第七夜 「少学生時代の体験から…」
ぼくの少学校はマンモス学校で、クラスが六組まであった。高学年になってクラス替えが行われたので、初めてお目にかかるという顔ぶれも多く、朝礼でとなりのクラスになる子もまたそうで、そのなかで小島裕子と中村恭子というふたりの長い髪の女の子の後ろ姿に目が止まってしまった。顔はふたりともそんなにかわいいほうではなくて男の子たちのあいだでもまず話題にならない、人気のない女の子たちだった。
ぼくは、小さい頃から長い髪の毛の女の子を見ると興奮してしまうという、いわゆる髪フェチだった。特に、三つ編みの子に対してそうだった。みんなに知られてはいないし、また自分のように、女の子の長い髪に関心のありそうな男の子はまずほかにいなかった。男の子の関心があるものといえば、たいていおっぱいかお尻だった。
小島裕子は上下に細長い顔で背もかなり高く、三つ編みで髪の毛先がお尻まであったから、ほどくとスカートの裾より先まで、少なくともひざまであるのではと思うほどだったが、一度もほどいた姿を見せたことがなく、一本の三つ編みにまとめていることが時々ある程度だった。これに対して中村恭子は中の上ぐらいの背丈で丸顔だがよく髪形を変え、三つ編みをほどいたツイン・テールになっていたり、背中いっぱいに前髪も後ろにピンで留めておろしていたりなどの姿を見せたことがあった。
ぼくはそのたびに興奮して彼女たちの髪の毛を見ると、性器がぼっきしたりしてたまらなかったし、彼女たちの夢を見て夢精までしていたのであるが、少なくとも腰のあたりまで髪の毛がとどいている子がそのクラスにその二人がいたのに対し、自分のクラスにはそこまでの子はまずおらず、せいぜい肩先ぐらいまでの子が何人かいるぐらいで、ぼくが最も好みにしている三つ編みの二本のおさげ髪の子はひとりもいなかった。せいぜい前の席にすわっていた矢野素子という子が、後ろにひとまとめにいつもしばっていて肩先ぐらいまであった程度である。
ところが、六月の始めごろに、みんなが衣替えで薄着の服装になっていたころ、その矢野素子がまたぼくを興奮させてきた。
その日、初めて髪形を変えて、ふたつに分けた三つ編みのおさげの姿で素子が通学してきたのだった。恭子や裕子ほど長くないが、編んでゆわえた毛先が肩先をなでるといった感じで、素子の首をふるたびにひとりでに動く髪の毛のようすに、ぼくはだんだん興奮してしまった。はえぎわのところもしっかりきつめに交差させている、昔からある典型的な女学生ふうのおさげ髪だった。
とうとう、性器がぼっきしてしまい、ぼくはあわてて教室を出て、トイレにかけこんでいた。
「はあ、はあ」
用足しをいったんすませて、ベルトをはずして下着をたしかめてみると、やっぱり下着も性器も濡れていた。素子の姿にとうとう興奮して精液が飛び出ていたのである。
その時、男子便所内であるはずのこのうちの大便用の一室で、女の子のしゃべる声がしたのである。
「じゃあ、いくわよ」
「いいわ」
その方向を見て、少し扉があいていたのを見て驚いた。ふたりの女の子は、ともにふたつの三つ編みのおさげ髪を長くお尻のところまで垂らしていた、となりのクラスにいる小島裕子と中村恭子だったのだ。しかも、なにをしているのだろうと思っていたら、裕子が大きく口をあけてなかから牙をはやし、恭子ののどに突き刺せようとしていたのである。つまり、裕子は吸血鬼で、恭子に噛みついて血を吸い、恭子を吸血鬼の仲間にしようとしていたのである。
「やだ、たいへん、このトイレから早く出よう」
ぼくは、おどろいてトイレを抜け出したのだった。
しかし、教室に戻っても、トイレで見たことを思い出すと、気持ちが悪くなってしかたがなかった。あこがれていた髪の毛の長いふたりの少女が吸血鬼になっていたなどと、口が裂けても言えなかった。目の前にはまた、そのふたりほどの長さではないが矢野素子の三つ編みの髪形を見るとどうしても思い出してしまう。
ぼくは、とうとう保健室で休むことにした。
ベッドのカーテンを閉め、ふとんをかけて寝ていたが、しばらくして別のだれかが入って来て、話し声がきこえてきた。女の子のようである。
「先生、どこかへお出かけなんですか?」
「ええ、ちょっと用事があってね。どうしたの、あなたも気分が悪いの?」
「はい、なんか貧血みたいなんです。少し横になりたいので、ベッドとかあいてますか?」
「ああ、ひとり分だけあいてたわ。ゆっくり休むといいわ」
「ありがとうございます。先生」
保健の先生も用事があるからということで、外出することになり、入れ替わってとなりにあるベッドで寝ようとしたその子が、急にぼくの寝ていたほうのベッドのカーテンをあけてきたのである。
その女の子は、おどろいたことにさきほど男子トイレで襲われていたほうである、中村恭子だった。三つ編みにしていた長い髪の毛もいまはほどいて頭に白いヘア・バンドを巻いており、前後にその重厚な黒髪を垂らしていたのだった。ぼくは、その姿を見てまた興奮し、性器をぼっきさせてしまった。
「はっ」
「うふふふ」
ふつうならぼくのいることに気づいておどろくのではないかと思ったが、全く表情ひとつ変えずに恭子は不気味に笑っているようであり、そしてぼくの寝ているふとんをとつぜんあげてきた。そして、寝ているベッドにもぐりこんできたのである。
「やだ、君、なにするの?」
「ここで寝るのよ」
「もうひとつベッドがあいているのに」
「こわれているの。だから、こっちであなたと半分ずつ使えばいいと思って。このベッド、そんな狭くないし」
「そ、その、高学年じゃあひとり分でいっぱいだよ。だいいち、女の子と寝るなんてあぶないよ」
「あら、ほんとはうれしいくせに。特にわたしと寝られて」
「ど、どうしてそんなこと言うの?」
「あなた、いつもわたしのクラスをのぞきこんで、わたしのことじろじろ見ていたでしょ」
「ええっ?」
たしかに、朝礼の時など、すぐ後ろにいて、恭子の髪の毛をじっと見続けるぶんには気づかれないからいいだろうと思って、見とれて興奮していたのは事実である。
「それに、これはなに?」
「ああっ!」
恭子は、またぼくのはいている半ズボンがぼっきでふくらんでいるのをズボンごと手づかみにしはじめた。
「あなた、すごいいやらしい子だわ。いつも見られて、すごくいやな思いしていたのよ」
「そ、そんな、ただ…」
「なにがただよ。ふくしゅうしてやるわ」
「ふくしゅうって、ああ…」
中村恭子の目がとつぜん光り出した。ぼくは、その光をまともに見てしまって身動きができなくなり、苦しくてたまらなくなった。
「くくくく」
「う、ううっ…」
恭子の口がかぱっとあいて、なかから二本の牙が現われてきたのであった。やはり、恭子は吸血鬼にされていたのである。
「血、血をいただくわ」
「うわあーっ!」
恭子はすぐにぼくの首にとびついて牙を刺していた。ぼくを興奮させたあこがれの長い黒髪がぼくの肩にばさっとかかり、髪の香りをかいでぼくの意識はだんだんもうろうとしてきた。目の前には恭子のお尻まで届いている髪の毛先がはげしく揺れ動いていた。
「あなたも仲間になるのよ。そして、あなたはわたしの思いどおりに動くのよ」
「う、うう…、う、う、はあ、はあ…」
血を吸われてまず身体が吸血鬼になり、とくに長い髪の者に襲われると心もあやつられてしまうという。吸血鬼になると、髪の長い少女には特別恐ろしい力が与えられているのである。
ぼくは、意識もないのにまず腕をあやつられてしまい、いつのまにか恭子の長い髪をなでていた。恭子はより興奮してぼくの首を毒牙に強くかけたのであった。そして、流れ出ていた血のあるぼくの首筋をぴちゃぴちゃっとなめ続けていたのであった。
「うふふふ」
「ああ…。この女の子の長い髪の毛の香りが、こんなに気持ちのいいものだなんて…、ううっ」
ぼくはしばらく気絶していた。
< つづく >