僕の変性期 第5話

第5話

 昼休み前の時間になると、焼きたてのロールパンが大人気のパン屋さん、「メープル」の前にはいつも、若い女の子の行列が出来る。今日も、中学生のカップルが近くを通り過ぎるまでは、いつも通りの行列だった。

 最初に異変に気がついたのは、歯科助手の森屋りり。なんだかいつものパンが焼けるいい匂いに混じって、微妙に変な匂いが漂っているような気がする。それも、自分の近くから・・・。

(え・・・?なんか、クサいよ・・・。うそっ、私?・・やだ・・・)

 大人の女性としての羞恥心もしっかり持ち合わせている24歳の彼女は、もしかして自分が臭いのではないかと、気になって仕方がない。どのパンを買おうか悩んでいたさっきまでの思考は完全にストップしてしまって、匂いの元を探すことに必死になった。

 右ひじを上げてみて、それとなく脇をクンクン。カーディガンをわざわざ脱いでみて、両手で持って顔を押しつけてクンクン。それでも納得がいかないから、路上で白衣をゆっくりと脱ぎ始めてしまった。

(人目なんて、気にしていられないわ。早く、匂いの元を探さなくちゃ・・・)

 一枚一枚、身に着けたものを脱いでは、顔に押しつけてみる。集中して「悪臭探し」をしている彼女は、行列を作っている十人以上の周りの女性たちも同じように怪訝な顔でストリップを披露しながら自分の衣服を嗅ぎまわっていることに気がつかない。いつの間にか店頭には、男性の通行人たちがギャラリーとなって集まってきてしまっている。

(あれぇ・・・、違う・・・。パンストも・・・・。ん、ちょっと足の部分が匂うけど、・・・・違う・・ような・・・)

 眉をひそめて首をかしげながら、まだ温かいパンティーストッキングを顔に押しつけている、下着姿のりり。調子にのって、彼女に拍手を送るオジサンのグループまでいる。

(そうなると・・・ブラ?・・・そんなわけないか・・・。パンツ・・・?)

 路上でとうとう全裸になってしまった彼女は、男たちのニヤけた顔や笑い声も気にせずに、ショーツを、チャーミングな顔に躊躇なく押しつけると、体を後ろにそらすほどに、思いっきり深呼吸をした。

 彼女の目がぐっと大きくなる。

(あっ・・・これ?これかも・・・!! でも・・・、これ、残り香じゃない?)

 ショーツの股間の部分、布が二重になっている部分を、目で確認しながら、何度も鼻に押しつける。大発見をした気分のりりは、レンガ調の歩道に腰を下ろして、両足を大きく開いてしまう。周りのことなんてまったく気にならない。彼女の両隣も、そのずっと右も左も、十数人の若い女性たちが、一列に並んでご開帳してしまっている。様々な量のアンダーヘア。色に濃淡がある彼女たちの割れ目。男たちは真剣な眼差しで彼女たち一人一人の恥ずかしい部分を凝視する。目移りしてしまう光景のようで、忙しく視線を左右させているサラリーマンもいる。

(ここの・・・中からのような・・・。)

 ただでさえ両足を大開脚させている彼女たちは、さらに指で大切な割れ目を広げてしまう。遠慮なく指を突っ込むと、中で動かした後、その指を自分の鼻に近づけてクンクンと小鼻をひくつかせる。途端に、科学的大発見をしたばかりの研究者のような顔つきになった。

「あーーーーっ!これ! 私のアソコ・・・。クサい!」

 思わず、大きな声を出してしまっていた。散々困って匂いの発生源を探していたからか、りりはなぜか、匂いの元が突き止められて、嬉しくてしょうがない。ご開帳の列を作ってる他の若い女性たちも、みんな一様に、笑顔で自分の股間に手を擦りつけては、鼻でクンクンと嗅ぐ。体のとても柔らかい女の子などは、開脚したまま寝転がって、マンぐり返しの姿勢になって直接匂いを嗅ごうと首を伸ばしている。

「スー、臭い。スー、臭い。あぁ・・・臭いです・・・、マンコが臭いです。はぁっ・・・、マン汁出てきたら、もっと臭くなった。」

 頭の中に、シャリシャリと音が鳴ると、誰かに台詞を教えてもらったかのように、普段は使わないような単語が、森屋りりの口からスラスラと出てきてしまう。いつの間にか彼女たちは、足を踏ん張らせて、本格的なオナニーを始めてしまう。うら若き女性たちの嬌声が通りに鳴り響くころには、調子にのって騒いでいた男性陣のギャラリーは、無言で見入るばかりになっていた。

「あんっ、あんっ、臭い・・・。マン汁臭い。マンコも臭い。ケ・・・、ケツの穴も・・・。一番臭い・・・。はぁぁああ・・・変になる・・・。気持ち良すぎて・・・、変になっちゃうよう・・・。」

 誰かに言わされているような、違和感のある台詞と、彼女の本音が混じりあう。いつの間にか彼女の指は、もう一つの穴にまで、遠慮もなくズボリと入ってしまっていた。右手で股間をほじくる間は左手が顔に、左手が器用にも膣と肛門を同時にズボズボ攻撃している間は右手が鼻に、嬉しそうに両手で交互に匂いを楽しみながら、公開オナニーが熱を増していく。路上で全裸のまま悶え狂ってオナニーに励んでいる若い女の子たちの集団は、もうすでにパンのことなどどうでも良くなっていた。

 しかし、彼女たちのふやけた頭の中に、誰かの声が聞こえたような気がして、急に思考が冷静になる。

(駄目っ!なんでこんなところで、一人エッチなんて・・・。こんなことじゃなくて、しなきゃいけないことは・・・。ス・・・、スペルマ。この臭いを隠してくれるのは、男の濃い精液しかないわ。・・・そ、そうだった。私、何人もの男の人たちに、精液ぶっかけてもらわないと・・・、臭くて恥ずかしい女って思われちゃう!)

 困惑しながら周りを見回す、若くて綺麗な働く女性たち。ありがたいことに、ズボンの股間を膨らませて間近で彼女たちに見入る、好色そうな男たちが目の前に大量にいてくれた。

「どなたか・・・、りりの臭いマンコをなんとかして下さい。変なお願いですみませんが・・・、おチンチンを・・・おチンチンをりりのマンコとお尻に入れてください。お願いします!」

 助けを求めるうら若き美女に、男たちが我先にと群がった。オナニーの姿勢のまま、開ききった股間を高く突き上げて男を求めるOL。力士が相撲を取るような姿勢になって、お尻を左右に振りながら懇願するデパ地下の店員。パン好きだったはずの美容師はまだ立ち上がりきっていない男根を、右手と左手それぞれに握り締めて、愛しそうにしごいていた。

 上品そうな都会の女性たちが、口々に「臭いマンコ、くっさいケツの穴」と連呼しているので、パン屋の前は黒山の人だかりになっていた。いつの間にか、パン屋「メープル」の女店長をしている若奥様もアルバイトの女の子たちも、焼き立てパンのランチタイム準備をすっかりサボって、匂いフェチだらけの変態乱交パーティーに、飛び入り参加してしまっている。道行く女性たちは嫌悪感丸出しの顔つきで足早に立ち去ろうとするが、何人かのビジュアル的に優れている女性は、頭の中で、シャリシャリとした音が聞こえたような気がして、立ち止まる。出版会社勤務の長門いつきもその一人で、気持ち悪い集団をよけて通り過ぎたつもりだったのだが、ふいに自分の体臭がどうしようもなく気になり始めて、立ち止まった。

(何・・・?急に私・・・、嫌・・・こんなこと・・・)

 おもむろにベルトを外し、タイトなパンツをズバッと下ろした彼女は、両足を肩幅まで広げて、黒のショーツを膝まで下ろしてしまう。まるで体が勝手に行動しているようだ。しかも、軍隊のようにキビキビした行動。ためらいの欠片も見せずに長い指を自分の肛門に突っ込んだ。痛みよりも、恥ずかしさと怖さとで体が震えている。第二関節ぐらいまで変色してしまった自分の指を、今度はゆっくりと自分の鼻先まで持ってくる。真顔でクンクンと、子犬のように鼻を鳴らす。

(あ・・・、私も・・・、ケツのアナ・・・、臭い。なんとか・・・しなくちゃ・・・。)

 今度はボンヤリと視線を彷徨わせながら、狂態を演じる異常な集団に、フラフラと近づいていく長門いつき。彼女の、生涯でのアナルセックス経験が、今日一日でゼロから14に跳ね上がることになった。

。。。

「パン、おいしかったね。」

「女の人たちが可哀想で、味なんて覚えてないってば。アンタ、いつまでこんなこと続ける気?」

「せっかくお昼になって、駅前も人通りが多くなってきたんだから、もうちょっと遊ぼうよ・・・。」

「・・・帰りたい。」

 ウンザリした顔で、髪に手をやる園池澪。ベンチの隣に座っている蜂屋拓海は、気にせずに背もたれに体を任せる。フフフと小さく笑うと、口が押さえつけられているので笑い声がくぐもった。

 澪にオッパイを顔に押しつけられているので、声がくぐもるのだ。

 澪は首から上は面倒くさそうな不満顔なのに、首から下はワイルドなラップダンスで拓海を楽しませている。ベンチに膝立ちになって拓海の体をまたぎ、思わせぶりに腰をくねらせながら胸を押しつけている園池澪。学生服のスカートがより、いやらしさを強調していた。

「はぁ・・・絶対、知り合いに会いませんように・・・。」

 澪は裸の上半身を拓海に覆い被せて、オッパイでペチペチと拓海の顔を往復ビンタしながら、自分の可愛そうな境遇を嘆いた。不純異性交遊・・・。これほど派手で堂々としたものは珍しいのではないだろうか。

。。。

 駅の周辺はどんどん姿を変えていく。駅前の電器店では、なぜか駅裏の「大人のオモチャ」店とのコラボレーションが始められ、まだ十代の可愛らしいバイト店員さんたちが街頭でディルドーやローションの実演販売を始めている。

 なかでも人気はリモコンつきのローター。若くて活発な女性店員と、リモコンを操るお客さんたちとの、スキンシップが人気の秘訣のようだ。生真面目で引っ込み思案なところを先輩店員たちから心配されていた、新人バイトの才木佳歩ちゃんが、意外にボンデージ・コーナーでブレイクしている。革の拘束具に身を包み、涎玉のせいでほとんどセールストークは聞き取れない状態だが、笑顔でSMグッズの実演を順番に行っている。中高年のコアなファンが集まっているようだ。

 携帯の販売員の中で、目立つルックスで売り上げを伸ばしてきた京野七菜ちゃんは、テンガ売り場でフル回転。「テンガの感触が実物そっくりです」という、比較対象を務めているのに、実物のお試し要求ばかり来るのだ。年末商戦以来の忙しさだが、なんとか笑顔で次々と入ってくるお客さんのペニスを受け入れている。

 先月ぐらいから仲の悪かったレジ係のアキ先輩とミドリちゃんも、今日は二人仲良く該当実演。ペニスバンドを装着したミドリちゃんに突き上げまくられ、アキ先輩はもう、4回もイカされている。皆の働く姿は、ハイビジョンのデジタルビデオカメラが男性店員によって撮影され、店内の大画面テレビ全てに大写しになっている。デジタルフォトフレームも、今後数ヶ月は彼女たちのセールス姿を映し続ける予定だ。

 隣のドラッグストアでは、女性客たちが急に、ハサミや剃刀、シェイビングクリームを買い漁り始めた。全員その場でズボンやスカート、ストッキングにパンツを投げ捨てると、丁寧に陰毛を剃り落とし、股間を赤ちゃんのようにツルツルにしてしまう。

 床に散らばった自分の陰毛を大事そうに拾い上げると、全員当たり前のような顔でその毛をパクッと口に含んでしまった。スッキリとした表情で颯爽と立ち去るお姉さんたち。口から縮れた自分の陰毛をまだ何本もハミ出させながら、下半身裸のままで次の目的地に向かっていく。

 そして残された店内では、頭脳明晰そうな端正な顔立ちの薬剤師さんが、白衣以外は全裸とメガネだけを身に着けた姿で、「体のどの部分に一番、薬が染みるか」という実験を公開で行っていた。メンソールの軟膏をお客さんに塗ってもらっては、柄にもなく「キャアキャア」と跳ね回る薬剤師さん。

 予想通り、性器の粘膜はビリビリと染みる。店内を6週飛び回ったあたりで、ようやく痛みが治まってくる。30分ほど前に突然、「明るいマゾヒスト」として目覚めてしまった彼女は、Sっ気のあるギャルを目ざとく見つけ出して、何度も何度も、乳首や性器や排泄器にメンソールを塗りたくられて駆け回る。白衣をマントのようにバタバタとなびかせて飛び回る彼女はしかし、顔を快感の表情一色に染めて、愛液を垂らしながら駆けていくのだった。

 ゲームセンターの中では、誰もゲーム機の画面に見入っていない。女性の店員さんや女性客が、ワンコインで男たちと野球拳をしてくれるからだ。熱狂する男たちと、笑顔で曲に合わせて体を揺らす女の子。なぜか初めから右手を「チョキ」の形にして、一度もチョキ以外を出さないから、すぐに全員が素っ裸に剥かれてしまう。

 全裸になったショートカットの学生らしい女の子などは、「まだクリトリスが剥かれていない」と強行に主張して、もう一戦に挑んだ。自信満々の顔で、連続8回目のチョキを出した彼女は、ゲーマーたちの凝視する中、ハイパーホッケーの台の上でクリトリスを剥かれて、全部曝け出してしまった。

 もうワンコイン出すと、野球拳で負けまくった裸の女の子たちは、男と一緒にプリクラを撮ってくれる。乳首まではっきりと写されながらも、カメラの前では素敵なスマイルを見せてくれる、今時の女の子たち。手はまだ、「チョキ」のままでポーズを取っていた。

 親や友達には絶対に見せられないようなプリクラを両手に抱えて店を出た女の子のお客さんたちは、通りがかりの電信柱や自動販売機に、プリクラの写真を鼻歌交じりにペタペタと貼っていく。数時間後、正気にかえった彼女たちが、半分ベソをかきながら電信柱を探して回ることになる。そして店内のUFOキャッチャーには、プリクラの写真が貼られた、彼女たちの生下着が、景品の山となって救出を待っているのだった。

 駅ビルのショッピングセンターの一角を占める、スポーツジムから、裕福そうなマダムたちが運動を中断して駅前の広場に駆け出てくる。路上のエアロビ教室が始まるのだ。

 若い奥さんたちは、レオタードというか、ヒモのような水着でサポーターも付けずに飛び出してくる。ハイレッグすぎて前から見ると、アルファベットの「Y」の字のようになっている細い水着を身に着けた奥様たち。ショッピングセンターで買ったばかりの水着を自分たちの手で切って加工したようだ。急ごしらえの水着から、アンダーヘアーや乳輪がはみ出しまくっている。

 アップテンポな音楽がステレオから流れると、軽やかに踊りだす人妻たち。豊満なバストや、よくシェイプアップされたお尻が彼女たちが動くたびに激しく揺れる。少しずつ、ダンスの様子がおかしくなる。まるで子供を笑わせるためのもののような、滑稽なポーズや、逆にセクシーすぎるような動きも増えてくる。大きくガニ股になり、両手をバンザイして腰を前後にカクカクと振る。たしかに腹筋や背筋の運動にはなりそうだが、ヒップや下の毛までしっかり紐水着からはみ出している奥様たちがこんな動きを続けていると、卑猥な動きにしか見えない。

 今度は肩を前後に揺らしながら、胸の揺れを強調。すでに体には、「カラフルな紐が引っかかっているだけ」のような状態になっている。ピョンと飛びながら体を回転させてお尻を突き出すと、音楽に合わせてプリプリと左右に大きく振り、自分の左手でお尻をペチペチと叩いてみせる。奥様たちの溌剌としたダンスタイムだ。

 一曲終えたと思ったら、大型のステレオにコーチらしき人が近づく。もう一度同じ曲のイントロが聞こえるが、様子が変わっていた。「2倍速」で流れ出る、1オクターブ高くなった速い曲に合わせて、人妻たちは早送りの映像のように、せわしない動きでさっきのダンスを繰り返す。さらにコーチが多機能なステレオをいじると、辛うじて聞き取れるぐらいの、凄まじいスピードで曲が流れる。

 高級ベッドタウンからシェイプアップのためにジムに通っている優雅な人妻たちは、固まった笑顔のまま、壊れた玩具のように手足をバタつかせて踊りについていこうとする。汗だくで、卒倒しそうな勢いで飛んだり跳ねたり腰を振ったりする奥様たち。見かねた様子の、近くにいた美少女が、彼氏らしき男の子に怒鳴りつけると、奥様たちはやっと地獄のハイパースピード・エアロビダンスから開放され、痙攣しながら路上に倒れこむのだった。

。。。

 カップルが大勢待ち合わせをしている、駅前広場の銅像前。レンガ造りの待ち合わせ場所で、大勢の男女が右往左往していた。急にみんな、「パートナーシャッフル」がしたくなったからだ。例えばここにいる女子大生、倉谷美咲は、最愛の彼氏、リョウ君とラブラブデートを始めるつもりでたった今まで、何を食べようか相談していたはずなのに、シャリシャリという不思議な音と共に、急に天からの啓示に激しく打たれてしまった。

(今日は、パートナー取替えっこしよう!せっかくだから・・・・、いつもはタイプじゃないって思うような人と・・・、おつきあいしないと・・・。)

 雷に打たれたように立ち上がって、「気をつけ」の姿勢でしばらく考え事をした美咲は、今度はバツが悪そうに、申しわけなさそうに、隣にいる「元カレ」のリョウ君の顔を見上げた。不思議と彼も立ち上がって、隣で同じように美咲を見たところだった。

「あの・・・・。ゴメン」

 二人の言葉が同時に出て、かぶってしまう。そこは大恋愛中の彼氏と彼女。おたがいの考えは目を見るだけでわかった。何も言わずに頷きあう二人。せーの、で振り返って背中を向けると、お互い今日だけの恋人を求めて歩き出した。

 キョロキョロと周りを見回す美咲。不思議なことに、周囲の男女もみんな、人探しを始めた様子だった。

(あの人は・・・、リョウ君ほどじゃないけど格好いいから・・駄目。あの人は・・・、リョウ君ほどじゃないけど、清潔感があって爽やかそうだし・・・。あ・・・、あの人・・・。うわぁ・・・困ったなぁ。)

 ちょっと不潔感漂う、長い黒髪を後ろで束ねた、太った男の子。リュックサックから何かのポスターが棒状に丸められて飛び出している。

(困った・・・。全然タイプじゃない・・・。でも、シャッフルデーなんだから、むしろそういう人とおつきあいしないと・・・。)

「あ・・・あの。」

 覚悟を決めて、性格の暗そうな男性に声をかける。

「私、朝香学院大2年の倉谷美咲と申します。突然で・・・ごめんなさい。今日一日、私の最愛の恋人になってもらえませんか?」

 リョウ君一筋の美咲が、普段だったら夢の中でも言わないような言葉を、今日はサラリと言ってしまう。男は、美咲の全身を嘗め回すように値踏みした。エアウェーブのかかったブラウンの髪、モコモコした素材の女の子らしいワンピース。パステル調に赤らむ色の薄い肌と、タレ目気味だが大きな目。クルリと上を向いた長い睫毛。ころころと表情がよく変わる、キュートな顔立ち。これで胸もなかなかあったりするから、美咲は行く先々で、リョウ君という彼氏がいることを残念がられた。そんな学園のアイドル、倉谷美咲を前に、男はなぜか上から目線だ。

「ふーん・・・。本当だったら俺、二次元の猫メイドにしか興味ないんだけど・・・まぁ、今日だけでいいんだったら、いいよ。付き合ってあげる。俺、阿久井寛太。」

「カンタ君・・・。よろしくお願いします。」

 両手を前に重ねて、ペコリと美咲が丁寧なお辞儀。正直に言うと、男性に告白するのも初めてだし、こんなリアクションはまったく予想外だったが、それでも今日は美咲の大切な彼氏である。気にしない素振りをしながら、横に並んで手をつないでみた。手がベトついた。

「じゃ・・・、キスでもしとく?」

 寛太が軽々しく、聞いてくる。美咲は一瞬、リョウがまだ近くにいるはずと、不安を覚えたが、頑張ってその思いをかき消した。今の美咲にとっての大切な人は、この寛太なのだから。少し頬を赤らめながら、しっかりと頷くと、寛太に体を向けて目を閉じた美咲は顎を上げて、キスをねだってみる。熱い鼻息と、意外と柔らかい唇が美咲の顔に当たった。

「ムッ・・・、フゥ・・・。ン・・・・。」

 強引に彼女の唇を割って、寛太の舌が口の中に入ってきてしまう。余り経験のないディープな大人のキス。美咲も必死で舌を絡めて応じることにした。恋人を喜ばせることが出来るなら・・・。唾液の交換も決して汚いものなんかではない。・・・はずだ。

 不意に、頭の中でシャリシャリと音が聞こえて、もう一度天啓のようなものが降りてきた気がする。美咲は長いキスの途中で何かに対して頷くと、ゆっくりと寛太の服に手をかける。美咲のワンピースも、寛太が背中に回した手で、チャックを下ろされていく。もう、ここがどこだろうと関係ない。盛り上がった恋人同士の求愛は、誰にも止められないのだ。二人はこれから、人目もはばからずにお互いの生まれたままの姿を見せ合ってまさぐりあって、身も心も一つになるのだ。

 数え切れないほどの数のカップルたちが、服の脱がせあっこに興じている。なかにはまだ、これまでの彼氏、彼女とすらそんな関係になっていないのに、その相手のすぐ近くで、今日始めてあった新しいパートナーに全て見せてしまっている子もいる。広場には半裸、全裸状態の即席カップルで溢れかえって、異常な熱気が充満し始めていた。

「美咲って、意外と胸大きいんだね。・・・隠すなよ。」

 高熱に冒されたように、潤んだ目と火照った顔をしながら、寛太に手伝われるままにブラジャーのストラップから腕を抜き取っていたが、寛太に胸のサイズについて指摘されて、思わず肘で胸をガードしてしまう。それでも、覚悟を決めて、少しずつ手を下ろしていく。ブラを持ったまま両手を体の後ろに回すと、彼女の形のいいオッパイの全貌が、寛太の前に晒された。乳輪がとても小さい肌色の乳首が、彼女の浅い呼吸に合わせて小さく上下する。

「触ってもいいの?」

 寛太が聞くと、美咲がモジモジしながら頷く。

「ん・・・。いいよ。全部、カンタ君のもの・・・だから。」

 実は緊張しているのか、寛太の右手は震えながら美咲の胸に触れた。手のひらで感触を確かめながら、親指の腹が乳首を転がす。美咲がハッと息を飲んだ。彼女の反応を楽しむように、彼の手が乳を揉む。次第に遠慮がなくなったように、両手で揉みしだかれ。激しいペッティングに変わっていった。

 美咲も「今日はシャッフルデーだから、いつもと違うタイプの自分にならなければ」という思いにとりつかれているのか、ずいぶんと積極的に寛太の体を愛撫する。彼の薄い胸板に、何箇所もキスしながら、乳首を焦らすように責めてみる。近くの即席カップルがさらに激しい音をチュパチュパと立てているのを意識すると、それに煽られるように寛太と美咲もたがいの体中を嘗め回す。シックスナインの体勢で彼の下半身全てに美咲の可愛らしい舌が這う。寛太も激しいクンニリングスを展開。周りのカップル以上に激しく貪りあう。

 カップル同士が煽りあって、広場はいつの間にか企画モノのAV撮影現場のような、過激で下品な性行為の展示場のようになっていた。それぞれが、普段と違うパートナーを相手に、「普段だったら絶対にしないような」体位、プレイを思い思いに試している。すぐ近くにあるキャンパスにはたくさんの信奉者がいるはずの、アイドル、倉谷美咲はその中で、大股を開いて男の顔に乗り、クンニをされるがままに肩をすくめて喘いでいた。寛太の舌が疲れたら、今度は美咲の番だ。愛しい恋人の、若干匂いがキツめのおチンチンを、喉の奥底限界まで入れて奉仕してあげるつもりだ。

 ・・・しかしその時、本日3回目の天啓が雷のように美咲を打つ。思わず美咲は、周りの女性たちと同時に、頭に浮かんだ言葉を叫んでいた。

「終了ーっ。もう一度シャッフルの時間です。皆パートナーを変えましょー。」

(今度の相手は・・・、んーっと、もう、誰でもいいっ!)

 慌てて立ち上がる美咲。最愛の「元」彼氏、寛太にお別れの言葉を告げる暇もなく、全裸のままで次の相手を探して走り回る。何人もの女の子とぶつかりながらも、誰か適当に目のあった男の胸に飛び込んだ。もう悠長に前戯なんてやっている場合ではない。今度の彼氏とはいきなりセックス。ジャンプイン・インサートだ。

 それから10分おきに、数え切れないほど、やってきたシャッフルタイム。美咲はもう、どの恋人に中出しされ、どの恋人に潮を吹かされ、どの恋人に顔射され、どの恋人の足の指の間まで舐め回したのかさえ、はっきり思い出せない。それほどまでに、激しくセックスに没頭した。途中に一度、ずいぶん前の恋人、リョウ君と背中合わせになって互いのパートナーとハメ合っていたような気がするけれど、それもさだかではない。

 次々と変わる美咲の愛しのカレ。それでもその都度、そのたびに、美咲は全身全霊で彼を愛し、女としての全てを捧げた。言葉を交わす暇もなくセックスに突入した相手がほとんどだったが、相手が少しでも嬉しそうな反応をすることはとことんやり尽くしてみせた。嘘偽りも打算の一つもない。ピュアな愛を裸の体で恋人たちにぶつけた。

(はぁ・・・、気持ちいい・・・。すっごく幸せ。やっぱり純愛が一番ね・・・。)

 笑うとエクボが出来る、倉谷美咲のほんわかスマイル。「松葉くずし」の体位で、まだ名前も聞いていない恋人と結合しながら、美咲は目を閉じて胸いっぱいの幸せを噛み締めるのだった。

< 第6話につづく >

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