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世界№ 1132 クシュウ王国 王都クマト
世界内時間 2005年6月
私が初めてご主人様、キミヒロ様とお会いしたのは、確か私が8つの時だったと思います。でも、誰も誕生日を祝うひとなどいませんでしたし、自分の年齢に意味などありませんでしたから、実際のところは良く分かりません。
私が生まれたのはある御屋敷の中、育てられたのも御屋敷の中。私は御屋敷の一郭で立派なメイドになるために、同じ年頃のたくさんの女の子達といっしょに教育を受けていました。
3、40人程が1クラスになって、教育係の先輩メイドから掃除の仕方や洗濯の仕方といったお仕事の仕方を習っていたのです。
ご主人様と初めてお会いした日、忘れはしません。春の暖かな日差しに、冬の寒さから解放された木々の若い葉が懸命に光を浴びている。そんな快い日でした。
その日は一日、御屋敷の部屋の中でお勉強をしていました。『お勉強』というのは、私たちの身体を使ってご主人様に気持ち良くなっていただく為の方法を学ぶことです。といっても、身体が未発達である子供のうちは実際に練習することはできません。部屋の中に机が並べられ、私達はノートをとったり先輩の言葉をみんなで復唱したり、そうして、気持ち良くなっていただくための技術を覚えていくのです。
私は、お勉強が大好きでした。いえ、私だけでなく、みんな大好きでした。御屋敷でご主人様にお仕えしている人達はたくさんいます。しかし、ご主人様に自分の身体を使っていただくことが許されているのは、私達メイドだけなのです。
そもそも、御屋敷はとても広く、ご主人様はとても偉い方ですので、たとえ同じ御屋敷でお仕えしていても、一部の方々を除いてお会いできることは滅多にありません。メイドは誰よりご主人様の側にあって、ご主人様を気持ちよくして差し上げることができる。こんなに喜ばしく、誇らしいことはないでしょう。私達はみんな、ご主人様に使っていただける日を夢見て一生懸命お勉強していました。
その日、お勉強が終わった時には外は真っ暗になっていました。他のメイドの娘達が自分の部屋に戻っていくなか、私はひとり40近い机とイスの並べられた部屋の掃除を始めました。お勉強が終わった後は当番が部屋の掃除をすることになっていました。その日は私が当番だったのです。
掃除を始めてどれくらい経ったでしょうか。ようやく部屋がきれいになったというとき、部屋の扉が開いて、私と同じくらいの男の子が入ってきました。薄い黄色のかわいいパジャマを着ていて、私の姿を見つけると、こんばんは、と挨拶をしました。
私は男の子を不思議そうに見つめていました。私のいた部屋を含めて、メイドの教育に使う部屋やメイド達の寝室だとかは、御屋敷の中の一区画にまとめられていて、そこにメイド以外の人間が、まして男の人がいることなどありません。
「あなたは、だれですか?」
不安に思った私は男の子に尋ねました。
「ぼく?ぼくはキミヒロっていうんだ」
私はその名前を聞いてそのとき初めて、目の前の御方がご主人様であることを知ったのです。教育中である私がご主人様にお会いする機会はありませんでしたし、普通ご主人様にはお付きの者が付いているので気付かなかったのです。驚きと無礼な口を利いてしまった後悔で、私はあわあわと口を動かすばかりで固まってしまいました。
「ねぇ、きみのなまえはなんていうの?ここに、ぼくとおなじくらいのこがいるなんて、しらなかった」
ご主人様は嬉しそうにお顔に笑みを浮かべられて、仰いました。
「あ、あの、わたしは…あの、ナ、ナナミといいます。ごしゅじんさま」
私はしどろもどろになりながら答えました。突然名前を尋ねられ、自分の名前がすぐに出てきませんでした。というのもメイドには名前と番号が与えられていて、メイドの名前を使うのはご主人様だけなのです。『ナ-23番、ナナミ』というのが私の呼び名でした。
「ねぇねぇ、ぼくたち、おともだちになろう。だから、ごしゅじんさまじゃなくって、キミヒロってよんでよ。」
ご主人様は楽しそうに仰いましたが、私にはおともだちというのが何なのか分かりませんでした。
「あのぅ、おともだちってなんですか?ご、キミヒロさま」
きまりが悪そうに私が尋ねると、ご主人様は、えっ、と驚いたお顔をされて、それから、
「おともだちってゆうのは、いっしょにおはなししたり、あそんだり、なかよしってことだよ。しらないの、ナナミちゃん?」
と答えてくださいました。ご主人様に名前を呼ばれて、仲良くなりたいと言われて、私は嬉しくて真っ赤になってしまいました。なんだか頭の中がふわふわして、自分が今立っているのかどうかも良く分からなくなりました。
「はい。あの、ナナミとよびすてにしてください。キミヒロさま」
ご主人様のお顔をまともに見ることができなくて、うつむきながら言いました。すると、ご主人様はにっこりと笑って、
「ぼくのことも、キミヒロってよびすてにするならいいよ」
私は耳まで真っ赤になって、ふるふると首を横に振りました。
私とご主人様はそれからたくさんお話しました。ご主人様は、ベッドに入った後こっそりここまで抜け出してきたこと、御屋敷に同じ年頃の子がいなくて退屈していたことを教えてくださいました。
私も、ご主人様のために一生懸命お勉強していることを話しました。
「きょうも、キミヒロさまのものを、おくちできもちよくしてさしあげるほうほうを、ならったんですよ。きっと、わたしのからだでキミヒロさまをきもちよくしてさしあげることができるようになりますから、いつか、わたしをつかってくださいね」
ご主人様は、へぇー、と物珍しそうに話を聞いてくださり、私のお願いに、うん、ありがとう、と仰ってくださいました。
私が自分の部屋に戻ったのは、すっかり遅くなってからでした。
次の日の朝、私は寝坊してしまって教育係の先輩メイドからひどく叱られてしまいました。それでも、ご主人様とお話できたことを思い出すと、嬉しくて、幸せな気持ちになりました。
それからもご主人様は、月に一度ほどの掃除の当番のときや、ご主人様に時間があるときに、こっそり私に会いに来てくださいました。そのたびに私は、あのふわふわした幸せな気持ちになったのです。
そうして月日は流れて行き、ご主人様と初めてお会いしてから六度目の春が訪れようというとき、私はあることに悩み始めていました。まわりの娘達がまだ幼さを残しながらも、徐々に女らしい身体へと成長していくなかで、私のムネだけが、いっこうに大きくならなかったのです。
ムネというのは、感触を楽しんでいただくほかにも、たくさんの使い方がある大事なところです。しかし、それもある程度の大きさがあってこそ。私のようにペッタンコではほとんど役に立ちません。私は立派なメイドになれないのではないかという不安を感じていました。
ご主人様とお会いする時には、努めて何事もないように振舞っていました。お優しいご主人様に、無用の心配をお掛けしたくなかったのです。
ご主人様がガッコウというところは通い始めてからは、そこでの出来事やそこでできた新しいお友達のことなどを楽しそうにお話してくださいました。
私もご主人様の楽しそうなお顔が見られて幸せな気持ちになりましたが、やはり心の中の不安が消えることはありませんでした。そんな不安をご主人様は見透かされたのでしょうか。
「元気がないようだけど、何かあったのなら僕に話してくれないか?」
と、仰いました。私はタガが外れたようになって、不安を吐き出していました。
「実は、私のムネが全然大きくならないのです。まわりの…他のメイド達はどんどん大きくなっているのに。私は、私は…」
いつのまにか私の目からは涙が溢れていました。
「私のムネでは…き、キミヒロ様を気持ち良く、グスッ…して差し上げられないんです。立派なメイドになれないんです」
私は、顔を両手で覆って泣き崩れてしまいました。
どれほど泣き続けていたでしょうか。ご主人様は私が泣き止むまで、黙って側にいてくださいました。
「ナナミ、君はとてもいい娘だよ。ムネの大きさだとか、そんなこと全然関係ない。僕は気にしないよ。君にはいいところが他にもたくさんあるじゃないか。僕は、だからこそ僕は君のことを…僕は君が……。君は、僕の友達だろ。心配なんてしなくていい」
力強く仰って、私の顔を見て優しく微笑まれました。私は、ご主人様が励ましてくださったのが嬉しくて。また泣き出してしてご主人様を困らせてしまいました。
ご主人様に励ましていただいてから、私は、それまでに増してお勉強をがんばりました。
ご主人様は気にしないと仰ってくださいましたが、ご主人様を気持ち良くして差し上げられるところが、たった一つでも少ないことは、私にはとても悲しいことでした。
それでも、ムネがない分、他のところでご主人様を気持ち良くして差し上げることができるようにがんばろうと思えるようになったのです。
もしかしたら、これからムネが大きくなるかもしれないという期待もわずかながら持っていました。
それまでは、ご主人様のお話を聞いているほうが多かったのですが、私がお勉強して習ったことをご主人様にも聞いていただくようになりました。
「今日、指の使い方がうまいって誉められました」
「私が上になるときは、こういう風に腰を動かすんですよ。こう…カクッカクッて」
「私のムネ、小さいけど色はきれいなピンクだって。私、ムネのこと誉められたのは初めてです」
私が、がんばってお勉強していることを知っていただけば、もうご主人様が心配なさることはないと思ったのです。
それに、ご主人様にお話していることをいつか自分ができるかもしれないと思うと、私もとても楽しい気持ちになりました。
それがいつからでしょうか。お勉強もご主人様のものを模した道具などを使って、実際にご主人様を気持ち良くして差し上げる練習をする段階に入っていました。メイドの教育期間終了が近づくにつれて、ご主人様は黙って考え込むことが多くなりました。
私がお勉強の話をしても、まるで聞こえていないようで、ご主人様が何かお話になることもほとんどなくなりました。ただ沈黙だけが続く、しかし私にはどうすることもできませんでした。
黙って考え込まれるご主人様を見ていると、とても嫌な予感がして、私は必死になってそれを打ち消していました。
メイドの教育期間もあと数ヶ月というとき、私は自分のこれからについて考えていました。そう、私の『はじめて』について。
メイドにとってご主人様に『はじめて』を捧げることはとても名誉あることで、大切なことでもあります。『はじめて』を貰っていただいて初めて本当のご主人様のメイドになれるといっても過言ではありません。そのため、メイドの『はじめて』は教育期間中も大事にとっておかれるのです。
しかし、そこはご主人様を気持ち良くして差し上げるうえで、最も重要なところでもあります。もちろん知識として学んではいますが、初めてでうまくできないということは十分にありえます。
そこで教育期間終了後、ご主人様に使っていただく前に、実際にそこを使って、気持ち良くして差し上げる訓練をすることも許されていました。その場合、『はじめて』は道具を使って捨てることになります。
ご主人様に『はじめて』を捧げるのか、『はじめて』を捨ててご主人様により気持ち良くなっていただくための技術を学ぶのか。ご主人様が特別に何か仰らない限り、メイドは自分でどちらにするのか決めるのです。
その頃には、私のムネにもなんとか膨らみと呼べるものができていました。しかし、他の娘達のものとは比べられたものではありませんでした。ムネの小さな私は、少しでもご主人様に気持ち良くなっていただけるよう、『はじめて』を捨てて訓練をすべきだとは分かっていました。でも、私はご主人様が仰ってくれた、気にしないという言葉を忘れることができなかったのです。
そんな、もしかしたらという気持ちも自分のムネを見るたび、ご主人様が黙って考え込まれるたびに揺らいでしまうのでした。私は、ご主人様に尋ねずにはいられなかったのです。
「あの、キミヒロ様…キミヒロ様は、私の…私の、は、『はじめて』を貰って下さいますか?」
私の心臓は壊れたみたいに激しく鼓動して、そして止まりました。
「それは、できない。君を…今のままで、君を抱くことはできない」
わかっていました。ご主人様ほどの御方がいつまでも、私のような半人前のメイドとお友達でいて下さるはずがなかったのです。私の嫌な予感は当たっていたのです。
ガッコウというところで、新しいお友達がたくさんできて、私はもう必要ないのではないか。最近のご主人様は私に別れを告げようとしているのではないか。
私は、別れを言い出せないご主人様の優しさに甘えていたのです。過去にかけていただいた言葉に、縋り付いていたのです。『はじめて』を貰っていただこうなんて、あまりに虫のいい話でした。
私は逃げるように駆け出しました。
自分の部屋に戻り、ベッドの上に倒れこむと、泣きました。涙が止まりませんでした。悲しみなのか、寂しさなのか、恐れなのか、後悔なのか、あるいはそれら全てなのか、私はただ泣き続けました。
気が付くと、ご主人様が私の部屋に立っていました。
私は立ち上がると深々とお辞儀しました。
「キミ…ご主人様。今までお友達でいてくださってありがとうございます。これからは、ただのメイドとしてご主人様にお仕えさせていただきます」
そのときの私はどんな表情をしていたでしょう。きっと、何の表情もしていないはずです。そんな余裕はありませんでしたから。
「違うんだ…」
そうつぶやくご主人様のお顔はなぜかひどく悲しそうでした。
「違うんだ!!」
ご主人様は叫びました。
「僕は…僕は君が好きなんだ!だから、メイドとしての君を抱くことなんかできない。僕は…君にもっと僕のことを知ってもらいたい。僕を…好きになってもらいたいんだ」
「私もキミヒロ様のことが大好きです。ずっと、ずっと大好きです!」
「だから違うんだ…そうじゃないんだ。ナナミ、僕といっしょに来てくれ。屋敷の外に出るんだ。君に外の世界を知ってもらいたい」
ご主人様は私の手を取ると走り出しました。今まで通ったことのない御屋敷の通路を走り抜け、ときには立ち止まって辺りを見回し、誰にも気づかれないように御屋敷の外に出るのは簡単ではありませんでした。
「実はずっと前から考えていた。君を外に連れ出せば、屋敷の外を知ってもらえば、僕の気持ちをわかってくれるんじゃないかって」
ご主人様は楽しげに微笑まれました。私の手を握ってくださるご主人様の手はとても温かくて、いつのまにか私も笑顔になっていました。
私達は御屋敷の外へと出ることが出来ました。
そして…そして、私は外の世界を知った。
私は出来上がった二人分の朝食を机の上に置くと、寝室の扉を開いた。
「キミヒロ、いいかげん起きなさいよ。そもそも家事は交代でって言ったのに、私ばっかじゃん」
彼は、寝ぼけた顔だけを私に向ける。
「それはナナミが僕を寝かさないからだよ」
「バカぁー!」
私は勢いよく扉を閉めた。たぶん耳まで真っ赤だ。ふと、彼は『はじめて』を貰ってくれないんじゃないかと真剣に心配していた頃を思い出して、少しおかしくなった。
私が御屋敷の外に出てからは、驚きの連続だった。何もかもが知らないことばかりだった。何か新しいことを知るたび、御屋敷の中が、私の知っていた世界がどれだけ小さかったのかを思い知らされた。
友達、学校。私はそれがどんなものか理解できていなかった。テレビ、ラジオ、ネット。外の世界は情報が溢れていた。ドラマやバラエティから世界情勢まで。私は何一つ知らなかった。
恋愛、恋人、デート。私は乾いたスポンジが水を吸うように、今まで知らなかった、解らなかったことを吸収していった。
彼が寝室から出てきた。何か文句を言ってやろうと彼をにらむ。にこりと微笑む彼の顔を見ると、言おうとしていた言葉がどんどん抜けていくのが分かった。やっぱり彼の笑顔には勝てないと思った。
二人で朝食を食べる。テレビからは、キミヒロ王子留学のニュースが流れていた。同じ屋敷で暮らしていながら、私は彼が王族であることさえ知らなかった。
しかたないのかもしれない、私は自分が何なのかも分かっていなかった。
王に跡継ぎができると、国中から人が集まり、厳しい審査のうえで選ばれた人間がメイドを産む。莫大な報酬と引き換えに。そうして私も生まれた。王族に優秀な血を残すことが名目だけど、実際がどうなのかは私が一番よく分かっている。
彼は今、身分を隠してこの国の大学に通っている。留学のニュースはダミーだそうだ。
朝食を食べ終わると、彼は出かけていった。笑顔で出て行く彼を見送りながら、私は屋敷の中にいた頃を思った。
あの頃の私は御屋敷が全てだった。何も知らなかった。彼の態度に文句を言ったり、お互いに冗談を言い合ったり、そんなことは考えることすらなかった。彼がそれを望んでいるとは知らずに、彼のために何ができるのかばかり考えていた。
彼に外に連れ出してもらえて、良かった。彼が私をどんな風に想ってくれていたのか知って、嬉しかった。
今はもう、私が彼の側にいて迷惑なんじゃないかと心配したりしない。
彼の気持ちを知ったから。
今はもう、私のムネが小さいことなんて気にしない。
彼が、私に望んでいることが解かっているから。
私は最高にラッキーだ。最高に幸せだ。
だって、彼が望んでいることを知っている。
だって、私は彼の望みを叶えられる。だから…
笑顔で出かける彼を、私も笑顔で送る。
「浮気なんかしたら、ただじゃおかないからね」
彼は、するわけないだろ、と苦笑して大学に向かって歩き出した。
だから、あなたの望むままにいたします。
私は、あなたのメイドですから。
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