BLACK DESIRE #11-2

5.

 朝顔を連れて別荘に戻ると(ちゃんと水着は着せてやった)、もう夕食の準備は出来ていた。急いで部屋に戻ってシャワーを浴びて汗を流し、新しいシャツとズボンで階下に降りてテーブルに着く。

 今日の夕食は、昨日のが何だったのかと思うくらい和やかに進行した。足にフォークが突き立つ事も、臑に蹴りが入る事も無く「ごちそうさま」までたどり着く。びくびくしながら自分の皿をフォークで突っついていたのがアホらしくなった。

 部屋に戻ってしばらくごろごろとした後、頃合いを見て着替えとタオルを持って風呂へと出陣する。今誰が入っているか窓から確認しなかったが、入ってびっくり玉手箱、突発イベントを期待して更衣室の扉に手をかけた。

 その瞬間、バサッと頭から何か袋のような物を被せられて一瞬で視界が閉ざされる。

「!!?!?」

 続いて両手を捻りあげられ、あっと言う間に後ろ手に両手首を何か手錠のような物で繋がれてしまった。
 その間にも僕の身体は何者かによって持ち上げられ、ずだ袋を運ぶかのようにえっさほいさと猛烈なスピードで移動していく。僕が助けを呼ぶことに思い当たる頃には何処かでバタンと扉が閉まる音がして、そして僕は椅子のような物の上に降ろされて座らされた。即座に足にも何かが填められ、椅子の足と同化してしまう。これで僕はおとなしく座っているか、ぶっ倒れて芋虫のように蠢くくらいしか出来なくなってしまった訳だ。

(な、何で別荘の中で誘拐されにゃならんのだ!?)

 移動距離的にもそれほど遠くに来た感じはしなかった。ただ、持ち上げられて運ばれたせいで上下の感覚が無くなり、登ったのか降りたのかは全くわからない。

(……? これ、蒸気か?)

 周囲の空気が明らかに熱帯の夏という以上に湿気ている。それに、どこからか水が流れる音も聞こえてくる。だとすると、ここは露天風呂の近くなのだろうか。

 他に情報が無いかと耳を澄ませていると、ひたひたと人の足音が近づいてきた。気配を探っていると、そいつは僕の目の前までやってきて立ち止まり、そして口を開いた。

「ハ~イ、達巳君。ご機嫌いかが?」
「……突発イベントの演出としちゃやり過ぎじゃないのか?」

 奇妙にハイテンションなその声は、三繰のものであった。

「いったいこれは何の真似だ?」
「それはこっちの台詞よ。達巳君こそ、いったいどういうつもりなの?」
「? 何の事だ?」
「とぼけないで」
「とぼけてなんていない。ちゃんと順を追って説明しろよ」

 相手の顔が見えないせいでどうもやりにくい。三繰に対してインサーション・キーは既に「旅」で設定してあるから、上手く言いくるめて事情を聞き出す事は出来るかもしれない。だが、今回の旅行の1番最初から使っていたキーが万一抵抗されて解除されると、今までのみんなの記憶がすっ飛んでしまう危険性もある。そういう一か八かな賭はどうしようも無くなった時以外はやりたくなかった。

「どういうつもり、と言ったからには僕の行動に疑問が有るって事だろ。こういう無理矢理な手段を使わなくても話し合いで解決出来るんじゃないか?」
「……悪びれる様子も無し、か。本当に頭のネジが飛んで罪悪感が無くなっている訳じゃなければ、だいぶ演技力が付いたって事なのかしら」

 僕は三繰の言い方に多少ムッとしながらも、努めて冷静に状況を整理しようとした。これは只の挑発だ。チンピラに口を割らせる初歩のテクニックに過ぎない。
 何か、三繰かあるいは哉潟家にとってとても気に喰わない事態が発生している様だ。そして、三繰がこんな強引な手段に訴えたという事は、その原因が僕にあると確信しているって事だろう。いったい、何が問題なんだ?

「僕が君の気分を害したっていうなら謝るよ。でも、誓って言うけど僕にそんなつもりは無かったし、そもそもいったい何が悪かったのかもわかっていないんだ。それだけでも教えてくれないか?」
「……」

 三繰は何かぼそぼそと呟いている。いや、誰かと小さな声で話している? 今まで三繰の声しかしなかったからここには僕と彼女の2人だけだと思っていたが、まだ他にいるのかもしれない。
 僕の前に立つ人物が顔を近づける気配がした。接近したという事は、少しは信頼度が前進したという事かな。

「……その言葉が嘘じゃないか、幾つか質問をさせてもらうわ。正直に答えなさい」
「いいよ」
「昨日、夜9時頃……御廚梓に何をしたの?」

 昨日の9時……夕食が終わったのが7時過ぎだったから、その後風呂に入って……あ、もしかして魔力回収の時の事を聞いているのか?

「……9時頃には梓さんに伝言をして、部屋に来てもらった頃だと思ったけど」
「それはわかっているわ。部屋で、梓に何をしたかを聞いているのよ」
「……」

 ええええええ? それを言わなきゃならないのか? あの一連の情事を、更に僕がいかにして梓から魔力吸収したかを説明しなきゃならないの?

「答えられないの?」
「いや、言うけどさ……どうしても聞きたいの?」
「ええ」
「結果だけでいいじゃない?」
「きちんと、最初から順を追って説明しなさい」

 ちっ、自分はやらないくせに他人にはそれを要求するのかよ。何て奴だ!
 だけど、今哉潟家の支援が得られなくなるのは僕としても得策ではない。少なくとも、三繰と同等のドミナンスを持つ契約者を2人は得られないとまた最初に逆戻りだ。

 僕はそう判断し、自分の羞恥心を胸の奥に飲み込んで昨日の出来事を説明した。
 梓の着替えの下にメモを置いた事。思いがけず、バスタオル一枚で梓が現れた事。個別に能力を使って「ミルク交換」を持ちかけた事。行為中に梓の気分が乗ってきたのか、シックスナインの状態になった事。その結果、梓が先にダウンしたので結局自分でしごいて彼女に精液を飲ませた事。その結果、梓が母乳が出るようになった事。

「ちょっと待ちなさい。そこが良くわからないわね。どうしてあなたのを飲むとそうなるわけ?」
「あ、そうか。説明してなかった」

 僕は三繰達に幎の正体については教えていないから、少し悩む。魔力回収の手段についてはどう説明しよう?

「……普段の僕は、いや、あの屋敷付近にいる間なら、単に能力を使うだけで能力発動の力を集めることが出来るんだ。だけど、今は場所が違うから、それを他の手段に頼らなくてはならない」
「それを、梓にやらせているわけなの?」
「いや、そうじゃない。僕が能力を使って常識を壊した相手なら誰でもいいんだ。その人間に僕の血や肉、精液を与えると、女性ならば力が母乳に姿を変え、それを飲むことで僕は力を取り戻せるんだ」
「何故、梓を選んだの?」
「今回の旅行の様な状況は初めてだからね。上手くいくか自信が無かった。だから、1人だけで試す必要が有ったんだ。三繰も七魅もキーワードと集団支配の設定は終了済だったからね。その他の人間で、一番力が溜まっていそうな娘といったら梓が適任だったんだ」
「ふ~ん……そもそも、何故それを私に話さなかったの? 私達は協力関係だったのじゃなくて?」
「それは……」

 僕は若干口ごもる。

「何? やっぱり後ろめたいところが有るのかしら?」
「……いや、わかった。正直に言う……ちょっと考えてみてくれよ。僕みたいな奴が、女の子に『君のおっぱいを吸わせてくれ』なんて、能力も使わずに申し出る事が出来ると思う?」
「何、あなた……今更恥ずかしかったから、とか言うつもりなわけ?」
「遺憾ながら……」

 ぷ、と正面で吹き出す気配がした。ほら見ろ、笑われた。だから言いたくなかったんだ、特に三繰には。

「……な、何それ。やる事やっておきながら、言い出すのが恥ずかしいって……いったいどんだけシャイボーイ気取ってんのよ……うぷぷ!」
「……質問は終わり? 終わったなら早く解放して欲しいんだけど」

 あからさまに腹を捩りながら言葉を吐く三繰に、憮然としながら要求した。そろそろこの蒸し暑い環境にも我慢がならない。まだ頭に袋を被せられているせいで汗が額からだらだら落ちてきていた。

「え、ええ、そうね。質問は……え、ああ、そうね、それも有ったわね」

 再度、前方でごにょごにょと秘密の会話の気配。何だよ、まだ有るのかよ。

「最後にもう1つ聞いておきたいんだけど」
「さっさとしてくれ。僕が脱水症状でぶっ倒れる前にね」
「そんなに時間はかからないわ。素直に答えればね……昨日の10時少し前、梓があなたの部屋から出てくる時……あなたとキス、してたみたいだけど。それについてはどう弁解してくれるのかしら?」
「……弁解も何も。梓さんは『ママのキス』って言ってたし、僕におっぱいをやっている間にそういう気分になったんじゃない?」
「ふ~ん……」

 三繰は半分納得したような返事をした。また誰かとこそこそ会話をしている。
 僕の方といえば、実は内心冷や汗をかいていた。梓は確かに「ママのキス」とは言ったが、それは部屋を出る前の事なのだ。部屋を出るときのものは、「それとは異なるキス」とはっきり言った。三繰が昨日の僕達の事を知っているのはいいとして、あの小声での会話まで聞かれていたらヤバかった。

「……まあいいでしょう。聞きたい事はここまでよ」
「そりゃどうも。それならこっちからの質問にも答えて欲しいもんだ」
「どうしてこんな事をしたかって事?」
「ああ」
「この旅行の後、参加者の中から妊娠騒動を起こすような者が出たら困るからよ」
「……にん……しん?」
「バスタオルの娘を自分の部屋に引っ張り込んで2人きりで1時間、その後別れ際のキスなんて、どう考えてもそういう想像になるでしょうが」
「……ああ、なるほどね……」

 つまり何か。三繰は僕が梓と関係を持ったかどうかを確認したかったって事か。それでこんな拉致監禁紛いの事をしたのかよ。

「それは済まなかったね、余計な心配をさせたみたいで」
「別に私が心配したわけじゃないけど」
「はぁ?」
「ん、ああ、こっちの話。それに、達巳君に他人の別荘でそういう事に及ぶ度胸が有るワケ無いしね」
「……そりゃ、どうも。大層な信頼関係なようで」
「いえいえ、達巳君がちゃんと最初から信頼して説明してくれればもう少し手短に済んだんですけどね」
「次からはせいぜい努力するよ」
「次は無いかもしれないけどねぇ」

 ははははは、と僕と三繰は同時に笑う。僕の方は汗を吸った袋が口に引っ付いて幾分くぐもった笑いになったが。

「はっはっは……ねえ、そろそろ放してくれないかな」
「ふふふ……放して欲しい?」
「釣りの基本はキャッチ&リリースだろ? ちゃんと説明を吊り出したんだから、用が済んだ哀れな魚君を逃がして欲しいんだけど」
「なるほどね……でも駄目」
「なんでさ」
「まだ実証が済んでないからよ」

 ばさっと僕の顔から袋が取り除かれた。天井から照らされた明かりはそれほど強いものではなかったが、突然の事だったので「むっ」と目を細める。
 袋越しだった蒸気による湿気は更に強まり、水の流れる音はその蒸気の発生源らしい白い霞の方から聞こえて来ているようだ。
 そして、目の前に立っているのは間違いなく三繰であった。だが……。

「あれっ!? え、な、何で……?」
「何?」
「何で……裸なのさ!?」
「お風呂場で服を着ている方がおかしいんじゃない?」
「えっ、風呂場?」

 三繰は衣服を身につけていなかった。僕の前にも関わらず、素っ裸で片手を腰に当てて隠す素振りも見せずにすっくと立っている。
 風呂場と言われて辺りを見回すと、そこは確かに長い方で10mくらいの楕円形の岩風呂であった。周囲は竹垣で囲われ、天井はむしろのような乾燥した植物を編んだものが覆っている。その天井は風呂場を半分くらいしか覆っておらず、垣根との隙間に夜空が見え、そこに天の川が見えていた。

「ここは……?」
「もう1つの露天風呂よ」
「何っ? 君んとこの別荘は露天風呂が2つも有ったのか!?」
「そうよ? 聞いてなかった?」

 いや、全然。こちらの風呂は湧き出るお湯の質が違うのか、透明に澄んでいて岩風呂の底の方まで良く見える。規模としては向こうの天の川風呂より断然小さいが、落ち着いて独りで楽しむならこっちの方が良さそうだ。

「驚いたな……まさかこの島に2つも温泉が有ったとは」
「2つじゃないわよ? この島はあちこちから温泉が湧いてるから、少し遠出すれば人の足で行ける範囲でも5箇所は有るわ」
「何と……」

 良くもまあ、こんなレジャーパラダイスを買い取ったものだ。それも個人的な別荘を造るという目的だけで。哉潟家っていったいどこまで金持ちなんだ?

「君のところの別荘自慢は良いんだけどさ、僕にそれを見せつける為に縛り付けている訳じゃないんだろ? 実証って何をするつもりなんだよ?」

 ちょっと僻みが入ったか。でも、改めて三繰達が遠い手の届かない場所のお嬢様だって事を思い知った。本の魔力が無ければ、僕なんか一生彼女達と接点を持つどころか、存在を知ることすらなかった者達だ。
 三繰は僕の心中など知る訳もないから、あどけなく笑顔を浮かべて顎に手を当て、反対の手を肘に添えた。意識してかどうか知らないが、胸が寄せられて谷間が深くなる。

「それなのよね。実際のところ、達巳君がさっき説明してくれた事が本当の事かどうか私達が確認するとしたら、実際にやってみるしかないじゃない?」
「はあ? 実際にって……え、するの?」
「そうよ? 何、本当に温泉自慢だけでこんなところに連れて来たと思ってた?」
「……そうだったら良かったなあと、今思ったところだ」
「残念ね」

 くすくすと三繰は笑う。

「そういう訳だから、大人しく私達に達巳君の、よこしなさい」
「よこしなさいって、言われてハイどうぞって出せるもんじゃ……私達?」

 僕が複数形に疑問を感じていると、三繰は「出てきていいわよ」と後ろに声をかけた。すると、後ろの岩の陰からおずおずといった感じでバスタオル姿の七魅が姿を現したのだった。

「あっ! さっきからこそこそ話してたのは七魅だったのか!」
「そういう事。ナナちゃんがどうしても確かめたいって言うから、達巳君をこの岩風呂にご招待させてもらったって訳」
「確かめたい事?」

 梓に何をしたか、かな? 僕が首を捻って考え込むと、七魅は「姉さん!」と顔を赤らめている。それに三繰は軽薄な笑いを浮かべて手をヒラヒラ振っていた。

「ほらほら、ナナちゃんも脱いで脱いで」
「で、でも……」
「達巳君も見たいよね、ナナちゃんの裸?」

 え? 突然振られて僕は思わずこくんと頷いてしまう。僕ってほんと欲望には正直な奴だなぁ。

「ほら、達巳君も見たいって」
「……」

 三繰に促され、七魅は躊躇いながら胸元で押さえているバスタオルを緩めた。片手で押さえながら巻かれたタオルを外し、正面のみ隠した状態になる。そこで、七魅は顔を赤くしたまま手を止めてしまった。

「……裸じゃないと、駄目ですか」
「そうねぇ。達巳君のここに相談してみたら?」

 うわっ、何してんだ。僕が固唾を飲んで七魅を見守っている間に、三繰は僕の足下にしゃがみ込んでズボンに手をかけていた。ズルリとそれが引きずり下ろされ、下半身がトランクス一丁になる。そこは既に三繰の裸に誘われてか大きく盛り上がっていた。

「おやおや、もう期待一杯ってカンジだね」
「男の本能だ。許してやってくれ」
「ほら、ナナちゃんもちゃんとぜんぶ脱がないと、ここは見られないよ?」
「……人の体の一部を勝手に交換条件にしないで貰えませんかねぇ」

 いやまあ、その条件に不満は無いんだけどさ。何となく三繰に手玉に取られている状況が気に食わないだけで。

 七魅は随分長いこと逡巡していたが、ちらちらと僕の顔を覗き見、そして下に目線を移し、顔を真っ赤にして俯いた後、「わかりました……」と小さく頷いた。俯いて僕から目線を外したまま手をゆっくりと外し、タオルを身体の前面から取り除く。

「うはぁ……」

 僕は思わず感嘆の声を上げた。彼女の裸は以前も見たことがあったが、お風呂場でタオルの下から出てくるというシチュエーションがそれを特別なものに感じさせている。
 三繰よりやや小振りだが形が整ってツンと上向きの乳房。細くしなやかそうな腰つき。女性らしさと少女の可憐さを両方内包した白くすべすべの脚のライン。湯気に当てられたのか肌はしっとりと汗ばんで赤みを帯び、彼女の色気を助長している。そして、その水気によるものか股間の茂みは濡れて肌に張り付いていた。

「あ、あの……あんまり見ないで……」

 僕が痴呆のようにそれをぽかんと見つめていると、七魅はそのまま消え入りそうなくらい身体を縮こまらせて呟いた。僕は慌てて「ご、ごめん」と目線を逸らす。
 ハルのスレンダーで健康的な体つきや梓の女性的な色気とも違う。七魅の白く少女らしさを内包した裸は、例えるなら新雪の美しさだ。無垢で純粋、そして、だからこそ男に征服欲と獣欲を喚起させる。僕は顔を背けながら横目で七魅をちらちらと見続け、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「ふふ、達巳君のここもすっかりやる気になっちゃって」

 三繰は含み笑いしながら僕のそこをトランクス越しにちょんと突っついた。今やそれは、薄い布地を突き破らんばかりに膨張している。「それではご対面」と三繰がトランクスをずり下ろすと、弾けるように飛び出して天井の方へ反り返った。

「いいねいいね。若気がだいぶ張り切っているようだねぇ。ナナちゃんもこっちおいで」
「は、はい」

 ぽぉっと遠くから僕のものを見つめていた七魅を呼び寄せる。2人は僕のズボンと下着を完全に下ろし、膝の間に揃って膝を付いた。姉妹の顔が僕の腹のすぐ側に寄ってくる。

「あ、わ、わ……」
「ほら、もっと近くに……」

 2人の吐息が先端の部分に感じられる。くすぐったさにものがピクンと動くと、「わ」と姉妹そろって目を丸くした。三繰もさすがにここまで来ると照れがあるのか、妹をリードしつつその頬は赤らんでいる。

「ほら、ナナちゃん、触ってごらん」
「うん……」

 七魅がおずおずと両手を伸ばし、薄絹に触るようにそうっと僕のものを指先で掴む。そしてその弾力を確かめるようにやわやわと表面に圧力をかける。

「あ……」
「どう?」
「温かくて……ドキドキしてます」
「ふふふ。匂いはどうかしら?」
「匂い……?」

 ちょっと待ったぁ! と言う暇もなかった。吸い寄せられるように七魅が先端部に鼻を寄せ、すんすんと嗅いでいる。あああああ、まだ風呂に入る前だったから、洗って無いんだよぉおおお!

「どう?」
「えっと……良くわからないけど……」
「達巳君の様子を見るに、まだ洗ってないし臭うのかしら?」
「……その、においはしますけど……私は、嫌いじゃないかも……」
「へえ……ナナちゃんは達巳君のが気に入ったみたいね」

 七魅は三繰の言葉に顔を真っ赤にした。僕としても、何というか褒められたわけでも無し、貶されたわけでも無し、何とも言えぬ感覚で顔が火照ってくる。

「お互いの印象は良好ね。さあ、ナナちゃん。次は味を確かめてみましょう? 大丈夫、夕食前にシャワーは浴びてたし、それからトイレにも行っていないし、ばっちい物じゃないから」
「み、見てたのかよ……」

 僕のうめき声も聞こえないようで、ものの先端部をじっと見つめたまま七魅はこくんと頷くと、小さな口を開けて舌を出し、それをゆっくりと近づけていった。ちょんと先端にそれが触れた瞬間、新しい刺激に「うっ」と声が漏れてしまう。

 一度舌が触れてしまうと、そこからの七魅はだんだんと積極的になっていった。舌を使って自分の唾液をまぶすようにものの先をくりくりと舐め回し、さらに握った手を上下に動かして竿の部分にも刺激を与える。はぁはぁと息を弾ませながら、垂れ落ち始めた唾液と僕の先走りを指を使って根本の方まで塗り伸ばしていく。

「ふふ、ナナちゃん。私にも少し分けてね」

 三繰がそう言うと、七魅は僕のものを両手で持ったまま頭の位置を横にずらして場所を空けた。まるで、分けてはあげるけど所有権は自分に有ると主張するかのようだ。三繰はそれに微笑みながら顔を近づけ、七魅と反対側の面の竿の部分を舐め始める。

 2人の共同での刺激に僕の腰の辺りではぐらぐらと欲望の固まりが沸騰し始めていた。それはものから送られている刺激を火種にどんどんと圧力を高め、今にも決壊して噴き出しそうになっている。

「はぁ……ふぅん……ぅん……」
「ん……はぁ……はぁ……」

 姉妹は口を使っているため、子犬のように鼻を鳴らしながら執拗に僕のものにまとわりつく。竿に舌を滑らせ、唇で先端を摘み、袋の部分に頬ずりするように指でしごく。時折お互いの舌と舌が接触し、自分の舐め取った先走りを親鳥が雛に餌を与えるように一心に交換し合う。その時ですら、僕のものから手を離さずにゆるゆると上下に動かして刺激を送り続けてくる。僕の中でマグマのレベルまで加熱された白い快感は、もうその手の中で爆発寸前だった。

「あっ……あぁあ、やばいっ……!」
「出そう? 出そうなの?」
「出るっ!」

 ものの根本から先端に向けて加速が始まった。もう止める事など不可能な急流が、竿を砲身の様に圧力のまま出口へ殺到する。

「うくっ!」

 姉妹が竿から舌を離し、先端のすぐ先で口を大きく開くと同時に白濁が噴き出した。どくどくとものの中にもう1つ心臓が有るのかという勢いで断続的に白いヨーグルト状の物質を2人の口の中へ飛び込ませる。

 びゅぅっ! びゅうぅっ! びゅぅーっ!

 僕の手足は拘束されたままの為、できる事と言ったら背中を仰け反り、椅子から精一杯に腰を浮かせて僕のものを少女達の小さな唇やあどけない顔になすり付けるくらいの事だ。一向に勢いを弱めずびゅるびゅると飛び出すそれが三繰達の顔中に飛び散り、喉や鎖骨から胸の方までどろどろと垂れ落ちていく。

「あ、ああ……!」

 七魅がそれを見て、僕のものをぱくっと口に含んだ。口内の温かな刺激に、僕のものはさらに白濁を少女の体内へ送り込むべく噴射を強める。白い喉がこくこくと僕の欲望の汚濁を嚥下する様が見て取れる。

「ナナちゃん、私の分も……!」

 三繰が七魅に顔を寄せる。七魅がものを口から離すとすぐさま三繰が代わってぱくりと咥えこんだ。その僅かな時間にも噴き上がった白濁は容赦なく2人の艶のある黒髪を白く染めていく。

 2人がお互いに何度か口の中のものを交換し、ようやく僕のものは大人しくなる。びゅるっ、びゅるっと残滓が噴き上がるのを、姉妹は舌をくっつけるように伸ばして受け止める。そして、少ないミルクを子犬が分け合うように、鼻を鳴らしながらお互いの舌を絡めて味わい続けた。
 ちゅるちゅるとお互いの口の中の粘液を啜っていた2人がようやく口を離す。その間に少し白身がかった唾液が糸を引く。

 その頃には僕はなんとか呼吸を整えていた。毎度毎度の事ながら、魔力の放出による脱力感でいささか気分が悪くなる。
 三繰は僕の足下から立ち上がると、自分の有様を見て苦笑しながら口を開いた。

「随分たくさん出るのね」
「お客様に満足していただくのがモットーでして」
「お腹達巳君のでもうたぷたぷよ? 人間の出せる量じゃないわね。一体どうなってるの?」
「知らないよ。そもそもこんなの飲んでおっぱい出そうってのに、常識も何も有ったもんじゃないだろ」

 「そりゃそうね」と三繰は納得する。そして昨日の梓と同じように自分のお腹の辺りまで垂れた白濁を指で掬うと、しげしげと見つめた後にぺろりと舐めた。

「これが達巳君の味ね……悪くないかも」

 そしてそう独り言ちる。何だか自分の価値を確かめられているようで、僕は恥ずかしくなった。
 七魅の方は、と見ると三繰と同じく立ち上がったはいいもののぽぅっとした表情で自分の身体を見下ろしている。

「七魅……?」

 僕が呟くと、三繰も気が付いたようだ。「ナナちゃん?」と声をかける。
 だが、七魅はそんな声も聞こえていないようで、目を閉じると臍の辺りをさすりながら夢見るように呟いた。

「……ここに……達巳君の赤ちゃんの素が入ってるんですね……」
「「……っ!」」

 七魅の台詞に僕の顔面に一気に血が上る。三繰すら顔を赤くして、

「うわ……ナナちゃんエッチ……」

 と呟いていた。それを聞いて七魅ははっと顔を上げ、「え、あ、わ、私!?」と狼狽して顔を真っ赤にしてしまった。

 こほん、と三繰が咳払いして場を取りなす。しかしその顔は赤いままだ。

「と、とにかく。達巳君の精子は飲んだし、これでおっぱいが出る様になったのかしら」
「えっと、昨日はその後僕が梓の胸に触ったら出るようになった様に思ったけど」
「あらそうなの?」
「うん。だからこの手をそろそろ外して欲しいなぁ」

 僕は後ろ手に手錠に繋がれた手首をじゃらっと動かした。顔の汗も拭えないし、苦痛以外の何者でも無い。でも三繰は、僕の顔を手拭いで拭きながら「あら、まだ駄目よ」とけろりと言ってのけた。

「なんでさ」
「まだ検証途中でしょう?」
「でもこれじゃあ触れない」
「う~ん……」

 三繰は僕の周りをぐるぐる回りながら「達巳君に触ればいいのかしら」と首を傾げる。そして横から近づくと僕の首をそちらにねじ曲げ、「えいっ」と自分の胸に埋めた。

「わぷっ!」
「ね、姉さん!?」
「これも触ったって事にならない?」

 僕に聞かれたところで、いま顔面は三繰の胸に埋まっているから「もがもが」と意味の無い音声にしかならない。僕が振り解こうと顔を動かすと、「あん」と彼女は艶っぽい声を上げた。

「……あら? あらら? 本当におっぱいが張ってきたみたい……」
「ほ、本当ですか姉さん!?」
「うん。胸の奥の方がぽっと火が付いたみたいになって、何かが湧きだしてくるみたいな……」

 三繰が手を弛めたため、僕の頭はようやく解放された。「ぷはっ」と息を付くと、目の前の三繰の乳房は頂点の部分がむくむくと張りつめ始めていた。

「あ……これ、何か、やば……何か、出ちゃいそう……」

 三繰が恐る恐る自分の胸を持ち上げるように両手で支える。その瞬間、先端部かぷるっと震えてぴゅっと白い滴がそこから飛んだ。

「んっ!」
「あっ! お乳が!?」

 三繰が吐息のような喘ぎ声をあげ、七魅がその光景に目を丸くした。確かに三繰の胸から液体が飛び散り、風呂の床に点々と白い滴の跡が付いていた。「ほ、ほんとうに……」と三繰も自分の身体の変化に呆然としている。そんな姉の様子に心配そうに七魅が駆け寄ってくる。

「姉さん、どこか痛くないですか? 気分は悪くないですか?」
「……え? あ、うん。別に平気。いや、それよりちょっと気持ちいいくらいかも。ナナちゃんもやってみなよ」
「え?」
「ほんと、びっくりするよ」

 三繰は急に笑顔になると七魅の肩を押し、僕の方に近づけた。「あ、あの」「いいからいいから」とどんどん僕の方に押しやられる七魅。

「多分、達巳君と接触することがおっぱいの作られる条件になってるんだね。ほらほら、男のコにおっぱいを飲ます経験なんて、そうそう出来るものじゃないよ」
「そ、そうですけど」

 遂に七魅は僕のすぐ側までやって来る。そして僕の視線にはっと自分が今裸であった事を思い出して胸と股間を手で隠した。顔が真っ赤に染まる。

「ほら、恥ずかしがってないで達巳君にナナちゃんのおっぱい飲ませてあげなよ」
「は、はい……」

 七魅は僕の側で腰を屈めると、「失礼します」と僕の頭を手で抱え、そして自分の胸に押しつけた。ちょうどその先端が僕の口の近くになり唇に触れる。

「……あっ! えっ!?」

 三繰に訪れた変化が、すぐに七魅にも現れたようだ。唇に触れた部分が堅くなり始め、自己主張するように僕の唇をつんつんと押す。さらに、その周辺から誘うような甘い匂いが漂い始めた。僕は七魅に上目遣いで視線を送る。

「ねえ、吸ってみていい?」
「えっ……と」

 七魅は赤い顔でしばらく迷う。そして、躊躇いがちに首を縦に振った。僕は即座に口の中に七魅の乳首を含み、きゅっと吸い込む。

「うっ……ぁ……あぁっ……っ!」

 ぴゅっと弾けるように甘い汁が口の中に飛び散った。七魅の初乳だ。最初はぴゅっぴゅっと途切れ途切れだったものが、やがて溢れ出すように自然に口に広がり始める。僕は夢中でそれを喉の奥に流し込んだ。

「くぅ……んぅ……あんっ……」

 僕の吸い込みに合わせて七魅の身体が震えている。頭を抱いている両手にも力が無くなってきた。するりと手が放れ、僕の頭から七魅の身体が離れていく。頭だけでそれを追おうとするが、椅子の背もたれに繋がれた手首に引っ張られ、口から七魅の乳首がちゅぽんと抜けた。

「あうっ!」

 七魅の膝がカクンと折れ、危ういところで三繰に支えられていた。視線が定まらず、とろけたような瞳がさまよっている。三繰が非難するように僕を見た。

「もう、達巳君激しすぎるよ」
「激しいったって……」
「ナナちゃん初めてなのに、そんなに夢中になっちゃってさ。少しは女の子の身体を労れないの?」
「……ごめん」

 素直にそう思った。何というか、この魔力のこもった母乳は僕の理性を狂わせる何かがある。あの喉の奥から脳髄へ直接浸透するような甘みは、まるで麻薬のようにすべての思考を蕩かせてしまうのだ。

「罰則だよ、達巳君。男の子なんだから、女の子2人分くらいちゃんと支えてね?」
「え?」

 三繰はそう言うと、七魅を立ち上がらせて誘導し僕の右膝を跨ぐように座らせた。七魅の大事なところが僕の太股に乗っかり、さわさわと茂みが肌をくすぐる。七魅は上体の力が抜けているためそのまましなだれかかるように僕に身体を預け、ちょうど顔のところに胸が来る。

「え? え?」
「私はこっちね」

 三繰は同じように左膝に跨ると胸を両手で支えて僕の顔の前に突き出した。僕の視界に七魅と三繰、2人で4つのおっぱいが間近に迫ってくる。

「え? え? え?」
「おっぱいが出るとき、ほんと身体の中からすうっと理性が飛んでっちゃうくらい気持ちがいいんだよね。これならちょっとくらいイっちゃっても大丈夫だから」

 そう言って、三繰は顔を赤らめる。

「ほら、吸っていいよ。姉妹で飲み比べ、してみたら?」

 その言葉に僕の理性はあっという間に蕩かされ、僕は夢中で目の前のおっぱいにむしゃぶりついたのだった。

「あんっ……!」
「ぅん……!」

 姉妹の喘ぎがサラウンドで左右から聞こえてくる。空いている乳首を口に含み、きゅっと吸い、溢れた甘い汁を飲み込みつつ目は次の獲物を探し、目に付いたら即座にそれに口を移す。飲み干すにつれ、僕の身体の奥からぐんぐんと熱を持った力が充満し活力が湧いてくる。それに呼応するかのように2人の身体は熱を帯びていく。

「ああぁ……はぁぅ……」
「うぁ……はぁっ……」

 いつしか、姉妹は僕の膝に股間部を擦り付け始めていた。自分の秘部からの分泌物で濡れたそこをぬるぬると前後に動かし、敏感な襞や突起に刺激を送りつける。自分の胸を支えている両手は、今やただ支えるだけでなく揉みしだく様な動きに変わっていた。

「た、達巳君……」
「……たつみ……くん……」

 2人の身体の奥からびくびくと震えが走り、そして同時に動きが止まった。胸にやっていた手がだらりと力を失って下に垂れ、上半身が力を失ってぐにゃりと僕に倒れかかる。呼吸は乱れ、「はぁ……はぁ……」と熱い吐息を僕の耳元に吹きかけていた。

「た……みくん……」

 七魅が虚ろな声で僕の名を呼び、両手で再度頭を抱え直した。恐らく、意識が朦朧としているのだろう。声も呟きのようで聞こえ辛い。

「……きです……たつみ……くん……」
「え? 何?」

 何か、名前以外の事を言われた気がして僕は聞き直した。ちょうど七魅の手が僕の耳を塞ぐように頭を抱えているため、最初のところが聞こえなかった。

「今、何て言ったの?」
「……え?」

 僕が再度問いかけると、七魅ははっと目を見開いた。そしてぱっと僕と身体を離し、見る見る顔を赤くする。それはもう、今までの赤さを限界突破して耳まで真紅に染まっていった。

「聞こえにくかったんだけど、何か言った?」
「はわ、わわ……」

 七魅は半ばパニックを起こしたようになっている。何だろう? 何かまずい事でも有ったのかな?

 その瞬間、「うりゃっ」とまたもや僕の頭に袋が被せられ、視界が閉ざされた。また三繰かよ!

「こら、この袋を外せ三繰! 何のつもりだっ!」
「うるさい黙れこの唐変木。ぴーぴー喚き続けるならその口ホッチキスでガチャガチャ閉じてくれようかしら」
「……」

 ……ねえ、僕、本当に三繰に恨まれるような事してる? 脅迫が昨日の比では無い気がするのですけど……。

 結局、姉妹は5分程ぼそぼそと何か話し合って七魅は落ち着きを取り戻したようだ。僕の頭から袋は取り除かれ、ようやく手足からも拘束が外される。椅子から立ち上がり、僕は大きく伸びをした。

「ああ~っ! 酷い目にあった」
「ほほう、そんな事を言うのはどの口かな?」

 僕は危険を感じて3歩三繰から距離を取った。今だに彼女は全裸のままで両手に獲物は持ってはいないが、その気になれば例の踊りで僕の自由を奪うくらいは簡単に出来るのだろう。要注意である。
 七魅の方は何とか復活したようで、顔は赤いものの身体にはバスタオルを巻いて三繰の後ろで小さくなっている。一体何が問題だったのだろう?

「それで? どうだった?」
「何が?」

 三繰のいきなりの質問に首を傾げる。

「飲み比べしたでしょう。どうだったの? どっちがおいしかったの? っていうか梓のも含めて誰が一番良かったのよ」
「え?」

 そ、それを僕に言わせるのか?
 三繰の声にはドスの利いた圧力があるし、背後の七魅もいつものジト目なのに妙に迫力が有る。こ、これ、下手に順番なんて付けたら僕、この島から無事に帰れなくなるんじゃ……。

「えっと……みんなおいしかった!……じゃ、駄目?」
「「駄目(です)!」」

 七魅と三繰が同時に声を上げる。おいおい……。

「そ、そうは言ってもね、3人のおっぱいには3者3葉の良さがあってさ……」
「ちゃんと説明してみなさいよ」
「う、うん……まず、梓さんのは、本当に蕩けるように甘いんだ。これを飲んだら、夜はぐっすりなんの憂いもなく眠れそうな甘さなの」
「へえ……私のは?」

 三繰は僕の話を聞く姿勢になったのか、頷きながら先を促す。僕は姉妹の機嫌を損ねないように懸命に頭を回転させて語彙を探した。

「三繰のはね……コクがあって、飲んだ瞬間に全身に漲るような濃厚な味なんだ。でも、喉を通った後はさっぱりしていて、すがすがしい後味も有る」
「へえ~……」

 三繰の顔は嬉しいようなくすぐったそうな、そんな照れ顔だ。よしよし、怒ってはいないな。続けて僕は七魅へと視線を移す。

「七魅のは、お姉さんとは反対にすごくあっさりとしていて、飲みやすいんだ。いつまでも飲んでいたくなるくらいに喉越しが良くて、ほんのりと甘みが漂っている。でも、薄いって事じゃなくて、お腹に落ちた後にじわっ~と来る様な旨味も持っている。ほんと、飽きない味なんだ」
「そ、そうですか……」

 七魅もくすぐったそうな顔で顔を赤くした。うん、こっちも僕の評価を気に入ってくれたようだ。僕は三繰に向き直り、最終審判を仰ぐ。

「こんな感じだったけど……どうかな?」
「そうねぇ……まあ、いいでしょう」

 ふう、何とか切り抜けた。僕は三繰の許しにようやく肩の力を抜いた。

「じゃ、じゃあ、もう帰っていいのかな?」
「せっかくここまで来たんだし、お風呂に入って行きなさいよ」

 「私達もこれから入るから」と入浴を勧められる。まあ、元々そのつもりだったんだけどさ。ちょっとした突発イベントを期待したつもりが随分とタイムオーバーしてしまった。
 僕はいったん岩風呂の外に出て脱衣所で服を脱ぎ、そして中に戻った。そして既に姉妹が浸かっている岩風呂にかけ湯をしてから足からそっと入る。

「あちちち……」
「ちょっと熱めがいいのよ」

 そう行って三繰が笑う。ここの風呂はお湯が透明だから、三繰も七魅も、そして僕も身体の細部がお湯の中で丸見えになってしまっている。ま、今更だけど。

「そうそう。達巳君、その力の回収は毎日やらないと駄目なの?」
「まあね。出来るだけやっておいた方がいい事は間違いない」
「じゃあ、梓にかけたのと同じ内容で私達にかけておきなさい」
「え? いいの?」
「ええ、そうすれば誰からでも好きなときに回収出来るでしょ?」

 三繰はそう言うと七魅に向かっても「いいわね?」と念を押した。七魅は少し不満そうだったが、姉が再度同じ事を言うとしぶしぶ頷く。

「決まりね。どっちにかけるの?」
「そうだな……」

 少し悩んだ末、やはり最初からかかっていた三繰は残したままにし、七魅のキーを「ミルク」、内容は「達巳郁太からミルク(精子の事)を貰った女性はミルクを出せるようになり、これを彼に飲んで貰うことで美しくなれる」と書き込んだ。
 これで、明日からここにいる全員から魔力の回収が出来るようになったって事だ。

「あ、でも保護者設定を外したら明日から悪戯がしにくくなるなぁ」
「そこまでは面倒見切れないわ」
「わかってるよ」

 そこは少し考えないといけないな。僕は顔を上げて空の天の川に視線をやる。月がいつの間にか昇り、丸い光が竹垣の上にぽっかりと浮かんでいる。ってことは、こっちは別荘の東側なのか……。
 僕が空を見上げて思案していると、こそこそと何か相談していた姉妹は水面を揺らしながら僕の方へ近寄ってきた。

「ねえねえ、身体の洗いっこしましょう」
「えっ?」

 まさか、昨日の梓との事を見ていたのかと思ったが、そうでは無かった。

「昨日は源川さんに洗ってもらってたでしょ? 今日は私達がやってあげる」
「……そりゃ、どうも」

 うむむ、女の子達の間では男と身体を洗い合うのがブームになっているのだろうか。誘われるままに僕は風呂から上がり、シャワーの前に用意された椅子に座らされた。鏡で見ていると、姉妹はきゃっきゃと子供の様に石鹸を両手で泡立てている。

「じゃ、いくよ~」
「お手柔らかに」
「それっ!」
「えっ!?」

 突然、背中と右腕側から2人にのし掛かられる。石鹸の塗られた両手で泡を伸ばし、そしてその泡で滑るように身体を密着させて肌と肌を擦り合わせる。

「ほわぁああ!? な、なぬをぉお!?」
「こうすれば一緒に洗えて一石二鳥じゃない? ほら、達巳君も私達の事洗ってよ」

 そう言うと三繰は僕の左手を取って自分の股の間に引っ張り込んだ。そして泡だった自分の茂みを利用して僕の腕をわさわさと擦り出す。
 反対の手では七魅が顔を真っ赤にして僕の腕にしがみついていた。上腕を胸の谷間に挟み、手首は股の間でしっかり保持している。時折手の甲にそこの敏感な突起が触れるようで微かな喘ぎが耳元で響いている。

「七魅まで! どうしてこんな事を!?」
「す、すみません……」
「いや、謝る……」

 僕が言いかけると、左耳がぺろりと三繰に舐めあげられてぞくぞくっと背筋に震えが来て言葉が止まる。

「昨日梓が『ママのキス』って言ってたんでしょ? 何となくわかっちゃった」
「にゃ、にゃにが……?」
「何か、おっぱい飲んでる達巳君って可愛い♪ 母性本能刺激されちゃうね♪」

 な、なんですとーっ!?
 姉妹は一斉に僕の身体の各所に手を伸ばし、手のひらや指先を使ってぬるぬると洗い始めた。あ、待って、そこはちょっと……あ、あっ、そんなとこまでっ!?

 「きゃーっ」と襲われた少女みたいな声を上げながら、僕は姉妹におもちゃにされ続けたのだった……。

6.

「うう……酷い目に遭った……」

 身体はキレイキレイされてさっぱりしたが、心はあの2人に陵辱されてボロボロだ。もう今日はさっさと寝ようとよろけながら階段を上り、自分の部屋に向かう。

(あれ……?)

 通路を曲がり、僕の部屋の扉が見えたところで足を止めた。僕の部屋の前に人影が有ったからだ。その人物は通路の突き当たりの窓に手をかけ、そこから空を見上げている。首筋を隠し、背中に少しかかるその黒髪に僕は覚えが有った。

「春原……」
「ん? あ、やっと戻って来た」

 笑顔で春原が振り返る。ふわりと黒髪が円を描き、微かなシャンプーの匂いが僕の鼻を擽った。

「どこ行ってたの? 探したのに別荘の中にいないんだから」
「ん、ああ……哉潟さん達に温泉を案内して貰ったんだ」
「温泉って、天の川の?」
「いや、この島にはあちこちに温泉が湧いてるんだって」
「ふ~ん……それで、どこ行ってたの?」
「ちょっと東にある岩風呂」

 このまま会話が続くと姉妹と一緒にお風呂に入った事まで追及されそうだな。僕はそう思い、先手を打って話題を変えることにした。

「で、春原は僕に何か用かな?」
「あ、私? う~んとね……あのさ、南の砂浜から東に行ったところにもう1つ、小さな砂浜が有るの知ってる?」
「ああ、東海岸だっけ?」

 今日の昼、梓を連れて行った所だな。

「そう、その東海岸なんだけどさ。この時間に行くと、面白い物が見られるんだって」
「面白いもの? 全身白いネズミとか?」
「あのね、そういう下らないダジャレじゃなくて……。とにかく、折角旅行に来たんだし、達巳君一緒に見に行かない?」
「ん~、でも夜は暗いから出歩かないようにって」
「大丈夫! ほら、懐中電灯借りてきたから」

 春原は紐の付いた懐中電灯を2つ、僕に見せた。まあ、明かりが有るんだったらあのくらいの石段何て事無いよな。それに今日は月明かりも有るし。

「いいよ。他に誰が行くの?」
「え? あ、いや、その……か、懐中電灯が2つしか借りられなかったから……」

 何故か顔を赤らめて春原は目線を逸らす。まあ、それなら仕方ない。他に単独で誘えるような奴は後はハルか梓くらいだろう。何で僕に白羽の矢が立ったか知らないが、折角のお誘いだ、その面白い物とやらを見に行ってやろうじゃないか。

「じゃ、しょうがないね。今すぐ行くんでしょ?」
「私はもう行けるけど……」
「着替えを置いてくるから少し待って」

 僕は春原を待たせて着替えを部屋に放り込むと、念のため虫避けスプレーを持って外に出る。そして、彼女からライトを1つ受け取って東海岸へと出発した。

 東海岸への道は昼に一回通っていたし、思っていた通り月明かりも有ったのでそれほど難所という訳ではなかった。懐中電灯を下に向け、注意深く足下に気を付けていれば特に危なげなく進むことが出来る。

 途中、ふと気になった事が有って僕は後ろから降りてくる春原に目をやった。「ん?」と春原は足を止めて首を傾げる。

「そう言えばさ。春原、足はもう平気なの?」
「ああ、もう平気平気。飛んだり跳ねたりしなけりゃ歩くのもいいリハビリだよ。じゃなきゃ、こんなとこまで旅行に来ないよ」
「ま、それもそうか」
「何? 心配してくれたの?」

 春原はあからさまなニヤニヤ笑いを浮かべながら僕を見下ろした。それに僕は多少照れながら、それを隠すように前に向きつつ答える。

「まあね。こんなところで動けなくなったら抱えて帰るのが大変だ」
「あら、てっきり置き去りにして助けでも呼んで来るのかと思ったら意外だね」
「そりゃ、こう見えても男ですから。口だけでも多少はいい格好したいよ」
「それを口に出しちゃ駄目でしょ」
「根が正直者なんだよ」
「あははは……あっ!?」

 軽口で注意が逸れていたのだろうか。かつん、と何かが岩に当たる音がした直後に春原のライトの光が激しく周囲を飛び回り、一瞬の後にどこかに消えてしまった。

「あ、やば……落としちゃった……」
「紐は?」
「ここに有るけど」
「本体だけ落ちたのか……」

 下の方に落ちたのは間違いないのだろうけど、岩に当たってスイッチが偶然切れたか、壊れたか、それとも丁度岩陰に落ちたのか明かりは見えなかった。僕の懐中電灯で付近の草や岩の陰を照らすが、障害物が多すぎてとても探しきれない。

「しょうがない。帰ったら正直に言って、また明るい内に探しに来よう」
「うん……」

 春原はしょんぼりとしょげてしまった様だ。これくらいの失敗誰だって有るさ。僕は春原の方に空いている手を伸ばし、努めて明るい口調で話しかけた。

「ほら、掴まりなよ」
「え?」
「ここからはそんなに段差は大きくないみたいだし、せっかくここまで来て引き返すのも癪でしょ? エスコートしますよ、お嬢様」

 春原は僕の手に少し戸惑った様子だったが、おずおずと自分も手を伸ばしてそれにしっかりと掴まった。

「あ、ありがとう……」
「じゃ、行くよ」

 僕は春原の足下を照らしてやりながら、ゆっくりと先へ進む。確か、ここからなら海岸はもうすぐそこのはずだった。

 記憶通り、ゆっくり進んでも3分ほどで視界が開け、周囲を大岩で囲まれた小さな砂浜が眼前に現れた。どうやら目的地に到着したようだ。

「やあ、着いた着いた。思ったより近かったね」
「うん」

 手を繋いだまま砂浜の真ん中まで進み出る。ここで見られる面白い物って何だろう?

「えっと……あの岩があれだとすると……」

 春原はきょろきょろと周囲を見回し、南側にある大きくオーバーハングしている岩に見当を付けた。丁度天空に昇りつつある月がその先端にかかっている。

「たぶん、こっち」

 春原に手を引かれるままに歩き出す。いくつかの岩に登ってその都度月の方を見上げて首を傾げ、また次の岩に向かう。
 何個目かの上が平らな岩に登ったところで、突然それは起こった。目の前の光景に僕たちは驚きの声を上げる。

「あっ!」
「えぇっ!?」

 突然、月が分裂したのだ。それも2つではない。なんと、月は上下に3つに分かれて空と海との境に存在していた。

「な、何あれ? 何で3つに見えるの?」
「あはは、本当に3つに見えた……」

 春原はうっとりとその光景を見つめている。僕は岩の上で背伸びをし、賢明に目を凝らしてその正体を探った。

「1つは空の月だろ……もう1つは鏡みたいに静まった海面に映った奴として……一番下の海の中で光ってるのは何なんだ?」
「ふふ、知りたい?」
「知ってるの?」
「うん」

 春原は前方の海面を指さしながら教えてくれた。

「あのオーバーハングの岩、先端がすぱっと切れたみたいに少し欠けてるでしょ」
「うん、そうだね」
「あれは昔、地震があった時に割れて海に落ちたらしいんだけど、あんまり綺麗に割れたものだから、表面が磨いた石みたいにつるつるになっているんだって」
「へぇ……」
「海に落ちた方も同じで、それが偶然上向きに底の砂に埋まったから、この時期のある時間帯だけ月明かりをその岩が反射するの。だから、海の上の月と、海面の月と、海の中の月。3つの月が、この時だけ見られるんだって……」
「なるほど……」

 ずっと見続けていると、月がだんだん高度を上げるにつれ、反対に海中の月の高さが低くなってくる。僕と春原はどちらが言い出す事もなく、申し合わせたように岩の縁に並んで腰掛けて3つの月を眺め続けた。

「……まるで、海の中に月を置き忘れたみたいだ」
「そうだね。あの辺りは、まるで月が昇る前の姿を海の中に捕まえている様に見えるでしょ? だから、『竜宮』って呼んでるんだって」
「時間の切り取られた場所って意味か」
「多分ね……」

 ゆっくり、ゆっくりと月が昇っていく。反射の角度が変わり、やがて3つ目の月は海の中にもう一つ水平線があるように残滓を輝かせながら沈んでいった。僕たちは、ただ黙ってそれをじっと見送った。
 ふわりと風か吹き、舞い上がった春原の髪が僕の耳を掠る。そっちの方を向くと思ったよりも春原との距離は近く、手で髪を押さえる彼女の姿が月明かりに照らされて神秘的に浮き上がった。

「……春原、髪伸びたね」
「あ、わかるんだ」
「最初に授業でバスケやったとき、丁髷みたいなポニーテールになってたからさ」
「あはははは、丁髷は酷いなぁ。今ならどうかな?」

 春原は髪を後頭部の上の方で纏めて掴んで見せた。ちょっと短めだけど、綺麗に垂れるショートポニーテールが形作られる。

「いいね。ちゃんとポニーテールになってるよ」
「こっちの方がいいかな?」
「いいんじゃない? 春原のイメージにも合ってると思うよ」
「そっか。ありがとう」

 「今はゴムが無いから」と春原が手を離すと、ぱさりと髪が解けて首筋にかかる。なぜか僕はその髪に触れ、撫でつけてあげたい衝動に駆られた。その思いを隠すため、慌てて視線を正面の海に戻す。

「……ね、達巳君」
「……ん?」

 海のさざ波に耳を傾けていると、春原が静かに僕の名前を呼んだ。僕もこの静寂を壊さないよう、静かに返事をする。

「大会の時、応援ありがとうね。おかげでみんな、最後まで頑張れた」
「……頑張ったのは春原達だろ。応援なんか無くたってさ」
「うん、みんな最後まで諦めなかったよ。でも、私は怪我しちゃったしね」

 春原は右足首に手を当て、少しさすった。大会が終わった後、彼女はガチガチに足首をテーピングして松葉杖を突いていたのだ。捻挫だったとの事だが、大したことが無くて良かった。

「あんだけ激しいスポーツだ。怪我ぐらいするさ。でも春原は最後まで気迫で戦い続けたじゃないか」
「大人しく引っ込んでいた方が良かったかな? 1年生に経験させる良いチャンスだったのにね」
「……そうやって諦めてたら、後悔しなかったか?」
「ううん。多分、今も悔しくて夜も眠れなかったよ。あんなに頑張ってきたのに、たかが足の一本くらいで何で引っ込んじゃったんだろ……って」
「……だろ? だから、あれで良かったんだ」
「……うん」

 春原の方をそっと覗き見る。彼女は同学年の女の子の中では身長も高く、そして体格もしっかりしている。だが、春原くらいの体格のバスケット選手は全国大会の中では並、トッププレイヤー達と比較してしまえばもう子供と大人の様なものだった。

 星漣にはスポーツ特待生の制度が無い。みんな、星漣で体育会で頑張っている生徒はきちんと難関の受験を突破し、そして部活も続けて文武両道を実践しているのだ。だが、それ故に他の特待生のいる学校に比べ有力な選手が集まり難く、また全校で300人強の人数ではどうしてもメンバーの数が揃わない。

 春原率いる星漣バスケットボール部も、マネージャー含めて全部で部員は11名、辛うじて紅白戦が出来るだけの人数であった。しかも、中学からの経験者はそのうちの4人だけである。春原が試合に出られなくなれば、後は星漣に入ってからバスケを始めた1、2年生しか交代要員が残っていなかったのだ。

 だから試合中、相手チームの大柄なプレイヤーともつれ合うようにゴール下で転倒し、起きあがって来れなかった春原が担架で退場した時には応援席から悲鳴が上がった。もうこれで勝つ見込みが無くなったと、みんながそう思った。

「正直に言っちゃおうかな」
「何をさ?」
「ほんとはね、自分でももう駄目だって思ったんだ、あの時」
「……」
「マネージャーに威勢良くガチガチに固めれば10分くらい軽い軽いって啖呵を切ったけどね。正直もう相手に体で当たれる自信は無かったし、速攻に着いてく足が残ってるかもわからなかったからさ。あ、これはもう、私の星漣バスケット生活は終わりなんだなって、思った」
「……でも、自分で歩いて戻ってきたじゃないか」
「あの時の照明がほんと眩しくてさ、もう汗だか涙だかわからない物がだらだら出てさ、何しに戻ってきたんだかわからなかったくらい」
「……そりゃ、脂汗だろ」
「はは、そうだったかも。でね、そんな風にもう半分諦めてたからさ、まだ点差がそんなに開いてなくて、みんなで必死に食らいついててさ、応援もすごい声でさ……そして、観客席でね……」
「……」

 すっと、僕の肩に重みがかかる。視線をやると、春原が僕の肩に頭を乗せていた。

「……達巳君が、先頭に立って応援してくれてたの……うれしかったよ」
「……僕はただ、まだ時間も有るから逆転のチャンスは有るって言っただけだ」
「嘘ばっかり、後でみんなに聞いたよ。『春原は絶対帰ってくる。そして必ず逆転する。今踏ん張ってそのチャンスを潰したら本当に勝てなくなるぞ』って、応援席から叫んでたって」
「あ、諦めたらそこで試合終了ですから……」
「ふふ……」

 静かに笑い、そして春原は僕の手に自分の手を重ねた。

「達巳君」
「ん、な、何?」
「応援、ありがとう。おかげで私……最後まで頑張れたよ」
「ん……」

 ぎゅっと春原が僕の手を握る。それに誘われるように春原の顔を見た。春原も僕の方を見上げ、じっと僕の目を見つめていた。2人の視線がしばらく静寂の中、絡み合う。

 すっと少女の目が閉じられた。少しだけ顎が上がる。それがどういう意味なのか、頭で考える必要は無かった。心が少女に引かれていくように、自然に重力に引かれるように僕の顔が近づいていく。

(あ……そうか……)

 僕の視界の中で春原の顔が大きくなっていく。月明かりの中で、形の良い鼻や柔らかそうな唇が存在感を増していく。

(……僕……春原とキスをするんだな……)

 それが自然なことの様に心の中で思う。僕はもう、思考を止めて全ての感覚を唇からの感触に委ねるため、目を閉じた。暗闇の中でも、手に伝わるしなやかさや、後数センチで接触する唇の位置が手に取るようにわかる。一瞬、ハルや七魅の面影が脳裏に浮かんだ気がしたが、それは止まった思考の向こうに流されて行く……。

 その時、ざばっと近くから水の跳ねる音がした。
 最初は魚でも跳ねたかと思ったが、続けざまにざばっざばっと大きくなる音に暗闇だった思考が回り始める。

「……何の音だ?」

 僕は目を開き、そちらの方に目をやる。春原もその気配を感じたのか、目を開けた。不可解な音に海面に目を凝らすと、ぶくぶくと泡立っている場所が有る。僕と春原は顔を見合わせた。

 ざばーっと水柱が立った。突然の事に、僕達は「わっ」と肩を抱き合って仰け反る。身を堅くしてそれから目線を外さずにいると、その水柱はごぼっごぼっと断続的にガスの混じったような音を出して何度も吹き上がった。

「……これ、硫黄の匂い……か?」
「そう、みたいだけど……」

 そういえば、三繰がこの島にはあちこちに温泉が湧いていると言っていた。ここもその1つで、一定時間毎に間欠泉のように温泉と硫黄を含んだガスが吹き出るのかもしれない。
 周囲を漂い始めた独特の臭いは僕らの鼻を直撃し、とてもじゃないけどここに留まっていられない

「行こう、春原。ここにいたら鼻が曲がりそうだ」
「う、うん……」

 何か未練が有るようだったが、僕が手を引くと春原は諦めたように岩から降り立った。そのまま2人で逃げるように立ち去る。

「何だありゃ、人騒がせな温泉だな」

 後ろを振り返りながら呟く。くそう、もう少しだったのに……。そう思いながら春原に目をやると、ちょうど目が合ってしまった。自然にその唇に目が行き、2人して顔を赤くする。

「……あ、えっと……」
「……」
「……お、遅くなったし、帰ろうか」
「……うん」

 コクリと頷いたので、僕はそのまま春原の手を握り直し懐中電灯を点けて歩き始めた。ちらりとさっきの続きをしたいという思いにも駆られたが、再びあの雰囲気を作り出すにはかなりのエネルギーを必要とするだろう。

(……上手くいかないもんだなぁ……)

 何か、キスをしようとすると邪魔が入る呪いにでもかかっているのだろうか。僕と春原は同時にため息をつき、顔を見合わせることになった。

「は、ははは……綺麗な月だったね」
「う、うん。綺麗だったね……ふふ、ふふふ」

 とってつけたような乾いた笑いであった。
 はぁ~……。

7.

 別荘までの道のりでは特に誰と会うことも無く、怪我もなく戻って来れた。懐中電灯を無くした事を入り口付近にいたメイドに謝ると、快く許してくれた。やれやれ、これで一安心だ。

 春原はハルや梓と一緒の3年生部屋に泊まっている。僕が部屋の前まで送ろうと言うと、春原は笑ってそれを断った。2人でいた事はあまり他人に知られたくないらしい。「何で」とちょっと不満げに聞くと、「初日の夕食みたいな事になりたくないでしょ」と答えが返ってきた。確かにあれはトラウマ物だが、どういう関係が?

 とにかく送らなくていいと言う春原と1階で別れ、しばらくテレビを見て時間を潰した後に僕も2階の自室へ向かう。結局今日は昨日より時間が遅いせいか、誰もテレビのある部屋には現れなかった。

 そして部屋でバタンとベッドに寝そべり、布団をかぶると途端に先ほどの事が脳裏に蘇ってきた。またもや、自然に顔がにやけ始める。

(そうかそうか、春原も僕の事が……)

 昨日のハルといい、今日の春原といい、これは一体どうした事か。

(もしかして、これが男の人生に1度は有るというモテ期って奴なのかっ!?)

 布団ごとベッドの上で転がり、簀巻きになる。そしてベッドサイドをドリフト気味でコーナリングしてその上を高速周回した。

(いやぁ、まいっちゃうなぁ。2人も同時になんてなぁ~。僕にどっちか選べっていうんですかぁ? 何て残酷な事を要求するんですか神様ぁ!)

 ハルも春原も可愛いし、スタイルは良いし、学校で人気もある。付き合ってて飽きることは無い性格だし、それに何より僕の事を好いてくれている!

 にへにへと緩みきった笑顔が止まらない。鏡を見たら自殺したくなるくらい気持ち悪い表情である事は間違い無い。

(おっ、待てよ?)

 ふと気が付いて体を起こす。ブラックデザイアの能力について、とても大切な事実が有る事を思い出した。

(確か、第4段階の能力の発動条件は……だったよな。つまり……だから……こうなって……)

 頭の中でパチリパチリとピースのはまる音がした。またも、僕の顔はにへりと崩れ始める。

(そうだそうだ。つまり能力を使えば同時に2人と付き合う事だって簡単な事じゃないか! やったね! 我が世の春が来たぁあああ!)

 またもや僕はゴロゴロとベッド上で高速回転を始める。いい加減音の速度を突破しそうな勢いになったところでとうとう僕はベッドの端からテイクオフし、若干の滞空時間の後に簀巻きロケットはゴチンと床面に壮大な離陸失敗音を轟かせた。それは床の上でビクンビクンと数秒間ヤバ目の痙攣を続けた後、ぱったりと完全に沈黙して動かなくなったのだった。

 明け方の事である。
 まだ陽の昇らぬ早朝に、達巳郁太の部屋を訪れる者達がいた。締め切られた扉をそうっと開け、外から中の様子を覗き込む。

(あ、あれ? 電気付いてるよ?)
(本でも読みながら寝ちゃったんじゃない? ベッドの上にいる?)
(ん~……ベッドには、いないね。寝てるみたいだけど)
(いないの? どこで寝てるって?)
(床)
(床で!?)
(……ねえ、寝てるならどこでもいいじゃないですか。誰か来たら怪しまれますよ)
(そうね。いったん中に入りましょ)

 部屋の主の意識が無い事を確認し、次々と進入してくる小柄な影が1、2、3……全部で5つ。ドアをゆっくり閉めると、床に転がった棒状の物体の周りを取り囲んだ。

(何、この簀巻き?)
(足が出てるよ。先輩でしょ)
(何で簀巻きになって床で寝てんのよ)
(私に聞かれても……)

 5人は頭を寄せ合ってこれは一体何の儀式だろうと首を捻る。だが、知恵を振り絞っても寝相の悪さでたまたま毛布が絡まって、たまたまそのままベッドから転げ落ち、たまたまそのまま転がって部屋の中央まで移動してきたという常識的な解答しか出てこなかった。

(ま、まあ、原因がどうあれ、やることには変わり無いんだしこのままでもいいんじゃない?)
(それはそうですね)
(じゃ、早速……)
(わ、きゃ! そんないきなり……!)

 影達はごそごそと簀巻きの足の出ている方で何かし始めた。簀巻きの足の間にあるものに気を捕らわれていたため、反対側がむにゃむにゃと動き始めたことに気が付いていなかった。

 夢の中で、僕は両手にハルと春原を抱いてオープンカーを乗り回していた。2人は僕の胸にしなだれかかり、ぽっと頬を染めて幸せそうな顔をしている。

「ご主人様、もうすぐ到着します」
「ああ、わかった」

 僕が鷹揚に頷いた相手は運転手の三繰だ。こいつは僕の情けで出かける時の車の運転をやらせている。

 すーっと静かに星漣学園の正門前に着いた。がちゃっとそこで待っていたメイド姿の七魅がドアを開ける。僕はそれに「ありがとう」と言って2人を抱いたまま降りると、彼女はぽっと顔を赤くした。

 正門前には僕の知る女の子達がみんな待っていた。「ごきげんよう、達巳君」と紫鶴は僕に真っ先に声をかけ、「おはようございます、達巳君」と宮子もうやうやしい礼をする。僕もそれに返事をし、そしてハル、春原に紫鶴と宮子もまとめて引き連れて歩き出す。その後には静かに僕の鞄を持った七魅がついてきた。

 「おはよう、達巳君」とクラスのみんなが挨拶をし、「おはようございます、先輩」と下級生のみんなが僕を追いかけてくる。それににこにこと返事をすればみんな顔を赤らめ、熱い視線を僕に送ってしずしずとついてくる。その中には当然あの生意気な早坂やおっぱいの大きな梓、大人しい静香や朝顔なども一緒に僕の側にいる。

「ふふふふ……あははははは……あっはっはっはっ!」

 学園の女の子みんなが僕に好意を持っている。みんな僕が笑顔を向ければぽっと顔を赤らめる。みんなみんな僕のマイハニーっ!
 周囲に飛び交う甘い吐息とハートマーク。ここは星漣学園、僕のユートピア!

 ずらりと揃った女の子達はいつの間にかウェディングドレスでしゃなりしゃなりと整列していた。

「達巳君、誓いの口づけを……」紫鶴が目を閉じ、僕に顔を寄せる。
「達巳君……」宮子も黙って目を瞑り、唇を差し出す。
「一生、私はイクちゃんのものだよ」ハルが潤んだ目で僕を見る。
「達巳君、ちゃんと守ってよ」春原は照れたように僕に抱きついた。

 みんながみんな、僕に誓いのキスをせがんでいる。待った待った、参ったなぁ、ちゃんと並んで並んで順番だから。みんなちゃんと僕のお嫁さんにしてあげるよ。

「……待ちなさい」

 その時、辺りに凛とした声が響く。全員の動きが止まり、そちらを向く。そこには、車のところに残してきたはずの三繰が立っていた。

「え? 何さ、今頃」
「それで、達巳君……あなたは誰を選ぶの?」
「は? だからみんな僕の……」
「そんな旨い話があるわけ無いでしょう!」

 三繰の一喝に辺りが騒然とし始めた。私が私がと叫びながら女の子が殺到し、僕を押し倒す。だ、だからみんな僕の恋人に……。

「妄想に浸るのもあなたの自由だから別にいいけど」

 いつの間にか運転手の制服を脱ぎ捨て、いつもの制服を来た三繰が僕の頭上に立っている。助けて、と女の子達の重圧に潰されそうにながらかすれた声を出すが、しかし三繰の視線は冷ややかなままだ。

「自分のケジメは、自分でつける事ね。自分の好きな娘ぐらい、自分でちゃんと選びなさい。そして……」

 三繰は指をパチンと鳴らして叫んだ。

「……そろそろ夢から覚めなさい!」

 はっと目を覚ますと、何故か僕は床に寝ていた。即座に後頭部から鈍い疼きが走ってうめき声を上げる。

「あ、やばっ! 先輩起きた!」
「逃げろーっ!」

 何か、僕の足下の方で蠢いていた者達が慌てて立ち上がって部屋の出口に殺到しようとする。

(な、なんだ……? あ痛っ!)

 頭を動かしてそちらを見ようとしたとき、後頭部のたんこぶに床が擦れて鋭い痛みが走った。思わず手をやってそこを押さえようとする。
 すると、その手に引っかかっていた掛け布団がぐいっと引っ張られ、それを踏んでいた一番手前の人物が足下を掬われ、さらにその前方の人影に向かってつんのめった。

「きゃぁ!?」「わぁ!」「なんとぉ!?」「ぐえっ!」「むぎゅっ!」

 ドミノ倒しの要領で5つの影は次々に倒れ込み、先頭の影はドアとその他の4人に挟まれて潰れた蛙のような声を出す。

「痛ててて……何だっての?」

 僕は後頭部をさすりながら手足に絡まった掛け布団をのけ、立ち上がった。そして床に伸びている5人に目をやった。

「朝顔に、文紀に、華恋、それにバスケ部の2人……なにやってんだお前等、こんな朝っぱらから」
「あ、あうう……せ、先輩、お早うございます……」

 一番手前にいたせいか最もダメージが少なかった朝顔が僕を見上げながらそう言う。その直後、見る見る朝顔の顔が赤くなり、「ひっく」としゃっくりの様な声を出した。その視線は僕の体の一部に釘付けになっている。朝顔の突然の変化に訝しがりながらその矢印の先を追っていくと……。

「ぬぉおお!? 何故にフリーダムスタイルっ!?」

 どういうことか、僕のズボンとパンツは足首まで下ろされ、その中のものが朝一の元気な主張を行っていた。

 その後、1、2年生達5人を床に正座させ、説教がてら尋問したところ、次の様な犯行動機と事件の流れを聞き出すことが出来た。

 昨日夕刻、5人が暇を持て余して僕の部屋に揃って遊びに来たところ、梓が僕の部屋の周辺でうろうろしているのを発見。最初、同じ様に暇つぶしに遊びに来たのかと思い梓も遊びに誘ったが、何故か5人を僕の部屋から引き離そうとする。(時間を考えると、この直前くらいに僕は七魅への書き換え内容の変更を行っている。)

 それを不信に思い、朝顔がさりげなく温泉の効能について誘導したところ、梓はあっさり引っかかって昨日……いや、一昨日になるのか……一昨日の、僕との事を喋ってしまったらしい。(梓さん……あなたまた来ていたんですか。そして2歳も年下の後輩の誘導尋問にあっさり引っかからないで下さい。)

 それを聞いた5人は頭を寄せて考え込んだ。もしかして、梓のあのナイスボディはその効果によるものでは!? なんとかしてあの身体を自分達も手に入れられないものか。
 そして、作戦を練り、今朝、誰も起き出さないような早朝に僕の部屋に無断潜入して例のものを強奪する計画を練ったのだという。

「君たちねぇ……そんな事で夜這い紛いの事するなんて、親御さんが聞いたら泣くぞ」
「夜這い……?」
「あ、いやいや知らないなら忘れていい単語だけど」

 旅の恥は掻き捨ての書き換えはしたけど、ここまでみんなが大胆になっていたとは。時間が経過すると段々たがの外れる程度が大きくなっていくのだろうか。

「それにさ、アレを僕から貰うっていうけど、どうするつもりだったの? 寝ている間に僕に何をするつもりだった?」
「そ、それくらいの事なら知ってますから! えっと、男の人の、アレを、そのですね……」

 那智は威勢良く犯行方法を説明しようとするが、すぐにしどろもどろになる。僕はニヤニヤしながらその先を促した。

「アレをどうするって?」
「その、さすったり、吸ったり……」

 「舐めたり?」「揉んだり?」「暖めたり?」と女の子達は口々に疑問符付きで言葉にするが、どうも聞いた感じだと自分達でもよくわかっていない様だな。やれやれ、危ないところだった。
 「絞ったり?」「ほじったり?」と段々猟奇的な方向に進み始めた議論にストップをかける。聞いてるだけで股間がキュンとなる様な想定はやめてくれ。

「わかった。君達がほとんど何も知らないって事がよくわかった」
「え、何か間違ってました?」
「合っているところを探す方が難しかったけど……とりあえず、僕に相談すること無しに凶行に及ぼうとしたところからして間違ってる」

 僕の指摘に5人はしゅんとした。何だ、罪の意識は有ったのか。

「なんで相談しなかったのさ」
「それは、その……」
「相談してくれれば、考えないことも無いのに」
「……え?」

 5人が目を見開く。てっきり断られるものだと思っていたのだろう。だから、その認識が間違ってるんだよなぁ。別にある程度条件を飲んでくれれば、女の子に精子を飲んで貰うなんてこっちとしては2つ返事で引き受けたい事なのにさ。

「い、いいんですか?」
「ああ。ただし僕の指示に従ってくれるならね」

 5人が顔を見合わせる。そして代表としてか那智がおずおずと手を挙げた。

「あ、あの、質問いいですか?」
「どうぞ」
「どんな事をさせるつもりですか?」
「別に痛がる事をするつもりはないよ。ただ、男が精子を出すためには女性からの刺激が有った方が都合がいいからね。ちょっと手伝って欲しいだけさ」
「……本当に、痛いことしませんか?」
「嫌ならすぐ止めればいいさ」

 女の子達はしばらく正座のまま顔を寄せてごにょごにょしていたが、やがて話がまとまったようだった。

「わかりました。それでお願いします」
「うん、じゃあ早速だけどね。君達、立ってパンツだけになって僕のいう様に整列して」

 いきなりの要求に「は?」という顔つきになる女の子達。

「『ミルク』をあげる前に、健康状態を確認しないとね。ほら、脱いで脱いで、そしたら並んで」

 僕の説明に納得したのか、女の子達は次々と着ている服を脱ぎ始めた。全員、色っぽいというより女の子っぽい可愛らしい下着だ。

「えっと、並び順はね……野乃宮は先頭で、文紀ちゃんはこっち。で、華恋は……朝顔の前かな。はい、気を付け!」

 僕は女の子達の腕を引っ張って5人を1列に整列させた。先頭からノノ、那智、華恋、朝顔、文紀の順だ。これはもちろん、バストサイズ順の並びである。号令をかけて背筋を伸ばせばその大きさの違いは一目瞭然である。
 5人はこの並びの意味がわからないのかきょとんとしているが、僕は横から彼女達の膨らみの移り変わりを確認し、満足げに頷いた。

 これで、今回の合宿に参加した娘達のバストサイズはほぼ把握した。春原は以前シャワー中に見たのが直接観察した最後だけど、水着姿を見たところそれほど変化が有ったようには見えなかった。だからノノ以上、ハル以下といったところか。

 つまり、不等号で表すと……

 梓>ハル>春原>ノノ>三繰>七魅>那智>>>華恋>朝顔>文紀

 ……となる。よし、整理できた。

「あの……先輩、この並び順に何か意味が?」

 那智は薄々この整列順の意味に気が付いたのか、少し咎めるような口振りで僕に顔を向ける。それに僕は真面目くさって答えた。

「もちろん有るよ。綺麗になるためには『ミルク』をみんなの胸から出さないといけないからね。その為にバストサイズを把握することは重要な事なのさ」
「そう……ですか」
「それはそうと、1年生3人はともかくとして君達2年生は十分綺麗な体つきだと思うけど?」

 「うひーん」と朝顔達が泣き顔になるが、「君達はまだ伸び盛りだから」とフォローしておく。那智とノノは顔を見合わせると、僕に真剣な顔つきを向けた。

「私達、もう少し身長が欲しいんです」
「せめてスノ先輩くらい、大きくなりたいです!」

 なるほどね。外国のモデルなんかはスラリと背が高いし、あんな感じになりたいのか。それに彼女達はバスケットボール選手だ。身長は高ければ高いほど良いに違いない。

「わかったよ。君達の真剣さはよく理解できた。僕も出来るだけ協力するから、君達も僕の言う通りに従ってね」
「はい!」

 良い返事だ。そんだけ真剣なら僕の方も張り切っちゃおうかな。

「よし、じゃあ早速だけどまずは僕のものに最初は慣れる事から始めようかな」

 僕はベッドに座ると女の子達を自分の膝の周囲に呼び寄せて膝を付かせた。ちょうど彼女達の顎の高さが僕の臍の辺りにくる。
 そうしておいて、僕はゆっくりとズボンの中から半立ちのものを取り出した。少女達が息を飲んだのが吐息の変化でわかる。

「どうかな?」
「え? あ、わ、えっと、さっきより小さいような……」

 朝顔が自信なさげに言う。

「よく見てるねぇ」
「え、わ、私……」

 顔を真っ赤にして朝顔は俯いてしまった。他の娘達もそれぞれ興味津々といった雰囲気で顔を赤らめている。ちょっと……いや、かなり恥ずかしいけど、がまんがまん。

「ちょっと誰か触ってみて。刺激を与えるとまた大っきくなってくるから」

 5人が顔を見合わせ、そして「じゃあ私」とノノが手を伸ばした。両手の指先で僕のものを捕まえ、グニグニと押し始める。ノノの手は体温が低いのかひやりとしていて、それが良い感じに気持ちがいい。

「あ、あれ!? だんだん張ってきたみたい」
「あ、大っきくなってきた!」

 ノノの手の刺激により僕のものはムクムクと頭をもたげ始めた。その様子に女の子達も熱い目線を送っている。顔を乗り出すようにしているためか、さっきより近くて熱い吐息が先端に感じられる。

 とうとう天井に向かって反り返った僕のそれを、ノノ達はぽぉっと見つめていた。なかなか良い反応だ。
 指示を出し、竿の部分を上下にしごかせる。時折ぴくんと動くその様にノノは目を丸くし、より一層熱心に指先を動かしていく。
 適当なところで交代させ、全員に僕のものに触らせる。一周する頃にはだいぶ手つきも慣れ、そして先端部からは少し透明な液が漏れ出すほどになっていた。

「……はい、そこまで」
「……ふぁ?」

 快感を押し殺しながらストップをかけると、竿をしごく事に熱中していた文紀が夢から覚めたかのような顔つきで視線を上げた。よっぽどこれが気に入ったようだ。

「じゃ、次だけどね。今度は僕が横になるから、みんなは下着を脱いで腰のところに跨ってくれるかな?」
「え、それは、あの……」
「大丈夫、ただの真似事だよ。みんなにもちょっとは気持ち良くなって欲しいからさ」

 指示をして僕がベッドに寝そべると、今度もノノからパンツを脱いで全裸になり、「いちば~ん」とベッドに上がった。

「こう、ですか?」
「そうそう、そこに乗っかって……」
「痛くないです?」
「気持ちいいよ」

 ノノは僕に跨ると、ものの上に腰を落としてお尻を付けた。彼女の微妙なところと僕のが接触し、お互いの熱を共有する。

「あ、これは……」
「前後に腰を使って動いてみて」
「は、はい」

 僕のお腹に手を付き、ノノが身体を前後に揺すり始めた。つるつると滑るような感触がやがてノノの分泌物によってぬるぬると粘り付くようなものに変わっていく。

「お、おぉ~?……こ、これは……」
「好きに動いて良いよ」
「り、了解であります……!」

 ノノの動きが激しくなってきた。とろけたように熱を持った襞がひくひくと動き、そして僕のものを挟み込むようにまとわりついている。割れ目の奥にあったクリトリスも大きく膨らみ、竿の裏の部分に擦れて刺激を送ってきていた。ノノの内部に僕のものは進入してはいないが、お互いに解け合ったような快感はそれに近いものが有るのではないかと思う。

「は……う……あっ……」

 ノノが身体を前に倒して僕の胸に覆い被さってきた。胸と胸が接触し、間で乳房がひしゃげて弾力を伝えてくる。ノノの背中がひくひくと震えていた。多分、達してしまってその余韻を味わっているのだろう。

「大丈夫?」
「はぅう……限界ですぅ……」
「しょうがないな……」

 ノノの回復を待って、次の那智に交代してもらった。
 那智はノノほど熱中するわけでは無かったが、自分で微妙に腰を動かしてこっちの反応を観察するようなそぶりを見せる。

「これ……どうですか?」
「ん、気持ちいいかも」

 そう素直に答えると、那智は口元に笑みを浮かべてそれを繰り返す。だんだん僕の方が余裕が無くなってきて、僕は仕方なく那智に交代を告げた。

(那智は気持ちよかったのかな?)

 そう思いながら見ていると、腰を上げて立とうとする彼女の内腿が細かく震えているのが見えた。どうやら表情には出さなかっただけで彼女も限界が近かったようだ。僕はそんな弱みを見せない那智が少し可愛く思えた。

 続いての華恋は那智と違って自由奔放という感じの動きだった。それで気持ち良いのかと思うくらい激しく動いたかと思うと、自分だけ息切れしてじっと止まってはぁはぁ言っている。だけど感度は良いようで、何度目かの動きの途中にきゅっと脚に力が入ったようになり、ぎりぎりと僕の胸に爪を立てられた。

「痛ててて……!」

 そのまま僕の胸に倒れ込み、ぜいぜいと肩を上下させる。やることなすこと極端な奴だ。今日はシャツを脱げないかも。苦笑しながらも、顎の下の金髪に手を伸ばすと丁寧に撫でてやった。

 その次に僕のところに来たのは文紀だった。一番胸の発育が遅いだけあって体つきも幼い。十分に他の娘のもので塗れた僕のものの上で動いても、なんだかくすぐったそうな表情をするばかりである。

(あんまり気持ちよくないのかな……?)

 ふと、初日に梓にサンオイルを塗ったときの事を思い出し、試しに文紀に前に倒れるように指示を出してそのお尻に手を伸ばした。

「ひゃ! あ!? あぁ……!」

 その部分の窄まりをくりくりと刺激してやると、文紀に劇的な変化が現れた。口を開きっぱなしにしてはぁはぁと熱い吐息を僕の胸に吐きかける。唾を飲むこともできないようでぽたぽたとそこから唾液が滴り落ちた。

(文紀はお尻が好きなのか)

 大して強くいじったわけでもなかったが、文紀はそのままくにゃくにゃと糸の切れた人形の様に力が抜けて自力で身体を起こすことも出来なくなってしまった。気持ち良過ぎて腰が抜けたようになっているのかも。

 文紀が動くことが出来ないのでそのままベッドを明け渡し、僕は床に降り立った。それを見て最後に残っていた朝顔が不安そうな顔をする。

「あの……私は……」
「うん。文紀ちゃんが起きられるようになるまでもう少しかかるから、椅子でやろうか」

 僕はこの部屋に1つだけある椅子に座り、朝顔の手を引いてやる。

「は、はい!」

 朝顔は顔を赤くし、少しためらう素振りを見せた後に僕の膝によじ登った。大きく脚を開き、僕に向かい合うように腰の上に跨る。ちょうど僕のものの先端が朝顔のお臍をつんと押し、その感触にまた少女は「あっ」と顔を赤らめた。

「ほら、僕の首にぶら下がるようにして腰を突き出せば、ちょうど当たる位置に来るでしょう?」
「こうですか?」
「そうそう。この体勢は動きづらいだろうから、僕が動かすね」
「え? あ、ひゃん……!」

 細い背中と小さなお尻に手を回し、僕のものに押しつけるように朝顔の腰を上下させる。今までみんなのを見てそこは既に十分興奮していたのか、溢れた粘液がお互いの間に潤滑油のようにまぶされ動きはとてもスムーズだ。ぐっと力を入れて持ち上げると先端がお尻の窄まりの辺りまで滑っていき、そこからゆっくり力を抜いていくと割れ目の襞と絡み合いながら竿が敏感な部分を擦り上げる。下に落とす時は多少怖いのか、首に回された手に力が籠もるのがわかった。

「朝顔、脚を僕の身体に回して」
「はいっ……!」

 少女の脚の力でさらに腰の密着度が増す。ぬるぬるとしていた感触がやがてとろとろの熱い肉に包まれる感触に変わり始め、音もぐちゃぐちゃと濡れそぼったものに変化する。お尻に回していた手を下にもっていくと、そこはお漏らしでもしたのかと思うくらい様々な液体がだだ漏れだった。

「はっあっあっうくっ!」

 断続的に朝顔の身体が痙攣し、僕の首にきゅうと抱きついてくる。これでは動かすのも難しく、僅かに腰を揺すって小さなクリトリスの辺りを擦ってやるだけだ。だが、それでも朝顔は「きゅぅ」と小鳥の鳴くような悲鳴と共に手と脚で僕にしがみついてきた。それだけでは足らないのか、更に僕の首筋にかぷっと軽く噛みつく。

(いたたたた……今日は本当にこんな事ばっかりだな)

 ぷるぷると小さく震えていた朝顔も、しばらくすると急に糸が切れたようにその手と脚から力が抜ける。

「おっと」

 後ろにそのまま倒れ込みそうになるのを慌てて支えてやった。呼吸は荒く「はぁはぁ」と開きっぱなしの口から熱い息が漏れている。

「せ、先輩……」
「大丈夫、朝顔?」
「はい……私……途中からふわふわして何が何だかわからなくなって……」
「うん、可愛かったよ」

 僕がそう言って笑いかけると、朝顔の顔がぽーっと赤くなる。

「先輩……嬉しいです」
「うん。立てる?」
「……大丈夫、みたいです」

 多少ふらふらしていたが、支えてやると朝顔は自分の足で立つことが出来た。丁度文紀もベッドから起き出して来たので、全員が揃う。既に後数回刺激を与えれば僕の意志に関わらず暴発しそうなものを手で押さえ、全員を僕の前で膝立ちにさせた。

「おかげでようやく出そうだよ」
「え、で、出るんですか、精子?」
「うん、後少し。最後にみんなのベロを貸してくれる? あとちょっとなんだ」

 僕がそう言うと少女達はもう質問することなく黙って顔を僕の股間に寄せ、一斉に口を大きく開けた。そして懸命に僕のものの方へと舌を伸ばす。

 僕は自分の手でものをしごきながら先端を少女達の舌に擦り付けて先走りをぬらぬらと塗っていった。それをちょっとでも多く掬い取ろうというのか、舌が僕のものをねぶる様にゆらゆら動く。口を開けっ放しのせいで涎が口元から床に垂れ、熱い吐息が先端に吹き付けられた。

「うんっ……出すよ、みんなっ!」
「はい……!」

 少女達がこくんと頷くと同時に先端から白く熱い奔流が噴き上がった。僕は雛鳥のように上向きで口を開けた少女達に放尿するように竿の向きを変え、その中に白濁液を流し込んでいく。それぞれの口にびゅぅーっびゅぅう!と口の中が白い液体で一杯になるまで放出し、すぐに隣の娘に矛先を変える。そしてその娘が粘度の高い精子を懸命に嚥下するのを横目に、また放出していく。

 それはある意味、少女達を便器に見立てた排泄行為だった。身体の中に溜まりに溜まった欲望を少女達の口にひたすら流し込む。5人もの少女を物扱いする事に軽く陶酔を覚えた。

 僕の射精は全員に行き渡らせて十分な量があった。最後に朝顔の舌の上にしごきだした残滓をどろりと振り落とし、僕は全員に向かって「はい、終わり」と宣言する。少女達は自分の指で口元を拭いながら多少戸惑った様子で立ち上がった。那智が自分の胸をさするようにしながら僕へ顔を向ける。

「あの、この後……」
「ん。ああ、おっぱいね。大丈夫、もう出るようになってるから」

 いつも通りの気だるさに僕はベッドに座り込みながら言った。

「みんなおいで。順番に飲んであげる」

 僕の左右にぴったりくっついて1人ずつ座らせ、膝の間にはもう1人こちら向きで中腰で立たせて胸を僕の顔の高さに。そして残る2人はベッドに上らせて膝立ちで肩越しに胸を配置させる。
 そして僕は頭を回してそれぞれの乳首をついばむように唇で摘んでいった。十分に魔力の変換がなされていた様で、ちょっと吸い込むと少女達の吐息と共にぴゅっと甘い味が口の中に広がる。

 文紀の様な娘でもちゃんと出るか心配だったが、最初に小さな乳首をあむあむと唇で刺激してやるとそこが徐々に固くなり、やがてとろとろと白い液体が漏れ出始めた。

「ああっ……せんぱい……」

 朝顔が感極まったように僕を呼んで僕に抱きつく。他の娘もまるで泣いているように眉を寄せてしなだれかかってくる。僕は5人のおっぱいに顔を挟まれながら、そこから漂ってくる甘い匂いを胸一杯に吸い込んだ。そして、衝動のままに少女達の未成熟な胸から出来立ての母乳を吸い続けたのだった。

8.

 5人の下級生達にシャワーを浴びさせてから帰した後、僕は身体の中心部に残る熱さの存在に戸惑いながらベッドに腰掛けていた。
 それは最初、興奮の余波のようなものかと思っていたが、徐々に大きくなり始め、ただ座っているだけでも汗をかき始める。

(な、なんだこれ……?)

 あまりの暑さにシャツを脱ぎ捨てる頃、僕の股間でも異変が起こり始めた。特に何の刺激も与えてないのにムクムクと勝手に大きくなり始めたのだ。しかも、完全に大きくなった後もビクビクと震えて今にも暴発しそうな勢いだ。
 股間のものだけでなく熱はどんどん身体全体を浸食していき、熱病にかかったように思考と視界に霞がかかり始める。やばい、と思い始めた頃にはまっすぐ立ち上がることも出来なくなっていた。

(これは……まさか、これが幎の言っていた大量に魔力を吸収したことによる副作用か!?)

 吸収しきれなかった魔力が行き場所を失って身体の中で暴走しているのだとしたら、この症状にも納得がいく。股間のものが大きくなっているのは精液に擬態した分が外に出たがっているのか。

 このままではまずい。そろそろみんなが起き出して朝食の時間になるし、そうしたら誰かが呼びに来るはず。そうなる前になんとかしないと、この惨状を目撃されてしまう。

 僕はベッドサイドのティッシュに手を伸ばし、何とか自己処理しようとした。手でものを掴み、急いで上下に擦って刺激を与える。
 しかし、快感はあるのに腰の辺りに溜まったマグマの様な熱は一向に放出される気配が無い。遮二無二動かしてみても手が疲れるだけだった。

(これ、ただの精力強壮状態じゃなくて、女の子に魔力を与える時のスタンバイ状態なんじゃないか!?)

 だとしたら、これは自慰ではどうしようも無くて女の子に吸い出してもらう必要が有るって事になる。僕はその思いつきに狼狽した。今から誰か呼んで性欲の処理を頼めって言うのか?

 その時、恐れていた事が起こった。僕の部屋の扉を誰かがノックしたのだ。

「イクちゃーん。起きてるー? ごーはーんーだーよ~!」

 ハルか! どうしよう、ハルを中に入れて先ほどの思いつきを実行するべきだろうか?
 いや、それはまずい。ハルが呼びに来たという事はもうみんな食堂に揃っている可能性が高い。ここでハルを引っ張り込む理由が無いと、誰かがまた様子を見に来るかもしれない。そうなって事の現場を見られたらそっちの方がまずいだろう。
 僕は一瞬でそう判断し、とりあえずハルを扉の前から追い払うことにした。

「あ、ああ、ハル? ごめん、ちょっとお腹を冷やしたみたいでさ。腹が痛いから朝食はパス」
「え、大丈夫、イクちゃん? 布団掛けないで寝たの?」
「どうも寝相が悪くてさ。布団が床に落ちてたよ……」
「わかった。みんなに伝えとくね」

 そう言うと、ハルはあっさり引き下がった様で声がしなくなった。よし、まずは切り抜けた。
 続いてはこいつの処理だ。僕は動かぬ体を駆使してベッドサイドから携帯を取り、家に電話した。助けて幎先生!

 しかし、幎からの返答も芳しいものでは無かった。僕の推測通り吸収しきれない魔力が出口を求めて暴走しているのだとしたら、血を抜くか精液として放出するかして他の人間に譲り渡さなければならないと言うのだ。

『郁太様は魔力をコントロールする術(すべ)をお持ちでないので、私から提供した魔力の疑似器官の許容量を越える量の魔力を適切にブラックデザイアに伝えることが出来ないのです』
「それで、何で僕のがこんなになっちゃうのさ」
『伝えきれず、逆流した魔力は郁太様にとっては活力の塊です。魔力の心臓は体内の魔力を血液や精液に宿らせて循環させますので、過剰な魔力がそれらに大量に変換されているのだと思われます』
「ど、どうすればいいの?」
『他の者に魔力を譲渡して下さい。1人2人からの回収ならば十分吸収が間に合うでしょうが、あまり多くの人間から同時に回収する時は、それに見合う量の魔力を放出しないと今回の様に魔力過剰な状態になるのだと思われます』

 結局、これを誰かに処理させないといけないのかよ!
 腹立ち紛れに電話を切ったとき、ちょうど扉がノックされた。

「イクちゃ~ん、大丈夫? お薬貰ってきたよ~」
「わっ、ハル!?」
「入るよ~?」

 制止する暇も無かった。ガチャッと扉を開けて入ってきたハルは、ベッドの上にいる僕を見つけて目を丸くする。

「わ! きゃ! イクちゃんなんて格好!?」
「え? あ、やば……」

 その時の僕は暑さに上半身裸、下もさっき自分で処理しようとしていたからトランクス一丁で、しかも魔力の影響でそこはビンビンにテントを張っていた。慌てて、掛け布団を腰にかける。

「く、薬はそこら辺に置いといてくれればいいから!」
「……」

 ハルは顔を赤くしたままぼぉっと僕の方を見つめている。あれ? 何か様子がおかしいぞ?
 突然、納得がいったという風に頷いたハルは笑顔を浮かべた。

「なぁんだ、イクちゃん。そういう事?」
「は?」
「どうしてちゃんと言ってくれないかな?」

 ハルはそう言って、笑顔のまま僕の方に近寄ってくる。え? 何? 何するつもり?

「く、薬はいいから」
「だめだよ。だって、これは『幼なじみ』の私の仕事でしょ?」
「え?」

 ハルは自分もベッドに手をついて上りながら言う。状況の飲み込めない僕に4つん這いで近づいてくる。

「『男の子の性欲処理は、幼なじみの役目』でしょ?」
「!?」

 ハルは笑顔でそう言うと、僕の腰から掛け布団をばさっと外した。そして「わぁ……」と頬を染めながらトランクスを押し上げる僕の股間をまじまじと見つめる。

「もうこんなになってるじゃない」
「どうして、ハル……その言葉は……」
「遠慮しなくていいよ。私とイクちゃんの仲じゃない」

 ハルは手を伸ばして僕のトランクスをずり下ろす。熱のせいで体が動かない僕は、大して抵抗もできずにハルにパンツを取られてしまった。

「ふふ♪ 今楽にしてあげるからね」

 ちょんと指先で先端をつつき、愛おしそうに僕のものを掴むハル。躊躇いもせずに口を開けると、それを口に含んだ。

「ん……む……」
「うっ……ハル……!」

 舌を回すように動かして僕のものをねぶり、吸い込み、そして時折口を外して竿全体に唇でキスの雨を降らす。指先はその時もリズミカルに僕のものの表面を上下し、内から僕の欲望を引き出そうとする。

「ぐっ……うぅ……」
「我慢しないで。好きに出していいからね……」

 微笑みながら僕に話しかけるハル。その時、僕の中でカチン、とスイッチが切り替わった様な衝撃が走った。先ほどまで出そうとしても一向に動きのなかった熱の固まりが、まるで決壊するように腰の辺りで動き始めたのだ。体中の熱もそれに引かれるように集中し、急速に手足の自由が戻ってくる。

「あっ! は、ハルっ!」
「んぐっ!?」

 思考と身体の束縛が剥がれたとたん、すべての欲望が獣欲に塗り変わっていった。衝動のままにハルの頭を両手で鷲掴みにし、遮二無二腰を振り立てる。「んっんぅっんんっ!」と喉を突かれて苦しそうなうめき声を上げるハルの声を耳にしながら、それすらも激しい支配感に変換され、ものの強ばりの一部に変換されていく。

「ぐっ……うぁああっ!」

 腰から吹き上がる熱い濁流を感じ、僕はハルの頭を目一杯腰に押さえつけた。喉の奥までズルリと先端部が飲み込まれるのを感じ、陶酔感と共にそこから白濁を放出した。5人に均等に渡されるはずだった大量の精液だ。それがまるで放尿の様に少女の喉の奥に直接流し込まれていく。

「お、お、お……おぉ……」

 ずうっと我慢していたトイレにようやくたどり着いたような感覚だった。快感を伴った放出感に腰がぶるぶると震える。

「ん~っ! んぐ~っ! んん~~っ!!」

 どんどんとお腹の部分が叩かれているが、僕はその衝撃でものが僅かでも快感のぬめりから外れる事を嫌い、力一杯に手で抱えた物体を腰に押し付ける。「んぐっ」とくぐもった音と共に先端部にヒクヒクと細かい粘膜の振動が伝わってきた。

 1分以上もそうしていただろうか。びゅぅびゅぅと出続けていた射精もようやく収まり、僕はもう一度放尿したときのように腰をぶるっと震わせた。そしてゆっくりとハルの頭を下げ、ものを抜き取っていく。

 ずるりとものが口から抜けた瞬間、口からごぽっと大量の白濁がこぼれ、同時にハルが激しくせき込んだ。

「げぅっ、ごほっ! げほっ! はぁ……はぁ……ごほっ!」
「……あ、ハル……?」
「はぁ……はぁ……も、もぅ……酷いよ、イク……ちゃん……私、死んじゃうかと思った……」

 ハルの顔は窒息のせいか真っ赤になっていて、涙と涎と精液でぐちゃぐちゃになっていた。震える手でベッドサイドからティッシュを取ってブーンと鼻をかむ。どうやらそこまで白濁が詰まっていたようだ。

「あ……ご、ごめん……」
「はぁ……ふぅ……まあ、幼なじみの役目だからいいけど。だけど、次からはもう少し優しくして欲しいな」
「う、うん……」

 自分でも何でこんな酷い事をハルにしてしまったのかわからない。体の中の熱が噴き上がったとき、まるで突き動かされるようにハルの頭を掴んでいた。あれが、僕の本性なのか……?

 もう一度、ごめんと言いながら手を伸ばしかけたとき、何気なくハルの言った言葉にその手を止めた。

「あ、でもこれで私もおっぱい出るようになったのかな」
「!」

 やばい! 僕はベッド上をずり下がってハルとの距離を取った。このままハルに触ったら、また魔力のミルクを飲まなくてはならない。そうなったら無限ループじゃないか!

 どうしよう? この魔力変換には時間制限でも有るのだろうか? しばらく離れて触らないようにしていればOK? だが、何かの拍子で触れてしまう可能性もある。

 それにさっきのハルの言動。「性欲処理は幼なじみの役目」? 僕が以前ハルに行った書き換えそのまんまの言葉だ。これは一体どう言うことだ?

 思考が急速に回転する。一瞬の後、僕はその2つの問題を一遍に解決する手段に思い立った。身を翻してベッドから降り立ち、トランクスを上げつつ自分の荷物に向かう。

「イクちゃん?」

 僕はハルの言葉を無視してバッグから黒い本を取りだした。よし、これで準備OKだ。振り返りざまにハルに叩きつけるように言葉を発した。

「――受容せよ」

 ビクン、とハルの体が震え、そしてその視線が虚ろにさまよい始める。焦点が合わず、どろりと濁ったような光のない瞳。
 僕はハルの変化を確認し、そして文句の先を続けた。

「――黒き欲望の書の使用者、達巳郁太の名において汝を我が従者とする……汝、自らの名を告げよ」

 茫洋とした表情のまま、ハルは唄う様に口ずさむ。

「……源川……春……」
「汝を我が従者とする」

 僕は書物の表面に浮かんだ紋章を手に取り、それをハルの額に転写した。しばらく瞬くようにそこで輝きを放ったそれは、やがてその奥へと吸収されていった。すうっとハルの目に光が戻ってくる。すかさず僕はハルに告げた。

「ハル、『幼なじみ』の僕の心配ありがとう。おかげですっかり良くなった。ただ、もう少し横になりたいから、『幼なじみ』として心配してくれるならちょっと一人にしてくれないか?」
「……え? あ、そうだね。安静にした方がいいもんね」

 そう言うと、ハルは少し首を傾げながら「お大事に」と部屋を出ていった。それを手を振って見送った後、扉が閉じると同時にブラックデザイアをばっと開く。
 そこには、3人目の契約者としてハルの詳細情報ページができていた。ドミナンス……34。いや、これは今はどうでもいい。僕はその先を目で追っていく。

「……あった。恒常発動(リタルデーション)継続中……」

 僕は自分の予想通りの内容に愕然とした。

 ブラックデザイア、第4段階の能力:恒常発動(リタルデーション)。
 これは、術者に対して強い好意や執着心を持つ者に対して自動的に発動し、インサーション・キーを2つまで常に保持するようになる能力だ。更に、その2つと併せて効果範囲内なら(つまり僕が側にいれば)、3つまでキーを併用してコントロールが出来るようになる。

 現在、ハルに保持されているキーは「幼なじみ」と「味方」……。つまり、プール大作戦以降、ハルはリタルデーションでずっと僕の支配下にあったって事だ。
 この能力は対象の術者への想いを利用する能力だから、支配下にあっても魔力の糸は見えないし、魔力の消費も起こらない。だから、今まで気が付かなかったのだ。ハルが、今まで自動的にコントロールされているなんて、気が付いていなかったのだ!

「は……はは、ははは……何だ、そういう事だったんだ……」

 おかしいと思うべきだった。7月生徒総会でのハルの献身的とも言える活動。ずっと僕に味方だと叫んで奔走した1週間。あれは、ただ僕の指示通り「味方」であろうとしただけの行動だったのだ。ハルの本当の意志に関わらず!

 そうだよ。そうに決まっているじゃないか。一昨日のお風呂場での時だって、「幼なじみ」か「味方」の効果が効いていたせいで今までの恥ずかしい行為を思い出していた筈だ。だったら、そりゃドキドキするさ。恥ずかしさでね!

 そうか、春原だってそうかもしれない。僕は春原のシャワーを間近に見たし、おそらくファーストキスもジュースの口移しで奪っている。その時の事は覚えていないかもしれないけど、何か恥ずかしい思いをしたという印象が残った可能性はある。
 僕に会う度、春原はドキドキした筈だ。見に覚えのない恥ずかしさでね。その心臓の高鳴りを、吊り橋効果で恋心と勘違いしたっておかしくない。

 今回の旅行にしたって、梓も朝顔も僕に親しげに接し始めたのは僕が彼女達に悪戯をしてからだ。2人が春原と同じ要領で勘違いしている可能性は高い。僕の悪戯によって覚えた恥ずかしさを、恋心による気恥ずかしさと思い違いをしているんだ!

「くっ……くっくっくっく!」

 ベッドに倒れ込み、布団に向かって押し殺した笑い声をあげる。

 何がモテ期だ。何がハーレムだ。何がユートピアだ。

 彼女達は自分が偽の恋心を抱かされていることに気が付いていない。何でこんなさえない僕なんかの事を考えると気持ちが落ち着かないか、その理由に思い当たることなんて決して無い。それがブラックデザイアの能力だからだ。
 そもそも、僕が星漣学園にいて彼女達と知り合えたのも、本の魔力のお陰だ。僕が失敗して能力が解除されれば、僕が、達巳郁太という転校生がいた事すらすっかり忘れてしまって一生思い出すことも無いのだろう。

 そんな僕が、ハルと付き合う? 春原と? 2人からどちらか選ぶ? 能力を使って同時に?

 死ね、クソ野郎っ!

 僕に出来るのは、せいぜい彼女たちの清純を汚し、そこにウジ虫のように張り付いて魔力を回収する事だけだ。彼女たちと同じ時間を、同じ場所で、同じ思いを抱いて生きていけるなんて、考え違いも烏滸がましい。

 おかしさにベッドの上を転げ回る。おかしすぎて目から涙まで出てきた。

 いいさ。僕がウジ虫なのは生まれ落ちたときから決まっていた。だったら虫らしく、せめて羽を持って飛び立てる日まで汚濁の中を這いずって行こうじゃないか。

 彼女達が勘違いして僕の事を好いてくれるというならそれも存分に利用してやる。リタルデーションは魔力を使わない恒久支配能力だ。学園を日常的に支配するのにそういった手駒を増やすのは非常に有効である。そのために、どんどん、どんどんみんなを辱めてやる!

 僕の笑いはいつしか自分自身への嗤いとなり、布団に押しつけられた口元からは甲高い悲鳴のような声が漏れている。

 胸の奥から溢れてくる感情をどうすることも出来ず、僕はただ、ひぃひぃとわらい続けた。
 何時までも、わらい続けた。

< 続く >

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