第二章の1
あれから数日が経った。
「―――ん、あぁ……」
下半身に違和感を覚えて眼がさめた。
天井は俺が長年見てきたツキ板の張られた木目の天井ではなく―――そろそろ見慣れてもいいハズの、白。
あれから俺は見知らぬ人間から郊外のマンションを一棟丸ごと無償で[譲り受け]、自分と従者を引き連れて住まわせ、自分の城としていた。
「んむ、ぷはぁっ」
性臭のたちこめた寝台には俺以外の複数の異性の気配。
「ご主人様ぁ」
「お、おにいちゃんっ」
「……オマエ等、いい加減ゆっくり眠らせろ」
ことは終わったにも関わらず、俺の体を使って欲情する従僕たちをこの畳六帖はあるベッドに沈めるべく、手近にあった手を取って俺の元へ引き寄せる。
そんな俺の手には三つの指輪が嵌められていた―――
……朝日が黄色い。
20F建てのマンションの最上階の寝室から採光度の高いリビングに向かう途中、螺旋階段の丸窓から朝日を見ながら俺は思った。
「はふ、おはよーさん」
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはようございます御主人様っ」
食卓には珍しく俺の従僕達が全員、揃っていた。
各人にあてがった部屋にはそれぞれシステムキッチンまで付いているというのにも関わらず、それぞれがそれぞれの部屋で作ってきたおかずを持ち寄ってウチの食卓を囲む事になってしまっている。
ちなみに珍しいというのはそういった行為がではなく、今日のように全員揃っていることが、だ。
普段なら俺が起きてくる頃には教師である千歳は出勤する時間であったり、一時期、俺に会うためにサボらなくなっていたくいなも同居しだしてからはどこによってから学校に行くのか、俺よりも早くウチを出て遅刻して学校に来るというパターンになっている。
千鳥に至っては最もハードで5時に起きては実家の神社の境内の掃除を行い、祖父母の朝餉の準備をしてから再びマンションに戻ってきている。
本人たっての希望であり、御嘉神の家にも世話になっていたので特別に許可した。
ちなみに雪花と千鳥は特に用事がなければ今まで通り、一緒に登校している。
あと、御嘉神家に世話になる主な要因であるウチの親父達はまだ帰ってきていない。なんでも取引が難航して滞在が伸びたらしい。
まぁ、帰ってきたとしても指輪を使えば特に問題もない。
そして―――
「…………」
もくもくとご飯を食べながら、上座の俺の真向かいに陣取りこちらを睨む少女。
ちなみに昨晩、唯一、俺の寝所にやってこなかった非常にありがたい存在でもある―――朱鷺乃 ひかりは何故か常に俺と食事を共にし、そして家であるこのマンションを一緒に出ていた。
もちろん、妹であるみなぎも一緒なのは言うまでもない。
あの時は俺のモノになると言ったものの、ここにやってきてからというもの何かにつけて反抗的な態度を示している。
その証拠に食事ではほとんど言葉を交わさない上に夜の生活も自分からやってくる事もなく、俺からも別にいく事はなかった。
かわりに異母妹であるみなぎが俺のところにくるのを咎めようとしないところを見ると、とりあえずは静観を貫く事にでもしたのだろう、難儀な性格だ。
まぁ、誰もが従順でいるよりは一人くらいからかって遊べる相手がいた方がいい。
とはいえ、この非友好的な関係が精神安定上、好ましくないのが3人ほどいたりする。
真っ先に挙がるのがひかりの妹兼、使用人でもあるみなぎ、そして俺の幼なじみでひかりの親友でもある千鳥、そして担任の千歳、俺の能力がわかっているみなぎはおくびにも出そうとしないが、後者の二人は内心、かなり気にしているのがよく伝わってきていた。
まぁ、時がくれば堕ちるだろうし、2人とも表面上はよろしくやっているのでその3人以外の前では偽りの仮面をかぶり合っているのが楽しい。
なにより俺もひかりもこれはどちらかと言うとケンカというよりはゲームに近い事を認識している上に少なくとも俺はこの事態を楽しんでいる。
向こうに余裕が在るのかと言えばおそらくはNOだろうが。
こちらの視線に気付いたのかひかりが箸を口につけたままなんですかと視線で返してきたがにやりと笑うと怒ったように視線をそらした。
「にしてもなんで今日はなんで全員そろってるんだ?」
特に千歳は出勤時間を過ぎているだろうに。
「……きょうからがくえんさい」
「の準備期間なんです。
だから私の車でみんなを送ろうと思って」
「……あぁ、そうか」
準備期間てコトは学園内外の出入りのチェックが甘くなる上に生徒が教師の車に乗っていても不思議に思われない。
……まぁ、だからと言ってその外見によって必ず無免許嫌疑でパトカーに止められるであろう千歳の車に乗っていこうとは思わないが。
俺はいつも通り自分の席につくと雪花がよそった茶碗を手に取ると目の前にあったウナギにぱく付いた。
朝から食うモンだとも思えないが少しでも体力を回復しておかないとやってられない。
ちなみにこの部屋にいる従僕の数は増えていない。
つまり、あれ以来、狩りはしていなかった。
……体力的な問題じゃない。いたずらに時間を潰すよりは指輪について調べる為のまとまった時間がほしかった。
この手元にある指輪に潜む魔神達。
ただ[在る]必要のない[使われること]にのみ意味を見いだされる、畏怖と異常と異能の象徴―――を自分の手の内に掌握するために。
そんなワケで昼休み、俺は第2図書館でセンパイが訳したという本を読んでいた。
普通、本というのは訳されたり写されたりする際、その訳者、写者の意思によって写されたり脚色されたりするなどの[磨耗]が生じる。
幸いセンパイから借り受けたその本には何一つそこに意思も意図もなく訳してある文だったため、正確にその内容を知ることができた。
だが、それは即ち、生々しい内容ということで―――理解しても納得するまでにはそれ相応に時間がかかる、そんな気がした。
「ふぅ……っ」
眼を本から開放し俺は一息ついた。
俺はあのマンション―――城を手に入れたとはいえまだするべきことはたくさんあり、また同時に守らなくてはならないモノも数多く増えた。
そのために新たな力、要は指輪に宿っている魔王達の持つ能力を得るのと同時にそれを引き出す為にはどうしたらいいかをこの本から得ようとここ数日、第2図書館に通い詰めていた。
今、目を通して分かった事は契約についてだった。
契約についてはそれに最も適した日時や月の満ち欠け、場所などの環境があり、それによって呼び出す魔王達の機嫌や態度、力などが変わり、なるべくこちらにとって有利な交渉を可能にすることができる、というものだった。
それによると残り3つの指輪の契約は一つは2、3日中にできるというものだったが、残りの2つはかなり条件が絞られ、約1ヶ月後と半年後にならなければできない、というものだった。
強い魔神ほど絶対的にこちらに有利な日が少ない。即ち、それだけ強い魔神の指環を引き当てた、というコトだ。
当然といってしまえば当然かもしれないがこれほど厄介な事もない。
無論、それはこちらにとって有利な契約ができる条件であって仮に相手を上回る力があるのだとすれば別にそんな法則に従う必要はない―――が、そんなコトができるモノなら魔王達の力を必要とするはずもなく、結局は従った方が賢明、ということだった。
「あと必要なのは―――」
今、契約している魔王達の更なる力の引き出し、か。
ダンタリオンは当たり前として新たに契約した2柱の魔王達の研究も怠る事はできない。
あと、魔王達には地位が存在した。
その数、指輪と同数の72。
俺が手に嵌めている指輪のナンバーはそのまま地位を表している。即ち、8位、55位、そして―――71位、ダンタリオン。
72柱の魔神たちの中には透明人間になれるモノだっているのに俺の指輪はあまりに戦闘に向いていない。
できることと言えば―――普段は開けられることのない図書館の窓を開けると空を飛ぶ2羽のスズメが俺の目に留まった。
元気よく鳴いている。
俺は左手の中指に指輪を嵌めると意識を集中し、指輪の力を発動させた。
すると、俺には今まで聞こえていたものとは異なる音が聞こえだす。
『よう兄弟、最近どうだい?』
『あぁ、ダメダメ、エサ場が減っちゃってこのままじゃ暑さのあとの寒さに耐えられない』
『そうだなぁ、なんだったっけ、あの高いところの少し拓けたところ、あそこのニンゲン、エサをくれるからいいな』
『あぁ、おかげで子育てが楽になって助かった。花が落ちた頃、ツバメもそう言っていた』
『ニンゲンにしてはいいヤツだ』
『あぁ、ニンゲンにしてはいいヤツだ』
『アレのおかげでカラスみたいに街まで降りなくてすむからな』
『あぁ、済むからな。そういえばカラスだが』
『カラスがどうかしたか?』
『街の一番高い木があるだろう?』
『あぁ、あの森の木は食べられるものが何もならないイヤな森だ。
イヤなものの蒐まるイヤな森だ』
『あの森の小さな泉の中に光るものを集めてるってハナシだ』
『あんな食べられもしないものを集めるなんてどうかしてる』
『どうかしてる』
とまぁ、こんな感じで鳥の声が理解できるようになった。
これがナンバリング8位、力天使の公爵・バルバトスの能力。
……いいヤツってのは多分、千鳥の事だろう、よく境内に豆をまいては鳥が群がってきていた。
そもそも、街から離れていて高台で少し開けたところなんて鴨家神社くらいしかない。
イヤなモノってのは人間には便利なものでも鳥には様々なイヤなもの、というよりも理解できないもの、いちばん顕著な例をあげるならガラスか、まぁ、そんな所だろう。
あとはカラスの集めた貴金属か、あとで獲りに行ってみるか、何か掘り出し物があるかもしれない。
そんなことを思いながら俺は視線を落とし教室のある校舎を見た。
いつの間にか校舎は夏休み前にある文化祭の準備に追われる生徒たちでごった返している。
この学校はこれから一週間、文化祭準備期間に入る、というより入っている。
他の学校の話は聞いたことないが、付属の幼・小・中・高、大とここいらの子ども達を集めての大々的な催物なので町をあげての祭りになる。
俺のクラスでもひかりや千鳥がクラス委員として祭りの準備をしている。
そして、俺はただ静かにその様子を眺めていた。
何のことはない、センパイとの約束を守ってここ、第2図書館で司書の真似事をしているだけだ。
そもそも祭りの準備も参加もおっくうなのでこれから1週間、俺はここでサボタージュすることを決め込んでいた。
千鳥にも文句をいわれたが、なんせ司書の代理だ。大義名分も立つ。
ここ数日、数人の利用客がいたのにも関わらず準備初日の今日の利用客はいなかった。
今日は利用客はない。だが、俺は知っていた。そして、待っていた。
準備初日だから誰もこないわけじゃない。あの人が来る、だからその為に邪魔なモノはいらないのだと―――
そして、不意に背後から声がかけられた。
「―――お久しぶりです、カラス君。
ちょっと手が空いたんで寄ってみたんですがどうですか?」
「あぁ、お久しぶり、センパイ。
見ての通り暇してますから話し相手になってくれると助かるんですがね」
振り返る。
そこには以前と変わらず張り付いた笑みを持った椙森センパイがいた。
センパイは周囲を見回して誰もいないのを確認して再び口を開いた。
「最近、調子はどうですか?」
いたって普通の内容、そう、誰もいないのを再確認したのは誰かに聞かれて困るような会話をするためではなくここが図書館だったからだ。
「別に。変わったことなんてほとんどないですよ」
「何も―――ですか」
「はい、強いてあげるなら住む場所が変わったくらいですね」
「あらあら、それは素敵ですねぇ」
「大したことじゃないですよ」
「いえいえ、これでカラス君も一国一城の主です」
住む場所が変わった。それだけの情報で俺が何をしたかを把握したかのような言い回しに思わず息を飲む。
ズレたメガネの奥の瞳はどれだけ看破しようとしてもただ微笑みをたたえていた。
「国と、城、ですか。
そんなたいしたモノじゃないですよ」
「そこにヒトがいて、それらを統べるモノがいて、統べる場所があればそれは王でありそこは国、そして王がすむのは―――城ですよ」
本当、このヒトは一体どこで何を見ているのか。
「まるで中世のような話ですね」
「えぇ、戦国時代です」
「せん―――ごく?」
「えぇ、城とは守るべき場所、そして撃って出る場所。
城を持てば必然的に敵が発生します。
また、城を持たない徒党は各個撃破されるだけです」
ごくり、と息をのむ。
「ちょ、ちょっと待ってくれセンパイ、敵って―――」
なんのことだ、そう言おうとした瞬間。
「―――指輪はいくつありました?」
「っ!!」
ゆびわはぜんぶで、いくつあったのか
フラッシュバックする。
クリスの持っていたジェラルミンケース、あの中には指輪が71個
俺が手に入れた6個を除いてあの中には65個。
「ほら、いるじゃないですか。他の指環を手に入れた指環使いたちが」
「オカマ―――クリスが他のヤツ等に指輪を売ったっていうのか?」
「ここ数日で街がかなり不穏な空気を帯びてきたのは知っていますか?
「…………街が?」
「えぇ、まるで14年前と同じ空気です」
「っ!?
大神隠しのときと―――?」
「えぇ、明らかに複数の存在が独自に動き、この街の大規模な土地の所有者が次々に入れ替わっています。
そればかりか表には出ていませんが不明確、しかもそれぞれに手口の違う事件が多発して警察が対応に追われています」
「それって……」
さっきの鳥達の会話を思い出す。
イヤなモノが蒐まっている。アイツ等はそう言っていた。
蒐まっている。それはまさか―――
「えぇ、そうでしょうね」
何が、とは互いに言わなかった。
言わなくても分かる。
俺のような連中が好き勝手暴れまわっている、ってコトだ。
しかも警察が動いているってのは合法じゃない、明らかに人外の力を使って非合法活動をしているというコト。
この狭い学園の中で暴れてきた俺の方がかえってかわいいくらいだ。
「だけど俺はこれ以上、指環なんか―――」
必要としていない、そう思ったが気付く。
街中で平然と指環を使って他人を傷つけるような連中にヒトとしてのモラルを求めるなんてどだい無理な話だ。
そんな連中の目の前に指環をちらつかせればどうなるかは火を見るよりも明らか。
こんなチカラが目の前にあったらどうする?
転がっていたなら、なんとしてでも、拾う。
売っているなら、なんとしてでも、買う。
そして誰かが持っているなら―――なんとしてでも、奪い取る。
間違いなくそういった類のこの力、71の指環、アレを全て手に入れられるのならば…………
「そうだ、な……」
「えぇ、城を構え陣を敷き、王の中の王として君臨するために他の指環使いたちは貴方の指環を奪いにきます」
そう、取られずにすむ、とか言う問題なんかじゃない。
奪るか奪られるかの状況なのだ。
「カラス君はどちらを選びますか?」
奪る側か奪られる側、か。
城を築いた以上、そこには既に守らなければいけないモノがいる。
俺が奴隷どもを放棄して一人で野に下る、という方法もあるのだろうに目の前の女は俺はそんなことはしないといってきた。
……まったく、どちらが心を読める立場にいるのか分からなくなる。
―――そう、答えは既に決まっている。
「王になる以外に道はない、というのなら俺は―――」
それは、とても、かんたんで、とてもむずかしい、せんたく。
なんとしてでも、王に、なる―――
「ありがとうございます、センパイ。
おかげで決心がつきました」
「いえいえ。
他人の私ができることなんて声をかけることくらいですから」
にっこりと楽しそうに笑う。
このヒトにとっては何もかもがゲーム程度でしかないのだろう。
「それにしてもあんな情報、どこで手に入れてきたんですか?」
「女の子には不思議がいっぱい……という所なんでしょうが特にたいした事はしていませんよ。
あえて言うなら妹に調べてもらった調査書を読んで誰かに話したかっただけなんです」
「これを調べられた妹さんもすごいが調べさせる事柄に着眼したセンパイも大したモンです」
「お褒めいただき光栄です」
「…………あの、センパイ、言いましたよね、14年前と同じ空気だって」
「えぇ」
先輩ののんきな返答とは裏腹に戦慄がはしる。
「もしかしてセンパイは14年前のこと何か知って…………いや、この指輪が関わっているんじゃ―――」
と、そのとき
「せんぱーい、いるかー?」
図書館のドアのほうから男の声が聞こえてきた。
確か同学年、隣のクラスにいたヤツだった気がする。
「あら、お客さんです。
それじゃカラス君、申し訳ないんですが……」
「えぇ、また今度……」
まるで今度はいつ逢えるかは分からない大人同士のようにまた今度、そう言って俺は先輩を見送った。
センパイは図書館の入り口のほうへ行き、やってきた男と2、3言話すと
「それじゃその方にわたしがガツンと―――」
そう言って出て行く。
「だから悪いコトは言わない。やめて―――って、いない!?
いつの間にっ!」
二人の足音が次第に聞こえなくなり再びこの部屋には静謐が訪れる。
さて、と。
しばらくはゆっくりとできると思ったんだがな。そうもいかなくなったらしい。
ゆっくりと俺の中でくすぶっていた何かが加速していくのがわかる。
歯車はかみ合いそれは俺の中で大きいうねりになっていく。
みなぎの時の比じゃない、もう止まらない、それはたまらない昂揚感になり俺を突き動かす原動力となる。
未だ見ることのない敵意が、害意が、殺意が俺に生きているという実感と衝動を与えてくれる。
……上等―――、これからバケモノ共と敵対しなければならないというのなら、それら一切の存在を許さず叩き潰してやる。
幸い、今日は自分の周りに従僕は誰もいない。
「少し街をぶらついてみるか…………」
俺は図書室の[OPEN]と刻まれた金属性のプレートを手に取るとそのままひっくりかえした。
19:00だというのに外はまだ青みを残した夕暮れになろうとしている。
正直なところ、昼よりも夜の方が好きな俺としてはこの時期はひどく心地が悪い。
その上、ひどく暑い。だが、ただ暑いならまだいい。
問題なのは暑さではなく、ここ、ビル群が昼に吸い取った熱の残滓と風通しの悪さによってできあがった湿気の高さだった。
それら二つが見事にマッチングして最悪のハーモニーを作り出している。
そんな蒸し暑さに悪態をつくかのように俺は口を開いた。
「……もう少し、か」
「なにがですか?」
「水浴びする時間だよ。
知らないのか?いま夜中に公園の噴水で水浴びすんのがはやってんだぞ?」
「……そ、そんなこと知ってますっ、バカにしないでください!」
ムキになって肯定するのは世間知らずの姫君だった。
あのまま学校をバックレようとした際、委員会に行こうとする千鳥は俺を捕え、明日から使う資材の調達を押し付け、しかもその目付役として朱鷺乃 ひかりを同行させてきた。
俺もひかりも心底イヤそうにしたものの、互いに公私ともども、優等生で通っている。他のクラスメイトがいる前じゃ断れなかった。千鳥もそこをついて仲良くさせようと気でもきかせたのだろう。いらないことをしてくれた。
まぁ、あの時は内心舌打ちしたものの、みなぎなし、お供なしで出歩くのは生まれて初めてらしく、存外、俺を楽しませてくれていた。
その良い例が目の前に広がっていた。
こともあろうに姫君は既にヒザから下が浸かりきり、飛び込んだ時に跳ねた水に濡れた夏の制服は薄い生地で透けてしまい、やたらと気合の入った下着が見えていた。
「ウソに決まってんだろ、本気にするな」
「なっ……!」
たちまち顔を紅くしたひかり。さっきからこんなんばっかだ。
「いきなり教室にやってきて帰りに買出しを手伝ってくれるって言うから付いてきたのに無駄なようでしたね……っ!」
「まぁ、そういう流れになるかな」
そんな俺の一言にひかりがきびすを返して帰ろうとするのをからかうような口調で押しとどめる。
「帰ります!」
「あぁ、分かった分かった。
それじゃとっとと俺の要件を済ませるからちょっと待ってろ」
「貴方の―――用件?」
そんな声を背中で聞きながら俺は靴と靴下を脱いで制服のズボンをめくり上げるとひかりと同じ噴水の中に入り込む。
熱された蒸し暑い湿気とは大局の冷やされた霧状の湿気が心地よく俺を俺を包み込んだ。
「―――っ!からすくんっ!?」
驚いたひかりが思わず後ろで俺の名前を叫んだ。
「ばかやろ、こんなところで人の名前を叫ぶんじゃねぇっての……っと」
まぁ、今の声がなかったにしろ、まだこれだけ明るいんだ。どうしても人目につく。
もう少し暗くなってからがよかったんだが……俺も待つのはいい加減飽きたんでとっとと要件を済ませなきゃ、な。
噴水の発射口のある高さ2メートルほどのせり上がった部分のふちに手をかけるとそのまま半身を乗り上げ、直径30センチほどの環状の噴水口の目に手を突っ込むと底は浅く、何かしら硬いモノが手に当たった。
―――ビンゴ
鳥たちの言っていたカラスの光りモノ隠し場はここだった。
普通、巣なんかに持って帰るのにも関わらずここを隠し場所にするってことは噴水の止まる夜のこの噴水口を水場にしているのだろうか、まぁ、そんなことまで知ったこっちゃない。
右腕を噴射口の向こう側にひっかけ、左腕で中にガラス片などの危険物がないか丁寧に確認して価値のありそうな感触のモノばかりを掬いあげていく。
ズボンの左ポケットが一杯になるかならないか位であらかた回収は完了し、手を持ち上げようとすると―――
プシャアアアアァァァッ!
「うわっぷ!」
停まったハズの噴水が景気よく噴き出し、顔面からモロに受ける!
噴水口にかけていた右手はその水圧で俺の頭上にまで吹き上げられ、思わず空いていた左手でへりを掴もうと試みるが―――
かちり
「―――っ!?」
何か硬質のものに引っかかった感触とともに左手も滑り、俺は背中から下の吹き溜まりに背中からダイブした。
「ぷはっ!」
「カラス君っ!」
「だから呼ぶなってのっ!」
そう笑い叫ぶと間髪いれずに濡れるのも構わず、いまだ止むことのない噴水口に近づくとさっきまで死角になっていた手前の縁のへりの下に指で探る―――とくぼみがあり、そこには慣れた感触のモノが在った。
それに指を通さないように、水圧に負けないように、慎重に掴むと俺は水飛沫が飛び交う中、なんとか片目をうっすら開けてそれを確認すると満足感とともに再び水の流れに身を任せた。
「うー、さぶ」
「……信じられません」
「知らないのか?
いま濡れた制服で歩くのが流行ってるんだぞ」
「……バカにしないでください。それもウソなんでしょう」
静かに怒った声が背中に突き刺さる。
「あぁ、一応ウソだがこのままじゃ2人とも風邪を引くのは本当だな」
「………………」
声がない、同意らしい。
さいわいここは街の中心部だ。表通りから通りを2つ奥にいくだけで―――花街に辿り着く。
あともういくつか奥に行けば俺が指輪を手に入れた通りにも辿り着く。が、あそこにはもう何もない。あのあと何度か行ってみたが行き倒れも露天も無かった。
「……どうした?風邪引くぞ、とっととついて来い」
ひかりが俺が入ろうとしている建物を見上げて自身なさそうに呻いた。
「だけどここって……」
「よく知ってたな。そういうコトをするところだ」
「電話してみなぎちゃんに迎えに来てもらいます」
朱鷺乃ひかりというお嬢様はケイタイを持っていないため、公衆電話を探しに外に出ようとしたが―――
「アイツ、今日、千鳥と同じ文化祭実行委員会だぞ」
「……っ!」
悔しそうに唇をかむとあきらめたのか俺の後をついてきた。
そう、なぜひかりのお付であるみなぎがいないのかというと18時から文化祭実行委員会があるからだった。
ちなみにウチの学園祭は準備期間が約一週間もあるため、それまでは準備会の実行委院長だけを決め、他は何の準備も話し合いもなく、初日に初めて何を行うかをクラスで決定し、初日の委員会で出し物を決めるというアバウトな方式を取っている。
その為、クラスごとに自分達の第一希望をゴリ押しするべく、強気で弁の立つ実力者を委員に立ててくるのだった。
ウチのクラスの委員は二人。
ここにいる片割れは完璧なお嬢様ぶりによっていくのははばかられた為、こういう事にはめっぽう強い千鳥が参加している。
その証拠に未だ決まっていないハズのクラスの出し物要の資材を調達させられている。
とんでもないコトだが、まぁ、千鳥のコトだ。何をするのかは知らないが絶対に勝ち取ってくるんだろう。
そしてそれは下の学年も同じこと、みなぎの無言の圧力に耐えられる同年代の人間もそうはいまい。
それより今は―――
「………………っ!」
なにか言いたそうに、だけど悔しそうに唇を噛んでこちらの背中を睨むとしぶしぶといった感じにこちらを追ってきた。
「悪いな、金を出させちまって」
「勘違いしないでください、風邪を引きたくなかっただけです」
あの後、部屋を選ぶ段階になって濡れになった財布の中にあったお札は見事なまでに水を吸いきり、紙幣投入口には吸い込まれず、どうしたものかと初々しいカップルよろしく途方にくれていたら後ろから一番高い紙幣が差し込まれ、間髪入れずに休憩ボタンが押された。
「別に泊まっていってもよかっただろ。こっちの方がガッコに近いし」
「そういう問題じゃありません!不純異性交遊は校則で禁止されています!」
「俺は不純じゃないから問題ない」
「不純の極みです!」
「そもそもそういうことをするつもりで来たワケじゃないし」
「え……?」
さも意外そうな声があがる。
「言ったろ、とりあえず服乾かして、休憩するのが目的だ。
そもそも今日も日が昇る頃まで相手させられてたんだ」
それでも学校に行ったのはどうでもいいことに一生懸命になる俺の悪いクセがでた証拠だ。
「だからそうカタく身構えんな―――って、おいっどうした!?」
そこには、ぼろぼろと、ぼろぼろと、涙を流すひかりが、いた。
「おいっ!なんかあったのか!」
少し強めに呼びかけるとびくっと身をうつむかせ、意を決したように強い口調でいってくる。
「わ―――くしはっ!そんなにっ!抱く価値のない女ですかっ!」
廊下中に響き渡る。マヌケた内容の叫び。
「ちょ、ちょっと、待て!とりあえず落ち着け、な!?」
いくら部屋の中が防音とはいえ、廊下はただの薄壁だ。
室内には聞こえなくても建物の外まで聞こえたんじゃないかと思うほどのボリュームでそんなことを言われればいくら俺でも慌てる。
俺はすかさず手をとってすばやく目当ての部屋のドアを開けると中へ引っ張り込んだ。
……ふぅ、ここまでくれば大丈夫か。
うぐっうぐっ、っと未だにべそをかくひかりに呆れた俺は質問した。
「……で?どうされたいんだ?オマエは」
「……抱かれたいけど抱かれたくないです」
「……どっちだよ」
「……」
「そもそも俺のことなんか認めないんじゃなかったのか?」
「嫌いだけど嫌いじゃないです」
「……だからどっちだよ」
「……」
……今度はだんまりかい。だんだんめんどくさくなってきたぞ。
理由はわかってる。
依然としてプライドが邪魔をしてるってトコだろう。
仕方ない。
植え付けた暗示にどれほどの強制力が在るか試すにはいい機会だ。
「―――[漆黒の王の命令](ブラック=オーダー)だ。やってみたいと思うことをしろ」
俺がそう言うとびくん、と一瞬身体が震え、ようやく貝のように閉じられた口が開いた。
これが新しく全員にかけた暗示。
[漆黒の王の命令](ブラック=オーダー)、ダンタリオンの能力で支配下のモノ達に植え付けた催眠暗示だ。
これを使えばいちいち指輪を使わなくてもいうことを聞かせられる。
そもそもダンタリオンが持つ能力自体は精神操作、今までは何か行動を起こさせるとき、対象の影か本体に触れ、―――をしたい、とその欲求を無理やり高め、嫌がおうにでもせざるを得ない状況にしてさせていたがこれなら口に出すだけで対象を意のままに操れる。
「私の気も知らないで私の目の前で他の女の子と仲良くしてさぞ気分がいいでしょうね」
「……いきなり小言かい」
「そりゃあ、私の取ってる態度だっていかがなものかと思いますよ?
でも男の子とどうやって話したらいいかなんて分からないんだし、それを察してリードしてくれたっていいじゃないですか」
「えらくお前にばかし都合がいいな、おい」
辟易しながら言うとため息をついてもう一つのコマンドを試す事にした。
「ふぅっ、[闇の王の命令](ダーク=オーダー)だ。そのまま服を脱げ」
[闇の王の命令](ダーク=オーダー)、[漆黒の王の命令]に対をなすもう一つのコマンドだ。
こちらは―――
「こんな所にきて何もしないなんておかしいです。
そんなの私のプライドが許しません、なんのためにいつ抱かれてもいいように毎日、お気に入りの下着を上下そろえて着けてると思ってるんですか。だから……その……って―――っ!」
そう言いながらいつの間にか自分の指が制服のスカートに手がかかっているのに気付き、声にならない悲鳴をあげた。
[闇の王の命令]はこの通り、本人の意思とは関係なしに無意識に命令をきかせる。
「なっ!卑怯です!こんな事……っ!」
「なら止めろ。できるモンならな」
「卑怯者!」
そう言って下着姿にまでなったひかりに俺は笑いかける。
「一つ教えてやるよ。今、お前にかけているのは催眠と暗示の一種だ」
そう、魔術でもなんでもない、かけるのに使ったのはもちろんダンタリオンを媒介にして、だが。
「知ってるか?催眠てのはそれほど万能でもなんでもない。
人の意思の在りかた次第じゃ簡単に突き崩されちまう―――本気で拒絶すればな」
「!」
「微塵も望んでいなきゃ抵抗できるはずだけどな」
その証拠にひかりは未だに本音を吐露していない。
「…………っ!!」
キッと悔しそうな顔でこちらを睨む。
……まぁ、そんなのはどだい無理なハナシだ。
指環を使ってはいないとはいえ、一度でもあの快楽を味わって拒絶できる人間なんてそうはいない。その上、ここはラブホ、そういうことをする場所だ。嫌でも意識せざるを得ない、本人もそれを宣言したばかり。
もうこうなってしまえばあとはこちらのペースだ。
―――だが、暗示は未完成、か。本音を引き出すには強制力が足りてないようだ。
まぁ、ひかりみたいに自我が強い人間はもともと暗示がかかりにくい事もあるがそれを差し引いてももう少し改良の余地があるな。
とまぁ、これからの課題をピックップしたらあとは―――
「もう一度言う、[闇の王の命令]だ。どうされたいのか、簡潔に、明確に言え」
「だからっ、抱いて欲しいんですっ!」
「ハナっからそういやいいんだよ」
口を歪めてそう言うと無意識に自分の口から出た言葉にはっとしてあとずさる下着姿のひかりが逃げないよう腰に手を廻してそのままベッドの上に押し倒した。
「きゃっ!」
「そこまで言われちゃ仕方ねェな。抱いてやるよ」
「あなたが言わせたくせに……っ!」
「おいおい、俺がいわせたのは何をされたいのか、だぜ?」
「…………ッ!」
反論しようにも分が悪い、何より―――
「なにを思っても筒抜けじゃどうしようもない、だろ?」
初めての時とは違う。俺は指環を身につけている。
恨みがましいような、それでいて照れたような眼で睨むとそのまま顔そそらして身構える。
「そんなに身構えるな、傷付くだろ」
「あなたでも傷付くなんてあるんですか」
「傷付かない人間なんていねぇよ」
要は平気でいられるかどうかだ。
「……鬼畜かと思えばそんなだれも気づかないような大切なことを言って……!」
湿気って肌に張り付いた服を脱ぐ、未だに肌がベットリと張り付き、不快感をあおったが、行為に至ればいやでもこうなる、問題ない。
不必要なものを脱ぐと俺はブラ越しにひかりの胸を揉みしだいた。
「っ!」
「そういやなんて言ってたっけか?
毎日おそろいの下着って毎日俺にこうされることを望んでたのか?」
「―――っ!」
「にしてもオマエの髪、綺麗だよな」
俺はそう言うと烏の濡れ羽色というのか艶のあるひかりの長髪を一房手に取ると口づけると柑橘っぽい、だが決してそんなシンプルではない香りがした。
「それにいい匂いだ」
「っ、匂いとかいわないで下さいっ、それに貴方からはいろんな香りがします」
「そうなのか?」
「そうですっ!みなぎちゃんやちどりちゃん、海鵜先生や他にも、いろんな方のかおりっ!」
なぜか怒ったかのように語気を荒げて言う。
まぁ、なにが言いたいのかは指環を通して伝わってきている。
髪の香気を吸い込むとそのままひかりの口に押し付け、舌を割込ませる。
「んっ!ん……ふ、ぴちゃっ、ぺろ、はぁっ、んっん~っ!」
息継ぎができないくらいに口内を蹂躙し、ようやく解放すると腰がくだけたのかその場に跪いてしまった。
「今の匂いはどうだった?」
顔を赤くして全身で荒い息をするたひかりに問いかける。
「はぁっはぁっ!うなぎとっ、さんしょうのっかおりですっ!」。
……朝食ったアレか。
「…だけど、本当に、どうしようもないくらいにほんの少し、私の香りがしました」
「そうか」
そう言って俺はニヤリとする。
「じゃあ、今度はお返しに俺の匂いをくれてやるよ」
「あなたの、におい?まさか―――」
「あぁ、そのまさかだ」
そう言うと俺は膝をついたひかりの顔の前でズボンを降ろし、俺のモノを突き出した。
「っ!」
「俺の香りを覚えてもらうなら一番かおる所を直接、嗅いで味わってもらうのが一番だからな。あぁ、別にいらないなら構わないぞ。俺の相手はいくらでもいるからな」
「―――っ!」
言い終わるが早いか俺のペニスを熱い物が包みこみ、陰嚢が柔らかく揉み出される。
ぬちっ・・・ちゅぬぅっ・・・ぬりゅう・・・ずっ・・・ぬぅっ・・・にちぃっ・・・
眉をひそめながらも奉仕は表情とは打って変わって熱心で丁寧で濃密だった。
まるで発情したかのような熱を持った唇と舌が丹念に俺の肉棒をシゴき上げてくる。
他の連中を持ち上げただけでこの有り様だ。よっぽど対抗意識をもっていたのか、それとも独占欲が強かったのか―――
まぁ、俺が気持ち良ければ問題ない。
「はぁ・・・はぁ・・・んっ、ぬっ・・・ちゅぅっ・・・くぽっ・・・・・・んちゅうぅっ・・・」
「そう、その調子だ。今までで一番気持ちいいぞ」
「ん♪」
じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!
頭をなでながら褒めると甘い息で返事をしてさらにペースを上げてきた。
普段理知的なのにこうなると短調になるから助かる。
そう―――
「[闇の王の命令]だ。オマエはこれから俺の臭いだけで収まりがつかなくなるくらい感じるようになる」
こんなことがなんの抵抗もなく、かかるようになるのだから―――!
「!」
びくんっ、とひかりの様子が変わる。
俺のモノに奉仕しているだけなのに、俺の香りが強くなっていくごとにもどかしそうに、ねだるように腰を揺らす。
弱々しくも責めるような上目使いで俺を見る。
俺がいつまでも甘ったるいオマエの幻想に付き合うとでも思ってたのか。
ここからは。俺の時間だ―――
「俺の香りで発情するようになった気分はどうだ?」
こんなモノがなくても、と拗ねたような感情が伝わってきたが気にとめずに自分の意思を押し付ける。
「どっかの誰かさんはあまり相手にしてないからな。
不公平はいけないからなこれなら他の連中に会うだけで軽くスイッチが入るようになるぞ」
「!」
「これが済んでオレの匂いが染み付いたらいつでも発情するようになるかもな」
「うっ、くうぅっ・・・んっ・・・だ、だめェ・・・」
香りが定着するのには2種類の方法がある。
まず一つが香水や香油、ハーブなどを染み込ませるといった外部からの沈着、ちなみにこちらはファブれば消える。即ち、消臭が可能だ。
そしてもう一つ、これは主に有機体、生物しか持っていない、体内で水溶性の臭素が汗腺を通して発汗などにより分泌される。
カレーばかり食べてたらカレー臭くなるとかいう、アレだ。
興奮時に発生させるフェロモンも体内精製により同じような経路で分泌される。
こちらは表面を消臭したところで肝心の匂いの元が更に匂いを造りだすから消しきれるということは、ない。
「とまぁ、より長期にかつ強い匂いを付けるにはどうしたらいいか、頭のいいオマエのコトだ、分かるよな?」
そんなオレの口上を聞きながらもひかりは眉をひそめながらもしゃぶるのを止めようとしない、いや、止められなかった。
すでに止めようとする心とは裏腹に身体が俺の臭いを、快感を求めて勝手に動いてしまう。
「ほら、そろそろ出るぞ。
どちらが良い?口内か?それとも―――」
そう言うとひかりは亀頭をくわえ込み、射出口に舌を小さく往復させるようl唇でカリ首を擦って吸い上げてくる。
「んっ・・・んふぅんっ、んむ・・・あん、ひぁむ!・・・んむむぅっ!」
じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、とろぉ・・・にちゅっ、ぬちゅぅっ!
「そんなに射(だ)して欲しいのか?」
は、んっっ、ん! は、もぶっ、むぐ、んんっ!」
こくん、とひかりが咥えたまま頷き、喉奥に飲み込まれると同時に躊躇うことなくひかりの熱された口内に向けて白濁を放つ!
びゅくんっ!びゅくっ、どくっ、どくどくっ!どぷうっ!
「んんんっ!ん――――――っ!ん――――――っ!」
むせ返るような精臭が鼻を通り、軽く達してしまったのか思わず目を閉じ身体を奮わせた。
ぬぷっ、にゅぷんっ!
「んんっ…!」
肉棒を惜しむように口から抜くと恍惚が抜け落ちないまま無意識に口にたまったザーメンを味わうかのように舌になじませながら飲み干していく。
体の中から遡った特有のにおいが嗅覚を刺激し、全身の感覚を敏感にさせていく。
(なんでぇ…っ、喉にからんで気持ち悪いのに、おいしくないのに、たまらなく…っ、イイっ!)
それどころか病み付きになってしまいそうになる感覚に思わず我を忘れてしまいそうになる。
「安心しろ、じきにおいしくなる。それよりもそろそろコイツの匂いを下の方にも染みつけて欲しくないか?」
「………っ、あ………」
呆けたような目でオレの肉棒にもの欲しそうな表情をした後にはっとして視線を上げて俺の顔を見てさらに赤くなった。
「…………」
ただ見つめて何をして欲しいか心で伝えてこようとする。
「想ってるだけじゃ伝わらないんだ。
ちゃんと口にして何をして欲しいか、言え」
口に出して意思を伝える。
それだけでヒトは行動に強制力を持たせる。
「…っ、れてくださいっ。あなたのをわたしに…っ」
「ちゃんと、伝わる様に、言え」
「あなたのっ!カラス君のオチンポをぉっ、わたしの中にっオマンコにぃっ!入れてくださいぃっ!!
みんなよりっスゴいコトしてくださいいっ!」
「そう、そう言えばいつだってしてやるよ」
そう言いながら俺はひかりの腰を取り、十分に潤ったひかりの膣の中に自分の肉棒をうずめこむ。
「ひぁっ!まらいっひゃばかりれびんっかんっ、でえぇ……っ!」
「アイツ等より激しくして欲しいんだろ?
だったら最低あと10回はイってもらわないとなぁ」
「じっ……っ!?」
信じられないものを見るように息もたえだえに涙目になってこっちを見てくる。
「あぁ、どこかの誰かさんが引きこもってる間にそれ以外の連中はどんどん上達してな。
一度や二度イったところで満足できなくなってるんだ」
(だ、だからってなんで十回も……っ)
「ちゃんと数えてろよ。じゃなきゃ俺の気がするまで犯る。
オレだってキツいんだぞ?オマエの中―――気持ちよすぎるからな」
「きも、ひ……いい……?」
「あぁ、やみつきになりそうだ」
「んっ、んぅん…っ♪」
俺の言葉に顔がほころんだかと思うとこの会話の間に少し波が引いたのかもどかしそうに腰を揺らしてきた。
「んっ……んうぅっ……んっんっ……」
実際、それだけでオレの方にはひかりが得たであろう何倍もの刺激が与えられてくる。
反則だっての。
こちらもアイツ等に慣らされていなきゃ今のだけで果てかけていただろう。
そんな心が読まれないことを安堵しつつ、俺は再び律動を開始しだす。
鎮まった波を再び引きずり出してそのまま一気に片をつけるつもりで最初から全開でいく。
「それにしてもいいのか?
お前は俺が嫌いなんだろう?」
「嫌い、という部分を強調するかのようにひかりに話しかける。
流れ込んでくる感情の表層はそう演じなければならない、とはっとしようとするものの、深層ではそんなことないと叫んでいる。
だが―――
朝の礼がまだ済んでなかったよなぁ。
俺は口を歪めて表層を演じなければならない、ではなく本当に嫌いなんだからと書き換える。
びくん、と痙攣したかと思うと困惑した表情をしてこちらを見る。
無理もない、今時分が思ったことに強烈な違和感を感じたのだろう、だが俺の動きは止まらない。
「ほら、どうした。答えろ」
「っ……えぇ、嫌いに決まってるじゃないですか……っ!」
強烈な嫌悪感とともに吐き捨てられる。
「そうか、ならなんでそんな相手によがってるんだ?」
「…………それはっ、あなたがっ……っ!」
「さっきは今オマエに入ってるものを美味しそうにしゃぶってたよな」
「~~~~~っ!」
こちらを睨むものの、こちらが膣壁を打ちつけるととたんに切なさそうな顔に変わる。
「っひうっ!いやっ、んうんっ!そこぉっ!」
「そこってどこだよ」
「奥ですっ!わたくしのっ!いちばんっ、おくぅっ!」
「そこじゃ分からないだろ。ちゃんと分かるように説明しろ」
「しきゅっ…こぉっ!子宮口っ!あなたのっで突かれるとせつな…っ!せつないんですぅ…っ!」
イキかけの潤んだ目で宙に訴えかける。
「イヤッ、キラいっ!なのにぃ…っ!なんでぇ…っ!?」
いくら心が拒絶しても快感を刻み込まれた身体が更に熱く、更に[俺]を求めてしまう。
「オレでいいのか?いいんだったらどうすればいいのか、分かるな?」
催促するように膣奥に8の字を描くように動く。
「あ、な、何これすごいっ、すごいぃっ!
実際にはそれほど動けてはいなかったがそれでもひかりには効果があったらしい。
「ほらっ、どうしてほしいんだっ!?」
俺の催促に正気になったのか歯を食いしばり、必死になって抵抗しようとするが身体が、本能が少しずつ閉じた口を開き、己が欲望を紡ぎ出す。
「―――…さいっ」
「よく聞こえない、もう一度、だ」
そう言って俺が腰を円を描くように動かすと思わず目を見開いて舌を口外までのばし絶叫する!
「くださいっ、わたしの奥にっ一杯になるくらいにっ!匂いが染み付いて取れなくなるぐらいに濃いオスのせいしっ!いっぱいくださいぃっ!」
「いいんだなっ!嫌いなオレのスペルマ膣出しして欲しいんだなっ!」
「そうですぅっ!すぺるまが欲しいんですぅっ!、ずっとにおいかいでたいんですぅっっ!」
強く言うと同時に腰のグラインドを更に大きいものにしてラストスパートに入る。
ヤケドしそうな位に熱くなったひかりの中がこちらの動きに合わせて収縮し、こちらを搾り取ろうとまるでここだけ別の生き物のようにシゴきあげてくる。
「んっ、あ、はぁぁ…っ、んっ、あぁ…おおきぅなっ…っ、びくびきゅ…ってなっきてゆぅぅ…!
出し…らしてくらはぃぃっ、キラいなっ、あなひゃのっ、ちんぽじるっ、わたひのっ、おまんこっにいぃぃ。っ…!!!」
「あぁ、イクぞっ!しっかり飲み込めよ!」
言うが早いかさっき書き換えた心を元に戻す!
びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!びゅるるっ
俺の精がひかりの膣に注ぎ込まれる。
「え―――!?
えっ、あっ、ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
それまで嫌悪感で満ちていた精神がきれいに晴れ渡り、抵抗なく、それまでのイクぎりぎりの快感を何十、何百倍に変えて受容してしまう!
さらに濃くなる性臭に当てられたのかイキながらさらに膣がきゅうぅっ、蠕動し、無限に精液を絞ろうとする。
「でっでてるぅ…っ!熱くて臭うのがいっぱいぃっ!おまんこっ私のオマンコにぃ…っ!!」
「ほら、感極まってるヒマなんかないぞ。
それに安心しろ、しっかり子宮の中まで匂うようにしてやるよ」
俺が口を歪ませ再び律動を開始するとひかりは耐え切れず塞がらなくなった口から出た舌から体液が流れおちた。
股間からは時折、愛液がぴゅぴゅっと潮のように俺にかかってきている。
ぬちゅっ、ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!ぱちゅんっ!
「らっらめぇっ!あつくてっ!、くさくて…っ!れっれも、これへぇっ」」
「イイんだろ?やみつきになるだろう?」
「あっ!んっ、んんんっ!イク…のとまんにゃ…いぃっ!くっくるぅ…っくるっちゃうぅぅっ!」
「なら…っ!やめるかっ!?」
ひかりの蜜壷の熱さに蕩けそうな感覚に萎えることなくすぐに発射寸前になる。
「いや…いやあぁぁぁ、もっと…っもっとぉ……」
宙を何か求めるようにてさぐり彷徨い懇願する手に俺の手を差し伸べると触れたと同時にはしっと掴み、安心したのが伝わりそのままキモチイイ、という想いしか伝わってこなくなる。
その想いに共鳴するかのように俺の腰もより深くひかりをえぐり、さっき射精した膣奥よりも深く、子宮口にめり込ませ白濁液をぶちまけた。
びゅくんっ!びゅくっ、どくっ、どくどくっ!どぷうっ!
「ひあぁっ!また…くっ、イくうぅぅぅっ!ああああぁぁぁぁああああああああ―――っ!
そしてひかりは意識を手放した。
「んんっ」
「気が付いたか」
「ここは―――っ!」
「さ、シャワー浴びてこい。とっとと帰るぞ。今ならまだ晩飯には間に合う。
あと、ほら」
そう言って紙袋を放り投げると慌てて手だけを動かして器用にキャッチした。
「これは……?」
「部屋代の礼だ」
そう言うと明後日の方を向いてベッドに横になった。
ひかりが何かいいたそうな空気を感じたが何も言わず、そのまま袋を持って浴室に歩いていった。
……顔が上気していたな。
無理もない。行為があった部屋には依然としてひかりを発情させる匂いが目には見えない形で漂っている。
もしかすると浴室で精液を見て自慰をするかもしれないが時間がかかる分には問題ない。
なぜなら―――
俺はベッドに横になりながらさっき手にいれた指輪を手の中に転がしていた。
ナンバリングは36。
「……コイツについて知ってることがあったら教えてくれ―――オロバス」
そう言うと俺の左手の小指に嵌まった指輪が光り、魔法陣の上に鎧を着込み王冠をつけた二足で立つ馬の立体映像が映しだされると緩慢と口を開いた。
「ぃよぅ、ようやく呼んでくれたか大将。
ずいぶんお楽しみだったようさね」
コイツこそナンバリング55位、騎馬公子、オロバス。
魔神といえば魔神だが……気さく過ぎていまいち敬意を払う気にもならない。
「……還すぞ?」
「げっ、そりゃ勘弁。ようやく話の分かる召喚者に巡り逢えたんだから」
「分かった分かった。それで?」
「あぁ、ナンバー36だろ?ストラス、俺と同じ魔界の王子で鴉公子って呼ばれてる。
大将にゃお似合いの呼び名だな」
「カラス、か……で、性格や持ってる能力はわかるのか?」
「あぁ、俺っちよりも、ってワケじゃないが比較的友好的なヤツさね。
んで能力、能力は自然界の知識、天文学、薬草学、鉱物学とかをなんでもござれで教えてくれる。
そして最たる能力が自然界からの内的魔(オド)の蒐集。
「―――オド?」
「あぁ、大将は魔術師じゃなかったっけな、悪ぃ悪ぃ、内的魔(オド)、要は本来、俺たちと契約する為に必要な力だ。それを大量に蒐集できるようになることによってより上位の魔神たちと契約が結びやすくなるのさね」
「……魔力?そんなモノを持った覚えはないんだけどな」
魔力なんてモノはあるかもしれないが、それが自分達にはあるかないかすら分からないのにその増幅なんてにわかに信じがたい。
「誰でも持ってる力さね。ただ普通の連中はごく僅か、ほら、宇宙から降る光線、紫外線だっけ?アレの様なモンだと思ってもらえればいい。
少量なら殺菌もするし日焼けだなんだのと笑っていられるが過ぎればガンを産み出す。
同じ様に魔力ってのもごく微量であればこそ、それを媒介にこの世界の恩寵を受けられるようになるが量が過ぎれば過ぎるほどに毒となり、ヒトであることからかけ離れる……俺たちのようにな」
馬面が俺にも分かるレベルで寂しそうな目をした。
「……オマエ達のその姿は多く持ちすぎたオドのせいなのか?」
「一概にはそうとは言い切れない。みんな様々な理由でこうなってる。
ただ確かなのは大将の様にある一定以上の量を持ってるってのは確実に、人為的になにかしらの細工が加えられてる。血統か、もしくはよほどの修練を積んで魔術回路を形成したか……どちらにしろ普通の生活じゃムリな話さ」
「普通じゃ、か……」
あいにく両親は普通の、ごくごく普通の商社マンとそのパートナーだ。
ということは―――…14年前のアレがフラッシュバックする。
あのとき、なにかあったってのか?
「ま、そんなトコだ。
大将はあの位相の公爵、ダンタリオンと契約してるくらいだ。気軽に契約してくれるとは思うさね。
っと、そろそろあの娘が帰ってくるな、邪魔しちゃ悪いんでそろそろ俺っちも還るわ」
魔神ながらコイツはこういうところに聡く、気を使ってくる。
そんな人間クサさに俺は口をほころばせた。
「あぁ、さんきゅ」
「それじゃ。また喚んでくれると嬉しいさね」
あぁ、と言ってオロバスを召還すると背後からヒトの気配が近づいてくるのを感じ、俺は身体を起こした。
横目に白を基調としたイブニングドレスを着たひかりが目に留まった。
「ほいっ……と、サイズはどうだ?」
「……合ってます。制服は?」
「売った」
「売……っ!?」
「冗談だ。制服は乾いてなかったんでクリーニングに出した。一週間もすれば配送してくれんだろ、それより」
「な、なんですか?」
「似合ってる」
途端、ひかりは赤くなって怒りだした。
「そ、そんなこと言ってもごまかされませんからねっ!」
……なにをだ?
俺はため息をつくとそのまま部屋のドアをあけた。
外はさっきよりは涼しくなり、乾ききっていない髪は敏感に風を感じ取っていた。
後ろからついてくる女はまだ着慣れないのか服の端々をつまみ、ところどころ正していた。
とりあえずタクシーが拾える場所へ行くことにし、近道である繁華街の外れにさしかかっる。
そのとき俺は気付いちゃいなかった。
というよりもすっかり忘れていた。
ここに何の目的で着ていたのかを―――
「あら、あなた……?」
突然、すれ違いざまにやってきた誰かに声をかけられ、はっとして“それ”を見る。
21、2くらいのまだ若さの見える女。
他人を見下すような高圧的なツリ眼にそれにあわせるかのようなショートカットの金髪は年不相応に落ち着いた雰囲気の相貌をかもし出していた。
赤いスーツにそれに負けないくらいに光るアクセサリーは身につける者によっては悪趣味にもなりかねないほどの量と質だったがギリギリのところで女には似合っている、そう感じた。
そして何より―――こんな女、オレは知らない。
「?」
「ねぇ、その指輪、売ってくれないかしら?」
!
この女―――この指輪のことを知っている……?
「5千、ううん、1億出すわ、だからその指輪、譲ってくれないかしら?」
俺が押し黙っていると女はオレが突きつけた条件を不服だと思ったと思ったらしい、
「欲張りねぇ、じゃあ3億でどう?
なんなら私が一緒に寝てあげてもいいんだけど?キミ、好みだし」
俺を品定めするように見下した視線で俺を見てくる女。
今の言葉にひかりがかちん、と怒り、何か言い出しそうになるのを制止し、俺は女にきり出した。
「ふん、こんな真鍮製の指輪になんでそんな金を出す?」
そう言うと女は口調を厳しく、早いものに変えた。
「子供は知らなくていいことよ。さ、どうする?渡すの?渡さないの?」
既に女は売る、売らないではなく、渡す、渡さないと自分本位で見下した物言いになっている。
あまつさえ俺が何も知らないと思ったらしい、ふん、馬鹿な女だ。
その見下した視線も懇願する上目遣いに変えてやる!
「答えは―――NOだよ!」
そう言ってオレはすぐ横の壁に出来た女の影に指輪を叩きつける!
フン!オレをそんな目で見たこと―――後悔させてやる!
そう思い、今までオレの奴隷になった女たちにそうしたように思考を変えるべく思念を送ろうとする。
だが、
ぱちぃっ!
「!」
影から指輪が―――弾かれた!?
「っ!
やってくれるじゃない。まさかアンタみたいなガキが指輪を使えるだなんて―――!」
そう言って女が豹変、いや、本性を表し、俺から距離を取る。
そして、右ポケットから俺も見慣れたモノを3つ取り出した。
あれは―――!
「オマエ、それをどこで手に入れた?」
「手に入れた?いいえ、これは授かったのよ、私の天使様から―――」
そう言ってポケットから取り出したそれを左手の人指し、中、薬指に嵌める!
そう、取り出したのはオレのモノと同じ、真鍮製の指輪!
すかさず背後にいたひかりに命令するために叫ぶ!
「ひかり、下がってろ。コイツ―――」
指輪使い―――!
< つづく >