僕と、生徒会長と、 1話

1話:生徒会長 葉入怜

 もうゴールデンウィークが終わってしまったのか、と世間が5月病に陥っている中旬頃。ある発明家が連休なんてあるんですか?とでも言わんばかりの働きっぷりによって人生最高傑作の試作品を完成させようとしていた。

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「はぁ。……あーあ。……はぁ」
 
 さんさんと輝く太陽の下、全く雲のない青空を見上げることなく一人の青年が帰路に就いていた。
 須藤悠(すどう ゆう)。舞専学園の1年生である。彼がため息をついている理由は入学式の話しにまで遡る。

「……それでは生徒会副会長の葉入怜(はにゅう れい)さん。開会の言葉をお願いします」
 
 
 教頭先生に促され開会の言葉を紡ぐために檀上に上がった女性をみて、悠は息をのんだ。

 紺のブレザーを華麗に着こなし、凛とした雰囲気に似合う高身長に、クールな顔立ちは整っていて、可愛いというよりは綺麗系。
 くびれがあるのに、肉付きのいい体は清楚でありながら艶めかしい雰囲気を漂わせ、腰元まで伸びている黒髪ロングストレート、健康的な太もも、そこに食い込む黒のサイハイソックス、薄い赤のスカートの間の絶対領域。
 すべてが悠の好みのタイプの女性だったのである。
 つまり、悠は一目惚れをしてしまった。
 
 
 その勢いのまま悠は生徒会の人間になろうと申し込んだのだが、同じ考えを持つ男は多いようで、後日、体育館で演説をし、全生徒(約1000人)の投票によって生徒会のメンバーを決定することになった。それで話は元に戻る。

「黒歴史けっていだわー。つ-か3時間しか寝てなかったし?まあしょうがないよね。あるある。……はあ」
 
 撃沈。悠は演説の前に転ぶわ、噛みまくりだわ、カンペガン見の棒読みだわ、そもそも声小さいわで、凄惨たる結果となった。
 もうなんか見てる生徒がやめてあげて!と言いたくなるほどである。最後にもっかい転んでたし。
 それが昨日の話。そして今日、はかない希望にかけながら、結果発表。
 選挙は公正なので悲しいかな、彼に投票するものはいなかったのである(悠が前を向かないから、顔もよく分からんかったし。低身長でイケメンでもなさげだったし)。

 地獄の学園生活の始まりだ……。と入学一か月で早くも絶望した悠だが、救世主が現れた。それは隣に住んでいる、変人で有名なおじいちゃんだった。

「やあ悠君! どうしたんだいそんな顔して。失恋かい? 失恋しちゃったかい? ねえ振られた? ねえ?」
 
 ようやく家に着き、早速枕を水で濡らそうと考えた時、非常にうざく絡んでこられたご老人は、富川源五郎、といい変なアイテムを作っては、近所の人にドン引きされている変人である。ちなみに悠からは親しみ込めて、ハカセと呼ばれている。
 ちなみに特許の数は0。本人が言うには非常に有能な研究者で、発明家なんだ!と近所のおばさん達に豪語しているが信じてる人はいない。
 前に宝くじの1等に3回当たったけどほとんど研究費に使った、と本人が自慢していた。悠に。
 
 もう口をきいてくれるのも悠だけなので老人も寂しいのである。それを悠も分かっているだけに、せめて自分だけでも誠実にお話ししようと思っていたし、実際そうしていた。でも今回ばかりは悠もキレた。
 
 「ええ。まあそんなとこですね! はいはい! 別に振られたわけじゃないんですけどね! 実質もう無理、的な。だから俺に話しかけないでくればず。……ぐすっ」
 
 キレながら、泣いた。いつもと違う様子に驚きながらも流石の源五郎も慰めた。

「よっしゃあ! これで儂の夢がかなうぞ! 悠良かったな! ボーイズビーアンビシャス!」
 
 源五郎なりに慰めた。
 その後大泣きした悠が源五郎に慰められ、あれよあれよという内に悠が気づいた時には源五郎の家にいた。
 
 「で、ハカセ。なんなんですか、一体」
 
 普段は礼儀正しい悠が、この時ばかりは態度が悪く、出されたコーラをゴクゴク。せんべいをバクバクボリボリ、クズをアルミのテーブルに溢しつつ尋ねた。

「いやはや、すまんかった。60年越しに儂の夢が叶うと思ったら嬉しくてな。思いの丈が口から突いて出てしまった。だからそんなにむくれてくれるな。恐いから」
 
 若干悠にビビりながらも、ハカセが話を進める。

「つまりな、儂は恋をしてみたかったのじゃ」
「帰ります」
「いや、ちょっと待て。最後まで聞け。だがな、儂は初恋、というものをしたことがなかった。性欲もない。自慰なぞしたことない。爺なのに」
 
 ジトーという目でハカセを見る悠。その眼は冷たかった。

「本題はここからじゃ。悠よ、儂は自分で恋することは諦めた。しかし儂もエジソンに並ぶ発明家。それならばと、データで恋愛を分析することにしたんじゃよ。そのデータを自分に取り込めたら恋を理解できよう。そこで悠にはそのデータを回収してもらいたい」
 
 真剣な表情で語るハカセに気づけば悠も引き込まれていた。悠は尋ねる。

「どうやってデータを回収するんですか?」
「うむ。儂の話しを真剣に聞いてくれるのは悠だけじゃよ。データ回収は、この洗脳アイテムを経由して儂のパソコンに自動で送る。悠は`これ`を使って恋愛成就してくれればいい」
 
 ハカセが差し出したのは一見スマートフォンのように見える機械だ。
 ハカセが言うには

・ 対象者だけを写真で撮る。その後、『設定』すれば写真はいらない。実質使い捨てカメラだからシャッター数は一回分のみ。
・『設定』=好意の調節をする(好意変換システム)。4種類のみ。今のとこ変更不可で、この機能しかない。
・被対象者は最初から悠が登録されている。こんな早く悠に渡せるとは思ってなかったのでまだまだ機能は不完全。

「……えー。っていうか……」
 
 悠はなんともいえない微妙な気持ちになった。いやまあ、ハカセが作る発明品は、なんだかんだで失敗はないのである。それが社会的に使えるかは置いといて。だから悠はそのアイテム自体は信用したのだが……。

「人の気持ちを弄ぶのとかダメなんじゃないかな?内心の自由を思いっきり侵してるし。まずいよハカセ、これ」
 
 至極まっとうな意見だった。しかしハカセは熱弁をふるう。

「儂もちょっと思った。しかしな。なんだかんだ言ってお互い幸せで誰も傷つかないんじゃいいんじゃね? っていう結論に至ったぞ。少なくとも対象の……何と言ったか、葉入ちゃんは彼氏いなさそうなんじゃろ。いいじゃん」
「うーん……。でもさあ、好きな人いたら申し訳ないっていうかさあ」
「ぐちぐちぐちぐちと面倒な奴じゃのう。お前儂と違って結構変態の癖にそんな事言うんか。お前のその大層な内心の自由で怜ちゃん何回犯したんじゃ?大体怜たんに好きな人がいたらお前さんは引き下がるんか? 男じゃないのう意気地なし。男なら惚れさせてみぃよ。怜たんを幸せにしてやるんじゃ! 」
 
 怜たん言うな。なんで僕ハカセにこんな言われなきゃいけないんだ……と悠は思いつつ、結局流されるまま洗脳スマホを使うことになった。

 次の日、新生徒会お披露目のため全生徒が集められた。
 新生徒会長の怜は生徒会の面々を、そして集められた生徒たちを眺めつつクールな表情をみせていたが、どこか喜んでいるようにも見えた。
 
 さて、洗脳スマホを違和感なく使えそうな場面に唐突に直面した悠は震える手と体。心臓をバクバクさせながらチャンスを待った。
 つい数十分前まで、(冷静に考えたら人の気持ちを動かすなんて無理じゃね?)とか、(恋を理解できない人がなんで恋を生む機械をつくれるんだよ)とか突っ込んでいた人間と同一人物とは思えない。
 おぼれる者は藁をも、という奴である。
 
 ハカセ曰く、顔(正確に言えば脳)を撮れればいいらしいのだが、怜単体で撮るのは意外と難しく、集会中に携帯をいじってるのがバレたら生徒会長から嫌われる(と、クラスメイトから優しい目と声で教えてくれた)。
 悠は、変なところを押して大事なシャッターを切らないように、洗脳スマホを今まで起動させていなかった。
 
 正確に言うと、ハカセの家で、カメラについての手ほどきを受けていたが、それくらいである。ハカセにもカメラ機能を使うまでは起動させるな!と念を押されている。
 だから失敗は許されないし、かなりタイミングはシビアである。
 一瞬で彼女単体に照準を合わせ、ばれないうちに速写する。それが悠の作戦だ。

 
 さて、全校集会がいよいよ始まり、怜が挨拶をするために檀上に上がろうとしている。
 怜の姿を、みんなが固唾を飲んで見守っている。体育館内は、独特の緊張感に包まれた。

(――――今だ! )

 カシャ!
 っという音が鳴り響いた。怜が振り向く。一瞬で悠を見つけると、遠目からでも分かるほど、クールな彼女の顔がゆがんだ。全校生徒がざわついた。
 静かすぎる体育館にカメラの音は大きすぎたのである。

 悠は職員室に連れさられて写真を消去されたのであった。ついでに滅茶苦茶怒られた。

 
 その後、教室に帰り死んだ目をしている悠に、クラスメイトが
「よう変態盗撮魔! 会長の写真見せてよ。……いや君たち冗談だって。その……悠、ごめん、色々、頑張れ」
 
 クラスメイト達から無言の優しさをかけられ、悠の心はぐちゃぐちゃだった。
 その時、放送で生徒会から呼び出しを食らった。

「やったじゃん悠! 生徒会長から直々にお叱りだよ。ご褒美! ……だから冗談だってば。おーい」

 とりあえず悠はダッシュで生徒会室へ駆けていくことにした。

 
 実は、悠は例の悲劇の直後、見事な回れ右で男子トイレに猛ダッシュし、個室で写真の出来を確かめていた。
 その行動を含めて教師にはとんでもなく怒られたわけなのであるが、悠的に大切なのはそんなことではなく、写真がちゃんと撮れたか、そして本当に洗脳はできるのか?という点である。

「お願いしますお願いします上手く撮れててくれ」

すがるような気持ちでファイルを開く。

「……よ、良かったあああ」
 
 第一関門突破である。で、本当に大切なのはこれからである。
 悠的に、ハカセの発明品は信頼している。けど今回のはあんまりにもあんまりな機械なので、不安が大きい。

「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします」

 先ほど以上にお願いしつつ、悠は好意変換システムを起動させる。
 画面には

 危険度 

 大 中 小 無

 の四つの選択指が表示されていた。

「いやいやハカセ。まじハカセ」
 
 こちとら時間がないのである。スマホのどこにも説明書きはない。個室の外には、多分強面の担任教師がいる。だって怒らないから出てこい、って言ってるもん。絶対嘘だもん。

「くっそ俺はどれ選べばいいんだよ……。勘弁してくれほんとに。なんだよ危険度って。確かコレの変更はできないし」
 
 ドンドン、とドアが叩かれる。入ってます。

「もういいだろ?須藤、ゆっくり、これから正義の話をしよう」
 
 悠は観念してドアから出たのであった。

 
 そして悠は今、生徒会長室の前にいる。
 先に生徒会室に行ったのだが、メンバー達から「良かったね。おめでとう」
 と、謎の言葉をかけられ、すぐ近くの生徒会長室に行くよう言われ、指示通り来たのである。

(もし葉入先輩に洗脳が効いていれば、僕は舞専学園の神になれる。しかし、しかし、全てハカセのデタラメだったら、僕は、転園しよう。そうしよう。ハカセに復讐してから)

 そう固く誓った悠。
 赤と青とピンクと紫の導火線から一本を選んで切った主人公の気分である。 
 爆発して欲しくない。ある意味爆発して欲しいけど。
 もう何がなんだかわからない感情で全身こわばり汗だらけの中、ノックする。

「どうぞ」

 凛とした声が届く。その言葉では怜の感情は分からない。
 悠は唾を飲み込み、生徒会長室に入る。悠を待っていたのは

「あら、いらっしゃい。盗撮魔さん?」
 
 豪華な机の前に腰かけて、優雅に足を組む女性がいた。悠は今までその人をクールだけど、でも優しくて、明るい素敵な女性だと思っていた。
 だけど、目の前の女性は悠から見て、とても怒っているようで、とても恐い表情を浮かべていて。

(そう……だよね。洗脳なんてできる訳、ないよね。僕ってバカだ。好きな人に嫌な思いさせて、嫌われて。最低だ)

 悠は今までの考えはやっぱり甘かったんだな、と思った。

 怜は、上履きなのにツカツカ、という音が聞こえてきそうな足取りで、棒立ち状態の悠の前に立つと悠のブレザーの胸倉辺りをつかみ、部屋の中に引き入れた。
 部屋のカギを掛けつつ、怜は
 「あまり人には聞かせられない内容だからね」
 
 と声は優しく、怒りの表情を浮かべつつ
 
 「ここの部屋って防音機能が付いてるのよ」
 そう言って悠を最初に怜が腰かけていた机まで持って行き、わずか20cmほどの距離に相対し。

「初めまして。舞専学園生徒会長、2年A組の葉入 怜です」

 意外なことに自己紹介をした。怜の目が悠の名前を聞いていたので悠も

「初めまして1年D組の須藤 悠です」

 と返した。怜がボソっと何かを呟くといきなり悠の胸倉を掴み、思いっきり悠の体に自分の体を擦り付けるようにくっつくと、悠の耳元に囁いた。

「すどう ゆう ね。覚えたわ。言っておきますけど、私、貴方みたいにこそこそ盗撮する人って大嫌いなの」

そう、断言した。

「でもね、あれぐらいじゃあ貴方を退学にはできないの。あなたをいじめて退学に仕向ける、っていうのも生徒会長としてあるまじき行為だわ」

 だからと、怜は続ける。

「放課後毎日この部屋に来なさい。会長として貴方を更生させます」

――――
 
 あれから私は、ちゃっかり彼にべたべた触りつつ、全校集会が何のためにあるのか、携帯電話はどういう時に使うのが適切なのか。私は一つ一つ丁寧に教えながら、その実、彼の身体に興奮し、彼の香りに興奮して、下半身を濡らしていた。
 彼と別れるのは心苦しかったけど、これ以上彼と一緒の空間にいたら間違いなく彼を襲ってしまうから、泣く泣く別れた。もっと仲良くなったら朝早く呼び出そう。お昼御飯もいっしょに食べたい。彼を食べたい。
 どうせ彼も私が好きなのだ。散々焦らして、私に依存させたい。私がいないと何もできないような男にしてあげたい。首輪付けたい。いじめたい。甘えさせたい。ひざまくら頭なでなでおっぱいにかおおしつけ……。

 そんなことばかり考えていたので、私は、どうやって自宅に帰ったか覚えてない。気が付いたら、自室に鍵を掛け、ベットの上に乗り、靴下以外を全部脱いでいた。サイハイソックスも脱ぎたかったけど、もう、我慢できない。

「……んぅぅ……ふああ……あぅ、あっ」

 彼との会話を思い出しながら私はほぼ全裸で秘所をまさぐる。

 彼への第一印象は、ぱっとしない男の子、だった。大事な選挙の場で上手くアピールできなくて半分泣きながらすごすごと自分の席に戻る彼。あの時はなんて情けない! って一人でイライラしてたけど、今の私は、悠は、それすら愛おしく、可愛く感じる。

「いいっ……悠っ……悠ぅっ……好き、だいすき、ああっ」
 
 もう果てそうになる。だって、悠に会ってから……、いや、悠に心を奪われてから、ずっと焦らされてるようなものだから。
 まだ、まだ悠との思い出はいっぱいある。せめて全部振り返ってから一緒に悠と逝きたい。
 
 悠は私を撮ってくれた。他の誰でもない私を。最初は嫌だった。そもそも集会で携帯電話を使う人は嫌いだ。撮られたときは内心かなり深いだった。私の中で悠はパッとしない男の子から大嫌いな盗撮魔に印象が、かわっていた。ほんのすこしの時間だけ。

「……あっ ダメ! まだぁ……イヤっ!」

 声とは裏腹に右手を激しく動かし、慣れない手つきでクリトリスと、なかを刺激する。
 左手はチクビをつねってそこから、ひっしに快楽をえようとしていた。

「ゆう、はぁ……とっても、とっても素敵なひとでぇ……はああん……」

 わたしのまちがいだった。
 ゆうは、かわいい。
 いいにおいがして、ちっちゃくっておどおどしてて、まもってあげたくてちょっといじめたらなきそうになって。

「わたし……わたしのからだゆうとさわったっ! ああ! ……いい! ……いいよゆうぅぅぅ! もうだめえ!」

 かわいいかわいいかわいい。すきすきすきゆうくんゆうくんゆうくんゆうくん

「あああああっっ! ……イクうううぅぅぅ!」

 ああ……ゆう、くん……。だい、すき……。

< 続 >

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