「ふふ、忙しいところわざわざ来て頂いてありがとう、響さん。どうか自分の家だと思ってくつろいでね」
「ワタルで構いませんよ、立花社長。それにしても、まさかクラスメイトの立花さんがあの世界的な音響メーカーの社長の娘さんだとは思ってもいませんでした」
「うふふ、こちらこそ、アオイって呼んでくれて構わないわ。いつも、うちのミドリの面倒を見てくれて本当にありがとうね」

 大手音響メーカー『タチバナ』の代表取締役社長、立花アオイは目の前の少年に対してニッコリとほほ笑みつつ、値踏みするようにその全身を観察する。
 娘のミドリから話を聞いた印象ではどんな偏屈かと懸念していたが、予想に反して押しが弱く与しやすそうな少年ではないか。
 少し気の毒な気もするが、我がタチバナ社の発展のためにこの少年には役に立ってもらうとしよう。アオイはひっそりとほくそ笑んだ。