3の0 赤点回避運動後
「うー」
「お疲れさま」
「んー」
机に突っ伏すあたし、寄ってくる涼、いつもの笑顔の流。
10月も下旬の金曜日、今日は中間テストの二日目。……要するに最終日。
やっぱりテストは疲れるけど、テストが終わったあとの脱力感は何とも言えない快感だ。
まあ、その出来は……聞かないで。お願いだから。
「都ちゃん、どうだった?」
「聞くなっ!」
って言ってるそばからっ!
「む、せっかく勉強会やったのに」
「お前とは頭の出来が違うんじゃっ!」
「そうだねー」
「同意すなっ!」
平均点ギリギリ、赤点の経験もあるあたしと違って、涼と流は頭がいい。二人は数学で学年トップを争えるし、特に流は学年1位をとったこともある秀才だ。
「涼、てめえ山はずれたじゃないかっ!
せっかく行列のn乗死ぬほど計算したのにっ」
「都ちゃん、こういう言葉知ってる?」
「ん?」
「『投資は自己責任』」
「ほざけぇっ!!!」
「まーまー、おちついてー。
掃除の時間だよー」
あ、そうだった。
流がいすを机の上にのせて、そそくさと掃除の準備をする。
今日は大掃除だから、机を動かさなきゃいけないのだ。動かすのは教室掃除が当番の班の人だけど。
よいしょ、と立ち上がると、涼が耳元で一言。
「僕のモノのくせに、ずいぶん生意気だね?」
「!!! ……涼っ! てめぇっ!!!」
真っ赤になった顔に目一杯力を込めて、涼をにらみつける。
涼は、そそくさと私の元を離れていった。
まったく! こんな時にそんなこと言うか? フツー。
聞かれてなかったからよかったようなものの……って、ちょっと待って、聞かれてなかったよね?
そう思ってきょろきょろ見回すけど、あたし達の話を気にしているような人はいない。
はーよかった。そう思って、あたしはいすを机の上に乗せる。
だけど、あたしは気づかなかった。
あたし達を見つめている視線が、教室の中にあったことに。
< つづく >