即堕ち洗脳系、制服改変あり人形化なし 第1話

第1話

 月が雲に隠れて、風が窓を鳴らした。
 そこは、市街地のやや外れにある古い教会で、担任の牧師(教師)も一人しかいない。
 会派としても大きなところではなく、かつてこの地域で権勢をふるった大地主が、信徒を嫁に取ったついでに仕方なく土地を寄付したというだけで、ありがたい由来があるわけでもなかった。
 地区内の信徒も決して多くはない。坂の上には近年建造されたばかりの大きな寺社が競うように並んでいて、そこから見下ろすと、この教会は競争に取り残された小亀のようだった。
 しかしその牧師は、だからこそ自分のような半端者にはふさわしい担任だと思っていた。
 親も牧師だったから楽に就職できると思って同じ道を進んだだけで、神の信徒として大きな志があったわけでもない。それなりに信仰心もあるが、自分自身を聖職者に相応しいと人間だと思ったこともなかった。
 色欲の強い男だった。そして、その欲望を抑えきれるほど強い心の持ち主でもなかった。
 若い頃からそのことを自覚している。ポルノには早くから興味があった。ヨーロッパでの研修期間中に女を買ったこともある。目立つことのできない立場となった今は、専らインターネットの動画漁りで自分を慰めていた。
 しかもネタは人妻、ロリコン、SMなど。禁忌であればあるほど興奮した。そういったもので自分を慰めたあとは、神に跪いて懺悔したい気持ちになるが、次の夜が訪れればそんなことも忘れている。
 自分が助平な小者だという自覚はある。罪悪感と欲望と、どちらを捨てることも選べずに30半ばまでこの職を続けてきた。
 神は、あるいは会派の議長はそんな自分のことを見抜いた上で、このような場所に遠ざけたのだと、牧師は勝手は思っていた。
 だから、天が自分のような者に試練を課すはずがない。
 自分には試される資格すらないのだから。

 聖なる十字の上に腰掛けた黒い生き物が、牧師を見下ろしてニタニタと笑っていた。

 牧師はまだ目の前の光景を信じられずにいる。地上の如何なる生物とも異なり、それでいて、古今東西のあらゆる人間がその姿を《知っている》存在。
 短い牙を並べた大きな口を、さらに大きく、それは横に広げた。

“どうして跪くんだ、牧師? 俺が神にでも見えるのか?”

 情けなく震える膝を床に擦りつけ、牧師はひたすら祈り続ける。もちろん、この悪魔に対してではなく、それが座する神のシンボルに対してだ。
 そして、どうしてこのような災いが自分に降りかからねばならないのか、その理不尽な不幸についても、内心で神に抗議を続けた。
 自分は殺されるのだろうと牧師は思う。もしこの服を脱ぎ捨てて十字も捨てると悪魔に約束すれば命が助かるなら、喜んで捨てる。
 どのような奇蹟であろうと、それにすがるだけだった。

“お前はなぜ自分の前に俺が現れたのかと思っているのだろう。そして、どうすれば助かるのか必死に考えている。だが悲しきかな、お前が選べる道などどこにもないのだ”

 背徳の罪がこの不幸を呼んだというなら、身に覚えはいくらでもあった。
 ひょっとしたら、昨夜の件のせいかもしれないと牧師は思う。
 前任の牧師が熱血漢だったおかげで、地域の「青少年を守る会」というボランティアの手伝いを、彼も引き継ぐ形でやらされていた。
 そして夜中の見回りの帰り、たまたま見かけた女子高校生に一言注意しただけで、牧師は彼女らに取り囲まれ、軽い暴行を受けたのだ。
 昔は、信徒などでもなくても、誰でも聖職者にはそれなりの畏れと敬意を払ってくれたものだ。だが、今どきの青少年は最低限の信心すら持ち合わせてはいないらしく、汚れた手で物珍しげに聖職のシャツに触り、神の名をからかい、まるで娼婦のように彼を誘惑してきた。
 彼女たちは、酒に酔っていたのだ。

『神父さま。パンツ見せてやろっか?』

 少女たちはそれぞれに短いスカートをたくし上げ、あるいは腰までしかないショートパンツを引き下げ、牧師にあらわな下着を見せた。健康的で幼い生肌は、彼の目にはとても眩しく映った。

『パンツ見たんだから金払ってよ。神様にチクっちゃうぞ~』

 そして無邪気な笑顔で理不尽な要求を突きつけ、彼女たちは小さな手を広げる。
 牧師は、言われるままに紙幣を差し出した。
 女子高校生の下着と素足に対する後ろめたさと、そして彼女たちに囲まれ触られ、罵倒と脅迫を受けている状況に、欲情していたせいだった。
 少女たちはそんな自分を笑う。そして彼も、もっと自分をあざ笑って、下着を見せつけて欲しいと、神ではなく少女たちに祈ってしまった。
 だから、神は鉄槌を自分は下さるのだ。牧師はただ震え、赦しを乞い続ける。

“何か勘違いしているようだが、神はお前を救ったりはしない。それは俺がお前を殺したりしないのと同じ理由だ”

 悪魔の囁きに牧師はちらりと顔を上げる。
 殺さない?
 その言葉に救いを求めた。
 
“あぁ。どうして俺がお前を殺す必要がある? お前は何も悪いことをしていない。善きこともしていない。こんな小さな教会で、一人で悶々と生きているだけじゃないか”

 そういって悪魔は姿を変えた。知っている女性だ。
 豊満な体つき。長い髪とおだやかな微笑み。担任地区の信徒で、中原美咲という子持ちの主婦だ。

“お前んとこの信徒の中でも、こいつはとびきりだよな。お前はこの女を抱きたいといつも思っていた。この祭壇の下で、こいつの尻を思い切り犯したいと思い焦がれていた。そうだよな?”

 牧師の顔は熱くなり、そして首から下は寒気に震えた。
 美咲は花のような女性だった。信心深く、心も美しかった。
 そして素晴らしいプロポーションをしていた。夫がいようが娘がいようが、よこしまな思いを抱かずにはいられなかった。
 聖歌隊の練習をする彼女のぽってりとした唇にも、花壇の手入れを手伝う彼女の尻にも、いつも視線を奪われていたものだ。

“だが美咲の娘も捨てがたい。まだまだ蕾の体だが、蕾がゆえに踏み散らかしてやりたい。こいつに男を教える役目を、そこいらのガキにやらせるにはもったいないよな?”

 悪魔は美咲の娘、愛菜に体を変える。
 体に合わなくなってきたランドセルを無理に背負う姿もそのままだ。おとなしくで内気な子だが、こないだクラスの友だちとケンカしてしまったと相談に来て、そのとき、俯いた拍子に胸元に生じた隙間から、彼女の肉体が女になり始めていることをじっくりと鑑賞させてもらった。
 さすがにそのときは自分に後悔した。だが、ひどく興奮したのも確かだ。

“あぁ、いるいる。お前が欲望を抱いた女は他にもたくさんいる。女なら誰でもいいんだ。なぜならお前が汚したいのは女ではなく、神に仕える自分なんだからな”

 目まぐるしく悪魔は女の姿を変えていく。
 初恋の女性がいる。秘かに憧れたシスターがいる。テレビで見ただけの女優に、記憶にもない通りすがりの女もいる。
 悪魔の言うとおりだと牧師は思った。世間の倫理を踏みにじり、許されるはずのない女性を犯したいと妄想するのは、ようするにこの窮屈な聖職者の衣を引き裂き、自らを罪に穢してやりたいという、屈折した欲望がそうさせている。
 牧師は自分の正体を見たような気がした。
 悪魔は、昨夜の女子高校生の一人になった。金色の長い髪をした少女だ。強気そうな顔立ちに幼さを残した、小悪魔的な美少女だった、
 あのときも、そのきれいな顔でフェラチオしてもらえるならいくらでも金を払っていいと、そんな思いを抱いていた。

“では、なぜそうしなかった? お前を引き留める者などいない。お前は最初から自由だった。神からも悪魔からも自由だ。お前は一度でも神に会ったことがあるか? 今、お前の前にいる俺は、本当に悪魔なのか?”

 昨夜の少女の顔で悪魔は笑って、すらりとした足をだらしなく組む。
 短いスカートから覗く下着も昨夜と同じだ。
 悪魔は、なぜ彼女のことまで知っているのかと、ふと牧師は思った。
 自分のことを知りすぎてはいないかと。

“そうだ。俺はお前のことならよく知っている。しかし俺は神を知らない。悪魔というものも知らない。どちらも人間の目にしか映らないものだからだ”

 少女の姿のまま悪魔は耳を尖らせ、羽根を伸ばして長い舌をだらりと垂らした。
 それが不思議と少女の顔に似合って、牧師は胸を高まらせた。

“俺の姿が悪魔に見えるのなら、お前がそう思って俺を見ているからだ。神を探しているなら、俺を神と思えばいい。俺を見ているのはお前だけだ。俺が知っているのもお前だけだ。つまり、俺はお前なんだ”

 ―――神も悪魔も自分の心の中にある。
 聖職者にあるまじき結論が、牧師を深く納得させる。神の目を恐れて生きてきた罪から、初めて彼は抜け出した。
 固く強ばっていた肩から力が抜け、自然と顔が上を向く。ほっ、と息を吐くと視界まで明るくなった。

“か弱き下僕よ。お前の欲望を救おう。お前が祈ればそれは教典となる。お前の欲望が無限に増殖して人々を信服させる。祈れ。さすれば救われる”

 床に黒い革表紙の本が落ちてくる。何冊も何冊も宙より生まれて積み上げられていく。
 牧師は頭を垂れて深い祈りを捧げていた。
 目の前に立つ異形は、いつの間にか大いなる父の姿に形を変えていた。

 中原美咲は、天気の良い午後に、いつものように教会の庭の手入れに訪れた。
 聖歌隊の仲間が一緒のときもあれば、今日のように、ふと思いついて一人で土をいじるときもある。
 マンションではなかなか作れない色とりどりの花々を、思う存分触れることが彼女にとっての息抜きだった。娘は学校のあと真っ直ぐ塾へ行くので、今日は時間もたっぷりとある。
 そうして、しばらく美咲が土の手入れに没頭していると、不意に後ろから肩を叩かれた。

「中原さん、いつも精が出ますね」
「あぁ、牧師様。お勤めご苦労様でございます」

 立ち上がって御辞儀をすると、美咲の豊満な胸は表情豊かに形を変えた。若い頃から人より大きいと悩みの種だった胸は、娘の愛菜を産んでからはますます豊満に膨らみ、近頃は若干の弛みを帯びて美咲をさらに悩ませていた。
 男性と話すときは、自然と胸を隠すように腕を交差させるクセがついていた。
 そして、いつもなら気弱そうに目を伏せて話す牧師が、今日はじろじろとその胸を見ていることに気づいて、美咲はハッとした。

「勝手にすみません。お庭の手入れをさせていただいてます」

 誤魔化すように美咲は笑い、彼の視線から逃れるように背を向けてしゃがみこむ。教会牧師の振る舞いに淫らな疑念を抱いた自分を恥じたが、それでも彼女の敏感な胸は、確かに男の嫌な想念を感じ取って、不快な気持ちに粟立っていた。

「お疲れでしょう。お茶でもいかがですか」
「いえ、好きでやらせていただいてますので、お構いなく」
「そうおっしゃらずに、少しだけお付き合いいただけませんか。信徒の方から、良い葉を送っていただきましたので」
「でも……」

 今日の牧師に何があったのだろうかと美咲は訝しむ。妙にしつこい彼の態度に、不審なものを感じずにはいられなかった。
 だが、それでも心から牧師を疑うことの出来ない彼女は、やがて根負けして、誘いに従うことになった。

「中原さんにはいつも感謝しているんですよ。うちの庭が天界への門前の如く見事に咲き誇っているのも、あなたのおかげだと思っています」
「……はあ」

 このような大仰な言い方をする男だったろうか。
 前任のおおらかで行動的な牧師と違い、今の牧師はどこか暗くて頼りなく、美咲はあまり好いてはいなかった。
 しかし、信徒にとっては有り難き道しるべであることには変わりはない。失礼のないようにと今までは接してきたつもりだが。

「あなたに見せたい教典があるんです。礼拝堂へ寄っていただけませんか?」

 肩に回される手。この馴れ馴れしさは何なのだろう。美咲は、男性は夫しか知らないが、持って生まれた容姿のせいで、この種の男の視線に含まれる感情には敏感だった。
 自分に対し、よからぬ期待を抱いているかもしれない。まさか牧師様がと考えるとゾッとするが、先ほどからの彼の振る舞いはあまりにも失礼の度が過ぎていると思われた。

「あの、私はやはり今日は帰らせていただこうと思います。食事の支度もありますから」
「す、すぐですから。見ていただきたいだけです。変なものではありません。教団の方より頂いた海外の珍しいものでして」

 ジロリと見上げると、いつものように気弱な挙動で口ごもる。弱気なのか強気なのかわからない自信のなさは、いつもの牧師らしくもあり、そこがまた不思議だった。
 彼の態度におかしなものを感じながらも、やはり教会の人間に対して強硬な態度もとれず、美咲は礼拝堂に足を踏み入れた。
 いつにない寒気を感じて肩をすくめる。牧師はなぜか緊張を増したようで、急かすように自分を祭壇前へと導いた。

「こ、これです。これが新しい教典です。まだ誰にも見せたことがない。美咲さんに、一番最初に見せようと思ったんです」

 黒い革の妙な雰囲気の本だった。
 美咲はそれを手に取りたくないと思った。不気味だった。
 彼は、いつから自分のことを下の名前で呼ぶようになったのか。
 腹立たしさすら感じた。

「すみません。私、そろそろ娘の帰ってくる時間ですので」
「待ってください。一目だけでいいんです。試しに、一度だけ。決してやましいものではないんです」

 やましくないはずがない。彼はまるでいやらしい行為を見せつけるかのように鼻息も荒く、余裕がない。
 美咲は逃げるべきだと思った。だがその手首も掴まれ、お願いです、お願いですと攻め寄られ、恐怖のあまりに尻餅をついてしまった。

「何を…何をなさるんですか!」

 牧師は美咲の上に馬乗りになり、胸に跨っている。彼の股間が体に触れることで、その膨張した欲望は美咲にも明らかになった。
 鳥肌が立つほどの嫌悪と、裏切られた悔しさで涙がにじむ。
 どいてください、と彼の太ももを叩く。彼は貧弱な男だが、それでも女の腕で払いのけるのは困難だった。
 牧師はますます息を乱し、股間を熱くして美咲を見下ろす。

「神は……私をお選びになったのです。あぁ、夢を見ているようだ。あなたが私の下にいる。まるでマリア様を押し倒してしまったみたいだ! なんと罪深い……」
「どいてください、牧師様! ご自分が何をされているのか、わかっているんですか!」
「美咲さん。あなたは生まれ変わる。私と共に変わるのです。さあ、この教典をご覧なさい。あなたの全てが、ここに書かれているはずです!」
「いや! やめてください! そんなもの、見たくは―――」

 革の表紙が、美咲の前で開かれた。
 そこには何も書かれていない白紙のページだ。
 でも、すぐにそれは間違いだとわかった。何かが書かれている。いや、次々に書かれていくのだ。白紙の教典に神の言葉たちが。
 膨大な量の情報が流れ込んでくる。溺れるかと思って、美咲は思わず大きな口を開けた。目から入る情報は脳に至るまで埋め尽くし、まるで自分が教典そのものになってしまったかと錯覚させられる。
 実際に教典は美咲の脳と繋がっていた。彼女の内面から思考・記憶・性格・過去の行動に至るまで情報として引き出し、それを「教え」と変換して彼女の中に差し戻し続けた。
 そっくりなコピーを脳内に戻し、自分の全てを一冊のバイブルに閉じ込められた美咲は、まさに「神」に人生を捧げるに似た陶酔と解放を味わった。

「はふ、あ……はぁぁぁぁ……ッ」

 彼女の体が牧師の下で痙攣する。性的な恍惚に見えるその表情と喘ぎに、教師の股間は敏感に反応した。
 美咲は、イッた。心が教典の世界へ達した。その確信がさらに牧師を興奮させ、彼の下着にシミを作った。

(これは本物だ…ッ! やはり、本物だったんだ!)

 牧師は感動に打ち震える。どこか半信半疑だった恐怖が晴れて、神の窓を開いたかのように視界が明るくなった。そして涙が止めどなく溢れた。
 美咲は、落ちてくる牧師の涙をふくよかな胸で受け止めてながら、忘我していた。
 しかし、彼女の内面では、激しい変革が起こっていた。
 美咲の家は祖父母の代から敬虔な信徒だった。神はいつも美咲のことを見てくれていたし、神を信じるおかげで幸福な人生を送ってこれたと思っていた。
 夫は誠実で申し分のない男だ。娘は引っ込み思案だが素直で信心深い子だ。
 家庭を守り、花を慈しみ、当たり前のように平穏に毎日は過ぎていくし、神の存在はそんな自分の生涯に寄り添い、支えていってくださる。それが中原美咲の望む人生だった。

 その価値観が、回転する。

 美咲はそれまで描いてきた幸福な未来絵図を、びりびりに引き裂き、燃やしてやりたい衝動に駆られた。
 くだらない人生だった。
 いつから間違っていたのかと、彼女は思う。きっと生まれたときから間違っていたのだ。
 それまでの自分を否定する。自分を責める。激しい後悔と自己嫌悪に陥る。
 しかしなぜ、愚かな自分がそのことに気づけたのか。
 激しい感情が落ち着いてくると、じわじわと感動が胸に広がっていった。
 圧倒的な感謝の気持ち。目の前にいる男性を通じて、神と繋がっていることが確信できる。
 素晴らしい教典と、素晴らしい教師を得た。自分の人生はここから始まるのだ。神はここにいる。体の上に跨っている。その熱い股間を胸に押しつけているのだ。

「はぁ…ッ!」

 牧師の興奮が教典を通じて自分に伝わってくる。心が離れようもないほど複雑に教典と絡み合い、一体になっているのを感じた。
 そして教典とは、この牧師の望みと一体なのだ。
 彼が自分の体を欲しているのが、誇らしくもあり、申し訳なくもあった。
 お望みなら、どのようにしてくれても構わない。違う男性の子を産んだこともある体でもよいのなら。

「あっ!? あっ、あっ……」

 ギシ、と美咲の上で牧師が腰を揺らした。彼女の中に波が走って、軽く達して下着を濡らした。
 そんな自分を好色な目でみる教師が、たまらなく愛しく恥ずかしい。牧師が、口端からよだれをすすって口を開く。

「美咲、きみは何だ?」
「あなたの子です……」
「では、私は誰だ?」
「あなたは……神です」
「私の中に神はいる。お前は私に仕えるべき最初の信徒なのだ」
「はい……私はあなたの仰るとおりに……」

 牧師の手が乱暴に美咲の服をたくし上げた。大きなカップのブラも強引に持ち上げられる。背中のホックが千切れる音を立てたが、それすらも美咲には祝福の鐘に聞こえた。
 美咲の胸は、やや横に広がり形を崩したが、美しい球形をしている。一児の母であることを忘れてしまったかのように、充血した先端を欲情に尖らせ、夫ではない男の前に晒していた。
 牧師は、ますます感動に胸を詰まらせる。
 
「美咲……お前の胸、美しい…ッ、んんっ、はぁっ、ちゅぶっ、んぶっ」
「あっ! あぁぁ! あぁぁぁっ、いいっ!」

 乳首に噛み付き、抑えきれない衝動のままに吸い上げる。美咲はその痛みを喜び、乱暴な愛撫に感謝した。
 嬌声と感謝の言葉が、はしたなく礼拝堂に響く。
 いつまでもしつこく牧師は美咲の胸を吸い続けた。興奮のあまり、下着の中に射精までしている。
 しかし信徒を、人妻を、美咲を己の欲望の物とした。
 神の作りし禁忌を破り、念願を手に入れたその感動は、たった一度の射精などで収まるものではなかった。

「美咲、四つんばいになれ」
「はい…ッ!」

 また下着ごと美咲の服を剥き、今度は肉厚の尻をあらわにする。
 溢れかえる女の匂いは、下着を肌に張り付くほど濡らしており、十分すぎるほど準備を終えて牧師の折檻を待っていた。

「なんて、いやらしい……、美咲よ、お前はこんなにも淫らな女だったんだな」
「あぁ、いやっ、ちが、違います…ッ!?」

 否定の言葉を出してすぐ、右手に握った教典から新たな「教え」が告げられた。
 中原美咲はいやらしい女だった。夫には満足できず、まだ知らぬ快楽に憧れる彼女は、いつしか牧師のことを思って体を火照らせ、彼に抱かれることを夢見ていた。
 ずっと前からそうだったのだ。教典がそう教えるのだからそれが正しい。彼女の中の記憶と常識が洗い流され、突如現れた秘めた欲望の記憶を真実とし、美咲は再度生まれ変わる。

「は…はい…ッ、わたくしは、いやらしい女ですッ。ずっとあなたに抱かれることを思い焦がれ、この身に不浄の炎を宿してまいりましたッ! どうか、どうかあなたのお慈悲で、わたくしの体を鎮めてくださいッ! わたくしをあなたの女に、生まれ変わらせてくださいませ!」

 もはや、地獄に落ちても後悔しないと牧師は思った。
 美咲の濡れそぼった女の部分はヒクヒクと男を求め、いつも隠れて眺めるだけだった尻が自分の前で剥き出しになり、ゆらゆらと誘っている。
 
(俺も今、生まれ変わる……)

 まだ精液が先端を濡らすペニスを、美咲のそこに押し当てる。妊娠させてしまうことなど恐れてもいなかった。その心配すら、もはや必要なかった。
 何をどうしようと美咲はもう自分の物だ。彼女もそれを望んでいる。
 今すぐ二人は、セックスしなければならない。

「ぅあぁぁぁあああああぁぁぁッ!?」

 ペニスを一気に奥まで押し込んだ。美咲の子宮口はとっくに男を迎えに下りてきており、先端をドンと受け止めると、膣全体を歓喜に震わせ歓迎した。
 吹き出す潮が牧師の太ももを濡らす。次々と止まらない噴出はまるで放尿のようであり、牧師を倒錯した想像で喜ばせた。
 一度、互いの呼吸を落ち着ける必要があった。そして波が引いて息が整った頃、牧師は腰を揺すり始めた。
 強い締め付けは出産経験のある肉体にしては信じられないほどだった。だが、彼の感じる快楽よりも、美咲が味わっている快感は、彼女の常識を覆すほどの快楽を極めていた。

「あぁぁッ! おぉっ! あぁッ! うあああぁぁぁッ!?」

 獣の咆哮を出して、美咲は尻を震わせる。熱が上がり、汗が噴き出す。
 美咲は未知の快楽に翻弄された。体は千切れんばかりだった。
 こんなのがこの世の快楽とは信じがたい。礼拝堂の扉をくぐって、自分は天国に放り出されたのだと美咲は思った。
 男の唇が、耳元を這う。ぞくぞくと痺れが走り、そしてその言葉に耳を貸さざるを得なくなる。

「今どんな気分だ、美咲?」

 沸騰する。そんな残酷な質問をなさるなんて、なんて意地悪で愛しい神なのか。

「頭が、おかしくなりそうです! 体がバラバラになりそうです! わたくしには、あぁッ、わたくしには偉大すぎるペニスです! 神! そう、神! 神がわたくしの中におります!」

 牧師は笑う。そうか。これが美咲の神か。ならば、天国まで導いてやらなければならない。牧師はますます腰を忙しなく動かした。美咲はその未熟な運動にも深い快楽を得て、だらしなくよだれを流して喜んだ。

「美咲ッ! 美咲ッ!」
「あぁっ! すごい! すご、すぎて、あぁっ、んっ、あぁ、死ぬっ、ひぬっ、ふぁ、あぁっ、か、神様ぁ!」

 淫らな行為が真昼の礼拝堂を汚していく。快楽を貪る男女の声は、神聖な響きとなって微かに外に漏れていった。
 だが、誰も聞く者は誰もいない。神の行為を憚るものは何もなく、二人はひたすら行為に没頭した。

(これが美咲の体…ッ! あれほどモノにしたかった人妻を、俺は今、犯している! 神の見ている前で!)

 射精も、何度も美咲の膣で行われた。
 彼女のそこから精液が溢れかえるたび、牧師はオスの本能を刺激され、絶え間なく彼女の中で勃起し、セックスは途切れることがなかった。

「……あひ、ひぃ、かみ、さま、あー……らみ、はまぁ……」

 だらしなく舌が伸びて床に這い、美咲の喘ぎ声も聞き取れなくなり、美しい横顔も混濁した様相を眺めながら、牧師は腰を動かしていた。
 この性欲も、神からの贈り物だろうか。
 いくら抱いても収まりそうもない。どれだけの回数をこなしても、疲れる気配もない。
 早く次の女を手に入れなければ、すぐに美咲を壊してしまうだろう。しかし壊れるまでこの女を犯すのも悪くないと思えて、にたりと牧師は笑みを浮かべる。
 どうしようと自由だ。この女は自分のもので、これからも女は手に入り続ける。

「美咲、聞け。今までの信仰は捨てるぞ。俺は新しい神の教えを伝える教祖となる。信仰の新しい道を切り拓くときがきたんだ」

 ゆさゆさと美咲の尻を揺すり、その締まった肉に指を食い込ませる。
 美咲の意識はとうに消し飛んでいるが、教典は教祖となった男の言葉を無理やりに脳に叩き込み、カクカクと首を頷かせた。

「我々は……、×××教だ!」

 ×××教。
 その新しい宗教の名は、美咲の耳に入っても言葉として理解できず、一度には飲み込めなかった。
 だが、やがて眠る脳に深く刻まれていく。
 彼女の人生を貫き、血管を巡り、常識と倫理に浸透して、肉となった。
 中原美咲は、男の欲望が生んだ信仰の奴隷として、新たな人生を歩み始めたのだ。

 樋口珠梨は、母親と一緒の食事をケータイと共に過ごす。

「ママ、ソース取って」
「ん」

 彼女の母は無口でおっとりした女性で、出歩くような趣味もなく一日中テレビばかり見ている専業主婦だ。中学に上がってからは派手な物を好むようになった珠梨とは、そもそも話が合わなかった。
 バラエティクイズ番組がうるさい笑い声をたてて必死に盛り上げようとしても、二人の食卓にはさざ波すら立つことがなく、食器と箸の当たる音と、珠梨がケータイをいじる音だけがした。

「ごっそさん」

 だらしなくゲップをして、珠梨は2階の自室に戻る。家族といてもすることがない。だからといって、自分の部屋ですることもたいしてなかった。
 長い金髪を摘んで、なんとなく匂いを嗅ぐ。3日ほど洗ってない退屈な匂いしかしなかった。
 手鏡を拾って、まつげの様子でも見てみることにする。
 美少女だとよく言われる。そのことは間違いなく両親のおかげだし、感謝もしていた。
 父に似たすっきりとした顔立ちと、母に似て恵まれたプロポーション。高校2年の16才にして、すでに20人を超える男と関係を持ってきた。今は少し落ちついて、男漁りも卒業したと友人に言えるだけの余裕も自信もある。
 友人と男。今の生活に特に不満はないけど、家にいるのがとにかく珠梨には退屈だ。
 父も母も陰気な質で、父に至ってはサディストらしく、おとなしい母にたまに暴力を振るっていた。一人娘の自分は可愛がられているが、思春期に親離れして以来、そんな両親のことをとても気持ち悪く感じて距離を取っていた。
 財布を開いて中を覗いてみる。昨夜のバカ騒ぎで空になりかけたが、その後、声をかけてきた神父を脅して手に入れて2万円を山分けした5千円紙幣が一枚残っていた。
 昨夜のことを思い出すと笑える。聖職者のくせして自分たちの下着に喉を鳴らし、金を払えと言ったらブルブル震えながら財布を差し出してきた中年男の顔は、滑稽だった。
 怯えていながら、怯える自分自身に欲情した顔。珠梨はいろんな男を知っている。自分の娘のような年頃の女にいじめられることを喜ぶ中年も世の中には多いし、そういうヤツに限って金の支払いも良い。
 男なんてくだらない。中学生のとき、ムカつく教師をセックスに誘って、まんまと退職に追い込んだこともあった。男はみんなペニスの奴隷だ。気の毒な生き物だ。
 でも、セックスは気持ちいい。
 無意識に珠梨は下着の中に手を入れる。ジョリ、と陰毛が指を擦り、その下の柔らかい肉が乾いた感触でぷるんと弾んだ。

「ん……」

 珠梨は、小学生の頃にはもうオナニーにはまっていた。恵まれた容姿のおかげで、すぐにセックスを知ることもできた。

「あ……ふぅん……」

 慣れた動きで指は珠梨の中を開き、その周囲を這い回った。
 肉芽の場所をくすぐって、そっと中身を押し出し、羽根で撫でるように先端を掠める。
 肌に刺さる快感は、珠梨の喉を仰け反らせ、赤色の舌を唇の上に滑らせた。
 ずるずると体が沈み、床に仰向けになった彼女は、股間に挟んだ手を太ももで締め付け、ごろりと体をくねらせる。
 そして、そこで動きは止まり、やや上気した目で天井を見上げてため息をつく。

「ふー、くだらね」

 彼女は自分がすぐにセックスを求める理由を、「あたしってスケベだから」と単純に考えているが、それはじつのところ家庭への不満や親に甘えたいという願望の代替でしかない。
 だが彼女自身はそのことに気づいてはいない。セックスによって大人を翻弄できる少女でありながら、根底にある動機が幼さであることを自覚するほど、彼女は大人でもなかった。
 少女と呼ぶに相応しい年頃だ。
 ケータイの電番をスクロールさせ、しばらくご無沙汰している男の誰かを探す。特定の男を作らないやり方は気軽ではあるけど、特定にならないように気をつけるのはそれなりに神経を使った。
 珠梨は、自分が男に惚れられる容姿であることを自覚しているし、根無し草のように男の間を渡っている自分が恋愛をすれば、いろいろと厄介な問題が起こることも知っている。
 何度もそれで修羅場になり、中学時代の同級生には総シカトされている珠梨にとって、面倒くさいことはとにかく御免だった。

「あ、ショーくん? 風呂入りに行かね?」

 とりあえず、友だちの友だちを通じて知り合った美容師に連絡を取り、珠梨はラブホテルへ向かう。
 セックスのついでに髪も洗ってもらって、すっきりとした。

 星置薫は、無敵のクラス委員だった。
 固く結んだ黒髪は強い意志の象徴であり、黒縁のメガネは学業専念の証であった。
 乱れのない制服の着こなしは生徒の模範で、ハキハキとした声はリーダーの武器である。
 彼女の夢は、政治家になること。いずれはこの国の指導者になること。
 本気でそれを実行するつもりだし、自分にはその能力があると信じていた。
 そんな彼女にとって、女子校の教室は動物園の檻のようだった。

「彼氏がー、バイトで金曜のイベント行けないとか言い始めてー」
「ねえ、誰か今月のegg買ってくんない? 500円でいいよ」
「放課後オケろうぜ! 男子4名確保した!」
「うお、生理きた!? よかったー。マジで彼氏に殺されるかと思ったー」

 もうすぐチャイムの鳴る時間だ。薫は教科書とノートを机に出し、凛と姿勢を正して、二度手を鳴らす。

「みんな、そろそろ先生が来るよ。席について授業の準備して」

 教室は一瞬静まり返り、教卓の前で真っ直ぐ背筋を伸ばす薫に視線が集中する。

「はーい、委員長。用意しまーす」
「リーダー、あたし教科書忘れたんで借りてきまっす。すみません」
「女王様、準備は整いましてございますー」

 がやがやと薫をからかうようなことを言いつつ、クラスメートたちは各自の席に落ち着き、授業の準備を始める。
 薫は教室のリーダーで女王様で管理人で影の校長だった。
 真面目で融通の利かない薫のキャラクターは、クラスメートの中ではとっくに認知されているし、その性格も込みで慕われてもいた。
 口うるさいのは確かだが、頼れば応えてくれるし、教室の中でいざこざが起こっても、彼女が介入するば強引にでも平和解決してくれる。
 例え相手が教師でも、間違ってると思ったときは堂々と非を指摘する姿勢は、クラス代表として頼もしく映っていた。
 ようするに、少し変わり者だが便利なクラス委員だと周りには思われている。多少は面倒くさく思われても、嫌われてはいない。
 しかし薫は、そんなクラスメートたちのことを見下していた。
 主体性も行動力もなく、遊ぶことだけには積極的。責任感にも乏しく、計画性などまるでない。遊んでばかりの子も、勉強は出来るくせにおとなしいだけの子も、どいつもこいつも役立たずだ。
 だが、自分はこれからもっと多くのそういう人間の上に立って指導していかないといけない。たかが30人程度の教室くらい、まとめてみせて当然だと薫は思っている。
 彼女たちに自分が「面倒くさい堅物」と思われてることは知っているし、そこを把握して、少しの愛嬌と優しさをたまに見せることで、彼女たちの心を掴むくらいのことも、当たり前のように出来ていた。
 薫にとって他人は駒だ。役に立つかどうかではなく、自分の思い通りにコントロール出来る人間であるかが重要だ。
 そして彼女は、クラス全員の特徴と好みと弱みを把握し、そうと気づかせぬまま、動かせるようになっていた。
 教室は彼女にとって動物園の檻だ。騒々しく、本能に忠実な獣たちだが、檻の中にいるのだから制御するのは難しくない。
 私は他の人たちとは違う。
 薫は、幼い頃から周りの人間を見ていると、なぜかそう思えて仕方なかった。

「きりーつ」

 ドアが開くと同時に、薫は号令して生徒たちを立たせる。
 その中を、クラス担任の梅垣千歳が作り笑顔を貼り付けて入ってくる。

「みんな、おはよー」

 梅垣は背が低く、痩せぎすで、40才になったばかりだというのに白髪の多い女性だった。
 スーツはいつもよれよれだし、化粧っ気もないせいで年齢以上に老けて見えた。

「今日も一日がんばルンバー、ってね。それじゃ出席とるよー!」

 彼女のことは「梅バア」とみんなは呼んでいる。そして薫も内心ではそう呼んでいた。
 性格は暗く、いじけた人間だ。なのに明るく振る舞おうとしているのが露骨で痛々しい。
 過去には精神的な病で錯乱して休職していたこともあり、今でも職員室では腫れ物扱いされている。そのことは生徒たちも知っていた。
 薫にとっては、担任の能力や人格などはたいした問題ではない。彼女がどういう人間なのかも、興味はなかった。
 必要な単位と評価を自分に与えるなら、それ以上のことは期待も失望もしない。

「それで、みんな日曜日の都合はどうかな? 興味のある人は参加してみてね。待ってるよ~」

 しかし、宗教系の学校でもないのに勝手に勧誘活動するところには辟易していた。
 梅垣の手にしているのは、先週にも配られた「日曜ミサ」の告知チラシだった。他人の信仰にどうこう言う趣味は薫にもなかったが、この担任は露骨にすぎる。学園の理事会か、その教会にでも訴えれば、彼女は一発レッドで退場だろうなと、薫は思った。

「星置さんは、日曜は何か用事でもある? よかったら先生、車で迎えにいくよ?」

 薫は内心で盛大にため息をついてから、表情を変えずに答える。

「すみません。両親と出かける約束をしていますので」
「そお? 残念」

 わざとらしい言い訳にも、梅垣は堪える様子はない。薫も、担任にウソをついた罪悪など感じなかった。

「あたしも親と出かけまーす」
「私もー」
「私も委員長と出かけまーす」
「委員長とかい!」

 薫の後に続いて、他のクラスメートも嘲笑まじりに手を挙げる。
 梅垣は、「残念、残念」と張り付いたような笑顔で答えていた。

 ここ数日、美咲が出かけている回数が増えている。
 美咲の娘、愛菜は『教会に行っています』のいつもの書き置きを手に取って、首を小さく傾げた。

(ママ、そんなにお庭の手入れが大変なのかな?)

 それとも聖歌隊の方で練習が増えたのかもしれない。美咲が教会活動に熱心なのは愛菜もよく知っているので、あまり気にはしていなかった。
 愛菜にとって、神様は「お母さんの大好きな人」だ。美咲と一緒にミサにもよく出席しているし、教会での名前も貰っているけど、信仰を親のしつけの一部としか理解していない愛菜には難しいことはよくわからない。
 教会のことは好きでも嫌いでもなかった。むしろ今の牧師のことはあまり好きではなかったが、こないだは友だちのことで相談に乗ってくれたし、悪い人ではないようだ。
 見た目で人はわからない。神様もそういえば似たようなことを言っていた気がする。
 お母さんが忙しいならと、代わりに洗濯機を動かした。お手伝いをきちんとすると、美咲が褒めてくれるから嬉しい。
 良い子にしてたら、神様もいつか目の前に登場して褒めてくれるんだろうか。
 そんなことを考えながら、掃除機を出してきてコードを伸ばす。
 愛菜は、週末まではいつもどおりに平穏な毎日を過ごしていた。

 しかし、日曜日。彼女の運命が大きく変わる。
 母親も参加している聖歌隊の賛美歌を聴きながら、愛菜の頭の中はパニックを起こしていた。

(え……え?)

 黒のおとなしいデザインの聖歌隊服は歌の途中で脱ぎ捨てられ、愛菜の見たことのない革の衣装に替わっていた。
 何より彼女を驚かせたのは、その衣装というのが乳房を下から支えるだけで乳首も露わなブラと、股に食い込んで痛いのではないかと愛菜が心配になるほど細いパンツと、ガーターベルトにストッキングという、ボンテージファッションだったからだ。
 しかも、母の美咲はその中央にいた。いつもは後ろの方で低いパートを控えめに歌うだけだった彼女が、他のおばさんたちを従えるように跪かせ、猥褻な衣装を堂々と見せつけながら、歌声を披露していた。
 とても、いやらしい表情をして。

(……ママ、何その格好? 何その恥ずかしい歌!)

 愛菜は真っ赤になった顔を、貰ったばかりの新しい教典で隠す。
 まだ開いてはいなかった。母の聖歌隊の出番がすぐだったし、どうせ難しいことは分からないのだから、神様の話は母から教えてもらうのが常だった。
 だが、愛菜の知っている母の姿はここにはいない。まるでアメリカ映画に出てくるストリッパーみたいだ。いやらしい。恥ずかしい。
 なぜか周りの人もそんな格好の聖歌隊を喜び、貰ったばかりの教典に涙を流して有り難がっている。愛菜はただ身内として恥ずかしくてたまらず、穴があったら入りたい気持ちで顔を伏せる。
 その後ろから肩を叩かれ、思わず悲鳴を上げてしまった。

「どうしたの、愛菜ちゃん? 教典はまだ見てくれてないのかな?」

 教会の牧師が、すぐ近くに顔を寄せて、愛菜の耳元に息を吹きかけるように囁く。両肩にどしりと手を置かれ、愛菜の細い体はビクリと震えた。

「あ、あの、ママが……ママと一緒に読もうと思って……」
「そうか、まだ見てないのか。それじゃ、私が一緒に読んで説明してあげよう。ホラ、お尻を上げて」
「え……?」

 牧師の手が腰を掴んで、ひょいと体を持ち上げる。そして愛菜と椅子の間に体を滑り込ませると、膝の上に愛菜のお尻を着地させてしまった。

「え、あのっ、牧師様ッ、こ、こんな格好…ッ」
「いいから、さあ、教典を開いて。私と一緒にお勉強しよう」

 自分を小さい子だと思って抱っこしているのだろうかと、愛菜は思った。低学年の頃なら父の膝の上に座ったりもしていたが、今はもうそんなことはしない。それなりに体も成長しているし、教会の人とはいえ、他人のおじさん相手にこんな格好は恥ずかしい。重くないんだろうか。
 などと、愛菜は見当違いの混乱をしているせいで、その尻の下で牧師の股間が固くなっていくことに気づいていなかった。
 牧師は愛菜の腹部に手を回して、そのミルクと柑橘系を混ぜたような匂いを鼻腔いっぱいに吸い込みながら、期待に胸を膨らませる。
 こんな幼い少女を手にかけてもいいんだろうか。
 その逡巡は一瞬だけだった。今の自分には全てが許され、勝利が約束されている。愛菜の髪に顔を埋めて、もう一度優しく囁く。

「さあ、教典を開いてごらん」
「は、はい…ッ」

 大人に逆らうなど愛菜はしたことがなかったし、まして相手は牧師様だった。
 言われたとおりに教典を開くと、愛菜は、がくんと首を倒して、本の中に引きずりこまれた。
 吸い込まれていくような感覚だった。頭の中のものは全て教典が引っ張り出し、文字にしてしまった。そしてそれは「新しい自分」に書き換えられ、再び自分の中に帰ってくる。
 愛菜は今まで、神様というものをよく理解できなかった。でも、その教典によって彼女は深く理解した。
 神様とは、今、自分がお尻の下に敷いている人だ。神様は今、自分の体を優しく撫でている最中だ。

「愛菜ちゃん、足を開いて」

 言われたとおりに、愛菜は足を開く。スカートの奥の白い下着は丸見えになり、その上を牧師の指が遠慮なく這う。
 愛菜は、初めて知る感覚に口を微かに開いた。膨らみかけの乳房を這う手は乱暴で痛いのに、なぜかそこからも快感が押し寄せてきて、下腹がカァッと熱くなった。

「良い子だね。じっとして言うとおりにして。愛菜ちゃんは、神様の下僕なんだよ」

 教師の手が愛菜の下着を引き下げようとしたときも、彼女は足を閉じて尻を浮かせて、彼の動きを助けた。
 神様の下僕。教典を通じて神の言葉は彼女の中に浸透していく。
 全然難しい話ではなかったことに愛菜は安堵した。神様の下僕。ようするに、自分は今日から神様の言いなりになって、どんな命令にも従えばいいんだ。
 それぐらいのことなら自分にも出来そうだと思って、愛菜は嬉しくなって笑った。

「愛菜ちゃん、もう一度足を開いて」
「はい」

 言われたとおりに足を開いて、椅子の上に足を上げて「M」の形を作った。大胆に体を開いても、愛菜の未成熟な股間はぴったりと閉じたままだった。
 その未熟な秘裂を指先で弄びならが、牧師は薄く笑う。

「あぁ、こんなに小さなオマンコじゃ、私のデカマラは入りそうもないな」

 牧師の言う猥雑な言葉は愛菜にはあまり理解できなかったが、彼が若干失望しているのは伝わってくるので、愛菜は申し訳ない気持ちになり、涙を滲ませた。

「でも大丈夫だよ。女の子はもう一つの穴を使ってセックスすることが出来るから」

 だから、彼の言っていることが少女にとって如何に残酷な要求であることも理解せず、「大丈夫」の一言に単純に安堵して微笑んだ。
 愛菜のすべすべした尻を撫でるように広げ、牧師は彼女の母親を呼ぶ。

「美咲、こっちへおいで。私のチンポをしゃぶって濡らすんだ」
「はい」

 さっきまでは「いやらしい格好」にしか見えなかった母の衣装も、今は「神の歌姫」に選ばれた誇らしい女性に見えた。
 その母が、自分の股の間に跪いて教師のペニスをしゃぶっている。股間越しにそれを眺めながら、愛菜は自分もいつか同じ奉仕を彼にするのだろうと思って、母の仕草にうっとりと見とれた。

「よしいいぞ。美咲、お前の娘のアナルの処女を、お前の見ている前で奪うぞ。よく見ていろ」

 愛菜にとってはまた難しい単語が出てきたが、美咲が幸福そうに笑っているから、これから起こることはきっと良いことなのだと思った。
 お尻の穴に、何か熱いものが当たる。「じっとしていなさい」と牧師が言うので、「はい」と素直に返事して肛門の違和感を堪える。
 何かが、ぐいぐい穴を広げようとしている。何をしてらっしゃるんだろう、と思う間に激痛が走り、太いものが腸の中にねじ込まれてきた。

「痛いッ!」

 教師の腕がぐいと体を抱き寄せ、逃げようとした尻をさらに自分の方へ押し当てる。ずぶ、ずぶ。体を真っ二つにするような衝撃が、愛菜から言葉を奪い、甲高い悲鳴となって喉を振るわせた。

「大丈夫だ…ッ、すぐに痛くなくなる。じっとしてろ! アナルセックスは気持ちいいのだ!」

 ペニスを締め付ける強烈な力に、牧師もまた悲鳴を上げそうだった。セックスの事実を理解していない愛菜は、必死の力で肛門を締め付ける。未開発の体は、男を思いやる余裕もなく、乱暴な拒絶を示した。
 だが、彼の言葉は教典を通じて真実となる。
 愛菜はガクンと首を揺らすと、新たに注ぎ込まれた神の言葉に体を浸らせる。
 牧師が言ったとおりに、体を貫く痛みはすぐに消えた。そして幼い彼女には名付けがたい未知の感覚が、肛門を中心に広がっていく。

「あぁーッ!?」

 快楽が少女の肉体を揺るがし、愛菜自身にも理解できない感覚に全身が震えた。
 高い熱を発したときのように頭がぼやけ、お尻から伝わる先鋭的な刺激に体を支配される。自然と口からはさかりのついた猫のような大きな声が出て、恥ずかしくてたまらないのに、それを抑えることは出来そうもなかった。
 愛菜は、知識よりも先に体でセックスを知り、体で覚えていく。
 牧師はその変化を陰茎で感じていた。
 少しほぐれた彼女の肛門を、愛菜の体ごと揺すって味わうと、背徳的な喜びがセックスの快感以上に彼を喜ばせた。
 オナニー器具のように軽くてきつい彼女の肉体は、思うままに快楽を貪るにはちょうどいい大きさだった。

(神の前で、年端もいかない少女の肛門を犯している…ッ。愛菜に、セックスを教えたのは俺だ! 美咲と愛菜と、親子揃って犯してやった!)

 目も眩みそうな感動だった。
 ずりゅっ、ずりゅっ。膣と違って奥行きが深く、大人の体と違って扱いやすい愛菜の肉体に、牧師は目も眩むような快感と征服感を覚え、夢中になって貪る。

「あっ、あっ、あっ、あぁぁ!?」

 幼い愛菜がまだ知るはずのない感覚は、彼女の中で神秘的な体験となって広がっていく。
 礼拝堂には今も聖歌隊が歌うゴスペルが響き渡り、ステンドグラスの向こうから穏やかな日差しが愛菜の元にも降り注いでいた。
 そして神様が今、自分の中にいる。お尻の中で大暴れしている。
 これは奇蹟。すごい奇蹟だ。

「愛菜ちゃん、今、自分が何されてるか、わかる?」
「あっ、あっ、か、か、神様がっ、います! 私のお尻の中、行ったり来たり、してますっ!」
「そう、それ、アナルセックスって、言うからっ。言ってごらん?」
「アッ、アナルセックス! アナルセックスです!」
「そう、良い子、だ! もっといくよ。もっと、ズッコンバッコン、するよ!」
「はいっ、して、してください! アナルセックス! アナルセックスを、お願いします!」
 
 牧師に両足を持ち上げられて、「V」の字になった。それでも軽い愛菜の体はポンポンと跳ね上がり、細い足をビクビク振るわせ、勝利の証のようにつま先をピンと伸ばした。
 美咲は愛娘の股間に舌を這わす。愛菜は母の優しさに感激の涙を零し、括約筋に力を入れて牧師のペニスにも感動を伝える。
 愛菜の細く柔軟な体は大きく海老反り、小さな舌は突き出されるように口から飛び出た。ひっくり返った目の玉にはもう何も映っておらず、ひたすら愛菜は今の快楽と神に感謝を祈った。
 やがて、腸の奥に熱いものをビシャリとかけられたとき、愛菜は本物の天国を知った。
 それは何度も腸の中で痙攣し、そのたびに熱湯のようなものを愛菜の体に吐き出し、そして愛菜をぐんぐんと天国の向こうへと運び去っていった。

「……美咲、四つんばいになって愛菜を乗せろ。お前も尻の穴を出せ」
「はい」

 失神した愛菜を美咲が背負う。そして四つんばいになると、母親の美咲は、愛菜がもっと小さい頃に彼女のお馬さんになってあげたことを思い出した。
 あの頃より、もっと幸せな未来があるなんて想像もしていなかった。
 神様はなんて慈悲深いお方なのだろうと思いながら、美咲は大きな尻を牧師に向かって広げる。
 牧師に乱暴にペニスを突き入れられても、心に浮かぶのは感謝の気持ちだけで、やがてそれも快楽の渦に巻き込まれた。
 母と娘、アナルセックスの味比べ。容赦なく繰り返される肛門虐待に、中原母娘は感謝と快楽で応え続けた。

 そして愛菜が目を覚ますと、すでに日は傾いてオレンジ色になっており、礼拝堂の中には性の匂いが充満していた。
 牧師はまだ知らない女性を犯している最中で、他の女性も裸になって眠っている者、抱いてもらえず一人で慰めている者、同じく一人でペニスを擦る男性たちなど、呻き声があちこちで聞こえていて、目が眩むような光景だった。
 
「我々は、×××教の信徒である。私は、その教祖だ」

 愛菜はその新しい教えの名を心に刻んだ。そして自分がその下僕であることを誇りに思った。

「私の教えを広めるんだ。もっと、もっとだ。信徒を多く広めた者には、相応の位を授け、私のそばに侍らせてやろう」

 愛菜は他の信者や母親の美咲と一緒に、歓喜の声を上げて教祖に祈りを捧げた。
 神様が、愛菜にとって「お母さんの大好きな人」から、「私の命」に変わった日だった。

 そして、同じくその場にいながら教師に抱かれることのなく捨てられていた梅垣千歳にとっては、野心の目覚めた日になった。

 近頃、母がおかしな様子になっている。
 珠梨はそのことに気づいてはいたが、あまりに気にはしていない。
 元々、おかしな両親だ。それが多少方向が変わったとしても自分には関係ない。
 夜遊びに出かける玄関前で、父の罵声がリビングから聞こえてきても、彼女は慌てる気分にもならなかった。

「お前は、俺に黙って預金をこんなおかしな宗教に使ったのか! この、バカ女!」

 罵声とともに激しい物音もする。
 あぁ、宗教だったのか、と珠梨は納得した。ここしばらく落ち着きのない母が、いつも変な本を手にしていたことを思い出す。
 一度、珠梨にも読んでみなさいと勧めてきたことがあったが、本なんて読まないと言って断った。
 断ってよかったと思った。宗教なんて気持ち悪い。
 神棚も仏壇もない家に育った珠里にとって、宗教とはカルトか街角のキャッチ程度の認識だった。

「パパー。ママのこと殺しちゃダメよー?」

 聞こえたかどうかは知らないが、どちらにしろ両親の問題に関わるつもりはない。珠梨は夜の街に向かって勇ましく玄関の扉を開く。今日はテレビの星占いで一位だったから、いい男と出会えるかもしれない。
 宗教には否定的だが、占いやジンクスには簡単に気分を影響される。珠梨は、どこにでもいる女の子だった。

 一方、珠梨の母は何度か夫に頬を打たれたあと、息を乱す夫に向かって、一冊の本を差し出す。

「何も知らずに叩くなんて、あんまりじゃありませんか」

 いつもなら泣いて謝るだけの妻が、妙に落ち着き払った態度なのが、夫の神経を逆なでた。

「知らないが何だ。宗教など、どれも最悪だ。神だの仏だの言うことは違っても、やってることはただのお布施詐欺じゃないか!」

 合理主義者の夫は、非科学的なものも嫌う。それでも妻は、黒い革表紙を彼に向かって差し出し続けた。

「一人一冊です。一人ずつ、特別の教典を授かるのです。あなたの分も珠梨の分も私が預かってきました。私も、近所の奥さんに誘われて初めてこれを知ったんです。こんな素晴らしいものは、みんなに広げるべきです。神は、一人一人に幸福を分けて下さるんです」
「何も、気色悪いことを…ッ!」

 ビシ、と頬を張っても、妻は頑として動かない。さすがに不気味なものを感じて、それ以上は手を出すのを憚られた。

「……お願いです。私を信じてはくれませんか? 私は間違ったことをしているつもりはありません。あなたにも珠梨にも、幸せになって欲しいだけなのです」

 妻は宗教に洗脳されていると、彼はようやく合点した。
 そして心底あきれかえった。まだまだ世の中には、このような世迷い言に身を委ねたい愚か者がいるらしい。
 まさか身内からその愚か者が現れるとは残念で仕方ないが、偽善と欺瞞に満ちたインチキ宗教理論なら、いくらでも論破してみせる自信が彼にはあった。
 ならば正論をもって彼女の洗脳を揺るがしてやろうと、妻の差し出す革表紙をめくる。

 そして、瞬きを数度した後、渦に揉まれるように彼もまた教典の世界に引きずりこまれ、妻と同じ神の下僕に洗脳された。
 これまでの価値観を失った代償に、身も心も委ねられる安息の地を手に入れる。彼は手をついて妻に謝罪していた。妻は、そんな彼の背中を優しく撫でて支えた。

「いいんですよ。誤解だったんですから。神はあなたを許してくださいます。神が許すのですから、私もあなたを許します」
「本当か? 本当に許してくれるのか、この愚かな夫を……」

 自分は本物の愚か者だと、彼は自身を罵った。
 知らなかったのだ。女は全て神の供物であり、男はそれを差し出す奴隷だと言うことを。
 大事な供物に手を上げるなど、許されざる大罪だ。

「これからは、たくさん稼いで私にお金を持たせてください。私はそれを教会に運ぶミツバチです。在宅の信徒は、毎月お金を捧げなければなりません。そのお金が少なければ、神はきっと私たちに罰をお与えになります」
「稼ぐとも。必死で働いてくるさ。私たちの財産は、全て教祖様のものなんだからな」
「それに、女もです。美しい女は教祖様に捧げるのが義務です」
「あぁ、わかってる。我が家には宝がある。少し、じゃじゃ馬すぎるが……見た目だけならどこに出しても恥ずかしくない娘だ。きっと、教祖様も喜んでくれるはずだ」
「ええ。きっと、教祖様は何度も何度もあの子とセックスしてくださるでしょう。本当に、珠梨は我が家の宝ですわ……」

 樋口夫妻は手を取り合い、感謝の涙を流した。
 神に感謝して、久しぶりの口づけまで交わして、朝まで神について語り合って過ごした。

 星置薫は、錯乱した担任に秘かな殺意を抱いていた。

「みなさん、聞いてください。私たちはみんな神の下僕なのです。あなたたちは、神の女だったんです!」

 教室の中は失笑と戸惑いが交錯している。
 今までは「梅バアだから仕方ない」の暗黙の了解でスルーされてきた宗教熱が、はしかになって頭を壊してしまったらしい。

「ウソじゃないんです。先生を信じて。神は、この地上に在らせられます。約束の時は今だったんです。早くみなさんも目覚めなければなりません。私を信じてついてきてください!」

 だめだコイツ。
 と、薫は片方の眉を引き上げる。
 時間外に何をして遊んでようと担任の勝手だが、今は大事な授業中だ。後ろの席の子がツンと薫の背中をつつく。『なんとかして、委員長』の合図だ。内心でため息をついて、薫は右手をピンと伸ばした。

「よろしいでしょうか、梅垣先生」
「な、なにかしら、星置さん?」
「先生のお気持ちはよくわかりました。でも、今は授業中です。中間テストも近いのですから、まずは授業の方を先に進めてもらえないでしょうか」

 委員長の無敵のメガネが、きらりと光る。
 梅垣は表情をかすかに曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。

「そうね。先生、ちょっと興奮し過ぎちゃった。メンゴメンゴ」

 ぺろりと舌を出して、ゴチンと自分で頭を叩く。本当に気持ち悪い女だと薫は思ったが、その表情にいつもの作り物臭さがないことまでは気づかなかった。
 梅垣はのぼせ上がっている。心の底から喜びを感じていた。
 花のように可憐な少女たちが、自分の手元にあることに。そして彼女たちを神に捧げる機会が、自分に与えられていることに。

「じゃあ、これだけ配らせてね。教会からいただいた教典なの。すごく大事なことが書いてあるから、一人一冊ずつ後ろに回していってね。まだ開かないで。先生の合図でめくりましょう。ごめんね、みんな。すぐ終わるから」

 黒い革の表紙だった。
 名前を書くと相手を殺せるノートだな、と薫は思った。
 だったら、まずはこの担任で試してやるのに。
 フンと鼻で笑って、薫は冊子を机の上に放り出す。
 梅垣は、慌ただしく跳ねる心臓を胸の上から抑え、大きく深呼吸をした。
 
「開く前に、一つだけ約束して欲しいの。あなたたちを導いたのは先生よね? だから、あなたたちは先生の指示に従ってほしいの。より素晴らしい形でみんなを教祖様に捧げるために先生もいろいろ考えているんだから。約束して。神様に会いたければ私の指示に従うと」

 もはや教室の中には担任に対する失望と嘲笑しかない。なのにまだ神がどうとか言っている梅垣には、薫も思わず失笑してしまった。

「さあ、開きましょう。あなたたちの手元にある、天国への扉を」

 心底、バカバカしいと薫は思う。
 今日のことは学年主任か理事長にでも報告しておくことにしよう。
 そういうことをすれば、事なかれ主義者たちの職員室で「厄介な生徒」という印象がついてしまうのは承知しているが、どう考えても非は担任にあるのだし、かまわないだろう。
 革の表紙に手をかける。
 そしてめくる寸前に、ふと、「教祖に捧げる」などという梅垣の言葉に、薫は不穏な気配を覚えた。
 だが、その手はすでに表紙を開いてしまっていた。

 中原愛菜の友人、新藤かりんは「ぐぬぬ」とあごに皺を寄せる。
 愛菜が日曜日には教会に行くので遊べないことは前からのことだが、最近では土曜日も、平日の放課後にも自分の誘いを断るのだ。
 前にも一度、「愛菜の付き合いが悪い」とケンカになったことがある。すぐに仲直りしたが、そのときも「牧師様に相談に乗ってもらった」と、愛菜は嬉しそうに言ったのだ。
 友だちよりも神様が大事かと、かりんは思う。男勝りなかりんが、気の弱いお嬢様タイプの愛菜を守り続けること数年。「ナイトとお姫様みたい」と他のクラスメートに揶揄される親友関係もじつは悪い気がしていなかった。
 愛菜は自分が付いていないとダメなんだ。なのに、近頃の愛菜はますます神様贔屓がひどくなっている。
 このままではいけないとかりんは思った。人は神のみに生きるにあらず。もっと友人付き合いを大事にして欲しいと、かりんは愛菜は詰め寄った。
 かりんの子供らしい独占欲が強くなっていくのは、最近、妙に色っぽく見えることがある愛菜に対する焦りのせいでもある。
 どうしてかはわからないが、愛菜が自分より先に大人になっていくような、置いて行かれているような、そんな寂しさをかりんは恐れていた。

「うん、私もかりんちゃんにお願いがあるの」

 そんなかりんの手をとって、愛菜は優しく微笑む。聖母のような温かさに、かりんはドキリと胸を鳴らした。

「日曜日、一緒に教会に行ってくれない? お友だちを誘って来なさいって言われてるの。だから私、かりんちゃんと一緒に行きたいなぁって思って」
「あ、あたし? でも、教会とか、神様とか、うち仏教だし……」
「大丈夫だよぉ。新しい神様はそういうこと気にしないの。可愛い子は大歓迎だって。だから、かりんちゃんなら大丈夫。一緒に教会に行って、愛菜とご本を読もう?」
「え、う、うん。そこまで言うんだったら……別に、いいけど」
「やった! ふふっ」
「ちょ、ちょっと愛菜、恥ずかしいってば。抱きつかないでよ、もう!」

 その夜、かりんは寝付けなかった。教会なんて行ったことがないし、知らない大人が多いんだろうと思うと緊張した。
 でも、愛菜があんなに喜んでくれるとも思ってみなかった。ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ愛菜に抱きしめられ、なんだかまだ顔が熱い気がした。
 考えてもみれば、簡単なことだった。自分も教会に通ってしまえばいい。そうすれば愛菜と遊ぶ時間も増えるし、共通の話題も多くなる。どうして今まで思いつかなかったんだろう。

「……えへへっ」

 にやけてしまう顔をクッションに埋め込んで、日曜日を心待ちにして、かりんはコロコロとベッドの中を転がった。

 そして待ちに待った日曜日。

 かりんは、会ったばかりの教会の教師に肛門を犯されていた。
 頭がぼんやりして記憶が曖昧だ。愛菜と並んで黒い本を開き、そして、気がついたら他の大人の女性たちに混じって四つんばいになり、抱かれる順番を待っていた。
 かりんの肛門は、最後に犯された。
 まるで体をノコギリで真っ二つにされてるようだ。腸の中をゴリゴリとペニスで擦られるという衝撃的な体験にも関わらず、そのたびに味わったことのない快感で体中が震えた。
 これさえあれば何もいらないと、かりんは思った。教祖様にお尻を犯してもらえるなら、ゲームもマンガも、何なら愛菜も、もういらないと思えた。
 愛菜はずるい。こんな気持ちいいことを独り占めしてたなんて許せない。
 でも、自分には教えてくれたからチャラにしてやってもいい。これからは、二人で一緒にお尻を可愛がってもらうんだ。
 かりんはもう、自分の肛門と神様のことしか考えられない。腰が勝手に動いた。体が教祖のペニスをもっと深くまで欲しがっている。うわごとのように「教祖様、教祖様」と繰り返し、肛門をギュウギュウと締めた。
 ショートの髪が汗で張り付く。慣れない運動を続けても、初めて知った喜びに全身が興奮して収まりそうもない。
 体操クラブで鍛えた柔らかい体を猫のようにしならせ、引き締まった尻をムチのように振るい、ペニスを擦った。
 かりんが思いつくままに振る舞う大胆で自由な腰使いに、教祖も翻弄された。やがて、お尻の中の教祖のペニスが爆発して、とても熱い液体を腸の中で吐き出した。

「あぁあぁぁッ!?」

 かりんは、生まれて初めての絶頂を肛門で知る。
 小さく頼りない臀部に、大人の性欲を遠慮なく叩きつけられ、かりんは受け止めきれない性感に気を失った。
 その乱れように深く満足して、教祖はようやく小さな体を解放する。男勝りで天真爛漫だった少女は、強引に覚えさせられたオトコの性に反応したのか、全身から牝の匂いを発していた。
 かりんの震える肛門から、汚濁した精液がどろりとこぼれて、白い肌を汚していく。

「……新しい女性会員は、これで全部か?」

 美咲に汚れたペニスを拭かせながら、ぐるりと礼拝堂を見渡して教祖は尋ねる。美咲は彼の陰嚢をマッサージしながら「はい」と答えた。
 今日は34人。先週は22人。男性会員も増えているので、彼の宗教組織は雪だるまのように膨らんでいっている。
 組織化にあたって「信徒」は「会員」となり、役員もその中から任命した。美咲は、教祖の身の回りの世話をする幹部役員の「大天使」だ。食事から性欲の処理まで、何でもこなす重要な職だ。
 新しい会員を連れてきた者、大口のお布施をした者、あからさまなやり方で評価されるランク付けは、会員の中で熾烈な競争を生み、それが組織を急速に大きくしていった。
 愛菜は、自分の連れてきたかりんが「本日のトリ」に選ばれたことを誇らしく思い、ニコニコと笑顔を浮かべていた。あとで彼女は表彰してやらなければと、教祖は思った。
 他にも、若く美しい女や多額の寄付を持ってきた者たちが、教祖のお褒めの言葉をいただこうと、期待に満ちた目をいやしく輝かせていた。
 彼らに正当な評価を与えるのも教祖の重大な任務だ。今は組織が伸びていく重要な時期だと、教祖は身を引き締める。
 そして、いつものその端っこでニヤついているだけの、醜い女が今日も癇に障った。

「……お前は、いつも手ぶらでそこにいるが、まさか私に抱いてもらえるとでも思っているのか」
「ひやあ!? とんでもございません!」

 初めて教祖に声をかけられた梅垣千歳は、このときを待ちわびていたとばかりに、わざとらしく驚いた声を出し、揉み手を始めた。

「いえいえいえ、本当にみなさん、お美しい方ばかりで。わたくしなんかがここにいてもお目汚しにしかならないのは百も承知なのですが」

 年のわからない女だと教祖は思った。髪はほとんど白髪で老婆のようだが、童顔にも見える。落ち着かない挙動も視線もとても怪しい。不快な印象しか残らない。

「では、後ろに下がっているがよい」
「いえ! その! だからと申しまして、決してお貢ぎ物がないわけではございません! わたくし、無い知恵を必死で絞って、教祖様に出来る限りのおもてなしをご用意している最中なのでして」
「おもてなし?」
「はい! それはそれはもう、教祖様にお気に召していただけるのは間違いないかという代物でございます!」

 ぺったり張り付いたような笑顔と、もったいぶった言い回しに嫌悪を抱きつつ、教祖は先を言うように促す。
 梅垣は、ここぞとばかりに揉み手と愛想笑いを大きくすると、筋張った首をヘコリと前に垂らす。

「わたくし、こう見えて女子校の教師をしておりまして」

 ピク、と教祖の眉が動いた。
 そしてその顔に、いやらしい笑みが張り付いた。

「なるほど……必要なものがあれば、何でも役員会に言うといい。お前を外天使の一人に命ずる」
「はいー!」

< 続く >

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