グノーグレイヴ2 第三.五話

―第三.五話 握出紋の消失―

[0]

 新世界、トラディスカンティア。元々生まれることのなかった、改ざん後の世界。
 千村拓也。グノーグレイヴで手に入れた力、『ただの線を描く画家―レプリカント・ツア・コンダクター―』によって作りだした理想の世界。そのおかげで千村拓也は葛藤していた。
 最初は良かったのだ。正義の使者が一部の層に喜ばれ、支持を集めるところまで上手くいっていたのだ。だが――

 シゴトがナクナッタゾ!!ドウシテクレル!!?
 アカチャンがナキヤマナイ!!ヤクにタタナイジャナイ!!!
 センソウがイマダオワラナイ!!ハヤくアンシンサセロ!!!

 新世界となっても世界は簡単に変わるものじゃない、いや、むしろ変わらなかったのだ。大きな変化を望んだ人々の希望は脆くも崩れ、新世界を望んだ者の指示は下落した。
 支持率70%。これでも高いと言うだろうか?
 しかし、千村拓也の新世界の成就は常に100%の世界である。皆の理想を叶え、皆が喜び、皆に慕われる世界だ。30%の反感がいつ世界の崩落になるか不安でならなかった。

「……悪は、俺達じゃないのか?」
「そのようなことを……。おやめ下さい、マスター。住民の耳に入ります」

 ブリュンヒルドが慰める。だが、たった一人だけでは心の傷は癒せない。

「彼らはただ、自分の世界に帰りたかっただけだ」

 ――ナンダ、アのフザケタ『アンドロイド』は?バカにシテルノカ!!?
 ――『アンドロイド』をケシテ!!!
 
 新世界には千村拓也の傍にいるブリュンヒルドや、その他に作りだした『アンドロイド』を拒む者がいるのだ。新世界を拒み、癒しを必要としないものを救えないのなら、千村の作った新世界は矛盾する。矛盾する世界は必ず消える。

「新世界を望む方はまだ少ないかもしれません。ですが、これからマスターは偉業を成し遂げるのです。未来永劫生き続け、生涯忘れられることはない、『英雄』として名を残すのです。全てを平等に受け入れ、世界に認められるのはマスターしかおりません。私は見たい。マスターが成すのです」

 ブリュンヒルドの願い。必ず叶えなければならない、それが拓也の使命。
 また一つ、重圧がのしかかり拓也は吐き気が止まらない。

「俺は……うぇぇぇぇ!!」
「苦しいでしょう?辛いでしょう?でも、グノーグレイヴは確かに力を与えてくれます。休むことなく働き続け、偉業を成した後で供に楽になりましょう。私もお供いたします」

 ブリュンヒルドが拓也を抱きかかえる。吐き気と涙を流しながら拓也はブリュンヒルドの温かさを感じていた。

「人の夢を叶えるのはこんなに辛いことなのか?」

 ――貧民・難民を救いたいと言う願いから生んだ救済天使ヒルキュア、
 ――事故・暴行から逃れたいと言う願いから生んだ追撃剣士ポリスリオン、
 ――子供を殺され、死刑を望む声から生んだ制裁戦士ジャッジメンテス――

 だが、一人の願いを叶える度にアンドロイドを生む能力は計り知れない。身体が軋む音が聞こえ、自分の命を削って生みだしている。千村の苦労を知らずに平気で私欲を生む住民たち。
 一人で二万人を救う。
 大それた偉業を成し遂げるのが先か、死ぬのが先か。
 答えはもう目に見えているのだった。

 ――カチッ、カチッ
 振り子時計の音が響く。新世界の生命である時の秒針が一瞬ブレた気がした。

[1]

 握出が珍しくスーツに着替える。鼻唄を鳴らしながらネクタイを締める。そこに一人の女性が入ってくる。赤い服に緑色の帽子が特徴的だった。無論、三姉妹ではない。握出の家に女性がいるだけで不思議な光景だった。

「握出様。本日の御予定ですが、新作グノー商品のお披露目会となっています」

 そう、今日は新世界で初の会社企業説明会。遂に新作グノー商品を面前にあらわす。元の世界でもやらなかった大胆な行為である。

「んん、どれも自信作ですからね。新世界でも大人気になっちゃうんじゃないですかね」
 
 企業説明会に出席するということは営業にとってなによりもプラスなことだ。企業が一堂に集まり、多くの見学者に説明できる最高の舞台だ。それに握出が足を運ぶこと。

 ――すなわち、エムシー販売店の復活である。

 千村拓也によって消された会社を遂に復活させる。握出は朝から心が躍っていた。

「社長がいつ帰ってきても大丈夫なように、立派に会社説明を果たしてきますよ」

 グノー商品を入れた鞄を持ち、靴を履くと、扉に手をかけた。

「いきますよ、正義の使者―デモンツールズ―。お客様が私たちを待っています」

 握出に言われて、救済天使ヒルキュア、追撃剣士ポリスリオン、制裁戦士ジャッジメンテスの三姉妹が顔を出す。三姉妹は不満顔をしても握出に従う。既にそこまで調教しているのだから、握出は三姉妹に顔を向けることをいちいちしなかった。それよりも握出は既に逸る気持ちを抑えられなかった。
 今日は皆で出掛けるお披露目会。握出は新世界でも新商品が売れる確証を持っていた。

[2]

 俺は警備員。本日のイベントである企業説明会に派遣された、いわゆる派遣社員だ。怪しい人がいないか、あと挙動不審人物がいないかなど、見回り循環が主な仕事だ。すると、とある場所で皆が唖然としていた。自分も駆けつけると一人の女性がいた。俺も皆と同じ顔をしていた。目を奪われたというより……やっぱり唖然としたという表現が正しいのだろう。
 彼女が綺麗だったのもある。十二単の着物を羽織っているのもあるかもしれないが、何より現代的じゃなかったからではないだろうか。……いや、廻りくどい言い方をしているのは申し訳ない。もっと別の明白な理由もあるのだが、それくらい自分の目を疑っているのだ。
 すると、先輩が訪れ、彼女に声をかけた。

「すみません」

 女性が振り向いた。

「なんじゃ?」

 喋り方もやはり現代的じゃない。今時こんな喋り方をする者はいない。まるで彼女が人間じゃないような気がした。狐が人に化けたかのような、そんな表現が正しい様な気がした。どうして俺がそんな常軌を逸した断言をするかと言うと――

「ここは、その……コミケじゃないので、狐耳や尻尾を生やした方はご遠慮ください」

 そう、女性は黄色い毛の生えたとんがった狐耳と、十二単の下からも、立派な狐尾をつけていたのだった。

「なんじゃと!!?このたわけが!!童は――な、なんじゃうぬら!!?やめ、やめろ!!」

 女性は警備員に捕まると暴れ出し、引っ張られるように外に追い出されてしまった。
 皆が呆然とするなか、彼女の声が遠くから会場を響き渡らせた。
 変なのが浮いている。今日の企業説明会は何か起こりそうな、そんな気がした。

[3]

 ……しかし、彼の言うとおり、会場では既にある事件が起きていたのである。プロデューサーとアシスタントが会場を走り回っていた。

「ハァ、ハァ……。おい、いたか?」
「い、いえ、いません」
「まいったな。もうすぐ時間だぞ」

 時計を確認する。スケジュール通りにいくと市長の話がはいっている。地方の新聞社やテレビ局がスタンバイしている中、会場を散歩しに行った市長が全く帰ってこないのだ。約束の時間はとうに過ぎている。プロデューサーが頭を掻く。

「それまでに市長を必ず探し出せ」
「もし、見つからなかったら……」
「スケジュールは前々から綿密に話し合っているんだ。普段通りやれば何事もない」
「はい」

 アシスタントが再び会場を走り消えていく。市長ともある方が約束をすっぽかすとは思えない。今日の工業メッセは何か起こりそうな、そんな気がした。

[4]

 外にあるイベントホールを借りての企業説明会。握出たち以外にも名のある企業が集まっていた。オリオン工業製人形『葉智―ハチ―』から、三業技術統合研究会が開発した人間さながらに踊る『HRP-4C夢見(ユメミ)』まで足を揃える、かなりレベルの高い会社説明会となっていた。当然、不況のご時世、多くの十代から三十代まで幅広い見学者たちや、カメラマン、マニア、研究者、学者が常時訪ねてきていた。
 珍しさ見たさを兼ねた場所だったから握出たち、新社エムシー販売店も顔を並べることができたと言える。コスプレに近い格好の三姉妹が警備員に止められず、中に入れただけでも良かった……だと言うのに、握出は、

「グノー商品はいかがですか?これを使えば忽ちみんな幸せになれますよ」
「理想郷の幸せを手に入れてみませんか?」

 ツキヒメとポリスリオンが看板娘としてグノー商品を推していた。舞台前の最高の場所に付け、正義の使者―デモンツールズ―という見世物は思惑通り人目につき、グノー商品の前で多くのお客が足を止める。その分だけ目の敵にされるはずなのに警備の邪魔や他社から苦情が入らないのはもちろん、握出がこの会場を既に支配しているからである。

「既にジャッジメンテスが『ディティアレンス』を配備しているのですよ。人の無意識が主査者の意向を支配すれば、私が何をしようと怒られないのです。ですよね、市長?」
 光の粒子―ディティアレンス―が人に語りかけ、催しは握出にやり易いように変わっていく。

「ああ、そうだ。思う存分にやりたまえ」
「ケケ、ありがとうございます」

 プロデューサーが必死に探している神保町の市長が握出の隣で一緒にモニターを見ていた。
 光の粒子はモニターに映らない。だが、会場に足を運ぶ者、会場を整備する者、会場で説明する者に呼びかけ、エムシー販売店の前で人だかりを作らせる。奥に潜む握出が見計らい、

「では実践販売開始でございます」

 ついに動き出す。奥から現れた握出の姿にお客も一瞬躊躇うが、握出はそんなこと気にしない。舞台の上にあがった瞬間ライトが握出を照らし、予定外のエムシー販売店のイベントショーが強行された。

[5]

「レディース&ジェントルメン!!私がグノー商品を取り扱うエムシー販売店営業課長握出紋と申します。これから皆さまを一夜のウタカタの夢へと誘って差し上げましょう」

 かなりハイテンションになっている握出が鞄の中から道具を取り出す。

「ではまず、グノー商品『手鏡』でございます。かつてエムシー販売店には『鏡』という商品があったのですが、その小型改良に成功した品でございます。何が変わったかというと……そうですね、では少し実践していただいた方がよろしいかと思います。ツキヒメ、こちらへ」

 ツキヒメを呼び舞台へ上げる。青いコスチューム、幼さの残るツキヒメが舞台にあがっただけで、カメラのシャッターが何故か切られた。

「いいですか。この手鏡で全身を映すことなど不可能です。映せるのは部分的だけです。しかし、部位を映せばグノー商品『手鏡』は記憶し、鏡に焼き付けます」

 握出がツキヒメの細くて白い右手手鏡に映す。すると鏡は光り、鏡にはツキヒメの右手が記憶されていた。手鏡をツキヒメから放しても右腕が映し続ける。
 次に握出が自分の右腕を手鏡に映す。

「そして焼き付けた部分と同じ場所を映すと!!!」

 手鏡が光ると握出の右腕も同じように光る。光が納まる。スーツを着ていると何も変わっていないように見えるが、指の先が明らかに細く、白く張りのある若い指に変わっていた。Yシャツをめくると、握出の腕は明らかに四十代男性の腕ではなく、十代女性の小さい可愛い腕になっていた。手鏡に映ったツキヒメと全く同じ右腕に変わってしまった。
 握出が右手を動かし、自分の腕であることをアピールする。

「御覧の通りです。彼女の右腕と全く同じになりました」

 おおおお、と観客は感嘆する。

「では、お客様いじりです。どうぞこちらへ」

 一人の男性を舞台に上げると、握出は颯爽とズボンを脱がした。右と左の力加減が違うせいか、ズボンが左右違った場所で止まった。だが、既に皆は男性の逸物に目が映っていた。面前で逸物を出すなどやっていいものではないが、握出はツキヒメの腕となった右手で皮の被っている逸物を触った。

「お客様の息子いじりです。どうですか?気持ち良いでしょう?」
「むはっ、凄いいい!!!」

 男性は女性独自の柔らかい手つきに声を張り上げた。男性のことは男性がよく知っているのに、擦っているのは女の子の手なら感じないはずがない。腕が違うだけでここまで感度が変わるのか、みるみる逸物がそそり立つ。

「それだけではないんですよ。手鏡にはリンク機能があるのです」

 握出が手鏡についているボッチを押す。すると、ツキヒメに変化が現れた。何もしていないのに右手が上下に動き始めたのだ。

「えっ!?ええっ??なに、これ?」

 左手で止めようとしても右手は自分の意志で止まらない。逆に右腕には硬くて熱い感覚も伝わってくる。

「ツキヒメの右腕に、おちんちんが触っている感覚があるのです。硬くて熱くなっているのが伝わっているのです。どうです?私を通じて彼女と繋がっているのがおわかりでしょう?」

 ツキヒメの右手だけが握出の動きに合わせて上下に動く。それだけなのに観客はチラ見をし、ツキヒメは恥ずかしくて顔を赤くする。握出がうまく丸めこめようとしているが、お客はプルプル震えだした。

「手間じゃないか?ボクは彼女と繋がりたいんだ!」

 お客が切れ出す。もっともである。手鏡はただ手間を増やしただけの商品。鏡に比べればマシかもしれないが、それでも一つの玩具にあることに変わりはない。お客様の意見にしっかり応えるのが営業―あくで―の仕事だ。

「あららっ?それは彼女の意志がどうかというですね」

 握出がツキヒメを見る。

「えっと、あはは……」

 ツキヒメはドキッとするが、男性とヤる気がないので笑ってごまかす。しかし、握出は即座に五枚の手鏡を持ってツキヒメの至る場所を映し、記憶させる。

 顔、喉、胸、腕、足、

 早業である。五枚映した鏡をそれぞれの部位に宛がうと、握出はツキヒメと寸分変わらない同じ姿に変身した。そしてツキヒメの表情で握出の笑みを浮かべた。

「いいよ。やってあげるね」

 声まで同じ。喉を映すと声帯まで変わるのか。いったいどんな技術を使っているのだろうか。握出(ツキヒメ)は気にせずに口の中に逸物を含む。

「れろれろ、むはっ、んっ、んっ、んんっ、んぱっ。どう?気持ち良い?」
「その笑顔……可愛いです」

 観客と楽しんでいる握出だが、当の本人は、

「あっ、口の中に……」

 握出は意地悪にも口だけリンク機能をオンにしていた。口の中に広がる苦い感覚をツキヒメにも味あわせる。
 握出(ツキヒメ)はブカブカになったワイシャツをはだけ小さい胸も曝け出すとパイズリを始めた。もちろん、口で先をいじめて感度は最高潮へ誘う。

「ん。んっ。どう?いきそう?」
「うん、いく。イク!イクイクイク」
「やめ――」

 ツキヒメが何かを言おうとするが、お客は握出(ツキヒメ)の中に精子を出す。

「ん――ん、んん」
(気持ち悪い……)

 ツキヒメが口に手を覆って吐き気を抑える。それを知ってか、

「全部呑んであげるね。コク、コク、コク……」

 握出(ツキヒメ)は全体に絡めてるように飲み干す。ツキヒメも口の中全体に苦さが広がり、一旦席を外してしまう。

「んっ、おいしい」

 握出(ツキヒメ)は全部飲み干すと一度涎を拭いた。

「如何でしたか?これがグノー商品『手鏡』です。部分的ですので、合わせれば好きな娘の部位を映して理想的な彼女を作ることも可能です!小型化した新商品、今なら5枚セットにしてお値段据え置き59,900円です!!」

 ツキヒメの声にしても喋り方が握出だと違和感がある。そんなことお客様には関係なく、

「おおおおおおおお!!!!!!」

 既にお客はグノー商品の虜になってしまったかのように釘づけになっていた。次の商品に期待しているのが目に見えたのだ。握出は姿を元に戻すと、次の商品を取り出した。

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 続いて握出が出したのは、なんの変哲もない灰色の石だった。大きさは拳で包み込める程度。古川に落ちてそうな、そしてどこにでもありそうな、なんの変哲もない石だった。

「次の商品はグノー商品『石』です。人の脳って実は30%しか使わないそうですね。実に7割は使わない部分に『石』はできるのです。あなたも気をつけないと、そこに『石』ができるかもしれませんよ?ちなみにこの石は、会場に訪れる直前に失敬したポリスリオンの『石』です。これを握っていれば、本人の意向に関係なく好きなことをさせることが可能です。あなたの思うがままです。それが、本人の意志なのです」

 『ガハハ』と観客が笑う。ポリスリオンが急に自分の名前を言われ驚きながらも、また握出が勝手にポリスリオンの『石』を作っていた事に頭に来て勝手に舞台に上がってくる。

「なに、今の親父ギャク!滑ってるわよ」
「ぬああああ!!!娘にそんなこと言われるなんて私、傷ついちゃいました。もう、死んじゃおうかな……親、自虐……」
「親じゃないでしょう!!!!」

 がっくり肩を落とす握出はポリスリオンに見えないようにお客にポリスリオンの『石』を手渡す。

「分かりましたよ。もう二度と親自虐は言いません!」
「漢字間違っているわよ!!!…………ハァ、こんな親を持つなんて悲しくなってきた。私も死んじゃおうかなあ」
「おやっ、自虐ですか?――あああああ、言っちゃった!!!」
「コントはもうこのぐらいで良いでしょう!」
「コント!?コントだったんですかあ!!!」

 いつまでも高い握出のテンション、ポリスリオン溜息をつきながらもうっすら微笑んでしまった。

「あんたいつまでテンション高いのよ!もう、私が力づくで収めてあげないといけないみたいね」

 握出に近づき、握出の元まで寄ると、そのまま優しくギュッと握出に抱きついたのだ。上下に身体を擦り、摩擦で会場を温めているかのようだ。

「ほえっ?なにをしてるんです?」
「なにって、身体を寄せて胸を宛がって、マスターのおちんぽを擦ってあげているんじゃない」

 自分のしていることを認知しているかのようにしれっと話す。実際知っているのだけれども、きっと状況は分かっていないのだろう。

「あなたそんなキャラだったっけ?」
「うるさい!今日は、なんかそんなことをしたい気分なのよ」

 コスコスと握出のスーツとポリスリオンのコスチュームの擦れる音が耳に響く。握出の逸物にスーツの上から触り続けると、膨らんでいくのが見て分かった。

「カンナビの気持ちが近くなってくるんじゃないです?ああ、気持ち良い」
「あんたのせいで良い迷惑よ!あいつの気持ちなんて分かりたくない!」

 十分擦った後で ズボンを下げて握出の逸物を直に触る。熱くて硬い握出の逸物をポリスリオンが擦る度にビクン、ビクンとそそり立ち、反応を見せて笑みを見せる。

「なに、あんた、出してほしいの?変態ね」
「ごもごもごもごも、ごもっとも!!あああああああ!!!」

 ポリスリオンが口に咥える。握出は空を向いて喘いだ。握出をやっつけたような声にポリスリオンは頬を染めて笑ってしまう。

「ふふふ。……ん、ん」

 フェラチオをしながら、空いている手は握出の玉をいじり続ける。握出はポリスリオンが思った以上の調教成果を見せているのに驚いていた。

「ああああああ……ふふっ、はむっ、んっ、んんっ、んんんっ、んっ」

 舌でカリを舐め再び咥えこむとポリスリオンは更にスピードを上げた。ポリスリオンは間違いなく握出を一度口の中で逝かせるつもりだ。

 ――その意志はポリスリオンの意志ではない。ポリスリオンの『石』を持つお客が見たいと思う願望を、ポリスリオンが自分の意志と勘違いしているにすぎない。

(これは危ない。今のまま吐き出したら、ポリスリオンに負けた気になってしまう……なんとなく)

 だから握出はお客を呼んで手に持った『石』を弾き飛ばす。転がる石は床に転がっていく。

「ん…………んんん!!!!?」

 突如、あれほど悦んでいたポリスリオンのストロークがピタッと止まった。そして今、ポリスリオンが握出の逸物をしゃぶっている状況を見て驚いていた。

(なに、なんで私、こんなことしてるの?)

 慌てて吐き出そうとしたが、握出は躊躇している一瞬を逃がさず、ポリスリオンの頭をがっちり持つと、再び頭を前後に振り始めた。

(気持ち悪い!は、放して)

 立場は逆転している。ポリスリオンの口から長い涎が垂れ落ちた。

「いやあ、ポリスリオンが珍しく積極的になってくれたおかげでもういきます。たっぷり味わってください」

 既に出来上がっていた握出はポリスリオンが逃げる暇なく吐き出した。

「ぶおっ!……ごっ、ふっ」

 吐き出された握出の精子は口内全体に飛び散り、ポリスリオンに苦味だけが伝わっていく。逸物を取り出してもポリスリオンは固まったままだったせいで、少しだけ唇の端から垂れ落ちてしまった。信じられないと言う表情を浮かべたポリスリオンの表情だったが、目を閉じ、ゆっくり口を閉じると、諦めたように口内に着いた精子を舌で舐めて掃除していく。

「んんん。ん、んん……」

 モゴモゴと動く口の中。「ぱあ」と口を開いたあと、

「美味しかったぁ」

 と、目をトロンとしながら呟いたポリスリオンは、再びお客に『石』を奪われていたのだった。

[7]

「はい、ありがとうございました、ポリスリオン。では、さがりなさい。お客様ありがとうございました。タイミングと言い使い所ばっちしでした。私だけ楽しんでしまってすみませんでした」

 『石』を回収した握出は、お客からのバッシングも一緒に受ける。主査側にいながら楽しんでしまっては取り残されたお客様に失礼千万である。

「そうだぞ!」
「コレをどうしてくれるんだ!」
「次を期待してるぞ!」

 一部苦情なのか応援なのか分からない声援もあったが、握出の用意した商品は残り一品になってしまったのだ。

「では名残惜しいですが今回最後のご紹介でございます!こちら『たゆたう快楽の調味料―エクスポートレーション―』を改良して作りました、グノー商品『目薬』でございます。これを差した相手はもちろん、差した相手を見た異性ももちろん魅了されるのです。いいですか?ジャッジメンテス」
「っ!」

 会場に一度も姿を見せなかったジャッジメンテスが舞台に上がってくる。何故か目隠しをされた状態で、裸になり、高揚した表情で握出の用意した椅子に座った。

「いま、彼女は『目薬』を差した状態でございます。目隠しを取った瞬間、皆さまにウタカタの夢をご提供いたしましょう」

 握出が目隠しを取る。ジャッジメンテスの目を観客は固唾を呑んで見守る。
 誰よりも先に楽しみたい。そんな思惑が交差する瞬間、誰かの喉がゴクリと鳴った。

「――では、いってらっしゃい」

 ジャッジメンテスから目隠しが取られ、ゆっくり目が開く。

――ピンッ

 ジャッジメンテスの目を見た者、モニターを通した者、テレビ中継を見た者までジャッジメンテスが狂ったように愛おしく見えてくる。ジャッジメンテスに見られた瞬間、背筋を伸ばし、雷が落ちたように心臓が高鳴る。一目惚れ。忘れていた感情にお客は回春してしまう。――是れ、人は恋と呼ぶ。
 ジャッジメンテスは会場全体を見渡すと、優しく微笑んだ。

「みなさん……私、もう我慢できないんです。熱いの。目に見えるものすべてが、気持ち良いんです」

 ジャッジメンテスもまた狂ったようにオナニーを始めた。彼女にしてみれば目に触る空気すら快感になってしまっている。見えてしまうもの全て快楽の対象になっている。

(本製品版はもう少し『たゆたう快楽の調味料―エクスポートレーション―』の量を考慮しなければいけないかもしれませんね……)

 製品版は念には念を入れないと火種にされてしまうから気をつけなければなりません。

(……でも、今の状況はもう止まりませんけどね)

 握出が笑う。観客が遂にジャッジメンテスに押し掛ける。オナニーをする横でおちんぽを擦り、今にもぶっかけようとしていた。ジャッジメンテスも右手をすっとおまんこに宛がうと、くぱぁと開いてサーモンピンクのヒダを前面に押しあけた。

「いいです。触ってください。私も我慢できないの。私のおまんこに挿れてえぇぇ」

 ジャッジメンテスから了承が出たらもう観客は止まらない。いきり立った逸物をおまんこやアナルに突っ込み、またジャッジメンテスも滾った逸物を両手で擦る。ジャッジメンテスの口に逸物を咥えさえ、また、或る者はパイズリをして発射をする。

「ああ、あつい。気持ち良いです。もっとかけて!私を染めさせて!」

 次々に発射される逸物の数々。ジャッジメンテスは全身に精子をかけられて大満足に微笑んでいた。

(前回の凌辱から察して、どうやらジャッジメンテスは元々一人じゃ淋しい体質だったのかもしれませんね。3Pより4P、4Pより10Pの方が好きだと思ってメインイベントに持ってこさせましたが、どうやら大成功だったようです。私の人選は間違ってなかった)

 舞台の上で握出は会場を見回した。説明会が始まった時、誰が現状を予測できただろうか。
 エムシー販売社の企業説明が終わる。でも、イベントは終わらない。正義の使者へ群がる集。これが新世界の望んでいることなら、握出の戻りたい世界はグッと近くなる。何も変わらない、不変の法則。人は簡単に変わらない。だからこそ新世界など愚の骨頂。千村拓也の望む世界など叶わないというなによりの証明。
 握出は高らかに宣言する。これは誓いであり、旧世界を望む人への救いの約束である。

「これがグノー商品!新世界を救済する道具です。誰が新世界を望みました?誰が救済を求めました?昔の方が楽しいのは当たり前なのです。未来の不安を考えるより、過去の栄光に縋りつき、過去から学んだ世界を未来に託すべきなのです。全てを壊し、過去の英人が建てた柱をぶっ壊してなにが新世界です!?一から作り直した結果が不安定な新世界なのです!!――旧世界を望むのです。もう一度世界を元に戻すのです!!それができるのが、『絶対の王―ガストラドゥーダ―』だけなのですから!!」

[8]

 舞台の上で熱弁する握出。一瞬昇天したのかと思うくらい快感が押し寄せる。白い光に浴びせられ、何処からか声が聞こえてきた。

「汝、其れを望むか?」

 声の赴くままに握出は答える。

「我が求めるは只一つ」
「よかろう。童が其れを叶えよう」

 光の奥に塔が現れ、まるで握出を誘うように道が出来る。

「キャキャキャ!!そうですか!!それは良い!!」

 握出は歩き出す。塔の中に入り、新世界から脱出するのだ。

 ――さらば、新世界!私は帰るのだ!

[エピローグ]

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 握出が消えた新世界。これで真の平和が訪れた。
 グノーグレイヴが消えた青天の霹靂―aboltoutofthesky―。
 イベントホールの外に突如現れた搭。そこに佇む一人の女性。十二単を纏った、狐の耳と九尾を持つ気品漂う女性がつぶやく。

「さらば、上級悪魔。汝の命、童が冥界へ運んでやろう」

 狐孤魔術師―フォックステイル―が遂に握出紋に裁きを下した。

< 続く >

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