる。

「どうぞ、お入りくださいませ。今日は、使用人にも空けておくよう言ってありますから、私たち以外誰も居りませんわ」

 僕は電話越しにうなずくと、自転車を置いて扉をくぐる。

 手入れの行き届いた植木や花壇が並び、時折、噴水や近代的なオブジェの設置された庭園を三十分ほど歩き、ようやく城のような屋敷にたどり着く。庭先だろうと思って油断していたが、途中から自転車を使えばよかったと後悔した。庭を歩いているだけで迷いそうで、麗ちゃんと電話をつなげたまま、ナビゲートを受けていた。

「……玄関につきましたら、そのまま奥に。突き当たりを……」

 リゾートホテルのロビーを思わせる豪奢なエントランスをくぐり、麗ちゃんの指示に従う。こんな屋敷でも、別邸に過ぎないというから恐ろしい。無数の扉が続く廊下を歩き、僕はようやく目的の部屋にたどり着く。みんな、もういるはずだ。今日は、なにをして楽しもうか? ドアノブをひねり、扉を押し開く。

 リビングらしい部屋だった。ただ、ダンスホールかと思うほどの広さがある。家具は、テーブルから、ソファ、カーテンに至るまで繊細な意匠が施され、美術館の展示品かと見まがうほどだ。

「……あれ?」

 僕は部屋を見回す。人影は、ない。部屋を間違えたのだろうか、これほど広い屋敷ならあり得る話だ。僕は目的の部屋を探すために、入ってきたドアに向き直す。

「えへへ……おにぃちゃーん! 待ってたよー!?」

 背後から突然、真由に抱きつかれた。妹のふくらみかけな薄い胸の感触が背中に伝わってくる。どうやら、テーブルの下に隠れていたらしい。僕はじゃれつく真由の身体を引き離しながら、振り返る。妹の姿を見て、息を呑んだ。

「……お兄ちゃん、どう?」

 真由は、右手を後頭部に回し、左手を腰に当ててポーズを取る。妹の頭にはフィクションの中のメイドを連想させるフリル付きカチューシャが取り付けられていた。身体には純白のエプロンドレスだが、その下には普通の服を着ていない。真由の肉体を直接覆っているのは濃紺のスクール水着だった。

「見て見て! 真由のスク水メイド!!」

 真由が背を向けて、お尻を突き出すような格好になる。細い手足には、メイド風の装飾が散りばめられた長手袋と長靴下。脚にきつく食い込んでいるのニーソックスは、不必要に真由の太股を強調する。それよりも目を引くのは、腰回りだ。水着のサイズは明らかに小さめで、生地の素材も通常とは違い肌に吸い着くようになっている。その上、股間のサポーターが抜き取られた作りになっているようで、真由の恥丘の土手から、クレヴァスをなぞるラインまでくっきりと浮き出ている。

「真由……この格好は……」

 誇らしげに衣装を見せつける真由に、僕は思わず見とれて尋ねる。

「なに言ってるのぉ? 賢哉くんが私に言ってたじゃない。えっちぃコスチュームを作れって。テスト明けから、寝る間も惜しんでデザインを考えたんだから!!」

「菜々子さんがデザインとコーディネイトを担当して、ワタクシが方々に手配しましたのよ。もちろん、素材も仕立ても、超一流のモノですわ!!」

 カーテンの中から、菜々子ちゃんと麗ちゃんが姿を現す。

 菜々子ちゃんは、きわどいほどに股を強調する食い込みのハイレグ衣装を中心に、燕尾服デザインの上着、シルクハットをあしらったヘッドセッドと、カフスボタンにガーターストッキングを組み合わせたセクシーマジシャン風のコスチュームだ。ハイレグからこぼれ落ちそうなお尻と乳房が艶めかしい。

 対する麗ちゃんは、スカートと胸の部分が分かれたセパレートタイプのボディコンドレスを身につけている。チューブトップブラのようなトップスと、もはや隠すことを放棄したとしか思えないミニスカートは、ラメ入りの生地で肌にぴったりと密着する。僕の視線に応えるように、麗ちゃんが後ろを向くと、スカートのヒップの部分がハート型に切り抜かれ、特上の尻肉が谷間ごとむき出しとなっている。

「賢チャ~ン! ワタシのことも、見テー?」

 ソファの影から飛び出したのは、リンダちゃんだ。リンダちゃんの身を包む衣装は、星条旗を連想させるチアリーダーのユニフォームがベースになっている。ただし、プリーツスカートは麗ちゃんといい勝負なくらいのマイクロミニで、リンダちゃんが身体を揺らすだけで、中のショーツがちらちら覗く。脚を覆う青いロングブーツの他に、上半身は規格外なミルクタンクを半分程度も隠すことのできないマイクロビキニだけが被さっている。

「さぁ、清美も早く出てきなさいよ! 私たちの賢哉くんに、おめかしした姿を見せてあげるんでしょ!?」

 菜々子ちゃんが、僕が入って来たのとは別の扉の向こうに腕を伸ばす。「きゃあ!?」と可愛らしく聞き慣れた悲鳴が聞こえてくる。菜々子ちゃんに手首を掴まれ引っ張り出されたのは、気恥かしそうに顔を赤らめる清美ちゃんだった。身体のラインを露出させた清美ちゃんは、身をかがめ、腕で身体を隠すようにしている。

「もう、清美! なに恥ずかしがっているの? あなたの衣装が一番の自信作なのにッ!!」

「だって、だって……!」

 菜々子ちゃんが清美ちゃんにげきを飛ばすが、当人はいやいやと首を振る。

「清美ちゃん、腕をどけてよ。清美ちゃんの身体、しっかり見たいんだ」

「あぁ……はいぃ……」

 僕が指示を飛ばすと、清美ちゃんは顔を深紅に染めながらも腕をどけ、僕が良く見えるように直立の姿勢を取る。

 清美ちゃんの頭には、きらびやかなティアラがのっかっている。腕と脚を締め付けているロンググローブとニーソックスには、可愛らしいリボンとフリルの装飾があふれている。胸や股間のデリケートな部分を隠すのはマイクロビキニだが、こちらもフリルでふわふわなデザイン。さらに、腰には素肌に直接巻きつけられた大きなリボンが、清美ちゃんの背で羽を広げている。全体の色調は、イヤリングからハイヒールに至るまで、ホワイトとパステルピンクに統一されていた。

「ど、どうですか。小野村くん……いえ……賢哉さん……」

 清美ちゃんが伏し目がちで、僕を見上げながら言った。その姿は、可憐な魔法少女を連想させる。それでいて、淫らに引き立てれた肢体とのミスマッチが、異様に劣情を誘う。

「うん、清美ちゃん……すごい、似合っているよ」

「あ、ありがとうございます」

 もじもじと礼を告げる清美ちゃんの周りに、他の四人も集合する。えっちなストーリーから飛び出したような衣装は、それぞれの個性と魅力を引き出しながら、造り物じみた安っぽさは微塵も感じさせない。真由の幼い肉体、麗ちゃんの宝石のようなヒップ、菜々子ちゃんのムチムチした肉感、リンダちゃんの刺激的な爆乳、そして清美ちゃんの天使みたいな可愛らしさ……全てが、僕を夢中にさせる。

「みんな……えっちで、可愛くって……最高だよぉッ!!」

 僕は、五人の美少女の中に飛び込んでいく。五人は、満面の笑顔で僕のことを受け止めてくれる。吸い寄せられた僕を抱きとめたのは、清美ちゃんだった。僕が至近距離で清美ちゃんの顔を見つめると、ただでさえ赤くなっていた彼女の顔が耳の先まで朱に染まる。

「どうしたの、清美ちゃん。そんなに恥ずかしいのかな?」

 僕の問いかけに、清美ちゃんは上気した顔つきでコクンとうなずく。

「どうして? 清美ちゃんは露出狂のヘンタイさんなのに、コスプレしたぐらいで恥ずかしいの?」

「だって……この衣装、なんだか、裸よりイヤらしい感じがして……」

「それは、そうよ!」

 気恥かしさからもじもじと腰を動かす清美ちゃんの背に、元気良く抱きついたのは菜々子ちゃんだ。

「清美のスケベな魅力を引き出すために、一生懸命考えて作ったコスチュームなんだもの!」

 僕と清美ちゃんに向かって、菜々子ちゃんが誇らしげに宣言する。

「うん、菜々子ちゃんの言うとおりだね。今の清美ちゃんは、いつもの何倍もえっちで、ヘンタイで、とっても可愛くって魅力的だよ」

「は、はひぃ……」

 清美ちゃんが、返事ともうめき声とも取れない声をこぼす。顔面は完全にゆで上がり、今にも爆発してしまいそうだ。だが、清美ちゃんが、いつも以上にエロティックで扇情的な魅力にあふれているのは事実だ。その証拠に……

「見てよ。僕のここ、もうこんなになっちゃっている」

 ギンギンにテントを張っていたズボンの股間のチャックを下ろすと、臨戦態勢になっていた剛直が、飢えた野獣のように勢いよく飛び出てくる。

「清美ちゃんも、脱いで? あ、少しずらすだけでいいよ。半脱ぎが、一番えっちぃからね」

「わ、分かりました……」

 羞恥心に前後不覚となりながらも、忠実に僕の命令に従おうとする清美ちゃんの忠誠心には、感心せざる得ない。清美ちゃんは、僕の言った通り、マイクロビキニのボトムをひざのあたりまでずらし下ろす。粘着質な水音が響き、清美ちゃんの秘所が既に情欲に湿っていることを伺わせる。

「あ、そうだ。コンドーム……」

 清美ちゃんの艶姿に見惚れて、避妊具の装着を忘れていたことに気がついた僕は、手が空いている他のカノジョに用意してもらおうと振り向こうとする。

「待って!」

 その僕を、清美ちゃんが呼び止める。

「あの、その……私、今日、大丈夫な日なんです。だから……もし良かったら、何も付けないままで、やって欲しいな、って……」

「……ナマでしちゃってもイイの?」

「はい。それに……もしもの話ですけれど……賢哉さん相手だったら、妊娠しちゃってもイイかなって……」

 そう言うと、清美ちゃんは恥ずかしそうに顔を伏せる。清美ちゃんの仕草を見つめながら、言葉の意味をかみしめて、僕の理性が吹き飛びそうになる。生殖本能を思い出した男性器が、より一層硬く大きなっていく。

「ふぅん。なるほど……殿方を誘うときは、このような口上が有効ですのね。参考にさせていただきますわ」

 僕の背中に身を寄せてきた麗ちゃんが、口をとがらせ、清美ちゃんをライバル視するような言い方でささやく。僕は、清美ちゃんの腰に手を回し、乱暴に腰を突き出した。ほとんど何の抵抗もなく、僕の男根は清美ちゃんの淫口の中へと吸い込まれていく。途端、清美ちゃんの優しい柔肉が陰茎全体を包み込む。満開になった花弁に包まれたような悦楽。薄いゴムを取り払っただけで、清美ちゃんの内側の楽園がこんなにも色鮮やかになるとは思わなかった。

「うっ! いいよ、清美ちゃん……すごく、いい!!」

「あぁ! 私も、私も、気持ちいですぅ!!」

 僕と清美ちゃんはお互いの肩に顔をうずめ、我を忘れて快楽を貪り合う。

「清美も、賢哉くんも、凄い良さそう。なんだか妬けてきちゃう……」

「ねぇ、菜々子さん。ワタクシたちも、ヘンタイイイナリカノジョとして、お二人の情事をお手伝いすべきとは思いませんこと?」

「ん。それもそうね。西園寺さん」

 抱き合う僕らをサンドイッチする菜々子ちゃんと麗ちゃんが、思わせぶりなアイコンタクトを交わしたかと思うと、二人が僕と清美ちゃんの背後でひざをつく。麗ちゃんのしなやかな指が、僕のベルトを解き、ズボンとブリーフをまとめて床におろしてしまう。次の瞬間……

「うあッ!?」

「あぁん!!」

 僕と清美ちゃんが同時に絶叫する。麗ちゃんの唇が僕のお尻の穴にキスをし、舌で直腸をくすぐる妖しい感覚が伝わってきたのだ。どうやら、菜々子ちゃんも同様に清美ちゃんのお尻を責め始めたらしい。排泄のための汚れた穴だと言うのに、麗ちゃんは躊躇する様子もなく、舌による侵入と奉仕をエスカレートさせていく。

「あぁ! はぁッ! 賢哉さんの……いつもより、大きくなっていますぅ!!」

「んんッ……! 清美ちゃんだって、急に締め付けが強くなって……あぅ!!」

 後ろの穴からの奇襲攻撃は、予想以上の快楽をもたらし、僕たちを翻弄する。さらに、新たな伏兵が、今度は僕らの左右からやってくる。

「お兄ちゃん……私のこと、忘れちゃいやだよぉ……」

「そうだヨ、賢チャン……こんな激しいセックス見せつけれたら、ガマンできなイ……」

 僕の左右から、真由とリンダちゃんが顔を寄せる。僕が何かを答える間も与えず、リンダちゃんは僕の顔を掴み、半ば無理やりに唇を奪う。ねっとりとして、貪欲なディープキス。リンダちゃんのキスから解放されたかと思うと、今度は真由がそれに倣う。真由とリンダちゃんは、僕に息継ぎの間も与えることもなく、交互に接吻を施し、舌の交わりを求めてくる。その間も、自ら腰を振る、清美ちゃんの動きも休むことはない。さらに、背後の麗ちゃんまでも、僕の尻肉を割り開き、舌を根元まで直腸に差し込もうとしてくる。

「ん! あぅ、んんー!!?」

 僕と五人の美少女の昂ぶりが一体となり、僕は自らをもてなす肉の楽園へと果てることのない欲望を解放した。

 五人のイイナリカノジョたちと一しきり戯れ、コスプレ撮影会に興じた僕は真由とともに、夕暮れの西日が照らす住宅街を僕は自転車を押しながら家路を歩いていた。彼女たちを使って、何をしようか妄想が膨らむ。休日の黄昏の風景は、楽しかった一日の終わりを告げるようで、どこか寂しい。それでも僕は、明日のことを思うとニタニタ笑いが止まらない。

「もう、お兄ちゃんったら、いやらしい顔して! また、ヘンタイな妄想でもしているんでしょ!?」

「そういう真由だって、そうだろ?」

「えへへー」

 小声で、ほんの少し前だったらあり得ない会話を交わす。僕と真由が、通り慣れた角を曲ったとき、僕たちの足が止まった。

「あ……」

 理香子先生が向こう側から歩いてきていた。買い物か何かの帰りだろうか。当たり前のことだが、普段見るスーツ姿ではなく、私服のブラウスを着ていた。僕たちを先生は鉢合わせになって、お互い動きが止まる。

「……こんばんは。二人とも」

「あ、こんばんは……」

 いつものようにイヤミでも言われるかと思ったが、挨拶の後に会話が続かない。低く照らす陽光を浴びながら、何とも言えない沈黙が漂う。

「ねえ、真由ちゃん。あなたのお兄さんと話があるから、先に行ってもらってもいいかしら?」

 先生の言葉に真由は戸惑うが、俺が構わないと促すと、うなずき返して先に我が家に向かう。途中、真由が一回だけ振り返る。僕は妹の背を見送ると、自転車に手を置いて先生に向き直る。

「先生……防犯カメラ、残念でしたね?」

 沈黙に耐えかねて、僕は場違いな話題を振ってしまう。

「あぁ、そのことは別にもうどうでもいいわ」

 意外なことに、先生は心底興味がないといったそぶりを見せる。落胆しているのかもしれない。

「それよりも……ねぇ、もしかしたらだけど……小野村くん。好きな女の人とか、いる?」

 先生の言葉もまた予想しようのないものだった。僕は唖然として、立ちすくむ。

「な、何言ってるんですか? 先生……どうして、急にそんなことを……」

「小野村くんが、あんなことしたりするのは……誰か、好きな人がいて、告白できないでいるから……その行き場のない気持ちが原因になっていたりはしないのかな……って私は思ったの」

 理香子先生は何を言っているんだろう。僕は、全く理解できない。ただ、先生がからかっているわけではないことは、声音でわかる。好きな人……僕は、五人のカノジョたちを思い浮かべる。でも、この関係は恋人同士と言えるものだろうか。

「やだな、先生。何言っているんですか……好きな人なんて、いないし……もしいたとしても、そんなことやる理由にはしませんって」

 正直なところを答えたつもりだったのに、声が震える。

「そう、そうよね……ごめんなさい。ヘンなこと聞いちゃって……私、疲れているのかな……」

 先生はすまなそうな苦笑いを浮かべると、「また明日」と言い残して僕の横を通り過ぎていく。僕はしばらく、呆然と立ちすくむ。頭をぶんぶんと振って、自分のやりたいことをやればいいんだ、そう自分自身に言い聞かせると、自転車を押して歩き始めた。

< 続く >

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