男の子の夜が怖くなる 第六夜 妹の友達に…

第六夜 「妹の友達に…」

ジリジリジリ…。

 摩緒が目をさました。

「ふわー、まだ寝ていたい」

 だが、学校があるから、寝坊していられないと、眠い目をこすりながら、パジャマを着たまま摩緒は洗面所へ行こうとしていた。しかし、いつも先に洗面所を早起きの兄に占領されていた。

 鏡の前で念入りに何度も腰までとどいている自慢の長い黒髪をすいているのが、実は摩緒の兄、亜津人であった。そう、男なのに女の子のようにずっとむかしから髪の毛を長くしている亜津人はいま厨学生、摩緒は少学生だった。摩緒が物心ついたころに兄は肩より先まで髪の毛があって、以前はいっしょの部屋で寝ていたが、夜寝るときはいつも母親がまとめて一本の三つ編みにしていた。三つ編みができるぐらいの長さになって、半年ぐらいたつと自分で編むようになっていた。さすがに、そんな姿で外へは出られないが、いまでも寝るときはやはり女学生のような二本の三つ編みのおさげ髪に結って、寝床に入っていた。

 髪の毛の量も多くて、前髪も伸ばしているから、大きなピンを何本も入れて髪を整えている。その前髪をひとたばにして黒いゴムでゆわえ、ポニーテールのように頭の一番上のところでまとめて、ほかの髪の毛といっしょに後ろへおろしているのが、兄が学校に通ういつもの姿であった。

 妹の摩緒のほうはといえば、耳がかくれる程度のおかっぱで、女の子なのにあまり髪を長くしようとは思わないのである。

「おにいちゃん、まだ?顔を洗いたいんだけど」

「ちょっと待って。もっと早起きしなきゃだめだよ」

 兄の亜津人は、少学校から私立の男子校に通わせられていた。ふつうの学校では髪の毛を切らなければならないところ、私立のその学校では、茶髪などの色染めやパーマなどは禁止しているかわりに、髪の毛を伸ばすことには制限をしなかったため、事実、少数派ではあるが胸や腰あたりまで伸ばしている男子生徒もすでに何人かいたことで、この学校なら髪の毛を長くしていられると親子ともども思っていた。

 したがって、女の子とは全く縁のない環境で育ち、せいぜい妹の摩緒を家にたずねてくる妹の同級生を見かける程度であったが、年下の者にはほとんど関心を持っていなかった。ただ、全く女の子を見たことがないわけではないから、やはり同じ年か年上で髪の毛を長くしていたり三つ編みをしている少女を見ると一目ぼれしやすいことはあった。さすがに気が弱いから声をかけることなどはできなかった。

「やだ、あんな少学生の女の子でこうふんしちゃうなんて…」

 亜津人は、すぐその興奮をおさえようとしたが、身体がかたくなって動けず、いつまでも見つめていたい気持ちになっていた。だが、晴香が自分のほうを振り向いたので、すぐ亜津人は知らないふりをして自分の部屋へとあわてて戻っていった。その一瞬の姿が晴香には見えていた。

「ねえねえ、あんたんとこ、おにいちゃんがいるの?」

「えっ?ええ。いるけど」

「髪の毛長くしてなかったっけ」

「あ、ええ」

 晴香は、先に実は摩緒の家を訪ねたときに、摩緒の兄の存在に気付いていたのである。ちなみに、亜津人は最初は女の子に見えることが多いので、晴香も姉として友人にはごまかしていたことが多かったが、晴香は制服姿の亜津人も見たことがあるために男であると悟られていたのである。

 夜になり、夕食も終って風呂がわき、兄の亜津人がいちばん最初に入った。ポニーテールにゆわえていた前髪からいったん黒いヘアゴムをほどいて手首に巻くと、もうひとつ用意していた太めの白いヘアゴムをちょうちょ結びにしてすべての髪をまとめて後頭部のところできつくしばり、さらに外ではその姿を見せたことがない三つ編みに結いはじめた。編んだ毛先には先ほどまで前髪をまとめていた黒いヘアゴムを手首からゆわえ、その髪をまた頭の上に巻いて黒い髪止めを使ってとめた。今日は、頭を洗う予定はなかった。

 浴場に裸で入り、扉を閉めて浴槽からお湯をかけようとしてしゃがむ前に、扉を急にあける者がいた。

「だっ、だれ、ああっ」

 入ってきたのは、昼間に妹の摩緒を訪ねていた晴香だった。しかも裸になっている。髪形は、昼間と同じうなじにピンク色のリボンをとめた姿だった。

「うふふふふ」

「き、君は、とつぜん、何のよう?こ、こんな夜になにしにきたの?」

「ちょっと、ぼくは厨学生だよ。もう、妹だっていっしょにおふろに入ってはいけないのに」

「おほほほ、おにいちゃん、さっき、あたしのことを見て、おちんちんがたってたわ」

「えっ?へんなこと言っちゃだめだよ。だまって帰ってもらおうと思ったのに、いいかげんおこるよ」

「えいっ」

「あっ」

 晴香は、とつぜん亜津人の髪をまとめていた頭の上の髪止めをはずし、さらにまとめられていた一本の三つ編みの髪の毛をなかほどからわしづかみにして引っぱりだした。

「うふふふ、きれいに編んでいるわね」

「ちょっと、やめてよ。ほどいたままおふろに入ったら、濡れちゃうでしょ」

「ねえ、あたしの髪の毛も編んで。あたし、自分で三つ編みってできないの」

 そういうと、晴香は自分の首の後ろに両手を持っていって、リボンをほどき、亜津人にさしだしたのだった。

「もう、しょうがないね。じゃあ、後ろで編んであげるから、おとなしくしてね。このふろおけにすわるといいよ」

「わあ、うれしいな」

 仕方ない子だなと思っても、自分が昼間にひとめ惚れしていたわりとかわいい感じの女の子だったため、亜津人も強く追い返すという気になれず、少しぐらいいうとおりにしてやればどうにかなるだろうと思っていた。また、亜津人もちょっといやらしいことをやれるかもしれないという、ちょっとした邪心が働いてこの後の恐怖につながるのである。

 亜津人は、晴香に髪の毛を引っぱられたため、浴槽に入らずに一本の三つ編みの髪の毛を背中におろしっぱなしにして、晴香がふろおけにすわった背中にまわり、しゃがんで晴香の髪の毛を編もうとしはじめた。ところが、亜津人も生まれてはじめて女の子のこうした長い髪の毛をじかにさわるのは初めてということもあって、だんだんと興奮してきてしまい、性器がまたぼっきしはじめたのであった。そして…。

「あっ」

 亜津人のぼっきした性器の先が、晴香の長い髪の毛にふれてしまったのである。

「おにいちゃん、どうかしたの?」

「えっ?べつに」

「かくさなくてもわかるわよ。あたしの髪の毛さわって、すごくふるえている、興奮してるんじゃない?」

「その、こんなことしてるなんて、うちの者にはないしょだからね」

「うふふふふ、さっき、摩緒ちゃんにも、おばさんにもあいさつしてきたわ。おにいちゃんがいま、おふろにいるから、いっしょに入ったらいいって、おばさんも言ってくれたのよ」

「やだ、お母さんがそんなこと言うわけないのに」

「ほんとは、あたしといっしょにおふろにはいれてうれしいくせに」

「ふう、でも、髪の毛の量が多いから、思ったよりむずかしいな。あっ」

 晴香がとつぜん亜津人のほうを振り向いた。そして、亜津人の首に手を伸ばし、亜津人の三つ編みにまとめていた髪の毛をするする毛先のほうまでなでて、とうとう毛先にゆわえていた黒いゴムをほどいてしまい、また後頭部にしばっていた白いヘアゴムもほどいてしまったため、亜津人の黒髪が肩先いっぱいにひろがってしまった。晴香は、亜津人のヘアゴムを両方とも握ったままだった。

「うふふふふ。男の人のくせに、こんなに髪の毛ながくしてるのね」

「こら、急にぼくの髪の毛ほどいちゃだめでしょう。せっかく、君の髪の毛を編もうとしているのに」

「ねえ、このふたつのゴムであたしの髪をふたつに分けて編んでみて。かわりにあたしのリボン、おにいちゃんの髪の毛につけるから」

「あっ」

 晴香はすぐに亜津人が手にしていたピンク色のリボンをとりあげてすばやく亜津人の頭の上にリボンをつけたのであった。このリボンには金具がとめられて、前髪のまんなかあたりを晴香はまとめてとめていた。

「おにいちゃん、にあうわよ。リボンが」

 亜津人は、自分のぼっきした性器で晴香の髪の毛にふれたことに対する弱みをつかれたような気がしたので、また晴香のいうとおりにリボンをつけたままにし、また晴香の髪を結んであげるようにした。ふたたび、晴香は亜津人に背中を向けてふろおけの上にすわった。

「わかったよ、でも、きれいに結ってあげるから、きつく編むために痛くなるかもしれないけど、いい?」

「どうぞ、おにいちゃんが編んでくれてるんなら」

 亜津人は、晴香の髪の毛を二等分して、耳もとにそれぞれ自分の髪にゆわえていたヘアゴムでしばり、それから一本ずつ三つ編みを結い始めた。そして、それぞれの髪を輪にして毛先を耳もとにしばっていたヘアゴムのところにとめるようにした。右側が黒、左側が白くてより太めのヘアゴムだったため、アンバランスな感じもしたが、ふたつの三つ編みが輪になった晴香の髪形が完成した。

「これでいいよ、ほら、あそこに鏡があるから、見てみたら」

 亜津人は、ふろ場のなかにある鏡を指差し、晴香をふろおけの上に立たせて見せた。亜津人によって結われた三つ編みを輪にしたおさげ髪の姿がうつっていた。

「わあ、おにいちゃん、うれしいわ。この髪形したの、はじめてよ」

「そう」

 晴香は、しばらく鏡を見てうれしそうにしていた。亜津人も、やっぱり女の子なんだなとほほえましく思っていた。また、亜津人が編んだ自分の髪に晴香が手でなでているそのうしろ姿を見つめていると、亜津人もまた興奮して性器がぼっきしてきたのである。

「ねえ、あたしのこと、かわいいって思う?」

「うん、とってもかわいいよ」

「じゃあ、うふふふ。このかわいいあたしに襲われれば」

 とつぜん、晴香が亜津人のほうを振り向くと、亜津人のぼっきしていた性器に口を加えだした。

「やだ、急にまた、へんなことして」

「うふふふふ。ちょうど、エッチなことしようと思ってたでしょう」

 どうやら、晴香にも亜津人は心を読まれていたようである。

「あっ」

「ほら、ほら、やっぱりね」

 とうとう、ぼっきしていた亜津人の性器から、精液も流れ出てきた。晴香にはっきりと見られて、亜津人は顔を赤らめてしまった。

「ああっ」

「うふふふ。おにいちゃんっていやらしいんだ。女の子みたいに髪の毛長くしてへんたいだってこと、もう、かくせないわね。その精液をいただくわ」

「ちょ、ちょっと」

「うふふふふ。ちゅばっ、ちゅばっ」

 また、晴香が亜津人の性器を口ではさみ、精液をしゃぶりだした。

「や、やだ。痛い」

 亜津人は、性器が強くかみつかれているのを感じた。なにか、ものすごくとがっているようなものにかまれている感じである。

「くくくくく」

 晴香の笑い方も、だんだん不気味になってきた。亜津人は、晴香のようすがなにか変だと感じていた。

「ねえ、離して、あっ」

 一瞬、離れたと思った晴香の口には、とがった二本の牙が見えていたのである。

「おにいちゃん、あたしのおにいちゃんになって。あたし、ひとりっこでおにいちゃんがほしいの」

 晴香が編まれた髪の毛を動かしながら、亜津人に突然正面から抱きついてきた。

「わっ、こんどはまた、もういいかげんにして、ううっ」

 ついに、晴香が亜津人の胸にかみついてきた。

「くくくく」

「ああっ」

 晴香が顔を上げると、口がカパッと大きく開いてそのなかからまた鋭い牙を光らせていた。晴香は吸血鬼だったのである。

「うふふふ、離さないわ、おにいちゃんのこと」

「うっ、うう…」

 晴香の目が赤く光り、亜津人はその光をじっと見つめてしまった。とうとう亜津人ののどもとに晴香が牙をさして、血が流れ出てしまい、晴香がその血を唇ですくいあげて飲み干していった。

「おにいちゃんの血、おいしいわ」

「うう…」

「ほんとうは、あたしのこと好きなんでしょう。好きな女の子に襲われると男の子は年上でも年下でも喜んじゃうらしいわよ」

「ああ…」

 たしかに、晴香のことを好きになっていたのも事実だが、その晴香は恐ろしい吸血鬼の姿になっている。晴香は両手でまた亜津人の腰まで長くおろしていた髪の毛をわしづかみにしていた。亜津人の頭には晴香がさきほどつけたピンク色のリボンがとめられたままで、晴香にあやつられるようにして、亜津人も晴香の、しかも亜津人が結っていたふたつの三つ編みの輪になっている長い髪の毛をなでていた。

「ちゅばっ、ちゅばっ…。くくくく」

「あ、ああ…」

「おほほほ、これでおにいちゃんはあたしのものよ」

 亜津人の口からもとがった二本の牙がはえていた。とうとう、亜津人も晴香に襲われて吸血鬼になってしまったのである。

 夜中、ふろ場のなかで倒れて髪をほどいたままの亜津人が起き出した。

「はっ、ぼくは、どうしたんだろう、もう、寝なければ」

 寝間着を着た後、亜津人は自分の腰まで届いている長い黒髪を念入りにヘア・ブラシでとかし、頭と後頭部に何本もピンをさして左右に分け、鏡を見ながらそれぞれきっちり三つ編みを結いはじめていた。洗面台にべつに置いてあった赤色のヘアゴムを、毛先にそれぞれ巻いてまとめた三つ編みの髪の毛を両方とも背中に払い除けて、自分の部屋に入って寝ようとしたが、部屋には自分の母親と妹の摩緒、それに晴香もまだいて、もうひとり晴香や摩緒と同じ年齢ぐらいの、事実同級生だったが、千伊子という少女がネグリジェ姿で亜津人のベッドに寝ていたのである。千伊子も両側の耳もとにそれぞれ水色のヘアゴムをゆわえ、髪の毛をツイン・テールにして腰まで長くしている少女だった。

「いったい、お母さんも摩緒もどうしたの?」

「うふふふ、摩緒ちゃんもおばさんもあたしの思い通り動くのよ。ここにいる千伊子ちゃんの血も吸ってみんないっしょの家族になろうって」

「そんな、女の子を襲うなんて…」

「まあ、ほんとうは襲いたいくせに、おにいちゃんは女の子の血を吸わなければ生きられないのよ。好きな髪の毛の長い子を襲わせてあげるから」

「さあ、亜津人、いいわねえ」

 亜津人の母親も、背後から不気味に話しかけていた。

「やだ、みんな、ああっ」

 さきほどふろ場では亜津人に結ってもらっていた三つ編みを輪にした髪の毛もいまはほどいて、また亜津人の頭についけていたピンク色のリボンを自分の一本のポニー・テールに戻していた晴香が、亜津人にまた抱きついてその髪の毛をばさっと亜津人の顔にかけていた。亜津人は倒され、晴香の髪の毛の香りをかがされてまた意識がもうろうとなってきたのであった。

「うふふふ」

「ああ、ううっ」

「さあ、千伊子ちゃんを襲って吸血鬼にするのよ」

 ゆっくりと、不気味に亜津人が背中に三つ編みのおさげ髪を払いのけながら立ち上がった。晴香に手招きをされて、自分のベッドに向かい、寝ていた千伊子の身体にまたがり、千伊子のツイン・テールの髪の毛を両方からわしづかみにして、首にかみつきはじめたのだった。

「がぶーっ!」

 亜津人の腰まで届いている黒くて長い、三つ編みのおさげ髪が何度もはげしく揺れていた。

「摩緒ちゃんのおにいちゃんって、実はロリコンらしいわね。それに、おカマのケのかたまりだし。ほんとうは気持ち悪いと思ったけど、でも、こんなおにいちゃんを自由にあやつれるの、快感よ。ほら、あんなうれしそうに千伊子ちゃんを襲っているわ。千伊子ちゃんからたっぷり血を吸ったら、またあたしがおにいちゃんから血を吸うわ。あたしはおにいちゃんを夢の世界に誘うのよ。うふふふ」

 千伊子にかみついている亜津人の背中の上に垂れている三つ編みの髪の毛をまた晴香が指でつまみながら、不気味に笑い続けるのだった。

< つづく >

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