呪いのふたなり少女 第一話

第1話

「エムジーファンの皆様、あけましておめでとうございます。ぼくは『髪射へび少女』でコロの役をやっていた犬です。作者に代わりまして日頃の叱咤激励をありがとうございます。こりずにまた作者は作品を送ってきました。今年はぼくの年なのに、今度の作品にはなぜかぼくの出番はないみたいです。せめて、ここであいさつだけしておきたかったので出てまいりました。また、作者は変な怪人を考えたみたいです。今度はまた女の子にとってこわそうですね。ほら、これ…。」

呪いのふたなり少女

ある大雨のなかを、一台の車が走っていた。
ここは、富士山麓に近いほとんど人の入らない横道だった。もちろん、家もホテルなども何もなかった。それどころか、人が踏み入ると生きて帰れないと言われている、恐ろしいミステリー・ゾーンと言われている、幽すいな場所だった。

由里「こんな、山奥に来て、すごいところまでやってきたわね。」
香代「ほんとう。家も人もぜんぜん見えないし。」
悦子「このあたり、足を踏み入れた人達がみんな行方不明になって、生きて帰れないってよく言われてるじゃない。」
野梨子「ええーっ?どうしよう。ほんとうに、いったい、生きて帰れるのかしら。
由里「しんぱいないわ。お姉ちゃんは、大学で怪奇研究サークルにいて、ちゃんと生きて帰る方法、知っているわよね。」
尋美「そうよ。みんな。わたしたちは大丈夫。生きて帰ることのできない者は約一名、いちばんうしろにいる女のくさった男だけよ。」
野梨子「ああ、そうか。それもそうね。」
一同「うっふふふ。」

赤いスポーツカーに乗っていたのは中学の時の同級生どうしで、いまはみな別々の学校に通っている高校生であるが、中学の時もよく仲良しで固まっていた四人の少女たちで、高田橋由里(こうだばし・ゆり)、上村香代(うえむら・かよ)、杉口悦子(すぎぐち・えつこ)、津川野梨子(つがわ・のりこ)だった。そして、自動車を運転していたのが、その四人のうちの一人である由里の長姉の高田橋尋美で女子大生だった。もうひとり実は間に高校生の姉がいるが。

やがて、自動車は実に人の全く入りそうにない谷間のなかに止まった。外は相変わらず大雨である。道はもちろん未舗装で、この先は車は入れそうになく、どこかへ続いていても、たぶん行き止まりらしいようであった。

尋美「ここよ、着いたわ。」
悦子「すごい雨ね。傘もさせないじゃない。」
野梨子「どうするの。」
尋美「ちょっと待ってね。悪いけど、由里、外へ出てくるまを誘導して。ほら、前に洞窟が見えてるでしょう。このぐらいの車ならなんとか入れそうだから、先に向きを逆にして入るわ。」
由里「わかった。わあー、すごい雨。」

助手席にいた由里が、ひと足早く自動車から降りて、走って姉に言われた洞窟のなかへ入っていった。
由里は、なんとか外の光が見える位置で自動車が入れることを確認して、姉のバックして運転する車を誘導した。

由里「オーライ、オーライ、はい、ストップ。」
尋美「はい、ありがとう、みんな、降りていいわよ。」

後部座席にいた残る三人の少女も、車から降りた。そして、由里といっしょに洞窟のなかを眺めはじめた。

尋美「気をつけてね、見えないところへ行ってはだめよ。それこそ、この洞窟の奥へ入ったら、生きて出られないって言われている恐ろしい洞窟だから。」
野梨子「やだ、こわいわ。」
香代「おくびょうね。野梨子は。」
悦子「誰だってこわいわよ。」
尋美「とにかく、みんな、トランクのほうへ来て。みんなでいっせいにやるのよ。」

自動車のトランクがあけられた。そのなかからは、毛布にくるまれたひとりの男の遺体があった。

野梨子「もしかして、わたしたちがこいつにさわるの?」
香代「もういちど、別れ際に顔をあけて、由里に対面させてやるか。」
由里「もういやよ。こんな女のくさったやつの顔を見るのは。さっさとやってしまいましょ。」
悦子「そりゃそうだわねー。由里のこと、ほんとうにしつこく追いかけた、ストーカーだからね。顔も見たくないって、あたりまえのことよ。」
香代「だけど、由里もよく、自分の髪の毛をこいつに形見であげてやったわね。」
由里「せめてもの、あの世へのおみやげよ。わたしの形見を持っていれば、もうわたしに用はないわ。こいつ、とくに長い髪の毛の女の子が好きだったみたいだから。」
悦子「由里も髪の毛は切ったしね。」
尋美「そろそろいいかしら。早く帰らないと暗くなるし。みんな、ここにある物干し竿を持って、こいつをころがすのよ。じかにさわりたくはないでしょうから。」
由里「ころがすって、このトランクから下に落しちゃうわけ?」
尋美「そうよ。そのままころがすと、その先は崖になっているの。ほら。」

尋美が、懐中電灯で照らして、その先に道が続いてないことを少女たちは知った。

由里「ほんとだ。あそこへ落ちたら、ほんとうに生きて上がってはこられなくなるのね。」
野梨子「くるまを後ろ向きにしたわけがわかったわ。」
尋美「じゃあ、みんな一斉に。」

尋美が掛け声をあげ、少女たちは一斉に物干し竿で遺体をつつき、まずトランクからころがして地面にたたき落した。毛布ごと落下した男の遺体は少しころがって止まった。

悦子「この世に未練でもあるみたいね。」
尋美「じゃあ、もういちど。こんどはみんな横のほうから一度に崖のほうへ。」
由里「いいわ。今度こそ、おだぶつね。」

四人の少女に尋美も加わって、遺体を物干し竿でつつきながらころがし、ついに洞窟のなかの崖まで来た。

尋美「さあ、一斉に、みんなで。」

えいっと、全員が声をかけて、遺体は下のほうへ見えなくなり、しばらくしてジャップーンという水の音がしたので、崖の底には水がたまっている所があるようなことがわかった。

香代「落ちていったようよ。」
野梨子「この物干し竿も捨てちゃいましょうか。」
由里「そうね、もう気持ち悪いから。」
尋美「そうしましょう。」

五つの物干し竿も、男の遺体を追うようにして崖下に投げられたりころがされたりして、いくつもの水音がしていた。

悦子「ふうー、これでいなくなったわね。」
由里「あんなやつ、生きている価値なんかないのよ。これで、安心して学校生活が楽しめるわ。」
香代「高校浪人までして、由里のいる学校で待ち伏せするんだからね。」
尋美「さあ、みんな、くるまに乗って帰りましょう。」

少女たちを乗せて身軽になった自動車は、その洞窟をあとにした。

由里「尋美姉ちゃん、あの洞窟へ落ちていった死体も物干し竿も、絶対に見つからないかしら。」
尋美「あの洞窟はね、底のほうにへびがすんでいるのよ。」
悦子「ええっ、へび?」
野梨子「やだー!」
野梨子だけでなく、一斉に少女たちがおどろきの声を上げた。
尋美「しかも、人間を丸のみするうわばみだから、それこそ飲み込まれれば影も形もなくなっちゃうのよ。」
香代「じゃあ、そしたら、あいつはへびに飲み込まれて、この世からいなくなるのかしら。」
由里「たぶん、そうなるわね。」
野梨子「じゃあ、わたしたち、人殺ししたけど、遺体が見つからずにすむから、つかまることなんかはないわね。」
悦子「世の中には、殺してもしかたのない場合だってあるわ。特に、あいつのようなストーカーは、殺しても罪にならないっていう法律にでもしないと、女性は安心できないわよ。」
由里「いいこと言うわ。」

一同、笑い声のなかで、少女たちは東京に帰っていった。

人殺しとは、なんともおぞましい感じであるが、実は、少女たちのいた中学で、由里に好意を持って交際を申し込んだ男がいた。しかし、由里の好みとは全く違ったタイプで、あまりにも女々しい性格の弱い男であった。由里が拒否しているにもかかわらずなお追い続けていたので、由里は思いあまって、姉に相談した結果、一度自分の家に誘って殺してしまおうと思ったのであった。誘われた男は、恐ろしい運命が待っているともしらず当然のように喜んで由里の家に行った。そして、睡眠薬が大量に入った飲み物を飲まされたのであった。まだそれだけでははっきりと死んだかどうかわからないからと念を押し、由里はさらにその場で自分の腰まで伸ばしていた黒髪を男の首にまきつけて絞め殺し、そのままで髪を切ったのである。

その男は、もともと長い髪の毛の女の子が好きな、いわゆる「髪フェチ」だった。ヌード写真を見ても興奮しないのに、長い髪の毛の女の子を見るとぼっきしたり精液が流れ出てしまうという、変質者だったのである。

香代「ま、好きな女の子に、しかも好きな長い髪の毛によって殺されたのだから本望よ。地獄へも形見としてもっていけるし。」
野梨子「それもそうよね。」
悦子「どうせ、人間はみんな死ぬんだし。」

その男に追われ続けていた由里は、とにかく男が死んでこれでひと安心といったところだった。
しかし、しつこい者は、やっぱりしつこかったのである。

男の遺体が由里たちによって捨てられた日曜日が終ってまもなく、ある私立の女子校で、奇怪な事件が起こった。体育の授業中、ひとりの女子生徒が倒れたのである。

圭織「うっ、ううっ、苦しい、めまいがするわ。」
佐矢子「ど、どうしたの、圭織ちゃん。」
圭織「ああっ。」

由里のひとつ上の姉で学校は違うが高田橋圭織だった。お尻をこえる三つ編みの二本にまとめた髪を大きく揺らせながらばたっと倒れていた。

佐矢子「先生、彼女を保健室に連れていきたいんですが。」
体育の教師「わかった。すぐ連れていけ。」
佐矢子「はい。」

圭織を背負った谷辻佐矢子もまた腰まで届く長い髪の毛を黒いヘアゴムでうなじのところにまとめおろしていた。その佐矢子の背中に負われながら途中で目覚めた圭織の顔は不気味な笑いを浮かべていたのであった。圭織がはいていた体操着の短パン越しに、股のあたりがふくらんでいたのである。

圭織「くくくく。」

妹の由里たちによって殺された男の魂が圭織に…。

< つづく >

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