第3話 吸血鬼の眼
「だからっ!無茶したらダメだって言ったでしょ!」
目が覚めたら、ベッドの脇でさくらがプリプリ怒っていた。
「……ええっと、今何時?」
「もう11時だよ!」
「……朝の?」
「当たり前じゃないの!」
と、そのくりっとした大きな目を吊り上げて答えるさくら。
たしか……。
昨日さくらとセックスをはじめたのは、晩ご飯食ってから風呂入って、わりと夜の早い時間だったから……。
セックスしてた間はあんまり時間の感覚がはっきりしてなくて、あっという間だったのか長いことああやってたのかわからないけど、それでもまた12時間は気を失ってたことになる。
「初めてのときはあたしの方がお腹空きすぎでおかしくなっちゃってたけど、昨日のは慎介が調子乗りすぎだよ!知らないんだったらともかく、精気吸われるのがわかってて2回もするなんて無茶しすぎ!」
「……でも、さくらが元気になってよかった」
「……えっ!?」
俺の言葉に、怒りまくってたさくらの勢いが止まる。
「だって、おまえ、腹減ってんの我慢してて、口数も少なかったし、無理してるの見え見えだったから。だから、こんなに元気になってくれて本当によかった」
「もうっ……慎介のバカ……」
さくらが顔を真っ赤にして唇を尖らせる。
でも、昨日はあんなに元気がなかったさくらが、俺の精気を吸ってこんなに元気になってるのが本当に嬉しかった。
「俺さ、あんなに元気のないさくら見るの嫌だから、だからさ、腹減ったら無理しないでいつでも言えよ」
「……そんなこと言っても、慎介がこうやって気を失っちゃうのを見たら、そんなに気軽に言えるわけないじゃない」
「次から1回で止めとくから。だったら大丈夫だろ?」
「それでも、あんまり大丈夫じゃないと思うんだけどね……。でも、約束だよ。今度からは無茶しないって」
いつになく、真顔でさくらが迫ってくる。
「ああ、約束する」
そう約束すると、まだ納得はしてない様子だけどどうやらさくらの怒りは収まったようだった。
「……なあ、さくら」
「なに?」
「おまえさ、精気を吸わずにセックスってできないのか?」
「……はい?どういうこと?」
さくらが、きょとんとした顔で聞き返してくる。
「いやさ、俺、さくらに好きだって言ってもらってすごく嬉しかったし、俺もさくらのこと好きだからさ、精気を吸われずにやれるんだったら、さくらともっといっぱいセックスできるんじゃないかなって思ってだな……」
そう言うと、さくらの顔が真っ赤になった。
「ばばばっ、バカッ!恥ずかしいこと言わないでよね!」
「でも、俺は本当にそう思ってるんだけどな」
「もうっ……慎介ったら。……でも、それはやっぱり難しいかな。あたしたちシュトリーガにとって、エッチなことしたいっていう気持ちはイコール食欲みたいなもんだから。エッチして感じちゃうのも、気持ちよくなっちゃうのも、全部精気を吸うのに繋がってるんだよね。だから、セックスすると吸精モードになっちゃうのを自分でも止められないの」
「そっか。じゃあ、しかたないよな」
それだけ言うとさすがに少し気恥ずかしくなる。
さくらも同じなのか、赤い顔をしてもじもじしていた。
でも、いつまでもそうしてるわけにもいかないし、俺はベッドから降りようとする。
たっぷり寝ていたとは思えないくらいに体が重くて頭がクラクラしてて、立ち上がったときに少しふらついた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だって。少しふらつくけど、それより腹減ったな」
「わかった!じゃあ、すぐにご飯の準備するね!」
そう言うと、さくらは慌ただしくキッチンの方に駆けていく。
そして、もう昼飯といってもいい時間にさくらの作った朝飯を食べる。
「ちょっとでも慎介の体力が回復するようにって、でも、起きてすぐあんまり重たいものもどうかと思ってスープにしてみたんだけど……」
そう言ってさくらが差し出した丼からは、食欲をそそるいい匂いが立ち上っていた。
「……お、旨そうな匂い。これ、なんのスープ?」
「ニラとニンニクたっぷりの中華風スープだよ!」
たしかにさくらの言うとおり、丼の中のスープにはニラと豚肉の細切れみたいなのが浮いてて、ニンニクの匂いか漂っている。
「ていうか、おまえニンニク大丈夫なのか?」
「……へ?なにが?」
「だって、吸血鬼はニンニクが苦手って言うだろ?」
「ああ、それはあたしたちじゃなくて、どっか他の国の吸血鬼のことでしょ?だいたい、ヨーロッパにいる吸血鬼はものすごく種類が多くて、それぞれ系統が違うんだから、みんながみんなニンニクが苦手なわけないわよ」
「へえ、じゃあ、十字架が苦手っていうのは?」
「もうっ、あたしたちシュトリーガは由緒正しい一族でね、あたしたちの先祖はキリスト教が生まれる前からヨーロッパに住んでたのよ。だからそんなもの苦手なわけないじゃない!」
と、さくらはそう言って肩をすくめる。
俺は、さくらが初めて会う吸血鬼だけど……て、普通の人は吸血鬼になんか一生会わないだろうけど、血を吸うんじゃなくて精気を吸ったり、ニンニクや十字架が大丈夫だったり、話を聞けば聞くほど俺の知ってる吸血鬼のイメージとは違ってるように思う。
まあ、お話の中の吸血鬼のイメージなんかあてにならないんだろうけど。
「そっか、じゃあ、おまえらってけっこう無敵なんだ」
「うーん、そうでもないんだけどね。それよりも、早く食べないと冷めちゃうよ」
「おう」
湯気の立っている丼を持ち上げて、ひとくちスープを啜る。
さくらの作ってくれた料理は、いつも通りうまかった。
* * *
それからも俺とさくらとの同棲生活は続いていた。
あれからは7日から10日くらいに一度、俺が休みの前にさくらとセックスして精気を食べさせてやる。
もちろん、一晩に1回限定で。
何度やっても、さくらとのセックスはやっぱり最高だった。
気持ちいいし、なんといっても感じまくって喘ぐさくらの姿を見るのが堪らなかった。
さくらの方も、下手に間隔を空けて腹を空かせるよりも短い間隔でやった方が1回に吸う精気の量が少なくてすむことに気がついたみたいだった。
まあ、俺としてはそれでも大丈夫なのか気になるんだけど。
さくらが元気なのを見ると、たしかに毎日飯を食わなくてもいいのは事実なんだろうけど、それでも今の間隔が適正だとは思えないんだけどな。
結局のところは、何日か断食してるような生活なんじゃないのか?
そんなの、俺だったら我慢できないけどな……。
それに、さくらとの生活を続けているうちに、さくらに精気を吸わせた後の疲れが取れにくくなってるような気がする。
たしかに、生きていくためのエネルギーを吸われるっていうのは体にすごく負担をかけてるんだろう。
本当は、今くらいの間隔でも俺の体にはそこそこの無理がかかってるんじゃないかと思う。
でも、そんなことは絶対に口にできない。
言ったら絶対にさくらが心配するに決まってるから。
だいいち、今の生活でもさくらは腹が減ってるのを我慢してるんじゃないかということを思えば、俺がちょっとしんどいくらい我慢しないと。
そんなある日……。
「じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい」
その日の朝、いつもより少し遅くなってバイトから帰ってくると、うちのアパートの向かいの家から出てきたセーラー服姿の子が手を振って駆けていくのが見えた。
そして、家の前まで出てきてその子を見送っている女の人。
「大家さん、おはようございます」
俺は、その人の方に歩いて行くと挨拶をする。
「あら、おはよう、松井くん」
その人は、俺の住んでいるアパートの大家さんだ。
名前は、藤本美弥子(ふじもと みやこ)さん。
長い黒髪で少し目尻の下がった、いかにも純和風美人という顔立ちで、いつも優しそうな笑顔を絶やさない。
それに、高校生くらいの子供がいるとは思えないくらいに若く見えたりする。
たしか、旦那さんを早くに亡くしていて、娘さんとふたりでうちの斜向かいの家で暮らしている。
なんでも、うちの他にもこのあたりに何軒かアパートを持っていて、そのおかげで生活には困ってないらしい。
大家さん自身が優しくて世話好きな人だし、うちのアパートは大家さんの家の向かいということもあって、留守のときに届いた宅配を預かってもらうとか、俺はなにかとお世話になっていた。
だから、こうやってきちんと挨拶するのは欠かさない。
「今日はバイト帰り?」
「ええ」
「松井くん、バイトもいいけどちゃんと学校行ってるの?」
「大丈夫ですって。これでも俺、今まで単位落としてないんですから」
「へえ、偉いじゃないの。でも、無理はしてない?」
「どうしてですか?」
「松井くん、前より少しやつれてる気がしてるけど」
そう言われて、ちょっとギクッとする。
俺、傍目に見てわかるくらいにやつれてるのか……。
このままだと、無理してるのがさくらにバレちまうぞ……。
「だ、大丈夫ですよ」
「そう?だったらいいんだけど……」
家の前でそんな立ち話をしてると、俺の部屋のドアがバタッと開いた。
「やっと帰ってきたの!?おかえり!」
俺の姿を見て、さくらが笑顔で手を振る。
たぶん、いつもより帰りが遅いから気になって外に出てきたんだろう。
なにも知らないで元気よく俺を迎えようとしたさくらを見て、思わず慌ててしまう。
いままで奇跡的にバレないでいたけど、さくらと同棲してるのが大家さんにバレちまったと思って。
「あら?松井くん、その子は?」
「あっ、えっ、いやっ……さくらっ、あのっ、この人はここの大家さんでなっ!」
慌てふためく俺を見て一瞬きょとんとした表情浮かべたけど、さくらはそのままなに食わない顔で俺たちの方に歩いてくる。
「どーもはじめまして!あたしは妹の松井さくらです!」
そう言って、ペコリと頭を下げるさくら。
……は?い、妹って!?
そりゃ、さくらとしては状況を察してくれたんだろうし、見た目には確かにさくらの方が俺より年下に見えるだろうけどよ。
でも、俺とさくらってそんなに似てねえだろうが!
「あら、松井くんの妹さん?」
て、大家さんも信じてるし!
「はいっ!あたしもお兄ちゃんの行ってる大学を受験しようと思って、学校の下見に来たんです!それで、お兄ちゃんのところに泊めてもらってるんです!いつもお兄ちゃんがお世話になってます!」
そう言って、さくらはまたペコリとお辞儀する。
……うーん、さすがだな、さくらのやつ。
よくもまあ、そんなにすらすらと適当なことが言えるもんだ。
「まあ、礼儀正しいのね。よろしくね、さくらちゃん」
「はいっ!ところで、大家さんにいろいろと聞きたいことがあるんですけど、ちょっといいですか?」
……はい?
なに言ってんだ、こいつ?
「……ええ、いいわよ」
……大家さん?
って、えっ!?
これは……?
さくらに返事をした大家さんの顔から表情が消えて、まぶたが重たそうになっている。
その視線も、どこを見ているのかわからない。
「……さくら?」
思わず振り返って、俺は息を呑んだ。
さくらの眼は、初めて会ったときのようにギラギラと光りながら大家さんを見つめていた。
これって……吸血鬼の眼ってやつか?
俺は、前にさくらが言っていたことを思い出していた。
さくらたちの一族は、ああやって力を発動したままの眼で相手を見ることで、人を思い通りにすることができるって。
その力を、今、さくらは使ってるんだ。
でも、なんでだ?
いや、それにあの眼は俺も食らったことがある。
あのときは体が金縛りになって、無理矢理興奮させられてチンポを勃起させられたけど、意識ははっきりしてた。
だけど、今の大家さんの様子はなんか変だ。
感情が凍りついたような虚ろな表情、前を向いているのにどこを見ているのかわからない視線。
まるで、目を開けて立ったまま意識を失ってるみたいだ。
「大家さんは、お兄ちゃんとあたしを朝ご飯に招待したくなるよ。いい?」
「……はい」
さくらの言葉に、大家さんが力なく頷く。
て、なに言ってんの?さくら?
そこで、ぎらついていたさくらの眼が元に戻った。
すると、大家さんに表情も戻ってきた。
「あ、そうだ。松井くんは朝ご飯まだよね?」
「へ?……そうですけど」
「だったら、うちにいらっしゃい。ご馳走してあげるわ」
何事もなかったかのように話しはじめる大家さん。
さっき、意識を失ったみたいになっていたことは全然覚えてないみたいだ。
でも、さくらが言ったとおりに僕たちを朝ご飯に誘ってきてる。
これが……吸血鬼の眼の本当の力?
でも、さくらはいったい何のためにこんなことを?
「えっと……大家さん?」
「わーい!ありがとうございますっ!」
「て、おいっ、さくら!?」
わけがわからずに戸惑っている俺をよそに、さくらは完全に俺の妹を演じて大家さんの家に行こうとする。
「さあ、松井くんもいらっしゃい。あ、不用心だからちゃんと部屋の鍵は掛けてくるのよ」
「あ……はい……」
そう言われたら、というか、ほいほい大家さんの家に入っていくさくらを放っとくわけにはいかず、俺も大家さんの家に上がり込んだ。
「ちょっと待っててね。もうすぐ、熱々の玉子焼きができるから」
「は、はい……」
「ありがとうございます!」
で、どういうことか俺とさくらは大家さんの家に上がり込んで食卓を囲んでいた。
俺たちの目の前にはご飯とお味噌汁、それと、塩鮭やアスパラをお肉で巻いたやつとか、お弁当のおかずっぽいものが並んでいた。
娘さんのお弁当に入れた残りなのかな?
「さあ、できたわよ」
大家さんが湯気の立ち上るホカホカの玉子焼きが載った皿を俺たちの前に置く。
「どうぞ、遠慮なく食べてちょうだい」
「はいっ!いっただっきまーす!……うんっ、美味しい!」
玉子焼きをぱくっと口に入れて、さくらが歓声を上げる。
俺といるときは人間の食べ物は一切食べないけど、口にできないわけじゃないっていうのは本当らしい。
ていうか、演技うまいよな、さくらのやつ。
人間の食べ物は、単に味の組み合わせとして感じて覚えてるだけだから美味しいか不味いかわからないって言ってたくせに、この満面の笑顔だもんな。
「ありがとう、さくらちゃん」
「うん、本当に美味しいですよ」
「あら、松井くんったら上手ね」
「いや、本当ですって」
実際、お世辞なんかじゃなくて大家さんの料理は美味しかった。
そんな俺たちを、大家さんはニコニコしながら眺めている。
「……あれ?大家さんは食べないんですか?」
「だって、私はさっき春奈(はるな)と一緒に食べたもの」
そう言って大家さんはクスッと笑う。
そうか、大家さんの娘さんは春奈っていうのか……。
そんな、何気ない会話をしながらご飯を食べる。
そして。
「ふう……ごちそうさまです」
「すっごく美味しかったです!ありがとうございますっ、大家さん!」
「いいのよ。ふたりが喜んでくれて私も嬉しいわ」
ご飯の後、大家さんは相変わらずニコニコしながら熱いお茶を淹れてくれる。
と、そのときだった。
「あのねっ、あたし、大家さんにお願いがあるの!」
「えっ?なにかしら?」
「ねえ、あたしたちの家族になってちょうだい」
「え?さくら……ちゃん……?」
さっきまで優しそうな笑顔を浮かべていた大家さんの顔から、不意に表情が消えた。
「さくら?」
俺がさくらの方を見ると、その瞳がギラギラしながら大家さんを見つめていた。
まただ……。
さくらのやつ、吸血鬼の眼を……。
でも、家族になってってどういうことだ?
「あたしたちと大家さんは家族になるの」
「あなたたちと……家族に……」
「もちろん、あたしたちと大家さんは本当の家族じゃないけど、本当の家族みたいな関係になれたら素敵でしょ」
「本当の家族みたいな関係……うん……」
ぼんやりとさくらの顔を見たまま、大家さんがコクッと頷く。
その動作にも、表情にも意志とか力強さとかいったものは全然感じられない。
「じゃあ、ちょっと名前を呼んでみようか?そうしたら、あたしたちのことが本当に家族みたいに思えてくるよ。……じゃあ、まずあたしからね」
「……さくらちゃん」
「うん!」
「さくらちゃん、さくらちゃん、さくらちゃん……」
さくらの名前を呼んでいるうちに、気のせいか大家さんの表情が少し緩んだように思えた。
「ね?あたしのことを家族みたいに思えてきたでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、次はお兄ちゃんね!名前は慎介だから、慎介くんって呼んでみて」
「……うん。……慎介くん」
「え?あっ、はい……」
大家さんがこっちを見て俺の名前を呼んだから思わず返事をしてしまった。
だけど、大家さんは俺の顔を見てはいるけど、どこか焦点が合ってない。
「じゃあ、繰り返して」
「うん……慎介くん、慎介くん、慎介くん……」
……やっぱりだ。
虚ろな表情で俺の名前を呼ぶ大家さんが、うっすらと笑みを浮かべた。
「ほら、お兄ちゃんのことも家族みたいに思えてきたでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、これでもうあたしたちは家族みたいなものだよね!?」
「……うん」
「それでね、家族はどんなことをしても恥ずかしくないの。ううん、本当の家族だからこそ、どんなに恥ずかしいことやいやらしいこともできるんだよ」
「……本当の家族だからこそ……どんなに恥ずかしいことやいやらしこともできる……」
「そうだよ。だから、家族同士でどんなにエッチなことをしてもなにも不思議じゃないの」
「家族同士でどんなにエッチなことをしても……なにも不思議じゃない……」
「そう。それに、家族同士でエッチすると、すごく気持ちよくて幸せになれるんだよ」
「家族同士でエッチすると……すごく気持ちよくて幸せになれる……」
「うん。いっぱいエッチして気持ちよくなれるっていうのは、それだけ家族の仲がいいってことなんだからね」
「いっぱいエッチして気持ちよくなれるのは……それだけ家族の仲がいいってこと……」
「だから、あたしたちといっぱいエッチして気持ちよくなろうよ?お兄ちゃんやあたしといっぱいエッチしたら、それだけ早く本当の家族になれるんだから」
「うん……慎介くんやさくらちゃんといっぱいエッチして、本当の家族になるわ……」
「そうだよ。そのことを、心の大事なところにちゃんと収めておいてね」
さくらの言ったことを、大家さんはぼんやりと繰り返し、その言葉に頷いていく。
ていうか、どういうことだよ、さくら?
おまえ、いったいなにをするつもりなんだ?
「……うん。…………ん?あら?」
さくらの言葉に頷いた大家さんが、我に返ったように首を傾げる。
見ると、さっきまでぎらぎら光っていたさくらの目も元に戻っていた。
「あら?……私、どうしたのかしら?」
「ねえ、ダメですか?」
首を傾げている大家さんに向かって尋ねるさくら。
……て、ダメですかって、なにが?
「え?なんのこと、さくらちゃん?」
「なんのことって、あたしたちの家族になってちょうだいってことですよ」
「ああ、そういえばそうだったわね……」
さくらに言われてそのことを思い出したのか、大家さん頬に手を当ててなにか考えている様子だ。
「そうよね……あの人も、家主と下宿人は親子みたいなものだって言ってたものね……」
と、そんなことを呟いている。
ていうか、あんまり聞かない理屈だけど、あの人っていうのは亡くなった旦那さんのことなのかな?
俺はたまたまこうやって大家さんの向かいに住んでるから何かとお世話になってるけど、家賃も口座から引き落としされてる時代の家主と下宿人の関係じゃないよな。
大家さんの旦那さんって昔気質の人だったのかな?
で、そのまま少し考えていた後で、大家さんはさくらに向かってニッコリと微笑んだ。
「……いいわよ、さくらちゃん」
「ありがとうございます!」
「……きゃっ!もうっ、さくらちゃんったら!」
嬉しそうに抱きついてくるさくらを、大家さんも自分の子供みたいに抱きしめる。
ていうか、さくらが吸血鬼の眼を使っていた間のことは全然覚えてないみたいだ。
「ちょっ、おい、さくら……」
「いいのよ、慎介くん。私たちは家族みたいなものなんだから」
「大家さん?」
さっきまで俺のことを松井くんって呼んでた大家さんが、慎介くんって呼んでる。
つうことは、大家さんは覚えてなくてもさくらの言ったとおりになってるってことか?
「もう、慎介くんったら。私はあなたたちの家族になってあげるだから、大家さんじゃなくて、名前で呼んでちょうだい」
「は、はい……み、美弥子さん……でいいんですか?」
「そうよ、慎介くん。……きゃあっ、さくらちゃん!?」
俺を見て微笑んだ美弥子さんが悲鳴をあげる。
見れば、抱きついたさくらが美弥子さんの胸に顔を埋めて、ふるふると頭を振っていた。
「あたし、お母さんにこんなことしてみたかったの!」
「もうっ、さくらちゃんったら……」
服の上からおっぱいに顔を押しつけているさくらを美弥子さんは抱きしめる。
まるで、甘えている子供をあやすような優しい表情を浮かべていた。
と、さくらの手が服の中にもぐり込んでいって美弥子さんの胸を掴んだ。
「あんっ、さくらちゃん!」
「ね、あたしたち、家族だからこういうこともしていいんだよね?」
「ええ、もちろんいいわよ。……んっ、ああんっ!」
笑顔を絶やすことなく美弥子さんが答える。
だけど、それはさっきさくらが言った家族の姿じゃないか。
普通の家族はそんなことしないって。
「ん、ちゅっ……ちゅう、んちゅ……」
「はん?ちゅむ……」
わけもわからずに見ている俺の前で、今度はさくらが美弥子さんにキスをした。
そして、その唇をちゅうちゅうと吸っている。
……ひょっとして、さくらのやつ美弥子さんの精気を吸ってるのか?
俺の位置からは、さくらが吸精モードになってるのかどうかはわからない。
でも、そんなさくらの行動にピンと来るものがあった。
ていうか、女の人からも精気を吸うことができたのか、あいつ?
「ちゅうっ……ちゅむ、んちゅ、ちゅっ、ちゅう……」
「んっ、んふう……んんんっ!んむっ……」
唇に吸いついたまま、さくらは美弥子さんの服の中に忍び込ませた手をモゾモゾと動かしてそのおっぱいを揉んでいる。
さくらの唇で口を塞がれた美弥子さんは、さくらの手が動くたびにくぐもった呻き声を上げて体を捩っていた。
「ちゅうちゅう……ちゅむっ、んっ、ぷふぁ……」
「んっ、んんんっ!んふ……むふぅううう……」
長いキスと愛撫の後に、ようやくさくらが唇を離す。
「ねえ、気持ちよかった?」
「ええ……気持ちよかったわよ、さくらちゃん……」
そう言ってさくらを抱きしめる美弥子さんの表情が、俺からはよく見える。
頬はほんのりと赤くなっていて、もともと下がり気味の目尻がさらに緩み、トロンと涙目になっていた。
「ねえ、美弥子さん、あたし、もっとエッチで気持ちいいことしたいけど……ダメ?」
「もちろんいいわよ。だって、私たちはもう家族なんだから」
そう言って美弥子さんが微笑む。
って、いいわけないだろが!
……だけど、さくらと美弥子さんを見ているうちに俺も興奮していた。
だって、ただでさえ美人の美弥子さんがあんなにいやらしそうな表情を浮かべてるんだから。
そりゃ興奮もするって。
「じゃあ、もっともっとエッチなことしようね!」
「きゃっ!さくらちゃん!?」
さくらが美弥子さんに抱きついて、その服をたくし上げる。
ついでにブラもずり上げさせると、美弥子さんのおっぱいがたぷんと剥き出しになった。
そして今度は、美弥子さんのスカートとパンティーを脱がせていく。
そのまま、美弥子さんのおっぱいに頬ずりをするさくら。
「美弥子さんのおっぱい、気持ちいいーっ!」
「あんっ!もう、さくらちゃんったら……」
「でも、本当にきれいで、すっごく柔らかいよ!……はむ、ちゅうっ」
「……あんっ、さくらちゃん!はんんんっ!」
今度はおっぱいに吸いつかれて美弥子さんが体をくねらせて喘ぐ。
ていうか美弥子さん、感じてるのか?
「ねっねっ、あたしのも吸って!」
「ん……ちゅむ、ちゅ……」
「んっ!いいよっ、美弥子さん!」
ひとしきり美弥子さんのおっぱいを吸った後で、さくらは自分で服を脱ぎ捨て、ブラも外して美弥子さんの顔に自分の胸を押しつける。
すると、本人は意識してるのかしてないのかわからないけど、美弥子さんは反射的に目の前のおっぱいに吸いついた。
すげえ……。
さくらが吸血鬼の眼を使うと、こんなになるんだ。
美弥子さんがさくらと絡み合う姿を、俺は驚いて見つめていた。
それにしても、美弥子さんもなんていやらしい顔してるんだろう?
これもさくらのせいなのかな?
初めてさくらとやったとき、あいつはあの目で見つめるだけで俺を金縛りにさせてチンポを勃起させた。
だから、なにも言わなくても相手を興奮させるのくらいなんでもないのかもしれない。
「美弥子さん、もっともっと気持ちよくなろ?」
「……うん、さくらちゃん」
今度は俺が見ている前で、さくらは美弥子さんの股間に顔を埋めた。
頬を赤く染めた美弥子さんの表情はすっかり蕩けて、さくらにされるがままになっている。
「……はんっ!んんんんっ!」
さくらが顔を埋めたところからピチャピチャと湿った音が響くと、美弥子さんが腰をぐっと浮かせる。
「ねえ、美弥子さんのここ、こんなにおツユが溢れてきてるよ。そんなに気持ちいいの?」
「あんっ、んんっ……ええっ、気持ちいいわっ!」
「ホントに?よかったー!……じゃあさ、一緒に気持ちよくなろ?あたし、もう我慢できないよ」
そう言うと、さくらはショーツを脱ぎ捨てて美弥子さんの足を片方抱え上げる。
その時にちらっと俺の方を見たさくらの口許。
間違いなく、鋭く尖った牙の先端がはみ出していた。
あいつ、やっぱり吸精モードになってやがる。
ということは、あいつがこんなことをしてるのは美弥子さんの精気を吸うためってことか?
さくらが男だけじゃなくて女の人の精気も吸えるっていうのはちょっとした驚きだった。
しかも、その吸い方っていいうのが……。
「んっ、あんっ、アソコ擦れてっ、気持ちいいよっ!」
「はんっ、私も気持ちいいわっ!んんっ、あんっ、さくらちゃん!」
美弥子さんのアソコに自分のアソコを押しつけるようにして、さくらが腰をクイクイと揺らしはじめる。
そのとたんにふたりとも、顎を跳ね上げるようにして激しく喘ぎはじめた。
「あんっ、気持ちいいよっ、美弥子さん!ねえっ、気持ちいいっ!?美弥子さんも気持ちいいのっ!?」
「ええっ、気持ちいいわっ、さくらちゃん!んっ、あふぅんっ!」
「んっ、嬉しいっ!もっと気持ちよくなろっ!あんっ、はあぁんっ!」
「ええっ!……はんっ、んふぅううんっ!」
俺の見ている前で、さくらと美弥子さんはアソコを思いっきり擦り合わせていた。
すげえ……。
女同士って、こんな風にしてやるんだ……。
女同士でエッチしてるところなんて見るのが初めてだから、視線が釘付けになってしまう。
いや、そんな光景フツーは見ることなんかないけど。
ふたりがアソコを合わせるように腰をくねらせるたびに4つのおっぱいがたぷたぷと揺れて、これはこれでものすごくいやらしい。
じっさい、股間に血が集まっていって、息子が元気になってくるのを止めることができない。
そうやって、興奮しながら俺が見ている前でふたりの動きはどんどん激しくなっていく。
そして……。
「あふうっ!……ああんっ、はあっ、私っ、もうイッちゃううううっ!」
「うんっ!イッてもいいよっ、美弥子さんっ!あたしもイクからっ、一緒にイコうねっ!」
「ええっ、さくらちゃん!……ふああっ!イクイクイクッ!わたしっ、イックぅううううううう!」
「あたしもっ!あたしもイッちゃううううううううっ!ふああっ、美味しいっ、おいしいよぉおおっ!」
抱え上げた美弥子さんの足を、さくらがぎゅっと抱きしめる。
そのまま、アソコとアソコを強く押しつけ合うようにしてふたりは体をヒクヒクと痙攣させる。
ていうか、美味しいって言っちゃってるじゃんかよ……。
イッたときのさくらのセリフで、俺はあいつが美弥子さんの精気を吸ったことを知った。
少しの間そうやって体をひくつかせていた後で、ふたりとも糸が切れたみたいにぐったりとなる。
ぜいぜいと喘ぐふたりの胸が大きく上下していた。
でも、やっぱり精気を吸われた美弥子さんの方がかなりしんどそうだ。
そしてその後、先に口を開いたのはさくらの方だった。
「んん……気持ちよかったよ、美弥子さん」
「さくらちゃん……私もよ……」
「じゃあ、次はお兄ちゃんとの番だね、美弥子さん」
さくらはそう言うと、俺の方を見てニヤリと笑う。
お兄ちゃんの番って……?
って、それって俺のことか!?
今のさくらと美弥子さんの絡みに興奮しすぎてて、さくらが俺の妹だって名乗ってたことすっかり忘れてたじゃんか。
ていうか、俺の番って!?
まさか……俺が美弥子さんと!?
さくらの言ったことの意味を理解して妙にあたふたしてる俺を見て、美弥子さんがニッコリと微笑んだ。
それも、とびきり優しそうな、かつとびきりやらしそうな笑顔で。
「そうね……さあ、慎介くん、こっちに来て……」
「え!?あっ、はっ、はいっ……!」
なんかもう、その美弥子さんの表情だけでドキリとしてしまって、ついふらふらと近寄ってしまう。
と、いきなりさくらが俺を捕まえてズボンを脱がせた。
「わあっ、お兄ちゃんのおちんちんもうこんなに大きくなってるー!あたしたちの見て興奮してたんだね!?」
「あっ、こらっ!さくら!」
「もう、さくらちゃんったらそんなこと言ったらダメよ。私たちがエッチしてるのを見たんだから、男の子が興奮するのも当然でしょ?」
慌てふためいている俺を見て、美弥子さんが楽しそうに声をあげて笑う。
ていうか、あんなのを見て興奮するのは当然だけど、そもそもこんなことをするのが当然じゃないんですけど!?
それにしても、美弥子さん楽しそうだよな……。
本当に、俺たちとこんなことをするのが当たり前だと思ってるみたいだ。
こんなことができるなんて、さくらの吸血鬼の眼ってホントにすごいんだな。
てなことを考えていたら、美弥子さんが手を伸ばして俺の腕を掴んだ。
「さあ、慎介くん……早く……」
そう言ってニッコリと微笑む美弥子さん。
その笑顔がまたいやらしくてヤバいのなんのって。
「早くって……え、えっと、本当にいいんですか?」
俺だってさくらと何度かセックスしてるし、もうセックス自体にはたじろいだりはしないけどやっぱりそう訊かずにはいられない。
でも、狼狽えている俺とは反対に美弥子さんは全く動じない。
「もう、いいに決まってるじゃないの!」
「……ばふっ!?」
美弥子さんに抱きしめられて、顔からおっぱいに突っ込んでいく形になる俺。
これは……なんて柔らかくて大きいんだ?
美弥子さんのおっぱいは、張りのあるさくらのよりも柔らかくて、俺の顔をいっぱいに包みこんでいた。
こうして抱きしめられてると、たぷたぷしたおっぱいの海で溺れ死にそうだ。
でも、すごく気持ちいいじゃないか。
と、美弥子さんが力を緩めて、今度は俺の顔をじっと見つめてきた。
「慎介くん、いっぱいエッチして気持ちよくなるのは仲のいい家族の証拠なのよ。私は早く慎介くんやさくらちゃんと、本当の家族になりたいの。だから、ね?」
いやいやいや!
それ、冗談になってないから!
美弥子さんと俺の間に子供ができて、本当の家族になりましたなんてオチいらないから!
さっきさくらが吸血鬼の眼を使いながら言ったとおりの理屈を美弥子さんが言ってるけど、シャレにもなってない。
「もうっ、お兄ちゃんったらなにしてんのよ!?」
と、たじろいでいる俺に、今度はさくらが後ろから抱きついてきた。
でもって、俺の息子をむんずと掴む。
「うおっ!?」
「こんなにおちんちん大っきくさせてるんだから、早く美弥子さんとエッチしてあげようよ~!」
「こっ、こらっ!さくらっ!」
さくらに、こきゅっこきゅっと扱かれて、ただでさえ勃起してた息子がますます元気になっていく。
でもって、美弥子さんはというと、そんな俺たちを見てニコニコ笑っていたりする。
「ふふふっ……もう、本当に兄妹で仲がいいわねぇ」
いやだから、俺とさくらは兄妹じゃないし。
ていうか、普通の兄妹はこんなことしないし。
「慎介くんとさくらちゃんの仲が羨ましいわ。早くそこに私も交ぜてちょうだい。……ね?」
いや!その、「ね?」の顔ヤバいって!
むちゃくちゃエロいんですけど!?
「み、美弥子さん……?」
「ほら、お兄ちゃん!」
「だから!」
「いいのよ、慎介くん」
さくらが俺の息子を握って固定したところに、美弥子さんが抱きついてきてアソコの入り口に招き入れる。
「美弥子さん!……うっ、おおうっ!?」
「んっ……!アソコに固くて熱いのが入ってくるこの感覚っ、本当に久しぶりだわ!」
俺に抱きついた美弥子さんが腰を沈めると、たちまちチンポがぬぷっと湿った感触に包まれていく。
「慎介くんの固くて熱いのが私の中を満たしてて気持ちいいわ……どう?慎介くんも気持ちいい?」
「えっ?あっ、はっ、はいっ!」
たしかに、美弥子さんのそこは思わず声がうわずってしまうくらいに気持ちよかった。
さくらのほどきつきつじゃないけど、かといって緩いわけでもない。
とにかく、すごく熱くてチンポに吸いついてくるみたいで、まだなにもしてないっていうのにすごく気持ちいい。
「そう?よかったわ。……私も嬉しいのよ。この快感を、私の体もまだ覚えていたんだって。ねえ、もっと気持ちよくしてちょうだい、慎介くん……んっ、んんっ、はうっ、すごいわっ!」
「おわっ!?……はうっ、うおっ!」
俺を抱きしめて、美弥子さんが腰をくねらせはじめる。
それ自体はゆっくりとした動きなのに、チンポを咥え込んだアソコの中がうねるようにざわめきはじめる。
「うおっ、はうぁああっ……!」
「んっ……!慎介くんのが中でビクついてるっ!うふっ……気持ちいいのね?」
「はっ、はいっ、気持ちいいです!」
嬉しそうに微笑む美弥子さんの言葉に、そう返すことしかできない。
だって、実際にすごく気持ちいいんだから。
俺のチンポに、熱く爛れたびらびらが絡みついてくるみたいだ。
「ううっ……おわわっ!」
「あああぁんっ!すごいわっ、慎介くん!」
あまりの快感に腰がビクッと震えた瞬間、美弥子さんの喘ぎ声のオクターブが上がった。
「そうよっ、慎介くん!そうやって、もっと奥まで突いてっ!……んっ、はんっ、ああんっ!」
「みっ、美弥子さん!?……はうっ、ううううっ!」
そのまま俺に抱きつく腕に力を込めて、美弥子さんは自分から腰を上下に動かしはじめる。
ただでさえ熱いうねりに包まれているっていうのに、抜き挿しする縦の動きまで加わったもんだから、その快感たるやとんでもなかった。
「はうっ、おうっ、ああっ、美弥子さんっ!」
「あんっ、いいわっ、すごくいいのっ!はんっ、んふうっ、あんっ、慎介くん!」
あまりの気持ちよさに、美弥子さんをぎゅっと抱きしめる。
美弥子さんが腰を動かす反動で俺の腰も揺れて、下から突き上げる感じになる。
チンポの先が奥の方に当たると、熱くうねるアソコ全体がチンポを締めつけてくる。
「はんっ……やぁっ、私っ、さっきさくらちゃんと一緒にイッてっ、敏感になっちゃってるからっ、感じすぎてっ、だめっ!」
「はううううっ!?みっ、美弥子さんっ!?」
チンポをぎゅっと締めつけたまま、美弥子さんのアソコがヒクヒクと震えはじめる。
もしかして、イキそうになってるのかな?
ていうか、この刺激ヤバすぎる!
そんなに締めつけたら俺がもたないって!
「うわわわっ!美弥子さんっ、俺っ、もうっ、もうっ……!」
「イキそうなのねっ、慎介くん!?……いいわよっ、出してっ、いっぱい中に出してちょうだいっ!……あんっ!ふぁあああああああああああっ!」
そう言って、美弥子さんが両足で俺の体を挟み込んでくる。
さすがにそれはマズいだろうとは思うけど、美弥子さんは中出し以外を断固として拒否してるみたいに体を密着させていた。
そのままイッたのか、悲鳴に近い喘ぎ声と同時にアソコ全体がビクビク痙攣する。
そして、それがとどめになった。
「うあっ!でっ、出るぅっ!」
「あああああっ!出てるっ!慎介くんの熱いのがいっぱいいいいいいっ!」
射精と同時に、俺も美弥子さんも抱き合ったまま体を仰け反らせる。
やっぱりマズいとは思うけど、もう何がなんだかわからない。
とにかく、頭の中が真っ白で、すごく熱くて、火花がバチバチ散ってるように思えた。
「……大丈夫ですか、美弥子さん?」
絶頂の波が収まると、美弥子さんはぐったりと倒れ込んでしまう。
「……ええ、大丈夫よ」
まるで、長距離走を走った後みたいに荒く息をしながら美弥子さんが微笑む。
「ちょっと疲れただけよ。……本当に、セックスなんて久しぶりだから、こんなに疲れることだっていうのも忘れてたわ」
と、美弥子さんはそんなことを言ってるけどそれは違うと思う。
美弥子さんが疲れてるのは、さくらに精気を吸われたからだ。
だいいち、俺はセックスがこんなに疲れないものなんだってちょっと驚いてるくらいなんだから。
なにしろ、童貞喪失以来セックスの相手はさくらだけで、精気を吸われた後のとんでもない疲労感が当たり前になってた俺にとって、美弥子さんとのセックスはある意味衝撃的だった。
それは、多少の気怠さはあるけどむしろ爽快感の方が大きい。
普通の人間相手のセックスってこうなんだな……。
「とにかく、今日はゆっくり体を休めた方がいいですよ」
「ありがとう。でも、大丈夫よ、このくらい」
そう言って、美弥子さんは体を起こす。
「ねえっ、またしようねっ、美弥子さん!」
「ふふふっ……いいわよ、さくらちゃん」
「わーい!」
俺の複雑な気持ちを知ってか知らずか、さくらは無邪気な妹を演じている。
本当に、こんなことして良かったのかな……?
なんか、モヤモヤしたものがわだかまってるんだけどな。
「じゃあ、絶対だよ、美弥子さん!」
「ええ。私の方からお願いしたいくらいよ。……慎介くんも、またしましょうね?」
「えっ!?あっ、それは……」
「もちろんだよ!」
躊躇っている俺に代わってさくらが元気よく答える。
こいつ……本当にどういうつもりなんだ?
「じゃあ、またね、美弥子さん」
「またね、さくらちゃん、慎介くん」
そのまま、服装を整えると俺とさくらは美弥子さんに見送られて自分の部屋に戻ったのだった。
* * *
「おいっ!なんであんなことしたんだよ!?」
部屋に戻ると、さっそく俺はさくらを問い詰める。
「なんでって?もちろん食事に決まってるじゃない。あたしは、女の人の精気も吸うことができるから」
と、しれっとした顔で答えるさくら。
「ていうか、大家さんにあんなことしてっ!」
「ああ、あれね。ねえ……あたし、慎介に言っておきたいことがあるんだ」
いきなり真剣な顔になって、さくらが俺を見つめてくる。
「へ?な、なんだよ?」
「あのさ……前に慎介があたしに、あたしの力で慎介のことを思い通りにできるのかって訊いてきたときに、あたしはそんなことしたくないって言ったでしょ?あれはね、したくないんじゃなくて、できないの」
「……って、どういうことだよ?さっき、おまえは大家さんをおまえの思い通りにしてたじゃないか」
「うん。……あたしの吸血鬼の眼はね、女の人は思い通りにすることはできるけど、男の人はせいぜい金縛りにさせたり、欲情させたりするくらいしかできないのよ」
「それって……。まさかおまえ……レズだったのか?」
「そんなはずないでしょ!」
「……痛でっ!」
ちょっとボケただけのつもりだったのに、思ったよりもきついつっこみが返ってきた。
俺の頭をはたいたさくらは、すぐに真顔になって話を続ける。
「あたしは、女の人からも精気を吸うことができるってだけよ。本来、女のシュトリーガは男の精気を、男のシュトリーガは女の精気を吸うように体ができてるんだもん。だからあたしだって慎介とセックスした方が、いっぱい精気を吸えるに決まってるの。それに比べたら、今日みたいに女の人から吸える精気の量はせいぜい5分の1から4分の1ってところね。……でね、本来、男のシュトリーガは女を、女のシュトリーガは男を、それぞれ吸血鬼の眼で自分の思うままにできる力を持って生まれてくるはずなの。そうしたら、自分が吸血鬼であることを知られることなく相手の精気を吸い続けることができるでしょ。相手の記憶も意識も自分の思いのままなんだから、吸血鬼だってバレることなく相手の精気を吸い放題なんだもん。あたしたちシュトリーガは、そうやって人間の生活の中に溶け込んで生きてきたのよ」
「そうなのか。……あ、でも、それって?」
「そうよ。あたしは女のシュトリーガなのに、能力は反対で生まれてきちゃったの。本当なら、あたしは男の人を思い通りにして、その人の精気を吸って生きていくはずなのに、それができないってことなの」
「そうだったのか……」
さくらの話を聞いて、はじめて俺は納得していた。
大家さんを思い通りにできる、あんなにすごい力を持っているのに、そして、俺に力を使う機会がいくらでもあったのにそうしなかった。
それは、したくてもできなかったからなのか。
「だいたい、あたしがシュトリーガとして本来の力を持っていたら行き倒れになんかなるわけないじゃない。男の人をあたしの思い通りにできたらね。でも、実際にはあたしの力じゃ、男の精気を吸うには危険が大きすぎるの。下手な相手だとすぐバレちゃうもの。で、女の人の精気を吸うのは効率が悪すぎて大勢の精気を吸わなくちゃいけないし、それはそれでリスクを伴うのよね。慎介みたいに、あたしのことを吸血鬼だって知った上で精気を吸わせてくれる男なんて、そうそういるわけないし。今まで生きてくのにけっこう苦労したんだから……」
そう言って笑ったさくらの笑顔は、どこか寂しそうだった。
「でも、じゃあなんで今日は大家さんの精気を吸ったんだ?今は俺と一緒にいるからいいじゃないか。腹が減ったら俺の精気を吸ったらいいんだし。……うわっ!?」
いきなり、両手で俺の顔を挟んでさくらがぐっと自分の顔を近づけてきた。
「目の下に隈ができてっ!頬も少しげっそりしてる!……あたしには無理するなって言ったのは慎介なんだから、慎介も無理しないで!」
そう言って俺を見つめるさくらの、今にも泣き出しそうな顔。
げっ……やっぱりバレてた。
さくらは俺の体調が回復してないのがわかってたんだ。
だから、あんなことを……。
「で、でもな、さくら……」
「言い訳しないの!……いい?慎介が生きていくためのエネルギーは、慎介ひとり分しかないんだよ。それをふたりで分け合ったら結局、慎介もあたしも生きていけるはずがないじゃない。だからあたしは、他の人から少し精気を分けてもらうことにしたの」
「いや、だからって、なにも大家さんを巻き込まなくても……」
「だってあたしは吸血鬼だもん。人間のモラルなんか持ち合わせてないわよ」
「……って、開き直んなよな」
「こう見えてもあたしはエゴイストなの!慎介とあたしが一緒に暮らしていくためには、それしか方法がないんだから!そのためだったら…………そのためだったら、あたしはなんだってするわよ……」
そう言いきったさくらの顔は真剣そのものだった。
「いやでも、おまえはともかく俺まで大家さんと……」
「なによー?あたしはせっかくだから慎介にもいい思いしてもらおうと思ったのにー」
「なに不満そうな顔してんだよ?」
「だって、あたしは慎介のこと好きだから、慎介にも楽しんでもらおうと思ったんじゃないのー」
「って、おい……」
「あたしは好きだよ、みんなで楽しくエッチなことするの。慎介はそういうの嫌い?」
「いや、嫌いというかなんというか……」
それは、たしかにハーレムは男の夢だけど、いざそれが実現するとなるとさすがに戸惑うというかなんというか……。
「でも、もし大家さんが妊娠とかしたらどうするんだよ?」
「あー、たぶんそれはないわよ」
「どうして?」
「慎介とやる前にあたしのおツユたっぷりと美弥子さんに染み込ませたからね。あたしたちシュトリーガのおツユには人間の男に対して強力な避妊作用があるの。それをたっぷり染み込ませたから大丈夫だよ」
「でも、この間おまえ、人間の男とやって妊娠することがあるって言ってなかったか?」
「だからごくごく稀にだってば!そんなの、100年か200年に1度あるかないかで、あたしだって話に聞いただけでそんなの見たことないし、だいいちこのあたしが今まで妊娠してないんだから大丈夫だって!」
「本当かよ?」
「本当だってば!きっとあたしのおツユは子種殺菌力が強いはずだから!」
て、その言い方もなんか嫌なんだけどな。
つうか、殺菌力って……。
と、さくらがまた哀しそうな表情で俺を見つめる。
「慎介を驚かせちゃったんならゴメンね……。でもね、これはあたしが生きていくのに必要な精気を確保するためなのよ。それでね、慎介に黙ってやることもできたけど、それだとバレた時に慎介が怒るような気がして……。それならいっそ、はじめから隠したりせずにああやってみんなで楽しくやった方がいいと思ったの」
そう、神妙な顔で話すさくら。
でも、なにか間違ってる気がするのは気のせいか?
それは、さくらたち吸血鬼のモラルが俺たち人間のそれとは違うからなのか、単にこいつがビッチなだけだからなのか、それとも、もっと別な理由があるのか……。
「あたしは……慎介のこと大好きだけど、でも、あたしが独り占めしちゃうと慎介の体がもたないから……だから、だから……」
「わわわっ!わかった、わかったから泣くなってば!」
とうとう泣き出してしまったさくらを宥めながら、俺はそう言うしかなかった。
< 続く >