ハート・ハック・クラッシャー 3話

三話 侵攻は徐々に確実に

「さ、此処が今日から私達の部室でーすっ!!じゃーん!!」

 悠希がドアを勢いよく開くと、一面灰色の何もない空間が広がっていた。
 しかし、それでも、今日から此処が俺達の活動の場となれる。こんなに嬉しいことはない。
 この何もない部屋をどうコーディネートしてやろうか。そう考えるだけでもワクワクする。
 …ま、他の楽しみも勿論あるんだけどね…。

「…うーん、いいですねぇ!あんまり広くないですけど、テレビ置けますし!映画見放題です!」

 後から聞けば、東堂春香は俺や悠希より一年後輩らしい。
 …のくせに、悠希より背も高いし、凛々しい感じもしていたから、さっぱり分からなかった。
 なんにせよ、新入部員として俺達のサークルに加わってくれた。

 春香との出会いから一ヶ月。
 積極的な学校へのアプローチが効き、俺達は3人で、サークル活動容認どころか、部室獲得まで漕ぎ着けた。
 3人からのスタート。狭い部室。
 やる事はまだまだいっぱいあるけど…だからこそ、わくわく出来る。

 …勿論、色々な意味を含めて、だけどね。

「んやー、夢みたいだね。なんとな~く計画してた事が現実になっちゃって」

「悠希が行動してくれたおかげだよ。これからも期待してるよ、部長様」
 
「ちょっ…か、和幸君も手伝ってよ!?ちゃんと…!」

「へーへー、分かってますって」

 エスカレーターに乗りながら、俺達はそんな会話を繰り広げる。
 今日は春香はいない。悠希と俺で、学校近くのショッピングモールに来ていた。
 此処は、中に様々なテナント店が展開していて、その中にはレンタル屋やDVDを売っている店もある。おまけに、映画館まであるという、まさに俺達の遊び場にぴったりの場所だ。
 学校は今日は休み。
 久しぶりに、映画でも見に行こう!と言い出したのは、悠希の方だった。

「見たい映画があってさぁ…ごめんね?無理に誘ったみたいで」

「そんな事ないよ。これも活動の一環。気合入れて見ようぜ」

「あはは、有難いなぁ。… …女友達で、私の趣味理解してくれる子、いなくてさ。和幸君だけだよ、ホント。」

 … …そりゃ、そうだろうな。
 何故なら…

 バァン!! 耳を劈くような銃声がホールに鳴り響く。
 ズダダダダダダ…!! 今度は遠くから機関銃。
 ぎゃああああああッ!!! 人間とは思えない悲鳴。
 スクリーンいっぱいが…赤く染まる。

 …悠希の好きな映画のジャンルは… 『ゾンビ映画』だ。

 そりゃ、こんな趣味を理解する女友達は少ないだろうなあ、と、呆れて俺は隣の席に座っている悠希を見る。
 当の本人は、まるで時間を忘れているように、大スクリーンに映るゾンビどもに釘付けだ。

 普通、こういうのは…なんていうか、嫌がる彼女を無理矢理彼氏が連れてきて見せるのが定番だ。
 個人的にこういう映画を鑑賞する女は…俺の知っている限り、悠希しかいない。
 映画は全般的に好き、というのはお互い共通しているのだが、好きなジャンルは勿論二人ともあり、それぞれ違う。
 …まあ、だからって、こりゃねーだろ、って話だが。

 俺?俺は嫌い、ってワケじゃないんだけど…正直、これは『ハズレ』だ。
 普通、ゾンビ映画っていうのは『定番』と言われるストーリー展開をなぞるほど名作に近くなるっていう法則みたいなのがある。
 ムカつく性格のデブがいち早く死ぬとか、面白黒人が奮闘するとか、ゾンビに噛まれたのを隠していて後々… ってな風な『お約束』を好む『通』が存在する。
 俺や悠希は何十本とゾンビ映画を見ているから(主に悠希のおかげで)そのお約束展開のテンプレートを嫌でも把握している。
 だから、そのお約束を期待しているんだが… この映画は妙に力が入っていて、駄目だ。展開が読めない、というのはいいことかもしれないけど、逆にイライラしてくる事も多い。生き残ってほしい人間が死に、憎まれ役が生き残り…なんというか、見ていてこっちが腹立たしくなるようなストーリーだ。

 …退屈だ。
 映画が始まって30分。ぐだぐだすぎる展開にイライラが溜まってきた。

 …俺は、悠希に見えないように…懐に忍ばせておいたハートハッククラッシャーを起動する。
 ま、退屈で携帯を開くような感じだな。
 …悠希は勿論。他の観客にもバレないように慎重に…と。

 何を思うでもなく、俺は悠希の名前を【選択】していた。

(う…)

 …?なんだ?これ。
 苦しそうな心情を知って、俺は隣の悠希を見る。
 相変わらずスクリーンを見続けてはいるが、なんだか小刻みに身体を揺らして、落ち着きがない。

(…ううううう…)
(おしっこ…したくなっちゃった…)

 …なるほどね…。そういや、入った時に買ったジュースは飲みきったみたいだ。
 しかしま、大好きなゾンビ映画から目を離したくないし、だからって生理現象を我慢し続けるのも…っていうジレンマかな。

 …面白そうじゃん。
 俺は、キーボードに文字を打ち込んでいく。

 【小便は、空いているジュースのカップに座ったままする。全然恥ずかしいことではない。また、小便が終わった後、自慰の絶頂のような快感を味わう】

 …こんなもんかな。暇潰しには最適だ。
 くく、すっかり俺も抵抗がなくなってきてしまったな…。…実行。

 びくっ。
 何か、人が変わったように、悠希は苦しげな表情を一変させる。
 そして…何も問題はないように、悠希は… ミニスカートの中に手を突っ込み、下着を膝の変までずり下ろす。

 スカートを臍の辺までたくし上げる。…少し毛の生えた、悠希の性器が、暗闇の中にぼんやりと見えた。
 横一列の席に客がいなくて良かったな、悠希…はは。
 そして、飲み終わったジュースのコップを性器に当て…

「ん… …ッ…!」

 ジョボボボボボ…
 氷が残っているせいで、割と派手な音が出る。しかし、目の前のスクリーンの戦闘シーンのおかげでそれも大分掻き消えている。

(は、ァ… 気持ちい…!)

 …大分我慢してたんだな。まだ『仕掛け』は作動してないんだけどね。

「んは、ぁ…くうう…」

 悠希は、それが当然の生理行動であるように、勢いよく小便をコップに出している。…漏れやしないか心配だったが、まあ…大丈夫そうかな。横から悠希のその行動を見て判断する。
 しかし、実に気持ち良さそうな表情だ。薄っすらと笑みまで浮かべて…

(ん…出きる…)

 お、そろそろか… さて、どうなるかな…?

(終わった… …え…?)

 どくん。
 悠希の身体に、ある変化が… 唐突に起きる。

「んやああッ…!!う、あああッ…!?」

 びくびくと、悠希の身体が震える。そりゃそうだ… 前戯もなしに、一気にイっちゃうんだもんな。どんな感覚なんだろ…?

「あはッ…!あ、ああッ…!!」

 …?
 悠希…笑ってるぞ。そんなに気持ちいいのかな…どれどれ。

(き、気持ちいいッ!おしっこ気持ちいいよォォッ!!あは、あはぁぁッ!!)

 …随分派手に、心の中じゃ叫んでるんだね。…表面に出されるとこっちも困るから、まあいいんだけどさ…ふふ。

「くは… あ…!!」

 余韻も終わったみたいで、気絶するように悠希は座席にもたれかかる。…それでも映画を見続けてるのが怖いところだけど。

「いやー、イマイチだったね、映画」

 映画が終わって悠希に話しかける。びくっ、と驚くように悠希は俺の言葉に反応した。

「あ、う、う…そうだね、あはは…!」

 …小便は常識になってても、イったことは常軌を逸した事だったからね。悠希的には恥ずかしいことなんだろうな。

「それじゃ、帰ろうか…」

 俺は悠希に話かけ…おっと。

「コップは、そのままそこに置いておきなよ。」

 …何か問題になりませんよーに。くく。

< つづく >

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