暗い通路の緩やかな下り坂を二つの人影が下りていく。そのうち片方の手にはたいまつが握られていた。ゆらりゆらりと揺れる真っ赤な炎は二人の進行方向をほんの少ししか照らし出してはくれない。
たいまつを持ち、前を歩いている方の少女は注意深くその先の暗闇を見つめながら歩いている。その表情はまるで目に見えない何かを睨めつけているようにも見えた。
一方、後ろを歩いている女性はまったく逆で、前を見て歩いてはいるものの警戒というものが全く見て取れなかった。この娘もまた若いのだが少女と呼ぶのはちょっとためらわれる、大人びた落ち着いた雰囲気の持ち主である。前を歩く少女の三、四歳年上といったところだろうか。
「気をつけてくださいね、セシルさん」
前を歩く少女が後ろの女性に話しかける。
「どこから魔物が現れるか分かりませんからね……」
「ええ、アンナちゃんも気をつけて」
セシル、そう呼ばれた女性もまた前を歩く少女、アンナに注意を促す。そうして二人は黙り込み、周辺には二人分の足音だけが響いていった。
第三章 「再会と裏切り」
― 1 ―
弓使いのアンナがセシルに出会ったのは、アンナが決意も新たに再び歩き出してから一時間も経ってはいない、そんな頃だった。
長い直線の通路を歩いていたアンナは前方に小さな灯りが見えることに気がつく。
よく見るとたいまつの炎のようである。徐々に大きくなっているところから、どうやらこちらに向かって来ているようだ。
最初、あの光は仲間のものかもしれないと思ったが、しかしすぐに思いなおす。あの灯りの主が仲間である保証はなく、敵のものである可能性も十分ありえる。ここは迂闊に近づくべきではない、見極める必要がある。アンナはそう判断した。
アンナは急いで自分のたいまつの炎を消し、近くの壁際に張りついた。途端に周囲が暗闇に包まれる。もう向こうも自分のことに気がついているかもしれないが無駄な行為ではないだろう。向こうの速度が落ちた様子もないところから、警戒はしていないようだ。もしかしたらこちらに気づいていなかったのかもしれない。
ドクン……ドクン……
胸の鼓動が早くなり、それに合わせているかのように近づいてくる灯りが揺れている。
お互いの距離が縮まり、アンナが炎に照らし出された相手の顔を確認できた時、思わず声を上げた。
「セシルさん!!」
まるで花が咲いたようにアンナの表情はパッと明るくなり、駆け寄ってやってきたその人物に抱きつく。そう、前からやってきたのは、はぐれてしまった仲間の一人、僧侶セシルであった。
当のセシルは一瞬何が起きたのか分からない面持ちであったが、自分に抱きついてきたものの正体が仲間のアンナであると分かると彼女もまたにっこりと微笑んでみせる。
「セシルさん……セシルさぁん!」
セシルの胸に顔を埋めて、ついには泣き出してしまったアンナの頭をセシルは優しく撫でる。
「会いたかった……一人だと心細くって……」
「私もよ……貴女に会えて嬉しいわ」
「もう誰にも会えないかと思ってた……」
「馬鹿ね、そんなわけないじゃない」
人を安心させるには十分な優しい声。アンナはすっかり警戒心を解き、セシルにしがみついて肩を震わせている。まるで迷子の子供がようやく母親を見つけたかのような様であった。
「あら、怪我してるの!?」
セシルはアンナの左の二の腕から流れる血に気づき尋ねる。その傷はさっきのゴブリンの襲撃でできたものだった。
「あ、ああ……そんな大したことないですから」
「ダメよ、見せてみなさい?」
そう言って服の袖を捲り上げ、傷を外気にさらす。アンナは少し顔をしかめた。そこに手をかざし何やら呪文のようなものを呟き出したのと同時に傷の周辺がポゥッと青く光り始めた。これがセシルの僧侶としての能力の一つである治癒魔法の詠唱であった。
しばらくすると、まるで何事もなかったかのように傷はきれいにふさがった。残った血の跡だけがそこに傷があったことを証明している。
「はい、これでよし。他にも怪我してるところはない?」
「は、はい、ありません!ありがとうございました!」
ビシッと背筋を伸ばして張りのある声でアンナは答えた。その様子をセシルはクスッと笑う。
「何を緊張してるの、私達は仲間でしょう?そんなに気をつかう必要はないわ」
「そ、そうですよね……」
仲間。今、この状況でこれほどまでに嬉しい言葉は見当たらない。アンナは照れくさそうに頬を赤らめて下を向いてしまう。
そんな様子をセシルは微笑みを浮かべて見つめていた。その微笑みはゾクリとするほど冷たい、邪悪なものであったのだが、下を向いてしまっているアンナはそれに気づかなかった。
― 2 ―
合流してまもなく、二人は歩き始めた。
前をアンナが行き、その後をセシルが続く。歩きながら話した結果、当面の目的は仲間を探しつつ地上を目指すということに決まった。
本当は他の二人の仲間を探すことを優先させたいのだが、いつまでも迷宮内をウロウロしているわけにはいかない。非情なようかもしれないが、まずは脱出を最優先としよう。そんなセシルの提案にアンナは頷いた。
「他の皆さんは無事なんでしょうか……?」
「分からない……無事でいてくれたらいいんだけど……」
そんな会話を交わしつつ、通路をどんどんと進んでいく。
歩き始めてずいぶん経っただろうか、不意にアンナが立ち止まり、振りかえった。
「セシルさん、地上までの道順を覚えてますか?」
尋ねられたセシルは申し訳なさそうな表情で答える。
「いいえ、覚えてないわ……何も考えずに逃げてたから。……アンナちゃんも覚えてないのね?」
「はい、私も無我夢中で……」
「仕方ないわよ、突然のことだったんだもの」
「……………」
訪れた沈黙をそのままに二人は再び歩き出した。
前を向くアンナの表情は少し曇っている。彼女はある種の疑問、ほんの小さなものではあったが、セシルに対して疑問を抱き始めていた。
疑問、それは進路のことである。
合流してから二人は行動を共にしているが、通路が分岐をしている場面に出くわすと必ずと言っていいほどセシルが進むべき方向を決めていたのだ。
「ここは左に進みましょう」
「真っ直ぐ行ったほうがよさそうね」
こんな具合に提案し、時にはアンナの同意を得る前に自分の決めた方に進むこともあった。
(何かおかしい……)
さっきの質問の答えにしても、地上への道のりを覚えていないということなのに、どうしてこうも自信ありげに進めるのだろう?もし何らかの目的があって自分をどこかに連れて行こうとしているのなら、なぜそのことを話してくれないのか?
アンナの中で小さかったセシルへの不信感にも似た気持ちがどんどん大きく膨らんでいく。
自分が気にしすぎなだけかもしれない。冒険者として先輩であるセシルがリードしてくれるのは何ら不思議ではない。
アンナは自分に何度もそう言い聞かせた。しかし胸につかえたモヤモヤとした嫌な感じは一向に晴れそうもない。
そんな時……
「ここらへんで休憩しましょう?」
突然、セシルが後ろからアンナの肩に手を置き、話しかけてきた。
いきなりのことで思わず飛び上がりそうになる。
「え、休憩ですか?」
上擦った声で聞きなおすアンナに穏やかな声が返ってくる。
「ええ、休憩しましょ?」
ニッコリ微笑んだセシルに、アンナはハイとしか答えられなかった。
セシルは壁際に座り込み、アンナもその隣に腰を下ろした。
「アンナちゃん、疲れた?」
「そ、そんなことないですけど……」
「そう、ならいいんだけど。何だか、だんだん歩くスピードが落ちてきたような気がして……
どうやら私の思い過ごしだったみたいね」
透き通った綺麗な声にいつもと変わった様子はない。自分の感じた違和感はきっと気のせいだったと、その時ようやくアンナは吹っ切ることができた。
安心したせいか、ついそれまで思っていたことを口にしてしまう。
「いえ、ちょっと不安だったんですよ」
「不安?」
「はい……セシルさん、何だか私をどこかに連れて行こうとしているような気がして……」
「えっ、私が?」
「あ、いえ、気がしてただけですから。私って馬鹿みたいですよね?セシルさんがせっかくリードしてくれてるっていうのに変なこと考えちゃって……」
そう言って隣のセシルの方を見たアンナはハッと息を飲んだ。たいまつの炎に照らし出されたセシルの顔は、一年間行動を共にしてきたアンナが見た事もない、冷たく無表情なものだったからだ。
自然に胸の鼓動が早くなり、じっとりと汗をかき始める。ほとんど消えていたセシルへの警戒が再び呼び起こされた。
「あ、あの……」
アンナは声を出そうとしたが思うように出せなかった。その姿はまるで蛇にでも睨みつけられ、すくんでしまっているかのようだ。
二人の間に重い空気が漂い、次第に息苦しさまで覚えてくる。
そんな空気の中、セシルが口を開く。二人が黙り込んでから一分も経ってはいないだろうが、アンナにはその間が一時間にも二時間にも感じられた。
「アンナちゃんはマインドヴァンパイアって知ってる?」
冷たい、感情のこもっていないかのような声。
「え……ヴァンパイアじゃなくてですか……?」
「そう、ただのヴァンパイアじゃないわ。マインドヴァンパイア。」
「……聞いたことないですけど」
アンナはやっとのことで声を発している状態だった。けれどセシルはそんなことお構いなしに話を続ける。
「この魔族は人間の血ではなく、魂を吸い取るの」
「魂……ですか……?」
「ええ」
「どう……なっちゃうんですか、魂を吸われちゃうと……?」
そこでセシルはすぐにこの問いには答えず、フフフと笑った。これもまた、アンナが見た事もないくらい冷たい微笑。
「世界が変わるわ……とても素晴らしいものに。今までの人生がどんなにつまらなく、無駄なものだったか思い知ることにもなるけどね……?」
「ま、まさか……セシルさん……」
アンナは汗がすぅっと冷たくなっていくのを感じた。信じたくない、そんなはずはない、大きく見開いた瞳がそう語っている。
「アンナちゃん……何も怖がることはないわ。貴女もご主人様の糧となりましょう?」
アンナは絶叫していた。獣の咆哮のような悲鳴だった。そして立ち上がりこの場から逃げ出そうとする。しかしアンナが行動に移るより早く、セシルの瞳が怪しく紅く光った。
―3―
「ねえ、今何か聞こえなかった?」
槍の刃を濡らす血を足元に転がっている魔獣のたてがみで拭いながらリンは近くにいるルカに尋ねた。
「えっ、何?」
「今、何か聞こえなかった?」
リンはちょっとうんざりした様子でもう一度同じ質問をする。ルカはちょっと緊張感がなさすぎる。今も戦闘したばかりだというのにもう油断している。こういう所を除けば凄腕の魔術師なのに……。リンはそう内心呟いたが、決して口には出さない。
「うーん、私は何も聞こえなかったけど。きっとモンスターの雄叫びか何かなんじゃないの?」
「何だか人の悲鳴のような感じがしたんだけど……そう言われてみれば何だか獣っぽかった気もする……」
「どこら辺から?」
「近くじゃないわ。どこか、かなり遠くから」
「じゃあ心配はしなくていいわね」
そう言ってルカは歩き出す。やれやれといった表情でリンはその後を追った。
リンとルカ、この二人が合流したのはついさきほどのことである。再会の喜びもつかの間、すぐに魔物に襲われた二人であったが何とか撃退することができた。
(やっぱり二人だと違うわね……)
軽そうなショートボブの髪を揺らしながら前を歩くルカを見つめながら、リンは改めてそう思った。それまで何度か一人で戦ってはいたものの、やはり後ろを守っていてくれる者がいるのは心強い。きっとルカも同じことを考えているだろう。
「他の二人も無事だといいね」
ルカが振りかえってニッコリと人懐っこそうな笑顔を見せる。
ふぅ、とリンはため息をつきながら苦笑した。本当にこの子には緊張感というものがない。
二人は歳が同じせいもあって仲間達の中でも特別仲がよかった。
両者とも二十歳である。
下手をすれば十代前半に見られかねないルカに対し、その精悍な雰囲気のせいでリンはよく実際の年齢よりも上に見られがちだった。外見と同じで性格も正反対である。リンには少し生真面目で融通のきかないところがあるのだが、ルカはいつもマイペースで柔軟な性格だった。
年齢以外全く共通点のない二人。共通する部分がないからこそ、気が合うのかもしれない。
鼻歌を歌いながら軽い足取りで進むルカを、羨望にも似た眼差しでリンは見つめている。
(私もこの子くらい物事を気楽に考えられたら……)
今の状況は彼女にとってどうしようもないくらい最悪なものだった。これから先のことを考えると自然と足取りも重くなるというものである。幾度となく死線をくぐりぬけた彼女であるがここまで死と隣り合わせになったことはなかった。
普段はしっかりしている者に限って、いざという時に脆い。どこかで聞いた言葉を思い出す。まさに自分にぴったりな言葉ではないかと、自嘲気味に内心笑った。
ふと我に返るとルカが心配そうにこちらを向いている。慌てて表情を取り繕う。どうやら感情がそのまま顔に出ていたようだ。
「どうかした?大丈夫?」
「え、ええ、何でもないわ」
「それならいいんだけど……」
しばらくはそのまま心配そうな面持ちでいたルカだったが、通路が分岐に差し掛かるとパッと表情を輝かせた。
「ねえねえ、どっちに行く?
左?それともこのまま真っ直ぐ?」
本当にこの子は……。リンはもはや口癖ともなったその言葉を呟く。もう何度この言葉を口にしたか覚えてはいない。思い出そうとすると頭が痛くなりそうだ。
しかし、そういうリンもルカの無邪気さにつられて笑っていた。
― 4 ―
セシルはぐったりとうなだれているアンナを見下ろしていた。
その目は虚ろで、半開きの口から可愛らしいうめき声が漏れている。どうやらまだ意識は残っているようだ。
しゃがみこんだセシルはクイッと顎を持ち上げ、アンナの顔を上げる。
「セ……シル…さぁん……」
焦点の合わない瞳でアンナは目の前の人物に呼びかける。
セシルはその端整な顔立ちには似つかわしくないくらいのネットリとした笑みを浮かべ、アンナの顔を覗きこんでいて呼びかけには応えない。
セシルは彼女の主マリクに忠誠を誓った時、彼から『魔眼』の能力を授かっていた。とは言ってもアンナの様子から分かるように、マリクほど強力なものではない。対象の意識を根こそぎ刈り取るほどの力はセシルにはなかった。
しかし、この場合はこれくらいの効果で十分だった。
セシルがマリクより授かった命令は二つある。まずはアンナの身柄の確保である。意識があろうがなかろうが、大人しくしていてくれればそれでいい。逃げられたりしたらマリクの食事どころではなくなるのだから。そういう意味でこの力は捕獲という任務を与えられたセシルにはうってつけだった。
そして、マリクから出されたもう一つの指示とは………
「あ……あうぅ………」
「うふふ、カワイイわぁ……アンナちゃん……」
セシルの左手がそっとアンナの右頬に触れた。ひんやりと冷たい手にアンナは思わずピクンと震える。
「アンナちゃんが可愛いいから、実は私、ちょっと嫉妬したのよ?
ご主人様がアンナちゃんを気に入って、私は捨てられちゃうんじゃないかって」
「な、な…にを……セ、セシ…ル……さん……」
アンナの言葉を無視し、セシルは独白しているかのように続ける。左手は頬から離れ、アンナの三編みをいじりだした。
「嫉妬というより恐怖ね……でもご主人様は仰ってくれたわ、ずっと私はご主人様に仕えていてもよいのだと」
サワサワとした髪の手触りを、セシルは親指と人差指の腹で楽しんでいる。
「素晴らしい御方よ、ご主人様は……だからアンナちゃん、貴女は何も心配しなくていいの……私と一緒にお仕えしましょう……?」
「い、いやぁぁ……セシル…さぁん……正気に…もど……ふあっ」
たどたどしいながらも必死で言葉を発しようとするアンナの口を、セシルはその柔らかい唇で塞いだ。
アンナは一瞬何が起きたのか理解できずに茫然としていたのだが、舌が唇の隙間を割って入ってくる感触に我を取り戻す。必死で抵抗しようとするが体が思うように動かない。
「ひゃ……ふあぁ……」
舌がアンナのそれにからみついてくる。
クチュ……クチュッ………
周囲にいやらしい音が響き始めた。しばらくセシルはアンナの唇を貪り、ようやく離れると、アンナは苦しかったのだろう、喘ぎの交じった呼吸で全身を震わせる。
「苦しかった?ごめんなさい……アンナちゃんが可愛いものだから、つい夢中になっちゃった」
咳込んでいるアンナを気にもせず、今度はその着ている革の服に手をかけた。
上着を一気に脱がせ、あらわになったピンクの下着を捲り上げる。
「な、なにを……!」
悲鳴にも近い声を上げるアンナを尻目に、セシルはそのどこか熟しきっていない果実を連想させる乳房に軽くキスをする。
「ひっ!!」
ビクンと大きく痙攣するアンナは羞恥心から真っ赤になっていた。
「や、やめて……ください……セシルさん………」
「別に恥ずかしがることなんかないのよ?私に裸を見られるのは初めてじゃないでしょう?」
一緒に旅する仲間である。湯浴みなどでお互い裸になることはあったし、それは全然おかしいことではない。
「で、でも……」
そうしている間にセシルは皮のスカートも脱がしにかかり、わずかな抵抗を見せるものの結局下着まで脱がされてしまう。
「とっても綺麗よ、アンナちゃん……」
「い、いやぁ………」
涙を浮かべ、うつむいたアンナは生まれた時と同じ一糸纏わぬ姿をさらしている。そんな姿をセシルは愉快そうに眺めた。
「どうして……どうして…こんな………」
「こっちを見て、アンナちゃん」
もはやほとんど放心状態のアンナに顔を上げさせると、再びセシルの目が紅く光った。
「あ……あうぅ………」
その目をまたしても直視してしまったアンナの顔から表情が消えていく。
「うふふ、いい子ね……」
そう呟いて、セシルは再び唇を重ねる。今度は抵抗がない。アンナはとろんとした目つきでされるがままになっていたが、舌がからんでくるとおのずと自分からも舌を突き出していた。
さっきよりもいっそう淫らな音が響く。お互い夢中になって相手の唇に吸いつき、舌を擦り合わせた。
「っはぁ……」
互いの唇が細い糸をひきながら離れた。間を空けずにセシルの手がアンナの乳房に伸び、細くて長い指が可愛らしい小ぶりなそれをゆっくりと丁寧に揉みしだいていった。
「はあぁぁん………」
思わず声が漏れたアンナに優しくセシルが声をかけた。
「気持ちいいでしょう、アンナちゃん」
「は、はいぃ……」
「ふふ、正直なんだから」
「あぁぁん……あ、あ、はあぁぁ……」
「じゃあ後は自分でやってみて」
そう言ってセシルは膨らみから手を離した。アンナはしばらくの間もじもじと体をくねらせていたが、すぐに両手が自分の胸へと動いていく。今まで思うように動かなかったのが嘘のようだった。
「あっ、あっ……あぁぁ………ふぁぁっ!」
最初はゆっくりだった手の動きが徐々に激しいものへと変わっていき、それにつれて声もどんどん大きくなっていく。
快感の渦に飲みこまれ始めたアンナはさらなる快感を求めて桜色のその乳首に指を伸ばした。指が触れた瞬間、鋭い快感が全身を突きぬける。
「ひゃううっ!!」
思わず悲鳴を上げてしまうが、手の、指の動きは止まってはいない。見ていて痛いくらい強く乳首をこね回し、そこはすっかり充血してしまった。
今まで感じたこともない大きな快感に飲みこまれ、『魔眼』の力も手伝ってアンナはすでに正常な思考などできなくなっている。
「……き、きもちいいよぉ…………」
アンナは大きく体をくねらせながら喘ぎ、太腿を擦り合わせ始める。股間はもう愛液が溢れ出し、びっしょりと濡れていた。
「あふぅ……はぁぁ、うっ、あぁぁ………」
「こんなに濡らしちゃって……よっぽど感じちゃっているのね」
「セ、セシルさぁん……わ、わたし…おかし…く…なっちゃうぅ……」
「ふふふ、それでいいの。おかしくなりなさい」
セシルは胸をこねるのをやめさせ、アンナの手を彼女の股間にまで持っていってやった。プルプルと震える太腿は擦り合わせるのをやめ、おのずから足を開いていく。肉唇はすっかり口を開けていた。
アンナの手は自分の秘裂に指を埋没させ抜き差し動き始める。
「あひぃっ!!」
「どう?気持ちいいかしら?」
「はぅ!あ、あ、き、きもち…いいです……っ!」
答えるアンナのその瞳はもう何も見ていない。
「アンナちゃんはこんなことをよくするの?」
そう尋ねながらセシルは再びアンナの胸へと手を伸ばした。ゆっくりと力強くその胸をこね回し、すっかり固くなった乳首に舌を這わせる。
「あ、あ、あんまり……しないで……す……はぁん!」
「あんまり?じゃあ一応経験はあるのね」
「ひゃ、は、はい!」
「絶頂には達したことはあるかしら?」
「わ……わからない…ですぅっ!!」
「そう……ならハッキリとわからせてあげる」
そこでセシルは左手を乳房から離し、敏感な肉芽にそっと触れた。声にならない悲鳴が上がり、ガクガクと腰が震え始める。
瞳いっぱいに涙をため、それでも指の動きは遅くならない。むしろ早くなっていっている。もはや苦悶に近いものを浮かべるアンナの表情は少女のものとは思えないくらいであった。
「あぐぅ!あぅ、あっ!ん……んんっ!!」
体を大きく仰け反らせ震えるアンナはどう見ても絶頂を迎える寸前である。セシルは肉芽を刺激する動きにいっそう力を入れる。
「うあっ!あぅ…だ、だめぇ……もう…セ、セシルさん……も、もおぅ……あぁん!!」
「あら、我慢しなくていいのよ?」
「ふ、ふぁい!あう!っはぁぁ……うぐぐぅぅ………あ、あ、ああぁぁぁあ!!!」
ビクン!
アンナは腰を跳ね上がらせて絶叫し、同時に眼球がぐるんと回転する。胸を揉んでいた手が力なくダラリと垂れ下がった。失神してしまったのだ。
手を戻し立ち上がったセシルは満足げにアンナを見下ろしている。セシルがマリクから受けたもう一つの指示。それはアンナを捕獲した後、彼女を絶頂まで導いてやることだった。そうすることでアンナの魂は蜜のように甘くなるのだと言う。
「ご苦労だった……」
背後の闇から音もなくマリクが姿を現した。二人が淫らな行為に浸っていたこの場所は、マリクの居室からそう離れてはいない所であった。これは意外でもなんでもない、セシルの誘導によるものである。
「上手くいったようだな?」
マリクは失神してもいまだ腰を痙攣させ続けている『食料』を眺めながらセシルに話しかけた。セシルは頬を赤らめ嬉しそうに答える。
「はい。これもご主人様から頂いた『魔眼』の力のおかげです」
「ふふふ」
「さあ、存分に召し上がってくださいませ」
「そうさせてもらおうか……」
マリクはアンナの傍まで歩み寄り、しゃがみこむ。そっと上体を起こしてやり、その半開きの口にかぶりついた。
間もなくアンナの体が震え出す。その魂は先程まで快感の余韻でとろけるように、甘い。
セシルは主人が魂を貪る様子を後ろからうっとりとした表情で見つめていた。かつての仲間を落とし入れてしまったことへの後ろめたさなど、その表情からは微塵も感じられない。
アンナの魂はそんなセシルが見守る中、ゆっくりとその肉体から消えていった……
< To be continued … >