EDEN 2nd Vol.3

Vol.3

─ 1 ─

 季節は秋。周囲の木々を飾る葉が少しずつ色を失って行く中で、雄一が住む祖父の館も、街から離れた立地条件が寂しく感じられるようになってきた。もっとも、雄一が寂しさを堪能できるのは、平日の日中ぐらいだけだったが。夕方にはかなたと友香が連れ立って来たし、休みの日に至っては夜討ち朝駆けだったから。でも、それは雄一にとって甘美な騒々しさだった。いつまでも続いて欲しいと願うほどの・・・。

 ・
 ・
 ・

「ねぇねぇゆーいちさんっ!今度ぼく達の学校で、学園祭があるのっ!来てくれるよね?ねっ?」

 そう、目を輝かせて誘ったのは、何やらネコミミを頭に付けた友香だった。揉み手をする手は、どちらかというとネコが手招きするような形に曲げられている。末尾に『にゃ』とか付きそうだ。

「え、ああ・・・そうだね・・・」

 それに対して、あまりにもテンションの低い雄一の返事は、友香のご機嫌を損ねたようだった。みるみるうちに、友香のほっぺたが膨らんでいく。

「ぼく、せっかく張り切って準備してるのに、来てくれないのぉ?」

 上目遣いの目線が、雄一にちくちくと突き刺さる。
 今は、雄一の館のリビングでお茶をしているところだが、かなたが気を遣って一人で買い物に行っているので、ここには雄一と友香しかいない。だから、誰にも助けてもらう事が出来なかった。雄一はさり気無く目線を逸らせながら、どう答えたものか思案した。

「あんまり・・・人が多い所って苦手でさ・・・」

 それは本当の事。それが全部の理由で無いだけで。
 歯切れの悪い返答に、友香は椅子から立ち上がると、雄一の所に歩いて来た。カップがジャマにならない事を確認すると、雄一の膝の上に、「よいしょっ」と言いながら横向きに座る。雄一の首に両手を回して、頭を首筋にすりすりした。友香の頭のネコミミが、雄一の頬をくすぐる。

「ね、行こうよぉ。きっと、楽しいよ。ぼくからの、お・ね・が・い」

 そう言うと、今度は右の胸を雄一の胸にぐりぐりと押し付ける。ボリュームは無いけどふよんとした感触が、服越しに雄一に伝わってくる。いつのまにか、友香の左手が首から外れて、雄一の胸をくりくりと弄っている。友香の吐息が雄一の喉をくすぐる。今にも上の空で頷いてしまいそうだった。

「・・・まだ・・・えっと、10日はあるよね。結論は待っててもらえないかな?」
「えーっ」

 不満を含んだ友香の声に、雄一は友香の頭を撫でながら、「ごめんね」と呟いた。

「ホントに、ごめん」
「うーっ、そう言われたら、ワガママ言えなくなっちゃうよ。しょうがないなぁ」

 友香は、ほんとにしょうがないという表情で言うと、目を瞑って顔を上に向けた。雄一も目を閉じると、友香の頭を撫でながら、優しくキスをした。そっと触れる、親愛のキス。小鳥の嘴の様に、何度も、何度も。

「うふふっ」

 友香は幸せそうに笑うと、雄一の胸元に頭を寄せた。コツンと当てて、心臓の音を確かめるように、そっと密着する。紅潮した頬と、とろんと潤んだ瞳が、いつもとは違う友香の魅力を醸し出していた。

「ぼく、えっちも好きだけど、キスも好き。雄一さんも、かなたちゃんも、どっちとするのも好きだよ」
「僕も、二人とキスするの、好きだよ・・・まぁ、それだけじゃ済まなくなっちゃうんだけど、ね」

 友香は、悪戯を思い付いた顔で、雄一を見上げた。少し意地悪っぽい顔で笑う。また左手の人差し指で雄一の胸をぐりぐりしながら言った。

「もしかして・・・おっきくなっちゃった?」

 図星を指されて、雄一は顔を赤くした。押し付けるようにぐりぐりと動く友香の腰を両手で押さえて、自分の膝の上から床に下ろした。

「かなたは買い物に行ってるんだし、これ以上変な雰囲気になったら困るから・・・ここまでだよ」
「別に、かなたちゃんは怒らないと思うよ。混ざるだろうけど」

 雄一は、頭の中でそのシチュエーションをシミュレートしてみた。確かに、『もう、二人ともしょうがないんだから』とか困った様に言いながら、いそいそと嬉しそうに服を脱ぎ出しそうだった。あまりにリアルなイメージが浮かんで来て、雄一は頭がくらくらした。
 今日は平日だし、夕飯を一緒に食べるだけのつもりだから、さすがにそれは困る。雄一が、ではなくかなたと友香が。なにしろ、明日も学校があるし、帰すのが遅くなるのも・・・。

「やっぱり、止めておくよ。今週末は泊まりに来るよね?その時のお楽しみって事で」
「むー。まぁいいけどっ」

 雄一は、冷めてしまった紅茶を一気飲みした。喉の奥に、少し苦味が残った。

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 ・
 ・

「・・・ねぇ、かなたちゃん」

 暗くなった道を、かなたと友香は名残惜しさを感じながら、ゆっくり歩いた。夕食を食べた後で、雄一が送ると言ったのを丁重に断ったから、今日は珍しく二人だけだった。
 もう、数え切れないくらい何度も通ったこの道も、雄一さんがいるのといないのとで、ぜんぜん印象が違うな、などと考えながらかなたが歩いていると、ぽつりと友香が声を掛けてきた。

「なぁに?」
「雄一さん、なんで学園祭に来たくなさそうだったのかなぁ?」

 かなたは足を止めて、友香に向き直った。友香も足を止めて、見詰め返す。少し躊躇ってから、かなたは静かに口にした。

「友香ちゃんと、私の為だと思うわ」
「ぼくたちの関係が、普通じゃ無いから?」
「・・・多分ね」

 それが今日、かなたが一人で買い物に行った理由。雄一が口にした訳では無いけど、雄一が神経質なぐらい、三人でいる時に二人の知人に会う事を恐れているのを知っているから。
 多分雄一は、前に外でかなたとえっちした時、友香に見られた事が忘れられないからだとかなたは思う。ほんの少し、胸に疼く罪悪感と一緒に。

「でも、ぼくは気にしないよ。ううん、みんなに知って欲しいぐらい!だってぼく達、これからも一緒に生きてくんだよね?」
「・・・そうね」

 改めて言われると、かなたは少し驚いた。それは、かなたよりも友香の方が、現実的に考えている事が判ったから。今は永遠に続かない・・・かなたは・・・雄一も、無意識にそれを考える事を、避けていたのかも知れない。

「そうね。きっといつかははっきりしないといけないと思う。もしかしたら、それが今なのかもね」
「そうだよ。ぼく達は確かに普通じゃないかも知れないけど、悪い事をしてる訳じゃないもんっ!祐美ちゃんや直子ちゃんに、思いっきり雄一さんを自慢したいし、おめでとうって言って欲しいよ!」

 そう言って、友香は悔しそうに俯いた。

「雄一さんがぼく達を大事にしてくれてるの、すごく嬉しいけど、やっぱりそれじゃダメだよ」
「友香ちゃん・・・」

 友香は、決意の色を瞳に映して、視線を上げた。暫く考え込んでから、にやっと笑ってかなたに目を向ける。

「ねぇねぇかなたちゃん、こういうのはどうかな?」

 友香はかなたの耳元に口を寄せると、ひそひそ話を始めた。暫くして、かなたの頬が朱に染まったが、夜空に煌々と輝く星々以外には、それを見るものは無かった。

─ 2 ─

 そして週末。今日はかなたと友香が、雄一の館にお泊まりする日。学園祭は、来週の土日に迫っている。かなたと友香は、食材をたっぷり買い込んで雄一の館を訪れた。

「おかえり」
「ただいまです」
「ただいま~。ゆーいちさん、会いたかったよっ」

 かなたは控えめに微笑んで、友香は雄一に抱き付いて挨拶した。雄一は、食材を落さないように気を付けて、友香を受け止めた。柑橘系のコロンの香りが雄一の鼻をくすぐる。

「昨日会ったのに?」

 雄一が苦笑しながら聞くと、友香は勢い込んで雄一を見上げた。

「昨日から今まで会ってなかったからっ!ホントはぼく達、ずっと雄一さんといっしょにいたいんだからねっ」

 雄一は笑うと、友香の頭を撫でた。かなたも微笑んでそれを見ていたが、思い出したかのように雄一に声を掛けた。

「雄一さん、今日はカルボナーラに挑戦しますね」
「へぇ、美味しそうだね。楽しみだよ」

 そう言いながら、雄一はかなたが自宅で練習してきた事を確信していた。かなたの性格上、雄一の前で料理を失敗する訳にはいかないと思うはずだから。それは意地や見栄ではなく、ただ純粋に雄一の為に・・・。そんな努力の跡を微塵も漂わせないかなたが、だからこそ雄一は愛しいと思う。

「ぼくはね、サラダに挑戦だよっ!美味しいドレッシングの作り方を、かなたちゃんに教わったのっ!」

 雄一の胸元で、友香が嬉しそうに話した。雄一も嬉しそうに微笑んで、「それは楽しみだね」と言うと、友香の顔が、いっそう喜びに輝いた。

「じゃあ友香ちゃん、始めましょう?」
「うんっ!」
「あ、今更だけど、荷物を持つよ」

 雄一は自然に二人の荷物を受け取ると、結構重たいのに驚いた。食材もそうだけど、どうやら”お泊まりセット”も結構重たいようだ。

「ありがとうございます」
「ありがとっ」
「よく二人ともこれだけのものを持って来れたね?」

 雄一はそのまま、一緒に調理場へ向かった。いつも雄一が力仕事をするようにしているので、荷物を取り合ったりといった譲り合いは無い。

「オンナノコは、結構大変なんだからねっ」

 雄一の顔を覗き込むように言うと、友香はぱたたたたと調理場に走って行った。今日も、友香は元気一杯らしい。かなたと雄一は顔を見合わせて、くすっと笑うと友香を追いかけた。

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 ・

 そして夜。雄一は裸でベッドに縛り付けられていた。

「ええと・・・」

 何となく頼りなげに、雄一は呟いた。何度も裸を見せ合ってるというのに、縛られて自由がないというだけで、妙に居心地が悪い。

「どう言う事かな、これは?」

 寝室で友香に押し倒されて、情熱的なキスをされてるうちに、そっと近寄ったかなたがベッドのヘッドボードに手錠で拘束したのだ。ベッドが傷付かないように、ヘッドボードの支柱にタオルを巻いてから拘束したことを、オンナノコらしい気遣いというべきか、それとも何で手錠を持ってるのかをツッコむべきか、雄一は混乱した頭で悩んだ。

「えへへ。今日はね、徹底的にゆーいちさんを焦らしてみようかと思って」
「雄一さん、ごめんなさいね」

 得意満面の友香と、申し訳なさそうな、そのくせどこか嬉しそうなかなたが、服を全て脱ぎ捨てると、雄一の左右に寄り添うように横たわった。そのまま、二人掛かりで雄一の乳首に舌を這わせる。優しく繊細な感触に、雄一の身体が震えた。唇を噛んで、喘ぎ声が漏れる事は押さえたが、雄一のものに力が漲るのは耐えられなかった。

「あはっ、ゆーいちさん、凄くなってる!ぼく、舐めてあげるねっ」

 目を輝かせた友香が、雄一の下半身の方に身体の向きを変えた。雄一の目の前に、友香の濡れて光に映える秘所が息づいていた。その溢れ具合から、友香もかなり興奮しているのが判る。

「わぁ、すごくおっきくなってる!」

 友香は嬉しそうに目を細めて、舌を伸ばした。これも、雄一のものに触れるか振れないかの微妙な位置で、ちろちろと躍らせる。雄一には友香の熱い息が、友香には雄一のものの熱さが、直接触れないためにいっそう敏感に伝わってくる。雄一の頭が、熱に炙られたように、何も考えられなくなって行く。

「あぁ、ゆういちさん・・・すごい・・・」

 熱に浮かされたような口調で囁くと、かなたはゆっくり舌を這わせた。雄一の乳首から首筋へ、喉を経由してお腹へ、ヘソのすぼまりを穿ってから更に下へ。時々我慢出来なくなったように、キスマークを付けて行く。舌と唇の感触が、ますます雄一をたぎらせた。

「んっ!・・・はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

 もう、雄一は喘ぎを堪える事も出来ずに、ただ荒い呼吸を繰り返していた。ここまでされると、気持ち良いというよりも精神的な苦痛と感じられた。もし、この状態が続くようなら、泣きながら入れさせて欲しいと懇願してしまうかも知れなかった。

「ねえ、ゆういちさん・・・ゆういちさんの、濡れてきたよ。うふふ、いれたい?」
「う・・・」

 雄一は、がくがくと首を縦に振った。今手錠を外されたら、自分の欲望を満たす為だけに、強姦同然に犯してしまいそうだった。雄一は、自分の欲望の強さに恐怖を覚えた。そんな思いも、劫火の前の紙切れのように、すぐに欲望の炎に焼き尽くされてしまう。
 友香は艶然と微笑むと、雄一の耳元に顔を寄せた。友香は雄一の耳に息を吹き込むように、焦らすような口調で囁いた。

「じゃあ、ぼくの言う事、聞いてくれる?」
「あ、ああ・・・だから・・・っ!」
「あ・り・が・と♪・・・今日は大丈夫な日だから、ナマでしたげる♪」

 そう言うと、友香は雄一の上に跨るようにして、ゆっくり挿入した。雄一を焦らす事で自分も興奮したのか、そこは滴るほどに愛液を湛えて、溶けるほどに熱くなっていた。少しずつ擦るようにして奥まで入れると、雄一と友香は同時に呻いた。

「は・・・あぁ・・・」

 至福の表情で喘ぐと、友香は腰を動かし始めた。友香自身も快感で腰が痺れたようになって、あまり大きな動きは出来なかったが、雄一も友香も頭の中が掻き回されるような、身体中がばらばらになりそうな快感を感じていた。
 何度腰を蠢かせたか、友香は上半身を起こしている事が出来なくなって、雄一の上に倒れ込んだ。それでも友香の秘裂は、別の生き物のように貪欲に、雄一を締め付けていた。

「んっ!」
「ああっ、ああああああっ!!」

 耐え切れなくなった雄一が、熱い精を友香の中に放つと、友香も絶頂に達した。コンドームを付けていないので、自分の一番奥に精液が叩きつけられる感触が、今まで以上の快感を脳に伝達する。

「あ、あはっ・・・ああぁ・・・」

 友香の中の回線が快楽に焼き切れたように、あっさり友香は失神した。そのまま身体が雄一の横に転がり落ちたが、まるで人形のように意識は戻らない。目を半分開いて、幸せそうに微笑んでいるような友香の顔は、すごく淫靡な印象を見るものに与えた。

「んぅっ、ふあぁ・・・」

 荒い呼吸を繰り返す雄一に、小さく喘ぐ声が聞こえた。目を向けると、かなたが足元に女の子座りをして、秘所に手を這わせていた。途中から、我慢出来なくなって、一人でしていたのだろう。

「かなた・・・おいでよ」
「あぁ、ゆういちさぁん・・・」

 まるで、やっとご主人様に名前を呼んでもらえた子犬のように、限りない喜びを顔に浮かべて、かなたがにじり寄って来た。まだ硬度を失っていない雄一のものを優しく握ると、精液と愛液で濡れたままのものを、口に咥えた。愛しい人達のものだから、美味しいの・・・そう言いたげに、全て舐め取って行く。程無くして、雄一のものは完全に復活した。嬉しそうにその様子を見ると、かなたは雄一に跨って行った。

「あの、本当は手錠を外した方が良いと思うんですけど、私もゆかちゃんみたいに、このまましてみたいから・・・ちょっと我慢して下さいね」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、入れますね」

 くちゅ。二人の濡れた部分が触れ合い・・・すぐに一つになった。

「あっ、あああっ、はいってくる、はいってくるのっ・・・んああっ!」

 かなたは、そのいやらしい部分から目が離せなくなった。秘裂を押し広げて、雄一がかなたの中に入って来る。気を抜いたら、腰に力が入らなくなって、一気に奥まで入れてしまいそうだった。

「あ、はぁあ・・・」

 ゆっくりと一番奥まで雄一を迎え入れると、かなたは安心したように吐息をもらした。腰は動かしていないのに、かなたの中は、まるで鼓動に合わせるように雄一のものを優しく何度も締めつけた。

「はふ・・・なんだかこうしていると、んっ・・・私がゆういちさんを、襲ってるみたいですよね」

 興奮に顔を赤くしたかなたが、喘ぎ混じりに笑いながら囁いた。雄一はその言葉に、少し困った顔をした。

「・・・でも、もうしないで欲しいな。・・・へんな趣味に目覚めたら困るよ」
「うふふっ。ゆういちさんと私達の、どっちがですか?」
「どっちも、だよ・・・っと」

 雄一は、下からかなたを突き上げるように、腰を動かした。身体ごと持ち上げられたかなたは、急に発生した鋭い快感に甘い悲鳴を上げた。

「ひあっ、そんな・・・あっ・・・ああんっ!」

 かなたは雄一のお腹に手を突いて身体を支えると、雄一に合わせて腰を動かし始めた。内側の濡れた壁をこする快感が、かなたの頭の中を熱く蕩かして行く。下から突き上げられる度に、室内にかなたの甘い喘ぎが響いた。

「あっ、あっ、んぅっ、ふぁっ、ぅくっ、ああっ!」

 雄一は腰の動き方を、上下運動から円運動に変えた。こする動きから掻き混ぜる動きに変わって、かなたの全身から力が抜けて行く。
 かなたはもっと深く雄一を感じたくて、無意識のうちに身体を仰け反らせた。雄一の膝に手を置いて、結合部を強く押し付ける。

「あっ!す、すごいのっ!おくっ、おくがっ、ぐりぐりって、あっ!へんになっちゃ、なっちゃうのっ!」

 雄一は、かなたの反応を見ながら、特に感じるあたりを重点的に、小刻みに突いた。すぐにかなたの悲鳴が、断続的に高くなる。感じ過ぎて呼吸もままならないのか、半分開いたかなたの唇から涎が一筋流れた。

「あ、あ、ああ、あ、あ、ひっ、あ、ああっ!」
「そろそろ、イクよっ」

 そうかなたに声を掛けると、動きを止めて、身体中から絞り尽くすように精を放った。それを一番深い所で受けとめたかなたは、一瞬身体を硬直させると、全身を脱力させて雄一の上に倒れた。かなたの中に入ったままの雄一のものが、時々思い出したようにかなたに締められる。

「二人とも激しいんだもん。ぼく、また感じちゃったよ」

 手錠を外す音と一緒に、友香が笑いながら雄一に話し掛けた。手に傷が付いていない事を確認して、優しく雄一の手首をマッサージした。

「今日はもう、疲れたからお終い」

 そう雄一が返すと、「ざーんねんっ」と微笑みながら言って、友香は雄一にキスをした。身体に火が点かない程度にキスを楽しんで、友香は身を起こした。

「でも、言うコト聞いてくれるって約束、忘れないでね」

 友香の笑顔は、小悪魔めいて雄一に映った。とても魅力的な小悪魔に。
 雄一は小さく頷くと、急速に眠りに引き込まれていった。「ぜったいだよ」という、友香の声を聞きながら。

─ 3 ─

 良く晴れた日曜日、雄一はかなた達の学校に来ていた。目の前に、陽気な混沌が広がっている。焼きソバの屋台、アトラクションめいた出し物、興奮してがなる声、走りまわる生徒。雄一もそんなに歳は離れていないのに、なぜか懐かしいものをみたような、そんな気がした。

 今日ここに来たのは、友香に強制的に約束させられたから。この間の手錠拘束えっちの翌日の話だ。にこやかに「来てくれるんだよね、ねっ?」と言う友香に逆らえず、せめて日曜日だけにして欲しいと泣き付いて、そのまま今日に至る。
 二人がどこの教室にいるかは聞いていたが、何かをたくらんでいそうな雰囲気で、直行するのが躊躇われた。とはいえ、このまま帰る訳にもいかないのだけど。溜息を一つ吐いて、雄一は校舎に入っていった。
 外来用のスリッパに履き替えて、指定の袋に靴を入れると、ゆっくり校内を歩いた。各教室の案内を見てみると、校風のせいか、意外と自由に催しものを企画しているのが判る。かなた達の教室は、『ネコミミメイド喫茶』と書いてあって、この間の友香のネコミミはこの為だったと気が付いた。なにしろ、かなたも友香も、何をするのかは教えてくれなかったから。確かに、男一人では行き辛い店ではあるので、事前に知っていたら来なかったかも知れない。

「ここかな」

 雄一が教えられた教室の前で立ち止まると、中を覗き込んだ。客の入り具合は7割ほどだろうか、混んでいると感じるぎりぎりの客数だ。ウェイトレス役の女生徒を見ると、確かに全員ネコミミを付けて、メイドの格好をしている。黒いふわふわとしたワンピースに白いエプロンが映えて、女の子の魅力を増している。男子はウェイターの格好で、急造のカウンターの内側で作業をしている。ちなみに男子は、ネコミミを付けていなかった。

「あっ、雄一さん、いらっしゃいませ!」

 それまでも入り口をしょっちゅうチェックしていたのか、すぐにかなたが雄一を見付けて駆け寄ってきた。丸いお盆を胸元に抱き締めて、ぱたぱたと走り寄ってくる姿が可愛い。

「あ、ゆーいちさん見っけっ!」

 今お客さんにコーヒーを出したらしく、端の方のテーブルから友香が駆け寄って来た。満面に笑みを浮かべて、他の事が目に入っていないんじゃないかと思うぐらいに一直線に。迷わずそのままの勢いで、雄一の胸に飛び込む。

「えへへっ、待ってたんだよ~」

 その瞬間、教室の中にざわっと硬い雰囲気が満ちた。ぎっ!と音が聞こえるような視線を雄一に向けたのは、ウェイター役の男子と、お客さんとして来ている男子、合わせて30名ぐらいか。
 雄一が回りを見渡すと、結構シャレにならない視線を向けている男子が多かった。中には、握り拳を作りながら、イスから半分立ち上がりかけている男子もいる。かなたが引きつった笑いを浮かべながら、頬に一筋の汗を流した。

「あ、ぼくとかなたちゃん、あともう少ししたら休憩だから、お茶して待っててね」

 周りの空気を理解していないのか、にこやかに微笑みながら、友香は雄一の手を取ると、テーブルの方へ引っ張って行った。男子生徒の視線が、雄一の動きを追尾して離れない。緊張にぎくしゃくしながら、雄一は席についた。取り敢えずコーヒーを頼んだが、味は一切判りそうに無い。
 正直、友香がこれほど人気があるとは思わなかった・・・そう思いながら、雄一はそっと溜息を吐いた。

「ねぇねぇ、あの人って、友香ちゃんのカレ?」
「えっ?えへへへっ」

 雄一の耳に、友香と同級生の会話が聞こえてきた。なんだかイヤな予感がして、雄一のカラダが硬直する。もちろん、教室内の男子は全員が全神経を耳に集中している。米粒を落しても聞こえそうな静寂の中、照れた友香が言葉を続けた。

「違うよぉ、さっちゃんってばやだなぁ~」

 一瞬にして、緊迫した空気が弛緩した。固唾を飲んで緊張していたかなたも、安心して大きく息を吐いた。雄一も、イスからずり落ちそうなぐらい安心する。ふと見ると、掌にびっしり汗をかいていた。
 それは当然かもね・・・そう雄一は思った。生きて帰れないことも、覚悟したくらいなんだから。まぁ、無事に終わりそうで良かった。雄一はそう安堵して、そっとジーパンの腿のあたりで手の汗を拭った。

「ぼくと、かなたちゃんの恋人だよっ。三人でらぶらぶなのっ!いいでしょっ」

 ・
 ・
 ・

 ぴきっ。
 確かに雄一は、空気が歪む音を聞いた。
 先程の重圧なんて、まだまだ序の口・・・それが、いやと言うほど理解できた。
 まるで、石のように固まる体。
 まるで、糸の切れた人形のように動けない体。
 時すらも凍りつく極限の緊迫感が、雄一を襲っていた。
 甘かった・・・。
 生きて帰れないなんて、まだまだ甘かった・・・。
 自らを蝕む、圧倒的な絶望感の中、雄一は全てが終わった事を確信した。
 さようなら、かなた、友香・・・今まで、楽しかったよ。ありがとう。
 そっと・・・雄一は目を閉じた。

 ・
 ・
 ・

 どれくらい目を閉じていたのだろう。ふと・・・雰囲気の変わった教室の中で、雄一は目を開けた。教室の中から・・・廊下からも、悲鳴や怒号が聞こえて来る。

「うああああっ!死ぬっ、死んでやるっ!!」
「だめっ、ここ3階よっ!」
「俺の、俺の青春は終わったーっ!!」
「あ、あはは・・・酷い・・・酷いよ・・・助けてよ、ママン・・・」
「ちくしょおっ、ちくしょおぉっ!!」
「そんなの、いやぁっっ!わたしの・・・わたしの友香ちゃんがっ!!」

 パニックが起こっていた。男子生徒達が涙を流して、無意味に走りまわっている。窓から飛び降りようとしている者、壁を殴るなどの自傷行為に走る者、虚ろな瞳で壁に話し掛けている者・・・友香の一言は、それほどの破壊力を持って、パニックを引き起こしていた。なにやら、女生徒の悲鳴も混ざっていたが・・・。

「ええと・・・」

 雄一が呆然自失していると、かなたと友香が駆け寄ってきた。あと、それ以外のネコミミメイド部隊も大量に。雄一が立ち直る前に、周囲をネコミミメイドで包囲された。雄一の有効視界内を埋め尽くすネコミミメイドに、心理的に圧倒される。

「二人と付き合ってるって、ホントですか?」
「それ、二股じゃなくて、同時にってコトですか?」
「わぁ、ハーレムですね!凄いなぁ」
「いつ知り合ったんですか?」
「いつも、三人一緒にナニするんですか?」
「きゃっ、ナニだって。えっちぃ!」

 雄一の回答を期待していないかのように、ひたすら質問しまくるメイド、メイド、メイド。もはや、誰がどの質問をしたかなんて、雄一には理解できていなかった。冷たい汗を流しながら、「あ・・・いや・・・その・・・」と、きょろきょろと落ち着き無く視線を動かしながら、意味の無い言葉を口の中で呟く。

「ゆーいちさん、こっちこっち!」
「雄一さん、取り敢えず逃げましょう!」

 聞き慣れた二人の声に、雄一は一筋の希望を見出したかのようにそちらを向いた。見ると、ネコミミメイド包囲網に穴が開いていて、ネコミミを外したかなたと友香が手を小さく振っている。

「ごめんっ!」

 半分悲鳴のように声を上げて、雄一はネコミミメイドを掻き分けて、包囲網の外へ飛び出した。そこではまだ男子生徒の狂乱状態が続いていたが、それは取り敢えず無視する。ヘタに関わって狂乱の状態が雄一へのベクトルを指すと、リンチに合いかねない。
 かなたと友香はそれぞれ雄一の手を取ると、一目散に逃げ出した。後ろから、「あっ!逃げたっ!!」とか言う女生徒の声が聞こえたが、三人は振り向かずにそのまま走り去る。まるで、一陣の風のように。

─ 4 ─

 汗をかいた身体を、秋の風が優しく癒している。さっきまで身体に残っていた熱気が、ゆっくりと発散されて行く感じ。心の中の緊張感も、いつしか解けて行った。
 ここは高校の屋上。周りに高い建物が何も無いから、かなり遠くまで見渡せる。三人は人目を避けてここまで逃げ延びて、やっと一息ついたところだ。いつ誰が追いかけて来ても良い様に、入り口から死角になる給水タンクの裏に陣取る。

「友香・・・なんであんな事を言ったの?」

 雄一は少し硬い表情で、友香を真正面から見ながら質問した。あそこまでのパニックが発生したのは友香のせいじゃ無いにしても、あまりにも唐突過ぎると思ったから。

「ごめんなさい、でも・・・」

 友香は視線を落して、しおらしく言った。でも・・・そう言って、視線を雄一に向ける。怒っている訳では無いが、強い力を秘めた視線を。

「でも、みんなに知って欲しかったから!ゆういちさんがぼく達を気遣ってくれてるのは嬉しいけど、でも、それじゃいつまでたっても三人でデートも出来ないし!」
「・・・」
「ぼく達が普通じゃ無い関係なのは、ぼくもかなたちゃんも覚悟してるから!」
「友香・・・」

 雄一の目の前に立っているのは、精一杯の意志を瞳に込めて、両足を地に付けてしっかり立っている友香。雄一は、初めて出会った人のように、驚きながら友香を見ていた。知っていたのに・・・友香が夏頃から強く、前向きに変わった事を知っていたのにね・・・少しの後悔と、新鮮な驚きを感じながら、雄一はそう思った。

「私も、だから協力する事にしたんです。ただ守られるだけじゃなくて、一緒に並んで歩いて行きたいから」

 かなたもはっきりと意志を込めて言った。そしてその後、表情を崩して、悪戯を見つかった子供の様に照れながら、「でも、あんなことになるなんて、思いもしませんでしたけどね」と付け加えた。

「だから、”かみんぐあうと”する事にしたのっ!もっとぼく達が自由に生きられるように!」

 そう言い切った友香は、とても格好良かった。雄一は素直に現実を受け止める事にした。二人をもっと幸せにする為にも。

「ごめん。二人に迷惑を掛けたく無いと思ってたんだけど、ちょっと独り善がりな態度だったね」

 その言葉に、友香とかなたの表情が明るくなる。二人を甘やかす為ではなく、雄一が誠実に受け止めてくれた、それが嬉しく感じられた。

「ううん、ぼく嬉しかったんだよ。でも、やっぱり三人でがんばろうよ」
「そうですよ。一人より二人、二人より三人って言うじゃないですか。私ももっとがんばりますから、ね?」

 そっと、雄一は二人のおでこにキスをした。ちょっぴり汗の味がするキス。でも、なんだか幸せな感じがした。今までだって、雄一は嫌だと思った事は無いけど、それとは感じ方が違う気がした。
 何て言うか、心も身体も軽やかに感じるキス。1ミリグラムも心に負荷の掛からないキス。心の持ち様一つで、こんなにも感じ方が違うのかと感動して、何度も何度も二人にキスをした。おでこも、頬も、まぶたも、首筋も、唇にも。二人ともくすくすとくすぐったそうに笑っていたけど、避ける素振りは見せなかった。

「でも、さっきは本当に殺されるかと思ったよ」

 雄一が笑いながら言うと、かなたも苦笑しながら頷いた。

「ホントです。友香ちゃんって、ものすごくもてるんですね」

 そう言って、かなたはさっきの事を思い出してか、また小さく笑う。今は一区切りついたから、笑っていられるんだろうけど。

「えーっ。それを言ったら、かなたちゃんだってーっ!ほら、”ましょうのおんな”だしねっ!」
「・・・”魔性の女”?」

 言われたかなたは、顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。口の中で小さく、「・・・言わないでって言ったのに・・・」と呟いている。よっぽど恥ずかしいのか、一気に精神年齢が下がったように、指先でもじもじしている。

「えとね、今年の春は、かなたちゃん告白ラッシュだったんだよ~。もう、毎日のように告白されててすごいのっ!」
「へぇ、凄いね。でも、恥ずかしがる事じゃないんじゃないの?」
「怒ったり・・・しません?」

 雄一は思いっきり笑った。笑ったら失礼だと思いながらも、かなたの上目遣いに問い掛ける様子が可愛くて、発作のように止まらなくなった。案の定、かなたの頬が膨らんでいる。その拗ねた様子も激しく雄一のツボにはまった。

「あ、あははははっ、すご、すごくかわいい・・・あははっ・・・」

 雄一が呼吸困難になるほど笑っていると、友香も・・・しまいにはかなたも笑い出した。目に涙が浮かぶほど、徹底的に笑い転げる。人気の無い屋上に、明るい笑い声が響き渡った。

 ・
 ・
 ・

「僕も二人にちゃんと頼るから・・・自分一人で決めたりしないから、今度からはこんな不意打ちはしないでくれるかい?」

 笑いの発作がやっと治まった頃、雄一は静かに口にした。これは、雄一の誓い。ただ幸せにしようとするだけでなく、一緒に歩いて行く事の宣誓。友香も、少し真面目に顔を引き締めて頷く。

「うん、ごめんね」
「私も、ごめんなさい」

 かなたと友香の返事に、雄一は顔をほころばせた。

「別に、怒ってる訳じゃないよ。それに、そういう事なら、僕もごめんなさい、だね。でも、かなりびっくりしたよ」
「ぼくも、軽いショック療法のつもりだったんだけどね・・・だから、これはお詫びって事で・・・」

 そう言って、友香は雄一のズボンのチャックに手を掛けた。足元に跪きながら、嬉しそうにチャックを下ろす。友香の突然の行動に、雄一が慌てた。

「ちょ、ちょっと待って!こんな所で!?」
「お詫びはその場でしないとダメなんだからね♪」

 上目遣いに足元から見上げられて、雄一の背中がぞくぞくした。雄一の中の理性が、学校の屋上という危険なシチュエーションを阻止しようとしたが、欲望が急激に身体を満たして行く。柔らかく下着の上から触れる指の感触に、雄一は身動きできなくなった。

「んっ・・・そんな、動物の躾じゃないんだから・・・。かなたもなんとか・・・あう・・・」

 雄一は、かなたに助けを求めるように視線を向けて、そのまま凍りついた。その視線の先では、かなたがお尻をくいっと持ち上げた前屈みの姿勢で、スカートに両手を入れてパンティを脱いでいた。嬉しそうに頬を赤らめて取ったその格好は、なんだかお茶目に映った。一瞬、友香に与えられている刺激も忘れて、雄一は呆然とした。

「・・・なんで、脱いでるの?」
「え?これからするんですよね?私パンティの替えを持って来てませんから、汚したら困りますし」
「・・・ここで?」
「ええ。学校で、一回して見たかったんですよね。映画館と、お外はしましたから」

 雄一の敗北決定。

「えへへっ。いっただっきまーすっ」
「あ、くっ!」

 友香は楽しそうに言うと、雄一のものを取り出して、すでに硬くなったそれの先端にキスをした。舌をチロチロと、時には舌全体で舐め上げるようにして、根元と先端を行き来する。雄一は鋭敏な刺激に、小さくうめいた。

「友香ちゃん、私も・・・ね?」
「ぷぁ・・・うん、いっしょに・・・しよ」

 いつの間に近付いたのか、かなたも跪いて、雄一のものに舌を這わせた。協力するように、奪い合うように這う2枚の舌が、倍以上の快感を送り込む。
 我慢出来なくなったのか、大きく口を開いた友香が、一気に喉の方まで咥え込む。歯で傷付けないように気を付けながら、何度も頭を前後させる。

「んっ、んむぅ、んぁ、んっ、んんんっ!!」

 喘ぎ混じりの呼吸をしていた友香が、突然悲鳴にも似た声を漏らした。雄一のものを奪われたかなたが、友香の後ろに回って、スカートの中で手を動かしたからだ。どのようなテクニックを駆使したものか、すぐに友香の顔が、羞恥や息苦しさとは別の意味合いで紅潮した。

「だ、だめだよ・・・で、でる・・・」

 雄一が奥歯を噛み締めながら言うと、押し退けようとする雄一の動きを封じるように、友香は頭の動きをさらに速めた。

「服が、汚れ・・・うっ!」

 とうとう我慢出来ずに、雄一は精を放った。腰が抜けそうになる程の快感と共に、大量の精液を友香の口の中に出して行く。友香に吸引される感触が、ただ放つよりも激しい快感を伝達する。
 全てを受け止めると、友香は艶やかに微笑んだ。唇の端から垂れる精液が、凄まじくいやらしい印象を与える。友香はすっと振り返ると、背後のかなたの唇を奪った。驚いて離れようとするかなたの頭を捕まえて、口の中に溜めておいた精液を、舌を使って流し込む。

「んーっ?んぅーっ!」

 暴れるかなたの動きが緩慢になり、次第にその表情が媚薬を流し込まれたように、色めいて行く。いつしか、二人はしっかりと抱き合って、お互いの舌を絡め合うキスをしていた。まるで、相手の口の中に残った精液を、味わい尽くすように。重なった唇から洩れる喘ぎが、耳から入って興奮を更に高める。

「んぅ・・・ああん・・・ふあぁ・・・」

 名残惜しげに唇を離すと、二人は見詰め合って微笑みを浮かべた。

「ひどいわ、ゆかちゃん・・・急に口移しするなんて・・・」

 照れながらかなたが言うが、その口調に責める響きは無い。友香もそれが判っているから、悪びれずに言った。

「えへへ、でも・・・美味しかったでしょ?ゆういちさんの、せ・い・え・き」
「う・・・うん・・・」

 はにかみながらかなたが答えた。快感で瞳が潤んでいる。その様子を見ていた雄一も激しく興奮して、早くも復活していた。財布に入れていたコンドームを、手早く装着する。早く二人と一つになりたくて、身体が震えた。

「それじゃ、二人とも給水タンクに手をついて」
「はぁい」
「こうですか?ゆういちさん」

 二人が並んで、雄一の方にお尻を突き出している。制服のスカートを押し上げる曲線が、悩ましく雄一には感じられる。雄一の方を振り返って、わくわくしながら見詰めている二人の視線を意識しながら、同時に二人のスカートをめくった。

「あ・・・」

 かなたがパンティを脱いでいたのは見たが、友香は淡いグリーンのパンティを履いたままだった。秘裂周辺が濡れて、色が変わっている。ぴったり張り付いているので、物欲しげに開きかけている様子や、興奮して勃起したクリトリスの位置までくっきり判った。これ以上濡れてしまうのも可哀想なので、膝の上あたりまで下ろす。

「んふっ」

 友香がくすぐったそうに、小さくお尻を振った。誘われるように、雄一は右手で友香の、左手でかなたの秘裂を触れた。愛液を分泌しているそこは、秋の風に晒されながらも熱い熱気を発散していた。ゆっくり人差し指と中指を挿し込んで行く。

「ああっ!」
「んぅっ!は、はいってくるよぉ!」

 二人の喘ぎ声に、雄一はビクっと身体を震わせた。幸い、校庭や階下からの歓声に紛れて、下までは聞こえはしないだろうけど。

「困ったな・・・。そうだ、二人とも『催眠状態』になって」

 すぐに深い催眠状態に移行して、反応の無くなる二人。いつも表情豊かな二人だけに、催眠状態で無表情になる様子は、二人に悪いと思いながらも、雄一を倒錯的にぞくぞくさせた。

「今から二人とも声が出なくなる。どんなに気持ち良くても、声は出ない。その分、外に出て行かない声が身体の中で響いて、凄く気持ち良くなるよ。あと、二人が一つになったように、入れられた快感を共有できるんだ。入れられてなくても、まるで僕ので掻き回されてるように気持ち良くなれる・・・いいね」

 そういうと、まずはかなたに挿入した。熱く濡れた、柔らかくて締め付ける感触が雄一を包む。かなたの鼓動のリズムか、きゅ、きゅっと強弱を付けて締まるので、気を抜いているとすぐにでも達してしまいそうだ。

「・・・っ・・・」
「・・・!・・・」

 かなたが入れただけで小さく達したのか、口をぱくぱくさせて身体を震わせた。友香も、口を小さく開いて身体をびくつかせている。友香の開いた脚の間に、ぱたっと音を立てて、愛液が一滴落ちて、屋上を濡らした。

「!・・・っ・・・」
「・・・ふっ・・・っ!」

 雄一が腰を動かすごとに、鋭い呼気が風に乗って拡散する。声だけで無く、身体の熱までもが内側に篭もっているように、二人の身体が桜色に息づく。服を着たままでいるのが勿体無いくらい、いやらしくて、美しい姿だった。
 数回抽送すると、今度は友香に挿入した。かなたとは違う、一つ一つのパーツが小さい感じで、きつく雄一のものを締め付けた。全部が入りきる前に、一番奥に突き当たる。

「!!っ・・・ぅ・・・っ!」
「・・・んっ・・・っ・・・!」

 友香は、特に感じる場所を突かれて、瞬間的に身体を仰け反らせた。給水タンクに突いた手が、ブルブルと震える。雄一が心配して友香の顔を覗き込むと、涙に濡れたような瞳で見詰め返して、小さく何度も首を縦に振った。

「・・・続けるよ」

 そう宣言すると、友香の腰を押さえて、ゆっくりと抽送を開始する。友香の興奮を示すように、ぎゅっと手で掴むぐらいの強さで、雄一のものに絡みつく。かなたも友香もタイプが違うだけで、雄一には比べられないぐらいにどちらの中も気持ち良かった。
 友香の中でも数回動いて、またかなたに戻る。雄一が入っていない間も感じ続けていた事を示すように、かなたの開いた脚の間に、愛液が数滴滴っていた。まるで待ちわびていたように半分開いた秘裂に、濡れた音を出しながら押し込む。二人の身体が感電したかのように、またビクっとした。
 雄一が腰を使いながら前を見ると、給水タンクに突いたかなたの右手と友香の左手が、まるで暗闇の中を探る様に少しずつ近付いて行った。指先が触れ合うと、確かめ合うように指が絡まり合う。えっちをしている最中なのに、雄一は二人の結び付きの強さを見た気がして、嬉しそうに微笑んだ。中断していた抽送を、さっきよりも力強く再開する。

「!!・・・!!・・・!!っ」
「っ・・・!!!」

 何度も小さく達していたらしい二人の身体が、一番大きな絶頂に向かって加速して行く。雄一は歯を食い縛りながら、二人の間を何度も往復した。もしその微妙なインターバルが無かったら、もっと早く終わっていたかも知れない。
 それでも、数え切れないほどの抽送の後で、とうとう雄一は限界を迎えた。二人に「いくよっ!」と宣告すると、身体に残っていた精を、全て放出した。

「「!!!!」」

 かなたと友香が、同時に深い絶頂に達した。コンドームをしているからそんな事は無いはずなのに、二人とも自分の奥深くに精液を受け入れたように感じて、身体だけで無く、心の深い部分から悦びを感じた。
 声の出ないまま、何度も何度も絶頂感に翻弄されて、立っていられなくなった二人は給水タンクに抱きつくように、ずるずると膝を付いた。そのまま幸せそうに目を閉じて、荒い息を吐く。

「・・・ふう」

 心地良い疲労を感じながら雄一が使用済みのコンドームを処理すると、今度は膝を付いてお尻を突き出した姿勢の二人の、濡れた秘裂をティッシュで拭った。それで二人とも半失神状態から目を覚ましたが、腰に力が入らないようで、そのまま身体をずらして給水タンクを背に預けて座り込んだ。

「ぼく・・・気持ち良くって・・・死んじゃうかと思ったよ」

 えっちが終わったことで声が出るようになった友香が、息も絶え絶えにそう口にした。かなたも恥ずかしそうに微笑みながら、うんうんと頷く。

「でも、これからはあんまり外ではしないからね。見つかるとまずいし」

 そう雄一が答えると、二人で首を縦に振った。友香が一瞬、何か企んでるような表情を浮かべたが、雄一は気にしない事にした。この二人が本当に何かしたいと思ったら、自分では逆らえない事に知っているから。

「ん」

 そう言いながら、友香が自分とかなたの間をぽんぽんと叩いた。かなたも気が付いたように、微笑みながらぽんぽん叩く。しょうがなく雄一が二人の間に座ると、両肩に頭の重さが感じられた。

「まだ、下に降りるとキケンかも知れないから、もう少し休もうよっ」
「き・・・危険って・・・」

 冷や汗を分泌しながら雄一が呟くと、左右から嬉しそうな、幸せそうなくすくす笑いが聞こえて来た。まるで子ネコみたいだと、雄一は思った。

「・・・すき・・・」

 どちらが言ったのだろう。風に散らされそうなほど小さい声が、微かに雄一に聞こえた。心地良い疲れが三人を包み、暫くすると、そこからは三人が寄り添って眠る寝息だけが聞こえて来た。

─ 5 ─

ふと気が付くと、すっかり夜になっていた。それでも、校庭からは人のざわめきが聞こえて来る。雄一は自分に持たれかかって眠っている二人を起こした。

「寝てたら夜になっちゃったね。そろそろ帰るよ」
「ん~」
「ふぁ・・・はぁい・・・」

 二人が可愛らしく、半分寝ぼけながら目をこしこし擦っている。雄一は二人の意識がはっきりするのを待った。

『わぁっ!!』

 校庭の方から歓声が上がると、オレンジ色の光りが微かに見えた。パチパチと物が燃える音も聞こえる。

「あ、ファイアーストームが始まったんですね」

 かなたが目を細くして、夢見るように言った。友香も同じような表情を浮かべて、少し笑って言った。

「その後は、メインイベントのフォークダンスだよ」

 その声にタイミングを合わせたように、軽快な音楽が流れ始めた。なんとなく、三人で校庭が見下ろせる位置まで歩いた。校庭ではファイアーストームを囲むように、男女のペアが一緒に踊っているのが見える。

「フォークダンスって、あんな感じだったっけ?僕の学校だと、男女のパートナーがどんどん入れ替わったような気がしたんだけど・・・」
「ふふっ。フォークダンスって、いろいろな踊り方があるんですよ」

 雄一とかなたが話していると、友香がうずうずした顔で雄一の右手を取って、そのまま屋上の中央に引っ張った。かなたも心得たように、にこやかについて来る。

「ぼくたちも踊ろうよ!ファイアーストームは無いけど、月明かりがとっても綺麗だよ!」

 そう、弾けるように笑って言うと、友香は雄一の前でくるっと回った。

「踊り方、忘れちゃったよ」

 雄一が戸惑って言うと、かなたが雄一の前に来て、スカートを持ち上げる優雅な挨拶をした。顔を上げて、雄一に微笑みかける。

「いいんですよ、雄一さん。だって、ここにいるのは私達だけですから!」

 かなたが雄一の手を上に持ち上げて、友香と一緒のタイミングでくるりと回る。どうしようかと悩んでいた雄一だったが、少し苦笑してからリズムに合わせ始めた。二人の動きを邪魔しないように、離れないように動く。
 スリッパで動き辛かったし、何度かパートナーの足を踏んでしまったけど、そんな事がまったく気にならないくらいに楽しかった。押さえきれずに笑いながら、三人で踊り続ける。

 ───別に、上手く踊れなくたって、楽しければいいと思う。だって、二人で踊るところを三人で踊ろうっていうんだから。僕達の未来だって、きっと───

 雄一達は時間を忘れて、踊り続ける。もう、踊り方なんてどうでも良かった。離れて、近付いて、ターンして、手を取って・・・三人で同じ時間を共有する。

「ずっと、一緒にいましょうね!」

 嬉しさを隠し切れない口調で、弾むようにかなたが言った。友香も嬉しそうに、「うんっ!」と頷きながら、軽やかにターンする。
 雄一も、心に満ちる喜びを素直に口にした。

「もちろんっ!!」

 かなたと友香、二人のいる生活が雄一にとって、当たり前の日常なのだから。
 祝福するように降り注ぐ月明かりの下、笑いながら三人はいつまでも踊り続けた。

< 終わり >

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