BLACK DESIRE #23-1

0.

 体育祭開催日の朝は、見事な秋晴れとなった。高く澄み渡った空と特徴的なうろこ雲の下、早朝から選抜メンバーを集めて会場設営を実施する。

「このぶんなら、予定通り外で開会式出来そうですね」
「うん。体育館でやるとプールまで遠いし、時間が押しちゃうからありがたいよ」

 手伝いのクラス委員とそういった軽い会話をしつつ、昨日のうちに用意しておいた物件を所定場所に置いていく。

 今日の予定はさっきの会話にもあった通り、まずは朝イチで開会式、その後は屋内プールで競泳・水上競技の部だ。グラウンドで競技をするわけではないから、役員用のテントも1つだけでいい。僕たちはせーのっで「役員席」と描かれた白いテントを持ち上げて脚をスライドして伸ばした。すぐに他の娘達が長テーブルや椅子、放送機材を運び込んでいく。

「いっくよーっ!」
「せーのっ!」
「うわっ、重ーっ!」

 あっちの方では開会宣言などに使う号令台を8人がかりで移動していた。大体真ん中の位置に置いたところで、ずりずりずりと土を削りながら微調整する。

「じゃあ、僕は号令台の方の準備を手伝ってくるよ」
「はい。わかりました」

 先ほどのクラス委員にそう言い、僕は放送機材の入った鞄を手に号令台の方に向かった。作業を行っていた1人に手伝いを頼み、台の中央に立って貰ってマイクスタンドや照明、カメラの位置決めをする。

「んっん~、ちゃんと映るかなぁ?」

 僕は4台ものカメラ位置を微調整しつつ、首を捻った。開会式は1回しかないから、ここは失敗できない。念のため、リハーサルをやっておこう。

「『オリュンピア』方式で上手くいくか試したいから、ちょっと脱いでくれる?」

 僕がそんなとんでもない事を言い出したのに、その娘は真面目な顔で頷くと制服のファスナーに手をやった。そして、躊躇いもなくそれを脱ぎ捨てて下着姿になる。

「これでいいですか?」
「うん、ありがとう」

 僕はニヤリと笑みを浮かべ、カメラが彼女の身体の適切な部位を撮影できるように調節したのだった。

『選手、入場』

 午前8時30分。ウグイス嬢に抜擢した放送委員会・委員長水原菊子(みなばるきっこ)の甘やかな放送と共に、グラウンドの四隅から赤・青・黄・白の縦割り組で生徒達が行進を開始した。
 入場BGMに合わせ、整然と練習通りマーキング位置で90度ずつ曲がり、列を乱すことなくそれぞれの組の整列位置へと進んでいく。各色の組の先頭ではチームフラッグを掲げた生徒が先導し、それが秋風に緩やかにはためいている。昨年度優勝の黄組はさらにその前に優勝杯と優勝旗を持った生徒が並んでいた。

 僕は役員テントの自分の席でその様子をぐるりと見渡し、そして満足げに笑いを浮かべてパイプ椅子から立ち上がった。もったいなくて座ったまま眺めるなんて出来なかったのだ。
 勇壮で粛然とした星漣学園の体育祭、選手入場の光景。それは、彼女たちが例年通りお揃いの星漣学園指定体操服を着ていたならばまったく問題なかっただろう。だが、今の彼女たちはその肝心要の体操服を着ていなかった。下着姿だったのだ。運動靴に靴下、額にそれぞれのカラーの鉢巻き、それだけ。後は色とりどりのパンツとブラを剥き出しに、お臍や背中が隠すもの無く露わになっている。

 だけど、行進を続ける彼女たちは至って真面目だ。下着姿を晒していることに恥ずかしさを覚えて顔を赤くしてはいるけど、隠したりせず真っ直ぐ前を向き、しっかり手を振ってざっざっざっと歩き続ける。それも当然だろう。何故なら、『体育競技は古代オリュンピアの祭典の理念に基づき、健全な肉体を隠すもの無く晒して行うのは当たり前』であるからだ。だから、衣服を脱いで選手入場をするのも当然って事さ。まあ、本当の古代の競技では女子は参加禁止だったんだけど、そこは都合良く目を瞑って貰った。

 選手達の入場が終了し、それぞれのチームの旗が台に立てられた。全く勝手なお喋りもなく、綺麗に気を付けをして整列している、下着、下着、下着、また下着の約300名の女の子達。僕はカメラ係の生徒から送られてくる録画映像を自分の席のノートパソコンでチェックしつつ、隣のアナウンス席に着いた放送委員長に頷いた。それに従い、菊子は手元の進行表を確認してから息を吸ってマイクに向かう。

『開会宣言。生徒会長、3年柊組、安芸島宮子さん』

 その呼び出しに従い、テントの脇に待機していた宮子が号令台の上に進み出た。しかし、すぐにはそこのマイクに向かわず、次のアナウンスを待つ。僕はその間にノートPCの画面に、号令台の上に設置した4台のカメラからの4分割録画映像がきちんとリアルタイムで動いている事を確認しておく。菊子の方は、表に書いてある通りに何の疑いも無くそれをアナウンスした。

『以後、開会式においては古代オリュンピアの祭典に則り、衣類を全て脱いで行います。選手一同、脱衣をお願いします』

 その言葉を合図に、整列した全員がパチンパチンとブラのホックを外してぽろりと胸をはだけた。当然、ニプレスもしてないからその先端部まで何も隠すものも無く突起が見えてしまっている。更に外したブラを片手に持ったまま身を屈め、するするとパンツまで下ろしてしまった。靴を脱いで完全に足から抜き、ブラと同じ手にそれを握って再び気を付けの姿勢に戻る。
 さすがにみんな恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。だが、『肉体を晒すのは当たり前』だから隠したりしない。薄かったり濃かったり、あるいは全く生えていない股間の様子が前から余すところ無く眺める事が出来る。

 宮子の方もその間に衣類を全て脱いでいた。号令台の上で制服のファスナーを下ろし、肩をはだけてそれをストンと落とすと下着姿で足を抜いて拾い、丁寧に畳んでその場に置く。そして、他の選手達と同じくブラもパンツも脱いで靴と靴下だけの全裸になった。。
 僕の設置した4台のカメラはその間フル稼働して、生徒会長の台上でのストリップを余すところ無く記録する。テント横に設置した特大モニターに中継もしてるから、後ろの方からも宮子のおっぱいの頂点がぷるんぷるん振動してたり、股間の茂みがさわさわと風に揺れているのがばっちり見えているはず。

 宮子は自分の下着を右手に握って気を付けをし、一度整列した生徒達の様子を見渡した。全員が脱ぎ終えて手に下着を持っている事を確認し、僅かに頷くと一歩前に出てマイクの前に立つ。そこに設置したカメラからの映像が、宮子の恥毛で画面一杯に覆われる。握った右手を胸の前に掲げ、高らかに宣言した。

『これより、今年度の星漣女学園、体育祭を開会します』

 そして、言い切ると同時に手に持ったものを空に向かって高く放り投げた。その場に並んでいる選手達も全員が同じタイミングで上空に投げ上げる。

 空に舞う乙女300名の下着たち。様々な色、サイズ、装飾のパンツとブラジャーが放り投げられ、風に乗って羽ばたくように緩やかに流れていく。その様子を僕は、隠す事無く歓喜の表情で見つめ続けた。

 ……こうして、僕が3週間もかけて苦労の末に準備完了した「お祭り」が、遂に開始したのだった!

BLACK DESIRE

#23 「A CLOCKWORK GIRL 6」

1.

 生徒会長の「開会宣言」の次は、「選手宣誓」だ。ここは昨年度優勝の黄組の代表として早坂が宮子に代わって台上に上がる。もちろん、彼女も素っ裸だからぷるぷるしてるおっぱいや茂みが薄くて割れ目がはっきり見えている股間の様子もばっちり撮影されてしまう。

『宣誓。私達、生徒一同は、古代オリュンピアの競技精神に則り、一致団結、正々堂々、余すことなく裸体を晒し、全身全霊恥ずかしい姿で男子生徒を楽しませ、放尿行為や自慰行為等、全力で行ってその性欲解消に貢献しながら射精に導き、競技に臨むことを誓います。10月11日、選手代表、3年柚組、早坂英悧』

 ……なんか通常の宣誓より余計な内容が多かったかもしれないけど、そこは気にしない方向で。

 早坂の出番の後はまた宮子が出てきて「優勝旗、優勝杯返還」の後、いよいよ僕の出番だ。予めテント横でスタンバっておき、『体育祭運営委員長からの注意事項』のアナウンスで台上に登る。ちなみに僕は委員長権限で制服は着たままね。まあ、忙しくて競技参加はほぼ無理という事で「選手」じゃぁないからね。

『今体育祭に於いて、特に日常と大きく変更される点を説明します。なお、詳細については体育祭実施要項の【5.体育祭期間中の注意事項】を参照して下さい』

 予めそう予告しておき、僕は宮子と登校したあの日以降に要項に追加された事柄を「言葉」に乗せて知らしめていく。

『体育祭期間中トイレに行きたくなったら、小であれば指定された屋外小便所を使用して下さい。その際、運営委員に申し出て委員長の付き添いを受けるか、カメラを貸し出してもらって複数人で交互に撮影しながら行って下さい。撮影に使う貸出用カメラは役員本部テントに有ります』

 使える野外放尿マップは3年椿組の有志と実際に実地で試してみて作成した。それらの場所で特に多数の人間が利用して差し支えない場所を「屋外小便所」として要項内で指定してある。このグラウンドの側でも、用水路の蓋を解放してそこを指定小便所にしてあった。

『また、同じくこの期間中はオリュンピア理念に則り服装が大幅に緩和されます。配布されるソフトボールMVPミサンガ、金メダル、式典においてはチームカラー鉢巻等を着用していれば衣服を着る必要はありません』

 今の僕の台詞にあった物件は夢魔の能力で創った魔法の物品だ。校内巡回の時の首輪セットと同じく着用者の身体を守ったりしてくれる効果がある。これでずっと裸でいても、風邪を引いたり転んで怪我をする確率はぐっと減った訳だ。
 ちなみに役員は同じ効果を持つ「役員チョーカー」を付ける事になっている。さっきの宮子も、実は事前に僕が着けてあげたんだよね。
 僕の定めた面白エッチな注意事項説明はまだ続く。

『競技中、上位の結果を出した選手にはランダムで薬物検査を依頼する場合があります。その際は役員の指示に従って下さい。ご協力お願いします』

 学校程度の体育競技で薬物検査?と思うかもしれない。僕もそう思う。だけど、これは検査にかこつけた身体チェックの言い訳なんで気にしないで欲しい。用意した薬物検査セットには撮影機材や例の肛門鏡なども入っているから、色々楽しい悪戯が出来るんだ。いやー、上位入賞者はご愁傷様だねぇ。
 さて、長かった注意事項もそろそろ最後の内容だ。これは僕自身も関わる事だから良く理解しておいて貰わないと。

『最後に、ボーナスポイントについての注意です。選手宣誓に有った通り、男子生徒の射精に貢献した生徒の所属するチームにはポイントが入ります。但し、直接の奉仕行為を行えるのは定められた役員だけです。それ以外の者が競技とは関係の無い奉仕行為を行って射精に導いてもポイントにはなりません。ご注意下さい』

 これは要するに、競技中にエッチな姿を晒して僕が射精したら、その分ボーナス得点が入るよって事なんだけど、だからってそれ目的に競技そっちのけで僕に出させようとしてもダメってルールだ。競技はあくまで競技。目的と手段を間違えちゃ駄目だよね。

 ここまでで運営委員長である僕からの説明事項は終わった。僕は号令台を降りると役員テントの自分の席に戻る。この後はいったん休憩とし、9時から実際の競技開始だ。まあその前に準備する事も有るんだけど。
 アナウンスの後BGMに乗って選手達は一度グラウンドの四隅の自分たちの陣地に退場し、そこから学年毎に解散となる。投げて地面に落ちた下着はそのまま残されるが、実はこれも夢の世界からの物なので、それを認識する者がいなくなったところで勝手にそっちの世界に還る事になっている。実にエコな素材だね。

 さて、移動するための準備をしていると宮子と紫鶴が連れだって僕の席にやって来た。二人とも役員チョーカーを身に着け、当然のように靴と靴下だけのオールヌードだ。宮子はバランスの良いおっぱいをふよんふよんと、紫鶴の方は形良く尖った大きなものをたゆんたゆんさせながら歩いてくる。実に、極楽を顕現させた様な見事な光景である。
 僕の隣まで来た2人は、まずは紫鶴が口火を切った。

「郁太さん、今回の体育祭の間よろしくお願いします」
「こちらこそ。お願いするのは僕の方ですよ」
「奉仕員長として精一杯頑張りますから、遠慮せずに沢山出して下さいね」

 紫鶴には役員の1人として、僕への奉仕行為を取り仕切って貰う約束を取り付けていた。つまり、僕のモノの維持管理人ね。テンションが落ちて萎えてきたら刺激を与えて勃起させ、興奮してきたら射精を促し、そしてその回数とその時の競技者を記録する、ボーナスポイント裁定人でもある。とても重要な役割だ。だから、この体育祭期間中は常に僕の側に待機する事になる。

「紫鶴さんはずっと僕と一緒に行動して下さい。着替えるのも、トイレに行くのも一緒ですからね?」
「はい、わかりました。郁太さんと一緒なら安心できます」

 そう言って微笑む紫鶴。これから1週間、紫鶴の恥ずかしいところは見放題なんだけど、それ以前にその笑顔一発で僕の心臓はもうズキューンと鼓動を早くしてしまっている。うーむ、この期間で僕は紫鶴の奉仕にどれだけの精液を放出してしまうのだろうか。考えるのも恐ろしい。

 宮子の方はその奉仕行為を記録する為の用紙を持ってきてくれたようだ。バインダーに挟んだ紙束を僕に手渡し、何点か僕に確認する。

「達巳君の射精開始時刻をポイント加算の起点にするとの事ですが、それが競技の合間だった時はどうなりますか?」
「その時は直前の競技者がポイント対象だよ」
「競技開始前の選手紹介や、薬物検査中の射精は?」
「それも対象選手のポイントになる」
「射精した直後の競技は不利になりませんか?」
「大丈夫、その時は奉仕員長が十分に回復させてくれるまで進行を止めるから」

 等々。僕から答を貰って納得したのか、大きく頷くと役員席足下のジュースジャグを指さし最後の注意点について僕に念を押した。

「達巳君がその日に出した精子は、最後に私達役員全員で飲むんですから出来るだけ溜めておいて下さいね」
「わかってるよ」
「紫鶴さまも、奉仕役員が全部飲まないようにそれとなく注意を促してあげて下さい」
「わかりました」

 うむうむ、やっぱり資源は大切に無駄無く使い切らないとね。精子は赤ちゃんの素なんだから、ちゃんと最後の1滴まで女の子の身体に取り込んで貰わないと。
 そういう事で、今回の体育祭に於いては僕の精液は極上のジュース扱いで役員への勤労報酬となっている。女の子に出して貰ったら、このジャグに溜めておいて1日終了後の「お疲れさま会」でみんなで飲むんだね。僕は自販機の苺ミルクを買ってくるけど。

 宮子はその後一足先に役員を取りまとめてプールの方の準備に行くため、この場の撤収指示に向かう。そして、後に残された僕と紫鶴の元には解散したどこかの組の選手達が数名、入れ違いにやって来た。

「運営委員長、あの、屋外のトイレを使いたいんですけど……」
「ああ、うん。わかった」

 ちらっと隣に目をやると、そこに座っていた紫鶴は「どうしました?」と微笑んだまま首を傾げる。

「紫鶴さん、トイレの使い方説明にモデルが居た方が良いので手伝ってもらえますか?」
「はい、いいですよ。実際に女性がいた方が説明にも良いですからね」

 そう言って紫鶴は立ち上がる。そして、ちょっとだけ声を落として僕にだけ囁いた。

「それに、ちょうどプールに行く前に寄っておこうと思ってたんです」
「本当ですか? なら、実演もしてもらえます?」
「ええ。本当、ちょうど良かったですね」

 ……その後、記録用のビデオのメモリーは紫鶴の屋外全裸放尿シーン(マクロ撮影有)の映像が大量に記録された。全く、紫鶴さん様々です。

2.

 この学園の生徒会長、安芸島宮子を契約者とした事によって僕の学園支配ライフは劇的に向上した。まずは彼女の契約者としてのステータスから見てみよう。

 ――名前:安芸島宮子(あきしまみやこ)
 ――統制権(ドミナンス):60
 ――恒常発動(リタルデーション):有効

 統制権60はおよそ普通の人間では到達できない領域だ。何しろハルと三繰を足した数より多いのである。屋内の1箇所に固定しての領域支配(ドミネーション)なら、彼女1人でほとんどの場合用が足りるだろう。60人以上が同時に出入りする場所なんて図書館かプール、体育館ぐらいしかない。また、彼女の告白通り恒常発動も有効なので、インサーションキーの保存と複数同時利用も解禁されている。正に僕のエース契約者である。
 だが、宮子の契約者としての価値は強力な統制権だけでは無い。彼女の真価は、第2段階の能力:情報感染(インフェクション)で発揮される。

 情報感染は大元の感染源となる対象者から、被感染者(インフェクティ)への一方通行の書き込みに限り、ほぼ制限無く書き込みを伝播させる能力だ。そしてその感染条件は、被感染者が対象者からの命令を疑問無く受け入れる程度の主従関係が有る事。つまり、この学園最高の権力を持つ宮子なら、彼女が陣頭指揮を執る全校挙げての行事中ならほぼ全員の生徒を被感染者とする事が出来るのだ。実際、生徒全員が集まるミサの時にこっそり宮子のページをのぞき見て唖然とした。インフェクティとする事のできる生徒の名前がずらずらと数百名分並んでいたのだから。
 宮子は恒常発動も可能だから、書き込み内容と一緒にインフェクティも保存することができる。僕は宮子のインフェクティリストをスマホのカメラで保存して、予め時間をかけて全員を設定しておいた。

 もちろん、宮子のご威光の通用しない半体制的な生徒も中にはいる。そういった生徒に情報感染は行われないから、別に対策を採らなければならない。だけど、ここでブラックデザイアの各能力間での優先度が有効に働くんだ。
 第2の能力:情報感染と第5の能力:領域支配は同時に書き込みが行われそうになると、名指しで指定する分だけ情報感染の方が優先される。被感染者には領域支配の書き込み内容が弾かれる事は、実験で確認済みだ。そのため、感染済みの生徒が領域支配の範囲内にいても、統制権は消費されないんだ。だから、宮子が領域内で被感染者達を支配している間は、その支配からあぶれた者達分の統制権数で別に領域支配をすれば、例え全員分の統制権を用意しなくても完全支配が可能って事。

 現在の僕の総統制権数(全契約者の統制権合計)は、3年椿組での毎日の努力の結果200を越えている。宮子の分を除いても、これは彼女に従わない者全員を領域支配に収めるに十分な数字だ。こうして、僕はこの体育祭に完全支配体制で臨むことが出来たってわけ。

 体育祭初日の競泳・水上競技の部は予定通り9時からの開始となった。競技順序としてはまず25mの個人レース種目、その後に100mの学年別リレー、さらに50m種目、最後に150mの学年合同組別リレーの順番だ。それぞれの区切りには表彰式と、お遊び要素のある水上競技が挟まれて競泳種目参加選手の休憩を兼ねている。
 競泳種目にはリレーも含めて1人最大2種目まで参加できるから、水泳の得意な選手を何処に出場させるかは重要な戦略だ。リレーで大量ポイントを狙うか、個人種目で確実に1位を穫るか。他の組の選手の参加状況も予想しなくてはならないので、各チームの作戦参謀達はメンバーのベストタイム表と睨めっこして頭を捻らなくてはならない。

 赤組のエースは当然、2年前の栄華とは言え全国大会出場経験もあるハルだ。僕らのイインチョも含めた参謀達は、このハルを激戦区である最初の種目、25m自由形に投入した。ここで1位を穫って勢いに乗ろうという腹積もりだろう。
 だが、それは他の組だって考える事は同じ。青組からは今年の水泳部自由形のエース、3年榊組の須藤茜(すどうあかね)の登場だ。毎日の練習のせいか茶色っぽい髪の毛をショートにした、スポーツをしている娘らしい引き締まった体つきの少女である。今年の体育祭最初の競技にして、いきなり水泳部の新旧エース直接対決となった。

「源川さん! このレース、絶対に負けないから!」

 僕の席のある役員テーブルの前方で、集合した25m自由形参加選手達の中でさっそく茜はハルに対し火花を散らしていた。3年って事は1年前の七月事件でハルの退部の煽りをもろに食らった1人だろう。恨みもひとしおってものだ。
 睨みつける茜の身長はハルより若干低いが、スイマーらしく肩幅が広く、手足も長い。その分ハルの様に胸に余分な脂肪が無いが、それも水泳選手としては有利な条件になりそうだ。対するハルの方はと言えば、その事件の衝撃は完全に抜けたのか闘争心の欠片も無く「うん、私も頑張るよー」とのほほんとしている。駄目だこりゃ。
 茜はそれで毒気が抜かれたのか、その後は大人しく選手待機場所のベンチで身体を動かしたり、パチンパチンと手足を叩いたりして準備に余念が無い。ハルの方はと見ればこちらも同じ赤組の1、2年生選手に明るく声を掛けながら手足をぶらぶらさせて筋肉を解しているようだった。やる気が無いってわけじゃないんだな。

 レース開始までもう少し時間が有るので、ここで会場となる屋内プールの様子を解説しておこう。
 星漣の屋内プールは南北に伸びた25mの短水路プールで、6コースまで有る。今日の競泳個人種目においては、各組の各学年1名ずつ参加になっていて、レースは学年毎に行われる。つまり、各種目1年生4人だけのレース、2年生4人だけのレース、そして3年生4人だけのレース、の3回ずつ行うんだね。結果は4人×3レース=12人をタイム順に並べ替え、それで1位から6位までが入賞となってポイントを獲得できる。選手に恵まれれば、1つの組が1位から3位まで独占する事だって有り得るのだ。
 コースは6つ、1レースの参加者数は4人だから、両サイドの1、6コースは空けて2~5の4コースを使用する。コース毎に組が最初から決まっていて、2コースから順に赤・青・黄・白組の順だ。水泳帽や水中眼鏡をかけると誰が誰だかわからなくなるから、そのための決め打ちらしい。
 プールの北側2階席の下には電光掲示板が吊り下げられていて、それがプール内の各コース、ゴール側の壁に設置されたタッチ板と連動してタイムが表示されるようになっている。それに、タッチ板の誤動作や未反応に備えて役員がストップウォッチ片手に予備のタイム計測もやるから、体勢は万全だ。
 役員席はその電光掲示板の下に有り、屋内なのでテントは設置されていない。アナウンス席は2階の放送室に有るから、そことの連絡用に僕は運営委員長専用のトランシーバーを1個持たされていた。これは他にもスターターをやる役員や、集合場所で選手の確認をする役員などにも同じチャンネルで使うように設定したのを持たせているので、一斉連絡にも利用する事ができる。
 選手の集合場所は先ほども言った通り役員席の前にあり、それぞれレース開始の10分前にはここに集まって参加選手名簿との確認を行う事になっている。そこにはベンチも4つ並べてあり、今も確認の終わった25m自由形の選手達が水着やその上にジャージを羽織ったまま座って、思い思いに待機していた。

 応援は東西のプールサイドに階段状に設置された観客席付近でのみ許可されている。足下が濡れているので跳んだり走ったりの応援は禁止。組毎に割り当てられたエリアから動かないでメガホンや手拍子、せいぜいウェーブくらいが良いとこだろう。
 応援の格好は自由。水着でも良いし、体操着でも良い。濡れるのを気にしなければ制服だって良い。ただし、プール内では女の子は『履き物は禁止』になっているので、当然「下半身に履く衣類や靴」も禁止だ。だから観客席を埋める応援組は、みんなチームカラーのTシャツ一枚だけ着た腰から下丸出しの状態なのだ。今も、遅れて更衣室から入ってきた数人の女の子達が、お尻をフリフリ、股間の茂みをふわふわさせながら早足でそそくさと役員席前を通過して行く。

 東西のプールの縁には細いレールが設置され、その上をラジコンカメラが選手の泳ぎに併せて追跡できるようになっている。更にそのカメラはくるりと180°回転して観客席を下方から煽り気味に撮影することも出来るんだ。まだレースは始まっていないから、僕の席のカメラ切替・録画用PCには応援席の様子が映っている。一番前の席に座っていた女の子達はカメラが自分の前に来た事に気付き、笑顔で手を振りながら膝を開いて、反対の手で股間の割れ目をくいっと開いてくれた。少し影になって暗いけど、ピンク色の肉壁が息づいているのがちゃんと見える。有り難いね。

 ちなみに、役員の方には胸ポケットに星漣のマークの入った白地の役員ポロシャツと紺色で小型のウエストポーチを配布してある。ポロシャツに腰回りにはポーチ、そして股間は剥き出しというのが役員の正式な格好なんだね。あ、僕は当然ハーフパンツも着用許可されてるよ? でも、レース開始したらこれをまともに履いている時間も無いだろうけどね。

 さて、そうこうしている内に役員も選手も所定の位置に着いた。いよいよ最初のレースのスタートだ。

『プログラム1番、25m自由形。出場する選手の紹介を行います』

 ウグイス嬢の菊子のアナウンスでまずは第1レース、1年生達の紹介だ。第2コースの赤組の娘からジャージを脱いで立ち上がり、紹介に合わせてペコリと礼をしたり観客席の方に手を振ったりする。応援する同チームの娘達も声援や拍手でそれに応える。

 選手達の着ている水着は、星漣学園の指定スクール水着ではなく競泳用のスイムウェアだ。カタログを参考に僕がデザインし、夢魔に創って貰った。基本は水の抵抗を軽減する特殊素材で、白地に流線型のラインが入り、そのラインは各組のチームカラーに合わせて光沢のある赤、紺、金、銀にしてある。胸元には星漣のマークがプリントされ、左腰のラインには白抜きの「SEIREN」のロゴ。自画自賛になっちゃうけど、スポーツカーみたいな格好いいデザインだ。記録を狙うレースなんだから、形だけでもちゃんとした物でタイムを競って欲しいからね。
 と、言ってもそれ以外は僕の事だから、趣味的な要素はちゃんと入れてある。形は昔ながらの股間の切れ込みの激しいハイレグタイプの奴だし、白い部分は耐久性無視のストッキングみたいな極薄にしてある。そのため、食い込んだ割れ目やその上の茂みは透けて見えているし、胸のぽっちも形クッキリ、色艶もバッチリ観察可能だ。

 また、紹介時は遠くからでも選手の様子が見えるように、コース台の下に選手向きに設置したカメラの映像を電光掲示板横の特大モニターに表示するようにしている。このカメラはある程度僕のリモコンPCで操作が可能なので、きつそうに締め付けられた胸の様子や、食い込んでお肉がちょっとはみ出し気味の股間の様子も最大ズームで放映してあげた。際どいところがモニターに大写しになる度、『男子生徒を喜ばせそうな映像』にわあっと歓声が上がる。そうそう、競技しながら僕を良い気分にさせるのも体育祭の重要な目的だからね。

「あの、郁太さん?」

 隣に座っていた紫鶴がちょこちょことリモコンを操作している僕に、遠慮がちに声を掛けてきた。彼女も役員シャツにポーチを身に着け、目の前のテーブル上には先ほど貰った射精記録用紙を置いて椅子に座っている。ただし、胸が大き過ぎるので押し上げられてフリーサイズのシャツでは丈が足らず、前側は股間からお臍までが露わになっていた。

「あ、はい。何ですか、紫鶴さん?」
「私も、そろそろ郁太さんにご奉仕を始めた方が良いでしょうか?」

 紫鶴は少し顔を赤らめつつ僕のハーフパンツを見つめ、首を傾げて聞いてきた。そこは女の子達の股間をカメラサーチしている間にすっかり半勃ち状態となり、膨らんでテント状になっている。

「おっと! すみません、お願いします」
「はい。……じゃあ、失礼しますね」

 椅子を僕の席にぴったりとくっつけ、自分も僕に肩を寄せて座り直す紫鶴。彼女はそうして僕との距離を無くしておいてから、するりと僕のハーフパンツのゴムの下に手を滑り込ませた。

「あっ……これが郁太さんのなんですね」
「うっく……そ、そうです」
「……こんな感じで、どうですか?」
「は、はい。いい感じです」
「……よかった」

 ひんやりとした細くたおやかな手で、僕のモノの先端を緩やかに撫でさする紫鶴。僕の肯定の言葉に花が咲くような可憐な笑顔を浮かべた。

 紫鶴には、奉仕員長として射精記録を取る方法以外には、「創意工夫して達巳郁太運営委員長を気持ち良くさせ、射精に導くこと」としかその使命を説明していない。まあ、全く何も教えないまま放置するのも可哀想だから、「最初は手を使ってやってみて下さい」とはアドバイスしてあったけど、それも今回までだ。
 彼女には、是非とも今期間中を通して僕をどうやったら気持ち良くさせる事が出来るか、考えに考えて思いついた事を試し、経験を積んでもらいたい。そうやって僕の事を考え、僕のために身体を使って気持ち良くさせた経験が、例え記憶に残らなくとも彼女の意識に何らか変化をもたらす事を僕は期待しているのだ。それが強い僕への興味となって彼女の「ペルソナ・ガード」を打ち壊してくれれば万々歳だ。宮子に続き、この星漣学園のもう1人の権力者も僕は手中に収めることが出来る。そうなれば僕はもう無敵だろう。そういった効果を狙って、紫鶴を「奉仕員長」の役に就かせたのだ。

 紫鶴の緩やかながら心の籠もった指使いに、少しずつ半紙を重ねていくような高まりを覚えつつ、僕は競技の方も目で追っていた。第1レースの1年生達は既に終了し、今はプールサイドの隅の方に寄って先輩のレースを応援中だ。力泳の余韻に息を弾ませ、体中からぽたぽたとプールの塩素臭のする水滴を垂らしながら懸命に声を張り上げている。そうそう、レースの終わった娘にも紫鶴の手伝いをして貰わないとね。

 僕は役員の1人に言ってその娘達を委員長席まで連れてきて貰う。1年生の娘達は紫鶴に手で奉仕を受け続けている僕の様子を見たが、男子生徒に奉仕役員が奉仕するのは当然の事なので特に疑問は感じていない様子だ。

「レース、お疲れさま」
「あ、はい」
「終わってすぐに何だけど、健康チェックをするから来てもらったんだ」
「そうだったんですか」

 僕は予め用意していた理由で彼女たちの疑問を解消していく。

「気持ち悪いとか、無いかな?」
「えっと、まだ息が苦しいですけど気持ち悪くは……」
「脈はどうかな? 計っても良い?」
「はい」

 一番近くにいた娘が手首を差し出してきたので、僕は笑いながら「違う違う」と手を振った。

「『オリュンピア』方式の脈拍は、お尻で取るんだよね?」
「え、あ、間違えました! ごめんなさい」

 もう、うっかりしてるなぁ。事前にこの体育祭中、運営委員長が健康チェックする時は直腸で脈や体温を計るって通知しといたのにね。その娘は慌てて僕にお尻を向けると、水着のお尻のところを指を使って片側にずらした。そして上半身を前に曲げ、もう反対の手でお尻を開きながら僕の方に突き出してくる。少女の小さく窄まった肛門が座ったままの僕の目の前にやってきた。

「健康チェック、お願いします」
「うん。お尻から力を抜いてね」
「はい」

 僕はその娘の皺の寄った中央部に指を当てると、遠慮なくズブズブとその中に潜り込ませた。「あうっ」と少女は小さく声を上げるが、強い抵抗もなく人差し指の根本まで沈み込んでしまう。
 これは、実は今彼女が来ている水着のお陰だ。夢魔がせっかく創ってくれる水着だから、何か特別な魔法を付与しようと僕は頭を捻り、そして健康チェックや薬物検査をスムーズに出来るよう着ている間はお尻を柔らかく、そして中も自動で綺麗になるようにしてもらった。だから、気兼ねなくこれを着ている娘のお尻を弄くる事ができるんだよね。
 僕はそういう事でぐりんぐりんと指を回して、ドキドキと早鐘のように脈打っているその娘の直腸の襞の感触を楽しみ、腰砕けになって膝ががくがくし始めたところでにゅぽっと指を抜いた。突然解放され、閉じきらず空洞を晒した少女の肛門はぱくぱくと開閉しながら緩やかに戻っていく。
 他の娘も同じ様にしてやり、最後には両手に1人ずつお尻を並べて指も2本ずつ入れ、きつい括約筋の締め付けとひくつく腸壁の感触を楽しみながら紫鶴の手によって高まりきった欲望を放出する。

「……うぅっ! 紫鶴さん、出しますよっ!」
「あっ……!」

 ため息のような驚きの声を漏らす紫鶴。ハーフパンツと下着は先に下ろしていたから、紫鶴の握った手の中でどびゅっどびゅっと勢い良く白濁液が噴き出しているのが良くわかる。紫鶴はそれを、熱の籠もった赤い顔で見つめ続けていた。
 すぐに手の中だけでは受け止められなくなったので、紫鶴は慌てて椅子からしゃがみ込んだ。事前に用意してあったジャグを僕の足下へと、精液まみれの手で移動する。蓋を開けその中へ僕のモノを向け、吹き出す熱い濁液を自分の手で受け止めながらぼとぼととその中へと注いでいった。

「……うぅ……っくぅっ……!」

 紫鶴の手は事前の学習成果か、それとも無意識によるものか、射精中の僕のモノに更に刺激を与えて全部出し切らせようと片手でじっとりと竿を扱き、残りの手の指で先端部分をぬらぬらとさすっている。思いがけず的確な奉仕に僕のモノは止めどなく精液を吹き出し続けた。

「うぅ……はぁ~~~っ!」

 1分ほどもかけて全部出し切り、それでもまだたおやかな手からの刺激に尿道内の残液を漏らしつつ、僕は大きく息を付いてパイプ椅子の背もたれにより掛かった。その勢いで2人の1年生のお尻をほじっていた指がずぽっと抜ける。「あぁんっ!」とその2人は危うく倒れかかるところを残りの2人に支えられた。快楽でぼんやりとした視界に、2つの肛門がぽっかりと口を開いたまま、内部のつるっとしたピンクの腸壁を晒している様が見えている。そこはひくひくと与えられた刺激の余韻に震え、とろっと涎のように粘液をこぼしていた。あれって、腸液なのかな、と的外れな感想が浮かぶ。

「郁太さん……?」
「……はぇ?」
「ええと……郁太さん?」
「! あっ、はい、何ですか?」
「あの……終わりましたか?」

 紫鶴はまだ僕のモノをゆるゆると扱き続けていた。それは既に余韻を過ぎ去り、堅さを失って下を向き始めている。だが、彼女はそんな勢いを失った僕のモノを、大事そうに両手で包み込んでくれていた。僕は慌てて思考をしゃっきりと立て直し、しゃがんだままの紫鶴に言った。

「あ、大丈夫です。ありがとうございました」
「いいえ、郁太さんが気持ち良くなってもらえれば私も嬉しいですから」

 そう言って、紫鶴は僕の足下から出てきて立ち上がった。すらりと背筋が伸び、なだらかなお腹の真ん中の可愛いお臍とその下の茂みが僕の目に入る。その光景に「うっ」と股間のモノが疼き、慌てて視線を逸らせて1年生達に言った。

「よ、良し。健康チェックはオッケーだよ。戻って良いからね」
「あ……は、はい。ありがとうございました」

 お尻をいじられた余韻か、それとも紫鶴の完成された下半身の美しさに見とれたのか、ぽーっとしていた4人ははっと目を覚ましたような顔で僕の声に頷いた。そのまま自分達の応援場所へと帰って行く。
 改めて紫鶴の方に目をやると、彼女はべとべとになった両手の扱いに困っているようだった。

「男の人の精子って、沢山出るんですね」
「あ、いや……僕が特別なのかもしれません」
「そうなんですか? ふふ、郁太さんは凄いんですね」

 紫鶴に誉められ、こそばゆくなって僕は照れ隠しに側からタオルを取って差し出した。

「凄くなんて無いですよ。すいません、気持ち悪いですよね?」

 紫鶴は僕の手のタオルを見て、それから自分の手の平の中に溜まっている白く濁った粘液を見つめ、次の瞬間、「あっ」と僕が止める間も無くその手を顔に近づけ、口に含んでちゅるっと飲み込んでしまった。こくりと動いた喉に呆然としていると、唇を指先で拭いながら少し恥ずかしそうに紫鶴は笑う。

「はしたないし、役員のみなさんには申し訳ないと思ったのですけど……先に頂いちゃいました」
「何で……」
「だって、郁太さんがせっかく作ってくれた赤ちゃんの素なんですもの。拭ってしまうのは、申し訳ないですから」

 そう言って、紫鶴は「ごちそうさまでした」と僕にぺこりと礼をしたのだった。

「し、紫鶴さん……」
「ほら、郁太さん。次の娘達が来ましたよ? 早く健康チェックをしてあげないと」

 彼女にそう言われて役員席の前方を見ると、レースの終わった2年生達が役員に連れられて一列に並び、こっちに戻ってくる。紫鶴はすとんと僕の隣の席に再び着くと、僕の胸に頭を預けるように身体を傾けてきた。ふわっと彼女の髪の良い匂いが鼻孔を擽る。

「郁太さんのココも、早く元気になってまたいっぱい出して下さいね」

 そう言うと紫鶴は、片手で僕の股間部をやわやわと握りながらにっこりと微笑んだのだった。

 25m自由形のレースも大詰めを迎えた。プール内では現在、3レース目、3年生の参加選手の紹介が行われている。

『第2コース、3年椿組、源川春さん』

 アナウンスと同時に赤組陣地からはワアッと大きな歓声が上がった。若干他の組からの声も混じっている。
 あの達巳裁判以来、ハルへの評価は徐々に持ち直して来ていた。元々詳しい事情を知っていて罪悪感を覚えていた3年生、上級生からの言いつけを鵜呑みにしていた2年生、そして先入観の無い1年生たち。彼女たちは7月の生徒総会で奮闘し、見事に生徒会から勝利を勝ち取ったハル達旧「新校則に反対する会」のメンバーを見直し、憧れを抱くようになっていたのだ。その中でも明るくて行動的で、天真爛漫な笑顔を振りまくハルは体育祭合同練習を通じて赤組を中心に人気が再加熱していた。今も、歓声にちょっと照れたようにハルが手を振り返すと、「きゃーっ」と応援とは思えない黄色い声が上がる。

「イクちゃん、私がんばるよー!」

 ハルが役員席を振り返り、ニコニコとブイサインを出した。こっちはこっちでカメラの操作や2年生達の体調チェックに忙しいのだ。口パクで「集中しろ!」とだけ言っておく。「ん」と真面目ぶって頷いたのでたぶん通じたんだろうと思う。

『第3コース、3年榊組、須藤茜さん』

 ハルの目下のライバル、茜は対照的に落ち着いた感じですっと椅子から立ち上がった。会場を盛り上げるため、ウグイス嬢菊子は進行台本に有る通り茜の今年度の活躍紹介を続ける。

『須藤さんは今年の夏に行われたインターハイで、200m自由形に参加し、決勝に進出して見事全国3位の成績を修めました。また、星漣女学園選手代表の1人としてメドレーリレーのメンバーにも選ばれ、こちらも6位に入賞しました』

 ひゅう、と僕は口笛を吹きたい気分になった。茜は勝ち気なだけじゃなく実力でも間違いなく今の水泳部のエースだ。本当に1年以上のブランクのあるハルが太刀打ちできるのだろうか?
 茜はその紹介が終わると、右手の人差し指を天井に向けてびしっと突き上げた。ナンバー1宣言だ。か、格好いい! 青組近辺は興奮の坩堝と化している。その大歓声は、しばし選手紹介を止めてざわめきが収まるまで待たなければならないほどのものだった。

 黄組、白組は特に名の有る選手でも無く、応援もそれなりだ。悲しいけど、これって勝負事なのよね。ま、その2つの組の参謀はここはまだ勝負所じゃないと判断して他の種目に有力選手を回したのかもしれないけど。
 このレースは完全にハルと茜の一騎打ちの勝負に見所が集中した。選手達は水中眼鏡を額から下ろして集中し、観客もその様子に注目する。

≪ピッ! ピッ! ピィ~~~~~~ッ!≫

 スターターの笛の合図で、4人の選手がスタート台に登った。身体を倒し、爪先を台の前側にかけてピタリと静止する。応援席も息を潜めて沈黙する。会場に張り詰めた緊張感が満ちた。

『……用ー意……』 ≪バンッ!!≫

 ピストルの合図で4人が一斉にスタートした! 飛び出しが一番早かったのは、やはり直感が原動力のハルだ。だが、飛び込んで水面に浮き上がってきた時には既に茜に並ばれている。ブランクのせいか、単純に茜の方がスタートが上手いのか。この時点で2人は4、5コースの選手ともう身体半分は引き離していた。
 25m自由形はスイマーならせいぜい15秒もしないうちに決着が付く競技だ。ハルも茜も最初から全力でかっ飛ばす。息継ぎもしない。ただただ全身のエネルギーを振り絞って前へ、前へ!

 半分のラインを越えてまだ、2人はピシリと計ったように横に並んでいる。15m、18m、残り5mでまだ並んでいる! 思わず僕もモニターを見ながら手を握り締めた。

 バンッ、と素人目には同時としか思えないタイミングでハルと茜はタッチ板に手を着いた。ばっと2人が顔を上げて水中眼鏡を外し、電光掲示板を見上げる。会場の全員がそこに表示された結果に視線を集中させた。1着は――

 ――3コース、須藤茜だ! 僅か100分の1秒、爪の先くらいの差で予告通りに茜がハルに勝ったのだ。ワアーッと青組からは歓声が、赤組からは惜しいと悔しがる声が聞こえてきた。茜も先程とは一転、喜びの表情で再度ナンバー1を知らしめる人差し指で天井を指す。くそう、悔しいが格好いいぞう!

 会場が好レースの熱気の余韻に包まれている中、役員席回りは慌ただしく動き回っていた。全学年分のレースが終わったので、6位までの入賞者の確定と1、2、3位の表彰の準備をしなくてはならない。僕の方はと言えば、ちょっとやりたいことが出来たので紫鶴に席を離れる事を告げて更衣室の方へ向かい、その側の階段から2階の放送室へと向かった。
 放送室内にはウグイス嬢の水原菊子と交代要員の宝井サラ、そして裏方役員の取りまとめをお願いしていた宮子が待機していた。この部屋内は機械のために空調が利いているから、全員制服を着込んでいる。

「どうかしましたか、運営委員長?」

 僕の入室に気が付いた宮子が、少し首を傾げて椅子から立ち上がる。菊子達も首を捻ってこちらを向いた。

「うん。早速だけどサイコロを振ったら、今の種目の1位を薬物検査する様に出たんだ」
「ああ、そうでしたか」

 一応、役員内の決まりでは種目毎にサイコロを振り、1が出たら薬物検査実施、対象者はまたサイコロを振って入賞1位から6位の中から決定する事になっている。だけど、それは全部運営委員長の裁量なんで僕の好みの娘がいたらその娘を名指して指定しても良いんだけどね。ま、今回はもう結果が見えているからどっちでも構わない。
 宮子は手元の報告用紙を確認し、僕の方に再度目を向けた。

「25m自由形の順位速報はもう来ています。1位は須藤茜さんですね。呼び出しましょうか?」
「うん、お願い」
「場所は要項通りに男子更衣室でいいですか?」
「オッケー」

 宮子は放送席の方を振り返ると、てきぱきと指示を出した。それに頷き、菊子はマイクのスイッチを入れて顔を寄せる。

『3年榊組、須藤茜さん。3年榊組、須藤茜さん。運営委員長がお待ちです。至急、男子更衣室に向かって下さい。繰り返します……』

 さて、ハルの無念を晴らしつつ、スイマー少女への僕自身の興味も全部晴らして貰いましょうかねぇ!

< 続く >

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