ending
夢を、見た。
翠色の、夢。
物心ついた頃から何度も何度も見てきた、同じ景色。
どこかの森の中。高い壁に囲まれた、古い2階建ての大きな洋館。
僕は鉄柵でできた大きな門の外側から、いつもその建物を覗いていた。
門から建物の扉まで、煉瓦で舗装された道が続いている。
その途中には噴水があり、青空の下、涼しげな水流を吹き上げている。
通路の先にある、大きな両開きの、立派な扉。
……だけど、僕がその扉を開けることは、もう、無い。
首から、鍵をつないだネックレスを外す。
そしてその革ひもから、鍵を抜き取った。
後ろを、振り返る。
そこには道もなく、ただ鬱蒼とした木々が、視野の届く限りに広がっている。
僕は鍵を握りしめ、腕を大きく振りかぶり、思い切りそれを投げ放った。
“がさ…、ぱさっ……”
……鍵は、森の暗がりの中へと姿を消す。
最後に、木々だか下生えの草葉がかき乱される小さな音が、耳に届いた。
これでもう、この夢は終わる
僕がここに来ることは二度と無い。そう知った。
──っと、
視線を背中に感じた。
慌てて後ろを振り向く。
そこには見慣れた、相変わらずの光景が広がっているだけだった。
ただ、館だけが存在し、僕を『見て』いる。
『僕は……』
この夢は、僕の夢、僕の世界、…そう思っていた。
……しかし、それは本当にそうだったのか…。
まぶたに、日の光を感じる。
この世界の光ではなく、現実の世界の光。
まもなく、僕は目を覚ますだろう。
そして、この夢を見るのも、これで終わり。
『でも……』
この夢の世界、この館はそれで消えるのだろうか…?
僕は最後に、目を開けるまでのつかの間の時間、その永遠の館を眺め続けていた………
< 夢の続き 了 >