ヒミツの購買部3 風花と優月

 どーもはじめまして!
 あたしはこの私立沙羅の樹女学園高等部2年D組の宇多川風花(うだがわ ふうか)です!

 って、そんな名前の学校聞いたことないですって?
 そんなバカな……このシリーズも3作目だし、学校の名前が出てないわけないじゃない!
 そんなの前作前々作を見てみれば……………………って、ない……本当にない!
 なんなのよこれは!? 作者の怠慢だわ!

 ……ま、まあそんなことはどうでもいいのよ。
 とにかくあたしはこの沙羅の樹女学園高等部2年の宇多川風花、写真部のエースなの!
 この間だって県の写真コンクールで入選したんだから。
 あのコンクールでうちから優秀賞を含めて3人も入選者が出たのはこの学校史上初の快挙なのよ!
 あ、優秀賞を取ったのは部長の鳥山雪乃(とりやま ゆきの)先輩なんだけどね。
 で、この雪乃先輩がとっても素敵な人なのよ~。
 写真の技術やセンスがいいのはもちろんなんだけど、姉御肌で頼りがいがあって、そのうえ細めの顔に切れ長の目がクールでかっこいい美人で、しかも身長が高くて長い髪を靡かせて颯爽と歩く姿は被写体としてもずば抜けているの。

 実は、雪乃先輩はあたしが密かに思いを寄せている相手だったりする。
 ……って、きゃっ! 言っちゃった!
 でも、雪乃先輩はそれくらい素敵で、あたしのあこがれの人で、こうやって部室で座ってる姿を眺めてるだけで胸がドキドキしちゃうのよね。

 さてと、では……。

「部長! 今度の学内写真展に出そうかと思ってる作品を見ていただけますか!?」
「お、もう撮れたのか?」
「はい!」
「あっ! 部長! 私のも見てください!」
「お、おう……」
「ちょっと! 優月ったら邪魔しないでよね! あたしが先に見てもらおうとしてたんだから!」
「なに言ってんのよ! 風花こそ抜け駆けしようたって、そうはいかないんだからね!」

 今、急に割り込んできたのは四十万優月(しじま ゆづき)。
 クラスは違うけど同じ2年生で、県のコンクールで入選したもうひとり。
 なにかというとあたしに張り合ってくるし、たぶん優月も雪乃先輩のことを狙ってる。
 あたしにとってはとにかく邪魔なやつなの。
 というわけで、優月のことは無視していいから。

「おまえら、いつも仲いいよな」
「「よくありません!」」

 やだもう、雪乃先輩への答えが期せずしてハモっちゃったじゃないの。

 え? なに?
 雪乃先輩ったら苦笑いを浮かべてあたしたちの顔を見比べてるけど……。
 でも、本当にあたしと優月は仲なんてよくないんだから!
 だって優月はあたしの写真のライバルで恋のライバルなんだもん!

「いや……ホントにおまえらって仲がいいな」
「「だからよくありません!」」

 やだ、またハモっちゃった。

 ああもう、雪乃先輩がクスクス笑ってるじゃないの。
 あ、でも、あたしたちの見せた写真を見ながら笑ってるみたいだけど。

「いや、仲いいよ。だってほら、おまえらの撮ってきた写真を見てみろって」
「「……あっ!」」

 雪乃先輩が見せた優月の写真を見て、あたしは思わず大きな声をあげていた。
 それは優月も同じ。
 あたしが撮った写真を見て目を丸くしている。

 だって、あたしと優月は同じナツツバキの樹を写真に収めていたんだから。

 うちの学校の敷地はかなり広くて、校舎裏にはちょっとした林の中を縫うような遊歩道があったりする。
 まさに自然溢れるといった趣のその一角の、少し開けた場所にナツツバキの樹が数本あった。
 誰かが植えたものなのか自然に生えたものなのかはわからないけど、そのうちの1本は高さが10mを超える立派な大木だった。
 ナツツバキは、熱帯性で日本では大きく育ちにくい沙羅双樹の代わりに沙羅の樹と呼ばれてるから、このナツツバキはまさに沙羅の樹女学園のシンボルと言ってよかった。

 ちょうど今の季節、6月に白くてきれいな花を咲かせる木で、写真展に出す写真を撮るために遊歩道を散策していたあたしの目にとまったんだけど……。

 あたしの写真はちょうど雨上がりの晴れ間に、瑞々しい新緑の間に散らばる白い花をバックに柔らかな木洩れ日の射した瞬間を撮ったものだ。
 葉っぱや花に付いた水滴が宝石のように輝いていて、我ながらいい写真が撮れたと思ったんだけど……。

 一方の優月の写真は夕暮れ時の、空が鮮やかなオレンジから濃い紫へと変わろうとする瞬間を撮っていた。
 なんとも言えない深い色合いの空を背景に影絵のように浮かび上がるナツツバキの樹。
 そこにポツポツと白い花の輪郭が浮かび上がっている、幻想的な光景を切り取っていた。

 悪くない……というか、悔しいけどすごくきれいな写真だと思う。

「まあ、今はちょうどナツツバキの花がきれいに咲く時期だし、それを被写体にするのは誰もが考えつきそうなことだよね」

 あたしたちの写真を手に、雪乃先輩が解説を始める。

「そんなときはひとつの花を接写して強調したくなるもんだけど、それじゃ芸がない。で、ふたりはそうじゃないよな。少し離れたところから花だけじゃなくて樹としての姿を、しかもその刹那にしか見せない表情を撮ってるだろ。アングルや構図は違うけど同じ樹を被写体に選んで、しかも樹としての全体像をとらえつつその瞬間だけの姿を逃さずに写真に収めてる。おまえたちって、写真に対するそういう姿勢が似てるんだよ」
「「う~……」」
「……って、ふたりともなに難しい顔してるんだ?」

 それは難しい顔にもなるよ。
 ナツツバキの樹がかぶってただけでも面白くないのに、写真に対する姿勢が似てるって言われても嬉しくないよ。

「やっぱりあたし、この写真やめときます。……これよりももっといい写真撮ってきますね!」
「私も別なのを撮りに行ってきます!」
「おいおい、おまえら?」

 愛用のカメラを手にあたしが立ち上がると、優月もカメラを持って部室を出ていく。

 もう、どこまで張り合うつもりなの!?
 あたしだって負けないわよ。
 雪乃先輩を唸らせる写真を撮ってみせるんだから!

♪  ♪  ♪

「そうは言っても、どうしようかなぁ……」

 大見得を切って出てきたのはいいけど、あの写真はけっこう自信があったんだよね。

 あの後、カメラを手にしたまま遊歩道を歩いていた。
 これという当てもない状況で、たまたまいい写真を撮るチャンスはそうは巡ってこないってことはあたしだってわかってた。
 そんな幸運は滅多にない。
 だいいちさっき雪乃先輩に見せた写真だって花の咲き始めの頃から目をつけていて、これっていうタイミングを逃すまいと何度も通ったからこそあの瞬間を撮れたんだから。

 それはきっと優月も同じ。
 彼女はたぶん夕暮れ時の、空の色が移り変わる瞬間を撮ろうとしてあの時間帯にあの場所を何度も訪れて写真を撮ったんだろう。
 そして、あの写真が最も色のグラデーションがきれいなベストショットだったはずだ。
 そこまでしてその一瞬の写真にこだわる姿勢は、あたしにも痛いほどわかる。
 だからこそ、あの子には負けたくないと思う。

「でも、ホントにどうしよう…………あら? あれって……?」

 遊歩道から少し入ったところの木立の間を歩くふたり。
 あれって、たしか3年の斉藤先輩と結城先輩だよね?

 斉藤琴乃と結城和音の両先輩はこの学園ではかなりの有名人だ。
 なにしろ中等部の頃から成績はトップクラスで、高等部に入ってからはかなり高いレベルで1位争いを繰り広げている。
 たしか、この間発表された1学期の中間試験ではふたりが並んで1位だったはずだ。
 しかも、ふたりともものすごい美人で下級生からの人気も高い。

 そんなふたりが、こんな人目につかないところでなにをしてるのかしら?

 野次馬根性というか、ついつい気になってしまって木陰に身を潜めて様子を窺ってみる。

 ……ええええっ!?

 ケヤキの大木の下で結城先輩が斉藤先輩にキスしてる!?
 しかも結城先輩の手が、ブラウスの上から斉藤先輩のおおおっ、おっぱいを揉んでる!?

 結城先輩が斉藤先輩の体をケヤキの幹に押しつけるように密着して、すっごく濃密な口づけを交わしていた。
 斉藤先輩も嫌がる素振りも見せず、むしろ結城先輩の首に自分から腕を絡めている。

 ふえええぇ……あのふたりってそういう関係だったんだ……。
 これはすごいニュースかもしれないわ……。
 ……って、違う違う!
 あたしは写真展に出す作品を撮りに来たんであって、ゴシップ写真を撮りに来たんじゃないの!
 そんなのは新聞部の子に任せてたらいいんだわ。

 ……でも、あのふたりまだキスしてる。
 あんなに長い時間、ずっと抱き合って。
 やだ、見てるあたしの顔が熱くなってきちゃう。

 両先輩の姿を見ているうちになんだか気恥ずかしくなって、ふたりに見つからないようにそそくさとその場を離れる。

「ふええぇ……すごかったなぁ、さっきの……」

 改めて遊歩道を歩きながら、あたしはまだ興奮していた。

 ……あたしも雪乃先輩と恋人同士になれたら、あんなことできるのかな?
 そのときは雪乃先輩にリードして欲しいな……。

 そんな妄想が膨らんで、また顔が熱くなるのを感じる。

「あら? ……あれって?」

 妄想に耽りながら遊歩道を歩いていた足が思わず止まった。
 今度は先輩カップルのラブシーンを見つけたからじゃない。
 そうじゃなくて、あたしの視線の先にある古い洋館。
 この建物は、晩年をここで過ごした学園の創設者の名前にちなんでレイチェル館って呼ばれてる。
 学園ができて間もない頃からある古い建物で、木造の五角形をした珍しい造りなので今は市の文化財に指定されている。
 だからもちろん、その中に入ったことはない。
 どこか不思議で、でも優雅な外観は好きで、外からは何度か写真を撮ったことはあるけど。

 そのレイチェル館の、五角形の頂点の部屋にある窓から灯りが漏れていた。

「……誰かいるのかな?」

 レイチェル館は普段は鍵が掛かっていて中には入れない。
 見学することは可能だけど、指定文化財だから許可を得なくちゃいけなくて大変らしい。
 雪乃先輩がまだ1年生だった頃、写真部の企画でレイチェル館の中を撮影したことがあったらしくて、いろいろと面倒だったって話だけは聞いたことがあった。

 誰か見学してるのかな?
 もしかして、今なら中に入れるかも……。
 見つかったら怒られちゃうかな?
 でも、見てみたい。

 写真部にある、2年前に撮影した写真は見たことがあるけどやっぱりこの目で直接中を見てみたい。
 その好奇心を抑えきれずに、ドアノブに手をかけた。

 すると、思っていたよりも滑らかな動きでノブが回転したかと思うと、少し軋んだ音を立ててドアが開く。

 ドアの向こうに、人がいる気配はない。
 見つかったらどうしようとは思いながらも、あたしは建物の中に入っていた。

「……へえぇ」

 そこは小さな部屋になっていたけど、玄関と呼ぶには少しおかしな感じだった。
 だって普通の家なら玄関は長方形や正方形のはずなのに、そこは台形の空間だった。
 入ってきたドアがあるのが一方の底辺で、ちょうど正面に、もう一方の底辺にドアがひとつある。
 そしてこの部屋は、正面のドアのある方向に向かってだんだん狭まっていく、きれいな等脚台形をしていた。

「中は思っていたよりも地味なんだぁ……」

 興味津々で天上や壁を見回す。
 内装は思っていたよりも質素な感じで、天井から下がっているシャンデリアもシンプルだった。
 この部屋のシャンデリアは灯りが点いてないし、入ってきたドア以外に明かりの入り口がなくて薄暗い。

「でも、なんでこんな形なんだろう?」

 建物全体の形が五角形だからなのか、それはわからない。
 あ、でも、向こうのドアを開けたら理由がわかるかも。
 そう思って、正面のドアを開ける。

「ふえぇ……」

 ドアを開けた先は、今度は六角形のホールになっていた。
 この部屋は天井がなくて、屋根裏に付いた明かりとりの窓から日の光が射し込んでいる。
 高さがあるので、すごく広く感じる。
 そして、あたしが入ってきたのも含めた、6面あるそれぞれの壁にドアがひとつずつ付いていた。

「五角形の建物の中に六角形の部屋かぁ……なんか不思議……」

 外から見たら五角形のレイチェル館の中に、こんな広さの六角形の広間があるなんてちょっとした不思議空間みたい。
 で、それぞれにドアがあるってことはその向こうに部屋があるってことだよね?
 さっきの玄関はきれいな台形だったけど、他の部屋はどうなってるんだろう?

 ……ううう、考えると頭が痛くなってきた。

 と、とにかく、さっき灯りが見えたのは五角形の頂点の部屋だよね?
 玄関があったのが五角形の底辺に当たる場所だから、正面のドアがその部屋かな?

 明かりが点いているってことは、人がいるってことだよね?
 見つかったら怒られるかな?
 でも、やっぱり気になるよ……。

 あたしが勝手に入ったのがバレて怒られるかもって不安はあるけど、それ以上に好奇心の方が勝っていた。
 だから、正面のドアまで進むとおそるおそるノブに手をかける。

「えええっ?」

 ドアの先は、五角形をした部屋だった。
 天井から下がったシャンデリアの明かりが、部屋の中を照らしている。
 で、部屋の真ん中には大きなテーブルと、壁には棚が並んでいる。
 テーブルにも棚にも、文房具や事務用品、ジュースにちょっとしたお菓子が所狭しと並べられていた。

 ……これって、どう見ても売店っぽいよね?

 うちの購買部は、正門を入ってすぐのところにちゃんとある。
 でも、ここも同じような感じだった。
 ただ、購買部よりも物が雑多に置いてあってごちゃごちゃしてるけど。

「おや、いらっしゃい」
「ひゃあっ!?」

 いきなり声をかけられて、思わず飛び上がってしまった。

 声のした方を見ると、真っ白な髪のお婆さんが椅子に座ってこっちを見ていた。
 ていうか今、いらっしゃいって言ったよね?

「あの……ここは?」
「購買部じゃよ」

 そう言って、お婆さんはクックッ……って楽しそうに笑う。
 でも、学校の購買部はここじゃないし、だいいち……。

「購買部って……でも、この建物は普段は入れないんじゃないんですか?」
「そうらしいの。でもお嬢ちゃんは入って来れた」

 いや、それって質問の答えになってないじゃん。

「だって、普段は鍵が掛かってるはずだし、購買部だってちゃんと正門の横に」
「いやいや、こっちの方が購買部としての歴史は古いんじゃぞ。ただ、誰でも入れるというわけではないだけじゃ」
「……ふえっ?」

 誰もが入れるわけじゃないって、どういうこと?
 言ってることの意味がわからなくて面食らっていると、お婆さんはさらに話を続けた。

「心から手に入れたいものがある人間しかここには入ることはできん。お嬢ちゃんは手に入れたいと思っているものがあるんじゃろう?」
「手に入れたい……もの……」

 お婆さんの言葉を聞いた瞬間に雪乃先輩のことが頭に浮かんだ。

 私が手に入れたいものは雪乃先輩……ううん、雪乃先輩の気持ち。
 雪乃先輩にあたしのことを好きになって欲しい。

 だけど、それは購買部なんかじゃ手に入らない。

「ふむ、やはり欲しいものがあるようじゃの。まあ、ゆっくり見ていくがよい。きっとお嬢ちゃんに必要なものがあるはずじゃから」

 このお婆さん、なに言ってるの?

 戸惑いを隠せないあたしを眺めて、お婆さんはまたクックックッと笑う。

 あれ……このお婆さんの瞳、少し青みがかかってる?
 鼻もすごく高くて、まるでおとぎ話の魔法使いみたい。
 もしかして、外国の人なのかしら?
 それに、白髪で顔も皺だらけなのにこっちを見つめる視線が力強い。
 とてもじゃないけどお年寄りの目と思えないくらい輝いてる。

 改めて、部屋の中を見回してみた。

 棚もテーブルも、どれも年季の入った古そうなものばかり。
 大きめの窓から、外の景色が見える。
 だけど窓から射し込む日光はそれほどでもなくて、天井のシャンデリアが照らしてるみたい。
 ……あれ?
 あのシャンデリア、電気っぽくない。
 そもそも、この建物って電気が通ってるのかしら?
 でも、なんか不思議な灯り。
 もちろんロウソクじゃないし、ガスっぽくもない……。
 それに、テーブルに並ぶ文房具やお菓子もよく見たら知ってるメーカーのものじゃない。
 どれもこれも横文字が書いてあるし、これ、英語じゃない……。

 本当にここは不思議な空間のような気がした。
 まるで、別世界に紛れ込んだように。

「……ん? あれって?」

 テーブルの上に並べられたものの中に、明らかに異質なものを見つけた。
 文房具でも事務用品でもなくて、でも絶対にあたしの目にとまるもの。
 それは、古びたインスタントカメラだった。

 思わず、それを手に取ってみる。

「あれ? これ、ポラロイド製じゃない……」

 撮影してから数分で自動的に現像される専用のフィルムを使うインスタントカメラは、最初に商品化して長い間その特許を独占していたアメリカの会社の名前をとってポラロイドカメラとも呼ばれている。
 もっとも現在ではデジカメが普及して、撮影したものを手軽に画像にすることができるからこの手のインスタントカメラはすっかり廃れてしまった。
 あたしも、普段は愛用のデジカメと一眼レフを状況で使い分けてる。
 ただ、うちの学園には地元のコレクターから寄贈された古いカメラのコレクションがあって、写真部が年に一度そのコレクションの手入れをすることになっている。
 去年そのコレクションを手入れしたときにポラロイド社製の古いインスタントカメラをいくつも見たし、雪乃先輩や先代の部長から古いカメラについてのいろんな話を聞くことができた。
 だからわかるんだけど、これくらい古いインスタントカメラはポラロイド社製のはずなのにそれを示すロゴがない。
 その代わりに、”Tituba”っていうロゴみたいなものが入っている。
 でも、そんなメーカーはあたしの知識にはない。
 だいいち、何語なのかもわからない。

「なるほど、それがお嬢ちゃんに必要なものなんじゃな」
「えっ? 必要なものって?」
「お嬢ちゃんが欲しいと思っているものを手に入れるために必要じゃから、そのカメラを手に取ることができたんじゃよ」

 インスタントカメラを手に首を傾げていたら、お婆さんがまた不思議なことを言い出した。

 いや、でもこれはあたしが写真部でこういうのに興味があったからたまたま手にしただけだし。
 だって、こんな古いインスタントカメラが購買部にあったら目につくに決まってるじゃないの。
 それに、あたしが欲しいものは雪乃先輩の気持ち。
 それを手に入れるためにこのカメラが必要だなんて意味わからない。
 まさかこれをプレゼントしたら雪乃先輩がすごく喜んで、あたしのことを好きになってくれるとか?
 ……そんなことあるわけないわよね。

 たぶん、そのときのあたしはお婆さんの言ったことが信じられないって顔をしてたんだと思う。
 だけど、お婆さんの口から続けて出てきた言葉はもっと信じられないものだった。

「なにしろ、それは魔法のカメラなんじゃからな」
「まっ、魔法の……カメラ?」
「そうじゃ。そのカメラで相手の姿を撮ると、その相手は撮影者のことを好きになる魔法のカメラじゃ」
「いやいや、そんな、冗談ですよね?」
「冗談などではない。本当のことじゃ」
「だって、魔法なんて、そんな……」

 魔法自体がとてもじゃないけど信じられないのに、魔法とカメラっていうのが結びついてるのに違和感を感じる。

「いやいや、ゆめゆめ疑うことなかれじゃよ。魔法とか奇跡とか、常ならざる力はたしかに存在しているのじゃ」
「そんな……」
「本当じゃよ。その、常ならざる力がそのカメラには宿っておるんじゃ」

 そう言うと、お婆さんが力強い視線であたしを見つめる。
 まるで、反論は許さないと言っているみたいに。
 その目力に、あたしは圧倒されてしまった。

「本当に……本当にそのカメラで撮影した相手があたしのことを好きになってくれるんですか?」
「もちろんじゃとも。ただし、フィルムは1枚だけの一発勝負じゃ。その代わり、いったん写真を撮ったら後はフィルムを破っても焼いても相手の感情はずっと変わることはないぞ」

 それって、雪乃先輩の気持ちをずっとあたしのものにできるってこと?

 もしお婆さんの言ってることが本当だったとしても、そんなことしちゃいけないって思う自分がいた。
 だけど、それ以上に雪乃先輩の気持ちが欲しいって、雪乃先輩にあたしのことを好きになって欲しいっておもう気持ちの方が大きかった。

 あっ、でもっ!

「あの……このカメラっておいくらなんですか?」
「うむ、2160円じゃ」
「にっ、にせんひゃくろくじゅうえん!?」

 それって、2000円に消費税!?
 いや、だってこんなに年代物のカメラだったら普通に数万円、いや数十万円くらいしてもおかしないわよ!
 そのうえ、これって魔法のカメラなんでしょ?
 あたしだってカメラに関してはマニアだからそのくらいわかるもん。
 だいいち、デジカメの望遠レンズや接写レンズだって新品だったら普通に万単位でお金が飛んでいくのよ。
 そんなの高校生じゃなかなか手が出せないから、あたしの使ってるレンズなんかなじみのお店で買った中古の掘り出し物とお父さんからもらったお下がりなのに。

「あのー、これってすごい魔法のカメラなんですよね?」
「そうじゃ」
「それにしては、安すぎじゃないですか?」
「ここは購買部じゃからな。学生が買える値段でしか売らんぞ」

 いやいやいや、その理屈よくわからないんですけど。

「どうした? 買うのか? 買わんのか?」
「……あ、買います」

 もう、完全にお婆さんに気圧されて、財布の中を確認しながらそう答えてしまっていた。

「2160円ですよね……これでいいんですか?」
「うむ、たしかに。ではそのカメラと、ほれ、そこにフィルムが1枚あるじゃろ。それを持っていくがいい」
「あ、はい……」

 お婆さんに言われて、テーブルの上の、カメラがあったところに置いてあったフィルムを手にする。

 ……あれ?

 何気なくテーブルの上を見て、気になったことがひとつ。
 このテーブルにはぎっしりと物が置いてあるっていうのに、どうしてこのカメラが置いてあるところだけこんなにスペースが空いてるんだろう?

「どうしたのじゃ?」
「あっ、いえ、なんでもありません」

 そうよね、そんなに気にすることでもないわよね。

「そうか。まあ、もう会うこともないじゃろうが、欲しいものをうまく手に入れるんじゃぞ」
「……はい。失礼します」

 お婆さんの最後の挨拶もなんか変な感じだけど、もうすっかりそのペースに乗せられていたあたしはペコリと頭を下げる。
 そして、レイチェル館の中の不思議な購買部を後にしたのだった。

♪  ♪  ♪

「ホントに、これってどこのメーカーなんだろう?」

 レイチェル館を出て、遊歩道を校舎の方に戻りながらずっとそのカメラを眺めていた。
 でも、いくら見ても答えは出ない。
 いちおうオートマチックになってるみたいだから、インスタントカメラができたばかりの時代のものじゃないっぽいけど。
 でも、その時期でもインスタントカメラは完全にポラロイド社の独占だったはずなのに。
 それに、あの不思議な購買部のお婆さん。

「……まさか、あのお婆さんってレイチェル・オズボーン?」

 そんなはずないって思ってるのに、ついついそんな思いが口をついて出た。

 だいいち、それじゃ色んな計算が合わない。
 レイチェル館の主で、この学園の創設者のレイチェル・オズボーンは明治の終わりの頃の人だ。
 ポラロイド社がインスタントカメラを商品化したのは戦後、1940年代の終わり頃。
 彼女がインスタントカメラを見たことはないはずだ。
 そもそも、レイチェル・オズボーンが現代まで生きてることがあり得ない。

 そんなことを考えていると、向こうを歩く人影が視界に飛び込んできた。

 あれは……雪乃先輩だ!
 きっと、これから帰るところなんだわ。

 鞄を手に正門のある方向に歩いている雪乃先輩の姿を見つけて、あたしは歩みを早める。

 これって、もしかしてこのカメラを使うチャンスなんじゃない?

 それは、魔法のカメラなんてまだ完全に信じたわけじゃないけど、せっかく手に入れたんだからやってみないと何にもならない。
 もしこれが本物だったら、それで雪乃先輩の気持ちを手に入れることができるんだから。

 そう思って、カメラにフィルムをセットするとあたしは先輩に向かって走り出した。

「「雪乃せんぱーい!」」

 えっ?
 この声は?
 ……あっ! あれは!?

 あたしが大声で呼びながら駆けていくと、反対側から飛び出して来た人影が。
 ……って、あれって優月じゃないの!
 どうして優月がここに……って、あれはっ!?

「なんだ、おまえらか? どうしたんだ?」

 きょとんとした表情であたしと優月を見比べる雪乃先輩。
 だけど、あたしの視線は優月の手許に釘付けになっていた。

 雪乃先輩を挟んで向こう側に立つ優月の手に握られているのは、あたしが持ってるのと同じようなインスタントカメラだった。

 どうしてあの子があれを? ……あっ!

 さっき、レイチェル館の購買部で気になったこと。
 どうして、あのカメラが置いてある場所だけあんなにスペースが空いていたのか。
 それは、もともとあそこには2台のインスタントカメラが置いてあったからなんだ!

 まさか、優月もあのカメラを手に入れてたなんて……。

 これはマズいわ!
 優月も魔法のカメラで雪乃先輩の気持ちを手に入れるつもりなのよ!
 早くしないと先を越されちゃう。

 雪乃先輩の向こうでカメラを構える優月を見て、あたしも慌ててカメラを構える。

 だけど、次の瞬間。

「あ、100円みっけ」

 そう言って一歩踏み出した雪乃先輩の姿がファインダーのフレームから消える。

 ……って、なんなのよっ、そのベタなオチはっ!?

 しまったと思ったときにはもう遅かった。
 あたしはもう、シャッターを切っていたのだから。

 撮れてる!? 撮れてない!?

 慌てて、撮影したフィルムを撮りだしてみる。
 1枚だけの一発勝負だから、これで撮れていなかったら終わりだ。

 じっと見ていると、古いカメラのフィルムらしく白黒の画像が浮かび上がってくる。
 そこに映っていたのは、カメラを構えている優月の姿だった。

「そんなぁ……」

 思わず嘆息しながら、優月の方を見る。
 すると、向こうも茫然とした表情でこちらを見ていた。
 ……ていうことは、あの子も雪乃先輩の姿を撮れなかったの?

「おまえらも写真を撮るのはいいけど、あんまり遅くならないうちに帰れよ」

 あたしの落胆を知ってか知らずか、いつも通りの口調でそう言うと雪乃先輩は去って行く。
 あたしたちは、なにも言えずにその姿を見送ることしかできない。

 そのとき、不思議なことが起こった。

「……えっ?」

 あたしの手から、さっきまで感じていた重量感がなくなっていく。
 見ると、あのカメラが溶けるようにすうって消えていくところだった。

「そんな……こんなことって?」

 あたしの手に残されたのは、優月の姿が映った白黒のインスタントフィルムだけ。
 呆けたようにその写真と、優月を見比べる。
 あっちも同じように手許の写真とあたしを見比べていた。

 どうしてこんなことになったの?
 いや、そもそもどうして優月があのカメラを?

「「ちょっと! なんであんたがあのカメラを持ってたのよ!?」」

 ほとんど同時に同じことを口にしながら、互いに一歩踏み出す。

「あのカメラはあたしがレイチェル館の購買部で買ったのよ!」
「はい? なに真似っこしてんのよ!?」
「真似っこってどういうことよ!?」
「私の方が先にあのカメラを買ったんだからね! 私が買ったのは2台あったうちのひとつだから、残ったのをあんたが買ったんでしょ!?」
「でも、あたしはあんたが買ってたなんて知らないし! 真似っこなんて人聞きが悪いわね! だいいちどうしてくれるのよ!? 雪乃先輩の気持ちを手に入れようっていうあたしの計画が台無しじゃないの!」
「それはこっちの台詞だわ! あんたこそどうしてくれるのよ!?」
「なによ、ひとりで抜け駆けしようとしたくせに!」
「抜け駆けなんて人聞き悪いわね! あんたが邪魔しなかったら今頃私は雪乃先輩とラブラブになってたのに!」
「それこそこっちの台詞だわ! ……って、ちょっと、優月ったら顔近づけすぎじゃない!?」
「なななっ、なによ! 近づけすぎなのは風花の方じゃないの!」

 お互いに詰め寄りながら言い合ってるうちに、触れそうなくらいにすぐ目の前まで顔を寄せていた。
 それに、さっきから口調だけは喧嘩腰で詰り合ってるけど、なんだか心臓がバクバク鳴ってる。
 優月の顔も真っ赤だし、あたしも顔が熱い。
 だけど、本気で怒ってるのかっていうとそうじゃない気がする。
 怒ってるとか、そういうのとはなんか違う。

 ていうか……。

 やだ……なに?
 この子って、こんなにかわいい顔してたっけ?

 すぐ間近で優月の顔を見ていると、なんだか胸がドキドキしてくるのを感じる。

 ぱっちりと大きな目に長い睫毛。
 小さくて形のいい鼻に、ぷくっと柔らかそうな唇。
 それに、なんでそんなに恥ずかしそうに顔を赤くしてるの?
 もう、その表情無茶苦茶かわいいじゃない。

「やっ、だから顔が近いって!」
「近づけてるのは優月の方でしょ!?」
「ちちちっ、違うってばっ! 風花の方が……」

 やだ、そんな表情しないでよ。
 胸がきゅんってなるじゃない。
 それに、すぐ目の前で動くプルプルした唇が可愛らしくて……。

 そのとき、優月もあのカメラであたしの姿を撮っちゃったんだって確信した。
 だって、そうでないと自分の中のこの気持ちの説明がつかないもの。

 優月の顔をじっと見つめていると、優月もこっちを見つめてくる。

「……ちゅっ」
「んっ、ちゅ……」

 あたしたちは、どちらからともなく互いの唇に吸いついていた。

 ……やっぱり思った通りだ。
 優月の唇、すっごく柔らかくて気持ちいい。
 それに、こうしてると胸がポカポカしてくる。

 すごい……初めてのキスなのにこんなに幸せな気持ちになってる。
 ずっとこうしていたいくらいに……。

「ん……む、はむ、ちゅむ」
「んふ、ちゅ、んむ……」

 いつの間にかお互いの腕を背中に回して、抱きいながら唇を重ねていた。

 ……って、ちょっと待って!
 こんなところでこんなことしてたら人に見られちゃう!

 ふと我に返ったあたしは、慌てて優月の口から唇を離す。
 すると、顔を真っ赤にして涙目になった優月とまともに視線が合う。
 その表情に、またもや胸がきゅうんってなった。

「「ちょっと! こっち来て!」」

 やだ、またかぶっちゃった。
 でも、たぶん考えてることは同じだよね。

 どちらからともなく手を取ると、あたしたちはずかずかと遊歩道を歩いて行く。

 そして、やってきたのは遊歩道から少し外れた場所。
 あのナツツバキの樹が見える繁みの陰だった。
 ここだったら他の子の視線を避けることができる。
 そもそも、放課後のこの時間にここまで来る子はいないだろうし。

 そこで、あたしたちはまたお互いに見つめ合う。
 そうしているだけで、胸のドキドキが止まらなくなる。

「……こっ、これはあのカメラのせいでっ、私の気持ちじゃないんだからね!」
「そっ、それはあたしだってそうよ! 優月があたしのことを撮らなかったらこんなことにはならなかったんだから!」
「だからそれはこっちの台詞よ! 風花があんなことしなかったらこんなことにはならなかったのよ!」
「でも、しかたがないじゃない! もうやっちゃったことなんだし! あたしはこの気持ちを抑えられないのよ!」
「そそそっ、それは私だってそうだよ! この気持ちを止めることができないじゃない!」

 そんなことを言い合った後で、ぎゅっと抱きしめ合ってもう一度キスをする。

 あたしも優月も、自分がやったことだから全部わかってる。
 これが、あのカメラのせいだって。
 この気持ちは、お互いの姿を写真に撮ったことで生み出された感情なんだって。
 でも、わかっていてももうこの気持ちを抑えられない。
 優月のことを好きだって思うのを止めることができない。
 まさか、あのカメラの効果を身をもって体験するなんて思ってもいなかった。
 思ってなかった展開だけど、ひとつわかったことがある。

「んむっ、ちゅっ……」
「んふうっ、あふ……」

 キスするのって本当に素敵。
 こうやって体を密着させて唇と唇を重ね合わせ、その柔らかな感触をじっくりと味わう。
 あたしの頬に優月の息づかいを感じるのも、抱きしめた腕の中でトクントクンってなってる鼓動を感じるのも、全てが愛おしい。
 ……あれ? トクトクやかましいのってあたしの心臓の音?
 まあ、どっちでもいいや。
 とにかく、こうしていると胸の高鳴りを抑えられなくて、体が熱くなってくる。
 今はただ、こうやって唇で、腕で、肌で優月のことを感じていたい。

 だから、本当に長い時間そのまま抱き合ってお互いの唇を吸っていた。

「んっ、ぷふぁああ……」
「んふぅうううう……」

 ようやく唇を離すと優月の頬は真っ赤になってて、6月だっていうのに湯気が立ちそうなくらい熱い吐息を洩らしていた。

「やだもう、優月ってばなんてかわいい顔してるのよ」
「風花の表情だってすっごくかわいいじゃん」
「やだ、優月ったら!」

 かわいいって言われて、こっちも顔がすごく熱くなってくる。

 あたしの中にこの感情が生まれたのは、魔法のカメラで撮られてしまったからだってわかってる。
 でも、もうそんなことはどうでもよかった。
 優月の顔を見つめてたら、胸がきゅんきゅん締めつけられていくのを止めることができなくなるんだもん。

「あのカメラのせいだってわかってるけど、もう抑えられない。優月のことが好き」
「うん、私も風花のことがこんなに好きになっちゃった」
「好きだよ、優月……ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」
「んちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……」

 お互いの気持ちを伝え合ってから、またキスをする。
 今度は、啄むような短いキスを何度も何度も。

 好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き……。

 お互いの肩を抱きながら、心の中にどんどん湧き出てくる気持ちを伝えるように短いキスを繰り返す。
 
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……優月ぃ……」
「んっ、風花ぁ……」

 キスの雨の後で、また見つめ合う。

「……きゃっ!」

 抱いていた腕を組み替えようとしたらバランスを崩してあたしが、優月を押し倒すような格好になった。
 しかも、思いっきり優月の胸にあたしの手を押しつける形で。

「ゃあっ! ああぁんっ!」

 やだっ、この子ったらなんて甘い声出してるの?

 優月の洩らした声が無茶苦茶かわいくて、今度はブラウスの上からおっぱいをむぎゅってしてみる。
 すると、優月はまた甘々な声をあげて身をよじった。

「ふぁあああんっ! もうっ、風花ったらぁ!」
「すっごい可愛らしい声……優月って胸が感じやすいんだぁ」
「違うよぉ……いつもはそれほどでもないのに、今はすごくビリビリくるのぉっ……ぁんっ、ああぁんっ!」
「そうなの? それじゃもっと揉んじゃお」
「やぁあああんっ! ……もうっ、風花!」
「きゃああああっ!?」

 調子に乗って胸を揉んでたら、ほっぺをプクッて膨らませた優月がくるりと体を回転させた。

「今度は私の番だからね!」

 さっきとは立場が逆転して馬乗りになった優月が、あたしの胸元のネクタイを解いていく。
 ちょっ、それって……。

「……ゆっ、優月!?」

 そのままブラウスのボタンも外され、ブラもずらされておっぱいが丸見えになる。
 驚いているあたしを見下ろして、優月が微笑んだ。

「うわぁ……かわいくてきれいなおっぱい。……いいよね、風花?」

 やだ……すごくドキドキしてる。
 ううん、怖いんじゃない。
 あたし、期待しちゃってるんだ……。
 優月におっぱい触って欲しいって思っちゃってる。

 だからコクリと頷くと、優月の手があたしの胸に優しく触れる。
 かと思ったら、そのままむぎゅっと揉まれた。

「ふえっ!? やだこれすごいぃいいっ!?」

 なにこれっ!?
 優月の手が触れた瞬間にじんってなって、掴まれたらそれが破裂したみたいにゾクゾクする感覚が全身を駆け巡っていって。
 こんなの初めて。
 いままで、おっぱいを自分で触ってもこんなに感じたことなかった。

「うん……風花のおっぱい柔らかくて気持ちいいよ」
「ふわぁあああああっ! やあっ、そんなに揉んじゃっ……!」

 優月の手がギュッて胸を揉むたびに、ビリビリと電気みたいなのが走っていく。
 信じられないくらい甘い声が自分の喉から洩れる。

 やだこれっ、気持ちよすぎるよ……。

「ふぁああああんっ! あぁんっ、だめっ、おっぱい感じすぎなのぉおおっ!」
「ほら、風花だって胸が感じやすいんじゃん」

 両手でおっぱいを揉みしだきながら、優月がイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 だけど、あたしだってこんなの初めてなんだから。
 そんなに胸が感じやすいだなんて思ったこともないし。

 そうだ、きっとこれは……。

「あぁんっ! 優月だから……優月のことが大好きだからおっぱい揉まれてこんなに感じるんだよぉ……」
「うふふっ、嬉しい。私も大好きだよ、風花」
「あああぁんっ! 優月ぃいいいっ!」

 きっとそう。
 あたしの中が優月のことが好きな気持ちでいっぱいだから、体がこんなに反応しちゃうんだ。
 優月への想いが、そのまま快感になっちゃうみたいに膨らんでいくんだ、

「ああもう、ぷにぷに柔らかくてかわいくて、風花のおっぱい最高だよ」
「やあっ、そんなにしたらあたしっ、あたしぃいいいっ!」

 さっきから体がすごく熱くなって、背骨がガクガク震えてる。
 頭の中もぼうってなって、小さな火花みたいなのが点滅してる。
 気持ちいいけど、こんなになるのは初めてだからちょっとコワい。
 それなのに、優月はあたしを見下ろしていっそう嬉しそうに笑った。

「風花の乳首、なんかピンってなってる。やだ、かわいい……」

 優月がそう言った次の瞬間、目の前が真っ白になった。

「あひぃいいいいいいんっ!」
「すっごーい……乳首、こんなにコリコリになってるよ……」
「ひゃぅうううううううっ! だめぇっ、それすごすぎるのぉおおおっ!」

 乳首をギュッてされてる。
 それだけはかろうじてわかった。
 でも、ビリビリする痺れがそこからどんどん弾けていってわけがわからなくなる。
 頭の中がすごく熱くなって、腰が持ち上がってブルブル震えてる。

 あっ……今、意識が飛んでたみたいな……。

 一瞬、目の前がくらぁってなって、全身に力が入らなくなる。
 なんだか、ふわふわ浮かんでいるような感じ……。

「んんっ、あふぅうううううう……」
「イッたの、風花?」
「イッたって? ……そっか、あたし、イッちゃったんだぁ」

 ぼんやりした頭で、そう呟いていた。
 自分でも、イッちゃったんだって思う。
 こんなに感じて、こんなに気持ちよくなって、それが体中で弾けた。
 こんなすごいのは初めてだから、きっとそうに違いないよね?

「やだっ、風花ったら、なんてエッチな顔してんの?」
「……優月?」

 あたしを見て、優月がクスクス笑う。
 でも、自分ではどんな顔をしてるのかわからない。

「でも、エッチだけどすごく可愛らしいよ、風花。……ぺろっ」
「んっ、ふぁああああ……」

 優月の顔がこっちに近づいてきて、ペロリと頬を舐めた。
 それだけで、快感がゾクゾクと駆け抜けていく。

「ねえ、風花」
「なに、優月?」

 優しくあたしの名前を呼ぶと、優月は自分でネクタイを解いてブラウスのボタンを外していく。

「今度は風花が私を気持ちよくして……」

 そう言ってブラを外すと、色白でぷっくりした乳房をさらけ出す。

「優月……」
「風花を見てたら我慢できなくなっちゃった。それに、さっき服の上から触っただけなのにあんなに気持ちよかったんだもの。だから、お願い」
「うん」

 体を起こすと、優月のおっぱいに手を伸ばす。
 それはすごくきれいでかわいくて、触ったら壊れてしまうんじゃないかって思うくらいだった。
 だけど、同時にすごく触ってみたいと思う。

「んんっ! んふぅううううううんっ!」

 おそるおそる生おっぱいを掴んでゆっくりと力を入れていくと、優月が鼻にかかったような声をあげて体をよじった。
 さっき優月におっぱいを揉まれたときの力加減くらいのつもりだったけど、ひょっとして力入れすぎちゃった?

「ごめん、強すぎた?」
「ううん、大丈夫……これ、すっごく気持ちいいの。もっと、もっとぎゅうってしてもいいんだよ、風花……」
「本当に?」
「うん。だからもっときて、風花」
「うん、それじゃあ……」
「ひゃぅうううううんっ! すごいっ! それいいのぉおおおっ!」

 リクエストに応えて胸を揉む手に力を込めると、優月が顎を跳ね上げて体をヒクヒク震わせる。
 
 ……すごい。
 優月のおっぱい、ムチムチしてて柔らかくて気持ちいい。
 それに、なんて顔してなんて声出してるの?

 やだ……優月ってばすっごくかわいい。

 喘ぎながら体をよじってる優月が可愛らしくて、おっぱいを揉む両手に熱がこもる。
 それに、優月のおっぱいの感触は本当に心地よかった。
 柔らかくて、それでいて弾力があって、こんな季節だから汗ばんでるせいか手のひらに吸いつくようにムチッとしてて、この感触を楽しむだけでも優月を好きなってよかったって思える。

 それに……。

「ホントだぁ……乳首がピンって上向いてる」
「やだもう風花ったら、恥ずかしいよ……」

 そんなことを言ってイヤイヤするように首を振ってるけど、許してあげない。
 だって、さっきあたしも同じことされたんだもん。

「ダメ、だって優月の乳首こんなにかわいいんだもん」
「やっ……ひゃぁあああああああっ!」

 指で摘まんで乳首をコリコリすると、優月の体がビクンビクンって跳ねる。

 やだ……優月のその表情。
 顔を真っ赤にして、トロンとした目を涙でうるうるさせてこっちを見上げて。
 それに、ツンと上を向いたおっぱいがピクピク震えてる……。

 もうっ、本当にかわいい!
 むしゃぶりつきたくなっちゃう!

 我慢できなくなったあたしは、優月のおっぱいにしゃぶりついてチュウって吸っていた。

「ダメダメダメ! やだっ、イッちゃうっ! イッちゃううううううううっ!」

 抱きかかえたあたしの腕の中で、優月の体がギュッて強った。
 そのまま不規則に小さく震える振動が、ビクビクと伝わってくる、

 優月、イッちゃったんだ……。
 そんなに優月を気持ちよくしたあげられたんだって思うと、すごく嬉しい。

「うふふー、かわいいよ、優月。……あれ?」

 あたしに抱かれてヒクヒク痙攣してる優月がかわいくて全身を眺め回していたら、両足がもぞもぞしてるのに気がついた。

「ふふーん、もしかして……」
「……ふえっ? あっ、やあっ、風花っ! そこはっだめぇっ! ……ふぁああああんっ!」

 あたしがそのスカートの中に手を潜り込ませてさっと触ると、優月がまた切なそうな声をあげる。
 優月のそこは、ちょっと触っただけでもわかるくらいに濡れていた。

「優月のここ、こんなにぐしょぐしょになってるよ?」
「やだぁ……そんなこと言わないでよ……」
「でも、こんなになるまで気持ちよくなってくれたんだぁ、嬉しい。それに、そうやって恥ずかしがってる優月もすっごくかわいいよ。……はむっ」
「もう、風花ったら……やんっ!? ちょっ、風花ッ! やぁああああああんっ!」

 優月があんまりかわいいから、もう一度目の前のおっぱいに吸いつく。
 同時にもう片方の乳首をコリコリ弄りながら、ショーツの内側に指を潜り込ませてぐしょ濡れのアソコをクチュクチュする。
 甘い喘ぎ声をあげながら優月がバタバタ暴れるけど、その体に覆い被さるようにして愛撫を続けた。

「はうううううっ! やあっ! さっきイッたばかりなのにぃ! それも3ヶ所いっぺんになんてっ、だめっ、だめぇえええええええっ!」
「ふふっ! イクの? もうイキそうなの? 優月ったらかわいい……」
「だって、こんなのすぐイッちゃう! やっ、だからダメって……やっ、イクぅううううううううっ!」

 ちょっとアソコの中の方に指を入れてくちゅりってすると、優月の腰があたしの体ごと持ち上がた。
 そのままプルプルと痙攣してから、ガクッと力が抜けたみたいに地面に落ちた。

「はぁ、はぁあああ……」

 蕩けた表情で大きく息を吐く優月が可愛らしくて、そっと顔を近づける。

「優月のイキ顔、すごくかわいいよ」
「やん、風花ぁあああ……」
「ふふ、これでおあいこだね」
「……ふえぇ? 全然おあいこじゃないよぉ」
「えっ? ええええっ?」

 優月があたしの体を抱いて、ぐるんと位置を入れ替えた。
 またもや立場が逆転して、優月があたしの上に乗る格好になる。

「風花は1回しかイッてないのに私は2回もイッたんだから、おあいこじゃないよ!」
「ふぇえええっ!?」

 少しムッとしたみたいに頬を膨らませていた優月が、意地の悪い笑みを浮かべる。

「ちょっ、優月!? ……やっ!? あふぅううううんっ!」

 そして、あたしのスカートの中に優月の手が潜り込んできたかと思うと、アソコからビリビリと電気が駆け抜けていった。

 その日、あたしは優月といっぱいエッチなことをした。
 お互いの愛情を確かめ合うように。

 その後で服を整えるとふたり並んで座り、あのナツツバキの樹を見上げていた。

「ねえ、風花」
「なに?」
「さっきは素直に言えなかったけど、私は風花の撮ったあの写真、好きだよ」

 あたしに体を預けながら、はにかんだ笑みを浮かべて優月がそう言った。

「あたしも……あのときは素直になれなかったけど、優月の写真好きだよ。すっごくきれいで、負けたなって思ったもん」
「そんなことないよ。風花の写真の方こそきれいで、負けたくないけどやっぱり敵わないなって思ったもの」
「やだ、そんな。……ふふっ、うふふふ!」
「ふふふふっ!」

 あたしが声をあげて笑うと、優月も楽しそうに笑う。
 なんか、こんな関係になってみるとすごく素直に優月の写真を褒める気持ちになれた。

 そしてそれをきっかけにいろんな話をした。
 写真談義から、自分の好きなもの、最近のお気に入りまで。
 あたしと一緒のことを思ってて嬉しくなることもあれば、あたしのやり方や好みと全然違っててへえって思うこともいっぱいあった。

 でも、そのどれもこれもがすっごく楽しかった。
 よく考えたら、優月にはずっと対抗心を燃やしていたからこれまでこんな風にじっくり語り合うことなんてなかった。
 こんなに楽しいんだったら、もっと早くこうしていたらよかったなって、少しもったいなく思う。

 その日はあたしたちにとって特別な日になった。
 だって、その日から優月はあたしにとって一番大切な人になったんだから。

♪  ♪  ♪

 10日後。

「ねえ風花、この写真見てよー」
「なになに? えー、これ、あたしの写真ばっかりじゃん!」
「だって、風花かわいいんだもん」
「じゃあさ、あたしの写真見て!」
「うん……もう、風花だって私の写真ばっかじゃない! ……って、ちょっと、こんな表情いつ撮ったのよ?」
「うふふー、内緒」
「もうっ、風花ったらー!」

 その日も、写真部の部室で優月ときゃっきゃうふふしていた。
 まあ2年生という立場上、あんまり後輩の前でいちゃいちゃできないんだけど。
 でも、みんなが部室に集まってくるまではいつもこんな感じだ。

「そうだ! 今度の週末、ちょっと遠出して写真撮りに行かない?」
「あっ、いいねー、それ。どこ行こっか?」
「そうだねー。どうしよう?」
「お、もう来てたのか。おまえらはいつも早いな」

 いつものテンションで優月とじゃれ合ってたら、雪乃先輩の声が聞こえた。

「「あっ、雪乃先輩!」」

 立ち上がってふたりでハモりながら挨拶すると、雪乃先輩はいつもの苦笑いを浮かべる。

「そういえば、おまえら結局あの写真を出すことにしたんだな」
「はい! やっぱり気に入ってますし。それに、せっかく風花と同じナツツバキの樹を撮ってるから」
「できたら、あたしたちの写真を並べて展示してみんなに見てもらいたいなって」
「まったく、ホントにおまえらって仲がいいよな」
「「はい! 仲良しですよ!」」
「……ぷっ、本当にいいカップルだな」

 またかぶってしまって、雪乃先輩がクスッと吹き出す。

 本当に、こういうときのあたしたちは息がぴったりだ。
 今は、こうやって言うことが優月とかぶるのも嬉しかったりする。

 こうなってすぐに、あたしたちがつきあい始めたことは雪乃先輩にだけは伝えてある。
 そのときに、先輩に実は彼氏がいることが明らかになって反対にビックリしちゃったけど。

 雪乃先輩のことは今でも好きだよ。
 もちろん、尊敬する先輩として。
 だけど優月は特別。
 先輩として慕ってる相手と、一番好きな恋人じゃ”好き”の意味が違うもの。

 でも、そうだよね。
 同じ人を好きになるくらいなんだから、もともと相性はぴったりだったんだと思う。
 もしかしたら、あのカメラなんかなくても優月とあたしはこんな関係になってたのかもしれない。
 そんな風に思うことすらある。

 思っていたのとは違う結末になったけど、こうなったことを全然後悔してない。
 むしろ、優月と恋人同士になれてすごく幸せだって思ってる。
 だから今では、あたしはレイチェル館のあのお婆さんに感謝してる
 あのカメラをくれてありがとうって。
 優月とあたしが恋人になれるきっかけをくれてありがとうって。

「だよねー、優月」
「なに、いきなり?」
「なんでもない!」
「もうっ、風花ったら!」
「きゃははは!」
「うふふふふっ!」

 優月がふざけながらあたしをぎゅって抱き寄せる。
 それが楽しくて声をあげて笑うと、優月も笑う。
 雪乃先輩が呆れたような、でも優しい眼差しで見守る中、あたしは思いっきり優月を抱き返していた。

< おわり >

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