免罪符 接触編

― 接触編 ―

「はぁ…、疲れたなぁ…。ったく、こんな毎日毎日遅くまで残業させなくてもよぉ、あの課長め…」

 俺はぶつくさ呟きながら、家路を急いでいた。
 夜もかなりふけて、転々と光る街灯と住宅から漏れる明かり以外は闇に包まれた道。そんな道を俺は、少し早足で歩いていた。
 住宅街はしんとした静けさに包まれている。既に遠くに過ぎ去った大通りでは、夜中に遊び歩いている若者や酔っぱらいのおっさんでにぎやかだったが、この辺ではさすがにそれもなくて、初夏なのにどことなく寒々しく感じる。
 まあ俺に彼女でもいたら、夜はデートと決め込んで、おしゃれなバーとかでちょっと酔わせてから今頃ホテルでしっぽりと…なーんて妄想だけは膨らむが、そもそも仕事仕事で彼女を作る暇すらないし、それに彼女が奇跡的にいても、こう残業続きでは他の男に乗り換えられるのがオチだろう。

「はぁ、むなしい…。もうさっさと帰ってメシ食って寝よ…」

 俺は肩を落としつつさっきよりも小走りに、夜道を駆け抜けていった。
 散々歩き慣れたいつもの道をいつも通りに家に向かって進み、築数十年のボロアパートの鉄製の階段をいつも通りにカンカンと音を立てながら上がり、そしていつも通りにマイルームの扉を…。

「…おい」

 その扉の前はいつもと全く違う光景だった。
 人がうつぶせに倒れている。
 長く伸ばされたぼさぼさの白髪と、茶色か黒かもうよくわからないほどに汚れた服、そして同じ色をしたマントのようなもの。靴もボロボロだ。
 袖から出ている手足は細くしわしわで、白髪と合わせるとどう見ても老人だ。
 老人がなぜか俺の部屋の前で倒れている。
 そんな非日常的光景が、よりによって俺の部屋の前で展開されている。
 面倒なことになりやがって、と一瞬だけ思いつつもすぐ捨て去って、俺は良心のままにその老人を抱き起こそうとした。

「お、おい、爺さん。大丈夫か!?」

 うつぶせだった体を仰向けにすると、白髪の眉も髭も伸ばし放題だった。どうやらかなりの年齢のようだ。
 見た目から大体想像ついたことだが、長期間風呂に入ってないらしく老人は少々臭ったが、そんなことを気にしている場合じゃない。俺はその老人を揺さぶって目を覚まさせようとした。

「おい、おい、しっかりしろよ。俺の部屋の前で行き倒れなんて勘弁してくれよ。おい大丈夫かよ、返事してくれよ…」

 それでも反応がないので、救急車を呼んでプロに任せようと携帯電話に手を伸ばそうとしたその時、老人が薄目を開けようとした。

「おっ、爺さん、気がついたか?」

 そしてゆっくりと口を開き、何かぼそぼそと力なく俺に語りかけようとしてくる。
 まさか最後の言葉を俺に、と縁起でもないことを俺は思いつつ、老人の口元近くに耳を寄せて何とかその言葉を聞き取ろうとした。

「………め…し……」

 何とかわかった言葉はわずかだったが、それで十分だった。

「いやあすまんのう。(がふっ)うっかり道に迷って(ずるっ)こんな所で行き倒れてしまうとは(ずーずずっ)。なに、食うものさえ(ふがっ)食えば完全回復じゃよ。(じゅるるっ)そこな若者よ、安心せい」

 と、床に座り込んで3杯目のカップラーメンを乱暴にかき込みながら喋りかけてくる老人。というか、食うのも乱暴だし食いながら喋るから、さっきから色々な物が飛び散ってるのはどうにかならないか。
 その後、結局俺の食料ストックの半分近くを食い尽くしたその老人は、満腹の腹をさすりながら満ち足りた表情で俺に語りかけてきた。

「いやはや、そなたの寄進は受け取ったぞ。うむ、満腹じゃ」
「食って元気になったんだから、そろそろ帰ってくんないかな、爺さん」

 思わず助けたくなるような美少女ならともかく、こんな風呂に入ってないような汚い爺さんを家に留めておく理由は俺にはなかった。
 その言葉に老人が、目をくわっと見開いて大きく反応する。

「なんと! そなたはこのわしを寒空に放り出すと言うのか! 何と嘆かわしい、この国の者どもは金銭ばかり崇拝して神と老人を敬うということをしない。何ということだ…」
「メシ食わせてやっただけでも感謝してほしいな」
「うむ、それも一理あるな」

 わめき立てたかと思ったら急にそう言ってうなずく老人。そして老人は、はたと手を打って話をつなげた。

「よし、その恩義に報いるために、神の恩寵受けしこのわしが…」
「その前にさ、そもそも爺さん、名乗ってないだろ。せめて名前ぐらい教えてくれよ」

 何か演説でも始めようとした老人の話の腰を折るかのように、俺は質問をぶつけた。爺さんの名前なんかどうでも良かったが、長話になると面倒そうだったからだ。
 老人はあごひげに手を当てて、何か考え込むように喋り始めた。

「名前…、そういえばなんじゃったかのう…。確かラスプー…、いやこの国ではどうきょ…。はて、なんと名乗ってたかのう…。そういや昔、隠し芸で信者たちに海を割って見せた時はモーなんとかって名乗ってたような…。いやはやいかんいかん、歳を取ると忘れやすくていかんわい」

 そう言って照れ笑いしながら頭をかく老人。同時に頭上から湧き上がるフケと思われる物体の数々。
 だめだこの爺さん、すっかりボケてるよ…。さっきから神だの何だの言ってるのも、その影響なんだろうな…。
 俺が生暖かい目で老人を見守っていると、老人はふと我に返ったようにさっきの話の続きをし始めた。

「まあとにかく、神の恩寵受けし聖職者たるこのわしが、そなたにありがたい物を授けてしんぜよう。少々待たれよ…」
「へーへー、ありがとーごぜーます」

 明らかに気のない言葉で俺は返答したが、老人には届かなかったようだ。老人は汚れた服の懐からペンと赤茶けたぼろぼろの紙を取り出すと、何かをさらさらと書き始めた。達筆のようだが、達筆すぎて何を書いているのかはさっぱりわからない。少なくとも日本語ではなさそうなぐらいしかわからない。
 老人はその紙いっぱいに何か文章を書くと、ペンを置いて俺にその紙を差し出してこう言った。

「これは、『免罪符』じゃ」

 確か歴史の授業で聞き覚えのある言葉だ。中世ヨーロッパで、教会が「これを買えば罪が許される」と称して売りさばいたとか何とか先生が言っていたような。

「これを所持しておれば、全ての罪は神に許され、精霊に許され、そして人に喜んで許されるであろう」

 …ほらね。

「そのありがたい免罪符を、今回の恩義に報いる意味でそなたに進呈しよう。なに、金子(きんす)はいらんよ。聖職者を助けた、という当然ながらもその心意気に…」
「いや別にそもそも買おうとか思わないから、こんな紙」

 俺の冷めたツッコミに対し、老人はさめざめと泣きながら俺に訴えかけてきた。

「何という…、何という信仰心のない民衆なのだ…! このありがたい免罪符を売り歩こうとしても、誰一人として買おうとせん。こうして聖職者が飢えに苦しんでも助けようともせん。神よ、この愚かな者たちを許したまえ…」

 まあこれまで散々ひどい目にあったんだろうけど、自業自得のような気がする。
 とはいえさすがにかわいそうになってきたので、俺はその免罪符とやらの話に付き合ってやることにした。

「…でさ、その免罪符を持ってれば罪が本当に許されるのか?」

 話に食いついてやると、老人は急にぱっと表情を明るくして、身を乗り出すように喋り始めた。いや、あまりこっちに来ないでくれ、臭いから。

「もちろん! 神の代理人たるわしが保証しよう。現世と天上において、そなたの罪は全て許されるであろう。本来なら多額の金子でやっと手に入れられるものだが、今回はそなたの心意気に打たれ…」
「いやさ、罪が許されるって言ってもほんとかどうかわからないだろ? だからみんな買ってくれないんだよ」

 諭すように言う俺。まあ妄想の世界に生きている人相手には、意味のないことかもしれないけれど。
 すると、老人はすっと目を細めて、

「ほほう、ならば試してみせようか?」

 と自信ありげに言ってのけた。
 俺は苦笑しながら、

「ふーん、じゃあ試してもらおうじゃないか」

 と軽い気持ちで返した。
 老人はのっそりと立ち上がると、

「ならば、ちょっと立ってみよ」

 と俺を誘う。「立てばいいんだな」と答えて、俺は言われるままに立ち上がった。
 老人は俺の正面に立つと、曲がった腰で俺を見上げるようにして問いかける。

「では聞こう。見ず知らずの男に突然殴られたら、そなたはどう思う?」
「そりゃ怒るよ」

 何言ってんだかこの爺さんは。当たり前じゃないか。
 俺の冷たい視線も意に介さず、老人はさっき自身が書いた免罪符とやらを手にし、もう片方の手でそれを指差した。

「だろう。暴行は罪であるがゆえに、そなたは怒りを感じる。さてわしは今、こうして免罪符を持っているわけだが、これは最後に手にした物を所有者として、その罪を免じる物なのだが…」

 そう言って言葉を切った次の瞬間、

「…ぐえっ」

 俺の懐に一瞬で飛び込んできて腹部に強烈なパンチを食らわせていた。
 情けない声を出しつつ、俺は腹を押さえて膝から崩れ落ちていった。いいパンチ持ってるじゃねえか、爺さん…。

「このように、こうして免罪符を持っておればその罪は許され…」

 爺さんの講釈が始まったようだが、俺はそれを聞く気力もなく、意識は闇へと沈んでいった…。

 ずきずきと痛む腹を押さえて俺が意識を取り戻した時には、もう翌朝だった。あのままどうやら俺は気絶してしまったらしい。
 朝日が部屋の中に差し込んでいる。部屋の中には、例の老人が食い散らかしたゴミが昨日のまま残されていた。
 老人の姿はどこにもなかった。おそらく出て行ったのだろう。殴られるのも気絶したまま放置されるのも別にいいことだから構わないけど、せめて旅立つなら挨拶ぐらいはしていって欲しかった気もする。
 というか、結局最後のあれは何だったんだろうか。あの爺さんが俺を殴るのは別に当然のことだし、むしろ殴ってもらって光栄なぐらいなのに、それを「罪が許される」例として挙げるって…、別に罪でも何でもないじゃん。わけわかんねぇ。
 俺は首をかしげながら、ふと時計を見ると…もう出勤の時間だった。朝食はコンビニでも寄ってパンでも買えば済むけど、結局昨日から着替えてないから身だしなみを整えるぐらいしかないか。もう風呂に入ってる時間なんかないし。

「あーあ、布団でちゃんと寝たかったな…」

 と、床の上で一晩を過ごして少々痛む身体をほぐしつつ、俺は部屋を出ようとした。
 その時、俺は玄関にある一枚の紙を見つけた。
 あの『免罪符』だ。

「あの爺さんの置き土産のつもりか…? あんなんじゃ信じられるわけないってのに…」

 ぶつくさと悪態をつきつつも、俺はその免罪符を折り畳んで、財布の中ににしまいこんだ。
 何だかんだ言って憎めない爺さんだったし、それに自称聖職者が作った物ならお守り代わりぐらいにはなるだろうと思った。何のお守りかは知らないけど。

 その時は、その程度にしか思っていなかった。

 満員電車に押し込められて数十分間苦痛を味わうのも給料のうち、と割り切ってはいるものの、やはりギュウギュウに詰め込まれての通勤は国とかが率先して何とかしてくれないものかと常日頃から思う。
 もちろん、郊外の安アパートぐらいにしか住めない我が身の不甲斐なさが第一の原因であるのは否めないんだが。
 車内にはびっしりと人が立ち並び、幸運にも座席を確保できた者たちが、そのささやかな特権を朝刊の閲覧や居眠りに充てている。
 一方俺はと言うと、運悪くもう終点まで開くことのないドア付近まで押し込まれていた。会社には終点の2つ前で降りないといけないので、頃合いを見て徐々にドア方向に動かなくてはならないのだが、まだその時期ではない。
 そして俺とドアを挟むように、右肩にバッグをさげた制服姿の女の子が立っていた。もちろん俺に背中を向けて。
 少しウェーブのかかった、今時逆に珍しいかもしれない黒髪と、夏服の半袖の白のブラウスは視界に入っている。何とか視点を下の方に向けると、チェックのスカートが見えるぐらい。目を凝らすと、白のブラウスの肩や背中にはうっすらとブラジャーが透けて見え…、おっと、あんまり凝視すると変態と思われるな。
 電車の揺れに合わせてドア方向から人の圧力がのしかかってきて、俺は時折彼女の身体に接触してしまうが、「これも満員電車の常だ。許せ」と思いつつ、君が押し潰されないように身を呈して踏ん張っているのだよ、と勝手に少女のナイト気取りを堪能していた。
 心なしか、車内の不快指数も若い女の子が至近距離にいるだけで軽減されたように感じる。その清涼感たるや、車内の冷房がいくらガンガンに効いていても、この子一人には勝てないんじゃないかと思う。何となく女の子特有のいい香りもするし。
 まあ後ろ姿だけで決めつけるのは早いが、この後ろ姿はきっと可愛い。うん、そう思おう。その方が夢があっていい。
 最近は残業続きでくたくたになったり、昨日は変な爺さんに関わったりと不幸続きだったけど、こういうちょっとした幸運で人は元気になれるのだな…と思ったその時。

「………!」

 俺の左手首がぎゅっと握られたかと思うと、気づいた次の瞬間にはその手が高々と上に掲げられていた。もちろん俺の意志じゃない。
 いつの間にか、前の女の子が俺と向かい合っていた。そして彼女は俺の手首をしっかりと握って、頭上に高く掲げている。
 ほら思った通りだ、結構可愛いじゃないか。眉毛がちょっと太めなところも逆にチャームポイントじゃないか、そういや制服はリボンじゃなくてネクタイなんだな、とあまりの急なことに意味不明の感想が0.1秒の間に混乱した頭の中を駆け抜けていくと、彼女の小ぶりな唇が、しっかりと大きな声で言葉を紡いだ。

「…この人、痴漢ですっ!」

 ちょいまち、何を言ってるのかね君は??
 俺は君を守ってたんだよ?
 いやもちろん君に頼まれたわけじゃなくて、俺が勝手に思ってただけだし、そもそも満員電車なんだからちょっとぐらい体が触れちゃうのは仕方ないしいやそもそもわざとじゃないんだわざとじゃ俺は何もしていない悪くないんだ俺はいやほんと何もしてないんです何かしてたらもっと気持ちよく…じゃなくて信じてくださいそりゃちょっとぐらい女の子独特の柔らかい感触が手に伝わったこともあるけどいや偶然なんですってばほんとですって………。
 一瞬のうちに様々な言い訳が喉まで出かかったものの、肝心の口からはぱくぱくと無音のみしか発せられないほど、俺は混乱しきっていた。
 そして車内はざわつき始めていた。様々な視線が俺に四方八方から突き刺さる。
 俺の背中を冷たいものが走る、どころじゃない。まるで崩れ落ちる氷山の真下に立っているようだ。
 おしまいだ。人生おしまいだ。仮にさっさとやってもいない罪を認めても前科者のレッテルを貼られてこれから生きないといけないし、無実を訴えて徹底的に裁判で戦ってもその労力は想像を絶する…とテレビのドキュメンタリーで見たことがある。
 こんなことになってしまって故郷の両親に何て言えばいいんだ。両親ぐらいは息子の無実を信じてくれるだろうか。でもうちには有能な弁護士を雇えるようなお金はないだろうし…。
 と、悲嘆に暮れている俺の耳に、このシチュエーションでありえない声が聞こえてきた。
 おお…という、普段なら感嘆を意味する響きと共に。

「いやー、近頃の若いもんにしては感心ですな」
「最近は草食系だのなんだので、女に手を出す気合いの足りないもんが多いですからな」
「すげえ…、俺あんな風に痴漢する勇気ないよ…」
「わしももう少し若かったら…」

 え? えっ? 何この賞賛の声の数々は。濡れ衣だけど、俺、痴漢したんでしょ?
 訳の分からないまま不意に視線を被害者(?)の女の子に向けると、当の女の子も別に泣いているわけでもなく睨んでいるわけでもなく、むしろ微笑んでいた。ただし俺の手首は握ったまま。

「あ、あの…。どゆこと?」

 やっと俺の口から発せられたのは、間の抜けた言葉だった。
 それを聞いた女の子は困ったような表情を見せて、すまなさそうに俺に言った。

「あ…、すみません。ご迷惑でした?」
「ご、ご迷惑?」
「いえ、その、触られてうれしくなっちゃって、電車内で痴漢するだなんて勇敢な方だと思って、皆さんにも知ってもらおうと思ってあんなことしたんですが…、ご迷惑でしたか?」

 やっと俺の手首を離してくれた女の子が、少ししょぼんとした表情で言う。
 え? 触られてうれしい? 痴漢が勇敢?
 この子ってこんなに可愛いのに、もしかしてちょっと変な子なのかな、と思ったが、無関係なはずの周囲の乗客の反応もおかしいことを考えると、どうも解せない。

「あ、いや、迷惑じゃないというか何というか…」
「ああ良かった! 私、痴漢さんに触られるの初めてなんです。こんなに勇気があって立派な人に触ってもらえるなんて、私、うれしいです…」

 頬をぽっと染めて、痴漢行為されたことを喜ぶ女の子。
 周囲は俺を咎めるどころか、拍手でもしそうなぐらい微笑ましく見守っている。
 なんなんだ、この異空間は!? まるでこの周囲だけ常識が変わってしまったような。
 夢だ、夢に違いない! と思いたいところだが、幸か不幸か、俺には一つ思い当たる理由があった。
 今朝、あの爺さんが置いていった、財布の中の『免罪符』だ。
 あの『免罪符』について、爺さんはたしかこう言っていた。

『…これを所持しておれば、全ての罪は神に許され、精霊に許され、そして人に喜んで許されるであろう…』

 …えーっと。『人に喜んで許される』ってのはこういうこと!? 何か意味違わないか? と思いつつも、現に目の前に喜んで許してしまっている子がいる以上、信じざるをえない。
 ちょっと待て。あの爺さん、俺にとんでもない物を置いて行ったんじゃないだろうか。しかもたかが飯をおごってやっただけで。
 これさえあれば、『全ての罪』が許されるってことは…、

「あのー、痴漢さん?」
「えっ!? あ、な、なに!?」

 俺を思考の迷路から引き戻すように、女の子が俺を見上げて呼んでいた。
 そして、少しうつむいて恥ずかしそうに言う。

「もう…私のこと、触ってくれないんですか?」
「へっ?」
「私、胸もあんまりなくてお尻もちっちゃくって、痴漢さんからしたらあまり触りがいのない体かもしれませんけど…」
「い、いや、そんなことないって! 君みたいな可愛くてスレンダーな子、けっこう好みだから、うん! 君だったらいくらでも触っていたいよ、ほんと!」

 とっさのフォローで訳の分からないことを思わず口走ってしまったが、当の女の子はセクハラを通り越して変態の域まで達してしまったその言葉を、

「良かったぁ。じゃあ、私のこといーっぱい触ってくださいね」

 と語尾にハートマーク付けたかのような甘えた声で、実に嬉しそうに言っていた。
 え、えっと。本人のOK出たんだから触ってもいいんだよね? これは合意の上だから問題ないよね? 後で慰謝料要求されたりとかしないよね? とか思いつつ、俺は欲望と好奇心に負けて、心臓をバクバクさせて喉をカラカラにさせながら、わずかに震える右手を、徐々に彼女に近づけていった。
 目的地は、赤いネクタイを挟むように白いブラウスを押し上げる、2つの膨らみ。

「あ…」
「うわ…」

 柔らかなその場所に触れた瞬間、女の子と俺の声が同時に漏れる。
 俺だっていい歳なんだから、女性の胸に触った経験ぐらいはある。しかし、とびきりの美少女の胸を、面と向かって触ったことなんかない。それも、公衆の面前で。お金も出さずに。
 女の子は嫌がるどころかうっとりとした表情で俺を見ているし、周囲の人間が俺を止める気配すらない。
 そんな異常さが、俺の興奮をより強く煽った。今まで生きてきて、こんなに興奮したことはないほどに。その興奮の度合いは、俺の理性を吹き飛ばすには十分だった。
 いける…!と思った俺は、左手も彼女の胸にあてる。ふにゅんとした極上の感触が俺の両手から脳を直撃する。
 本人が言うほどそんなに小さいとは思えない、揉むには十分のサイズを持つ彼女の胸は、ブラウスとブラジャー越しでもかなりの揉み応えがあった。俺は獣欲に任せて、まるで子供のように夢中になって彼女の胸をふにゅふにゅと揉み続けた。
 自分では見ることができないが、おそらく目は血走っていて口も開きっぱなしなのだと思う。それだけ俺はこの状況に興奮させられていた。

「あ、あのー」

 そんな俺を、彼女の遠慮がちな一声が現実に引き戻した。

「えっ、あっ、なにかな? もしかして痛かった?」
「いえ、そうじゃないんですが、痴漢さんって、もしかしておっぱい…好きなんですか?」
「へ?」
「さっきからずっと胸ばっかり揉んでるから…。全然お尻とか触らないから、あまり興味がないのかなぁ、って。痴漢さんって、普通お尻を触るって思ってたから…」
「いや、そんなことないよ。おっぱいもお尻も大好きだ…じゃなくて」

 彼女の言っていることは常軌を逸しているが、あの『免罪符』の力だと思えば納得だった。というか、そうでないと納得できない。おそらく彼女の中では、俺が「痴漢っぽくない」行動を取る変な人に見えていたのだろう。
 なら、「痴漢らしく」やってみようか…。どうせ何をやっても許されるのなら。

「いいの? お尻、触って…」

 こう言って同意を思わず求めてしまうあたりが、まだまだ俺もワルになりきれていないと思うのだが、女の子はそんな俺にくすっと笑ってから、

「変な痴漢さん。お好きなように触っていいんですよ。何でしたら、直にでも…」

 思わず惚れてしまうような満面の笑顔で、俺を痴漢行為にいざなった。
 俺はごくりと唾を飲み込んでから、ちょっとドスを効かせたような声で彼女に『命じた』。
 お嬢さんのお望み通り、痴漢になりきってやろうじゃないか…。それも、普通の痴漢ができないようなことを…。

「なら、窓の方を向くんだ…。あと、両手をドアのガラスに付けて」
「あ、はい。向きました」

 俺に背中を向けつつ、顔だけは後ろの俺に向けて彼女が言った。
 俺は彼女の背後にぴったりと身を寄せると、普通なら即捕まるほどに彼女の身体に俺の体を密着させた。薄着の服越しに、彼女の体温とかすかな心臓の鼓動が聞こえてくる、ようだ。
 そして俺は俺で、先ほどから固くなりっぱなしのチンポを、スカートに包まれた彼女のお尻に擦り付けるように押し当てていく。
 背後から彼女の前に左手を回し、白いブラウスを手探りで裾をスカートの中から出させ、そして下の方からボタンを外していく。半分ぐらい外し終えたところで、左手をブラウスの中に滑り込ませていく。
 俺は片手でブラジャーを外そうと試みるが、どうやらフロントホックではないらしく、面倒なので指先でブラをひっかけて強引に上にずらした。

「あんっ…」

 女の子が、少し鼻にかかった甘い声を出した。
 俺はそれに構わず、今度は右手を彼女の太股に這わせる。すべすべとした太股の感触を堪能する間もなく、俺は右手をスカートの中の秘密の花園へ向けて上げていく。

「あっ、そんなところも…」

 もちろん女の子は非難しているわけじゃない。まるで期待しているかのように言った。
 俺は手探りで、左手は柔らかな乳房の先に尖る乳首を、右手は視界の外なので残念ながら柄のわからないショーツのゴムの部分を探り当てた。
 そして俺は、彼女の耳元に背後から口を寄せ、ささやくように言った。

「ねえ…、どうだい? 電車の中でこんなことまでされちゃって、どう思う?」
「すごいです…、大胆すぎて、感激しちゃいます…」
「感激してくれるんだ。じゃあ、お礼にもっと凄いことしちゃうよ…?」
「あ、はい、どうぞ…」

 俺は彼女の承諾の言葉に合わせて、左手できゅっと乳首をつまみ、右手はするっと彼女の秘所に滑り込ませた。

「はあんっ」

 その刺激に、女の子が甘い吐息を漏らす。
 その声を号砲とするかのように、左手は徐々に硬くなっていった乳首をいじったりおっぱいをもにゅもにゅと揉みしだく。右手は若草生い茂るクレバスの感触をじっくりと堪能する。股間のきかん棒は今にも彼女の中に入りたがっていて、まるで意思を持ったかのように俺の腰をぐいぐいと彼女に押しつけさせる。
 そしてそれらのアクションを起こす度に、女の子が快感に身悶えて、

「ああっ、あっ…。痴漢さん、すてき…」

 と、甘いあえぎ声を上げる。
 たまらんっ! 制服姿の女の子と電車内でけしからんことをやれている。しかも、周囲にバレバレなほどに無茶しても誰も止めないし、被害者本人も全然嫌がらない。むしろ喜んでいる。世の中には嫌がる女をどうこうすることに興奮するたちの男もいるけど、俺自身はあまりそういうのは好みじゃないのでかえって好都合だ。
 やがて、興奮の頂点に達しつつあることが股間から脳に伝わってきた。このままズボンの中で果ててしまうのはあまりにも情けないし、せっかく何をやっても許してくれる子がそこにいるんだ…。
 俺は彼女の耳を一舐めしてから、再びささやいた。

「なあ…、今、君のお尻に押しつけてるの、何だかわかるよね…?」
「えっと、その…、ああん…、その…」
「知らないわけないだろ、学校でちゃんと習ってる歳なんだから。それとも、近頃の女の子はエッチな本で予習済みかな?」
「もちろん知って…はんっ、ますっ。おちんちん、おちんちんが私のお尻にぐいぐいって…」
「そう、それが君の中に入りたがってるんだ。もちろん、やっちゃっていいよね…?」
「え、ええ、それは構いませんが…、その…」
「なんだい? 君が恥ずかしくっても、俺は痴漢だからやっちゃうよ…」
「いえ、あの、もう終点なんですけど」
「…へ?」

 間の抜けた声を出して我に返った俺が見たものは、終点の駅のホームに向かってどんどんと減速していく、車窓の景色だった…。

「あの、いっぱい触っていただいて、ありがとうございました!」

 あれだけ着崩させたにも関わらず、ホームに着くまでのわずかな時間でそれなりに衣服を整えてしまった女の子が、深々と俺にお辞儀している。

「痴漢さんって思ったより変態で、私、とっても感激です」
「あ、そ、そう…、そりゃどうも…」
「もしかして凄い痴漢さんなんですか? 前科十犯とかの」
「いや、初犯だし…」
「そうなんですか!? 初めてなのにあそこまでできちゃうなんて、きっと痴漢の天才なんですね」

 周囲の人々は、ただ普通に普通でない会話をしているだけの男女のことなど目もくれずに、それぞれの目的地に向かって足早に歩んでいく。そんな中、俺たち2人だけがホームに留まって、向かい合って立っていた。
 そして女の子は誉めてるのかよくわからない誉め言葉を並べて、うっとりした視線で俺を見つめ、俺はその言葉に苦笑しながらも、突然の中断で行き場を無くしてたぎりまくっている俺自身の欲望をどうしてくれようかと内心苛立っていた。

「あの、良かったらサインとかもらっていいですか? 学校のみんなに自慢したいから」
「サインって…」

 いや、芸能人と痴漢を混同されても困るんだけど。でも、女の子が痴漢相手にここまで誤認してしまうほど、『免罪符』のパワーが凄いことがよくわかる。なら…。
 俺は心の中でにやりとほくそ笑むと、たぶんいやらしさ全開の表情で彼女に言った。

「…そうだ、先に名前教えてよ」
「あ! すみませんっ! あんなに痴漢してもらって私、名乗ってなかったですね。私、川崎亜矢っていいます。この近くの女子高に通ってます」
「へえ、亜矢ちゃんって言うんだ。じゃあ亜矢ちゃん…」
「はい。あ、色紙はないからノートでいいですか?」

 そう言って亜矢ちゃんは肩から下げたバッグのファスナーを開けて、ごそごそと中を探し始めた。
 俺はそんな亜矢ちゃんの手首を無言でつかむと、きょとんとする彼女をよそに、その手を下の方へ、俺の股間の方へ強引に持っていって、押し当てた。亜矢ちゃんは、ちょっと驚いたような、それでいて嬉しそうな表情を見せる。
 そして、鼻と鼻が触れ合うかのような至近距離まで近寄って、スケベ心全開で言った。

「サインよりも、いいものをあげるよ…」

 ぱしん、ぱしんっと狭い室内に肌と肌がぶつかり合う音が響く。
 ここでは普段ではあり得ない、絶対にあってはならない音が。

「ふあんっ、痛いのに、痛くされてるのが、ああっ、うれしいですっ!」
「そうだろ、亜矢ちゃんは今俺にレイプされてるんだ」
「れいぷっ、痴漢さんに、レイプっ! わたし、こんな形でバージンじゃ、なくなる、なんてっ、ひゃあっ」
「最悪だったかい?」
「ああんっ、あはぁっ、ううん、さいっ、こぉぉほほぉっ!」

 先ほどまで彼女が純潔であった証を彼女の太股に滴らせながら、俺は亜矢ちゃんの背後から無慈悲に肉棒を突き込んでは抜き、そしてまた抜き差ししていく。
 痛覚も何もかも快感に変えられたかのような声を上げ続ける亜矢ちゃんの前には、彼女には全く縁のないはずの物体…男性用小便器があり、彼女はその縁に手をかけて前後に揺り動かされる前倒しになった身体を支えていた。
 そう、ここは駅の男子トイレ。そこで俺は欲望の限りを亜矢ちゃんに叩きつけていた。
 チェック柄の制服のスカートも、実はピンク色だった可愛らしいショーツも、今は彼女の左足首に絡まっているだけだ。ブラウスのボタンは全開で、俺の手によって再びブラジャーから外に出されたおっぱいと制服の赤いネクタイが、重力に引かれてぷるぷると前後に揺れている。
 そして俺は、彼女の細い腰に両手を当てて、リズミカルに自分の腰を前後に動かしている。その度に、

「ひゃあんっ、ふあっ、だめえへぇ…!」

 亜矢ちゃんがはしたない声を上げる。
 当然『公衆』トイレなのだから、こうやってお盛んにまぐわっている最中でも時折用を足そうと男が入ってくるのだが、皆、「なんだ、騒がしいと思ったらただのレイプか」と言いたげな無関心な表情で自分の用事に没頭するか、「最近の若いもんにしては、レイプするほど元気があってよろしい」と年輩の人に激励されるかのどっちかだった。全員が俺の味方だと言える。おそらくこの場に、駅員や警官がやってきても全く問題ないだろう。…たぶん。
 それに、

「ああんっ、いいっ、いいですっ、はじめてなのに、痛いのが、いいですぅっ!」

 犯されている本人が、はしたない表情でよがりまくっているのだから文句ないだろう。いや、本来なら問題大ありなんだけど、『免罪符』を持っている俺は、今や何だって許される存在なのだ。うら若い乙女を精液便器代わりにレイプしようと、何しようと。
 俺は上半身を少し前に倒して、彼女に語りかける。

「ふふふ…、初めてなのにこんなによがっちゃって。亜矢ちゃんはきっと淫乱だったんだね」
「しょんなぁ、あんっ、男らしくて、かっこいい痴漢さんに、っ、こんなおトイレで、はあんっ、強引に犯されちゃったら、誰だって、ああんっ、感じちゃい、ますっ…! くぅんっ」

 今の彼女には、俺が男らしくてかっこ良く見えているらしい。本来『卑劣な犯罪者』である痴漢だけど、『免罪符』の力がそう見せているのだろう。おまけに今や俺は強姦魔だ。なおさら「素敵な人」に見えているのかもしれない。
 そうこうしているうちに、さすがに俺も我慢しきれなくなってきた。俺の息子が、早く早くと射精をせがんできている。それを何とかなだめながら、俺はきつきつのあそこを前後するグラインドの速度をさらに早めた。

「ひゃあぁ、しゅごい、ですぅ! おちんちんが、おちんちんが、こすれて、いい、いいひっ!」
「亜矢ちゃん、そろそろ出すよ。もちろん中に出しちゃっていいよね」
「はいぃ、どうぞ、なかにぃ、ああっ、出して、くださいひぃ…! お願い、しましゅぅ…!」

 もちろん、『強姦魔』の『脅し』を拒むわけもない。亜矢ちゃんはまるで自分が中出しされたいかのように、俺に懇願するように言った。
 だとしたら、リクエストに応えるのが礼儀というものだろう。

「よし、出すぞ、出すぞ、出る、出るっ!!」

 これまでに感じたことのない快感と共に、俺は亜矢ちゃんの中に、俺自身の分身を何度も、何度も打ち付けていく。

「あっ、ああっ、ああーっ、入って、入ってきます…っ! わたひ、レイプされて、中に、出されてる…ぅ! あああーーーっ!」

 それと同時に、膣内に俺の精液を感じたのが引き金になったのか、亜矢ちゃんは盛んに身を震わせて絶頂の快感に酔いしれていた。

「ネクタイは…、こんなもんか。あ、そこまたぐようにして、腰をちょっと落として…、そうそう、がに股に。両手は…そうだな、ピース作ってよ。うん、ダブルピース。んで、片方は頬の横で可愛くポーズ作って。うん、そう。で、もう片方は…おまんこの割れ目を指で開こうか。お、かわいいよー。あ、おしっこ出そう? じゃ、ついでにしちゃおうか。3・2・1で。準備はいい? はい笑って笑ってー。いくよー、3! 2! 1!」

 ピロリン♪

 ぱっと輝いたフラッシュと共に、携帯電話の液晶画面に亜矢ちゃんの今の痴態が映し出され、そしてそれがメモリーに記録されたことが表示される。
 ぴちぴちの清純女子高生が、男子トイレで、下半身丸出しで、小便器をまたいでがに股に立ち、今破られたばかりの秘裂を指で押し広げ、膣内から精液をだらりと垂らしつつ、ブラウスが全開になって丸見えのおっぱいの谷間にネクタイを挟み、小首をかしげて可愛く微笑んでポーズを取りながら放尿をする姿。世のスケベ男が何十万円出しても買い求めそうな変態写真が、確かに今、俺の物となった。

「ちゃんと、撮れました?」

 おしっこを出し切っても、まだがに股ポーズをとり続けている亜矢ちゃんが俺に聞く。

「ああ、もういいよ。ちゃんと撮れたから。何だったら見てみる?」

 軽く手を挙げて答えると、亜矢ちゃんはポーズを崩してこちらにやってきた。ほぼ半裸のひどい姿だが、もう服を直すような気力はないみたいだ。表面上はにこにこと楽しそうだけど。
 そして彼女は、携帯電話をのぞき込むようにして俺に聞いてくる。

「ありがとうございました。ちゃんと可愛く撮れてます?」
「もちろん」

 俺はボタンを操作して、問題の写真を亜矢ちゃんに見せてあげた。

「ほら、ちゃんと撮れてるだろ?」
「うわ…、すごいの撮れてますね…。こんな写真撮られちゃったら、私、もう一生痴漢さんの言いなりですね。きゃっ、どうしよう~」
「そうだよ。これをネットにばらまかれたくなかったら、かわやちゃんは俺のどんな命令でも従うしかないんだよ」

 そう、俺はこれを『記念写真』ではなく、『脅迫写真』として撮ったのだ。もちろん『免罪符』のおかげで亜矢ちゃんは喜んで撮らせてくれたが、あくまで脅迫は脅迫ということらしく、「自ら望んで撮られた写真で脅されて喜んで言いなりになる」という奇妙で嬉しい状況が成立したようだ。もっとも、ネットにばらまく気なんてさらさらないが。こんな写真、俺が独り占めにするに決まってる。
 一方哀れな強姦脅迫被害者のはずの亜矢ちゃんは、口元に両手を寄せて実に嬉しそうにしていた。

「わあ、うれしい…。脅迫だったら、何でも言うこと聞きますね。…で、かわやちゃんって?」
「ああ、亜矢ちゃんの新しいニックネーム。さっき考えた。かわさきあやを縮めて、かわや。俺が犯している時の亜矢ちゃんって、便器みたいだなーって」
「変な名前を付けてくれて、ありがとうございます。でも、便器とどう関係があるんですか?」
「何言ってるの。かわや、って、昔の言葉でトイレのことだよ…」
「えっ、それじゃ…」

 俺は笑いを堪えきれず、くっくっと下品な笑みを漏らしてしまった。
 一方彼女は俺の真意を先に理解して、どんどんと顔に笑みが広がっていく。

「そう。君は今から俺の性欲処理便所だから。俺が犯したくなったらどんな場所でもおまんこ開いて俺を受け入れるんだし、恥ずかしい命令だって何だってやるんだ。俺が恥ずかしい写真をメールで送れ、と言ったらいつでもどこでもやるんだよ、いいね?」
「はい、わかりました痴漢さんっ!」

 きらきらと目を輝かせて返答する少女。はたから見れば頭のおかしい子に見えるかもしれない、いや、もう『免罪符』のパワーで誰もそう見ないかもしれないが、とにかく彼女の中ではそれが嬉しくて誇らしいことだと認識されているのだろう。
 でももうさすがに「痴漢さん」と呼ばれるのもあれだよな。変えさせるか。

「痴漢さんはもうやめてよ。ベタだけど『ご主人様』って呼ぶんだ。君は俺の便器なんだから」
「はいっ、ご主人様! これからも私を脅して、好きなように使ってくださいね!」

 そう言って亜矢ちゃん改めかわやちゃんは、俺の首筋にぎゅっと抱きついてきた。
 俺はそんな彼女の顔を両手でそっと俺の正面に持ってこさせると、まるで契約の儀式のように、少女の唇を奪い、そして舌で口内を蹂躙した。
 もちろん、かわやちゃんは拒まない。うっとりとした表情で俺のなすがままになる。

 もう今の俺にとって、完全に会社に遅刻していることなどどうでもよかった。
 どうせ、『免罪符』でどうにかなるんだから。

< つづく >

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