10. 堕落
「ご主人様、準備が出来ました」
寝転がって煙草をくゆらせている影一に麻里が声を掛けた。
影一は何も言わず、不機嫌そうに指先の煙草をはじくと、部屋の絨毯の焦臭い臭いにも構わず部屋を出ていく。
麻里は黙ってそれを拾い上げ灰皿の上でもみ消すと絨毯の焦げ跡を確認し、急いで主人の後に付き従った。
”契約の日”まであと3日に迫った日。
ほとんどの奴隷達が館へと集り、その日へ向けての準備に追われていた。
影一が大広間に着くと大方の準備が指示通り出来上ってはいたが、最後の仕上はやはり影一の感性がなければ始まらない。
世界でも有数の美貌を持つ数十人の女が動き回る光景は圧巻ではあるが、影一にとってそれはさして喜ぶようなものでもなくなっていた。
茜と麻里は陣頭指揮をする必要が有るので”Office.Shiratori”はすでに解体、売却されている。といってもその価値のほとんどは人材にあったので残った資産などは大した物にはならなかったが...。放出された駒達はというと、政・財・官・他、各界の中枢を担う部署へと浸透させており、後の事などは判らないが、いつでも世界を動かせる為の布石となっている。
恵とはあれから会っていない。
”その日”へと向けて自分の獣欲を高めるには、彼女の瞳にほだされる訳にはいかないからだ。
自らを半ば無理矢理追い込んでいく影一の心は、日毎に以前のように荒んでいき、絶望と孤独と黒い欲望に蝕まれていった。
あの、束の間の休息の日々はもう戻らないであろう。
しかし影一は追憶も後悔もするつもりはなかった。
元々自分には場違いな場所だったのだ。
ただ願わくば彼女が一刻も早く自分を忘れる事を...。
そんな一片の淡い想いも、闇に飲込まれるまでにそう時間がかかるとは思えなかった。
「ご主人様。いかがでございますか」
茜がいつになく不安そうな顔で近づいてきた。
「ふん、まだまだ手直しが必要だな。所詮お前達に任せたのが悪かったのかもしれん...まあいい、後は俺がやるとしよう。手の空いた者から食事を取らせろ。疲れた者は眠っても構わん。茜、しっかり伝えろ。体を酷使するのは今じゃない。壊れた者はすぐに廃棄だ」
「かしこまりました」
「茜!」
足早に立去ろうとする彼女を呼止めると、視線を向けもせず冷たげに言う。
「おまえもだ。麻里にも言っておけ」
「はい、ありがとうございます」
先程までの喧噪が静まり、広間の中に立ちつくす影一の背後から掠れた様な声が響いた。
「どうじゃな、首尾は?」
闇の中に浮かび上がる青白い表情は何の感情も示してはいなかったが、その老人の言葉に疑いの色が含まれていた事に影一は気分を害していた。
「悪い。と言ったらどうするつもりだ?」
「ふぉっふぉっふぉっ。どうもせんよ。いや、どうにもならん..と言った方がよいかの」
「後3日だ。腹ぁくくって黙って見てな」
「じゃが、こいつにはわしらの命運も懸かっておるんじゃ。多少の心配はしようがないじゃろうて。どこまでの物か見せてもらえんかの?」
影一は眉間に皺を寄せつつも指を ぱちん と鳴らす。...と、部屋の隅に置かれた照明が点き、各所に施された装飾が照らし出される。
「ほう!」
「満足か?」
「ふぉっふぉっふぉっ。3日後が楽しみじゃな」
「けっ!邪魔してねぇでさっさと帰りやがれ!」
老人はまたも不気味な笑い声を残し、再び闇の中へ消えて行った。
「ご主人様」
扉の向こうからノックの音と共に茜の声が聞こえる。
「何だ?」
扉が開かれると、茜と麻里、その後ろにはあゆみが付き従い入って来た。
「皆休んだ様ですので私達も休ませて頂きます。何か御用はございませんでしょうか?」
「いや、無い。ゆっくり休め」
「あゆみは少し先に休ませておりましたので、ご主人様に就かせて頂こうと思っておりますが、よろしいですか?」
「好きにしろ」
「それでは、失礼いたします」
大広間の真ん中に置かれた椅子に腰掛け、くしゃくしゃの煙草を取り出すとあゆみが駆寄り火を点ける。
しばらく黙って、ゆらめく煙を目で追いかけていた影一がその煙に向って声を掛けた。
「あゆみ」
「はい!ご主人様」
ようやく声を掛けて貰えた事に安堵と喜びの表情を浮かべながらあゆみが答える。
「お前と初めて会ったのは、”Shiratori”のオフィスだったか?」
「いいえ。最初はオフィスの近くのバーでご主人様が先に飲んでいらっしゃいました。そこへ私が...ご存じ無いでしょうけど、あのとき私は..ご主人様に飼われるよりも前からお慕いしていたんですよ」
「ふん。こんな奴に素で惚れるとは、お前はどっちにしてもろくな人生じゃ無かったって事だ」
「ご主人様。それでも私は今、幸せです。前の私だったらこれ程の幸福も満足も得られませんでした」
(ふん、どいつもこいつも情を残しやがって。俺の堕とし方が甘かったのか...)
影一は何物かへの怒りを鎮められず、いやむしろ闇の中へ自らを追い込みきれない焦りに動かずにはいられなかった。
突然あゆみの頬に鋭い痛みが走る。
「っ!!」
「あゆみ。主人に向かって随分生意気な言い様だな?お前は何だ?言ってみろ!」
今まで見たことも無いような主人の怒り様に、あゆみは飛び上がる様にして正座すると頭を床に擦り付けながら告げる。
「申し訳ありません。私はご主人様の忠実な牝犬です。私の全てはご主人様に喜んで頂く為だけにあります。余計な感情は必要ありませんでした。お許し下さい!」
「犬が服を着てるのはおかしくないのか?飼犬なら何故首輪をしていない?」
「はい。今すぐ持って参ります。少しお待ち下さい」
あわてて服を全て脱ぎ捨てると脱兎の如く部屋を飛び出し、転がる様に戻って来た。
「お待たせ致しました。ご主人様。どうかあゆみの首に飼犬の証しを着けて下さい。お願いします。」
「お前、この上主人を待たせるとはいい度胸だな。それとも俺が甘いからなめていたのか?」
完全な言い掛かりばかりではあるが、あゆみにとってそんな事は関係ない。今、主人が望む通りでは無い自分が居る。それだけが、彼女にとって重要なのだ。
「そ、そのような事、決してあ、ありま、せん。も、もうし、わけ........」
首輪を捧げ持ったまま肩をぶるぶると震わせ、恐怖と焦りに覆われた表情には血の気が全く失せている。
影一は大きく手を振り上げ、目の前の首輪を手ではたき落とす。
飼犬の証しであるそれを飛ばされた。その事実はあゆみの中に大きな絶望を刻み込んでいった。
大きな闇の前でぶるぶると震える少女の様なあゆみの髪をがしっと掴み調教室まで引きずり込むと、天井から下がる鎖に手足を拘束していく。
思考は停止し、体にも全く力が入らず、がくがくと震えるばかりでされるがままになっているあゆみの淫裂に指を突き入れると、新たな怒りを露に、あゆみを罵倒する。
「お前、俺に触られても濡れてねぇな。もう、俺の餌はいらねぇって事か?」
あゆみにとって致命的で自分でも理解できない現象に、絶望は拭えない程大きくなってしまった。
しかし絶望と焦りは、その液体を分泌する為の感覚とは相反する物でますます彼女を深みへと落として行く。
「あ、あ、ち、ちがいます。これは..。も、もうしわけ、あり、ありま、せん、すみません。ゆるして。ごしゅじんさま。いま、すぐに、ごしゅじんさまの、おのぞみの、ままに、あぁ、おまち、ください。すぐに.....」
「ふん。もういらねえよ。お前みてえな牝は野良犬がお似合いだ」
「!!!!!!!!!!!!...」
髪を振り乱し、喉の奥から絞り出す悲鳴のような哀願をBGMに、影一は目を閉じ、闇の中へ心を沈めて行く。
「キャンキャンとよく鳴きやがる。野良犬のくせに餌が欲しいのか?まあ、ちっと遊んでやってもいいが、餌が欲しけりゃ芸の一つもしてみやがれ」
あゆみは必死の形相で目を見開き、大きく頷きながらも喉からは声を失った様に ヒューヒュー と風切り音を鳴らすばかりだ。
「なら、これから躾のやり直しだ。一切声は出すなよ」
奥の棚から数々の道具を取り出し、並べていく。
鎖を巻き上げ、四肢を吊り上げると、まず大量の浣腸液を流し込みアナルバルーンを突っ込み、限界まで肛門を拡張させる。
すでに一人前の奴隷であるあゆみにとって、この程度の仕置きで声を上げる様な事は無いだろう。
未だに湿りを帯びない淫裂に無理やり挿入された極太の鉄筒には、周囲に無数の穴が開いており、それを細い革紐で太股に固定された。
その鉄筒と乳首とアナルバルーンの口には電極が繋がれ、室内に置かれた厳めしい機械へと続いている。
試しに流された最弱の電流にもあゆみの全身は硬直し、性感帯を焼き切るかの様なショックを与えている。
それでも飽き足らず、館にある全ての道具を使い切るかの様に影一は次々とあゆみの真っ白な肌を蹂躙していった。
今までに使用された事の無い器具類に若干戸惑いながらも、死んでも主人の期待に答えようと口を結んでいるあゆみを見て、影一はまたも無性に壊したい衝動に駆られていく。
両穴を最大限まで広げられたまま、強烈な電気ショックと激しい鞭の殴打が交互に繰り返され、その間の僅かな休みには腹の中の凶悪な浣腸液が渦を巻いて攻め立てる。
慣れる間も、感じる隙間も無く、ただ痛みに耐えているあゆみはともすれば気を失いそうになるのを必死で堪えていた。
「あゆみ、辛そうだな」
影一の言葉にも声は出さず、あゆみに今出来る精一杯で大きく首を横に降っている。
「こいつが終わるまでに俺が気に入る位びちょびちょになってたらまた飼ってやってもいいぜ。俺の牝犬はな”いつでも、どこでも、どんなことでも”ってのが当たり前なんだ。今更お前にこんな事まで教えにゃならんとは思わなかったがな...」
僅かに見えた希望の光を一点に見つめあゆみは、快感への神経以外の感覚を一つずつ遮断していく。
やがて、鞭で打たれる毎に..電流に局部を焼かれる度に...あゆみの瞳に以前の淫猥な光が宿り出す。
次第に淫裂に突き込まれた筒の細かい穴からはとろとろと淫女の証しである汁が沸きだし、一つになって筒の先へと流れ出て来た。
しばらくすると、もうほとんどの痛みや苦しみといった感覚は全て快感へと替ええられる真性のマゾ牝犬が出来上がっていた。
あれほどのたうち、苦しんでいたのが嘘のように、今は嬉しそうに瞳を惚けさせ腰を振りたくっている。
妖しい光を浮かべつつ半分開いた目で主人の方を見上げながら、舌でぺろっと唇の端を嘗める。そして腰を出来る限り突き出すと筒の先を主人の方へ向け、今は小便の様にだらだらと垂れ流れている淫液を誇示していた。
「ふん、えらそうに。誘ってやがる」
鞭をもう2、3発強めに入れると完全に惚けた様な目で、筒先から淫液を飛沫かせ、嬉しそうに溜息を漏らしている。る。
「よかろう..もうしばらく飼ってやるぜ。壊れなけりゃぁな...」
薄気味悪い微笑を浮べながら淫裂の筒を抜き取ると、変わりに最大限に膨張した自身の一物を一気に挿入した。
「っ!!!!...!」
それでもまだ声を出さないのは感心だ。
だがそんなあゆみの状態など気にも止めず、ただ獣のように激しく欲望のままに犯し続けて行く。
突き上げ、追い込みながらもあらゆる責め具であゆみの感覚をコントロールする影一。
心がゆらゆらと上下に揺れ、気持ちいいのか苦しいのか?嬉しいのか寂しいのか?解らないまま主人の欲望を懸命に受け入れようとするあゆみ。
ひとしきりあゆみの錯乱ぶりを楽しむと、電極やクリップをゆっくり一つずつ外していく..。
やがてあゆみの中に少しずつ本物の快感が流れだし、脳髄まで溶けるような痺れを味わっていった。
次第にその流れに飲み込まれ、人として必要な物が溶け出す様な凶悪な快感があゆみを支配しだす。
その様子を静かに観察しながら頃合いを見計らうと、自らが爆ぜる瞬間に合わせ、あゆみの尻の中で暴流をせきとめていたバルーンの栓が緩められた。
ばふっ、びちゃびちゃっ、ぎゅるるるるっ
濁流が堰をきって排出される解放感に、いままで内に溜め込まれてきた淫楽への欲求が爆発した。
「あがああああああああああああっ!!」
すさまじい、崩壊とも言える絶頂があゆみを襲い、無意識の叫びをあげてしまっていた。
それに同調するように激しく腰を打ち付け、さらなる高みへと追いやると、痙攣する括約筋が間断的に排泄を遮断し、それと共に影一の肉棒をキュッキュッと締めつける。
長い永い絶頂が収束する頃には、もうすでにあゆみの意識は無く、涎を垂れ流し白目を剥いたまま宙空を見つめるばかりの人形でしか無かった。
その可哀想な人形の末路に自らの心を同調させ、さらなる深みへと墜ちていく影一だった。
< 続く >