老教師の午後 4

-4-

 悪魔の力を手に入れたと言うのに、それでも盗撮行為を止めなかった一昨日の自分に、私は感謝していた。
 格好の、ズリネタになったからだ。
 老教師が得た「若さ」――それは、想像以上に激しいものだった。
 いくら出しても尽きる事を知らなかった、あの頃の精力を、と悪魔は言ったが、
 それは文字通り尽きることを全く知らない、十代のそれに匹敵した強さだった。

 結果、あれだけの量を奈々の中に出したと言うのに、その夜には欲求不満を覚えているという、凄まじい状態に陥っていた。
 ビデオに撮った奈々の痴態をオカズに、5度も抜いた――オナニーだと言うのに、物凄い快感だった。

 快感に打ち震え、破瓜の激痛に慄(おのの)く奈々の顔は――とても、美しかった。

 絶頂の瞬間こそが、女の一番美しい表情だと言うが、まさにその通りだろう。
 だが、苦痛に煩悶する表情もまた、素晴らしい。
 無防備に漏れ聞こえていた奈々の心の声が録音出来なかったのは残念だが、流石にそれは無理だ。

 この少女をまた今日も、明日も、ずっと先まで独占し、好きにできると言う事実に、老教師は腹の底から沸きあがるような喜びを覚えていた。

 昨日の夜、老教師は奈々の家に赴き、その両親を始めとする家族――兄、妹、祖父母、使用人に至るまで全員に、生徒達と同じような暗示を掛けた。
 今や両親にとって、老教師はれっきとした奈々の婚約者であり、恋人であり、教師だ。
 両親は快くその関係を了承し、積極的に二人の結婚を推進するように「なって」いる。
 内々に用意されていた見合い話などを全て破棄し、悪い虫がつかないようにと内外への警備を厳重にし、
 早々に老教師との同棲生活を迎えられるように新居の手配さえ始めていた。

 奈々の家は、流石にお嬢様学校に愛娘を通わせるだけあり、家柄、経済力、政治力共に申し分なく強い力を持っている。
 老教師はその家の力の全力を傾けて、彼の夢への邁進を進めるように仕向けた。
 新居の手配が付き次第、奈々は老教師と一緒の生活を始める事になる――両親はそう、嬉しそうに言った。

 名実共に、老教師は奈々を手に入れたのだ――。

 だが、一方で、老教師はこうも感じ始めていた。

(これは……やはり、奈々だけでは到底足りんな……)

 という、漠然とした予感を。

 驚いた事に、奈々はまだ、初潮さえ迎えていなかった。
 今は妊娠の心配なく調教を施せると言う事だが、いずれは避妊等の対策も必要になるだろう。
 まだ、奈々を妊娠させるわけには行かない。彼女の身体はまだ、未成熟過ぎる。
 初潮が訪れてからは安全期を待つ必要も出てくるだろう。その間の、性欲処理が必要なのだ。

 十代の精力――それは、ともすれば身体が勝手に動き出しそうになるほどの、強力な衝動だった。
 その劣情に負けてなりふり構わずに奈々を抱けば、妊娠させてしまったり、最悪の場合は彼女の身体を壊してしまう危険がある。

 それに――。

(そうだ……何も、妻は一人だけでなくても良いではないか……)

 これだけの力を手にしたのだ、戸籍など、どうにでもなる。
 もう仕事をする必要も無いだろうから、複数の子供に父親として接する時間は十分に取れるだろう。

(そうだ。何も、問題は無い……)

 老教師の眼に、新たな情欲の炎が燈る。

 もっともっと、沢山の花嫁を、捜すのだ――。

「なんかさー最近、じーちゃん先生って格好良くない?」
「うん、なんかいいよねー。」
「急に逞しくなったって感じ?」
「逞しい、って……」
「でも、なんか分かるー。目なんか合うとドキッとしちゃうもん」
「……私、相談行って来ようかなぁ」
「あーでも、ちゃんとした相談じゃないと怒られるってさー」

 女子更衣室。
 体操着に着替えながら、少女達は華やかな声をさざめかせる。
 
 ……噂の当人が、まさに今目の前で、彼女達に向けてビデオカメラを回しているとも知らずに。

 老教師による学園の支配は、誰にも知られない内に、深く、深く浸透していた。
 彼が教師・生徒達全員に掛けた術は「支配」ではない。
 「群集操作」という、不特定多数の対象に掛ける『盲従・服従』……認識強制能力だ。
 「支配」程の影響力や強制力は無い術だが、当面はこれで十分だった。

(最初は奈々との関係を維持する為の工作だったが……今となっては良い布石となったな)
 学園支配の目的は……今や、違う目的の為の手段と化していた。

 新たなる目的……花嫁探しの為に。

 全校生徒や教師への「群集操作」がほぼ完了した今、この学園において老教師は完全なる主となっていた。
 同時に彼は、体調不良という理由で受け持ちの授業を全て降りた。
 生徒の進路指導・生活指導(と言う名の悩み相談)に仕事の範囲を限定し、有り余る時間を目的の完遂へとつぎ込んだのだ。

 花嫁探し……と称する、覗き三昧の日々の始まりだ。
 老教師はビデオカメラを片手に、構内の至る所に侵入し、少女達の赤裸々な姿をカメラに収めていった。 

 老教師が、生徒達に定めたルールの第1条。
『この学園内にいる限り、お前達は私を全く認識できない……但し、私が「生徒指導」の腕章を着けている時、私が話し掛け時は普通に認識できる』

 今、老教師は腕章を着けず、背広の内ポケットに隠している。
 だから、生徒達は老教師の姿が見えない……いや、「居ない事」になっている。
 老教師が声を出そうが生徒の胸に触れようが、今の生徒達は全くそれを認識できないのだ。

 新たなる視点で生徒達を見渡すのは、新鮮だった。
 護り、育むべき対象から――狩るべき、獲物へと。
 ……新たなる狩猟意欲が、とめどなく湧き上がってくる。

 目の前の、下着姿の生徒に手を伸ばす。
 素早くショーツの股間部分に指を引っ掛け、くい、と引っ張った。下着がずれ、彼女のスリットが露になる。
「くくく……」
 思わず漏れる忍び笑いにも、下着をずらされた事にも気付く事無く、少女は着替えを続けていた。
 老教師はこれ幸いと、彼女のスリットを間近で撮影し続け、あまつさえその指先でそのスリットを割り拡げてしまう。
「良い……良い眺めだ……」
 それでも、少女は何も異変を感じる事無く動き続けていた。
 綺麗なピンク色の肉襞が、包皮に隠された小さな肉芽が、老教師の目の前に曝され、ビデオに記録されていく。
「……きゃあっ!!」
 たっぷりと30秒以上も過ぎてから、外気のひんやりした感触に視線を向け、少女はやっと身に起きている異変に気付いた。
「どうしたのー? ゴキさんでも出た?」
「う、ううん、なんでもない……」
 少女は慌てて下着のズレを直す。秘部を拡げていた老教師の指を払おうとはしない。
 彼女の頭の中では、偶然下着がズレていた、とだけ認識されているのだ。
 だから、先刻の悲鳴も、偶然の悪戯に驚いた程度の小さなものだった。
 少女は下着を直すとすぐに着替えを続けていく。
「これはいい……全く、素晴らしい能力だな……」
 老教師は満足げに呟きながら、隣の少女へと手を伸ばしていく……。 

 その日の放課後。
 コンコンコン。
「……開いてますよ、入りなさい」
 奈々は今、音楽室でピアノのレッスンを受けている。
 そんなエアポケットのような空き時間に、彼女は来た。
「失礼しまーすっ!!」
 勢い良くドアを開け、少女は風のように軽やかな身のこなしで、進路指導室へと舞い込む。ショートカットの栗色の髪が、元気に跳ねた。
 健康的な美しさを感じさせる、スポーツ少女だ。この学園の校風でこの性格は珍しい。
「君は……沢渡弥生(さわたり やよい)君、だったかな」
「え、すっごーい、じーちゃんせんせぇって、全員の顔覚えてるのぉ?」
 オーバーアクション気味に驚く弥生。だが、くりくりと大きな目が動くその様子は、とても愛らしく老教師の目に映る。
「いやいや、たまたまだよ。なるべく覚えるようにしてはいるんだけどね」
「へぇー……っ」
「まあ、座りなさい。で、何か相談かな?」
「あ……ええっとぉ、その……」
 弥生の目が泳いでいる。明らかに相談しに来たと言う雰囲気ではない。
(何かあるな……よし)
 老教師は弥生がソファに座るのを待って、さり気なくその瞳を覗きこむ。
「弥生君、後は私が『操作します』」

 ――――。

 生徒達に定めたルールの、第2条。
『私が「操作する」と言った時には、即座に今の状態に――つまり「群集操作」を掛けられた催眠状態に――戻る』

 弥生は、奈々の幼馴染で親友だった。
 そして、私との仲に感付いていた。
 昨日の夕方に一緒に車に乗り込むのを、目撃していたのだそうだ。
 そして奈々がピアノレッスンを受けている間に、私への偵察を目論んだようだ。

 その心の奥底に潜んでいるのは、親友へのライバル心、好奇心……そして、私への明らかな好意。

 ロボットのように無表情に座る弥生からそこまでを聞き出し、私は今後の作戦を練り始めた。

 弥生の基本情報は既に昨日の段階で収集済みだ。
 陸上部に仮入部中。自慰経験すらなし。性への興味は大いにある。無論、処女。……彼女は私の「花嫁候補」の一人だったのだ。

 活発で健康的な美少女。この娘も、いい母親になれるだろう。
 健康的で正義感の強い、良い子を育ててくれるはずだ。

(そうだ、そうだな……丁度良い、口封じも兼ねて、このまま味見と行こうか……くっくっく)

 彼女の不運は、目撃が一日遅かった、と言う事に尽きる。
 そう……奈々と同じクラスの弥生は、昨日の夕方の時点で、既に老教師の「群集操作」の支配下にあったのだ。

 ルールの第3条。
『私が言う事、やる事は全て正しい。だから何も疑問を持たない。どんな事でも、安心して受け入れられる』

 そうでなければ怪しんだり、少なくとも警戒する事もあったのだろうが……彼女はそうせずに、老教師を偵察する事を選んだ。

 今の弥生を突き動かしているのは疑いや、親友への心配ではない。
 老教師を取られるという漠然とした焦りや、奈々への軽い嫉妬なのだ。

 先程までの活発な様子を微塵も見せず、弥生は虚ろな表情で座り続けている。身じろぎ一つしない。
(奈々のレッスンが終わるまでには、支配を施せないな……時間が足りん。ここは味見と『魅了』のみにしておくか……)
「では弥生、今から私が言う事を良く聞くんだ……二度は言わない、しっかりと覚えるんだぞ」
「はい」
 まるでロボットのように、弥生は無機質に返事をした。
「今から君の目に、これらのビデオカメラは写らない。私がカメラを構えても気付かないし、撮影されているとも思わない。いいね?」
「はい」
「では次だ。君は今、相談の口実を忘れてポロッと本音を言ってしまった。奈々との下校を見かけて奈々が心配になった……と」
「はい」
「次だ。君は奈々がマッサージを受けていると聞くと、自分もそれを受けたいと思ってしまう」
「はい」
「そのマッサージは、とてもとても、気持ちいい。だから絶対に、また受けたくなる」
「はい」
「そして同じマッサージを既に何度も受けている奈々に、君は少しずつ嫉妬を覚え、ライバル心を燃やしていく」
「はい」
「では、これで最後だ。君は明日の朝練が終わったら、どうしてもマッサージをまた受けたくなって、授業をサボってここに来てしまう。いいね?」
「はい」
「では、私が手を叩いたら君は、普段の君に戻る。この会話を君は忘れてしまうが、言われた事は心の底にしっかりと刻み込まれている……では、いくよ」

 ぱん。

「……え、あれ?」
 目を覚まし、きょとんと辺りを見回す弥生に、老教師は一方的に会話を開始した。
「なるほど……君は奈々君の親友だったか」
「あ…………、はい……」
 ハッとした表情の後、弥生は一気に変化した状況を把握しようと目を瞑る。
 先程の言葉を「消化」しながら、めまぐるしく表情を変えた後、弥生は諦めたようにしおらしく頷いた。

「まあ、親友を心配するのも無理の無い事だろう。プライバシーに関わる事だからあまり詳しくは言うべきではないのだが……」
 老教師は勿体ぶった口調で、言葉を続ける。
「……奈々君には、ピアノのコンクールで緊張すると言う相談を受けてね――それで、緊張しないようにリラックスできるマッサージをしているんだよ、時々ね」
「マッサージ……」
 その単語に、弥生の目が光った。暗示は順調に効いているようだ。
「ね、じーちゃんせんせぇ」
「ん?」
「試しに、あたしもそのマッサージ、受けてみたいな。だめ?」
(……来た)
 老教師は心の内で、ニヤリとほくそえむ。
「うーん、駄目ではないが……少し特殊なマッサージだからな」
 老教師は逡巡する振りをして見せ、もったいぶった態度で言葉を続ける。
「お願いっ!!」
「……まあ、スポーツの疲労にも効くはずだからな、いいだろう」
「やった、ありがとっ、じーちゃんせんせっ!!」
 無邪気に笑う弥生。その無垢な精神をこれから汚すのだと思うと、老教師の腹の下にムラムラとどす黒い情動が沸き上がって来る。
 弥生の心の中では、奈々が何をされているのか確認する為にマッサージを受ける事にでもなっているのだろう。
 その笑顔には劣情はおろか、後ろめたさの影さえ無い。
「――だが、他の生徒達には内緒だからね、そうそう何人にも出来るものではないんだ」
「ほーいっ!」
「……では、そのまま浅く斜めに座って……背中を押すからね」
「ほいほーい」
 元気の良い返事と共に、弥生は無防備に背中を見せた。

(程なく奈々が来るからな……急いで味見しておくか……)

「では……行くよ」
 老教師は両手を弥生の肩に掛けた後、不意に弥生を背中から抱きしめた。
「……っ!?」
 目を大きく見開いて振り返る弥生に、老教師は優しく微笑みかける。
「じ、ーちゃんせんせぇ?」
「いいか、落ち着いて――全身の力を抜くのだ」
 言いながら、老教師は不意に弥生の瞳を覗き込む。
『――魔眼、依存・服従』
「あ…………っ…………」
 すうっ、と、弥生の身体から力が抜けていく。
「大丈夫だ。何も危険な事など無いから、先生に任せなさい」
「う、うん……だけど……」
(ふむ。かなり抵抗している……精神力が強いな……)
 弥生の戸惑いを尻目に、老教師の指は素早くワイシャツのボタンを外し始めた。
「……ッ!! やぁぁっ!!!」
 流石に身に迫る事態を悟り、少女は老教師から逃れようとする……が、力が、入らない。
 両腕も両脚も、まるで麻酔でも打たれたかのように、力が抜け落ちてしまうのだ。
「や、やめてぇ、やめてよぉ、じーちゃんせんせぇ……」
 弱々しくもがくだけの弥生の抵抗を難なく潜り抜け、指はスポーツブラのふくらみを捕らえた。

 ……ぞ、く。

 弥生の全身を、未知の戦慄が這い登る。
「ふぁ……ぁ!?」
 老教師の手は、そのまま掌でふくらみの全体を覆い、やわやわと揉み解し始める。
「ぁ…………ぁ……??」

 ぞく、ぞくぞくぞく。

 ジンジンと痺れるような悪寒が、弥生の背中を這い上っていく。
「ど……して……なんか、へんだよ…………び、びりびり、するよぅ」
「そう……気持ち良いだろう? その快感に身を任せるのだ……」
 うろたえるように、弥生は背後の老教師を見上げる。
「で、でもっ、でも……なんか、恥ずかしいよぉ……」
「ああ、恥ずかしいな。何せこれはエッチなマッサージだからな。我慢するんだ」
「そ、そんなぁぁ……あ、わ、うわぁぁっ!!」
 指先が、薄い布地の上から乳首を捉え……鋭い快感が、弥生の脳裏を走った。
 じんじん、じんじん、と、頭の中までが痺れていく。
「快感だけに集中するんだ……そうすれば、もっともっと、気持ち良くなる……」
「そっ……そんなの、は、恥ずかしいっ、よっ、じーちゃん、せんせ……」
 弥生の隙を突いて、老教師の手がスカートを捲り上げ、ショーツの上から秘部に触れた瞬間、
「い――いやぁぁぁっ!!!」
 弥生の羞恥が爆発した。
 一瞬だけ身体のコントロールを取り戻し、老教師の抱擁から逃れ出る。
 だが――抵抗は一瞬だけだった。
 弥生は走り出し掛けた姿勢のまま、へなへなとその場に座り込んでしまう。

 逃げられない。
 戦慄と共にそう感じた弥生の、怯えるような視線の先で――

 ――老教師の瞳が、妖しく輝いた。

『――魔眼、魅了』

「あ……あ……ぁ……」
 途端に、弥生の瞳がとろんと潤んでいく。
 既に「群集操作」の支配下にある弥生の精神は、容易く「魅了」の介入を受け入れてしまったのだ。
「ああ……ぁ……じーちゃんせんせぇ……好き、好きぃ……」

 恐怖も、戦慄も、どこかに吹き飛んでしまった。
 天にも昇るような幸福感が、怒涛のように弥生の精神を塗り替えていく。
 目の前の老教師が、たまらなく愛しい、憧れの存在に――変わっていく。

 不意に、唇を塞がれる。
 ――いつの間にか、弥生は老教師に抱き寄せられ、その唇を奪われていた。

 一瞬だけ、閃光のように恐怖や絶望が弥生の脳裏を駆け抜けた気がしたが――直後に、泥沼のような幸福感にずぶずぶと塗り替えられてしまう。
(ファースト、キス……じーちゃんせんせぇに、あげちゃった……)
 この上ない幸福感の中、弥生は恍惚とそんな事を考えていた。
 そこには、その脳裏にはもう、幸福以外の何者も、存在してはいない。
 老教師が浮かべる下卑た笑みも、弥生の目には慈愛に満ちた微笑に映る。

 弥生はとうとう、老教師の張り巡らした罠に捕えられてしまったのだ。

 マシュマロのような秘肉の柔かさが、段々と熱く、とろけるような柔かさに変わっていく。
 軽く擦ってやっただけで、弥生のワレメは急速にその蕾を花開いていた。
 くしゅ、くしゅ、くしゅ……
「うぁぁああっ、こっ、声が、声が勝手に、出ちゃう、でちゃうぅ……はずかし……ぃ……」
 ソファに座らされ、大きく脚を広げられ、弥生は股間を目の前に設置したビデオカメラに見せつけるような姿勢で、指先の愛撫を受けている。
 ショーツの上からの、撫でるような愛撫。
 巧みなその指先に、無垢な少女は為す術もなく捕われてしまっていた。
 実際、性の快楽すら知らない小娘など、老練の手管の前には赤子の手を捻るようなものだ。
 あっという間に少女は仰け反り、押し寄せる快楽の波に抗し切れずに流され、飽和し、飲み込まれていく。
 ――そのとろける様な表情を、若鮎のように跳ね続ける全身を、そして徐々に愛液のシミを拡げて行くショーツを、
 余す所無く撮影されている事にも気付かずに。
(……!! そろそろ奈々のレッスンが終わるな……)
 支配に絆を通じて、奈々の様子が老教師の脳裏に写される。
「――ふむ、ではそろそろ、快感の極みを味わわせてやろうか」
「……?」
 老教師は弥生の背から離れてソファに深く座らせ、彼女の前に回り込んだ。
 ぼうっとした瞳で見つめる弥生に構わず、その両脚を掴んで大きく広げる。
(おお……奈々に劣らず美しい肉襞だな……)
「あ……」
 まだ現実が上手く把握できていないのか、弥生は戸惑いの声を少し上げただけで、易々と下着をずらされ、
 老教師の舌先にその性器を晒してしまった。
 
 ――ざらり。

「――――――っ!!」
 ひと舐めした瞬間、がく、がくん、と弥生の全身が跳ね上がった。
(これはこれは、可愛い反応を見せてくれる……)
「いっ……いやぁぁぁぁぁぁっ!!! やだっ、なめないで、なめないでぇぇぇっ!!!」
 その衝撃に我に帰り、弥生は弾かれたように老教師の頭を掴み、引き剥がそうとする。
 ――だが、それもろくに力が入らず、弱々しく頭を押さえるだけだ。

 ざら、ざら、ざらり……

「うっ、うわぁぁっ――へっ、変だよ、おかしいよっ、そんなところ舐めるなんて、おかしいよぉぉっ!!」
 羞恥、と言うよりは、驚愕に近い叫び声。
 オナニーすら未経験の少女には、いきなりのクンニは衝撃的だったのだろう。
「おかしい事など何も無い……『私』が、そうするのだからな」
 だが、老教師は優しく弥生に言い聞かせながらも、すぐに舌の攻めを再開する――容赦せず。
「でもっ、でもっ、汚い、汚いってばぁっ!!」
「ふふ、汚いものか。桜色でとても綺麗だぞ」
 そう言い、老教師は指先でクレヴァスを大きく拡げて見せる。
 穢れなど全く無い、無垢な薄桜色の肉襞が晒された。
「あああっ、あああああっ、見ないでぇ、見ないでぇぇ、はずかしいよぉ……」
 悲痛な叫びとは裏腹に、弱々しくもがくだけの弥生をニヤリと見上げ、老教師は露になった少女のクリトリスへと狙いを定める。
「お願い、おねがい、もう、やめ――――ひ、ひあぁぁぁぁっ!!?」
 指先で包皮を剥き、薄いサーモンピンクの突起を、チロチロと舐め転がす。
「う、うわぁぁぁっ、やだ、それ、だめ、だめぇぇっ、そこ、だめぇぇぇっ!!!」
 舌先でコロコロと転がされる度に、弥生は面白いように全身を跳ねさせた。
 だが、その声と表情は、少しずつ変わっていく。
 悲鳴から、喘ぎへと。
 羞恥から、恍惚へと。
 戸惑いながら、混乱しながらも、少しずつ少女は快楽に酔っていく。
「なんでっ、なんでこんなに、こんなにぃ……う、うわ、気持ち良い……きもちいいよぉ……」
 もはや自分でも、何を口走っているか分かっていないのだろう――弥生は、普段は絶対に口にしないであろう、恥ずかしい台詞を口にしていた。
(おっ……)
 舌先に、独特の味がするぬめりを感じ取る。
(おおっ、そうか、これが……)
 正真正銘、弥生の生まれて初めての、蜜だ。
 純真無垢だった少女が、初めて快楽への反応を示した、その証を味わう――。
 その事実が、老教師にはこの上なく名誉な事に思えてならなかった。

 弥生の愛液は、少しずつその分泌量を増し、小さな花弁全体を潤わせていく。
 老教師はその蜜の味を存分に味わいながら、少しずつ舌の攻めをクリトリスへと集中させ始めた。
「あ・あ・あああ・あ・あっ、あああああっ!!!」
(いよいよ、だな……)
 いたぶるように、一定のリズムを保って、老教師は単調に肉芽を舐め上げ始める。
 その単調な攻めとは対照的に、弥生の身体は全身を引き攣らせ、腰をせり上げ、その快感の強さと絶頂の予兆を訴え始めた。
「う、うわ、うわぁぁぁっ、だめっ、だめっ、だ……め……っ、だめ……っ!!」
(さあ……イけっ!! イッてしまえっ!!!)
 老教師は止めとばかりにクリトリスを甘噛みし、思いきり吸い込んだ。

 ず、ちゅぅぅぅぅぅっ!!!

 口の中に弥生の味が溢れ、そして――

「――あっ、あっあっあっあっ、あああっ、あああああああ、うわああああああああああああああぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 びくんっ!!! がく、がくがく、びくびく、がくんっ!!! がく、がく……

 弥生は全身を突っ張り、わなわなと震えながら硬直し――生まれて初めての、絶頂を迎えた。
 目をカッと見開き、絶叫の姿勢のまま、少女は繰り返し訪れる絶頂の波に翻弄され続ける。
「はっ…………、ああぁぁ……く、は……ぁぁ……あ…………ぁ………………」
 絶頂と、その余韻に、酔い痴れる弥生。
 ぽろぽろと涙を溢れさせる、泣き笑いのようなその歓喜の表情は、

 ――彼女がもう、無垢な少女では無くなった事を、如実に示していた。

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ぁ……

 荒い息を繰り返しながらも、初めてのオーガズムの余韻に浸り続ける弥生。
 老教師はそのぐったりと投げ出された身体の細部を、ビデオカメラで撮影していた。
(無垢な少女の性器と言えど、個人差はあるものだな……くくく……)
 ――そのクリトリスをどアップで、小さな肉芽の、細部の細部に至るまで。
 よく絵に描かれる桃のような、丸い芽の下側にうっすらと入っている縦筋までもを、克明にカメラに収めていく。
(また、いい画が撮れたな……感謝するぞ、弥生よ……くっくっく)

 たっぷりと弥生のあられもない姿をテープに収めた後、老教師はそっと弥生を抱き起こした。
 荒かった息も、今は大分収まっている。が、その瞳はまだ茫洋としたままだ。
 老教師はその剥き出しの精神に刻み込むように、そっと耳元で囁き始める。

「どうだ、私の特製マッサージは……気持ち良かっただろう?」
「うぅ……」
 複雑そうに、弥生の顔が歪む。
 そこには、羞恥や困惑だけではない……紛れも無い、嫉妬の影が垣間見えた。
「この快感が欲しくなったら、またここに来ればいい。弥生が私達の事を黙っている限り、口止め料として可愛がってやるぞ」
「……」
 老教師はわざと「私達」という言葉を使い、幼い弥生の心に灯り始めた、嫉妬の炎を煽る。

 『支配の契約』は、かなりの時間と手間を要する術だ。
 もうそろそろ、奈々が来る時間だ――今日はこの辺が潮時と、老教師は抱擁を解き、弥生の身体を開放した。

「……せんせぇ、奈々にも、こういう事、してるの?」
 服を整えながら、おずおずと、弥生は上目遣いでそう、尋ねて来た。
 先程までの無邪気な雰囲気は、欠片も無い。もじもじと、恥じらいを籠め、熱く求めるような視線を老教師に向けてくる。
「ああ。奈々君は慣れてきたので、もう少し高等なマッサージをしているがな」
 その言葉に、少女の顔が僅かに歪む。

「…………………………、ずるい」
 弥生が、ぽつりと零した呟きを、老教師は聞き逃さなかった。

 今日のピアノのレッスンは、絶好調だった。
 全てが順調で、幸せに囲まれたような錯覚さえ覚えてしまう。

 奈々は今、幸せの絶頂にいた。
 勉強も、少し苦手だった体育も、何もかもが上手く行く。
 ピアノも、自分でも別人みたい思うほどに滑らかに、堂々と弾ける。
 そして――。
 今、愛しい人の待つ進路指導室へと歩いている、その事が何よりも幸せだった。
 また今日も、これから、あの人に愛してもらえるんだ――そう思うだけで、舞い上がるような幸福感に包まれるのだ。
 足早に、指導室への廊下を辿る。
 走り出したいけど、そんな不躾な事は出来ない。私は、あの人のお嫁さんになるのだから。

 だが、進路指導室の扉が目に入った瞬間、全てが吹き飛んだ。

 扉を開け、おずおずと出てくる、親友の弥生の姿が、少女の身体を凍りつかせたのだ。

 次の瞬間、目が合い、そして気まずそうに視線を逸らされる。
 少し赤らんだその顔に、奈々は全てを察した。

「――おや奈々君、早かったね」
「せ、せんせ……」

 弥生の後ろから、老教師が顔を出す。
 けれど、上手く声が出ない。頭の中がぐちゃぐちゃで、何も言葉が浮かばない。
 わなわなと身体が勝手に震え出す。頭に血が上って、視界が真っ赤に歪んでいく。

「今、沢渡君の相談を受けていてね。丁度終わった所だ」
「は、い……」
 返事をしながらも、視線を弥生から動かせない。
 瞳に、湧き上がるどす黒い力が篭り始める。

 それは、生まれて初めて奈々が覚えた、「嫉妬」という感情だった。

 一方で、弥生のショックも大きかった。

 「沢渡君」と、「奈々君」。この違い。この、距離。
 やはり奈々は、老教師の寵愛を受けているのだ、と、嫌でも悟らされる。
 その事実が何よりも、弥生を打ちのめしていた。

 こんな状況だと言うのに、弥生の身体は未だに先程の快感を引き摺っている。
 身体のそこかしこに、甘くて気だるい刺激が残り火のように疼いていた。
 こんな快楽を、奈々は独占しているのだ――。

 詰問するような、詰るような、奈々の視線が突き刺さる。
 
 だけど、ここで負けたら終わりだ――負けるものか。弥生は半ば本能的に、そう彼女を睨み返していた。
 互いを競い合う「スポーツ」という世界に身をおいている彼女は、生来の負けん気も手伝って奈々へのライバル心を燃やし始めたのだ。
 
「さあ、次は奈々君の相談かな?」
 と、掛けられた老教師の一言が、二人の表情を劇的に変えた。
「はっ……はいっ!!」
「――っ!!」
 明るく笑顔を綻ばせる奈々と、途端に悔しそうに視線を逸らせる弥生。
「では沢渡君、また相談したい事があったらいつでも来なさい。帰り道、気をつけて」
「……っ……はい、ありがとうございました、さよなら……せんせぇ」
 奈々と老教師が部屋に入る、その刹那。
 勝ち誇った瞳と、挑むような瞳がぶつかり合う。

 この時に、この瞬間に二人は幼馴染の親友から、敵同士となった。

< つづく >

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