増殖- 7日目(後編) -
そのときだった。
「おやぁ? 薊お嬢様、一体いかがなされたのでございますです?」
声が聞こえた。
誰なのか顔を見ずともすぐにわかる。
燕が今一番会いたくない相手なら、この男は一生会いたくない相手であろう。
だいたい学園長は、なんだってこんな男をこの学園にまねき入れたのか?
あまつさえ、学園寮の管理人をさせるなど……。
「そのようなものをお召し上がりになりますと、あまりお体によくないかと……」
慇懃に便三が言った。
心配そうなのはふりだけだ。
だいたい、言い方自体がいやらしい。
「おやぁ? つばさお嬢さま、このようなところでそのような大胆なな格好をなされましては……」
そういう便三の言葉はまともに聞こえるが、なめ回すように見つめる視先がそれを裏切っていた。
全身から品性の卑しさがにじみ出している。
「ふみぃ~~~」
つばさは、なんだかよくわかってないのか、うれしそうにしていた。
便三の口の端がわずかにゆがむ。
嗤っているのか?
だとしたら、なんと不快な笑顔であることか……。
「お食事のご用意ができましたので、食堂においでくださいませ。そのような物より、まともなものをご用意しておりますです」
そういって、便三が深々と頭を下げる。
そのとたん、理性で押さえつけていた怒りがはじける。
「おだまりなさい! あなたのようなカスに指図される必要はありません。その不快な顔をとっととおどけなさい!」
その美しい口をついてでたのは、いつものような高慢な言葉。
ハッとする。
そう、その言葉は確かに人間のもの。
足に力をいれる。
なんなく立てた。
ノブを握ってみる。
いやになるくらい、簡単に握れた。
つばさを見てみる。
バスタオルを持って、ゆっくり立ち上がろうとしていた。
どうやら元にもどったようだ。自分の方もなんともない。
いつの間にか、あの耳鳴りのような音が消えていた。
「この便三ごときがお嬢様にさしずするなど、めっそうもございませんです。はい」
また、深々と頭さ下げる。
その行為がまた、薊の不快感をあおった。
生理的に受け付けない。
もはや理屈ではなかった。この男と同じ空気を吸っているだけで、汚されているような気分になる。
「後で行きます。さっさと消えなさい!」
はき捨てるように薊がいうと、便三はまた深々と頭を下げる。
また何か言うかと思ったが、黙ったまま結構すんなりと引き下がった。
唾を吐き捨てたい衝動に薊はとらわれたが、それをぐっとこらえる。
たとえ便三に対してさえ、そのような態度をとるなどというのはあまりに品がない。
薊は一旦自分の部屋に戻ってみる。
ただしさっきのでこりたので、あらかじめつばさの部屋のドアは開けておいた。
でも、中に入ってもどうもなかった。
普段と変わらなく動けるし、あの音も聞こえてこない。
一体なんだったのだろう?
得体の知れない不気味さを感じる。
今日は、この部屋には泊まらないほうがいいだろう。
そう判断する。
「今夜は、あなたの部屋に泊まらせていただくわ。つばささん」
そう薊が告げると、
「うぁ~~~い! センパイ今夜は寝かさないぞぅ!」
なんか、あぶなそうにも聞こえる発言をしてつばさがは喜んでいた。
でも結局、薊の心配もつばさの喜びも無意味なものになってしまうのだが……。
二人が食堂に行くと、すでに食事時間を大幅にすぎていた。
寮生達は自室に帰ってしまっている。
ただ一人、燕が食事を続けていた。
どうやら彼女もまた、何かの事情で遅れて来たらしい。
今日は厄日か?
思わず、薊はそう思ってしまう。
なんだって、よりによってこんな時に……。
ほんとうなら口も利きたくなかったけど、逃げたと思われるのはもっとイヤだった。
キッチンから渡された食膳を持って、わざわざ燕の正面に座る。
「ここ、いいかしら?」
他にいるのは、薊から離れようとしないつばさだけだ。
あいているのを承知しながら、わざとそういう言い方をする。
憎らしいことに、燕は視線も向けずに軽く手をふっただけで答えた。
そんなことなどあらかじめ承知してたことだ。
ただ、ムカツキはしたけど……。
「では、おじゃまさせていただくわ」
そういうと、となりでつばさが声をあげる。
「いただくのぉ~~~!」
そんなことを言いながら、いきなりパンにかぶりついた。
どうやらいただくの意味を間違っているらしい。
もちろん薊は、キッパリとそれを無視した。
「今日はどうなされたのかしら? こんな時間にお食事なんて?」
まずは、嫌味の前準備である。
「ちょっとしたトラブルがあった」
短く答える。
こんな時にも、『そっちこそ遅いんじゃないか?』などといわないのが憎らしい。
一方的な高みから見下ろされている。
そんな気分にさせられる。
だから、
「あら? 天才さまにも、トラブルはあるものですのね?」
などという嫌味をいってしまうのだ。
「まぁな……」
軽くうけながされてしまう。
結局また気分が悪くなるのは自分の方だった。
わかっているのに……。
「よかったら、聞かせていただけるかしら? 天才さまのトラブルがどういったものなのか?」
薊は引き下がらない。
負けを認めるわけにはいかないからだ。
「それは、この便三めがお答えできると存じますです」
一体どこからどうやって現れるのか?
いつの間にか近くに便三がいた。
まるで、ゴキブリのような神出鬼没さである。
「あなたには聞いていません! 食事がマズくなります。いますぐここからでてゆきなさい!」
確かに燕は嫌いだった。
でもこの男にくらべれば遥かにマシだ。
この男の場合、その姿を見るだけで鳥肌が立つ。
とくに食事のときには、絶対に見たくない。
「そうはおっしゃられましても、燕お嬢様はお聞きしたいご様子ですが?」
燕の様子がおかしかった。
どれほど薊がからんでも、まるで相手にしようとはしなかったのに……。
いきなりフォークとナイフを置き立ち上がる。
燕の顔には、あからさまなまでの怒りの表情が浮かんでいた。
一体何があったのか?
もちろん、薊にわかるはずがなかった。
今は、静観するしかない。
「きさま、一体わたしに何をした?」
便三の胸倉をつかむんだ燕は、今にも殴りかかりそうな雰囲気である。
本気でそうすれば、おそらく便三はあっさりとのされてしまうだろう。
でも、とうの便三はいやらしいうすら嗤いを浮かべていた。
「おやぁ? このようなことをされて、一体何をしようというのですかな? 燕お嬢様?」
そう言う便三の言葉には、明らかに余裕がある。
追い詰められているのはもしかして……。
疑問は、薊の目の前で確信に変わった。
また、音が聞こえた。
耳鳴りのような音。
聞き覚えがある。
でも、違う音。
なぜなら薊は変わらなかった。
変わったのは……。
「き、きさまぁ……」
便三の胸倉をつかんでいた燕の手の中から、シャツがすり抜ける。
力がなくなったわけではない。
掴みかたがわからなくなったのだ。
わかる。
我がことのように。
自分がそうだったように。
この女も……。
「ヴァウッ!」
燕が鳴いた。
薊の口元に笑みが浮かぶ。
邪悪な微笑。
闇の中の歓喜。
穢れた至福。
「どうです、お嬢さま。このメス犬に躾をしてみられては?」
いつの間にか近づいてきていた便三が、耳元でささやく。
あれほど不快なはずの男の声が、甘くひびいた。
「躾……?」
薊が、ぽつりと漏らす。
「さようでございます、薊お嬢様」
心にしみこむ言葉。
甘くとろかす。
暗闇とどろどろの腐臭。
そんな香りを漂わす言葉。
それが、不思議と心地よい。
“負の感情に身をまかせないで下さい……”
そんな声がどこからか聞こえ来たような気がしたけど、もう気にならなかった。
「この女を……」
そう呟く薊を見る燕の目の奥にちらついたものは、もしや……。
背筋がぞくりとする。
「この女を、薊お嬢さまが調教するのでございます」
調教する……その言葉を聞いた瞬間、薊の心を闇が覆いつくす。
「調教する……そう、調教してあげるわ……」
体が自然と動いた。
食卓の上にあった、燕の食べかけの食事を床の上に下ろす。
「さぁ、これがあなたの食事よ。ケダモノのように、その格好でお食べなさい!」
言葉も自然と口をついて出てくる。
今度ははっきりと、燕の目に怒りが満ちるのが見て取れた。
でも、命令には逆らえないらしく、燕は四足のまま口を直接皿に持ってゆき、その中のスープを舌ですくい上げるようにして飲み始めた。
「ふふっ……。ふふふはははははっ!!!」
それを見る薊の口から、自然と笑い声が湧き出した。
なんと心地よいのだろう。
体中がとけだしそうだ。
「どうだぁ? 気持ちいいだろうがよぅ?」
便三のその言葉に、薊がうなずく。
「そいつをよう、もっといたぶってやりなぁ」
また、薊がうなずいた。
便三の口調が、ガラっと変わってしまっていることに気づいているのだろうか?
「そいつはよぅ。喉が渇いてるみてぇだぜぇ。どうだ、おめぇのションベンでも飲ませてやれや」
便三が言い終えると、薊がすぐに反応する。
スカートを完全にめくり上げ、パンティを無造作に下ろす。
薊の恥部がむき出しになった。
でも、今の薊にはまるで気にならない。
「さぁ、ここに来てわたくしの聖水を飲み干しなさい!」
口にだすと、それが快感になった。
もはやはっきりと怒りを視線に集め、薊を見ている燕。
それでも薊の命令にはさからえないらしく、抵抗するようすも見せずに這ってきた。
薊は立ったまま、大きく足を広げる。
燕の口が、薊股間にしっかりと添えられる。
「さあ、だすわ……んっ」
ため息のような声とともに薊の股間から、激しく黄金色をした生暖かい水が湧き出した。
「んっぐっんっんっんっぐっ」
燕の喉が音をたてる。
目を見開いたまま、燕は必死で飲み続けた。
でも、それでも飲み干すことのできなかった黄金水が口の端からこぼれおち、喉を伝って床の上にしたたった。
その姿を見た薊は、股間があつくなるのを感じていた。
乳首が立ち上がる。
股間には、粘り気のある水分が含まれている。
クリトリスが痛いくらいに勃起していた。
「さぁ、きれいに舐めなさい。奥のほうまでたんねんに、舌できれいにしなさい」
当然のように、薊は命じていた。
燕は薊の顔をジッと睨み付けながら、言われるがままに舌を伸ばす。
アンモニア臭のする水はすぐになくなったけど、替わりに糸を引く液体は増え続ける一方だった。
だからやめられない。
命令は絶対だった。
どれほどイヤでも、燕の体に自由はない。
薊は、そのことがよくわかっていた。
だから、感じた。
自分が感じている以上に。
いつしか、その行為は自分自身がやっていることのように感じていた。
「いいっ……。うっうっ……。そう……その調子……。もっと……もっと激しく!」
燕の舌の動きが、言われるままに激しさを増す。
でも……。
「まだよ! もっと、もっとぉするのぉうよぅ!」
まだまだ足りなかった。
「はげしくうっ! もっとぉ、はげしくぅ!!!」
快感はさらなる快感を生み、果てることなく続く……。
そう、果てることができなかった!
感じていた。
快感は高まり続けるのに、ゴールは姿をあらわそうとしない。
「なんでぇ……。なんでよぅ!!!」
薊は、あえぎながら悲鳴を上げ始める。
「いやぁぁぁぁ! いきたいぃぃぃ! もっと、もっと、もっとおぉぉぉぉっ!!!」
その悲鳴は、燕の奉仕が激しくなればなるほど大きくなってゆく。
いけない、いけない、いけない、いけない。
それが薊の頭の中。
涙が流れた。
イキたくて……。
そのときだった。
「イキてぇんだろう?」
耳元で囁かれた。
おぞましいほど魅惑的な声。
鳥肌がたつ。
なんて、素敵な声なんだろう……。
「はいぃ……」
考えるまでもなく、返事をしていた。
「おめぇもこいつみてぇになりゃぁ、抱いてやるぜぇ」
犬になれと言っている。
さっきは、犬にさせられた。
でも、今度は自分の意志でなれと言っている。
プライドを捨て去れと、そう言っているのだ。
………………。
だけど、それがなんだというのだろう?
今の薊には、なんの意味もなくなっていた。
「わ、わかったのぅ」
そういうなり、薊はそのばにはいつくばった。
一瞬だってためらわない。
でも……。
ドガッ!
薊の体が吹き飛ばされる。
いきなり、便三が蹴りを入れたのだ。
「てめぇ、なにさまだとおもってやがる! 口のきき方がなってねぇんだよぅ!」
そういうと、便三は床の上にひっくりかえっていた薊の顔を、足で思いっきり踏み潰した。
「ひゃうううっっっ!!!」
薊がうれしそうな声をあげる。
忠実に命令守ろうと、ひっくり返った薊のあそこに顔をつっ込もうとしていた燕。
便三はその髪をつかんで、顔を自分の方に無理やり向かせる。
「おい。てめぇも、こいつのツラに小便ひっかけてやれや!」
新たな命令だった。
しかも今度の命令は、優先順位が遥かに高い。
燕の体は一瞬もためらうことなく動いていた。
薊の顔の上にまたがる。
「いっううううっっっ!!!」
そう薊が声をあげたのは、便三のつま先が愛液のしたたるあそこにねじ込まれたからだ。
けして、目の前でこれから起ころうとしていることを理解していたわけではない。
快楽にとろけてしまっている頭では、それがせいぜいなのだろう。
でも、便三としては不満があった。
「てめぇ、何ねぼけてやがる! 便器にまたがるときゃあ、しっかりと腰をおろさねぇかぁ!」
薊の上にまたがった燕の腰を、上から思いっきり踏み潰した。
「キャン!」
燕が犬の鳴き声をあげる。
「ふぁうぅぅぅ」
薊は意味不明の声をだした。
そこに……。
ゲシッ!
便三が再び踏み潰す。
「なに、もたもたしてやがる! とっととださねぇかぁ!」
そういったとたん、こんどは燕の膀胱の中身が薊の顔にふりそそぐ。
「あ゛あ゛あ゛ぶぶぶぅぅぅぅ!」
激しく注がれる燕の小便に、薊は息もつけないくらいあえいでいた。
でも、薊の表情はとても苦しがっているようには見えない。
自分が汚されることが、快感になっている。
そんな感じだ。
「ちぃっ。臭せぇなぁ、おい」
便三が顔をしかめる。
自分でさせておきながら、こういうことを平気で言えるのが便三という男だった。
「ようがすんだら、とっととその汚ねぇケツどけねぇかぁ」
便三が燕の尻を遠慮なく蹴り飛ばす。
「ギャンッ!」
今度は、燕が床の上にころがった。
「てめぇも、ぐずぐずすんじゃねぇ! おれさまがヤッてやるんだからよぅ。はええとこ、ケツをださねぇかぁ」
その言葉に薊は歓喜する。
犬にされてないにもかかわらず、四つんばいになって尻をつきだした。
まるで尻尾でもふるかのように、便三の目の前で揺り動かす。
「はやくぅ……して……くださひぃぃぃっ!」
薊が鳴いた。
「くくくっ。おう、やってやるぜぇ。望みどうりよぅ!」
便三の頭に、前技という概念は存在しない。
自分が気持ちよければ、それでいいからだ。
当然、その凶悪なまでにぶっといものをいきなりぶち込んだ。
「ぎゃっ! ああああううううぅぅぅぅ!!!」
薊の口から悲鳴があがる。
処女幕をいきなりぶち破られたのだ。
当然の結果である。
でも、普通と違うこともあった。
「ひぎぃぃぃっっっ! ぎ、うん……っと……はげしくぅ……ぎぃ……してくださいぃぃぃっ!!!!」
薊は自ら痛みを求めていた。
股間に生じた強烈な痛みは、同時に数倍する快感ももたらしていたのだ。
「くくくっ! このマゾメスがぁ。いいぜぇ、たっぷりと喰わしてやるぜぇ。おれさまのチンポをよぅ!」
当然、便三が遠慮などするはずもない。
たった今まで処女だった薊は、強烈な痛みを快感に変えながらよがり狂った。
正気に戻ったとき、一体自分はどうなるのか……。
そもそも正気に戻れるのだろうか……。
そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎった。
でも、そんなものは津波のようなエクスタシーによって、すぐに押し流されてしまう。
「ひいいいぃぃぃううううぅぅぅぅぁあああっっっ! いいっ、ごひゅひんはまあぁぁぁっっ!!!」
ひときわ高い声を上げながら、便三のことをそう呼んでいた。
誰に言われることもなく、命じられることもなく……。
便三の策略によるものであるにしても、薊は確かに自分の意思で堕ちてゆく。
ゆえにもう引き返すことはできないだろう。
「ふわっははは! いいぜぇ。いいぜえぇぇぇ!!!」
便三は、腰の動きをさらに加速する。
「おら、おら、おらあぁぁぁ!!!」
「いっいっいっいっいっいっいいいいいっっっ!!!」
便三の汚い声に、美しいけど淫らしい薊の声が調和した。
「いきやがれえぇぇぇぇぇっ!!!」
とどめのひと突きだった。
「いうううううううううううううううううううううううううっっっ!!!」
薊がイッた。
壮絶な歓喜の声をあげて。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
肩で息をする薊。
淫欲に彩られた薊の表情は、とても幸せそうだった。
たとえそれが、腐臭を放つ闇の中の幸せであったにしても……。
でも、それで便三が終わったわけではない。
まだ、イッてなかった。
そもそも、イクつもりもなかった。
なぜならまだ獲物がいたからだ。
『桐子よぅ。スイッチきれや』
便三が口の中でささやく。
その瞬間、燕は完全に肉体の自由を取り戻す。
「はあっ!」
裂ぱくの気合とともに、燕は便三に襲いかかった。
でも、その攻撃は届かない。
燕の横からぶつかったものがあった。
それが、彼女の軌道を変えた。
「つばさ!」
燕の口から驚きの声があがる。
「みぁあぁぁぁ!」
全身の毛を逆立てるみたいにして、つばさがうなり声をあげていた。
「ま、まさかあなたもコイツに操られているの?」
自分がそうだった。
自分の意思と関係なく操られることが、一体どういうことなのか身をもって知っている。
それが、どれほどつらいことなのかも……。
でも……。
その様子を見ながら、便三は嗤っていた。
“このメス、オレさまが操ってるて思ってやがるぜぇ”
後はタイミングだった。
この女を追い込むタイミング。
薊のようなタイプの女を堕とすのは、便三にとってたやすいことだ。
闇の味を教えるだけで、後は勝手に堕ちてゆく。
己で勝手に、だ。
だが、燕のような安定した女を堕とすのは困難である。
それなりの準備がいる。
そのための条件は徐々に整いつつある。
でも、そこで便三の計画に一つ狂いが生じた。
便三の知らないところで。
偶然に……。
「な、なんなのよ、あれ!」
たまたま食堂に忘れ物をして取りにもどった美理がいた。
入り口にはカギがかかっていたから、天井裏からもぐりこんだのだ。
そこで見かけたものは、すさまじいとしかいいようのない光景だった。
「ふふふ……面白いものを見させてもらったわねぇ……ふふふふ……」
闇の中で唇を舐めながら嗤う姿は、便三の姿によく似ていた。
< つづく >