DEOPET 第4話

4話・~声涙、倶に下る~

 龍正と麻衣は、タクシーに乗っていた・・・
 相手の暗示を利用する事で予定より簡単に眠らせることができた。
 そして助ける振りをして自宅へと運んでいた・・・

 少し遡って18:00・・・
 飛騨診療所では、すっかり催眠の染み込んだ優嘉が抱かれていた。
「ぁっ・・・あっ・・・いいよ・・・りゅ~せ~」
 彼女は飛騨=龍正であると完全に信じている。
 四つん這いになっている優嘉の後ろに飛騨が立っている。
 いつもより小さく思えるペニスに突かれていた。
「そうか?3つ数えるともっと気持ちよくなるぞ・・・でも絶対にイけない・・・1・・2・・3!」
 -ビクン-
 優嘉の身体が途端に跳ね上がる。
 自然と腰が激しく動き出す。
「ああっ!何これ!すごっ!いいッ!」

「く・・出すぞ!とびっきり最高な気分で一緒にイクんだ!うっ!」
 -ドピュッピュッ-
(いつもより少な・・・え?)
「あ、あ!あッ!ああああぁぁぁぁっっっ!!!」
 -ビクンッッ-
 これまでに味わった事の無いほどの快感を受けて、優嘉は絶頂に達した。

 ・・・飛騨診療所に優嘉の媚声が響き渡る・・・・・

 18:30・・・同場所
 優嘉は裸のままソファに座っている。
 対して飛騨は一度服を着なおしている。
 優嘉のすぐ側に立って話しかける。

「聴こえるか優嘉?」
「うん・・・」
「俺の言う事は絶対だ。そうだな?」
「うん・・・」
「では命令する・・・今から目を開けて目の前に居る人の言う事は絶対だ。俺よりも絶対だ。わかったな?」
「え?・・・りゅ~せ~より絶対?・・・」
 優嘉の眉間にシワが寄る。
 分かりやすく困惑しているようだ。

「逆らうと俺がお前を捨ててしまうぞ!」
 飛騨は少し強い口調で言う。すると、優嘉がビクッと震える。
「!嫌・・・ヤだ・・・・捨てるのダメ・・・」
「安心しろ。そいつの言う事を聴いていれば幸せな気分になれる。ほら、想像してみろ」
「あ・・あ・・・」
 優嘉の顔がスッと安らかな顔に変わる。
「今から100数える・・・」
 ・・・・・・

「・・・100!」
「ん・・・あれ?・・・・ここは・・・・」
 目を覚ました優嘉はぼんやりする頭で状況を飲み込もうとする。
「お目覚めかな?」
「!?あなたは看護師の・・・」
「看護師?・・・僕が飛騨雄介だよ。君のとっても大好きな結城龍正君と、恋敵の羽山麻衣が狙っている、ね・・・」
「どうしてそれを!?」
「それより・・・恥ずかしくないのかい?」
 飛騨が優嘉の身体を指差す。
 優嘉の目線が下に落ちる。
「・・・え?きゃああっっ!!」
 初めて全裸だという事に気づいた優嘉は慌てて手で胸を隠し、身体を丸める。

(ど、どうして裸なの!?さ、さっき見たときは確かに服を着ていたと思ったのに・・・いったいいつの間に!?)
 優嘉は身体を丸めたまま混乱する頭を精一杯働かせる。
「とりあえず立ち上がって気をつけの姿勢をしてくれ」
「そんなことするわけ・・・!!」
(え?身体が勝手に!!)
 優嘉は言われたとおり気をつけのポーズをした。
 恥部まで丸見えになる。
「い、いやああっ!!な、何で!!どうしてよぉっ!!」
 自分自身の身体の異変に恐怖の色が浮かんだ。

「君の身体は僕の支配下にあるんだよ?意思とは反して・・・例えば・・・」
 雄介はズボンを脱いでペニスを取り出す。
「あ・・・何をしてるの!」
(りゅ~せ~よりは小さいわね・・・)
 そんな事を考えてしまうところが優嘉らしいのだろうか。

「・・・しゃぶれ!」
「え?嘘!嫌ッ!嫌なのおっ!」
 優嘉は引き寄せられるように雄介に近づく。
「や、やめてっ!!な、何で止まらないのっ!!」
 優嘉は嫌々ペニスを口にほおばる。

 飛騨は優嘉の頭をつかむ。
「お前の持ってる技術を発揮して・・・最高のフェラチオをするんだ」
「!!!?」
 -ドクンッ!-
 優嘉は自分の異変を感じる。
 命令されるたびに・・・変な気持ちが湧き上がる。
(や、やだ・・・嫌なのに・・・)
「ん・・・んんっ・・・あむっ・・・」
 優嘉はいつも龍正にするように舌と口を使ってフェラチオを始める。
「さすが上手だな・・・嫌々言ってる割には本気じゃないか」
(く!こ、コイツは・・・殺してやる!!)
 優嘉は殺気をこめた視線を向ける。
 しかしそれは飛騨の快感を高めるだけだった・・・

「うぐっ・・・だ、出すぞ!!口に溜めるんだ!!」
 雄介は少ないながらも優嘉の口に出した。
 優嘉の顔が嫌悪感に満ちている。
(う~~!!さ、最悪・・・)
「・・・飲め」
「ん~~っ!」
(いや~っ!!こ、こんな奴の精液なんて!!んぐう!!?)
 -ゴクンゴクッゴクッ-
 優嘉は一生懸命精液を飲み込んだ。

「はあっはあっ・・・まさか・・・催眠!?」
 優嘉が吐き出したいように咳き込む。
「そうだよ?ほら・・・力が抜ける・・・」
「あっ・・・」
 -フラッ-
 優嘉はなんとか踏ん張った。

(やばいわ!ここまで深く入れられたなんて!)
 優嘉の額から汗が噴出す。
 そして単独でここにやってきた事を激しく後悔した。

「心配しなくていいよ・・・喜んで従うようになるさ」
「え?」
「ほら・・・僕を見て・・・だんだん身体が熱くなってきたでしょ?」
「いくらなんでも心までは言う事聞かないわよ!」
 言いながらも優嘉は自分の身体に意識を向ける。
 今まで操られた事で、もしかしたら・・・と思ってしまっている。
「大丈夫・・・君はもうすでに深く催眠にかかっている・・・これ以上ないぐらい深ぁくね・・・今の君の心は真っ白だ・・・真っ白な白い紙・・・ちょっとインクを垂らせば直ぐに変化してしまう・・・いろんな色に染まってしまう・・・」
 飛騨の言葉に、言いようの無い不思議な感覚が湧き上がる。
(何・・・この変な感じ・・・ホントにヤバイわよ・・・)

「ほら、素直になったね・・・もう一度僕を見て・・・そう・・・じっと・・・」
(く・・・目が離せない・・・)
「だんだんとドキドキしてくる・・・そう・・・だんだんと恋心が湧き上がる・・・」
(!・・・嘘よ・・・嘘よ・・・)
 気持ちに反して優嘉の心臓の鼓動はどんどん加速していく・・・
(そ、そんな・・・そんなはずは・・・・・・りゅ~せ~・・・)

「ほら・・・龍正への気持ちがどんどん僕へのものに変わっていく・・・あと少ししか残ってないね・・・あと10秒分しか残っていないよ・・・10数えた頃には全ての好感が飛騨に移ってしまう・・・10・・・9・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・もう・・・やめて・・・お願い・・・何でもするから・・・」
(嫌っ!助けてぇ・・・龍正っ!!)
 優嘉は胸を押さえてうずくまって震えている。

「・・・0!」
「ああっ!我慢できないっ!好き!好き!」
(ごめん・・・りゅ~せ~・・・)
 雄介に喜んで飛びつく優嘉の目には、一筋の涙が流れていた・・・

 20:00・・・龍正の家
 龍正と麻衣が帰宅し、部屋の明かりをつける。
「おい・・・まだ優嘉の奴帰ってないみたいだぞ」
「本当ですか?どこへ行ってるんでしょう」
 龍正の頭に嫌な予感がよぎる・・・
「まさかな・・・あいつはそんな迷惑をかけるようなバカじゃない」
「ですよね」
 優嘉はまさしくそんな迷惑をかけるようなバカだった・・・

 龍正は担いでいた樹莉を、自分の部屋のベッドに寝かせた。
 薬が効いていて良く眠っているようだ。
「麻衣が飲まされてたらと思うとゾッとするぜ・・・まあ効き目は短いみたいだな・・・」

 21:00・・・龍正の部屋
「約一時間か・・・後催眠のトリガーを解除してから50分ってところか・・・本来の人格とまではいかんだろうが、とりあえず正気には戻せた」
 樹莉はベッドの上で安らかに眠っている。

「お疲れ様です」
 麻衣がコーヒーを入れて部屋に入ってきた。
「お前は大丈夫か?カフェでずっと能力使ってたけど」
「あのぐらいならなんとも。龍正さんの方は?」
「・・・正直きついぜ・・・」
 -ガチャッ-
 玄関の開く音がする。
「ん、帰ってきたか」
「私見てきます」
 麻衣は部屋を出て玄関に向かった。

 21:07・・・自宅の玄関
「ただいま~遅くなっちゃった」
 優嘉が何食わぬ顔で戻ってくる。
「優嘉さん。どこいってたんですか?心配したんですよ?」
「いや~。りゅ~せ~になにか買ってあげようと思ってさ、買い物してたら時間かかっちゃって。結局なにも買えずに帰ってきたんだ。で、りゅ~せ~は?」
 優嘉がへらへらと話す。
「はあ?そんな話信じられません・・・」
 麻衣は優嘉の服装に目をやる。
(あれ?帽子にサングラスで・・・買い物?)

「龍正さんならいまお仕事中です。くれぐれも邪魔をしないで下さい」
(・・・それに髪が乱れてる?・・・気のせいかしら・・・)
 麻衣はとりあえず龍正の所へ戻ろうとする。

 優嘉はそんな麻衣を見てぼそっと呟いた。
「ちぇっ・・・あんたの物じゃないのよりゅ~せ~は・・・」
 -ドクンンッッ!!-
(「物」・・・)
 自分で言ったその言葉に、優嘉の心にいつもなら思わない感情が湧き上がる。
(何?アタシ・・・麻衣ちゃんにイライラしてる・・・どうして?こんな事思ったことないのに・・・りゅ~せ~を取られたくない・・・憎い・・・にくい・・・ニクイ・・・)

 優嘉は無意識にポケットに手を入れる。
(な、何これ・・・果物ナイフ?・・・どうしてこんなものが・・・でも・・・今がチャンスだ・・・・・・麻衣を殺すチャンス・・・)

 麻衣は殺気に気付いた。
 慌てて後ろを振り返ったその時だった。
「!?優嘉さ・・・」
 -ドスッ-
「りゅ~せ~はワタサナイ・・・憎い・・・麻衣が・・・ニクイ!」
「な、何を・・・」
 麻衣の腹に果物ナイフが突き刺さる・・・

 『り、龍正さん!助けてっ!』
 麻衣がテレパシーを龍正に送る。
「殺す・・・コロス・・・」
 優嘉は倒れた麻衣に跨り、果物ナイフを抜き取り、もう一度振りかざす。

「優嘉!待てぇっ!!」
 振り上げた腕がピタリと止まる。
 振り返って龍正を見る優嘉の目には、涙があふれていた・・・

「う・・・りゅうせい・・・さん・・・」
 麻衣が声を絞り出す。龍正の目線が麻衣に向いた。
「ま、麻衣・・・」
(「麻衣」・・・・・・龍正!・・・この浮気者!・・・殺してやるっ!!)
 優嘉が龍正に飛び掛った。

 -ザクッ-
 ナイフが龍正の左腕にかすり、血が辺りに飛ぶ。
「あ、あ、あ・・・あああっ!!」
 優嘉は血を浴びて、訳が分からずに悲鳴を上げた。
(何で私!!・・・りゅ~せ~がニクイ!・・・どうして!?嫌っ!止まらない!!)

(かすっただけなのは、優嘉さんが龍正さんを想ってるからなのね・・・暗示に抵抗してるからなのね・・・)
 麻衣はその場で蹲っていた。何とか起き上がろうとするが、痛みで起き上がれない。
 優嘉は動転するが、それでも止まらなかった。
 『龍正さん!』
 麻衣はテレパシーで龍正に呼びかける。
「・・・」
 龍正は無言のまま優嘉を見つめている。
(!龍正さんには逃げる意思が無い!)

 -ガシッ-
「?・・・」
 麻衣は、優嘉の脚にしがみ付いて攻撃を阻止する。
「り、龍正さんが責任を感じていても・・・死ぬ気でいても・・・わ、私は、龍正さんを失いたくない!」
「!!!」
(この・・・どこまでもジャマを・・・)
 -ドガッ-・・・-ドオォン-
 優嘉はその脚を思い切り振り上げ、麻衣を扉に蹴り飛ばした。
「痛!!!」
 背中からドアに叩きつけられ、腹から再び出血した。

「俺は・・・お前を苦しめた挙句・・・結果としてこの最悪な状態を招いた・・・『約束』だからな・・・やるのならこの俺をやれ!」
 龍正は親指で自分の胸を指差した後、両手を広げて目を閉じる。
「!!!『約束』・・・う・・・ぅ・・・く・・・」
 優嘉はそれによって再び困惑する。
 『優嘉さん!駄目っ!』
 麻衣はテレパシーで優嘉に話し続ける。
 優嘉が葛藤していると・・・・

 -プルルルル、プルルルル-
 その電話と共に、優嘉の表情が一変する。
「!!!死ねえぇっ!!」
 優嘉がナイフを構えて走り出す。
 『後催眠暗示!!やめてえぇっ!!!』
 麻衣が恐怖に目を閉じる。

 -ドンッ-
 鈍い音がして龍正と麻衣が目を開ける・・・
 そこには予想外の光景が・・・

(何?・・・狩野!)
 『狩野さん!?』
 樹莉が優嘉を組み倒していたのだ。
 抵抗する優嘉をしっかりと抑えつける。
 その顔はとても真剣な顔だが、悲しみが混ざっているようにも見えた。
 樹莉が喋る・・・
「あなたの気持ちはよく分かるわ・・・もう我慢しなくて良いのよ・・・すべて吐き出しちゃいなさい・・・」
 その言葉で優嘉は自分の両手を見る。
「ぅ・・・アタシ・・・何を・・・・・・血?・・・アタシ・・・麻衣ちゃん・・・りゅ~せ~・・・これ・・・アタシが?・・・うわああぁあぁぁぁっ・・・」
 優嘉の悲痛な叫びはしばらく続いた・・・

 23:00・・・優嘉の部屋
 優嘉はベッドに横になってしばらく泣いていた。
「どうだ?気分は」
「あ、りゅ~せ~・・・麻衣ちゃんは?・・・」
「とりあえず出血は止めた。血の量を少し増やして、傷の修復を速めたから痕は残らんだろう。今は狩野が様子を見ている」
「そう・・・りゅ~せ~は?その腕・・・治せないの?」

 優嘉は悲しそうに龍正の包帯が巻かれた腕を見る。
「かすり傷だ。必要ないさ。それにこれを見ればお前が危ない真似する事も無いだろう?」
「もう。りゅ~せ~ったら・・・ごめんね・・・」
「心配ない。もうお前にかけられた暗示は全て取り除いた」
「そうじゃなくて・・・りゅ~せ~への気持ちがあんな奴に負けちゃった事・・・」
「その記憶も消そうか?」
「ん~・・・いい。これがあれば次は二度と負けない!って思えるじゃん・・・それより辛そうだよ?痛むの?」
「バカ。これは俺の能力の使いすぎのせいだ」

「・・・私大丈夫だから・・・行ってあげて?」
「・・・・お前がそんなこと言うなんてな。わかった。ゆっくり休め」
 -バタン-

(りゅ~せ~。私はもう飛騨には負けないから・・・)

 23:30・・・麻衣の部屋
 -ガチャッ-
「まだ起きないか?」
「あ、結城君。でももう大丈夫よ。結城君だって疲れてるでしょう?私が看病するから寝てていいわよ」
「そうか・・・助かる・・・」

 龍正は自分の部屋におぼつかない足取りで戻り、そのままベッドに眠り込んだ。
 ・・・・・・

 こ・・・ここはどこだ?・・・
 俺は何をしているんだ?・・・
「先輩・・・」
 目の前にいる女の子は誰だ?・・・
「先輩は行ってしまわれるのですね・・・どこか遠くに・・・」
 俺が遠くに?どういうことだ?
「今日が運命の日になるとは・・・」
 運命?・・・名も年齢も知らないその少女が俺に近づいてくる・・・
「種がいつか花を咲かせます・・・その時私たちは再び会えるでしょう・・・」
 その少女は右の人差し指で俺の胸に触れた。
「それではその日まで・・・」
 ・・・・・・

 翌朝・・・9:00・・・
 精神的に参った優嘉、精神的に疲労した龍正、大怪我をした麻衣は、ふらついた足取りで、なんとか起きてきた。
「お、おはよ~~」
「ん。ああ・・・」
(なんか気になる夢を見たような気がする・・・)
「おはよ~ございます~」

 辛そうに3人が食卓へ来ると、料理が用意されていた。
「おお!すげえ!」
(私と互角ぐらいかしら・・・ライバル出現?)
「わあすごいです。私もこんなの作りたいなあ」

 エプロン姿の樹莉が奥から現れた。
 どうやら麻衣の物を借りているらしい。
「あら。教えてあげるわよ?いつでも」
 いつでも・・・という言葉に龍正が反応する。
「ん?・・・おい狩野!」
「・・・狩野『さん』でしょ?」
「う・・・。か、狩野さん。お前いつまでここにいる気だ?」
「え?私は従うべき人を失ったのよ?つまり、飛騨によってぽっかりと開けられた心の穴に、詰め物をしたいわけ」
「ど、どういう意味だよ?」
 勘の良い優嘉はすぐに意味を察した。

「ちょっと?ここに住むって言うんじゃないでしょうね!?」
「アタリ。もしかしてお嬢ちゃん・・ライバルが増えると思って妬いてるのかなぁ?」
「あ、当たり前でしょ!?りゅ~せ~は私の彼氏よ!」
「何もしないわよ。私からはね・・・」
 樹莉は両肘をついて優嘉をニコニコと見つめている。

 龍正とその隣の麻衣は、2人のやり取りをじ~っと聴いていた。
 『どう思います?この人』
 『まあ、ここに置いておくってのは賛成だ。いつ狙われるか分からんしな』
 『でも、当初の目的は寝取った後リリースするんでしたよね?』
 『リリースってお前・・・魚かよ・・・だから、飛騨を消すまでだよ』
 『飛騨を消すんですか?やっぱり・・・私が怪我をしたから復讐するんですね!』
 『・・・残念だな。主なのは操られた優嘉の復讐だ』
 『あ、やっぱり・・・』
 黙々と前だけを見つめながら食事している龍正と麻衣。

 優嘉が2人の間に顔を出す。
「何2人でテレパシーしてるの?」

 『あ、相変わらず勘が鋭いなこいつは・・・』
 『全くですね。これなのに何で飛騨に操られたんでしょうか?』
 『やっぱどっか抜けてんだよ』
 『ああ、なるほど。馬鹿なんですね』
 『そう。馬鹿だ』

「何話してる知らないけど、なんとなくムカムカするのはどうしてかな!」
 優嘉が目を閉じて拳をわなわなと握り締める。

 『やっぱ勘が鋭いな』
 『ですね』

 しかし優嘉の発言によって、樹莉にも疑問が生まれた。
「結城君。テレパシーって何?あと、どうやって私を飛騨の支配から開放してくれたの?」
 『めんどうだな・・・発言には気をつけろよ・・・これだから優嘉はどっか抜けてるんだよ・・・とりあえず樹莉のここの記憶消しとくか』
 『ですね』
(「ライブラリー」発動!)

 龍正が記憶を消そうと考えた時、この前見つけた赤い本がなぜか気になった。
 その本の方へと歩いていく。
「ん?赤みが強くなってる・・・これは何を意味してるんだ?」
 しばらく考え込む龍正。
「待てよ?これってどこかで・・・そうだ!麻衣の図書館にもこれがあったな!助けた当初は真っ赤で、家につれて帰ったら薄く、そして能力が使えるようになったら真っ赤に・・・ってことは、これは能力の本!?」
 龍正はその本を手にとって中を読み始めた。

「おい狩野!」
 龍正は焦るように樹莉に話しかける。
「・・・狩野『さん』でしょ。何歳年上だと思ってるの」
「あ、すんません・・・って違う!もしかしてあの時、優嘉の心の声が聴こえて飛び出してきたんじゃないか?」
「え~っと・・・そうね・・・このお嬢ちゃんが嫌だ嫌だってワンワンうるさかったんで目が覚めて・・・」
 思い返すように指を顎に当てて宙を見ている樹莉。
 当の優嘉は樹莉に対してイライラを募らせていた。
(ワンワンうるさいって言い方は無いでしょ・・・それにお嬢ちゃんって何よ!)
「あれ?優嘉さんってそんなこと言ってましたっけ?」
 麻衣は龍正の言いたいことと、あの時樹莉がやってきた謎が分かったようだ。

「間違いない!お前の能力は『心を読み取る』能力だ」
「能力?なんのことよ?」
 樹莉は不思議そうな顔で龍正を見る。

(げ、じゃあアタシがこの女を煙たがってる事もバレちゃうじゃん!)
「あ。なるほど・・・こういうことなのね?ごめんね?お嬢ちゃん。嫌なお姉さんで」
 樹莉が怪しい目つきで優嘉を見る。優嘉がたじろぐ。
 優嘉の心を読み取ったようだ。
(やっぱりそうだ。狩野の赤い本がより真っ赤に変わった)
「どうやら『聴きたい』と思ったら人の心の声が聴こえる様ね・・・例えばお嬢ちゃんは今、飛騨への無謀な復讐を考えている・・・それも玉砕覚悟の。違うかしら?」

 優嘉は本心を見抜かれたことにビクッとする。
「何!?」
 龍正は優嘉を見る。しかし、その目を見て決心した。
「・・・どうやら何を言われてもどうしてもやるって顔だな・・・よし分かった。飛騨の消去は優嘉、お前に任せる」
「え?」
 まさか自分が仕事を任されると思っていなかったので驚く。
「龍正さん!どうやって対抗するんですか!?一度落とされていれば落ちやすくなるんでしょう?」
「ラポール・・・信頼関係だ・・・おい優嘉!お前、俺を信用してるか?」
「いまさら何言ってんのよ!勿論よ!世界で一番信頼してるわ!」
(よ~し。飛騨を地獄に送る構想が浮かんできたぞ!)
 龍正は頭の中で策略を練る。

 龍正(優嘉)対雄介の第2ラウンドが始まろうとしていた・・・

< 続く >

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