家が見えてきたところでさつきの足は止まった。
 見覚えがある少年が、塀にもたれかかって携帯で誰かと話をしていたのだ。
「北村君……?」

ヤドカリ 後編

- 後編 - 「ん・・・」  さつきの口から声がもれると、閉じられていた目がゆっくりと開いた。 「あれ・・・私・・・?」  彼女は眉に皺を寄せた。  何をしていたのかを思い出そうとしたのだが、頭がぼうっとしていて何も考え

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ヤドカリ 前編

- 前編 -  太陽が沈み始め、道行く人は家へと足を速めている。  丹羽さつきもその一人だ。 「遅くなったわね・・・」  顔を曇らせ溜め息混じりにもらしたさつきの声は、茜色の空に消えていく。  そんな彼女の前に若い男の二

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